第九十四話「ラグナロク・中編」
彼らが飛ばされたのは、<終わった宇宙>だった。
かつてこの世界で勃発した、全銀河を巻き込んだ大戦乱―――その果てに待っていた結末。
全ての崩壊と、宇宙の終焉。
そんな、何もかもが無に帰した世界で蠢くものがあった。かつてこの宇宙に存在していた知的生命体からは<宇宙怪獣>
と呼ばれ、恐れられた怪物たちだ。
彼らは本能のままに破壊し、蹂躙し、そして食い尽くし、もはや邪魔者がいなくなった宇宙を我が物顔で埋め尽くしていた。
その数は、まさに天文学的数字に昇るだろう。
―――その中心に、バキスレイオスとグランゾン・Fは現れた。
「な・・・何?こいつら・・・」
「ふん・・・私に聞かれても知らないとしか言えませんが、友好的でないのは確かですね」
シュウの言うとおりだった。宇宙怪獣たちは一斉に襲い掛かってきたのだった。
単純明快。会話や意思疎通の余地などまるでない。ただただ、目の前に現れた目障りな連中を押しつぶさんと、圧倒的な
物量を持ってして押し寄せる!
「くっそお―――訳が分かんないけど、やられてたまるか!」
二丁拳銃―――クトゥグアとイタクァを構え、零に近い時間で全弾撃ち尽くす。狙いなど付ける必要もなかった。何しろ
目の前を文字通り埋め尽くす数なのだ。
一気に数十万、あるいは数百万の宇宙怪獣を屠り、同時に弾丸をリロード。再び、三度、四度、五度―――
「埒があかない―――なら、これだ!<サイフラッシュ>!」
閃光が迸る。周囲数光年にも及んだそれは、その範囲内の全ての宇宙怪獣を一瞬にして消し飛ばした。だが、また新たな
宇宙怪獣が押し寄せてくるだけだ。
「くそっこいつら・・・ならとことんまでやってやる!」
迫り来る宇宙怪獣の群れに、全速力でこちらからぶつかっていく。同時に脚部にエネルギーを集中させた。そして膨大な
エネルギーが凝縮された廻し蹴りを、怒涛の勢いで放つ!
「―――<アトランティス・ストライク>!」
暴風の如きキックが、宇宙怪獣たちの身体を容赦なく打ち砕いていく。だが、バキスレイオスはまだ勢いを弱めない―――
それどころか、さらに速度を上げていく。
その姿は、まさに荒れ狂う竜巻!
「―――<アトランティス・トルネード・ストライク>!」
―――ようやく一段落着いたか。そう思い、息をついた瞬間、絶望的な気分になった。
宇宙怪獣はまるで数を減らしたようには見えない。先ほどの超々暴力的なバキスレイオスの大立ち回りでさえ、彼ら全体
から見れば、精々蚊に刺された程度の効果しかなかったらしい。
「フッ。この程度でへたばるとは、まだまだですねえ・・・」
嘲るようなシュウの声に、グランゾン・Fをきっと睨み付けた。
<この野郎!てめえはさっきからのらりくらりやってるだけじゃねえか!偉そうな口利きやがるなら、こいつらぜ~んぶ
吹っ飛ばすくらいのことをしやがれ!>
「あなたも相変わらず下品な口の利き方ですね、マサキ―――まあいいでしょう。リクエストにお応えして、とりあえず
やってさしあげましょうか」
グランゾン・Fが両手を掲げると同時に、宇宙空間に無数の魔方陣が出現した。そこからずずっ・・・と音を立てて、
何かが生み出される。
それは、剣だった。無限の魔方陣の中から生まれた、無限の剣。
「グランワームソード・無限精製―――」
そして、幾億もの刃が宇宙を蹂躙する!
「―――<アンリミテッド・ブレード・ワークス>!」
放たれた剛剣の嵐が、宇宙怪獣たちを貫く。貫く。貫く―――!
「まだまだ、終わりではありませんよ―――行け、<ブラックホール・フェザー>!」
号令のようなシュウの声と共に、グランゾン・Fの背中の黒い羽が、一斉に飛び立つ。
「これら<ブラックホール・フェザー>は全てが全て、極小ナノマシンで作られたブラックホールクラスターの発射装置。
すなわち―――こういうことです」
展開した黒い羽―――ブラックホール・フェザーが、破壊の力を解き放つ!
