「笛吹さーん、まだ生きてる? 死んでない?」
勤続三十八時間目の笛吹の前に、屈託のない笑顔で現れたのは匪口結也だった。
「うっわ、目の下すっげぇクマ、真っ黒。ちゃんと寝てんの? もういい加減トシなんだから
無理しちゃ駄目だよ。そのうち血管切れてプチッといっても俺知らないよ?」
大量の報告書が積み上げられた机に、遠慮会釈もなく腰を下ろす。椅子に座った笛吹の顔を身を捻る
ように覗き込んで、十九歳の特例刑事はけらけら笑った。
「……匪口」
嘆息を漏らすのは筑紫である。
匪口の所属は警視庁情報犯罪課、世間を騒がせている虐殺事件とは関係がない。むろんだからといって
暇なわけでもないが、少なくとも笛吹たち当事者の緊張感とはまるで無縁な立場にあった。
「何をやってる。邪魔をしに来たならすぐ帰れ。笛吹さんが忙しいのは分かってるだろう」
「忙しいの分かってるから慰めに来たんだよ。そうでもなきゃ、自分の仕事終わった時点でとっとと
帰ってるって」
言いながら匪口はポケットに手を突っ込んだ。
スーツ姿が闊歩する庁舎内では特に目立つカジュアルな姿。ファッション的な拘りなのかはたまた
買い替えが面倒なだけか、数年前に流行ったルーズジーンズを未だに履いている。使うとき以外は常に
額上部で固定した遠視用眼鏡といい、この若者のセンスは世間のそれとは相当ずれているようだ。
取り出したのは包み紙にくるまれた飴玉数個だった。分かりやすくイラスト化されたフルーツと、
『いちご』『めろん』といったひらがなの文字。
「人間の脳なんてエンジンと同じさ。どれだけハイスペックでも定期的に燃料を補給してやんなきゃ
意味がない。ってなわけで笛吹さん、これ差し入れ。こういうの好きでしょ?」
「な、ななななな何を言っている(ペリペリペリペリ)この私がそんな女子供の食うような(ガリガリガリガリ)」
狂ったように包み紙を剥き飴を貪り食う笛吹。
匪口は脇に控えるもう一人の上司に、『筑紫さんもどう?』と勧めたが、こちらは首を横に振っただけで終わった。
「家には帰らないの、笛吹さん?」
イチゴ味の飴が笛吹の口内から消滅する頃、匪口が尋ねた。
「車通勤なら、終電とか気にしなくて大丈夫でしょ。それでなくても楽々タクシー代払えるくらいの
給料貰ってるくせに」
「そんな時間はない。いつ次の事件が起こるとも知れんのだ。――それに」
最後の飴のひとかけを飲み込み、笛吹は窓の外に視線をやった。
地上三階、真下に庁舎の入り口を望める位置。だがここから見えるのはそれだけではない。
『毒日テレビ』『国売新聞』『週刊便乗』。明らかに報道陣のそれと分かる車の群れ。
「マスコミ連中にあれだけ出口で張られていては、外に出るだけでも重労働だ。それくらいならここで
仮眠を取って済ますさ」
「あー、あいつらねー。たまに朝出てくる俺らにまでマイクつきつけてコメント求めて来んだよね。
何とかなんないのかな、ホント」
頭の後ろに腕を持っていき、訳知り顔で頷いてみせる匪口。
「門のトコにずらーーーーーっと並んだあいつら見てるとさあ、トレーラーか何かで全速力で突っ込んで
片っ端からドミノ倒しにしてやりたくなっちゃうよ。実際やったらすげー気持ちいいだろうなー。
ねえ筑紫さんだってそう思うだろ?」
「思わん。そんな危険思想はお前一人で充分だ」
「えー?」
笛吹は二つ目の飴を手に取った。今しがた一粒食べたせいか、さっきまでの激しい糖分への飢えは
消え去っていた。
門の傍に止まった車の群れを睨む。明らかに中継車と分かるものだけでも相当な台数だ。
それ即ち、捜査の進展のなさにどれだけ彼らが焦れているかを示している。
「……もう少し伏せておきたいが……上がどう言うかだな」
「え?」
喉の奥で呟いたはずの言葉を、匪口が耳ざとく聞きつけた。
「笛吹さん、今なんて?」
「お前には関係のないことだ」
部下の疑問符をすげなくあしらう。
「そんなことよりいい加減に家に帰れ未成年。今なら何とか終電に間に合うはずだ」
「子供扱いしないでよ」
口をへの字にひん曲げる匪口。
何のかんのと理由をつけて居座りたがる彼を、筑紫が部屋の外に追い出すまで十分かかった。
勤続三十八時間目の笛吹の前に、屈託のない笑顔で現れたのは匪口結也だった。
「うっわ、目の下すっげぇクマ、真っ黒。ちゃんと寝てんの? もういい加減トシなんだから
無理しちゃ駄目だよ。そのうち血管切れてプチッといっても俺知らないよ?」
大量の報告書が積み上げられた机に、遠慮会釈もなく腰を下ろす。椅子に座った笛吹の顔を身を捻る
ように覗き込んで、十九歳の特例刑事はけらけら笑った。
「……匪口」
嘆息を漏らすのは筑紫である。
匪口の所属は警視庁情報犯罪課、世間を騒がせている虐殺事件とは関係がない。むろんだからといって
暇なわけでもないが、少なくとも笛吹たち当事者の緊張感とはまるで無縁な立場にあった。
「何をやってる。邪魔をしに来たならすぐ帰れ。笛吹さんが忙しいのは分かってるだろう」
「忙しいの分かってるから慰めに来たんだよ。そうでもなきゃ、自分の仕事終わった時点でとっとと
帰ってるって」
言いながら匪口はポケットに手を突っ込んだ。
スーツ姿が闊歩する庁舎内では特に目立つカジュアルな姿。ファッション的な拘りなのかはたまた
買い替えが面倒なだけか、数年前に流行ったルーズジーンズを未だに履いている。使うとき以外は常に
額上部で固定した遠視用眼鏡といい、この若者のセンスは世間のそれとは相当ずれているようだ。
取り出したのは包み紙にくるまれた飴玉数個だった。分かりやすくイラスト化されたフルーツと、
『いちご』『めろん』といったひらがなの文字。
「人間の脳なんてエンジンと同じさ。どれだけハイスペックでも定期的に燃料を補給してやんなきゃ
意味がない。ってなわけで笛吹さん、これ差し入れ。こういうの好きでしょ?」
「な、ななななな何を言っている(ペリペリペリペリ)この私がそんな女子供の食うような(ガリガリガリガリ)」
狂ったように包み紙を剥き飴を貪り食う笛吹。
匪口は脇に控えるもう一人の上司に、『筑紫さんもどう?』と勧めたが、こちらは首を横に振っただけで終わった。
「家には帰らないの、笛吹さん?」
イチゴ味の飴が笛吹の口内から消滅する頃、匪口が尋ねた。
「車通勤なら、終電とか気にしなくて大丈夫でしょ。それでなくても楽々タクシー代払えるくらいの
給料貰ってるくせに」
「そんな時間はない。いつ次の事件が起こるとも知れんのだ。――それに」
最後の飴のひとかけを飲み込み、笛吹は窓の外に視線をやった。
地上三階、真下に庁舎の入り口を望める位置。だがここから見えるのはそれだけではない。
