SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 第098話 (4-4)

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 8本目。

「古人に云う! ごがあぶりてんりしっていしっていしってい!」
「打ち込みが弾かれた!?」

 剛太の面が弾かれ咽喉もとに竹刀が突きつけられる。勝負あり。

14本目


「古人に云う! おんあにちまりしえいそわか!」
「ぶごっ!?」

 剛太はみぞおちに膝蹴りを入れられた。悶絶したところで面を打たれ勝負あり。

22本目


「古人に云う! かんまんほろほん!」
「え……? あ!」

 剛太は竹刀を奪われたうえ投げられ頭を打たれた。勝負あり。


「後半剣道じゃねえ!!」
 剛太の怒号が響いた。
「なんだよアイツ! 蹴りとか投げとか平気で使いやがる!!」
 まったくひどい戦いだった。
「打ち込んでもアイツ跳ぶし! ピョンピョン跳んで竹刀避けるし! くそう! 今度こそ!
 剛太は無銘めがけ突っ込んだ。そうしてしばらく切り結んで押し合いになったが突然無銘はスピンしつつ数歩後退。着地
と同時に手裏剣を剛太の額に投げて勝利。

「だから剣道しろと!! 何! なんなの! お前は何をやってんの!?」
 無銘は腕組みしニヤニヤするばかりで答えない。流石にキレかけた剛太を救ったのは秋水。
「タイ捨流」
「たいしゃりゅう? 何だよソレ」
「タイ捨流とは剣聖・上泉伊勢守信綱に師事した肥後の人間、丸目蔵人佐(まるめ・くろんどのすけ)が新陰流を元に発展
させた流派だ。特徴はいま鳩尾が見せたような跳躍、回転といった荒々しくも迅速な動きだ」
「解説どうも。この剣術オタクめ」
「総角との闘いに前後して俺は古流について少し調べた。最初は研究目的だったが今は様々な流派の奥深さに目を見張る
ばかりだ」
「貶したのにしみじみ語ってやがる……」
 目を閉じ様々な特色を述べる秋水は心地良さげだった。
「真田十勇士の根津甚八も確かタイ捨流だ」
「十勇士ったら忍者だよな。……道理で」
 少年無銘が好むわけだと納得する剛太は
「字はこうだ」
 秋水がどこからか取り出したメモに眉を顰めた。
「タイだけカタカナなのは何でだ?」
「教えによると『心広く達するため』だという。「体」「太」「対」「待」……伝書には様々な文字があるがどれか1つのみに絞る
とそのたった1つだけ”捨てる”流派となり幅が狭まる。そもコレは天神合一、変幻自在を旨とする流派で」
「ああもういい。いいから。細かい説明は」
「そうか」
 秋水はちょっと残念そうなカオをした。
「だが蹴りや投げは柔術の流れを汲む正当なもので……!」
「なんでちょっと必死なんだよ…………」
 思いつめたように弁護する秋水にほとほと呆れる剛太であった。


