~クロマティー高校、グラウンド~
林田「…なんだこりゃ?」
~教室~
林田「なあなあ、神山、ちょっといいか?」
神山「やあ、林田君。どうしたんだい?」
林田「なんか不気味なノートを拾ったんだが……」
神山「どれどれ…ああ、これはあれだよ、最近流行っている漫画に出てくるノートだ」
林田「へえ、よく分かるな」
神山「そりゃ分かるよ。だって表にデカデカと『Death Note』って書いてある
じゃない」
林田「おお、それなら知ってるぞ。…それそうやって読むのか」
神山「…一応、高校生なんだからそれぐらいの単語は読めるようにしとこうよ」
林田「でも、『D』までは読めたぞ」
神山「それは読めたとは言わない。君は単語までたどり着いていないから。というより
Dより先は読めないのかい?」
林田「ところでさ、アルファベットってなんで『アルファ』っていうのにαが
ないんだろう」
神山「…君って、とことん人の話を聞かないよね。あと、君、本当にそんなこと
話題にしたくて喋ってる?」
林田「そもそもだな、アルファベットって英語で書くと『αβ』なワケだろ。αは
アロンアルファのαだからいいとして、βの『ベット』って何だ?チベットの略?
意味分からねえよ、アメリカ人って」
神山「…すまない。僕には君が何を言っているのかが全然分からない」
林田「いや、だからさ、『ド』はドーナツの『ド』だろ。で、『レ』はレモンの『レ』。
それと同じように、『α』はアルティメットファイトの『α』とかになるんじゃねえの?」
神山「なるんじゃねえの?と言われましても……」
林田「やっぱ覚えにくいよな、英語は。俺、これから先、外国でやっていく自信無いよ」
神山「いや、そんな心配は全然しなくてもしていいと思う。世界はまだまだ君の頭ほど
には混乱していないはずだから」
林田「そうか?ま、そんなことはどうでもいいんだけどさ、」
神山「(…やっぱりどうでもよかったのか)」
林田「なあなあ、神山、このノートって本物なのかな?」
神山「う~ん、外見はマンガに出てくるのにそっくりだけど…」
林田「試しに誰かの名前でも書いてみるか?」
神山「う~ん、それはちょっと不謹慎では…」
林田「大丈夫だよ、所詮、マンガの話なんだし」
神山「まあ、それはそうだよね。もし、本物でも不良が一人死んだぐらいじゃ、世間的には
何の問題も無いし。ま、とりあえず無難なとこで北斗の子分君でいってみようか」
林田「…お前、結構酷いよな。しかし、俺は奴の名前を知らないぞ。デスノートって
本当の名前を書かないと効果ないんだろ?」
神山「え、『北斗の子分』でいいんじゃない?」
林田「お前、本当にそれでいいと思っているのか?『北斗の子分』と書いて、それで
マジに通用してしまったら奴の立場はどうなる?」
神山「…ある意味、彼の生死よりもそっちの方が注目に値するよね」
林田「それにさ、いくら不良でも人を書いてしまうってのは人道的にまずいんじゃないか?
手始めにはゴリラ辺りが丁度良いと俺は思うんだが」
神山「う~ん、それはそれで心が痛むなあ」
林田「人よりはマシだろ。ゴリラと言ったって所詮、人間より頭の悪い
ケダモノなんだしさ」
神山「…確かにそうなんだけど、君がそれを言っちゃうと色々と問題が発生するような
気がする。ねえ、やっぱり止めとこうよ。ゴリラって今は凄く数が減っているみたいだし、
可哀想だよ。大体、命の重さに人も動物もないはずだ」
林田「フッ、命の重さに上下は無い、か…。いいこと言うじゃねえか、神山。ゴリラはうちの
高校内部では着実に増えているが、全くその通りだぜ。…あと、ちょっと気になったんだが、
ひょっとして、お前の中で北斗の子分ってゴリラ以下か?」
神山「林田君、そんなことより問題はこのノートに誰の名前を書くかということだよ」
林田「お、おお、そうか。しかし、人でも駄目、動物でも駄目となると、残るは………」
神山、林田「………!!」
林田「…今、俺らは同じことを考えていたよな」
神山「な、何のことだい、林田君」
林田「隠さなくてもいい。ただ、問題は奴の名前が本当の名前かどうかなのだが…」
神山「ぶっちゃけ、適当に英数字書き殴ったほうがそれっぽいよね。RX-78とか」
林田「確かに。しかし、仮に名前が分かったとしても、彼らのシリーズ全部が停止して
しまったら緊急事態になりかねんな。ちょっとした2000年問題に匹敵しそうだ」
