SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 第098話 (4-5)

※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

──「ブラボー。これもそれなりの修練はいるが目指すところは単純だ。『相手に攻撃を察知させない』。たったそれだけを
実現するため俺は体を鍛えた。いいか。鍛錬そのものが目的じゃない。武術的な機微で相手より優位に立つため鍛えるんだ」

──「突き詰めれば中村。キミと武術の相性は案外いい。最終的には智謀や精神がモノをいう世界なんだ」


(……これだ。2人は武術を通じて俺の頭を鍛えようとしている。ケッ。乗せられるのは癪だが──…)

 来るべき決戦で斗貴子の力になれるなら。


「来いよニンジャ小僧。今度は俺がいろいろ試す番だ」


 無銘めがけ親指以外で手招きする。挑発的な行為に「何を!」と無銘は憤りそして構えた。

(よし。中村。やっと俺と戦士長の意図を分かってくれたか)



「フ。同時に秋水をも鍛える、か」
「彼に必要なのは人と交わるコトだからな。アイツ自身それを望むようになった。お前との戦いを通して……な」



 防人衛。総角主税。戦士と音楽隊。2つの会派の首魁格はただ静かに部下を見守る。






 一方、千里の部屋では演劇の脚本がいまだ難航していた。

「文章って難しいね」
「読むのは好きだけど書くとなると……」

 のほほんとしたまひろとは対照的に千里は困り果てていた。
 いま書き上がっている台本については集結した女性人全員の感想を貰いいろいろ見直したのだが、どうもしっくり来るものがこない。

「締め切りは明日の正午だよ」
 時刻は現在そろそろ23時を回ろうかという頃だ。斗貴子としてはそろそろ管理人室地下の特訓に戻りたいのだが……。
(だが演劇発表で負ければ部はパピヨンの天下になる)
 台本の出来が悪ければ斗貴子はパピヨンのコスプレでレティクル勢との決戦に挑まなくてはならない。
(それだけは絶対嫌だ!)
 顔が青ざめ汗が流れる。ココまで気付かなかったのが不思議なぐらい、当然でおぞましい理屈だった。
「なんとしても書きましょう」
 いつにもなく神妙な面持ちで呟いたのは桜花だ。彼女の慧眼は斗貴子の動揺ひとつで台本の重要性を見抜いたらしい。
「書くといっても千里だいぶ疲れてるわよ」
 ヴィクトリアとしてはどっちに転んでも構わない。恐ろしい話だが彼女はパピヨンのコスチュームに抵抗がない。ニュートン
アップル女学院の生徒たちを思い出してみよ。みな彼を妖精と思っていたではないか。朱に交われば何とやら、しかもパピ
ヨンを憎からず思っているのだから(負けたら……その……ペアルックってコト?)と内心ドキドキしている。
 とはいえ勝てるに越したコトはない。難物な共同研究者の喜ぶカオは見てみたいし、演劇部の全権を任された以上は
矜持にかけて勝利に導きたくもある。
 ただ、台本執筆が千里である以上無理はさせたくない。母の面影を持つひどく可憐な少女に無理強いはしたくない。
 これがまひろなら壊れたテレビを治すように3発はブッ叩く。叩いた方が却って正常になると冗談交じりに信じている。

 桜花は、ヴィクトリアの機微は分かったが、しかしだいぶ追いつめられていた。
(負ければパピヨンの服……。嫌よそんなの!)
 表情こそ笑っているが微妙な引きつりが浮かんでいる。
 しかしそこは生徒会長。人間ぞろぞろ(※一部ホム)揃った空間の使い方を心得ている。

