米国大統領ジョージ・ボッシュ、来日。
政治にはまったく無縁なしけい荘にとっては、はっきりいってどうでもいいニュースで
ある。──ただ一人を除いては。
戦闘時にも劣らぬ真剣さで新聞に目をやるゲバルに、シコルスキーが声をかける。
「熱心に読んでるな。俺なんて日付くらいしか読まんぜ」
「せめてテレビ欄、最低でも四コマ漫画くらいは読んでくれ」
「ところでどの記事を読んでるんだ?」
「これさ」
ボッシュ来日の記事に、きょとんとするシコルスキー。この記事とゲバルの関係性を瞬
時に推測しかねた。
「これがどうしたんだ?」
「日本にいる間、奴の護衛を俺が任されることになった。準備や下調べのため、今日から
しばらく留守にすることになるが、よろしく頼む」
「へぇ~すごいじゃないか!」
「すごい? ……なにがだ?」
「護衛を任されたことがだよ。アメリカの大統領っていったら地球でイチバンっていって
もいいくらいだろ」
「……下らん男さ」
ボッシュについてそう切り捨てたゲバルの目には、普段の彼からは考えられぬほどの闇
が滲んでいた。
政治にはまったく無縁なしけい荘にとっては、はっきりいってどうでもいいニュースで
ある。──ただ一人を除いては。
戦闘時にも劣らぬ真剣さで新聞に目をやるゲバルに、シコルスキーが声をかける。
「熱心に読んでるな。俺なんて日付くらいしか読まんぜ」
「せめてテレビ欄、最低でも四コマ漫画くらいは読んでくれ」
「ところでどの記事を読んでるんだ?」
「これさ」
ボッシュ来日の記事に、きょとんとするシコルスキー。この記事とゲバルの関係性を瞬
時に推測しかねた。
「これがどうしたんだ?」
「日本にいる間、奴の護衛を俺が任されることになった。準備や下調べのため、今日から
しばらく留守にすることになるが、よろしく頼む」
「へぇ~すごいじゃないか!」
「すごい? ……なにがだ?」
「護衛を任されたことがだよ。アメリカの大統領っていったら地球でイチバンっていって
もいいくらいだろ」
「……下らん男さ」
ボッシュについてそう切り捨てたゲバルの目には、普段の彼からは考えられぬほどの闇
が滲んでいた。
一方、101号室。オリバのもとを、園田警視正が訪ねてきていた。
土下座。これは、園田の依頼内容の難易度の高さを端的に示していた。
「ミスターオリバ。犯罪者ハンターという領域からは外れてしまうかもしれないが、是非
ご協力頂きたいッ!」
「ふむ……大統領の護衛、ね」
くわえていた葉巻を唇から取り、膨大な量の紫煙を吐き出すオリバ。部屋一面が煙に覆
われ、むせ返る園田。
「ゲホッ、ゲホッ!」
「よかろう」
「──えっ!」
「引き受けよう。ただし条件がひとつある」
目を丸くする園田に、オリバは最高のスマイルを浴びせた。
「護衛は私個人ではなく、我々しけい荘にお任せして頂きたい」
土下座。これは、園田の依頼内容の難易度の高さを端的に示していた。
「ミスターオリバ。犯罪者ハンターという領域からは外れてしまうかもしれないが、是非
ご協力頂きたいッ!」
「ふむ……大統領の護衛、ね」
くわえていた葉巻を唇から取り、膨大な量の紫煙を吐き出すオリバ。部屋一面が煙に覆
われ、むせ返る園田。
「ゲホッ、ゲホッ!」
「よかろう」
「──えっ!」
「引き受けよう。ただし条件がひとつある」
目を丸くする園田に、オリバは最高のスマイルを浴びせた。
「護衛は私個人ではなく、我々しけい荘にお任せして頂きたい」
あずかり知らぬところでいつの間にやら、オリバの気まぐれで大統領護衛チームにされ
てしまった五人。