『毒日テレビ』『国売新聞』『週刊便乗』。明らかに報道陣のそれと分かる車の群れ。
「マスコミ連中にあれだけ出口で張られていては、外に出るだけでも重労働だ。それくらいならここで
仮眠を取って済ますさ」
「あー、あいつらねー。たまに朝出てくる俺らにまでマイクつきつけてコメント求めて来んだよね。
何とかなんないのかな、ホント」
頭の後ろに腕を持っていき、訳知り顔で頷いてみせる匪口。
「門のトコにずらーーーーーっと並んだあいつら見てるとさあ、トレーラーか何かで全速力で突っ込んで
片っ端からドミノ倒しにしてやりたくなっちゃうよ。実際やったらすげー気持ちいいだろうなー。
ねえ筑紫さんだってそう思うだろ?」
「思わん。そんな危険思想はお前一人で充分だ」
「えー?」
笛吹は二つ目の飴を手に取った。今しがた一粒食べたせいか、さっきまでの激しい糖分への飢えは
消え去っていた。
門の傍に止まった車の群れを睨む。明らかに中継車と分かるものだけでも相当な台数だ。
それ即ち、捜査の進展のなさにどれだけ彼らが焦れているかを示している。
「……もう少し伏せておきたいが……上がどう言うかだな」
「え?」
喉の奥で呟いたはずの言葉を、匪口が耳ざとく聞きつけた。
「笛吹さん、今なんて?」
「お前には関係のないことだ」
部下の疑問符をすげなくあしらう。
「そんなことよりいい加減に家に帰れ未成年。今なら何とか終電に間に合うはずだ」
「子供扱いしないでよ」
口をへの字にひん曲げる匪口。
何のかんのと理由をつけて居座りたがる彼を、筑紫が部屋の外に追い出すまで十分かかった。
銃器という発明を手にする以前から、人間によって滅ぼされた生物は枚挙に暇がない。
最も古い例ではマンモスがそうだとされる。餌の減少、伝染病など他の説も有力だが、彼らが人類に
とって恰好の狩りの標的だったこと自体を否定する者は稀だろう。
もちろん、銃器が人類の優位を加速させたのは事実だ。
懸賞金目当てに乱獲された各種のオオカミ、毛皮を剥がれ脂はクッキーの材料にされた哀れな
カリフォルニアングリズリー。ローマのコロッセオで剣闘士の敵役として、またキリスト教徒の処刑役と
して重宝されたバーバリーライオンも、二十世紀の始めに銃によってその姿を消している。
だが、爪も牙も持たぬか弱き人間がこんにち他種を圧倒し、地上の支配者面をしていられるのには、
それとは別にもう一つ理由がある。
「人間を狩るために準備したり訓練したりする動物なんて聞いたことないもんね。人間は他の生き物を
狩るために、武器の用意とか訓練とかできるけどさ」
構える散弾銃はポンプアクション。ニューヨークの地名を冠した銃器会社の名銃の、銃身と銃床を
切り詰めた接近戦仕様。アンダーグラウンドウェポンとしては世界最強クラスの代物だ。
五メートル先の的に狙いを定め、サイは引き金を引く。ドウンという鈍い反動が腕から肩にかけて
襲い、直径数十センチの的がハチの巣と化した。
「んー……ちょっとずつ撃ち方慣れてはきたかな。葛西、右と左に散る動きも追加してよ。下から上に
動いてくだけじゃワンパターンになっちゃう」
「了解です、サイ」
ただでさえ撃ちづらいとされる形状。極度の反動に耐えながらこれを正確に連射するには、一般人を
はるかにしのぐ膂力を持つ彼でもある程度の熟練が必要となる。
下から新たに現れた的は、さっきとは段違いの速さで直角に右へと逸れた。
すかさずサイは撃った。狙いは逸れ、弾痕は的のはるか後ろの壁に穴を空けた。
硝煙の匂いが鼻をつく。
「っだーーーーーーーーーー! この銃やっぱり当たんない!」
「サイ、サイ、弾残ってんの床に叩きつけんのは勘弁してください。暴発はやべぇです」
手にした銃を振り上げかける彼に、慌てて葛西が制止をかけた。
「どの道ショットガンじゃとどめは刺せねぇでしょう、必死こいて練習する必要がどこにあるんです?」
「死にはしないけど、動きを止めるのに効果があるのは記録映像で確認済みだからね」
地道な射撃訓練に飽いてきたのか、サイはショットガンを小脇に抱え、どっかりと訓練場の床に腰を
下ろした。ズボンが汚れるのも意に介さず、胡坐をかいて膝に片肘をつく。
「とどめを刺すのとはまた別さ。これはどっちかというと牽制と……それから逃げられたときの保険用」
「保険?」
葛西が怪訝そうな顔をした。
「いつも自信たっぷりのあなたが珍しい。ひょっとしてアイの入れ知恵ですか?」
「入れ知恵って何だよ。ちょっと意見を取り入れただけだよ。俺は要らないって言ったんだけど、一度
言い出すとしつっこいんだもんあの女」
スライドを指で弾く固い音。
「弾丸にね、ちょっとした仕込みがされてるんだ」
最も古い例ではマンモスがそうだとされる。餌の減少、伝染病など他の説も有力だが、彼らが人類に
とって恰好の狩りの標的だったこと自体を否定する者は稀だろう。
もちろん、銃器が人類の優位を加速させたのは事実だ。
懸賞金目当てに乱獲された各種のオオカミ、毛皮を剥がれ脂はクッキーの材料にされた哀れな
カリフォルニアングリズリー。ローマのコロッセオで剣闘士の敵役として、またキリスト教徒の処刑役と
して重宝されたバーバリーライオンも、二十世紀の始めに銃によってその姿を消している。
だが、爪も牙も持たぬか弱き人間がこんにち他種を圧倒し、地上の支配者面をしていられるのには、
それとは別にもう一つ理由がある。
「人間を狩るために準備したり訓練したりする動物なんて聞いたことないもんね。人間は他の生き物を
狩るために、武器の用意とか訓練とかできるけどさ」
構える散弾銃はポンプアクション。ニューヨークの地名を冠した銃器会社の名銃の、銃身と銃床を
切り詰めた接近戦仕様。アンダーグラウンドウェポンとしては世界最強クラスの代物だ。
五メートル先の的に狙いを定め、サイは引き金を引く。ドウンという鈍い反動が腕から肩にかけて
襲い、直径数十センチの的がハチの巣と化した。
「んー……ちょっとずつ撃ち方慣れてはきたかな。葛西、右と左に散る動きも追加してよ。下から上に
動いてくだけじゃワンパターンになっちゃう」
「了解です、サイ」
ただでさえ撃ちづらいとされる形状。極度の反動に耐えながらこれを正確に連射するには、一般人を
はるかにしのぐ膂力を持つ彼でもある程度の熟練が必要となる。
下から新たに現れた的は、さっきとは段違いの速さで直角に右へと逸れた。
すかさずサイは撃った。狙いは逸れ、弾痕は的のはるか後ろの壁に穴を空けた。
硝煙の匂いが鼻をつく。
「っだーーーーーーーーーー! この銃やっぱり当たんない!」
「サイ、サイ、弾残ってんの床に叩きつけんのは勘弁してください。暴発はやべぇです」
