フィーアのすらりとした細く長い足を、赤い光が覆っていく。
魔力を帯びた光は凝縮し、形を現す。
そして、彼女の足先から大腿部にかけて――先鋭的な形状をし、軽装な鎧にも似た、"赤い靴"が形成されていた。
魔力を帯びた光は凝縮し、形を現す。
そして、彼女の足先から大腿部にかけて――先鋭的な形状をし、軽装な鎧にも似た、"赤い靴"が形成されていた。
"赤い靴"――それはグルマルキンが用意したフィーア専用の魔術礼装だ。
使用者に一瞬で千里先まで駆け抜ける俊足を約束し、また無尽蔵に魔力が供給され続ければ、理論上、音速にまで達することさえできる。
使用者に一瞬で千里先まで駆け抜ける俊足を約束し、また無尽蔵に魔力が供給され続ければ、理論上、音速にまで達することさえできる。
そしてフィーアは走り出した。
と同時に、"赤い靴"が起動し、その使用の際の独特な感覚が、彼女の全身を支配した。
自分以外のすべてが遅くなる感覚。自分が世界から取り残され、ひとりきりになるような感覚。だが、怖れはなかった。
彼女を突き動かしているのは、任務への使命感。そこにゆらぎは一切ない。
と同時に、"赤い靴"が起動し、その使用の際の独特な感覚が、彼女の全身を支配した。
自分以外のすべてが遅くなる感覚。自分が世界から取り残され、ひとりきりになるような感覚。だが、怖れはなかった。
彼女を突き動かしているのは、任務への使命感。そこにゆらぎは一切ない。
音の壁を突破したフィーアは、憲兵隊の陣地に切り込んだ。
ソニックブームが彼女の周囲に発生し、その衝撃で憲兵隊の何人かが吹き飛ばされる。
隊列を崩された混乱を突き、フィーアは的確に敵を排除していく。
華麗な足捌きで死の舞踏を踊り、"赤い靴"で敵の命を刈り取る。
フィーアの真紅に染まった足が、憲兵隊の喉を切り裂き、心臓を穿ち、等しく死を刻み込んでいく。
いくつもの悲鳴と、血飛沫があがった。
ソニックブームが彼女の周囲に発生し、その衝撃で憲兵隊の何人かが吹き飛ばされる。
隊列を崩された混乱を突き、フィーアは的確に敵を排除していく。
華麗な足捌きで死の舞踏を踊り、"赤い靴"で敵の命を刈り取る。
フィーアの真紅に染まった足が、憲兵隊の喉を切り裂き、心臓を穿ち、等しく死を刻み込んでいく。
いくつもの悲鳴と、血飛沫があがった。
「……」
フィーアは無言で返り血を拭った。
長い金髪を後ろにまとめ、切れ長の碧眼を持ち、端正な顔立ちをした彼女のその仕草には、疲労の色が濃い。
いままでの襲撃した施設よりも、動員されている憲兵隊の人数は桁違いだ。
いくら超人的な技能を持つといえども、身体的には人間に過ぎない彼女にとって、精神と肉体の疲弊は免れない。
だからだろう。フィーアは失念していた。
人間は思ったよりも死にがたい、ということを。
「こ、の……怪物め……!」
長い金髪を後ろにまとめ、切れ長の碧眼を持ち、端正な顔立ちをした彼女のその仕草には、疲労の色が濃い。
いままでの襲撃した施設よりも、動員されている憲兵隊の人数は桁違いだ。
いくら超人的な技能を持つといえども、身体的には人間に過ぎない彼女にとって、精神と肉体の疲弊は免れない。
だからだろう。フィーアは失念していた。
人間は思ったよりも死にがたい、ということを。
「こ、の……怪物め……!」
怨念に満ちた声がフィーアの背後から響いた。殺しきれなかった人間がいたのだ。
喉に傷を負った憲兵隊員が、鬼気迫る顔でフィーアに銃口を向ける。