神山「林田君、いくらなんでも『彼らのシリーズ』とか『停止』はまずいよ。
メカ沢君は世界に一台だけのはずだし、彼が機械と決まった訳じゃないんだから」
林田「全てを語ってしまっているような気もするが、確かにそうだな」
神山「でも、他に名前を書けそうな人もいないし…」
林田「…やるか」
神山「…うん。新世界の王とかはどうでもいいけど、彼が人かそうでないか
分かるのならやる価値はあると思う」
林田「…よし、じゃあ書くぞ。メ・カ・沢・新・一、と。どうだ、何か変化はあったか?」
神山「う~ん、流石にそんなに早くは…」
不良「た、大変だ~!!」
神山「え、どうかしたの?」
不良「早く、早く来てくれ。メ、メカ沢が倒れた!」
神山、林田「な、何だってー!!」
不良「こっちだ!」
林田「ほ、本当だ…本当にメカ沢が倒れてやがる…」
不良「さっきまではいつもと同じ様子だったんだ。それが急に…」
神山「容態の方はどうなの?」
不良「…かなりヤバイ」
林田「(…オ、オイ、神山、どうやらあのノートは本物だったみたいだぞ)」
神山「(うん、そ、そうだね。遊び半分でやっていたのが大変なことになってしまった…)」
不良「なにしろ、呼吸が止まっているんだ。これはマズイだろう」
神山、林田「………え、それだけ?」
不良「『それだけ?』とは何だ!脈拍もないんだぞ!」
林田「呼吸、脈拍より先に心臓が存在していることすら怪しいと思うのだが…」
不良「何だと、林田!!」
神山「(林田君、話をこじらせちゃ駄目だ!)ああ、ごめん、あまりの事態に彼も
気が動転していたみたいだ。それで他にモーター以外の故障、いや危険な症状は無いの?」
不良「俺も医者じゃないから、よく分からないが、体も冷え切って、まるで鉄にでも
触っているみたいだ…一体どうすりゃいいんだ!?」
神山「いや、彼の場合、熱を持っている方がヤバイのではないかと」
不良「おお、神山、ひょっとして詳しいのか?」
神山「まあ、家にも一台あるし」
良「それじゃ、教えてくれ。メカ沢の体全体がカチコチに固まっているんだ。
これって、もしかしたら死後硬直って奴じゃないのか?よく見れば、顔色も鉛色、
瞳孔も開きっ放しだ。クソ、これじゃ、まるでロボットじゃないか!」
神山、林田「(それはギャグで言っているのか!?)」
不良「なあ、神山、医者を呼んだ方がいいのかな?注射とかしてもらわないと
これじゃもちそうにないぞ」
神山「いや、注射は意味ないんじゃないかな。第一、彼に針が通るとは思えないし。
ドリルならまだしも」
不良「ああ、そういえば、メカ沢も言っていたな。『俺は静脈が細いから針が通ら
なくて苦労する』って」
神山、林田「(そういうことを言っているんじゃない!)」
神山「まあ、医者を呼ぶにしても、修理屋さんを呼ぶにしてもとりあえず
医務室に運んだ方が良いと思うよ」
不良「大丈夫なのか?重体の患者は動かさない方が良いって言うが」
神山「問題ないでしょ。むしろ中古の機械は叩いてあげた方が直りそうな気がする」
不良「そ、そうか。よし、それなら早速、皆で医務室まで運ぼう!神山、林田、
手伝ってくれ!」
林田「オウ、まかせろ!………グッ、何だ!?」
神山「ゴフッ…なんか車並みに重いんですけど…」
不良「あれだ、気絶した人間の体は凄く重く感じるって奴だな」
神山、林田「(お前らは本当にそれだけで納得できるのか!?)」
~医務室~
神山「フゥ、フレディとゴリラのおかげでなんとか医務室まで運べたね」
林田「どう考えても、これ、1トンはあったぞ」
神山「まあ、そんなことよりこれからどうするかだ」
林田「俺には皆目見当もつかん」
神山「そりゃ、そうだよね。大体、あのノートの効果もメカ沢君じゃ、
確認しようがなかったわけだし」
林田「もう面倒臭いから放って置こうぜ」
神山「でも、メカ沢君はどうするの?」
林田「おおかた電池が切れたんだろ。そうでなくても、そのうち山田電気辺りで
別のが安く買えるよ」
神山「き、君って人は…」
林田「そうと決まれば、こんなノートなんか捨てちまおう。はい、おしまいおしまい」
北斗の子分「捨てるんだったら俺にくれよ」
林田「ああ、いいぜ。ほらよ」
神山「あ…君は!」
北斗の子分「フフフ、良いものを手に入れた。名前を書けば人を殺せるノート…、
まさしく俺にうってつけじゃねえか。このノートさえあれば、今まで日陰者だった