手にした銃を振り上げかける彼に、慌てて葛西が制止をかけた。
「どの道ショットガンじゃとどめは刺せねぇでしょう、必死こいて練習する必要がどこにあるんです?」
「死にはしないけど、動きを止めるのに効果があるのは記録映像で確認済みだからね」
地道な射撃訓練に飽いてきたのか、サイはショットガンを小脇に抱え、どっかりと訓練場の床に腰を
下ろした。ズボンが汚れるのも意に介さず、胡坐をかいて膝に片肘をつく。
「とどめを刺すのとはまた別さ。これはどっちかというと牽制と……それから逃げられたときの保険用」
「保険?」
葛西が怪訝そうな顔をした。
「いつも自信たっぷりのあなたが珍しい。ひょっとしてアイの入れ知恵ですか?」
「入れ知恵って何だよ。ちょっと意見を取り入れただけだよ。俺は要らないって言ったんだけど、一度
言い出すとしつっこいんだもんあの女」
スライドを指で弾く固い音。
「弾丸にね、ちょっとした仕込みがされてるんだ」
『記録映像その他の資料を見返していて、気づいたことがあります』
今この場にはいないあの女の台詞。
『≪我鬼≫に撃ち込まれたはずの散弾と、事態の収束後に現場から回収された散弾の数が合わないのです。
傷の再生の際、確かに体外に排出していたにもかかわらず』
『どっかに紛れてなくなっちゃったんじゃないの? 現場って確か中国奥地の密林でしょ』
脚をぷらぷらと揺らしながら、サイはそれに答えた。
『それか鳥やネズミが食っちゃったとかさ。ニュースでたまに言ってるじゃん、散弾食った白鳥が
鉛中毒で天国直行』
『その可能性もあり得ないとは言い切れませんが』
長いまつげを伏せながらアイは言った。
『私の推測が正しければ、これは利用可能な要素かと――』
今この場にはいないあの女の台詞。
『≪我鬼≫に撃ち込まれたはずの散弾と、事態の収束後に現場から回収された散弾の数が合わないのです。
傷の再生の際、確かに体外に排出していたにもかかわらず』
『どっかに紛れてなくなっちゃったんじゃないの? 現場って確か中国奥地の密林でしょ』
脚をぷらぷらと揺らしながら、サイはそれに答えた。
『それか鳥やネズミが食っちゃったとかさ。ニュースでたまに言ってるじゃん、散弾食った白鳥が
鉛中毒で天国直行』
『その可能性もあり得ないとは言い切れませんが』
長いまつげを伏せながらアイは言った。
『私の推測が正しければ、これは利用可能な要素かと――』
「必要ないものだとは思うけどね」
首を軽くひと振り。
「最初から失敗しなければいい話だ。前回はまさか檻から出てくるとは思わなかったから取り逃がした
けど、今回は違う。装備も準備も万全さ。それから」
ちら、と葛西を見やりながら、
「……助っ人もね」
「さあ、どうでしょうね。どんな状況でも、予防線ってのは張れるだけ張っとくに越したことありませんから」
『助っ人』は肩をすくめ、曖昧な笑いをその口元に貼りつけた。
含みを持たせてはいるものの、何を言いたいのかは明らかだった。真摯とは言いがたい部下の態度に、
サイは唇を尖らせた。
もっとも今更何を言ったところで、この男の気性を叩き直すことが不可能なのも目に見えている。
ジャキン、と銃を構えなおす。
「動く的ひたすら撃ってるだけっていうのも飽きてきたな、やっぱり悲鳴とか血しぶきとかないと
燃えないよね。ねえ葛西ちょっとの間でいいから的役やってくれる?」
「謹んでお断りします。俺ぁまだまだ長生きしたいんです」
胸の前で手を振る葛西。
「やるならその辺から一般人さらってきて、そいつで代用して下さいよ」
「うーん……そこまでするのも面倒臭いんだよね……どっかから都合よくいい的転がり込んできてくれないかなあ」
どうやら地道に撃ちつづけるしかないらしい。
息をつきながらサイは腰を上げた。
脇に卵を挟むような緩やかな構えは、肩を襲う反動を少しでも逃がすため。それでいて銃口は数ミリたりとも
ブレず的を狙わなければならない。
トリガーに指をかけ引き絞ろうとして、そこでサイは動きを止め振り返った。
首を軽くひと振り。
「最初から失敗しなければいい話だ。前回はまさか檻から出てくるとは思わなかったから取り逃がした
けど、今回は違う。装備も準備も万全さ。それから」
ちら、と葛西を見やりながら、
「……助っ人もね」
「さあ、どうでしょうね。どんな状況でも、予防線ってのは張れるだけ張っとくに越したことありませんから」
『助っ人』は肩をすくめ、曖昧な笑いをその口元に貼りつけた。
含みを持たせてはいるものの、何を言いたいのかは明らかだった。真摯とは言いがたい部下の態度に、
サイは唇を尖らせた。
もっとも今更何を言ったところで、この男の気性を叩き直すことが不可能なのも目に見えている。
ジャキン、と銃を構えなおす。
「動く的ひたすら撃ってるだけっていうのも飽きてきたな、やっぱり悲鳴とか血しぶきとかないと
燃えないよね。ねえ葛西ちょっとの間でいいから的役やってくれる?」
「謹んでお断りします。俺ぁまだまだ長生きしたいんです」
胸の前で手を振る葛西。
「やるならその辺から一般人さらってきて、そいつで代用して下さいよ」
「うーん……そこまでするのも面倒臭いんだよね……どっかから都合よくいい的転がり込んできてくれないかなあ」
どうやら地道に撃ちつづけるしかないらしい。
息をつきながらサイは腰を上げた。
脇に卵を挟むような緩やかな構えは、肩を襲う反動を少しでも逃がすため。それでいて銃口は数ミリたりとも
ブレず的を狙わなければならない。
トリガーに指をかけ引き絞ろうとして、そこでサイは動きを止め振り返った。
「失礼します、サイ。再生速度の解析が終わりました」
射撃訓練場に響き渡る声。一七七センチの長身を、やや猫背ぎみに丸めて蛭が立っていた。
部下を認めたサイは満面の笑みを浮かべ、構えていた手の片方を挨拶めかしてひらひらさせる。
「やー蛭よかった、いいところに。ちょうどやってもらいたいことがあったんだけど人手足りなくてさー。
ちょっとその的の前に立ってみてくれる?」
「よ、よく分からないけど嫌な予感がするんで遠慮します」
後ずさりながら拒否する蛭。長く協力者をやっているだけあってなかなかに勘がいい。
チッと舌打ちしてサイは話題を替えた。
「解析終わったの? データ持ってきてくれた?」
「はい。といっても他に調べることはまだまだあるんですけど、ひとまずは再生に関するデータだけは」
差し出されたのは何の変哲もない、プラスチックのケースに収められたCD-R。光を反射する
裏面が、鏡に映った歪んだ虹のようにきらめく。表面は全くの無地だが、ここに流行歌手のアルバムの
