ヘッドホンアンプ実験
カメラとは無関係の番外編企画です。
少し前からヘッドホンアンプ、それもポータブルなものが流行っています。従来からあるアナログの市販品、安価・小型・高性能と3拍子そろっていて最近急速に市場が拡大してきたデジタルヘッドホンアンプ、そして自作品がありますね。
ヘッドホンアンプはその名の通りヘッドホンを駆動するためのアンプですが私はいわゆるオーディオは持っていませんし、使っている音楽プレイヤーは携帯音楽プレイヤーとしては史上最強クラスのヘッドホン出力を持つCOWON D2で、しかもそこに普通のイヤホンをつなげているだけですから本来ヘッドホンアンプは必要ないわけですが、まあ実用に使えるものを作るのは大好きですから作ってみよう、と思ったわけです。なにやら「音質が向上する」らしいですし・・・
最近特に流行っているのがオペアンプ1個だけを使ってヘッドホンを直接駆動するタイプのシンプルな設計の回路で最初に設計して公開した人のハンドルネームからChuMoy式アンプと呼ばれていますが、これは出力電流があまり取れないオペアンプを半ば無理して使う設計で、使えるオペアンプも限られるということなので、オペアンプの後ろにダイオードとトランジスタ4つずつを使用したプッシュプルエミッタフォロアをつけた回路とすることにしました。
もっと発展してダイヤモンドバッファとするとトランジスタを8個使うことになりコンパクトに作りにくいですし、電圧を上げるために電池の数を増やす必要が出てくるので4石で済むプッシュプルとします。
ヘッドホンアンプ概要
入力信号をオペアンプで増幅しトランジスタによるプッシュプル回路をバッファとして出力します。
電源はスイッチの切り替えで9V積層電池かスイッチングACアダプターに切り替えられるようにし、電源ノイズはフェライトクリップ、DCラインフィルタと3端子レギュレータで均すものとします。レギュレータの端子間にはパスコンとして積層セラミックコンデンサ10uFを入れます。
DCラインフィルタはごく小型の表面実装タイプのもので、まあ気休めです。レギュレータは交換可能とします。
正負両電源を作るために4.7kの抵抗による分圧回路を作り並列にコンデンサを入れます。470uFのものはソケットで交換可能とします
オペアンプとトランジスタはソケットで交換可能とします。オペアンプはDIPパッケージの2回路用ソケットですので別途1回路品を使うためのアダプタとSOICパッケージ2回路品を使うためのアダプタを製作します。これは半田付けせずにSOICパッケージのオペアンプが使用できるように作っています。
ただし、国産のワイドSOICのもの、旧型SOパッケージのものなどは使えませんから市販の変換基板を使います。
オペアンプの両電源とグランドをバイパスコンデンサ(セラミック、0.1uF)でつなぎます。
ダイオードはフェアチャイルド製の定番品・1N4148、抵抗器は全てKOAの金属皮膜抵抗器で普及品です。
ゲインは20kオームのポットで調整できるようにし、出力抵抗は10オームと78オームをスイッチ切り替えで選べるものとします。
発振防止のため帰還抵抗と並列に100pFのコンデンサを、また出力端子の直前にZOBEL回路を入れます。
出力にカップリングコンデンサとしてニチコンMUSE-ESバイポーラ25V33uFを入れます。このコンデンサにより出力オフセット電圧はカットされることになります。本当は直結のほうがいいのでしょうが、PCオーディオの出力そのものにオフセットが混じっているためやむなく入れることにしました。アンプにオフセットがなくとも、入力信号自体にオフセットが混じっているのではどうしようもありません。
これもソケットにより交換可能ですが、オフセットの方向がオペアンプにより異なるためバイポーラ(両極性)のものしか使えません。33uFは小さめの容量ですが、サイズ的に高容量のものが入りません。25Vの耐圧はまったく必要ないので、耐圧の低い小型のものがあればいいのですが、手に入りませんでした。
コンデンサソケットを銅線でつなげばDC(直結)となります。
LTSpiceによる回路図は以下の通りです。左側の電源部以外は片チャンネル分のみ記載しています。