「8本目で君の刀を弾いたのは石厭(せきあつ)。14本目の膝蹴りは足蹴(そくしゅう)。投げ……22本目で使われたのは
奪刀(ばいとう)だな」
 とりあえず秋水の分かる範囲で無銘の技を聞く。(剣術オタクめ)、内心詰りつつも形だけ礼を言う。
「で、さっきのスピンやら手裏剣は?」
「猿廻(えんかい)。といっても『形』(かた)では最後投げない」
 だろうな、と剛太は思った。手裏剣を投げる剣術はとても想像しがたいものだった。
「むしろ最後(無銘側)が投げられる。そして弾く」
「結局組み込まれてた!!!」
 正式にはスピンして後退したもの(仕手)の相手が投げる仕草をする。それを払う動きで締めくくるのだ。
「手裏剣までアリとか……アグレッシブすぎだろタイ捨流」
「実戦用だから当然だろう。ちなみに蹴りや投げといった無刀の技は柔術のみならず中国武術の流れをも」
「だからもういいって」
 秋水は寂しそうだった。
「で、さっきからアイツがブツブツ言ってるの何?」
「何の話だ?」
 ほら技かける前の。古人に云う~なんちゃらかんちゃらのよく分からない言葉。と剛太がいうと。
「摩利支天だな。真言。一種の呪文だ」
「なんでそんな訳の分からないコト言ってんだよ。忍者だろ。臨兵闘者~にしろよ。言えよ」
「タイ捨流の慣わしだ。組太刀の前に唱える」
 宗教色も濃い神秘的な流派。美貌の青年が憧憬を浮かべると一種陶酔した雰囲気が漂う。
 それを蹴散らすように飛び込んできたのは少年忍者。趣味となると男はうるさい。誰もがうるさい。
「厳密に言えば忍びと摩利支天にも関係はあるのだ!」
「成程」
「何しろ陽炎の神様だからな。信じて念ずれば隠形は容易い。あ! というか念じたので我の剣が不可視になりスパスパ
当たってるに違いない」
 場を沈黙が占めた。この犬畜生は何バカな事を言ってるのだろうと剛太は思った。秋水もまた黙りこくったと思いきや
「そうか。すごいな摩利支天は」
 真顔で言った。コイツも何いってんだと剛太が振り仰ぐと、秋水、口の前で人差し指を立てるではないか。
(あー。流してるのね。つかそれ大人が幼児あやす文法じゃねえか)
「フ」
 遠くで総角が笑った。経験者の笑みだった。色々な年上の思惑は無銘には伝わらないらしく、
「そうだろう。スゴイのだぞ!」
 相手が秋水にも関わらず、楽しげに応じた。ハイになったせいで行き掛かりのモロモロを忘れているようだ。
(子供か。いや子供だけど)

 よく見ると竹刀にシールが張ってある。印刷されているのは絵とも模様ともつかない面妖な図案だ。

「仏号だ。梵字と要領は一緒なのだ。いつか刀にも刻むのだ。カッコいいのだ」
(いやお前ソレ刻んだというか貼っただけだからな)
 内心ツッコむ剛太とは裏腹に、無銘はひどく上機嫌だ。「一生懸命手で描いて一生懸命手で貼ったのだ」と聞かれも
しないのに胸そらして得意げに説明した。
「いま貼ったっていったよコイツ。刻むんじゃないのかよ」
 その追求が不服だったらしく無銘は一瞬露骨にムっとしたが、総角の咳払いを聞くと急にしおらしくなった。
「だって師父が学校の備品壊したらダメって云うし……」
(子供か。いや子供だけど)
「で、でもシールぐらいならいいぞってブラボーさん云ったし貼ったのだ! いいだろうコレ。いいだろう」
 とにかくシール。剥がれないよう竹刀に撫で付ける手つきは小生意気な態度がウソのように優しい。
「本当は忍者刀にも彫りたいのだ。でも特注するとお金かかるのだ。今月は忍者刀買ったばかりで母上の財布が厳しい
からガマンしてるのだ」
 言葉を継ぐたび無銘の頬は震え、とうとう目を白く真白にして涙を零した。うううとブルった。
「というか、龕灯の映像付与でどうにかならないのか?」
「っさい早坂秋水! 大事な問題に干渉するn……ム! どういうコトだ! 話せ!」
 怒りながらも急に首を傾げて問う。(ああコイツ根は結構アホだな)剛太は思ったが口には出さない。
「だから、例えば刀身を石膏のような性質にして何かの判で仏号を捺す、とか」
「それだあーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
 鳩尾無銘、大興奮。




『天下鳴弦雲上帰命頂来』



 忍者刀の刀身いっぱいに刻まれた文字に剛太と秋水は思った。
(族か。暴走族か)
(こんな旗かかげているのをよく見る……)
 服部家伝来の秘伝書、その名も「忍秘傳」にも記載のある由緒正しい言葉(所定の手続きのうえ唱えると行路の難を打
破できるという)なのだが、忍者マニアでない2人には意味不明かつ悪趣味な装飾だ。

「サツマイモに字ぃ彫って捺した!」
「図工!?」
 恐らく失敗作だろう。足元に転がる無数の芋のなか鳩尾無銘は直立して腕を組み大口開けて哄笑した。
(一文字一文字捺してたな)