タイトルや、『△△ちゃん運動会写真・○月×日撮影』という見出しが書かれていても何ら違和感はない。
「解析結果をもとに計算式も弾き出しました。この数値以上のスピードで損傷を与え続ければ、
理論上は≪我鬼≫の再生を完全に防げる計算になります。あくまで理論上は、ですが」
サイの華奢な手がCD-Rを受け取る。
「つまりは『最低でもこの数値以上は動かないと勝てない』ってことか」
「そういうことになります」
CDケースを人差し指と中指で挟み、くるくると器用に回転させる。プリズムの輝きを振り撒きながら
連続五回転させたところで、ぴたり、と中空で静止した。
「詳しいことは開いて見てみないとわかんないけど……蛭、あんたから見てどんな感じ?」
「正直なところ、きつい数字です。普通に考えれば相当厳しいでしょうが」
彫りの浅い顔の眉間に、一瞬山脈のような皺が寄った。
しかしその皺はすぐに、黒い眼光の強烈な輝きに打ち消される。
真っ直ぐに主人の顔を見据えて蛭は断言した。
「個人的な意見を言わせてもらえば……俺は、あなたという人間に不可能なことなんてないと思っています」
怪盗はわずかに眉を吊り上げた。
三秒、いや五秒近く流れる沈黙。その間も蛭の目は逸らされることなく、ともすれば睨んでいるとも
とられかねぬ強さでサイの双眸を見つめている。
「くだらないこと言ってるんじゃないよ」
部下の視線から目をそむけるように、サイは蛭に背を向けた。
「俺は客観的な見解を聞いてるんだよ。あんたの熱血ぶった青臭い精神論なんて求めてない」
「すいません。でも本当にそう思うんです」
蛭が頭を下げる気配。
サイは息を吐く。蛭の耳には届かないほど小さく。
口にした言葉は、さっきまでにも増してつっけんどんなものだった。
「解析するデータはまだ残ってるんでしょ。さっさと下がって仕事の続きやりなよ」
「はい、下がります。すみませんでした」
一度顔が上げられ、また深々と下げられる気配。
足早に退室する間際、名残惜しげにこちらを振り返るのを、サイは気づいていながらあえて無視した。
訓練場のドアが閉まる音。
足音が遠ざかり途切れる頃、傍観していた葛西がようやく口を開いた。
「で、どうします。続けますか?」
CDケースを顎に押し当てひたすら黙りこくっていたサイは、にやけた放火魔の顔を横目で睨んだ。
「部屋に戻って休むよ。飽きた。それに疲れたし」
「そうですか。それじゃごゆっくり」
「葛西はどうすんの?」
「俺ですか。俺は……まあ、しばらく暇なことでもありますし……」
火火火、と笑い声を響かせる。
三白眼が閉じたドアの向こうを見やった。
「あの坊主とちょっくら遊んできますかねえ」
射撃訓練場に響き渡る声。一七七センチの長身を、やや猫背ぎみに丸めて蛭が立っていた。
部下を認めたサイは満面の笑みを浮かべ、構えていた手の片方を挨拶めかしてひらひらさせる。
「やー蛭よかった、いいところに。ちょうどやってもらいたいことがあったんだけど人手足りなくてさー。
ちょっとその的の前に立ってみてくれる?」
「よ、よく分からないけど嫌な予感がするんで遠慮します」
後ずさりながら拒否する蛭。長く協力者をやっているだけあってなかなかに勘がいい。
チッと舌打ちしてサイは話題を替えた。
「解析終わったの? データ持ってきてくれた?」
「はい。といっても他に調べることはまだまだあるんですけど、ひとまずは再生に関するデータだけは」
差し出されたのは何の変哲もない、プラスチックのケースに収められたCD-R。光を反射する
裏面が、鏡に映った歪んだ虹のようにきらめく。表面は全くの無地だが、ここに流行歌手のアルバムの
タイトルや、『△△ちゃん運動会写真・○月×日撮影』という見出しが書かれていても何ら違和感はない。
「解析結果をもとに計算式も弾き出しました。この数値以上のスピードで損傷を与え続ければ、
理論上は≪我鬼≫の再生を完全に防げる計算になります。あくまで理論上は、ですが」
サイの華奢な手がCD-Rを受け取る。
「つまりは『最低でもこの数値以上は動かないと勝てない』ってことか」
「そういうことになります」
CDケースを人差し指と中指で挟み、くるくると器用に回転させる。プリズムの輝きを振り撒きながら
連続五回転させたところで、ぴたり、と中空で静止した。
「詳しいことは開いて見てみないとわかんないけど……蛭、あんたから見てどんな感じ?」
「正直なところ、きつい数字です。普通に考えれば相当厳しいでしょうが」
彫りの浅い顔の眉間に、一瞬山脈のような皺が寄った。
しかしその皺はすぐに、黒い眼光の強烈な輝きに打ち消される。
真っ直ぐに主人の顔を見据えて蛭は断言した。
「個人的な意見を言わせてもらえば……俺は、あなたという人間に不可能なことなんてないと思っています」
怪盗はわずかに眉を吊り上げた。
三秒、いや五秒近く流れる沈黙。その間も蛭の目は逸らされることなく、ともすれば睨んでいるとも
とられかねぬ強さでサイの双眸を見つめている。
「くだらないこと言ってるんじゃないよ」
部下の視線から目をそむけるように、サイは蛭に背を向けた。
「俺は客観的な見解を聞いてるんだよ。あんたの熱血ぶった青臭い精神論なんて求めてない」
「すいません。でも本当にそう思うんです」
蛭が頭を下げる気配。
サイは息を吐く。蛭の耳には届かないほど小さく。
口にした言葉は、さっきまでにも増してつっけんどんなものだった。
「解析するデータはまだ残ってるんでしょ。さっさと下がって仕事の続きやりなよ」
「はい、下がります。すみませんでした」
一度顔が上げられ、また深々と下げられる気配。
足早に退室する間際、名残惜しげにこちらを振り返るのを、サイは気づいていながらあえて無視した。
訓練場のドアが閉まる音。
足音が遠ざかり途切れる頃、傍観していた葛西がようやく口を開いた。
「で、どうします。続けますか?」
CDケースを顎に押し当てひたすら黙りこくっていたサイは、にやけた放火魔の顔を横目で睨んだ。
「部屋に戻って休むよ。飽きた。それに疲れたし」
「そうですか。それじゃごゆっくり」
「葛西はどうすんの?」
「俺ですか。俺は……まあ、しばらく暇なことでもありますし……」
火火火、と笑い声を響かせる。
三白眼が閉じたドアの向こうを見やった。
「あの坊主とちょっくら遊んできますかねえ」
射撃場と無菌室は細い廊下で結ばれており、その間にぽつぽつと各個人にあてがわれた部屋がある。
今の時間はどこも無人だ。当然のごとく最も広いサイの部屋。煙草の煙がアジト中にこもらないよう、
換気最優先であてがわれた葛西の部屋。サイに下げ渡された盗品が幅をきかせているアイの部屋。そして、