「―――<ブラックホールクラスター・一斉発射>!」
破壊破壊破壊破壊―――破滅破滅破滅破滅―――
合計数万発にも及ぶブラックホールクラスターが、全てを塵に変えた。
「な・・・なんて強さだ・・・」
よくこんなのとさっきまで互角に戦えていたものだ、と我ながら関心するのび太たちだった。
「やっぱ悪い奴だし、いけ好かないけど、言うだけのことはあるね・・・てゆうか、ナノマシンでほんとにあんなもんまで
作れるものなの・・・?」
「ククク・・・まあ、細かいことは抜きにしましょう。さて、邪魔者も大概片付けたところで、勝負の続きを―――」
言いかけたシュウが、口を閉ざす。何事かと辺りを見回すと―――そこには、いた。
一瞬前まで何もなかったはずの空間に、それは存在していた。
姿はまるで、某ロボットアニメに出てくる量産型のロボだ。確か、ジムだかなんだか。しかし、それはとてつもない大きさ
だった。軽く百メートルは越えているだろう。まるで巨神だ―――そう思った。
そう、神だ。これはまさに、神そのものだった。
巨神が手を翳す。同時に宇宙が揺らぎ―――バキスレイオスとグランゾン・Fがその中に飲み込まれた。
「な・・・!?」
「ふむ。どうやら我々を別の宇宙に飛ばすつもりのようですね。まあいいでしょう。こんな宇宙など、こっちから願い下げ
ですよ」
「いや、それはいいけど・・・結局なんだったのさ、この宇宙って!?」
「フッ・・・詳しくは第三次αで、といったところでしょうか?」
「またそんなよく分からないことを・・・!」
抗議の声も掻き消され、別の宇宙へと消えていく。残されたのは、終わった宇宙だけだった。
―――次に彼らがいたのは、<小さな宇宙>だった。
バキスレイオスとグランゾン・Fが入り込めば、それだけで満杯になるような小さな宇宙。
まるで箱庭のような宇宙の中で、二柱の超機神はぶつかり合った。その力に耐え切れず、小さな宇宙が砕け散った。
そしてまた、飛ばされる。
―――次にいたのは、<巨大な宇宙>。
何もかもが巨大な宇宙。その中では原子核ですらも、まるで惑星の如く鎮座している。
その中で塵にすら満たぬ大きさの超存在たちは戦い、そしてそれが宇宙を歪める。
そしてまた、飛ばされる。
―――次にいたのは、<速い宇宙>。
ありとあらゆる全てが、時間すらもが果てしなく速く流れる世界。
体感時間ではコンマ数百数千の間に必滅の奥義を撃ち合い、その力が宇宙を歪める。
そしてまた、飛ばされる。
―――次にいたのは、<何もない宇宙>。
文字通り何もなかった。その中では、バキスレイオスとグランゾン・Fも存在できなかった。
だが彼らは物理的な存在によることなく、もはや想像することさえ叶わない領域で戦っていた。
そして―――
そして―――何百もの宇宙を越えて戦い、疲弊しきった彼らは、また飛ばされた。
そこで、見た。
「ああ・・・」
それは、地球だった。漆黒の宇宙の中で輝く、宝石のような青。
どこの宇宙なのか、どの時代の地球なのか、どんな地球なのかすらも分からない。だがその青さは、その美しさは、心を
奮い立たせ、そして、のび太たちに何より大事なことに気付かせた。
ぼくたちは、何て勘違いをしてたんだろう。
世界を守る?世界を終わらせない?