 その時の模様を思い出した秋水はちょっと和んだ。

──「ぐ、文字ずれたら一巻の終わりだぞマズイぞ……」

──「い! いま話しかけたら殺すからな! 集中乱したら時よどみだからな!!」

──「ぎゃああああ!! ちゃんと逆さにしてない判子押してしま……アレ? あ、性質付与まだだった。良かったぁ(ホッ」

──「芋に文字彫るのしんどそう……だと。別に。楽しいし。面倒くさいけど手使えるだけいいし」


「おお」

 無銘は忍者刀を眺めた。


「おおっ」


 裏表ひっくり返した。そこにも同じ文字がある。


「おおー」


 ひらひらと両面見比べる無銘の顔は驚きと感動に満ちている。


(あのネコといい音楽隊はこんなんばっかか)
(まぁ子供らしくていいじゃないか。俺は彼ぐらいの時そろそろ心が死んでいた)
(サラっと重いコト言うんじゃねェ。返し辛いぞ)

 秋水の顔もまた綻んでいて、剛太は思う。「コイツのコト語ってる姉と同じ表情(カオ)だな」と。
 秋水が、小札の件でアレコレと突っかかってくる無銘を弟のように思っているのが見て取れた。

(今は死んでねえってコトか。心)

 よく分からない男でまったく真逆の秋水だが、剛太はさほど不快ではない。

(アイツの影響か。コレも)


 論評は瑞々しさを取り戻した秋水に対してか、それとも彼に友誼を感じつつある自らの変化にか。
 剛太はまだ分からない。


「クク……! 手でいろいろできるというのは実に気分がいい! フハハどうだ鐶! いいだろこの刀!」
「鐶なら姉さんたちと移動したが」
 無銘は竹刀を縦に持ったまましばらく固まり
「何ィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
 と目を剥きそして怒った。
「おのれ鐶め! 我の活躍見てろといったのに! 約束したのに!」
 八つ当たり、だろうか。刀を片手でブンブン振り出した少年忍者はむくれ面だ。
 剛太は意地悪く笑った。
「つーか何。いいトコ見せたかったのお前? あれカノジョな訳?」
「な…………!!」
 無銘の顔がみるみる赤黒くなった。瞳孔は露骨に開き色も変化。
「ばばばば馬鹿を抜かすな! あ! あのような者に焦がれる訳なかろうが!! 我はただ、我はただだな! 普段妙に
偉ぶってる鐶めを見返してやりたかっただけなのだ!!」
 あからさまに動揺する無銘に剛太は「ふーん」と意味ありげな笑みを浮かべる。
「でもお前あのロバより先に鐶呼んだよな。母上……だっけ? その母上より優先してたじゃねえか」
「ぐ……!!」
「それとも何? まさか母上様のコト忘れてたんじゃないよな?」
(フ。セーラー服美少女戦士を敵対特性で倒された遺恨、か)
 煽ってくスタイルの剛太がさらに舌鋒を加えんとしたときその肩に手が乗る。振り返る剛太。
「やめるんだ中村」
「早坂」
 神妙な顔つきの秋水に少々やりすぎたのかと剛太は思いそして黙る。
「鳩尾はただ苦難の人生を歩んできた鐶に真先に面白い物を見せて元気付けたいだけだ」
 空気が明らかに凍った。秋水を振り向く剛太は頭の後ろで小さな影が、爛々と両目光らせ立ち上がるのを察知した。
「オイ」
 青ざめる。修羅場を予期し青ざめる。
 秋水が言った程度のコトなど剛太はすぐ見抜いていた。見抜いた上で触れぬよう逆鱗に触れぬようしょうもない煽りで細
かな怒りを引き出していたのだ。だが秋水は触れた。心底生真面目に庇うつもりで……触れた。
 皮肉にもそれが無銘をブチ切れさせた。
「貴っ様あーーーーーーーーー!!」
 ひゅるりという冷たい風が鼻先を通り過ぎた瞬間剛太は慄然とした。舞い散る何本かの髪は切断の証。
「ちょ! その忍者刀斬れる奴だろ! 振り回すなって!」
「黙れ! 貴様が余計なコトいうからこやつが調子づいたのだ!」
「君は顎が上がり気味だな。身長差を気にするせいか……。顎は締めた方がいい」
「お前は冷静に指導してんじゃねえ!!」
「だが体を崩されたとき転倒の恐れが……咽喉だって打たれかねない」
「だから何で今いう!! おのれ馬鹿にしおって!!」
「やーめーろ! 実質真剣だぞそれは!」
 やかましい叫びと足音のなか総角に湯飲み差し出す防人衛。
「粗茶だが」
「あ、どうも。お構いなく」