喉に傷を負った憲兵隊員が、鬼気迫る顔でフィーアに銃口を向ける。
「ッ……!」
フィーアの表情が驚愕に固まる。咄嗟に振り向き、止めを刺そうとするが、間に合わない。人間に知覚不能な動きができるとはいえ、
"赤い靴"の起動には若干のタイムラグがある。僅かの差で、憲兵隊員の引き金を引く指の方が早い。
"赤い靴"の起動には若干のタイムラグがある。僅かの差で、憲兵隊員の引き金を引く指の方が早い。
「く……!」
銃弾が心臓を貫き、死が訪れる瞬間を覚悟する。だが――
電動ノコギリのような唸りが、その憲兵隊員を薙ぎ払い、フィーアの危機を救った。
電動ノコギリのような唸りが、その憲兵隊員を薙ぎ払い、フィーアの危機を救った。
「油断するな、フィーア」
狼頭のW/SS(武装親衛隊)――ツヴァイが立っていた。
その両手には、二挺のMG42機関銃が、重厚な鋼鉄の輝きを放っている。
その両手には、二挺のMG42機関銃が、重厚な鋼鉄の輝きを放っている。
「常にまわりに気を配れ。あらゆる可能性を追求するんだ。撃ち漏らした敵が死体の山に隠れている場合もある。
冷静さと判断力をなくせば、あとには死が待っているだけだ」
「……すまない」
冷静さと判断力をなくせば、あとには死が待っているだけだ」
「……すまない」
フィーアは悔しげに唇を噛む。自分の落ち度で、また仲間の手を煩わせてしまった。
御伽噺部隊に入隊して以来、幾度も困難な任務を経験してきたが、まだまだ歴戦の勇士であるツヴァイには及ばない。
いつまでも未熟なままの自分が情けない。
入隊した時期でいえば、自分が一番の新顔で、だからこそ刻苦精励する必要があるというのに……。
苦渋に染まるフィーアの表情を見て、ツヴァイは彼女が何を考えているのかをすぐに悟った。
昨日今日の付き合いではない。彼女は責任感が強く、何か失敗を犯してしまうと、すぐ自己嫌悪に陥ってしまう。
隊を預かるものとして、仲間の精神のアフターケアも、ツヴァイの任務の一つだ。
御伽噺部隊に入隊して以来、幾度も困難な任務を経験してきたが、まだまだ歴戦の勇士であるツヴァイには及ばない。
いつまでも未熟なままの自分が情けない。
入隊した時期でいえば、自分が一番の新顔で、だからこそ刻苦精励する必要があるというのに……。
苦渋に染まるフィーアの表情を見て、ツヴァイは彼女が何を考えているのかをすぐに悟った。
昨日今日の付き合いではない。彼女は責任感が強く、何か失敗を犯してしまうと、すぐ自己嫌悪に陥ってしまう。
隊を預かるものとして、仲間の精神のアフターケアも、ツヴァイの任務の一つだ。
「そう自分を卑下するな。お前はまだ若い。成長の余地は十分にある。
それにお前は、失敗を次に生かそうとしているじゃないか。もっとそれを誇れ。
じきにお前は、私などより、よほどいい戦士になれる」
それにお前は、失敗を次に生かそうとしているじゃないか。もっとそれを誇れ。
じきにお前は、私などより、よほどいい戦士になれる」
微笑を浮かべながら、ツヴァイは言う。
――フィーアはいつも疑問に思う。ツヴァイの言葉を。
彼女は自分を高く買ってくれているが、とてもそうは思えない。
自分は、欠点だらけだ。
すぐに激昂してしまう癖があったし、ツヴァイのように冷静に戦況を見極められる洞察力もない。
ツヴァイだけではない、自分が欠けている要素を、他の御伽噺部隊のメンバーは持っている。
少しでも彼女らに追いつけるよう努力しているが、まだ足を引っ張っているという自覚がある。