まるで神にでもなったみたいな思い上がりじゃないか。
世界は、こんなに綺麗で、青くて―――大きい。
こんな途方もないもの―――誰に終わらせたりできるものか。
例え機械仕掛けの神であろうと―――最悪の狐であろうと。
すうっと、肩の荷が下りていくような気がした。まるで、馬鹿みたいだ。
勝手に世界の運命を背負った気になって。勝手に救世主気取りで。そんなガラでもないくせに。
世界はぼくたちに守られるまでもなく―――そこに、ある。
身体の奥から、底を尽いたはずの力が湧き上がるのを感じた。エネルギーの枯渇しかかったバキスレイオスすら、それに
呼応するかのようにグランゾン・Fに向き直り、その機械の瞳で睨み付ける。
「なんと・・・」
シュウの口から、溜息に似た呟きが漏れた。地球を背にしたバキスレイオス。その姿は、例えようもなく美しかった。
もはや神域に限りなく近づいたシュウですらも、身震いさせるほどに。
そして機体越しからでも感じる、絶大なる意志。
何者にも折れぬそれは―――鋼の魂。神ですらも消せぬ―――命の輝きそのもの。
「その覚悟―――どこから?」
その問いに対する答えは、一つ。
「―――あの星から」
そして、またぶつかり合った。
―――そして、その果てに。
グランゾン・Fが漆黒の宇宙に立っていた。そのボディは傷だらけで、もはや再生していない。
バキスレイオスは―――いなかった。代わりに、たくさんのロボットたちが満身創痍で立ち尽くしていた。
「ククク・・・もはや合体を維持する力もなくなりましたか・・・」
さすがにシュウも息を切らしてはいたが、勝利を確信して笑みを浮かべる。
「グランゾン・Fもかなり消耗してはいますが、今のあなたたちを倒す程度なら、造作もありません―――
これで、終わりです。長かった戦いも、これで、ね・・・」
グランゾン・Fがゆっくりと近づいてくる。
「・・・これで、終わりなんて・・・!」
キラが歯噛みする。
「くそっ、まだだ。まだこれからだ!∞ジャスティスはまだちょっと全エネルギー使い果たしてちょっと両手足を
切り飛ばされてちょっと全武装使い物にならなくなってその上ちょっとメインカメラがぶっ潰れただけだ!
この程度で諦めてたまるか!」
アスランが威勢よく怒鳴るが、どう考えても既に終わっていた。
「ふっ、人生最後の時です。今のうちに精々吠えていなさい」
<ちくしょう・・・俺は・・・俺たちは・・・結局シュウには勝てねえのかよ・・・>
マサキが悔しさに塗れた声で呟く。
「のび太くん・・・」
そんな様を横目にしながら、ドラえもんが突然口を開いた。
「のび太くん・・・ぼくたち、何度冒険して、どれだけの人たちを助けてあげられたかな・・・?」
「え・・・?な、何言ってるんだよ。こんな時に・・・」
「そうだよ、こんな時だよ・・・こんな時だからこそ、言ってるんだ」
ドラえもんは決然と言い放った。
「お礼を求めてたわけじゃないけど―――今、その恩を少しだけ返してもらおう」
ドラえもんは、自分のポケットから一つの道具を取り出した。
それは、小さな板切れのようなものだった。煌々と光輝くそれは、ドラえもんにとって最も大切な道具―――
「―――<親友テレカ>!」
彼らが飛ばされたのは、<終わった宇宙>だった。
かつてこの世界で勃発した、全銀河を巻き込んだ大戦乱―――その果てに待っていた結末。
全ての崩壊と、宇宙の終焉。
そんな、何もかもが無に帰した世界で蠢くものがあった。かつてこの宇宙に存在していた知的生命体からは<宇宙怪獣>
と呼ばれ、恐れられた怪物たちだ。
彼らは本能のままに破壊し、蹂躙し、そして食い尽くし、もはや邪魔者がいなくなった宇宙を我が物顔で埋め尽くしていた。
その数は、まさに天文学的数字に昇るだろう。
―――その中心に、バキスレイオスとグランゾン・Fは現れた。
「な・・・何?こいつら・・・」
「ふん・・・私に聞かれても知らないとしか言えませんが、友好的でないのは確かですね」
シュウの言うとおりだった。宇宙怪獣たちは一斉に襲い掛かってきたのだった。
単純明快。会話や意思疎通の余地などまるでない。ただただ、目の前に現れた目障りな連中を押しつぶさんと、圧倒的な
物量を持ってして押し寄せる!
「くっそお―――訳が分かんないけど、やられてたまるか!」
二丁拳銃―――クトゥグアとイタクァを構え、零に近い時間で全弾撃ち尽くす。狙いなど付ける必要もなかった。何しろ
目の前を文字通り埋め尽くす数なのだ。
一気に数十万、あるいは数百万の宇宙怪獣を屠り、同時に弾丸をリロード。再び、三度、四度、五度―――
「埒があかない―――なら、これだ!<サイフラッシュ>!」
閃光が迸る。周囲数光年にも及んだそれは、その範囲内の全ての宇宙怪獣を一瞬にして消し飛ばした。だが、また新たな
宇宙怪獣が押し寄せてくるだけだ。
「くそっこいつら・・・ならとことんまでやってやる!」
迫り来る宇宙怪獣の群れに、全速力でこちらからぶつかっていく。同時に脚部にエネルギーを集中させた。そして膨大な
エネルギーが凝縮された廻し蹴りを、怒涛の勢いで放つ!