図中のL1はヘッドホンでSW1は電源スイッチ、SW2は出力抵抗の切り替えスイッチです。抵抗の数などちょっと無駄のある仕掛けですが、これは当初は無くて後から追加したためです。本当はもう一つ電池とACアダプタ電源の切り替えスイッチがありますが省略しました。またレギュレータのSpiceモデルが無いので省略して単に10Vを供給するということにしています。
OPAMPにLT1360、トランジスタに2SD571/2SB605が入っているのは例です。
都合によりカップリングコンデンサは描かれていません(もちろん出力に直列に入れるだけです)。バイパスコンデンサも省略しています。
ケースはタカチのYM-115、アルミ製で高さが2cmと薄型のものです。このため部品配置はなかなか大変です。電解コンデンサなどは寝かせて取り付けなければ蓋が閉まりません。
#ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (Amp.jpg)
ごちゃごちゃと汚い配線で、何より電源のコンデンサがICから離れた場所にあるのが片手落ちの配置ですが、作ってしまったものは仕方ありません。
オペアンプ交換の意義
さてこのようなものを作った人が必ずやるのがオペアンプの交換と聞き比べです。デジタル回路メインだった私にはそもそもICを交換しても回路が成立するということが、頭では理解できてもなんとなく不思議な感じです。ICは単なる部品ではありません。中に回路が入っています。ICを使うということは、自分の回路と他人が設計した回路を接続するということですからね。
また、アンプの仕事は信号増幅ですし、楽器やイコライザ装置ではありませんのでそんなに音が変わるとは思っていませんでした。
まあ何はともあれアンプも完成したことだしやってみるのが一番早いということで早速オペアンプを多数用意して交換してみることにしました。トランジスタのほうは、とりあえず色々用意した中でも良いと感じたNECの2SC1010/2SA578を差しています。一番最初に取り付けているオペアンプはテキサスインスツルメンツ製のNE5532Pです。オーディオ用としては定番のもので、評判も高いです。
さて実際にこのアンプをCOWON D2とイヤホンの間に入れて聞いてみると、静かなところではなんとなく同じ音量なのによく聞こえるかな?と言う感じですが、騒音環境(電車の中など)ではハッキリ、音がよく聞こえるように感じられました。効果はあるようです。
SoundBlaster Audigy4を搭載したPCに接続し再生してみると、音のヌケが良く感じられるようです。
さて皆さんがやっていることですから有名なオペアンプを評価しても意味がありません。皆が口をそろえて「究極」と呼ぶバーブラウンのOPA627・OPA211や、その対抗品のアナログデバイセズのAD8620、ADA4627-1はすでに多数の人が評価していますし、なにより価格が非常に高いのでパスします。また、バーブラウンのOPA827、OPA2107、リニアテクノロジーのLT1028やLT1115、新日本無線のMUSES2桁シリーズも高価なのでパスします。
というわけで、メジャーなものは安価で入手がしやすいもの限定とし、それ以外に他の人がレビューしていないものを多く取り上げています。
評価は、音質は好みの問題なので好き嫌い的なレベルでの話とします。同じ音でも耳が各人で違いますのでどう聞こえたかの話はあまり当てにしないでください。オーディオ機器は、好き嫌いが全てです。良い・悪いではありません。どれかをお勧めするなどもしませんのであくまで記事としてご覧いただければと思います。
電源はACアダプタから10Vレギュレータ(東芝 TA78L010AP)で±5Vとしたものにします。出力抵抗は78オーム側固定です。
イヤホンには、オーディオテクニカの「ATH-CM700Ti」「ATH-CM7Ti」「ATH-CK5」の3種を使いましたが、ATH-CM7TiとATH-CK5はそれ自体の個性が強く、アンプにどんな部品を使ってもヘッドホンの個性に引っ張っていってしまう傾向があるので、評価の大部分はATH-CM700Tiによって行いました。
名目上は、安定して回路が動作するかがメインの実験です。
メーカー別オペアンプ動作実験リスト
表について
+
|
クリックで表示 |
タイプ |