「全員で、書きましょう」

 みな、息を呑んだ。誰も想像だにしなかった提案だった。
 斗貴子だけは呆れたように呟いた。

「桜花。キミひょっとして焦ってないか? 普段のキミならまず創作経験のある者を探すだろ。なのに……全員で描く?」

 斗貴子の方がまだ冷静だった。彼女が経験のあるなしを一団に問うと千里の手だけが上がった。

「ほら見ろ。誰も未経験じゃないか。こんな状況で全員に描かすなんて」
「描くのよ」
「オイ」
 桜花は斗貴子に詰め寄った。心なしか息が上がり、瞳の奥がグルグル渦巻いていた。
「津村さん。負ければどうなるか分かってるの。津村さん。負ければどうなるか分かってるの」
「分かったから離れろ! というかキミは疲れてる! 落ち着け!」
 極度のプレッシャーと特訓の疲れのせいか。桜花は珍しく混線した。
「大丈夫よ! 文章なんてのは、弾みが大事なの。描くときは大作描くつもりで挑んじゃダメなの。『今日は2~3行でいいか』
ぐらいの軽い気持ちでいくべきなの。そしたらいつの間にか没頭してて40KBぐらい描きあがっちゃってるものなの。昔は
長編基準の60KBが『スゴい量だなあ。自分には決して描けないなあ』とか思ってたのに今じゃたった1回の投稿でその
7割ぐらい軽々フッ飛ばせるの」
「よし分かった桜花! 寝ろ!」
 レバーにいいのが入った。桜花メルヘンの世界へ。
「くそう! 腹黒とはいえそこそこ有能な奴が消えた!」
「消した……の……間違い……では」
 鐶の突っ込みを涼しい顔で黙殺し斗貴子は一団に意見を求めるべく向き直るが
「そうだね。自分で描こうよ」
「え!?」
 頷くまひろに斗貴子驚愕。
「んー。ちーちんばかりに負担かけるの良くなかったね」
「日本語よく分からないけど千里のために頑張るよ」
「ビジネス文書の作成でしたら経験あります」
「物語は分かりませぬが戦いをば妄想すれば実況的側面から或いは何とか!!」
「…………ふふふ……。遂に『わたしのかんがえたさいきょうのすぱろぼ』を解き放つときが……」
「よー分からんけどご主人はやってみるって。つーか……いつになったら眠れんのさ。眠い」

「なんだかヤバいコトになってきた……」

 沙織、ヴィクトリア、毒島、小札、鐶、香美……ほか全員の賛成により執筆開始!!



「とりあえずまだみんな描くの慣れていないと思うの。短編から始めましょう」

 過酷な現実世界に帰還した桜花は平然たる面持ちだ。いろいろ動揺しているが表面上はいつも通りの生徒会長。

「で、何を描くんだ?」
「お題に沿って描きましょう。いまネットで小説について調べていたらちょうどいいお題があったの」
「ほうほう」
 まひろは身を乗り出した。ベレー帽を被りGペンを持っている。斗貴子は(明らかに間違ってる。このコ居る時点で詰んで
るんじゃ)と思った。得体の知れぬ笑みを浮かべる鐶、文字って何じゃんという問題外の香美、既に脳にニトロを充填しいろ
いろ出来上がっているご様子の小札。他にもまひろ寄りの沙織や鬱屈を抱えたヴィクトリア。
(ああ。そうか。なんか見たコトあると思ったら)
 斗貴子はむかし目撃した。
 ヴィクター討伐がひと段落した頃、錬金力研究所の食堂で戦部やら火渡やら円山やらがアレコレ持ち寄り食卓を囲んで
いるのを。数時間後そこは爆発現場の中心となった。KEEP OUTのテープと野次馬越しに見た食堂……だった空間には
ヒグマの前足やらアーケードゲームの基盤の破片やらゴム手袋、クイックルワイパー、照星の焦げた、黒い額縁つきの遺影、
高笑いを上げる生前の故人にマウントを取られ殴られまくる火渡といったおおよそ食用に適さないものが散らばっていた。
 その一角たる暗い赤みのかかった紫の謎粘液は最初食堂の一部分のみ群生していたが、日を重ねるごとに生息範囲を
広げていき、いまでは元食堂から半径400mが立ち入り禁止区域である。

 部屋にいる女子たちを見て思う。

(そうだ。思い出した。そっくりなんだ)

(あのとき戦部たちが囲んでいた闇鍋と)