しかし、いつまでも足手まといでいる気は、ない。
――フィーアはいつも疑問に思う。ツヴァイの言葉を。
彼女は自分を高く買ってくれているが、とてもそうは思えない。
自分は、欠点だらけだ。
すぐに激昂してしまう癖があったし、ツヴァイのように冷静に戦況を見極められる洞察力もない。
ツヴァイだけではない、自分が欠けている要素を、他の御伽噺部隊のメンバーは持っている。
少しでも彼女らに追いつけるよう努力しているが、まだ足を引っ張っているという自覚がある。
しかし、いつまでも足手まといでいる気は、ない。
「ありがとう、ツヴァイ。あなたの期待に報いることができるよう、全力を尽くす」
「その意気だ。過去のことよりも、未来のことを思え。それに、ここからが本番だ。
スプリガン――今度こそ奴らが、網にかかってくれるかもしれん」
「その意気だ。過去のことよりも、未来のことを思え。それに、ここからが本番だ。
スプリガン――今度こそ奴らが、網にかかってくれるかもしれん」
その名を聞き、フィーアは緊張に身をこわばらせた。
スプリガン――その名を聞いて畏怖しない者はいない。
危険極まりない"遺跡"を封印し、数多の組織を退けてきた彼らの実力は、フィーアも十分に理解している。
だからこそ、鋼の如き覚悟をもって、戦いに身を投じねば。
スプリガン――その名を聞いて畏怖しない者はいない。
危険極まりない"遺跡"を封印し、数多の組織を退けてきた彼らの実力は、フィーアも十分に理解している。
だからこそ、鋼の如き覚悟をもって、戦いに身を投じねば。
「ああ……わかっている。大佐の目的のためにも、そして第三帝国の復活のためにも、わたしは必ず奴らを……」
そのとき、フィーアの親衛隊制服のポケットが振動した。
その中には、機関電信(エンジンフォン)が入っている。
グルマルキンから御伽噺部隊全員に支給された、携帯可能な小型の電話機で、驚いたことに蒸気機関で動いているのだという。
通話主はフュンフと、機関電信の液晶には表示が出ていた。
その中には、機関電信(エンジンフォン)が入っている。
グルマルキンから御伽噺部隊全員に支給された、携帯可能な小型の電話機で、驚いたことに蒸気機関で動いているのだという。
通話主はフュンフと、機関電信の液晶には表示が出ていた。
(まさか――)
機関電信の使用は、非常時以外禁じられている。
その緊急の通信が意味するもの、それは――現在、別の憲兵隊施設を襲撃しているフュンフとゼクスに、何かが起きたということだ。
喪失への強い焦燥感が、フィーアの心を満たした。慌てて機関電信を取り出し、通話ボタンを押す。
その緊急の通信が意味するもの、それは――現在、別の憲兵隊施設を襲撃しているフュンフとゼクスに、何かが起きたということだ。
喪失への強い焦燥感が、フィーアの心を満たした。慌てて機関電信を取り出し、通話ボタンを押す。
「フュンフどうした、いったい何があった!?」
『あ、つながったわ! すごいわねこれ。本当にフィーアの声が聞こえるわ!』
『あ、つながったわ! すごいわねこれ。本当にフィーアの声が聞こえるわ!』
フィーアの危惧を吹き飛ばすほどの、フュンフの快活な声が耳に届く。その調子には、不吉な事態を予感させる陰はない。
通話相手に気づかれぬよう、安堵の息と「よかった」という言葉を、フィーアは漏らした。
通話相手に気づかれぬよう、安堵の息と「よかった」という言葉を、フィーアは漏らした。
『こっちはいま休憩中よ。ゼクスといっしょに、糖蜜たっぷりの紅茶でちょっと早めのアフタヌーンティを楽しんでいるわ。
