新たに現れた魔物はダイを襲った者達とは異なる空気を纏っている。
姿は闇から生まれたように黒く、身体はいびつな形だ。瞬く眼光はミストバーンを連想させる。
あるものは獣のような、あるものはヒトのような体形をしているが、皆意思を伝えようともせずにじり寄る。
本能ではなく明確な殺意を持って排除しようとしている。
異様な集団にもイルミナとシャドーはまったく動揺せず迎撃態勢をとった。慣れた様子から幾度も襲撃されていることがうかがえる。
「こいつらは?」
「第三勢力の手下どもだ。陰気な連中ばかり差し向けてくる!」
シャドーが魔族の身体に入り込み、爆裂呪文を放った。イルミナの手から飛んだ炎球が敵を焼き尽くす。疾走し、拳で殴り飛ばすと頭部が弾け飛んだ。
敵を倒す勇ましい姿は性別を忘れさせる。ドレスより武闘家の装束の方がよほど似合うだろう。
何しろ、真大魔王がさらに若返り女性になったような外見なのだ。大魔王に比べれば細いとはいえ、華やかな衣装では鍛えられた身体つきを隠すことは難しい。
ダイも身構えたが、彼らの狙いはイルミナとシャドーだけらしい。
冷静に戦況を観察する中でダイは両者の力量を悟った。
大魔王の血を引いているだけあって素質はあるだろう。
だが、実力は遠く隔たっている。
魔力も膂力も未熟だ。同時行動はできず、掌撃で敵の攻撃を弾いても完璧には防げない。
一体一体の強さはそこまででもない敵を瞳化させることもできない。鬼眼を使いこなせていないのだろう。
黒い布で隠し、まったく使おうとしないため、機能していないようだ。
敵を拳で粉砕することはできるが、オリハルコンをも軽々と砕く真似はできない。暗黒闘気を集中させて強化することで渡り合っている。
シャドーもミストバーンには遠く及ばない。
ダイは仲間と別行動をとって大魔王と戦っていたため、ミストバーンの能力や正体を完璧に把握したわけではない。ポップ達から戦いの様子を聞いただけである。
それでも、ミストバーンのような、底が見えないほど深い暗黒闘気は無いとわかる。
器の力を本人以上に引き出すこともできない。魂を完全に消すこともできず、一時的に乗っ取っているだけだ。
おそらく他の魔族たちが部下にならないのは、大魔王バーンのような圧倒的、絶対的な強さを求め、彼女が近い段階に達していないことを知って失望したためだろう。
現時点ではせいぜい“実力者の一人”程度でしかない。
全てを捨てて戦った敵の家族と彼女に仕える部下、二人を狙う敵との攻防を見つめていたダイはハッとした。
倒れた敵が身を起こし、隙をついて襲いかかったのだ。
ダイはとっさに地面に転がっている岩を掴み、地を蹴った。
「イルミナ様!」
残った敵に注意を向けていたイルミナは顔をこわばらせつつ振り向いた。
対処は間に合わない。
だが、ダイが岩で敵を殴りつけひるませるのを見てわずかに目を見開いた。怯えていない、戦いに慣れた身のこなしだ。
敵を葬った後、彼女は感心したように呟いた。
「お前ならば魔界でもやっていけるのではないか? 優れた戦士になりそうだ」
不気味な魔物を相手にしても怯え逃げ出すどころか冷静に観察し、行動を起こしたことを褒めている。
外見に似合わない度胸の持ち主だと認めたらしい。
冒険の中で様々な強敵と対峙し、大魔王とも戦ったダイは複雑な気分だった。
姿は闇から生まれたように黒く、身体はいびつな形だ。瞬く眼光はミストバーンを連想させる。
あるものは獣のような、あるものはヒトのような体形をしているが、皆意思を伝えようともせずにじり寄る。
本能ではなく明確な殺意を持って排除しようとしている。
異様な集団にもイルミナとシャドーはまったく動揺せず迎撃態勢をとった。慣れた様子から幾度も襲撃されていることがうかがえる。
「こいつらは?」