「―――<アトランティス・ストライク>!」
暴風の如きキックが、宇宙怪獣たちの身体を容赦なく打ち砕いていく。だが、バキスレイオスはまだ勢いを弱めない―――
それどころか、さらに速度を上げていく。
その姿は、まさに荒れ狂う竜巻!
「―――<アトランティス・トルネード・ストライク>!」
―――ようやく一段落着いたか。そう思い、息をついた瞬間、絶望的な気分になった。
宇宙怪獣はまるで数を減らしたようには見えない。先ほどの超々暴力的なバキスレイオスの大立ち回りでさえ、彼ら全体
から見れば、精々蚊に刺された程度の効果しかなかったらしい。
「フッ。この程度でへたばるとは、まだまだですねえ・・・」
嘲るようなシュウの声に、グランゾン・Fをきっと睨み付けた。
<この野郎!てめえはさっきからのらりくらりやってるだけじゃねえか!偉そうな口利きやがるなら、こいつらぜ~んぶ
吹っ飛ばすくらいのことをしやがれ!>
「あなたも相変わらず下品な口の利き方ですね、マサキ―――まあいいでしょう。リクエストにお応えして、とりあえず
やってさしあげましょうか」
グランゾン・Fが両手を掲げると同時に、宇宙空間に無数の魔方陣が出現した。そこからずずっ・・・と音を立てて、
何かが生み出される。
それは、剣だった。無限の魔方陣の中から生まれた、無限の剣。
「グランワームソード・無限精製―――」
そして、幾億もの刃が宇宙を蹂躙する!
「―――<アンリミテッド・ブレード・ワークス>!」
放たれた剛剣の嵐が、宇宙怪獣たちを貫く。貫く。貫く―――!
「まだまだ、終わりではありませんよ―――行け、<ブラックホール・フェザー>!」
号令のようなシュウの声と共に、グランゾン・Fの背中の黒い羽が、一斉に飛び立つ。
「これら<ブラックホール・フェザー>は全てが全て、極小ナノマシンで作られたブラックホールクラスターの発射装置。
すなわち―――こういうことです」
展開した黒い羽―――ブラックホール・フェザーが、破壊の力を解き放つ!
「―――<ブラックホールクラスター・一斉発射>!」
破壊破壊破壊破壊―――破滅破滅破滅破滅―――
合計数万発にも及ぶブラックホールクラスターが、全てを塵に変えた。
「な・・・なんて強さだ・・・」
よくこんなのとさっきまで互角に戦えていたものだ、と我ながら関心するのび太たちだった。
「やっぱ悪い奴だし、いけ好かないけど、言うだけのことはあるね・・・てゆうか、ナノマシンでほんとにあんなもんまで
作れるものなの・・・?」
「ククク・・・まあ、細かいことは抜きにしましょう。さて、邪魔者も大概片付けたところで、勝負の続きを―――」
言いかけたシュウが、口を閉ざす。何事かと辺りを見回すと―――そこには、いた。
一瞬前まで何もなかったはずの空間に、それは存在していた。
姿はまるで、某ロボットアニメに出てくる量産型のロボだ。確か、ジムだかなんだか。しかし、それはとてつもない大きさ
だった。軽く百メートルは越えているだろう。まるで巨神だ―――そう思った。
そう、神だ。これはまさに、神そのものだった。
巨神が手を翳す。同時に宇宙が揺らぎ―――バキスレイオスとグランゾン・Fがその中に飲み込まれた。
「な・・・!?」
「ふむ。どうやら我々を別の宇宙に飛ばすつもりのようですね。まあいいでしょう。こんな宇宙など、こっちから願い下げ
ですよ」
「いや、それはいいけど・・・結局なんだったのさ、この宇宙って!?」
「フッ・・・詳しくは第三次αで、といったところでしょうか?」
「またそんなよく分からないことを・・・!」
抗議の声も掻き消され、別の宇宙へと消えていく。残されたのは、終わった宇宙だけだった。
―――次に彼らがいたのは、<小さな宇宙>だった。
バキスレイオスとグランゾン・Fが入り込めば、それだけで満杯になるような小さな宇宙。
まるで箱庭のような宇宙の中で、二柱の超機神はぶつかり合った。その力に耐え切れず、小さな宇宙が砕け散った。
そしてまた、飛ばされる。
―――次にいたのは、<巨大な宇宙>。
何もかもが巨大な宇宙。その中では原子核ですらも、まるで惑星の如く鎮座している。
その中で塵にすら満たぬ大きさの超存在たちは戦い、そしてそれが宇宙を歪める。
そしてまた、飛ばされる。
―――次にいたのは、<速い宇宙>。
ありとあらゆる全てが、時間すらもが果てしなく速く流れる世界。
体感時間ではコンマ数百数千の間に必滅の奥義を撃ち合い、その力が宇宙を歪める。
そしてまた、飛ばされる。
―――次にいたのは、<何もない宇宙>。
文字通り何もなかった。その中では、バキスレイオスとグランゾン・Fも存在できなかった。
だが彼らは物理的な存在によることなく、もはや想像することさえ叶わない領域で戦っていた。
そして―――
そして―――何百もの宇宙を越えて戦い、疲弊しきった彼らは、また飛ばされた。
そこで、見た。
「ああ・・・」
それは、地球だった。漆黒の宇宙の中で輝く、宝石のような青。
どこの宇宙なのか、どの時代の地球なのか、どんな地球なのかすらも分からない。だがその青さは、その美しさは、心を
奮い立たせ、そして、のび太たちに何より大事なことに気付かせた。
ぼくたちは、何て勘違いをしてたんだろう。
世界を守る?世界を終わらせない?