オペアンプの内部回路の構造です。 ・Bipolar:純バイポーラ ・CMOS:純MOSFET ・BiFET:入力部のみJFETで他はバイポーラ ・BiCMOS:入力部のみMOSFETで他はバイポーラ バイポーラオペアンプでも、定電流回路などにJFETを 使っていることがありますが、ここれはBiFETとは呼びません。 MOSFET回路では、正確にはNMOSとPMOSの両方を使っ ていなければCMOSとは言えませんが便宜上MOSFETを 使っていればCMOS・BiCMOSとしておきます。 |
電源電圧 |
最低動作電圧と最高動作電圧です。 両電源用のオペアンプでは±で、単電源用のオペアンプで は±(両電源)と+(単電源)で記載しています。 |
GBW |
GB積です。オーディオを扱うにはある程度のGB積が必要 ですが、あまり高すぎると発振の原因になります。GBが高いほど負帰還をかけた時に帰還量が増えるため歪率が低下することになりますが、オーディオアンプでは普通はGB積よりも裸利得のほうが重要です。 |
SR |
スルーレートです。電圧変化をどれだけ速く行えるかとい う速度性能ですが、低周波の小信号しか扱いませんからあ まり重要な数字ではありません(使えないほど遅いものは載 せていません)。 |
回路数 |
1つのICに入っているオペアンプ回路の数です。ステレオ 信号には2回路必要なので1回路品は2つ使う必要があります。 |
パッケージ |
ここで使ったICのパッケージ(外形)です。 ・PDIP:Plastic-DIP ・CDIP:Cer-DIP ・SOIC:3.8mm幅SOIC ・SOIC-WIDE:5mm幅SOIC ・SO:それ以外のSOIC ・TO99:メタルカン |
|
詳細ページの表について
+
|
クリックで表示 |
タイプ |
上記「タイプ」に同じ |
電源電圧 |
上記「電源電圧」に同じ |
GBW |
上記「GBW」に同じ |
スルーレート |
上記「SR」に同じ |
消費電流 |
読んで字の如くです。2回路のものは総消費電流で、1回路 のものは1回路分の消費電流の後ろにx2と記載しています。 |
出力電流 |
最大出力電流です。ただしこれが高いからドライブ能力が高いとは限りません。 |
オーディオ向け |
データシートなどにオーディオ向けなどの記載がある場合は○がついています。 |
ボルテージフォロア |
ボルテージフォロアで安定動作するかを記載しています。×はボルテージフォロアでは発振する可能性が高いもので、△はダイオード保護のために大振幅入力が出来ない、出力が小さくボルテージフォロアに適さないなど。 |
Vn |
雑音電圧の大きさです。あまり直感的な数字ではありませ んが5532やTL072などメジャーなオペアンプと比べること で参考にはなると思います。単位は省略してnVとしていま すが実際にはnVルートHzです。基本的には1kHzでのデー タを記載し、データシートに一切記載が無いオペアンプは 不明として省略、グラフの載っている品種では10Hzでの雑 音と雑音が増大しだす1/fコーナーの周波数を併記していま す。 |
オリジナルベンダー |
そのオペアンプを開発した会社です。 |
現行品/廃止品 |
その品種が現在も生産されているかどうかということで、 現行品は製造中、廃止品は完全に廃止されたもの、グレー ド廃止品は特定グレードのみ廃止されたもの、保守品種は 保守期間が過ぎた後廃止予定のものです。 |
|
(リストに純JFETのOPAMPは無いとの指摘があり、訂正しました。)
・テキサスインスツルメンツ/バーブラウン
・アナログデバイセズ/プレシジョン・モノリシックス
型番 |
タイプ |
GB積 |
SR |
回路数 |
パッケージ |
OP275GPZ
|
BiFET |
9MHz |
22V/us |
2回路 |
PDIP |
OP249GP
|
BiFET |
4.7MHz |
22V/us |
2回路 |
PDIP |
OP271GP
|
Bipolar |
5MHz |
8.5V/us |
2回路 |
PDIP |
OP01CJ
|
Bipolar |
2.5MHz |
18V/us |
1回路 |
TO99 |
OP37GPZ
|
Bipolar |
63MHz |
17V/us |
1回路 |
PDIP |
AD711JN
|
BiFET |
5MHz |
20V/us |
1回路 |
PDIP |
AD712BQ
|
BiFET |
5MHz |
20V/us |
2回路 |
CDIP |
AD817ARZ
|
Bipolar |