 もう斗貴子は笑うしかなかった。極限まで溜まったストレスが、脳の狭まった区域から膿のようにスルスル抜けるカタルシ
スだった。
「だ、大丈夫よ津村さん。描いてもらった作品は、私と、千里さんと、毒島さんでチェックして纏めるから」
「そうか……。桜花と、若宮千里と、毒島が……。良かった。桜花がいなければもっと良かった」
 斗貴子はまなじりを拭った。人間の正の部分を垣間見た気がした。
「え? あの、私さりげなく仕事ふられてませんか?」
 一番とばっちりを受けたのは毒島だった。
「大丈夫よ。銀成学園に入学した暁には生徒会役員の座を用意するから。会計にしてあげるから」
「仰る意味が分かりませんが」
「桜の花言葉を知ってる? 豊かな教養、高貴、清純よ」
「お。またおかしくなったな桜花」
 腰を浮かした斗貴子に桜花は引き攣った笑みを浮かべ進行する。
「と! とにかくまずは慣らし運転! お題はこれよ!」


大雨で洪水になったとき、自分の大切な人を守って避難する


「字数は2000字以内! スタート!」



斗貴子。

 洪水、か。私たちが斃すべき敵たちは人を喰う。しかも痕跡は必ず消す。
 洪水に紛れての食事は正に打ってつけという訳だ。

 それだけに、夏ともなると仲間達は洪水区域へ飛び出していく。
 中でも欠かせない人は艦長と呼ばれる老年の男性だ。
 有能なんだか無能なんだかよく分からない人だが、潜水艦を操る能力を持っていてな。
 大河川の洪水区域という、学校など比べものにならない広い区域の住民達を救助するコトにかけては組織一信用できる。

 その艦長がある時、あわや死に掛けた。
 律儀な人でな。住民達を潜水艦に入れる時は必ず甲板に上り声を掛けていた。
 それが仇となったのは風まで強い難儀な日だ。乗り込もうとしていたまだ幼い少女が突風で大きく転び看板から落ちた。
 幸い艦長が反射的にキャッチし仲間の乗組員に投げ渡したが、代わりに自分が河の中へ……。
 詳しくは話せないが、そのとき使っていた潜水艦は艦長なしでは成立しないものだった。
 動かない、どころではない。まぁなんだ。艦長が溺死した場合、乗ってる人たちは確実に全滅する。

 迷うヒマはなかった。同じく看板で避難誘導していた私も川に飛び込んだ。
 幸い艦長は落ちた場所にいた。ジタバタ平泳ぎして激流に逆らい留まっていた。お陰で救助は容易かった。
 しかも上流から流木だの車だの障害物がどんどん流れてくる。
 普通なら絶望的だが、私は違う。『武器』さえ使えばどれも即席の足場……30秒とかからず陸に戻った。

 ただ計算外だったのは、潜水艦の近くに敵がぞろぞろ現れ始めたコトだ。
 洪水を狙うだけあっていずれも水棲型。足ヒレが水溜りにベチャベチャ叩き付けられ不快な音を奏でた。
 侵入されたらおしまいだ。一刻も早く知らせなければ……焦る私をよそに潜水艦は潜り始めた。
 艦長曰く水中で平泳ぎしている間に出航命令を下していたという。女のコの回収ならびにハッチ閉鎖も。
 本当、有能なんだか無能なんだか。敵の侵入もなかったというから安心したが……危機がまた来た。

 敵が艦長の顔と能力を知っていたんだ。まぁ台風が来ればまるで祭りを追って北上するテキ屋のように連
日被災地に詰めてる人だ、敵に知れ渡らない方がおかしい。
 上陸するや何体かの敵が艦長めがけて飛んできた。何しろ殺せば潜水艦というエサの檻が壊れるからな。
 そうすれば水棲型どもが溺れる人たちを生きたまま喰らうのは目に見えている。
 そういう意味でこの瞬間、彼は大事な人だった。
 当然私は迎撃。飛び掛ってきた敵どもをブチ撒けるとすぐさま艦長の手をとり走り始めた。

 敵はおよそ60体。殲滅できない数ではないが雨の中の乱戦となると守るどころか逆に殺めかねない。
 私の武器はそういう物……避難するしかないだろう。敵は水棲型でもある。洪水区域で闘うのは得策ではない。