もちろん従う以外に道はない。背こうものなら、胸が陥没するか、五十メートルくらい
飛行するか、地面にうずまるか──いずれにせよろくな目に遭わない。
「いい修業になるかもしれん」と柳。
「一応母国のトップだし、守ってやるかな」とドリアン。
「大家さんにいわれたら、やるしかあるまい」とドイル。
「暇潰シニニハ丁度イイヤナ」とスペック。
「結局ゲバルと同じことをするはめになったな」とシコルスキー。
なぜ警察がわざわざオリバを頼ってきたか、説明を付け加えるオリバ。
「ボッシュは来日後、東京の徳川ホテルに宿泊することになるのだが、どうやらテロリス
ト集団から予告があったらしい」
「予告?」
「我々は手段を選ばない。地上に平等な愛をもたらすため、あらゆる人員を用いて必ずボ
ッシュを殺す、と」
冷酷なほど単刀直入な内容に、だれもが一瞬口を閉ざした。
「相当な武闘派らしい。おそらく当日、ホテルは戦場になるのではないかという見解もあ
る」
「……来日を取り止めた方がいいのでは?」
柳の真っ当な質問に、オリバも頷く。
「もちろん側近のだれもがそう提言した。が、ボッシュ本人が絶対に止めないといってい
るらしい。彼曰く、ここで退けば開拓精神の敗北だとかなんとか……」
呆れる面々。さすが自由の国のボスだけあって、なかなかのアンチェインのようだ。
かくして最凶のボディガード軍団が誕生した。
──舞台の開幕は十日後。
目標ができたことで、平和ボケしていたしけい荘一同に日本刀にも似た煌めきが戻り始
める。彼らの強さを腐らせぬためには、定期的に強敵をあてがわねばならないことを、オ
リバはよく知っていた。
「フフ、みんないい貌(かお)になりやがったぜ」
しかし此度の大戦争。まさか他ならぬオリバの予想をも超える事態が起ころうとは──。
てしまった五人。
もちろん従う以外に道はない。背こうものなら、胸が陥没するか、五十メートルくらい
飛行するか、地面にうずまるか──いずれにせよろくな目に遭わない。
「いい修業になるかもしれん」と柳。
「一応母国のトップだし、守ってやるかな」とドリアン。
「大家さんにいわれたら、やるしかあるまい」とドイル。
「暇潰シニニハ丁度イイヤナ」とスペック。
「結局ゲバルと同じことをするはめになったな」とシコルスキー。
なぜ警察がわざわざオリバを頼ってきたか、説明を付け加えるオリバ。
「ボッシュは来日後、東京の徳川ホテルに宿泊することになるのだが、どうやらテロリス
ト集団から予告があったらしい」
「予告?」
「我々は手段を選ばない。地上に平等な愛をもたらすため、あらゆる人員を用いて必ずボ
ッシュを殺す、と」
冷酷なほど単刀直入な内容に、だれもが一瞬口を閉ざした。
「相当な武闘派らしい。おそらく当日、ホテルは戦場になるのではないかという見解もあ
る」
「……来日を取り止めた方がいいのでは?」
柳の真っ当な質問に、オリバも頷く。
「もちろん側近のだれもがそう提言した。が、ボッシュ本人が絶対に止めないといってい
るらしい。彼曰く、ここで退けば開拓精神の敗北だとかなんとか……」
呆れる面々。さすが自由の国のボスだけあって、なかなかのアンチェインのようだ。
かくして最凶のボディガード軍団が誕生した。
──舞台の開幕は十日後。
目標ができたことで、平和ボケしていたしけい荘一同に日本刀にも似た煌めきが戻り始
める。彼らの強さを腐らせぬためには、定期的に強敵をあてがわねばならないことを、オ
リバはよく知っていた。
「フフ、みんないい貌(かお)になりやがったぜ」
しかし此度の大戦争。まさか他ならぬオリバの予想をも超える事態が起ころうとは──。