まるで神にでもなったみたいな思い上がりじゃないか。
世界は、こんなに綺麗で、青くて―――大きい。
こんな途方もないもの―――誰に終わらせたりできるものか。
例え機械仕掛けの神であろうと―――最悪の狐であろうと。
すうっと、肩の荷が下りていくような気がした。まるで、馬鹿みたいだ。
勝手に世界の運命を背負った気になって。勝手に救世主気取りで。そんなガラでもないくせに。
世界はぼくたちに守られるまでもなく―――そこに、ある。
身体の奥から、底を尽いたはずの力が湧き上がるのを感じた。エネルギーの枯渇しかかったバキスレイオスすら、それに
呼応するかのようにグランゾン・Fに向き直り、その機械の瞳で睨み付ける。
「なんと・・・」
シュウの口から、溜息に似た呟きが漏れた。地球を背にしたバキスレイオス。その姿は、例えようもなく美しかった。
もはや神域に限りなく近づいたシュウですらも、身震いさせるほどに。
そして機体越しからでも感じる、絶大なる意志。
何者にも折れぬそれは―――鋼の魂。神ですらも消せぬ―――命の輝きそのもの。
「その覚悟―――どこから?」
その問いに対する答えは、一つ。
「―――あの星から」
そして、またぶつかり合った。
―――そして、その果てに。
グランゾン・Fが漆黒の宇宙に立っていた。そのボディは傷だらけで、もはや再生していない。
バキスレイオスは―――いなかった。代わりに、たくさんのロボットたちが満身創痍で立ち尽くしていた。
「ククク・・・もはや合体を維持する力もなくなりましたか・・・」
さすがにシュウも息を切らしてはいたが、勝利を確信して笑みを浮かべる。
「グランゾン・Fもかなり消耗してはいますが、今のあなたたちを倒す程度なら、造作もありません―――
これで、終わりです。長かった戦いも、これで、ね・・・」
グランゾン・Fがゆっくりと近づいてくる。
「・・・これで、終わりなんて・・・!」
キラが歯噛みする。
「くそっ、まだだ。まだこれからだ!∞ジャスティスはまだちょっと全エネルギー使い果たしてちょっと両手足を
切り飛ばされてちょっと全武装使い物にならなくなってその上ちょっとメインカメラがぶっ潰れただけだ!
この程度で諦めてたまるか!」
アスランが威勢よく怒鳴るが、どう考えても既に終わっていた。
「ふっ、人生最後の時です。今のうちに精々吠えていなさい」
<ちくしょう・・・俺は・・・俺たちは・・・結局シュウには勝てねえのかよ・・・>
マサキが悔しさに塗れた声で呟く。
「のび太くん・・・」
そんな様を横目にしながら、ドラえもんが突然口を開いた。
「のび太くん・・・ぼくたち、何度冒険して、どれだけの人たちを助けてあげられたかな・・・?」
「え・・・?な、何言ってるんだよ。こんな時に・・・」
「そうだよ、こんな時だよ・・・こんな時だからこそ、言ってるんだ」
ドラえもんは決然と言い放った。
「お礼を求めてたわけじゃないけど―――今、その恩を少しだけ返してもらおう」
ドラえもんは、自分のポケットから一つの道具を取り出した。
それは、小さな板切れのようなものだった。煌々と光輝くそれは、ドラえもんにとって最も大切な道具―――
「―――<親友テレカ>!」