「第三勢力の手下どもだ。陰気な連中ばかり差し向けてくる!」
シャドーが魔族の身体に入り込み、爆裂呪文を放った。イルミナの手から飛んだ炎球が敵を焼き尽くす。疾走し、拳で殴り飛ばすと頭部が弾け飛んだ。
敵を倒す勇ましい姿は性別を忘れさせる。ドレスより武闘家の装束の方がよほど似合うだろう。
何しろ、真大魔王がさらに若返り女性になったような外見なのだ。大魔王に比べれば細いとはいえ、華やかな衣装では鍛えられた身体つきを隠すことは難しい。
ダイも身構えたが、彼らの狙いはイルミナとシャドーだけらしい。
冷静に戦況を観察する中でダイは両者の力量を悟った。
大魔王の血を引いているだけあって素質はあるだろう。
だが、実力は遠く隔たっている。
魔力も膂力も未熟だ。同時行動はできず、掌撃で敵の攻撃を弾いても完璧には防げない。
一体一体の強さはそこまででもない敵を瞳化させることもできない。鬼眼を使いこなせていないのだろう。
黒い布で隠し、まったく使おうとしないため、機能していないようだ。
敵を拳で粉砕することはできるが、オリハルコンをも軽々と砕く真似はできない。暗黒闘気を集中させて強化することで渡り合っている。
シャドーもミストバーンには遠く及ばない。
ダイは仲間と別行動をとって大魔王と戦っていたため、ミストバーンの能力や正体を完璧に把握したわけではない。ポップ達から戦いの様子を聞いただけである。
それでも、ミストバーンのような、底が見えないほど深い暗黒闘気は無いとわかる。
器の力を本人以上に引き出すこともできない。魂を完全に消すこともできず、一時的に乗っ取っているだけだ。
おそらく他の魔族たちが部下にならないのは、大魔王バーンのような圧倒的、絶対的な強さを求め、彼女が近い段階に達していないことを知って失望したためだろう。
現時点ではせいぜい“実力者の一人”程度でしかない。
全てを捨てて戦った敵の家族と彼女に仕える部下、二人を狙う敵との攻防を見つめていたダイはハッとした。
倒れた敵が身を起こし、隙をついて襲いかかったのだ。
ダイはとっさに地面に転がっている岩を掴み、地を蹴った。
「イルミナ様!」
残った敵に注意を向けていたイルミナは顔をこわばらせつつ振り向いた。
対処は間に合わない。
だが、ダイが岩で敵を殴りつけひるませるのを見てわずかに目を見開いた。怯えていない、戦いに慣れた身のこなしだ。
敵を葬った後、彼女は感心したように呟いた。
「お前ならば魔界でもやっていけるのではないか? 優れた戦士になりそうだ」
不気味な魔物を相手にしても怯え逃げ出すどころか冷静に観察し、行動を起こしたことを褒めている。
外見に似合わない度胸の持ち主だと認めたらしい。
冒険の中で様々な強敵と対峙し、大魔王とも戦ったダイは複雑な気分だった。
主従は視線を動かし、敵の死骸を見つめた。
「倒しても倒しても湧いてくる。この数週間で一生分見た気がするな……」
シャドーのぼやきに同意するようにイルミナも頷いた。うんざりだと顔に書いている。
「どうして第三勢力はイルミナを狙うんだ?」
「わからん……目障りらしい。魔族たちを従わせる実力もない私など、脅威にはならぬはずだがな」
自嘲めいた響きが声に宿っている。
「父、大魔王バーンや冥竜王ヴェルザーに次ぐ力の持ち主が一方的に敵視する理由など――私の方こそ知りたい」
秘法から目覚めた直後に父の死を知り、衝撃から立ち直る間もなく第三勢力から生命を狙われ、たった一人の部下とともに魔界を彷徨う身となった。
追放されたにとどまらず、敵は際限なく襲いかかってくる。いつ終わるとも知れない戦いに、二人の声にも表情にも疲れと焦りが見える。
本拠地に乗り込もうにも、たった二名では虚しく阻まれてしまった。