50MHz |
350V/us |
1回路 |
SOIC |
AD845JN
|
BiFET |
16MHz |
100V/us |
1回路 |
PDIP |
ADA4075-2ARZ
|
Bipolar |
6.5MHz |
12V/us |
2回路 |
SOIC |
・ナショナルセミコンダクター
型番 |
タイプ |
GB積 |
SR |
回路数 |
パッケージ |
LF356N
|
BiFET |
4MHz |
13V/us |
1回路 |
PDIP |
LF353N
|
BiFET |
4MHz |
13V/us |
2回路 |
PDIP |
LM833N
|
Bipolar |
15MHz |
7V/us |
2回路 |
PDIP |
LM4562NA
|
Bipolar |
55MHz |
20V/us |
2回路 |
PDIP |
LMC662CN
|
CMOS |
1.4MHz |
1.1V/us |
2回路 |
PDIP |
LMC6032IN
|
CMOS |
1.4MHz |
1.1V/us |
2回路 |
PDIP |
・新日本無線(JRC)
・日本電気(NEC)
・オン セミコンダクター/モトローラ
型番 |
タイプ |
GB積 |
SR |
回路数 |
パッケージ |
MC33078PG
|
Bipolar |
16MHz |
7V/us |
2回路 |
PDIP |
MC33272AP
|
Bipolar |
24MHz |
10V/us |
2回路 |
PDIP |
・リニアテクノロジー
型番 |
タイプ |
GB積 |
SR |
回路数 |
パッケージ |
LT1169CN8
|
BiFET |
5.3MHz |
4.2V/us |
2回路 |
PDIP |
LT1360CN8
|
Bipolar |
50MHz |
800V/us |
1回路 |
PDIP |
LT1022CN8
|
BiFET |
8.5MHz |
24V/us |
1回路 |
PDIP |
OP-16GH
|
BiFET |
7.2MHz |
17V/us |
1回路 |
TO99 |
・シャープ
型番 |
タイプ |
GB積 |
SR |
回路数 |
パッケージ |
IR94559
|
Bipolar |
6MHz |
2V/us |
2回路 |
PDIP |
・ルネサステクノロジ/三菱電機/日立製作所
型番 |
タイプ |
GB積 |
SR |
回路数 |
パッケージ |
M5216FP
|
Bipolar |
10MHz |
3V/us |
2回路 |
SO |
M5218P
|
Bipolar |
7MHz |
2.2V/us |
2回路 |
PDIP |
M5219FP
|
Bipolar |
24MHz |
6.5V/us |
2回路 |
SO |
M5238AFP
|
BiFET |
6MHz |
20V/us |
2回路 |
SO |
・STマイクロエレクトロニクス
型番 |
タイプ |
GB積 |
SR |
回路数 |
パッケージ |
TS462CDT
|
Bipolar |
12MHz |
4V/us |
2回路 |
SOIC |
TS522IDT
|
Bipolar |
15MHz |
7V/us |
2回路 |
SOIC |
TS972IDT
|
Bipolar |
12MHz |
4V/us |
2回路 |
SOIC |
TSH22IN
|
Bipolar |
25MHz |
15V/us |
2回路 |
PDIP |
MC4558CD
|
Bipolar |
5.5MHz |
2.2V/us |
2回路 |
SOIC |
・インターシル/ハリス/RCA
型番 |
タイプ |
GB積 |
SR |
回路数 |
パッケージ |
CA3140E
|
BiCMOS |
4.5MHz |
9V/us |
1回路 |
PDIP |
・ローム
型番 |
タイプ |
GB積 |
SR |
回路数 |
パッケージ |
BA4580RF
|
Bipolar |
15MHz |
5V/us |
2回路 |
SO |
BA15218
|
Bipolar |
10MHz |
3V/us |
2回路 |
PDIP |
BA15532
|
Bipolar |
20MHz |
8V/us |
2回路 |
PDIP |
・ソニー
型番 |
タイプ |
GB積 |
SR |
回路数 |