俺が北斗さんを超えて、クロマティー高校、いや、全世界の王となることも
決して夢じゃねえ」
林田「クソ、なんて奴にノートが渡っちまったんだ!誰のせいだ!」
神山「大方の責任は君にあると思うよ、林田君」
林田「神山、今は責任を押しつけ合っている場合じゃねえ!おい、返せ!」
北斗の子分「おっと、近寄るなよ。ノートに名前を書くぞ、林田」
林田「ウッ…」
神山「駄目だ、林田君。ノートが彼の手にある以上、うかつな動きは出来ない」
林田「じゃあ、奴をこのまま放っておけと言うのかよ!クソ、せめて奴の
名前さえ分かれば…」
神山「うん、名前さえ分かれば、なんとか打つ手もあるかもしれないね。でも、
彼の名前が簡単に判明するわけないし…」
林田「あ~、知りてぇ、北斗の子分の名前が知りてぇよ~」
北斗の子分「………あ~、ゴホン。お前ら、何だったら名前のヒントぐらいは
教えてやってもいいんだぞ」
神山、林田「いや、そういうのは別にいいよ」
北斗の子分「なんでだよ!話の流れからいっておかしいだろ!」
林田「え~、だって興味無いし」
北斗の子分「なんだそりゃ!さっきまで俺の名前が知りたいって言ってた
じゃねえか!」
林田「さっきはさっきだ。今はもう興味無いんだよ」
神山「正直、『名前を教えてやる』って態度が見えた瞬間、『死んでも聞いてやるか』
って気持ちにはなったよね」
北斗の子分「お前らって、マジで酷いよな…」
林田「とにかく、俺の人生にとってお前の名前なんか堺正章の隠し芸並みに
どうでもいいんだ。ノートはくれてやるからさっさと去れ!」
北斗の子分「…な、なんでそこまで言われなくちゃならないんだ。よし、こう
なったら俺も意地だ。今、名前を教えてやるから耳をかっぽじって聞きやがれ!」
林田「神山、耳をふさげ!奴の名前を聞いたら死ぬぞ!」
神山「林田君、勝手に面白そうなルール作っちゃ駄目だよ。ホラ、彼があそこまで
本気になっているのだから、人として名前ぐらいは聞いてあげなくちゃ」
北斗の子分「…神山、お前だけだな、本当に俺のことを理解してくれているのは」
神山「何を言っているんだ、友達として当然のことじゃないか」
北斗の子分「グスッ。そ、そうか。じゃあ、遠慮無く言わせてもらうぜ。俺の
名前は…」
神山「ちょっと待った、北斗の子分君!」
北斗の子分「どうした?神山」
神山「せっかく自分の名前を世に知らしめるのだから、もっとちゃんとした形で
やってみてはどうだい?」
北斗の子分「と、言うと?」
神山「例えば、テレビでやっていた平成の元号みたく、ちゃんと紙に書いて発表
するとか。大体、聞いただけじゃ、漢字が分からないしね」
北斗の子分「なるほど。流石、気配りの男、神山だぜ。え~と、ペンはあるけど、
紙は何処に…」
林田「ホラ、この紙に書けよ」
北斗の子分「は、林田…」
林田「忘れてくれるなよ、俺だってお前のダチなんだぜ」
北斗の子分「ク、泣かせてくれるじゃねえか」
林田「ほら、どうした。グズグズしていると涙で湿っちまうぜ。さっさと書いちまえ」
北斗の子分「へ、へへ、済まないな…よし、書けたぜ!神山、林田、見てく………う、
どうしたっていうんだ、な、名前を書いた途端、き、急に意識が…」
神山「ほ、北斗の子分君!」
北斗の子分「は、林田、ひょっとしてお前の渡してくれた紙って…」
林田「あ、え~と、そこのノートから取った奴だけど」
北斗の子分「お前、それってデスノートじゃ…グフッ!」
神山「き、君はなんてことを…」
林田「すまん、北斗の子分!」
北斗の子分「ハァ、ハァ、いや、いいんだ、林田。ひょっとしたら、これも運命って奴
なのかもしれん。おそらく、身分不相応な野望を持ったとき、俺の運は既に尽きていたの
だろう…。ただ、最後に俺の頼みを一つ、たった一つだけ聞いてくれないか?」
林田「もちろんだ。お前の名前以外だったら何でも聞いてやる!」
北斗の子分「…なっ!?」
神山「そうだよ、何でも遠慮無く言ってよ。君の名前以外なら!!」
北斗の子分「て、てめえら…ガク」
・
・
・
林田「…逝っちまったか。最後の最後まで名前に拘りぬいた漢だったな」
神山「うん…古の言葉に『侍は己の名のために命を懸ける』とあるけど、彼こそが
真の侍、ラストサムライだったんだろうね」
林田「『名こそ惜しけれ』か…」
