――東京都 某所――
一人の男がバーで酒を飲んでいた。
ウィスキーをロックで割っている。
ジャズが鳴り豆電球がメインの店内はちょっと地味な雰囲気だ。
男の名は立脇如水。
スラックスに革ジャンという出で立ちである。
暇を潰す為に酒をチビチビやりながら考えていた事があった。
今の自分の肩書きは北辰館の日本チャンプ。
今度の大会で防衛をする事になる立場。
北辰館にいる人間の中で自分は中堅以上の強さを持っている。
だがそれだけでは満足できないのだ。
「空手」という枠組みからはみ出ても強い。
そういう人間こそが「チャンプ」と名乗れるのだろう。
勘定を払って店から道に出た。
先日、鞍馬彦一というFAWのレスラーに野試合を挑み勝利した。
以前に不意打ちでダウンした仕返しだったが。
鞍馬との野試合後振り返ってみると彼は関節技を一切使っていなかったのだ。
こちらが運良く勝てていただけなのだ。
互いに全力を出し合って勝ったのでは無い。
もしあの時彼が関節技を仕掛けて来たならば勝敗はどうなっていたんだろうか。
立脇は自分の中に黒い何かが溜まるのを感じていた。
夜の道は暗い。
街灯が無ければ足元すら見えないぐらいに。
路地裏ともなれば目が闇に慣れるまで時間がかかる程である。
風が冷たく立脇の顔を撫でた。
肌寒いくらいが丁度いい。
車や機械の音以外はあまり無い静かな路地裏だった。
そんな中ギシャンと音がした。
まるでロボットの関節が動く時の様な音。
立脇は振り返った。
音の主はそこにいた。
顔が尖っていて胸の部分に逆三角形のマークが描かれているフォルムのボディ。
「ニョスイ=タテワキだね?」
「何故俺の名前を知っているんだ?」
立脇は戦慄した。
相手が何者であるかわからないが関与したらロクな事にならないであろう臭いがするのだ。
「用があってね」
「へぇ」
音の主のフォルムが近づいてくる。
歩いているのでも駆けているのでも無い。
浮かんでいるのだ。
フワリとしたモーションで近づいてくるのだ。
「驚いたかい?」
「ああ」
立脇が一歩後ずさる。
警戒もあるが相手の動きが不気味なのもあった。
殺気が無い。
仮に攻撃をしようとしてるならば普通は何かしら雰囲気の様なものがある
殺気を纏っているのと同じである。
が、こいつにはそれが無い。
「一緒に来てもらうよ」
「何の為にだ」
「君の技術を買って…という所かね」
音の主が立脇の両脇を掴んで持ち上げる
「離せッ!」
「嫌だね」
二人の人影はそのまま浮上すると地上から夜空へと消えていった。
丁度満月の夜だった。
人影が月光に照らされるとそれはまるで映画のE.T.の様にも見受けられた。
一人の男がバーで酒を飲んでいた。
ウィスキーをロックで割っている。
ジャズが鳴り豆電球がメインの店内はちょっと地味な雰囲気だ。
男の名は立脇如水。
スラックスに革ジャンという出で立ちである。
暇を潰す為に酒をチビチビやりながら考えていた事があった。
今の自分の肩書きは北辰館の日本チャンプ。
今度の大会で防衛をする事になる立場。
北辰館にいる人間の中で自分は中堅以上の強さを持っている。
だがそれだけでは満足できないのだ。
「空手」という枠組みからはみ出ても強い。
そういう人間こそが「チャンプ」と名乗れるのだろう。
勘定を払って店から道に出た。
先日、鞍馬彦一というFAWのレスラーに野試合を挑み勝利した。
以前に不意打ちでダウンした仕返しだったが。
鞍馬との野試合後振り返ってみると彼は関節技を一切使っていなかったのだ。
こちらが運良く勝てていただけなのだ。
互いに全力を出し合って勝ったのでは無い。
もしあの時彼が関節技を仕掛けて来たならば勝敗はどうなっていたんだろうか。
立脇は自分の中に黒い何かが溜まるのを感じていた。
夜の道は暗い。
街灯が無ければ足元すら見えないぐらいに。
路地裏ともなれば目が闇に慣れるまで時間がかかる程である。
風が冷たく立脇の顔を撫でた。
肌寒いくらいが丁度いい。
車や機械の音以外はあまり無い静かな路地裏だった。
そんな中ギシャンと音がした。
まるでロボットの関節が動く時の様な音。
立脇は振り返った。
音の主はそこにいた。
顔が尖っていて胸の部分に逆三角形のマークが描かれているフォルムのボディ。
「ニョスイ=タテワキだね?」
「何故俺の名前を知っているんだ?」
立脇は戦慄した。
相手が何者であるかわからないが関与したらロクな事にならないであろう臭いがするのだ。
「用があってね」
「へぇ」
音の主のフォルムが近づいてくる。
歩いているのでも駆けているのでも無い。
浮かんでいるのだ。
フワリとしたモーションで近づいてくるのだ。
「驚いたかい?」
「ああ」
立脇が一歩後ずさる。
警戒もあるが相手の動きが不気味なのもあった。
殺気が無い。
仮に攻撃をしようとしてるならば普通は何かしら雰囲気の様なものがある
殺気を纏っているのと同じである。
が、こいつにはそれが無い。
「一緒に来てもらうよ」
「何の為にだ」
「君の技術を買って…という所かね」
音の主が立脇の両脇を掴んで持ち上げる
「離せッ!」
「嫌だね」
二人の人影はそのまま浮上すると地上から夜空へと消えていった。
丁度満月の夜だった。
人影が月光に照らされるとそれはまるで映画のE.T.の様にも見受けられた。