このままでは、じわじわと力を削られながら魔界を逃げ回るばかりだ。
状況を変えるべく彼女がとろうとしている行動は――
「……私は地上に行こうと思っている」
予想外の言葉にダイが目を見張った。
あらかじめシャドーを偵察に派遣していた。先ほどまで姿を消していたのも様子を探らせるためだった。
天界が滅びた影響か、何かの前兆か、最近は地上と魔界の境界が緩くなっている。
各地で不規則に発生している穴を通ることで、莫大な労力を払わずとも行き来ができるのだという。
「本物の太陽がどんなものか、見てみたいのだ」
父が焦がれた対象を直接目で確かめたい。
破壊しようとした世界を知っておきたい。
威圧感のある外見に似合わず、好奇心が旺盛らしい。
「現在、竜の騎士は行方不明のようです。じっくり見て回ることができるでしょう」
「うむ」
満足気に頷いた彼女をダイは慌てて止めた。
「すぐにバレるよ。大魔王の家族だって」
彼女は首をかしげながら己を指差した。
「ひょっとして似ているのか?」
「うん。かなり」
髪も、顔立ちも、眼差しも、よく似ていることに本人ばかりが気づいていない。
彼女に向かってダイは手を差し伸べた。
「おれも地上に戻りたいから……一緒に行こう」
彼女は怪訝そうな顔をした。大魔王と違い、内心がすぐ面に出る。
「巻きこまれても助けんぞ」
優しさの感じられない言葉だが、ダイは非難しなかった。
命を狙われている者との同行は危険だが、紋章の出ない状態で一人で魔界を彷徨うのも負けず劣らず危ない。
世界の環境についてほとんど知識が無いため、とるべき行動を掴みかねている。
イルミナやシャドーが反対しなかったこともあり――断る理由もはねつけるだけの感情も無いためだ――勇者と、大魔王の娘と、その部下は共に地上に赴くことになった。
「倒しても倒しても湧いてくる。この数週間で一生分見た気がするな……」
シャドーのぼやきに同意するようにイルミナも頷いた。うんざりだと顔に書いている。
「どうして第三勢力はイルミナを狙うんだ?」
「わからん……目障りらしい。魔族たちを従わせる実力もない私など、脅威にはならぬはずだがな」
自嘲めいた響きが声に宿っている。
「父、大魔王バーンや冥竜王ヴェルザーに次ぐ力の持ち主が一方的に敵視する理由など――私の方こそ知りたい」
秘法から目覚めた直後に父の死を知り、衝撃から立ち直る間もなく第三勢力から生命を狙われ、たった一人の部下とともに魔界を彷徨う身となった。
追放されたにとどまらず、敵は際限なく襲いかかってくる。いつ終わるとも知れない戦いに、二人の声にも表情にも疲れと焦りが見える。
本拠地に乗り込もうにも、たった二名では虚しく阻まれてしまった。
このままでは、じわじわと力を削られながら魔界を逃げ回るばかりだ。
状況を変えるべく彼女がとろうとしている行動は――
「……私は地上に行こうと思っている」
予想外の言葉にダイが目を見張った。
あらかじめシャドーを偵察に派遣していた。先ほどまで姿を消していたのも様子を探らせるためだった。
天界が滅びた影響か、何かの前兆か、最近は地上と魔界の境界が緩くなっている。
各地で不規則に発生している穴を通ることで、莫大な労力を払わずとも行き来ができるのだという。
「本物の太陽がどんなものか、見てみたいのだ」
父が焦がれた対象を直接目で確かめたい。
破壊しようとした世界を知っておきたい。
威圧感のある外見に似合わず、好奇心が旺盛らしい。
「現在、竜の騎士は行方不明のようです。じっくり見て回ることができるでしょう」
「うむ」
満足気に頷いた彼女をダイは慌てて止めた。
「すぐにバレるよ。大魔王の家族だって」
彼女は首をかしげながら己を指差した。
「ひょっとして似ているのか?」
「うん。かなり」