殺戮(ホロコースト)の後はやっぱりこれね。気分がおちつくわ』
「そうか……いや待てフュンフ。お茶会を開いているということは、もう殲滅は終わったのか?」
『フィーアはもう耳が遠くなっちゃったの? 休憩だっていったでしょ。まだまだ兵隊さんはたくさんいるわ。銃声がひっきりなしに
耳に届いてうるさいったら(チィン!)……あ……カップの中に銃弾が……』
ずず、と何かを啜る音。
『……不味い。だめね、銃弾入りの紅茶は。鉄の味が強すぎるわ。わたし、やっぱり甘いのが好き。フィーア達もはやく片づけてこっちに
来ればいいわ。わたしがいれたとびきり美味しい紅茶を……』
「……真面目にやれ!」
殺戮(ホロコースト)の後はやっぱりこれね。気分がおちつくわ』
「そうか……いや待てフュンフ。お茶会を開いているということは、もう殲滅は終わったのか?」
『フィーアはもう耳が遠くなっちゃったの? 休憩だっていったでしょ。まだまだ兵隊さんはたくさんいるわ。銃声がひっきりなしに
耳に届いてうるさいったら(チィン!)……あ……カップの中に銃弾が……』
ずず、と何かを啜る音。
『……不味い。だめね、銃弾入りの紅茶は。鉄の味が強すぎるわ。わたし、やっぱり甘いのが好き。フィーア達もはやく片づけてこっちに
来ればいいわ。わたしがいれたとびきり美味しい紅茶を……』
「……真面目にやれ!」
フィーアの怒りが有頂天に……いや、頂点に達した。
「お茶会は任務の後にしろ! というか、そんなことを伝えるためだけに機関電信を使ったのか!?」
「そんなことってなに!? 前から言いたかったんですけどね、フィーアには余裕ってものが無いのよ。……まあいいわ。それに、
わたしの"悪夢"ならこいつらなんてすぐに皆殺しにできるわ。トランプの兵隊さんがレギオンの号令で突撃して、バンダースナッチが
火を噴けば、それでもうおしまい。フィーアが心配することなんて、なんにもないのよ」
「しかしだな……!」
「あ! バッテリーが切れ掛かってるわ。それじゃ、またね~」
「そんなことってなに!? 前から言いたかったんですけどね、フィーアには余裕ってものが無いのよ。……まあいいわ。それに、
わたしの"悪夢"ならこいつらなんてすぐに皆殺しにできるわ。トランプの兵隊さんがレギオンの号令で突撃して、バンダースナッチが
火を噴けば、それでもうおしまい。フィーアが心配することなんて、なんにもないのよ」
「しかしだな……!」
「あ! バッテリーが切れ掛かってるわ。それじゃ、またね~」
ぶつり、と一方的に通話が切られる。
「あ、おい、フュンフ! まったくあいつは……!」
不通を示す電信音が鳴る機関電信を、フィーアは我慢ならないといった表情で睨みつける。
その様子を見ていたツヴァイが、くくく、と笑いを漏らした。
その様子を見ていたツヴァイが、くくく、と笑いを漏らした。
「お前はフュンフのことになると、いつも我を忘れる。こればっかりは、治しようがないな」
「な……!?」
「な……!?」
いきなり彼女は何を言うのか――フィーアは真っ赤になって否定する。
「ち、違う! わたしは、規律を乱す行動が許せないだけだ! 名誉と忠誠、そして鋼の意志で戦い抜く、それが親衛隊の美徳のはずだ。
あいつにはそれがない!
そもそもあいつは、いつも危なっかしいんだ。前の任務だって、わたしが助けてやらなかったら、どうなっていたか……!」
あいつにはそれがない!