パッケージ |
CX20197
|
Bipolar |
40MHz |
20V/us |
2回路 |
PDIP |
・レイセオン
型番 |
タイプ |
GB積 |
SR |
回路数 |
パッケージ |
RC4556AM
|
Bipolar |
8MHz |
3V/us |
2回路 |
SOIC-WIDE |
・アナログシステムズ
型番 |
タイプ |
GB積 |
SR |
回路数 |
パッケージ |
MA-333CP
|
BiFET |
4MHz |
15V/us |
1回路 |
PDIP |
プッシュプル用トランジスタ
トランジスタも色々換えてみました。全てバイポーラです。エンハンスメントMOSFETでもいけるでしょうが手に入らなかったのでパスです。交換したときの音の変化は非常に小さい気がします。
これらトランジスタのうち、海外製のBC550/557以外はすべてディスコンのようです。日本のトランジスタが電子工作で気軽に使える日も終わりつつあります。残念なことです。
(2011年現在 リード型小信号トランジスタを積極的に生産しているメーカーは松下とロームだけになってしまった)
総論
個人的なお気に入りは、OP37、OP01、ADA4075-2、μPC4572、M5219あたりです。が、どれも個性はあるものの悪くありません。
オペアンプやトランジスタ交換の差は、ヘッドホンや再生する曲そのものの違いに比べれば小さな差です。手っ取り早く音質を上げるには、まずヘッドホンを換えるのが先だと思います。
また、どのオペアンプがどんな音、という話に意味があるのか、自分で書いていても疑問に思ってしまいます。今回オペアンプの後ろのトランジスタを換えて、ほとんどのオペアンプでは音の変化が小さかった、と書きましたが、今回のトランジスタ回路は4石プッシュプルというシンプルなものなので、あまり変化の度合いが大きくなかったのかもしれません。エミッタフォロアは電流を流して出力インピーダンスを下げるのが仕事で、電圧増幅はしませんから、音質への影響が少ないのは当然ともいえるのかもしれません。それでも、NJM4580等は明らかな変化がありました。それを考えると、外付け回路によって音は大きく変化することになります。この時点でどのオペアンプがどのような音を鳴らすという話は意味をなさなくなります。
Chu-Moy式のようなオペアンプ単独動作のものは、一応オペアンプによってのみ音が増幅されますから、その意味ではオペアンプの音が聴けると言えるのかもしれませんが、Chu-Moy式の回路はメーカーが想定していないオペアンプの使い方ですから、その音がそのオペアンプの設計期待値どおりの性能を出していることにはなりません。
コラム:CHUMOYアンプは「オペアンプの音」を聴けるか?
+
|
クリックで表示 |
CHUMOY回路は増幅素子としてオペアンプ1個のみを使用する回路です。そのためこの回路の出力音声は「オペアンプの音」そのものであるとも言われます。しかし、私はそうは思いません。
通常のオペアンプは基本的には電圧増幅ICです。電力増幅素子はパワーオペアンプやオーディオパワーアンプICと呼ばれて区別されます。CHUMOY回路は通常のオペアンプをパワーアンプのように使う回路です。つまりヘッドホンをオペアンプの出力段でドライブします。このため、この回路ではオペアンプの出力段の性能が回路の性能の大部分を担うことになってしまいます。
CHUMOY回路でよく使われるオペアンプでOPA2134、NJM2114、NE5532、NJM4580などが挙げられますがNJM4580はあまり評判が良くありませんね。これも出力段のパワーに起因するものと思われます。いずれのオペアンプも低歪を売り物とするオーディオ専用の品種ですが歪率は負荷が重ければ悪化します。データシートに記載されている歪率の数字は、当たり前ですが負荷が軽いときのものです。
オペアンプの出力段の性能の目安として最大出力電流があります。この数字が大きければそれだけ電流を流せますから大きな負荷を駆動できることになります。
しかしオーディオの場合、必ずしもこの数字が高い品種がドライブ能力が高いとは言えないという落とし穴があります。それはこの出力電流の値が歪率の悪化を無視した値だからです。
