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藩王日誌(戦争準備へ)


積もっていたあらゆる書類を全て片付けた某は暇を持余して居りました。
疲れも在りましたし、その日と言うのがとてもとても心地よい日でしたので、
椅子に座っているだけでもうとうとと夢の世界へと旅立ってしまいそうでした。
しかし運命とは何とも薄情な物。そのような心地よい空気に我が身を任せる事を許さず、必ず事件を起こすのです。

「藩王代理!大変です!大変です!」
大きな声、それに騒々しい足音。

廊下に響いて声と音が何重にも聞こえましたが、全ての声が『代理』部分にアクセントが有る事を考えると、恐らくは一人でしょう。
あれほど騒ぐなと注意しているのに、廊下では走るなとあれほどまでに注意しているのに。
注意を破ると言う事は余程の緊急事態なのでしょう。

そのような事をぼんやりとした心地の中で考えていますと、急に扉が開きました、どうやら到着したようです。

「藩王代理!起きてください!藩王代理!」

部屋全体が揺さぶられるようでした、全く驚くべき大声です。
普通の人間にこれほどの大声を出させる事件とは一体どれほどの物なのでしょう。

嗚呼、某と言う人間の何と単純な事でしょう。先程まで感じていた不快感が少しづつ興味へと代わって来るのでした。

「…一体何が在ったのです?」

某はゆっくりと姿勢を正して目を擦りながら言いました。
好奇心の力でしょうか、思っていたよりも声が大きく出て来ました。
入ってきた吏族(たらら、と言います)ははぁはぁと喘いで説明を始めました。

「幾つかの藩国にて根源主力兵器と思われる『シフ』及び『オズル』を確認!隣国冬の京が侵攻されています!」

侵攻が何時か来る事自体は十分に予想出来ていましたので特に慌てる必要も有りません。
某は今度こそ眠りに就こうと姿勢を崩し、瞼を閉じました。

「何をまた寝ようとしてるんですか!」

人が怒る時の声なる物は何と凄まじいか、先程の目覚めを促す声の何倍もの威力でした。
某は運命の残酷さを呪う言葉を心で唱えながら、ゆっくりと返答します。

「一体何をそんなに慌てているんですか。落ち着きましょう」
「藩王代理が落ち着きすぎなんです!」
「そうですか?…そうかもしれませんね」

某はゆっくりと息を吸いました。
嗚呼!この空気の感触を何と書くべきか!私には言葉が浮かびません。
ただ、この安らぎと言う名の空気を感じる余裕が無くなりそうな事に涙が出そうな思いになるのです。

「軍関連全ての施設に戦争準備を連絡!街及び村のタウンクライヤーにも戦時への移行を伝えよ!また現在資金が不足している資金調達を急ぐように!」

某は涙を抑え、代わりに喉の奥から声を出しました。大きな大きな声でした。
たららはこの変化にほんの少し驚いたようでしたが、一間に落ち着きを取り戻して「イエッサー!」と敬礼して急いで部屋から出て行きました。

某はため息を吐き、もしやと思って、もう一度息を吸い込みました。
しかしながら残念な事に、本当に残念な事に、やはりあの安らぎを再び感じる事はもう出来なく成っていました。