 300mは走っただろうか。私ひとりなら武器を使って高速移動できるのだが、艦長を連れている以上無茶はできない。雨で
視界が悪く強風が時おり思わぬ物体を飛ばしてくる環境下であちこち跳ねて回るのは危険すぎた。艦長が死ねば潜水艦
の人たちも死ぬ。だから手を繋ぎ走る他なかった。
 そうやって焦れている私に艦長が一言。

「お腹冷えた。トイレに行きたい」

 …………フザけるな!! 
 理屈としては分かる。洪水まっさかりの河に落ちたのだからな。腹部が冷えるのは仕方ない。
 だがココでいうか! 私だって敵をブチ撒けたいのを我慢してるんだ! 
 くそう。潜水艦への影響さえなければ殴れたものを。怒りをこらえ彼を窘める。再び走る。

 そこであの艦長よりにもよって転びやがって!

 少女か!! いやまあお年寄りだから足腰弱いのかも知れないが状況を考えろ! しっかり走れ! 逃げろ!!
 しかもそういう時に限って敵が来る! 前から後ろから左右からゾロゾロと!
 やきもきしていると艦長が私の肩に手を置いた。厳かな手つきだった。皺が刻まれ節くれだった手の感触に、沸騰しかけ
た私の心は落ち着いた。さすが年配の人……窘めるのが上手いなと感心していたら彼が一言。

「お腹冷えた。トイレに行きたい」

 まだ言うか! とりあえず1時間後仲間たちと合流して安全を確保したが二度と彼とは組みたくない。

「あらあら。びっくりするほどオーソドックス」
「悪かったな。こんなモノしか書けなくて」
 口に手を当て品よく驚く桜花に一抹の棘を感じたのか斗貴子は嫌そうな顔をした。

(というかコレ)
(斗貴子さんの実体験だよね。絶対)
 千里と沙織は内心気付いたが口には出さない。

「あ……取られました」
「取られたって何よ……」
 がっくりうなだれる毒島にヴィクトリアは呆れた。

「そういえば毒島もあのとき艦内に居たな。すまない。キミの居ない任務を選ぶべきだった」
(認めちゃって……ます)
(波乱に富んだ人生だ!!)
(つーか……眠い…………)

「おお! これはのっけから凄まじい迫真のリアル! 果てして優勝は誰の手に!?」
「優勝って何!? 競う奴なのコレ!?」
 沙織は仰天した。肩の輪郭が逆立った。
「ぐ。流石は斗貴子さん! けど優勝は渡さない!」
「なんでそんなノリノリなんだ!」
 意気込み戯画的な顔でむふうと鼻息を出すまひろに斗貴子は叫ぶほかない。

まひろ。

ぽてと「大変だ! 大雨で洪水だよ!」
かぼす「むぅ。大雨で洪水だなんて大変だね!」
ぽてと「避難しよう!」
かぼす「そうだよ! 避難は大事だよ! でもあの川の水おいしいよ!!」

ぽてと「わー。みんな避難してるね」
かぼす「みんな考えるコトは一緒だね。早起きすれば良かったよ」
えほん「来たな。遅れると思って整理券貰っておいたぜ」
ぽてと「ありがとう! 見ず知らずの人!」
かぼす「でも今は大変なときだよ。気持ちだけで十分! 私は順番を守る!!」



「え! 終わり!?」
 桜花は原稿を取り落とした。まひろはというと憔悴した様子でふぅーふぅー息をついている。
 目も全開で血走っている。よほど全力で書いたのだろう。斗貴子は思わず気圧された。
「いま私に描ける最高の作品よ! これなら斗貴子さんにも……」
「無理だと思う。絶対ムリだと思うまっぴー」

 沙織は顔をくしゃくしゃにして笑う。

「大雨という極限状態の中でも守られる人間の絆そして倫理! 短いながらも啓蒙に富んだ優しき作品!」
「小札さん。そこまで全力にならなくていいです。まひろたぶん何も考えず描いてます」

 千里も困惑気味だがまひろを見る目は優しい。

「思わぬ優勝候補ね」
「な!」
「ええ」
 ヴィクトリアに追従する毒島に斗貴子はただただ驚愕した。
 香美はというと鼻ちょうちんを収縮させている。それが弾けたのでビックリして起きてボンヤリ辺りを見回した。

「次は…………私…………です」
 鐶光、推参。