条件を尋ねられたとき南向きがいいと適当に言ったらその通りになった、蛭自身の部屋。
天井に灯る蛍光灯が眼球を刺す。クリーンベンチの青い紫外線の下で長時間作業をしたためだろう。
一応ゴーグルで目は保護しているが、それでも限度というものがある。
だるさと痛みに悲鳴を上げる目を押さえながら、蛭は自分の部屋のドアノブを捻った。タオルを温めて
目に当てるのが目的だった。原始的だが即効性のある方法だ。
しかし自分のテリトリーに踏み込もうとした瞬間、背後から這い寄るような声が耳に絡みついてきた。
「よお小僧。お疲れみてえだな」
「葛西?」
開けかけたドアを再び閉めなおしながら、蛭は声の主を振り返った。
口元の筋肉が強張るのを感じずにはいられない。
もし自分の体に毛が生えていたら、きっと逆立っていたことだろう。天敵を前にしたイヌ科動物のように。
「身を粉にして働いてるってのに、あの反応じゃあ報われねえよなあ。サイも礼の一つも言ってやりゃいいのに。
ウサギみてえな真っ赤な目しやがって可哀想によ」
妙に優しい猫撫で声に、なおさら口元がひきつった。
「あんなのいつものことさ、慣れてるよ。感謝されたくて協力者やってるわけじゃないし」
「それでも労いの一言二言あったっていいだろうが。お前はもっと評価されるだけの仕事してると思うがねえ」
何だ、この男は。気持ちの悪い。
蛭は露骨に顔をしかめた。
「何の用だよ。目を休めたらすぐ続きにかかりたいんだ、用件なら手短に……」
「まあまあ、そう嫌そうな顔するなよ。お前は俺を嫌いみてえだが、俺の方はそうでもねえんだぜ。
口にすんのも恥ずかしいようなこと平気で言っちまえるケツの青さなんか、うちの甥っ子そっくりでよ。
五分くらいならいいだろ?」
帽子のつばの縁をトントンと叩きながら、葛西。
しかめっ面のまま蛭は躊躇した。気に入らない、そう最大限に気に入らない男ではあるが、それでも
同じサイの足元に跪く協力者であるには違いない。サイに高く買われているらしいことを考えても、
あまり喧嘩ばかり吹っかけるのは好ましくないと思われた。
「まあ五分程度なら」
「火火火。ありがとよ小僧」
「『蛭』だ」
シガーマッチが擦られて煙草が灯り、灰色の煙がふうっと吐かれる。蛍光灯の灯る天井へとのぼっていく。
「――感謝されたくて協力者やってるわけじゃないって言ったが、なら何のためにサイに従ってんだ?」
「は?」
そんなものは蛭の勝手だ。なぜ新参者の葛西などに打ち明けなければならないのだ。
「どうでもいいだろ、そんなこと。大体あんただって同じ穴のムジナだ。他にもアイとか他の協力者連中とか」
「いいや違うね」
ここで葛西は、実に旨そうに煙を吸った。
「お前のサイへの忠誠心は群を抜いてる。あの人の犯行やら能力やらに憧れてる連中は掃いてまとめて
消し炭にしたくなるほどいるが、お前はそいつらと似てるようで微妙に違う。かといってアイと同じか
ってえとそんな感じでもねえ。あの女はどっちかというと、サイ個人って以上にその向こうにある別の
モンを視野に入れてる感じだからな」
「…………」
いい観察眼だ。一ヶ月やそこらの付き合いでの洞察としては最高水準だろう。
それに免じて、少しくらいなら話してやっても構わないと思った。
「俺がサイに従ってるのは……」
放火魔の口の端が愉快そうに吊り上がる。
どんな答えを予想しているかは分からない。だがとりあえずは、それがどんなものであっても意表を
突いている自信があった。葛西の顔を真正面から睨み、仏頂面のままただ一言こう言い放ってやった。
「人間だからだよ」
「にん……?」
「人間。俺が人間で、あの人も人間だからだ」
案の定目をしばたかせる葛西。
「あのよ蛭、俺ぁ若者文化にゃとんと疎い中年のおじさんだからよ。日本語喋ってても通訳してもらわねえと
意味が通じねえこともあんだ。もっとこう分かりやすくよォ」
「自分で考えろよこのくらい。あんたに訳してやる筋合いなんて俺にはこれっぽっちもないんだから」
怪物強盗の名で恐れられるサイ。
犯行の華麗さも残虐さも、人として到達しえる域をとうに超えたと言われている。そして実際その能力も、
単なる人間には決して持ちえない超常の領域深くに踏み込んでいる。
だがその人間離れしているはずのサイの内面が、実はひどく人間臭いことを蛭は知っていた。
欠点だらけで矛盾だらけ。子供のように気まぐれで一貫性がない。常に自信たっぷりかと思いきや
人並みに苦悩もコンプレックスも持っており、巷で囁かれるような完璧な怪盗像とは程遠い。偶像化
された怪盗Xを崇拝する連中は、現実の彼を見れば失望すること請け合いだろう。
だが蛭はむしろそこにこそシンパシーを覚えている。
欠点とコンプレックスにまみれた自分と同じ人間が、常識を超えた力を手に己が目的に邁進する。
彼が立ち向かうのは、その力をもってしても容易ならぬ障害だ。何度も振るい落とされ膝をつきながら、
それでも決して諦めることはない。歯を食いしばり、地についた膝を引き剥がして立ち上がり再び向かっていく。
その姿を仰ぎ見るたび、胸が熱くなるような感覚を覚えるのだ。
陶酔めいた憧れか、あるいは自己投影を孕むカタルシスか。この感覚の組成を冷静に分析できるほど、
蛭はまだ成熟してはいなかったが。
「はあ……人間、人間ねえ……」
首を捻る葛西。どうも納得がいかないらしい。
「お前の目にゃ、あれが人間に見えるのか?」
「あの人が人間じゃなくて他の何だっていうんだよ」
悩むのも苦しむのも、寄る辺となるアイデンティティの欠如に悶えるのも、そこから抜け出すために
死に者狂いで研鑽を続けるのも、人間という生き物にのみ許された特権だ。
その特権があるからこそ、今日に至るまで人間は進化を続けてきた。他のどんな生物よりも速く着実に、
己自身を高めながらここまで来られたのだ。
「はぁ、よく分かんねえがまぁいいか。言葉の定義ってのは人それぞれだよな」
何か引っかかる言い方だったが、会話を手早く終わらせたかったのであえて突っ込みは入れないことにする。
「話はそれで全部か? じゃあ俺は部屋で休むから」
「まあ待てよ蛭」
再びドアノブを捻りかけたとき、ニヤついた声がそれを制止した。
「まだ三分も経っちゃいねえだろうが。ったく最近の若いモンはせっかちでいけねえよ」
「続きやらなきゃならないってさっき言っただろ。アイが帰ってくるまでに出しときたいデータがあるんだよ」
ことさらに苛立った声を出すと、葛西は苦笑ぎみに肩をすくめる。
「やれやれ、しょうがねえ。そういうことならまあ引き下がるが、その前にこれだけ聞かせてくれよ――なあ」
帽子の鍔と額の境目をかりかりと掻きながら、言った。