髪も、顔立ちも、眼差しも、よく似ていることに本人ばかりが気づいていない。
彼女に向かってダイは手を差し伸べた。
「おれも地上に戻りたいから……一緒に行こう」
彼女は怪訝そうな顔をした。大魔王と違い、内心がすぐ面に出る。
「巻きこまれても助けんぞ」
優しさの感じられない言葉だが、ダイは非難しなかった。
命を狙われている者との同行は危険だが、紋章の出ない状態で一人で魔界を彷徨うのも負けず劣らず危ない。
世界の環境についてほとんど知識が無いため、とるべき行動を掴みかねている。
イルミナやシャドーが反対しなかったこともあり――断る理由もはねつけるだけの感情も無いためだ――勇者と、大魔王の娘と、その部下は共に地上に赴くことになった。
暗い室内を燭台の乏しい光が照らしていた。
部屋の中央には黒い大理石でできた円卓があり、椅子の一つには若い男が座っていた。
白い肌は人間に見えるが、魔界の奥地にいるはずがない。黒い眼と髪を持ち、やはり黒い衣に身を包んでいる。
男と向かい合うようにして宙に浮かんでいるのは竜頭の映像だ。
また、席についておらず暗がりに溶け込むようにして、道化師のような服装の男が佇んでいる。仮面をかぶり、帽子には幾本ものラインが光っていた。
三者とも濃厚な闇の気配を漂わせている。
「ヴェルザー、調子はどうだ?」
男が親愛の情を示すかのように両手を広げ、竜へと呼びかけた。
黒い瞳が悪戯っぽく輝いている。
「じき完全に復活する」
獰猛な声を上げた竜――ヴェルザーに向かって仮面をかぶった男がパチパチと拍手した。
「おめでとうございます。……助けがあればこそ、だね。お礼を言わなくちゃ」
「よせやい。死神から感謝されるなんてゾッとしねえ」
向き直り、丁重にお辞儀をしてみせた死神へ男は手を振った。
懐かしそうに目を細め、追憶に浸っているとわかる口調で呟く。
「数百年前、バーンとあんたと俺で賭けをしたっけな」
バーンもヴェルザーも人間のみを優遇した神への憎悪を抱き、大魔王が賭けを持ちかけた。各々の計画を進め、成功した者に従うという賭けである。
ヴェルザーはバランに敗れたところを天界の精霊に封じられ、魔界の奥地から動けなかった。
だが、第三勢力が天界を滅ぼし、身体の蘇生も助けたため復活を遂げようとしている。
「貴様は何を企んでいる? 天界の連中を蝕み、オレの復活を早めながら地上征服にも消滅にも関心を持っていない」
男は肩をすくめた。動作一つとってもバーンやヴェルザーと違い、威厳は感じられない。
「俺は神サマを憎んじゃいねえよ。一番若くて非力だし、地上への興味も薄い。……無いわけじゃないから賭けには一応参加したけどよ」
「貴様からは力への執念も感じられん。強くなりたいという――」
「強くなってどうする?」
「何?」
静かな声にヴェルザーは怪訝そうに、死神は興味深そうに目を光らせた。
弱肉強食の掟の支配する魔界では考えられない言葉だ。
「自分のこと強えって思ってもどうせ上にゃ上がいる。いなくてもそのうち出てくるだろ? だったらそこそこありゃよくねえか?」
あっけらかんとしている彼に他の者は呆れている。
「一生懸命技作ったり名前考えてつけたりすんのは性に合わねえ」
覇気の感じられない台詞に死神がクスクスと笑みを漏らした。
「まともにやるより楽しいことがあるってワケ?」
同意するように頷いた彼へヴェルザーが冷ややかな視線を向けた。
「軟弱者め」
侮蔑にも怒らず彼は笑っている。
「その通り! 俺は臆病で弱っちい……ただの化物さ」
おどけた口調で言い放ち、朗らかな笑い声を響かせた彼へ死神が尋ねた。
「どうしてあの子を排除しようとするの? 適当に洗脳して駒にしちゃえばいいじゃない」
飄々とした笑みは一瞬で拭い去られた。
「決まってンだろ、ムカつくからだ」