神山「ネットで匿名の誹謗中傷が蔓延る現代。ひょっとしたら、デスノートは己の名に
誇りを持たなくなった日本人に警鐘を鳴らすべく、この世に現れたのかもしれない…」
林田「うむ。しかし、強引にまとめてくれたところを悪いんだが、どうする、この
ノート?」
神山「考えてみたんだけど、やっぱりこんなノートは僕達には必要無いよ。ゴルゴ13じゃ
あるまいし、普通の人間がこんなノートを持っても不幸になるだけだ。北斗の子分君の
死は僕らにそのことを教えてくれたんじゃないかな」
林田「うむ、そうだな。奴の不幸は全く別の所に原因があるにしても」
神山「うん、それでね、このノートはクロ校で一番信頼出来る生徒に預けておこう
と思うのだけど、林田君もそれで異存はないよね?」
林田「おお、もちろんだ。しかし、クロ校で一番信頼できる生徒って誰だ?竹之内?」
神山「ううん、ゴリラ」
林田「…いくらなんでもそれはないんじゃないか?いくら俺らが馬鹿でもゴリラ
より信頼が置けないってことはないだろ」
神山「何、言ってんの。この高校に本当に信頼できる人間なんているワケないじゃない。
大体、君達が今まで何かの役に立ったことって一度でもある?」
林田「いや、ないけど…すいません、ゴリラでいいです」
神山「でしょ?ま、しかし、これで、ようやく一件落着だよね」
林田「ああ。何が落着したんだって気がしないでもないが、これでようやく家に
帰れるぜ」
神山「大丈夫だよ。一月も経てば、学校も元通りに落ち着くさ…って、
林田君、二時間目でもう帰るの?」
~1ヶ月後~
林田「お、校門の所にパトカーが来てるぞ」
神山「どうしたんだろう?」
捜査官「生徒の皆さん、今日未明、クロマティー高校内部にキラが潜伏していることが
判明しました。キラの手がかりは『バナナ好き』。『バナナ好き』に心当りがある人は
本部までご連絡下さい」
神山「…バナナ以外に手がかりはないのかな。しかし、『バナナ好き』って、
もしかしたら…」
林田「とにかく、教室まで行ってみようぜ!」
神山「うん!」
~教室~
ゴリラ「ウホウホウホ!!」(我はキラなり!!恐れ、そして称えよ!!)」
神山、林田「(あ、やっぱり!?)」
林田「おい、全然、落ち着いていないじゃねえか!どうすんだよ、これ!」
神山「確かに、エラいことになってしまった…、そ、そういえば他にもゴリラは
いたよね、彼らは!?」
ゴリラ(+リボン)「ウホウホウホ☆(キラ、大スキ☆)」
ゴリラ(+メガネ)「ウホ、ウホ、ウホ…(削除、削除、削除…)」
神山、林田「(なんかキャラ分けてる!?)」
林田「う~む、どうにも収拾がつかなくなってきてるんだが、どう動く、神山?」
神山「とりあえず、他の皆と合流して、なんとかこの事態に対処しなくちゃ…
大丈夫だよね、皆は洗脳なんかされたりしてないよね?」
林田「おい、おい、不良を馬鹿にしちゃいけねえぜ。どいつもこいつも癖者ぞろい。
ゴリラごときに支配などされんよ」
神山「だといいけど…、あ、いたよ。みんなだ!おーい…」
不良「キラ!キラ!キラ!キラ!キラ!キラ!キラ!キラ!キラ!キラ!」
神山、林田「(猿の惑星と化している………)」
・
・
・
死神「ゴリラってオモシロ!」(←オチ)
林田「…なんだこりゃ?」
~教室~
林田「なあなあ、神山、ちょっといいか?」
神山「やあ、林田君。どうしたんだい?」
林田「なんか不気味なノートを拾ったんだが……」
神山「どれどれ…ああ、これはあれだよ、最近流行っている漫画に出てくるノートだ」
林田「へえ、よく分かるな」
神山「そりゃ分かるよ。だって表にデカデカと『Death Note』って書いてある
じゃない」
林田「おお、それなら知ってるぞ。…それそうやって読むのか」
神山「…一応、高校生なんだからそれぐらいの単語は読めるようにしとこうよ」
林田「でも、『D』までは読めたぞ」
神山「それは読めたとは言わない。君は単語までたどり着いていないから。というより
Dより先は読めないのかい?」
林田「ところでさ、アルファベットってなんで『アルファ』っていうのにαが
ないんだろう」
神山「…君って、とことん人の話を聞かないよね。あと、君、本当にそんなこと
話題にしたくて喋ってる?」
林田「そもそもだな、アルファベットって英語で書くと『αβ』なワケだろ。αは
アロンアルファのαだからいいとして、βの『ベット』って何だ?チベットの略?