「そんだけ心酔してるサイに隠し事するってぇのはどんな気分だ?」
「っ!」
顔の筋肉が引き攣った。
上げかけた声を飲み込めたのは奇跡というほかない。
「……何のことだよ」
「火火、とぼけても顔色で丸分かりだぜ。お前は詐欺師にゃ向いてねえな」
じとり、と背中ににじむ汗を感じる。
何故分かったのか。悟られるような言動はしていなかったはずだ。
いや、バレているとは限らない。単なる鎌かけという可能性も残っている。
驚愕を振り払う蛭に、だが葛西はすかさず畳み掛けた。
「まあ、理由は大体想像がつくぜ。今のサイがこれを知ったら、揺れて不安定になるのは目に見えてる。
そうなりゃ計画がスムーズに運ばなくなるし勝てる局面でも勝てなくなる。『あれ』の中身を見るのを
最優先するんなら、全部済むまで可能な限り伏せておくに越したこたぁねえ。ただこりゃお前一人の
発想じゃねえな、あの女とつるんで決めたことか?」
「なっ」
息を呑む。
得体の知れない寒気が足先から這い上がってきた。彼の中の気弱な青年、『依』の名で呼ばれる部分が、
見透かされる恐怖に震えているのが分かった。一方でどこまでも冷静な犯罪者『蛭』は、投げかけられる
言葉の一つ一つを受け止め分析を加えていた。
ハッタリではない、これは確かだ。適当なことを言っているわけではない。
問題は――
「……何であんたがそれを知ってる?」
唇から漏れた声は、自分でも予想外に据わっていた。
言動から嗅ぎ取っただけにしては、微に入り細に渡った鎌かけだ。解析データの流出はありえない。
蛭自身も口外していないし、まさかあのアイが迂闊に漏らすわけもない。同じ情報を掴んでいるはずの
警察も、今のところ混乱を恐れて発表を控えている状況だ。
単なる放火魔でしかないはずの葛西が、どんな経緯でそれを知るに至ったのか。
キャップの鍔の影に隠れた両目が、暗く輝くのが見えた気がした。しかし血管の浮いた手が帽子を被りなおし、
確かに垣今見えたはずのその光をまた見えなくしてしまった。
「火火ッ、そんな怖ぇ顔すんな」
ちびた煙草がぽとりと落ちる。惨めったらしく床に転がり、靴底で軽く踏みにじられる。
「心配すんな、サイに告げ口する気はねえからよ。お前とアイが何を隠してようが、俺にとっちゃあどうでもいい話だ」
「質問に答えろよ、何であんたがそれを知ってるのか聞いてるんだよ。一体どうやって、」
「おいおい、フェアじゃねえなあ。聞いたのは俺が先だろ? 答えもしねえで熱くなってんのはお前じゃねえか」
笑みを漏らす葛西。
「心の底から見上げてる相手を騙くらかすってのは、どんな心境なのか気になってたんだが。
お前がそういう態度なら今聞いてもしょうがねえな、またの機会にお願いするとしようかね」
「葛西! 待て、かさ……」
煙草の燃えカスだけを残し、きびすを返して歩き出す放火魔。
逃がしてなるかと蛭は食い下がる。
だが葛西の後ろ襟を掴んで引き止めようとしたとき、視界が白くぼやけてかすんだ。
あ、と思ったときには遅かった。重心を失った体はくずおれ、床に膝と手をついていた。
極度の眼疲労による立ち眩み。
「葛西! 葛西善二郎! あんたはっ……」
かすむ視界に放火魔の姿は映らない。火火火という特徴的な笑いだけが、青年の耳をなぶって消えていった。
今の時間はどこも無人だ。当然のごとく最も広いサイの部屋。煙草の煙がアジト中にこもらないよう、
換気最優先であてがわれた葛西の部屋。サイに下げ渡された盗品が幅をきかせているアイの部屋。そして、
条件を尋ねられたとき南向きがいいと適当に言ったらその通りになった、蛭自身の部屋。
天井に灯る蛍光灯が眼球を刺す。クリーンベンチの青い紫外線の下で長時間作業をしたためだろう。
一応ゴーグルで目は保護しているが、それでも限度というものがある。
だるさと痛みに悲鳴を上げる目を押さえながら、蛭は自分の部屋のドアノブを捻った。タオルを温めて
目に当てるのが目的だった。原始的だが即効性のある方法だ。
しかし自分のテリトリーに踏み込もうとした瞬間、背後から這い寄るような声が耳に絡みついてきた。
「よお小僧。お疲れみてえだな」
「葛西?」
開けかけたドアを再び閉めなおしながら、蛭は声の主を振り返った。
口元の筋肉が強張るのを感じずにはいられない。
もし自分の体に毛が生えていたら、きっと逆立っていたことだろう。天敵を前にしたイヌ科動物のように。
「身を粉にして働いてるってのに、あの反応じゃあ報われねえよなあ。サイも礼の一つも言ってやりゃいいのに。
ウサギみてえな真っ赤な目しやがって可哀想によ」
妙に優しい猫撫で声に、なおさら口元がひきつった。
「あんなのいつものことさ、慣れてるよ。感謝されたくて協力者やってるわけじゃないし」
「それでも労いの一言二言あったっていいだろうが。お前はもっと評価されるだけの仕事してると思うがねえ」
何だ、この男は。気持ちの悪い。
蛭は露骨に顔をしかめた。
「何の用だよ。目を休めたらすぐ続きにかかりたいんだ、用件なら手短に……」
「まあまあ、そう嫌そうな顔するなよ。お前は俺を嫌いみてえだが、俺の方はそうでもねえんだぜ。
口にすんのも恥ずかしいようなこと平気で言っちまえるケツの青さなんか、うちの甥っ子そっくりでよ。
五分くらいならいいだろ?」
帽子のつばの縁をトントンと叩きながら、葛西。
しかめっ面のまま蛭は躊躇した。気に入らない、そう最大限に気に入らない男ではあるが、それでも
同じサイの足元に跪く協力者であるには違いない。サイに高く買われているらしいことを考えても、
あまり喧嘩ばかり吹っかけるのは好ましくないと思われた。
「まあ五分程度なら」
「火火火。ありがとよ小僧」
「『蛭』だ」
シガーマッチが擦られて煙草が灯り、灰色の煙がふうっと吐かれる。蛍光灯の灯る天井へとのぼっていく。
「――感謝されたくて協力者やってるわけじゃないって言ったが、なら何のためにサイに従ってんだ?」
「は?」
そんなものは蛭の勝手だ。なぜ新参者の葛西などに打ち明けなければならないのだ。
「どうでもいいだろ、そんなこと。大体あんただって同じ穴のムジナだ。他にもアイとか他の協力者連中とか」
「いいや違うね」
ここで葛西は、実に旨そうに煙を吸った。
「お前のサイへの忠誠心は群を抜いてる。あの人の犯行やら能力やらに憧れてる連中は掃いてまとめて
消し炭にしたくなるほどいるが、お前はそいつらと似てるようで微妙に違う。かといってアイと同じか
ってえとそんな感じでもねえ。あの女はどっちかというと、サイ個人って以上にその向こうにある別の
モンを視野に入れてる感じだからな」
「…………」
いい観察眼だ。一ヶ月やそこらの付き合いでの洞察としては最高水準だろう。