先ほどの4種のオペアンプの出力電流を見ると、OPA2134=35mA、NE5532=38mA、NJM2114=28mA、NJM4580=50mAとなっています。出力電流は明らかにNJM4580が大きいです。しかしこの4種の中でNJM4580のみ600Ω負荷駆動可能となっていません。それは実際に何十mAも流すとオーディオ用途として使えないほど歪率が悪化するからです。逆に出力電流が35mAのOPA2134は600Ω負荷でも十分なドライブ性能を保証しています。NE5532、NJM2114も同様600Ω駆動可能です。
ちなみに、高出力電流オペアンプとして著名なNJM4556A(最大出力電流73mA)は、同じ4558ファミリーでも圧倒的に駆動力が優れており、データシートにはTHD+NOISEの200Ω負荷時のグラフが載っています。それによればゲイン30dbで200Ω負荷、出力電圧3Vrmsのとき(ピーク電流は約21mA)の20kHzのTHD+Nはおよそ0.02%です。OPA2134は600Ω負荷で20dbゲイン、出力電圧3Vrmsのとき(ピーク電流約7mA)の20kHzのTHD+Nがおよそ0.03%です。OPA2134のほうがゲインも低く負荷も軽いのにNJM4556Aに歪率で負けてしまっています。それはNJM4556Aの出力段が非常に強力だからです。
CHUMOYではこのようなことが起きてしまいますので、必ずしもOPAMPの音が聴ける回路とは言えないと考えています。
|
コラム:高級オペアンプとは?
+
|
クリックで表示 |
実のところ高級オペアンプと言う用語はなく、単に高級オペアンプというと高価なオペアンプといった程度の意味しかありません。
一般的には高精度なもの、特別に高速なもの、そして高信頼性のものが高級品に該当するようです。ただし「高級オペアンプ」をオーディオに使うと良い音がするなどということは無く、いくら高級品でもオーディオ用に必要な性能が全く不足している場合もあります。
たとえば特殊な計測器用の超高精度アンプは、GBWやスルーレートが非常に低いものも多く、たとえばOPA277や2277はGBW1MHz、SR0.8V/μsですから4558より低速です(オーディオ用には何とか使えますが、適した品種とは言えないでしょう)。AD708だとGBW900kHz、SR300mV/μsでオーディオ用としては明らかにスペック不足です。これらの品種はOP07等と同じ系統で、歪み計や業務用温度計などスピードは要求されないが、いかなる環境においてもきわめて高い精度を要求される用途のために作られているので、オーディオに向かないのは当然のことです。
また、「高級オペアンプ」と「高級オーディオ用オペアンプ」は別物です。「高級オーディオ用オペアンプ」は安価な場合もあり、たとえばTL972やADA4075-2などがこれに該当します。半導体メーカーとしては同等性能ならなるべく低価格になるように製品を設計しますから、価格はオーディオ性能とは全く関係ないと言ってよいと思います。
|
ポップス、モダンロックなどのCDは、ヘッドホンやアンプを含む再生装置が良ければ良いほど、録音状態の悪さが目立つようです。ポップスCDは録音レベルがやたらに大きくなっていて、音量の大きい部分では波形がクリップしてしまっています。波形編集ソフトで見てみるとひどいものです。
昔の常識的な録音レベルで録音された音源(U2「WAR」より「Sunday Bloody Sunday」)
最近の大きすぎる録音レベルで録音された音源(U2「How To Dismantle An Atomic Bomb」より「Vertigo」)
「WAR」は1983年にアナログ音源でリリースされたもので、「How To~」は2004年にリリースされたものですが、「How To~」は録音レベルが高すぎることが一目瞭然です。何ら私が加工したものではなくて、元からこのような状態の音がCDに焼きこまれて販売されているわけです。これはレコーディング技術者が無知なのではなくレコード会社の販売戦略だそうです。
ともかくこのような録音品質の悪さは、再生装置をよくすることではカバーできません。ユーザーの力では対処できないといえます。
ですが、解像度はヘッドホンアンプを使うと確実に改善されますし、何より小さくても自分で作った音響機器を使って音楽が聴けるということは、それだけでも感動ものです。
また面白い部品を見つけたら追加しようかと思っています。
-
最終更新:2012年11月18日 01:00