意味分からねえよ、アメリカ人って」
神山「…すまない。僕には君が何を言っているのかが全然分からない」
林田「いや、だからさ、『ド』はドーナツの『ド』だろ。で、『レ』はレモンの『レ』。
それと同じように、『α』はアルティメットファイトの『α』とかになるんじゃねえの?」
神山「なるんじゃねえの?と言われましても……」
林田「やっぱ覚えにくいよな、英語は。俺、これから先、外国でやっていく自信無いよ」
神山「いや、そんな心配は全然しなくてもしていいと思う。世界はまだまだ君の頭ほど
には混乱していないはずだから」
林田「そうか?ま、そんなことはどうでもいいんだけどさ、」
神山「(…やっぱりどうでもよかったのか)」
林田「なあなあ、神山、このノートって本物なのかな?」
神山「う~ん、外見はマンガに出てくるのにそっくりだけど…」
林田「試しに誰かの名前でも書いてみるか?」
神山「う~ん、それはちょっと不謹慎では…」
林田「大丈夫だよ、所詮、マンガの話なんだし」
神山「まあ、それはそうだよね。もし、本物でも不良が一人死んだぐらいじゃ、世間的には
何の問題も無いし。ま、とりあえず無難なとこで北斗の子分君でいってみようか」
林田「…お前、結構酷いよな。しかし、俺は奴の名前を知らないぞ。デスノートって
本当の名前を書かないと効果ないんだろ?」
神山「え、『北斗の子分』でいいんじゃない?」
林田「お前、本当にそれでいいと思っているのか?『北斗の子分』と書いて、それで
マジに通用してしまったら奴の立場はどうなる?」
神山「…ある意味、彼の生死よりもそっちの方が注目に値するよね」
林田「それにさ、いくら不良でも人を書いてしまうってのは人道的にまずいんじゃないか?
手始めにはゴリラ辺りが丁度良いと俺は思うんだが」
神山「う~ん、それはそれで心が痛むなあ」
林田「人よりはマシだろ。ゴリラと言ったって所詮、人間より頭の悪い
ケダモノなんだしさ」
神山「…確かにそうなんだけど、君がそれを言っちゃうと色々と問題が発生するような
気がする。ねえ、やっぱり止めとこうよ。ゴリラって今は凄く数が減っているみたいだし、
可哀想だよ。大体、命の重さに人も動物もないはずだ」
林田「フッ、命の重さに上下は無い、か…。いいこと言うじゃねえか、神山。ゴリラはうちの
高校内部では着実に増えているが、全くその通りだぜ。…あと、ちょっと気になったんだが、
ひょっとして、お前の中で北斗の子分ってゴリラ以下か?」
神山「林田君、そんなことより問題はこのノートに誰の名前を書くかということだよ」
林田「お、おお、そうか。しかし、人でも駄目、動物でも駄目となると、残るは………」
神山、林田「………!!」
林田「…今、俺らは同じことを考えていたよな」
神山「な、何のことだい、林田君」
林田「隠さなくてもいい。ただ、問題は奴の名前が本当の名前かどうかなのだが…」
神山「ぶっちゃけ、適当に英数字書き殴ったほうがそれっぽいよね。RX-78とか」
林田「確かに。しかし、仮に名前が分かったとしても、彼らのシリーズ全部が停止して
しまったら緊急事態になりかねんな。ちょっとした2000年問題に匹敵しそうだ」
神山「林田君、いくらなんでも『彼らのシリーズ』とか『停止』はまずいよ。
メカ沢君は世界に一台だけのはずだし、彼が機械と決まった訳じゃないんだから」
林田「全てを語ってしまっているような気もするが、確かにそうだな」
神山「でも、他に名前を書けそうな人もいないし…」
林田「…やるか」
神山「…うん。新世界の王とかはどうでもいいけど、彼が人かそうでないか
分かるのならやる価値はあると思う」
林田「…よし、じゃあ書くぞ。メ・カ・沢・新・一、と。どうだ、何か変化はあったか?」
神山「う~ん、流石にそんなに早くは…」
不良「た、大変だ~!!」