それに免じて、少しくらいなら話してやっても構わないと思った。
「俺がサイに従ってるのは……」
放火魔の口の端が愉快そうに吊り上がる。
どんな答えを予想しているかは分からない。だがとりあえずは、それがどんなものであっても意表を
突いている自信があった。葛西の顔を真正面から睨み、仏頂面のままただ一言こう言い放ってやった。
「人間だからだよ」
「にん……?」
「人間。俺が人間で、あの人も人間だからだ」
案の定目をしばたかせる葛西。
「あのよ蛭、俺ぁ若者文化にゃとんと疎い中年のおじさんだからよ。日本語喋ってても通訳してもらわねえと
意味が通じねえこともあんだ。もっとこう分かりやすくよォ」
「自分で考えろよこのくらい。あんたに訳してやる筋合いなんて俺にはこれっぽっちもないんだから」
怪物強盗の名で恐れられるサイ。
犯行の華麗さも残虐さも、人として到達しえる域をとうに超えたと言われている。そして実際その能力も、
単なる人間には決して持ちえない超常の領域深くに踏み込んでいる。
だがその人間離れしているはずのサイの内面が、実はひどく人間臭いことを蛭は知っていた。
欠点だらけで矛盾だらけ。子供のように気まぐれで一貫性がない。常に自信たっぷりかと思いきや
人並みに苦悩もコンプレックスも持っており、巷で囁かれるような完璧な怪盗像とは程遠い。偶像化
された怪盗Xを崇拝する連中は、現実の彼を見れば失望すること請け合いだろう。
だが蛭はむしろそこにこそシンパシーを覚えている。
欠点とコンプレックスにまみれた自分と同じ人間が、常識を超えた力を手に己が目的に邁進する。
彼が立ち向かうのは、その力をもってしても容易ならぬ障害だ。何度も振るい落とされ膝をつきながら、
それでも決して諦めることはない。歯を食いしばり、地についた膝を引き剥がして立ち上がり再び向かっていく。
その姿を仰ぎ見るたび、胸が熱くなるような感覚を覚えるのだ。
陶酔めいた憧れか、あるいは自己投影を孕むカタルシスか。この感覚の組成を冷静に分析できるほど、
蛭はまだ成熟してはいなかったが。
「はあ……人間、人間ねえ……」
首を捻る葛西。どうも納得がいかないらしい。
「お前の目にゃ、あれが人間に見えるのか?」
「あの人が人間じゃなくて他の何だっていうんだよ」
悩むのも苦しむのも、寄る辺となるアイデンティティの欠如に悶えるのも、そこから抜け出すために
死に者狂いで研鑽を続けるのも、人間という生き物にのみ許された特権だ。
その特権があるからこそ、今日に至るまで人間は進化を続けてきた。他のどんな生物よりも速く着実に、
己自身を高めながらここまで来られたのだ。
「はぁ、よく分かんねえがまぁいいか。言葉の定義ってのは人それぞれだよな」
何か引っかかる言い方だったが、会話を手早く終わらせたかったのであえて突っ込みは入れないことにする。
「話はそれで全部か? じゃあ俺は部屋で休むから」
「まあ待てよ蛭」
再びドアノブを捻りかけたとき、ニヤついた声がそれを制止した。
「まだ三分も経っちゃいねえだろうが。ったく最近の若いモンはせっかちでいけねえよ」
「続きやらなきゃならないってさっき言っただろ。アイが帰ってくるまでに出しときたいデータがあるんだよ」
ことさらに苛立った声を出すと、葛西は苦笑ぎみに肩をすくめる。
「やれやれ、しょうがねえ。そういうことならまあ引き下がるが、その前にこれだけ聞かせてくれよ――なあ」
帽子の鍔と額の境目をかりかりと掻きながら、言った。
「そんだけ心酔してるサイに隠し事するってぇのはどんな気分だ?」
「っ!」
顔の筋肉が引き攣った。
上げかけた声を飲み込めたのは奇跡というほかない。
「……何のことだよ」
「火火、とぼけても顔色で丸分かりだぜ。お前は詐欺師にゃ向いてねえな」
じとり、と背中ににじむ汗を感じる。
何故分かったのか。悟られるような言動はしていなかったはずだ。
いや、バレているとは限らない。単なる鎌かけという可能性も残っている。
驚愕を振り払う蛭に、だが葛西はすかさず畳み掛けた。
「まあ、理由は大体想像がつくぜ。今のサイがこれを知ったら、揺れて不安定になるのは目に見えてる。
そうなりゃ計画がスムーズに運ばなくなるし勝てる局面でも勝てなくなる。『あれ』の中身を見るのを
最優先するんなら、全部済むまで可能な限り伏せておくに越したこたぁねえ。ただこりゃお前一人の
発想じゃねえな、あの女とつるんで決めたことか?」
「なっ」
息を呑む。
得体の知れない寒気が足先から這い上がってきた。彼の中の気弱な青年、『依』の名で呼ばれる部分が、
見透かされる恐怖に震えているのが分かった。一方でどこまでも冷静な犯罪者『蛭』は、投げかけられる
言葉の一つ一つを受け止め分析を加えていた。
ハッタリではない、これは確かだ。適当なことを言っているわけではない。
問題は――
「……何であんたがそれを知ってる?」
唇から漏れた声は、自分でも予想外に据わっていた。
言動から嗅ぎ取っただけにしては、微に入り細に渡った鎌かけだ。解析データの流出はありえない。
蛭自身も口外していないし、まさかあのアイが迂闊に漏らすわけもない。同じ情報を掴んでいるはずの
警察も、今のところ混乱を恐れて発表を控えている状況だ。
単なる放火魔でしかないはずの葛西が、どんな経緯でそれを知るに至ったのか。
キャップの鍔の影に隠れた両目が、暗く輝くのが見えた気がした。しかし血管の浮いた手が帽子を被りなおし、
確かに垣今見えたはずのその光をまた見えなくしてしまった。
「火火ッ、そんな怖ぇ顔すんな」
ちびた煙草がぽとりと落ちる。惨めったらしく床に転がり、靴底で軽く踏みにじられる。
「心配すんな、サイに告げ口する気はねえからよ。お前とアイが何を隠してようが、俺にとっちゃあどうでもいい話だ」
「質問に答えろよ、何であんたがそれを知ってるのか聞いてるんだよ。一体どうやって、」
「おいおい、フェアじゃねえなあ。聞いたのは俺が先だろ? 答えもしねえで熱くなってんのはお前じゃねえか」
笑みを漏らす葛西。
「心の底から見上げてる相手を騙くらかすってのは、どんな心境なのか気になってたんだが。
お前がそういう態度なら今聞いてもしょうがねえな、またの機会にお願いするとしようかね」
「葛西! 待て、かさ……」
煙草の燃えカスだけを残し、きびすを返して歩き出す放火魔。
逃がしてなるかと蛭は食い下がる。
だが葛西の後ろ襟を掴んで引き止めようとしたとき、視界が白くぼやけてかすんだ。
あ、と思ったときには遅かった。重心を失った体はくずおれ、床に膝と手をついていた。
極度の眼疲労による立ち眩み。
「葛西! 葛西善二郎! あんたはっ……」