そもそもあいつは、いつも危なっかしいんだ。前の任務だって、わたしが助けてやらなかったら、どうなっていたか……!」
そこまで言い切ってからフィーアは、しまった、という顔をつくる。
「ほら、私の言ったとおりだろ?」
「……うぅ」
「……うぅ」
フィーアは何も言えなくなった。そんな彼女の肩を、ぽんとツヴァイは叩く。
「心配なのはわかるが、もっとフュンフを信頼してやれ。ああ見えて、彼女は立派な戦士だ。さすがに御伽噺部隊のナンバーを大佐から
賜っただけのことはある」
「……」
「心配なのはわかるが、もっとフュンフを信頼してやれ。ああ見えて、彼女は立派な戦士だ。さすがに御伽噺部隊のナンバーを大佐から
賜っただけのことはある」
「……」
――それでも、不安の種は尽きない。
あのスプリガンを相手にしなければならない以上、御伽噺部隊の誰かが、命を落とす可能性がある。
(だが、そんなことは、絶対にさせない)
フィーアは強くそう思う。
(――これ以上、"家族"を失ってなるものか)
あのスプリガンを相手にしなければならない以上、御伽噺部隊の誰かが、命を落とす可能性がある。
(だが、そんなことは、絶対にさせない)
フィーアは強くそう思う。
(――これ以上、"家族"を失ってなるものか)
そのとき、フィーアの背後からナイフを持った何者かが襲いかかった。
息を潜めていた憲兵隊員が、会話を交わしていたフィーアとツヴァイの隙をついて、奇襲を仕掛けたのだ。
しかし、フィーアは既にそれを察知していた。赤い靴は使わず、その襲撃に対処する。
身を丸めナイフを回避し、腕を取って、柔術の要領で敵の体勢を崩し、地面へ叩きつける。
息を潜めていた憲兵隊員が、会話を交わしていたフィーアとツヴァイの隙をついて、奇襲を仕掛けたのだ。
しかし、フィーアは既にそれを察知していた。赤い靴は使わず、その襲撃に対処する。
身を丸めナイフを回避し、腕を取って、柔術の要領で敵の体勢を崩し、地面へ叩きつける。
「ぐあ……!」
「……背後からならば殺せるとでも思ったか?」
「……背後からならば殺せるとでも思ったか?」
フィーアは冷酷に言い放ち、腕の関節を極め、動きを封じる。
その奇襲が合図だったのか、憲兵隊の施設からの攻撃が再開された。
二人は物陰に隠れ、銃弾の雨を凌ぐ。
すぐさまツヴァイがMG42機関銃で応戦し、フィーアは奇襲に失敗した憲兵隊員を始末するべく赤い靴を起動させる。
その奇襲が合図だったのか、憲兵隊の施設からの攻撃が再開された。
二人は物陰に隠れ、銃弾の雨を凌ぐ。
すぐさまツヴァイがMG42機関銃で応戦し、フィーアは奇襲に失敗した憲兵隊員を始末するべく赤い靴を起動させる。
「スプリガンはどうした」
フィーアはそう憲兵隊員に問い掛けた。
返答はない。しかし、その顔は恐怖で引きつっている。
返答はない。しかし、その顔は恐怖で引きつっている。
「お前達を見捨てたか。それとも、怖気づいたか。フン、どちらにしろお前の命運は尽きたな。怨むなら、スプリガンを怨め」
そして、関節を極めたまま、"赤い靴"で心臓を貫こうとして――
そして、関節を極めたまま、"赤い靴"で心臓を貫こうとして――
「俺ならここにいるぜ」
――横合いから、何者かに頬を殴り飛ばされた。
「がッ!?」
完全に虚をつかれた一撃に、フィーアはなす術もなく吹っ飛ばされる。
「フィーア!」
――横合いから、何者かに頬を殴り飛ばされた。
「がッ!?」
完全に虚をつかれた一撃に、フィーアはなす術もなく吹っ飛ばされる。
「フィーア!」
憲兵隊からの反撃に意識を奪われていたのか、その何者かの接近に気がつかなかったツヴァイが驚愕の声をあげる。
「あ、あんたは……」