神山「え、どうかしたの?」
不良「早く、早く来てくれ。メ、メカ沢が倒れた!」
神山、林田「な、何だってー!!」
不良「こっちだ!」
林田「ほ、本当だ…本当にメカ沢が倒れてやがる…」
不良「さっきまではいつもと同じ様子だったんだ。それが急に…」
神山「容態の方はどうなの?」
不良「…かなりヤバイ」
林田「(…オ、オイ、神山、どうやらあのノートは本物だったみたいだぞ)」
神山「(うん、そ、そうだね。遊び半分でやっていたのが大変なことになってしまった…)」
不良「なにしろ、呼吸が止まっているんだ。これはマズイだろう」
神山、林田「………え、それだけ?」
不良「『それだけ?』とは何だ!脈拍もないんだぞ!」
林田「呼吸、脈拍より先に心臓が存在していることすら怪しいと思うのだが…」
不良「何だと、林田!!」
神山「(林田君、話をこじらせちゃ駄目だ!)ああ、ごめん、あまりの事態に彼も
気が動転していたみたいだ。それで他にモーター以外の故障、いや危険な症状は無いの?」
不良「俺も医者じゃないから、よく分からないが、体も冷え切って、まるで鉄にでも
触っているみたいだ…一体どうすりゃいいんだ!?」
神山「いや、彼の場合、熱を持っている方がヤバイのではないかと」
不良「おお、神山、ひょっとして詳しいのか?」
神山「まあ、家にも一台あるし」
良「それじゃ、教えてくれ。メカ沢の体全体がカチコチに固まっているんだ。
これって、もしかしたら死後硬直って奴じゃないのか?よく見れば、顔色も鉛色、
瞳孔も開きっ放しだ。クソ、これじゃ、まるでロボットじゃないか!」
神山、林田「(それはギャグで言っているのか!?)」
不良「なあ、神山、医者を呼んだ方がいいのかな?注射とかしてもらわないと
これじゃもちそうにないぞ」
神山「いや、注射は意味ないんじゃないかな。第一、彼に針が通るとは思えないし。
ドリルならまだしも」
不良「ああ、そういえば、メカ沢も言っていたな。『俺は静脈が細いから針が通ら
なくて苦労する』って」
神山、林田「(そういうことを言っているんじゃない!)」
神山「まあ、医者を呼ぶにしても、修理屋さんを呼ぶにしてもとりあえず
医務室に運んだ方が良いと思うよ」
不良「大丈夫なのか?重体の患者は動かさない方が良いって言うが」
神山「問題ないでしょ。むしろ中古の機械は叩いてあげた方が直りそうな気がする」
不良「そ、そうか。よし、それなら早速、皆で医務室まで運ぼう!神山、林田、
手伝ってくれ!」
林田「オウ、まかせろ!………グッ、何だ!?」
神山「ゴフッ…なんか車並みに重いんですけど…」
不良「あれだ、気絶した人間の体は凄く重く感じるって奴だな」
神山、林田「(お前らは本当にそれだけで納得できるのか!?)」
~医務室~
神山「フゥ、フレディとゴリラのおかげでなんとか医務室まで運べたね」
林田「どう考えても、これ、1トンはあったぞ」
神山「まあ、そんなことよりこれからどうするかだ」
林田「俺には皆目見当もつかん」
神山「そりゃ、そうだよね。大体、あのノートの効果もメカ沢君じゃ、
確認しようがなかったわけだし」
林田「もう面倒臭いから放って置こうぜ」
神山「でも、メカ沢君はどうするの?」
林田「おおかた電池が切れたんだろ。そうでなくても、そのうち山田電気辺りで
別のが安く買えるよ」
神山「き、君って人は…」
林田「そうと決まれば、こんなノートなんか捨てちまおう。はい、おしまいおしまい」
北斗の子分「捨てるんだったら俺にくれよ」
林田「ああ、いいぜ。ほらよ」
神山「あ…君は!」
北斗の子分「フフフ、良いものを手に入れた。名前を書けば人を殺せるノート…、
まさしく俺にうってつけじゃねえか。このノートさえあれば、今まで日陰者だった
俺が北斗さんを超えて、クロマティー高校、いや、全世界の王となることも
決して夢じゃねえ」