吐き捨てるような口調の彼はひどく不快そうな顔をしている。
地上へ侵略せんとする冥竜王と、傍観を決め込む第三勢力。両者の間に流れる空気を断ち切るかのように、死神が口を開いた。
「キミの名前は? 今まで聞いてなかったけど」
男は戸惑ったように目を瞬かせた。
「第三勢力って呼ばれてるからそれでいいぜ」
死神は目を丸くし、続いて笑いだした。
部屋の中央には黒い大理石でできた円卓があり、椅子の一つには若い男が座っていた。
白い肌は人間に見えるが、魔界の奥地にいるはずがない。黒い眼と髪を持ち、やはり黒い衣に身を包んでいる。
男と向かい合うようにして宙に浮かんでいるのは竜頭の映像だ。
また、席についておらず暗がりに溶け込むようにして、道化師のような服装の男が佇んでいる。仮面をかぶり、帽子には幾本ものラインが光っていた。
三者とも濃厚な闇の気配を漂わせている。
「ヴェルザー、調子はどうだ?」
男が親愛の情を示すかのように両手を広げ、竜へと呼びかけた。
黒い瞳が悪戯っぽく輝いている。
「じき完全に復活する」
獰猛な声を上げた竜――ヴェルザーに向かって仮面をかぶった男がパチパチと拍手した。
「おめでとうございます。……助けがあればこそ、だね。お礼を言わなくちゃ」
「よせやい。死神から感謝されるなんてゾッとしねえ」
向き直り、丁重にお辞儀をしてみせた死神へ男は手を振った。
懐かしそうに目を細め、追憶に浸っているとわかる口調で呟く。
「数百年前、バーンとあんたと俺で賭けをしたっけな」
バーンもヴェルザーも人間のみを優遇した神への憎悪を抱き、大魔王が賭けを持ちかけた。各々の計画を進め、成功した者に従うという賭けである。
ヴェルザーはバランに敗れたところを天界の精霊に封じられ、魔界の奥地から動けなかった。
だが、第三勢力が天界を滅ぼし、身体の蘇生も助けたため復活を遂げようとしている。
「貴様は何を企んでいる? 天界の連中を蝕み、オレの復活を早めながら地上征服にも消滅にも関心を持っていない」
男は肩をすくめた。動作一つとってもバーンやヴェルザーと違い、威厳は感じられない。
「俺は神サマを憎んじゃいねえよ。一番若くて非力だし、地上への興味も薄い。……無いわけじゃないから賭けには一応参加したけどよ」
「貴様からは力への執念も感じられん。強くなりたいという――」
「強くなってどうする?」
「何?」
静かな声にヴェルザーは怪訝そうに、死神は興味深そうに目を光らせた。
弱肉強食の掟の支配する魔界では考えられない言葉だ。
「自分のこと強えって思ってもどうせ上にゃ上がいる。いなくてもそのうち出てくるだろ? だったらそこそこありゃよくねえか?」
あっけらかんとしている彼に他の者は呆れている。
「一生懸命技作ったり名前考えてつけたりすんのは性に合わねえ」
覇気の感じられない台詞に死神がクスクスと笑みを漏らした。
「まともにやるより楽しいことがあるってワケ?」
同意するように頷いた彼へヴェルザーが冷ややかな視線を向けた。
「軟弱者め」
侮蔑にも怒らず彼は笑っている。
「その通り! 俺は臆病で弱っちい……ただの化物さ」
おどけた口調で言い放ち、朗らかな笑い声を響かせた彼へ死神が尋ねた。
「どうしてあの子を排除しようとするの? 適当に洗脳して駒にしちゃえばいいじゃない」
飄々とした笑みは一瞬で拭い去られた。
「決まってンだろ、ムカつくからだ」
吐き捨てるような口調の彼はひどく不快そうな顔をしている。
地上へ侵略せんとする冥竜王と、傍観を決め込む第三勢力。両者の間に流れる空気を断ち切るかのように、死神が口を開いた。
「キミの名前は? 今まで聞いてなかったけど」
男は戸惑ったように目を瞬かせた。
「第三勢力って呼ばれてるからそれでいいぜ」
死神は目を丸くし、続いて笑いだした。