かすむ視界に放火魔の姿は映らない。火火火という特徴的な笑いだけが、青年の耳をなぶって消えていった。
アイが懐から取り出した腕時計の文字盤には、ダイヤモンドの粒が無数に埋め込まれている。
プラチナの文字盤に刻まれた文字を見ると、時刻は零時をまわったところだった。
「似合わん時計だな。お前の趣味か?」
「お答えする義務は特にないと考えます」
怪盗というイメージの維持のために、サイが適当に盗みそのままアイに下げ渡した品の一つだった。
最高の素材を最高の職人が組み上げた、ロットナンバー入りの高級品――とのことだが、世界中の
名品を盗んできた怪盗"X"にしてみればB級品の一言である。身を飾る装飾にまるで興味のないアイは、
単に狂いが出にくいというだけの理由でこれを愛用していた。
「フン、まあどうでもいいがね。それでさっきの話に戻るが」
すげないアイの受け答えに、早坂は軽く鼻を鳴らす。
「≪我鬼≫の捕捉に加えて捕獲にも手を貸す件……受けてやっても構わんぞ」
「それは何よりです。追加報酬に関して何かご要望はおありですか?」
アイの手元にはミニPC。携行性に優れるぶんキーボードが使いにくいのが難点の機種だが、操作面の
ハンデなど彼女のタッチはものともしない。通常のPCと何ら変わらぬ速度で、画面上に文字が打ち込まれていく。
打たれた文字は画面上で自動的に、アイにしか解読できない暗号へと変換される。たとえ脇から覗き込んだとしても、
無意味なアルファベットの羅列としか映らない。そういうプログラムが組まれている。
「最初に提示された額の倍だ。これ以上はビタ一文譲れん。それと」
ここまで言って、早坂は弟に視線をやった。
弟の早坂幸宜は、兄に軽く頷いてみせてから、コツンと指先でこめかみを叩いてみせた。
言い放つのは、冷たい印象を帯びた張りのある声。
「お前の主人と直接話がしたい」
ふっさりと長いアイのまつげが震えた。
「それは……」
「嫌だってんなら、この話はなしだ。もともと俺らが依頼を受けてたのは捜索の方だけなんだからな。
大体こっちはCEOが直接出張ってるってのに、そっちが下っ端のあんた一人ってんじゃ、ビジネスの
流儀からいっても釣り合いがとれねえってもんだろ」
『下っ端』という単語をやけに強調しながら、弟。どうやら挑発のつもりらしい。そんなものにこちらが
軽々しく乗ると、まさか本気で考えているわけもないだろうが。
アイが黙っているのをどう捉えたのか、弟は更に付け加えた。
「それとも何だ? お前の上司は、恥ずかしくて他人の前には出てこれねーような奴なのか?」
すっきりと整った弟の鼻梁を、アイは注視した。
兄とは随分と雰囲気が違う。年が離れているせいもあるが、言われなければこの二人が兄弟とはまず気づくまい。
ただ、鼻筋の整い方は共通していた。兄のサングラスを取り、口元の無理な笑いを消せば、この兄弟は
存外によく似ているのかもしれない。
そのよく似ている兄弟は、経営にあたってはまるで異なる役割を分担している。
兄が舵を取り、弟がそれを守る。会社の頭脳を司る兄の、手足となって弟が動く。
実にバランスの取れた兄弟。
「……良いでしょう。主人の方も、あなた方には興味を抱いています」
PCのエンターキーを押す。文書の入力を終え、アプリケーションを終了する。シャットダウンの選択。
静謐な、だが聞き逃しようのない声でアイは告げた。
「おいで下さい。私どものアジトに」
プラチナの文字盤に刻まれた文字を見ると、時刻は零時をまわったところだった。
「似合わん時計だな。お前の趣味か?」
「お答えする義務は特にないと考えます」
怪盗というイメージの維持のために、サイが適当に盗みそのままアイに下げ渡した品の一つだった。
最高の素材を最高の職人が組み上げた、ロットナンバー入りの高級品――とのことだが、世界中の
名品を盗んできた怪盗"X"にしてみればB級品の一言である。身を飾る装飾にまるで興味のないアイは、
単に狂いが出にくいというだけの理由でこれを愛用していた。
「フン、まあどうでもいいがね。それでさっきの話に戻るが」
すげないアイの受け答えに、早坂は軽く鼻を鳴らす。
「≪我鬼≫の捕捉に加えて捕獲にも手を貸す件……受けてやっても構わんぞ」
「それは何よりです。追加報酬に関して何かご要望はおありですか?」
アイの手元にはミニPC。携行性に優れるぶんキーボードが使いにくいのが難点の機種だが、操作面の
ハンデなど彼女のタッチはものともしない。通常のPCと何ら変わらぬ速度で、画面上に文字が打ち込まれていく。
打たれた文字は画面上で自動的に、アイにしか解読できない暗号へと変換される。たとえ脇から覗き込んだとしても、
無意味なアルファベットの羅列としか映らない。そういうプログラムが組まれている。
「最初に提示された額の倍だ。これ以上はビタ一文譲れん。それと」
ここまで言って、早坂は弟に視線をやった。
弟の早坂幸宜は、兄に軽く頷いてみせてから、コツンと指先でこめかみを叩いてみせた。
言い放つのは、冷たい印象を帯びた張りのある声。
「お前の主人と直接話がしたい」
ふっさりと長いアイのまつげが震えた。
「それは……」
「嫌だってんなら、この話はなしだ。もともと俺らが依頼を受けてたのは捜索の方だけなんだからな。
大体こっちはCEOが直接出張ってるってのに、そっちが下っ端のあんた一人ってんじゃ、ビジネスの
流儀からいっても釣り合いがとれねえってもんだろ」
『下っ端』という単語をやけに強調しながら、弟。どうやら挑発のつもりらしい。そんなものにこちらが
軽々しく乗ると、まさか本気で考えているわけもないだろうが。
アイが黙っているのをどう捉えたのか、弟は更に付け加えた。
「それとも何だ? お前の上司は、恥ずかしくて他人の前には出てこれねーような奴なのか?」
すっきりと整った弟の鼻梁を、アイは注視した。
兄とは随分と雰囲気が違う。年が離れているせいもあるが、言われなければこの二人が兄弟とはまず気づくまい。
ただ、鼻筋の整い方は共通していた。兄のサングラスを取り、口元の無理な笑いを消せば、この兄弟は
存外によく似ているのかもしれない。
そのよく似ている兄弟は、経営にあたってはまるで異なる役割を分担している。
兄が舵を取り、弟がそれを守る。会社の頭脳を司る兄の、手足となって弟が動く。
実にバランスの取れた兄弟。
「……良いでしょう。主人の方も、あなた方には興味を抱いています」
PCのエンターキーを押す。文書の入力を終え、アプリケーションを終了する。シャットダウンの選択。
静謐な、だが聞き逃しようのない声でアイは告げた。
「おいで下さい。私どものアジトに」