林田「クソ、なんて奴にノートが渡っちまったんだ!誰のせいだ!」
神山「大方の責任は君にあると思うよ、林田君」
林田「神山、今は責任を押しつけ合っている場合じゃねえ!おい、返せ!」
北斗の子分「おっと、近寄るなよ。ノートに名前を書くぞ、林田」
林田「ウッ…」
神山「駄目だ、林田君。ノートが彼の手にある以上、うかつな動きは出来ない」
林田「じゃあ、奴をこのまま放っておけと言うのかよ!クソ、せめて奴の
名前さえ分かれば…」
神山「うん、名前さえ分かれば、なんとか打つ手もあるかもしれないね。でも、
彼の名前が簡単に判明するわけないし…」
林田「あ~、知りてぇ、北斗の子分の名前が知りてぇよ~」
北斗の子分「………あ~、ゴホン。お前ら、何だったら名前のヒントぐらいは
教えてやってもいいんだぞ」
神山、林田「いや、そういうのは別にいいよ」
北斗の子分「なんでだよ!話の流れからいっておかしいだろ!」
林田「え~、だって興味無いし」
北斗の子分「なんだそりゃ!さっきまで俺の名前が知りたいって言ってた
じゃねえか!」
林田「さっきはさっきだ。今はもう興味無いんだよ」
神山「正直、『名前を教えてやる』って態度が見えた瞬間、『死んでも聞いてやるか』
って気持ちにはなったよね」
北斗の子分「お前らって、マジで酷いよな…」
林田「とにかく、俺の人生にとってお前の名前なんか堺正章の隠し芸並みに
どうでもいいんだ。ノートはくれてやるからさっさと去れ!」
北斗の子分「…な、なんでそこまで言われなくちゃならないんだ。よし、こう
なったら俺も意地だ。今、名前を教えてやるから耳をかっぽじって聞きやがれ!」
林田「神山、耳をふさげ!奴の名前を聞いたら死ぬぞ!」
神山「林田君、勝手に面白そうなルール作っちゃ駄目だよ。ホラ、彼があそこまで
本気になっているのだから、人として名前ぐらいは聞いてあげなくちゃ」
北斗の子分「…神山、お前だけだな、本当に俺のことを理解してくれているのは」
神山「何を言っているんだ、友達として当然のことじゃないか」
北斗の子分「グスッ。そ、そうか。じゃあ、遠慮無く言わせてもらうぜ。俺の
名前は…」
神山「ちょっと待った、北斗の子分君!」
北斗の子分「どうした?神山」
神山「せっかく自分の名前を世に知らしめるのだから、もっとちゃんとした形で
やってみてはどうだい?」
北斗の子分「と、言うと?」
神山「例えば、テレビでやっていた平成の元号みたく、ちゃんと紙に書いて発表
するとか。大体、聞いただけじゃ、漢字が分からないしね」
北斗の子分「なるほど。流石、気配りの男、神山だぜ。え~と、ペンはあるけど、
紙は何処に…」
林田「ホラ、この紙に書けよ」
北斗の子分「は、林田…」
林田「忘れてくれるなよ、俺だってお前のダチなんだぜ」
北斗の子分「ク、泣かせてくれるじゃねえか」
林田「ほら、どうした。グズグズしていると涙で湿っちまうぜ。さっさと書いちまえ」
北斗の子分「へ、へへ、済まないな…よし、書けたぜ!神山、林田、見てく………う、
どうしたっていうんだ、な、名前を書いた途端、き、急に意識が…」
神山「ほ、北斗の子分君!」
北斗の子分「は、林田、ひょっとしてお前の渡してくれた紙って…」
林田「あ、え~と、そこのノートから取った奴だけど」
北斗の子分「お前、それってデスノートじゃ…グフッ!」
神山「き、君はなんてことを…」
林田「すまん、北斗の子分!」
北斗の子分「ハァ、ハァ、いや、いいんだ、林田。ひょっとしたら、これも運命って奴
なのかもしれん。おそらく、身分不相応な野望を持ったとき、俺の運は既に尽きていたの
だろう…。ただ、最後に俺の頼みを一つ、たった一つだけ聞いてくれないか?」
林田「もちろんだ。お前の名前以外だったら何でも聞いてやる!」
北斗の子分「…なっ!?」