「すまん、遅れた。もうあんたらは下がってていいぜ。後は……」
「すまん、遅れた。もうあんたらは下がってていいぜ。後は……」
憲兵隊員に手を貸す、まだ顔立ちに幼さが残る東洋人の少年。
だが彼こそが、スプリガンでもトップクラスの実力を持つ人間――御神苗優だった。
だが彼こそが、スプリガンでもトップクラスの実力を持つ人間――御神苗優だった。
「こいつらの相手は、俺がする」
静かな言葉――だが、その裏には確固たる意志が存在していた。
その気迫に、フィーアとツヴァイは圧倒された。だから逃げていく憲兵隊員に追撃を仕掛けなかった。いや、できなかった。
そして、銃声が止む。
おそらくスプリガン到着の報を受け取った憲兵隊の将校が、彼らの戦いの邪魔にならないよう攻撃の中止を下したのだろう。
その気迫に、フィーアとツヴァイは圧倒された。だから逃げていく憲兵隊員に追撃を仕掛けなかった。いや、できなかった。
そして、銃声が止む。
おそらくスプリガン到着の報を受け取った憲兵隊の将校が、彼らの戦いの邪魔にならないよう攻撃の中止を下したのだろう。
――優はしばらく無言だった。
優の立つ場所には、たくさんの憲兵隊の死体が転がっている。
どの死体にも、無念の表情が浮かんでいた。
彼らにも、家族がいたはずだ。愛するものがいたはずだ。
もう、彼らがその人々と言葉を交わすことはない。
彼らの未来のすべては、永遠に絶たれたのだ。
――絶対に許せることではなかった。
「遅かったな、スプリガン。しかし、ずいぶんとのろまなんだな、お前達は」
そう言って、フィーアは立ち上がる。
「てっきり逃げ出したのかと思ったぞ」
「俺達がそんなことするわけねーだろ。それにな……」
ぎり、と優はフィーアを睨む。
「こんなに人殺しをする奴らを、このまま放っておけるかよ」
「フン。やむをえなかった犠牲だ。大佐の目的の達成、そして第三帝国の復活のためにはな」
「……そうかよ。ならなおさら、放ってはおけねーな。そんな理由で人を殺す、他人の痛みに鈍感なお前らはよ」
優の立つ場所には、たくさんの憲兵隊の死体が転がっている。
どの死体にも、無念の表情が浮かんでいた。
彼らにも、家族がいたはずだ。愛するものがいたはずだ。
もう、彼らがその人々と言葉を交わすことはない。
彼らの未来のすべては、永遠に絶たれたのだ。
――絶対に許せることではなかった。
「遅かったな、スプリガン。しかし、ずいぶんとのろまなんだな、お前達は」
そう言って、フィーアは立ち上がる。
「てっきり逃げ出したのかと思ったぞ」
「俺達がそんなことするわけねーだろ。それにな……」
ぎり、と優はフィーアを睨む。
「こんなに人殺しをする奴らを、このまま放っておけるかよ」
「フン。やむをえなかった犠牲だ。大佐の目的の達成、そして第三帝国の復活のためにはな」
「……そうかよ。ならなおさら、放ってはおけねーな。そんな理由で人を殺す、他人の痛みに鈍感なお前らはよ」
そう言って優は、姿勢をわずかに低くし、一歩前へ踏み込む。
それは、まるで引き絞られた弓矢のようで、少しのきっかけで爆発的な速度をもって敵の喉元に向けて解き放たれる、
そんな攻撃性を秘めていた。
そして――
それは、まるで引き絞られた弓矢のようで、少しのきっかけで爆発的な速度をもって敵の喉元に向けて解き放たれる、
そんな攻撃性を秘めていた。
そして――
「お前らが好き勝手できるのもここまでだぜ、ナチ野郎!」
「いいだろう、来い! 大佐の障害は、すべて排除する!」
「いいだろう、来い! 大佐の障害は、すべて排除する!」
その宣言と共に――オリハルコンナイフを抜き放った優と、赤い靴を起動させたフィーアが、激突した。