「ぐぬぅ! 一発足りと当たらん!」

 無銘の攻撃は悉く外れた。彼がバテるコトで騒乱は終わった。
 剛太は見栄えよく佇む秋水に愕然とした。

「結構激しく動いてたのに汗一つかいてねえ……」




 とにかく剛太。無銘に勝つまで続けるコトに。

「つってもなあ。あいつホムンクルスだぞ? さっき先輩が言ってたけど身体能力だけなら全盛期のブラボー並。そりゃあ
確かに最近人間形態になったばかりだから、剣の方はあちこち拙さが見えるけど……タイ捨流だぜ? 跳ねるわ投げる
わ蹴るわ手裏剣使うわで手に負えねえ」
 ニトロエンジンとミサイル搭載のF1カーに乗ったルーキー。とでも形容すべきか。無銘は手ごわい。
「しかし君は先ほど防人戦士長に重力の使い方を教わっただろう」
「そうだけどなあ」
 いざ実戦となるとそれどころではないというのが実情だ。そもそも実際に練習し体感したのはナックルダスターとスカイウォー
カー……アッパーとハイキックのみである。
 と、手札を探っていた剛太の脳細胞がめまぐるしい収縮を見せたのは秋水の表情に微妙な変化を認めたからだ。
 相変わらず生真面目が服をきたような、美麗だが面白みのない、予算だけは潤沢な大コケ映画を思わせる面持ちの男
が一瞬くすりと笑ったように見えた。
(笑う? 笑うってコトは裏がある、だよな。ただコイツは姉と違って策謀は苦手だ。となると既に何か予想していて
現に俺がその通りになってるってコトか。しかもまだ俺は解決策を見つけていない……と)
 さらに思い出す。無銘との試合前、秋水がいろいろ口にしていた忠言を。

──「君は頭がいい。だからこそ、教えられた技術に固執しがちだ」


──「あっそ。でも要するにブラボーの教えはアレだろ。筋肉連動させりゃ攻撃力あがる。重力上手く使って相手の虚をつ
けば勝てる。それだけでいいじゃねェか。時間ないし体術に限っちゃ単純単純、何も考えねェ方がうまくいくって絶対」


──「攻めて崩れるのは相手だけじゃない。自分もだ。攻勢に転じた瞬間隙が生まれる。巧者はむしろそれを突く。体術だけじゃ
ない。知略も同じだ。戦いの本質はみな同じだ」

(…………)

 やっと気付く。『簡単にできる』。そう嘯いていた筋肉の連動や重力の利用がまったく出来ていなかったコトに。
 変幻自在かつ既存の剣道の枠に収まらぬ無銘のタイ捨流にただ翻弄されていた……。

(やっべえ。よくよく考えてみりゃあちょっと剣術齧った程度のホムンクルスにだ、俺、全然歯が立ってなかったじゃねェか)

 無論剣道という不慣れな競技だったせいでもあるが、にしても実践できると断言していたブラボーの教えを何ひとつ活か
せていなかった事実はまったく反省を促すのに十分だ。斗貴子を助けるための特訓で何の進歩も出来ていないのは、
まったく剛太にとって屈辱的である。カズキとの差が微塵も縮まっていない。

「あーー。なんだ」
 ぼるりぼるりと後頭部を掻きながら秋水に言う。
「分ぁったよ。武術ってのは積み重ねが必要なんだな」
「……そうだ」
 秋水は頷いた。
「防人戦士長は重心を時速6.5キロで16センチ落とした。それだけで気配が察知されなくなるが」
「それだけで神業だけど」
 嘆息する。
「言い換えればアレだよな。時速6.5キロで16センチ落とすのにさえ長年の修練が必要なんだな。武術っていうのは、数値
だけ聞きゃあショボいコトでも、おっそろしく沢山考えて特訓しなきゃできないコト……か」
「ああ」
「悪かったよ。大口叩いて。確かに特訓は必要だ。ちょっと齧った程度じゃできそうにない」
 それを分からせるため剛太に剣道をさせたのだろう。秋水は。
(ただそれは半分だ。もう半分は、恐らく)
 記憶を探る。無銘に乱されていた頭の中の歯車が整序され1つまた1つと噛み合っていく。