神山「そうだよ、何でも遠慮無く言ってよ。君の名前以外なら!!」
北斗の子分「て、てめえら…ガク」
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林田「…逝っちまったか。最後の最後まで名前に拘りぬいた漢だったな」
神山「うん…古の言葉に『侍は己の名のために命を懸ける』とあるけど、彼こそが
真の侍、ラストサムライだったんだろうね」
林田「『名こそ惜しけれ』か…」
神山「ネットで匿名の誹謗中傷が蔓延る現代。ひょっとしたら、デスノートは己の名に
誇りを持たなくなった日本人に警鐘を鳴らすべく、この世に現れたのかもしれない…」
林田「うむ。しかし、強引にまとめてくれたところを悪いんだが、どうする、この
ノート?」
神山「考えてみたんだけど、やっぱりこんなノートは僕達には必要無いよ。ゴルゴ13じゃ
あるまいし、普通の人間がこんなノートを持っても不幸になるだけだ。北斗の子分君の
死は僕らにそのことを教えてくれたんじゃないかな」
林田「うむ、そうだな。奴の不幸は全く別の所に原因があるにしても」
神山「うん、それでね、このノートはクロ校で一番信頼出来る生徒に預けておこう
と思うのだけど、林田君もそれで異存はないよね?」
林田「おお、もちろんだ。しかし、クロ校で一番信頼できる生徒って誰だ?竹之内?」
神山「ううん、ゴリラ」
林田「…いくらなんでもそれはないんじゃないか?いくら俺らが馬鹿でもゴリラ
より信頼が置けないってことはないだろ」
神山「何、言ってんの。この高校に本当に信頼できる人間なんているワケないじゃない。
大体、君達が今まで何かの役に立ったことって一度でもある?」
林田「いや、ないけど…すいません、ゴリラでいいです」
神山「でしょ?ま、しかし、これで、ようやく一件落着だよね」
林田「ああ。何が落着したんだって気がしないでもないが、これでようやく家に
帰れるぜ」
神山「大丈夫だよ。一月も経てば、学校も元通りに落ち着くさ…って、
林田君、二時間目でもう帰るの?」
~1ヶ月後~
林田「お、校門の所にパトカーが来てるぞ」
神山「どうしたんだろう?」
捜査官「生徒の皆さん、今日未明、クロマティー高校内部にキラが潜伏していることが
判明しました。キラの手がかりは『バナナ好き』。『バナナ好き』に心当りがある人は
本部までご連絡下さい」
神山「…バナナ以外に手がかりはないのかな。しかし、『バナナ好き』って、
もしかしたら…」
林田「とにかく、教室まで行ってみようぜ!」
神山「うん!」
~教室~
ゴリラ「ウホウホウホ!!」(我はキラなり!!恐れ、そして称えよ!!)」
神山、林田「(あ、やっぱり!?)」
林田「おい、全然、落ち着いていないじゃねえか!どうすんだよ、これ!」
神山「確かに、エラいことになってしまった…、そ、そういえば他にもゴリラは
いたよね、彼らは!?」
ゴリラ(+リボン)「ウホウホウホ☆(キラ、大スキ☆)」
ゴリラ(+メガネ)「ウホ、ウホ、ウホ…(削除、削除、削除…)」
神山、林田「(なんかキャラ分けてる!?)」
林田「う~む、どうにも収拾がつかなくなってきてるんだが、どう動く、神山?」
神山「とりあえず、他の皆と合流して、なんとかこの事態に対処しなくちゃ…
大丈夫だよね、皆は洗脳なんかされたりしてないよね?」
林田「おい、おい、不良を馬鹿にしちゃいけねえぜ。どいつもこいつも癖者ぞろい。
ゴリラごときに支配などされんよ」
神山「だといいけど…、あ、いたよ。みんなだ!おーい…」
不良「キラ!キラ!キラ!キラ!キラ!キラ!キラ!キラ!キラ!キラ!」
神山、林田「(猿の惑星と化している………)」
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死神「ゴリラってオモシロ!」(←オチ)