―――天空神・オシリス。闇夜を斬り裂き、雄々しく翔けるその姿を、ソフィア達も目撃していた。
「あれは…一体、何だというの…?」
常に泰然としているソフィアですら、それには唖然とする他なかった。完全に己の理解を越えた世界だった。
「神…」
小さく呟く声。それは、フィリスが漏らしたものだった。彼女は大怪我しているにも関わらずに身を起こし、畏敬
に震えていた。
「ああ…神よ…天空より来たれり偉大なる龍神よ…矮小なる我が身にひしひしと感じます、貴柱(あなた)の悪を
憎む御心と、正しき怒りを…か弱き我らのために、そして悪を断つために来てくださったのですね…」
なんか目がちょっとイっちゃってる感じだった。ソフィアはちょっぴり彼女から距離を取る。その時だ。
「あれは…一体、何だというの…?」
常に泰然としているソフィアですら、それには唖然とする他なかった。完全に己の理解を越えた世界だった。
「神…」
小さく呟く声。それは、フィリスが漏らしたものだった。彼女は大怪我しているにも関わらずに身を起こし、畏敬
に震えていた。
「ああ…神よ…天空より来たれり偉大なる龍神よ…矮小なる我が身にひしひしと感じます、貴柱(あなた)の悪を
憎む御心と、正しき怒りを…か弱き我らのために、そして悪を断つために来てくださったのですね…」
なんか目がちょっとイっちゃってる感じだった。ソフィアはちょっぴり彼女から距離を取る。その時だ。
「フン…オシリスを召喚せねばならんほどの敵がいるとは思えんがな。遊戯の奴め、余程腹に据えかねることでも
あったか…」
あったか…」
怜悧な響きの声に振り向くと、そこには二人の男が立っていた―――
―――眼前で行われた、圧倒的なまでの断罪劇。それは残された兵士達から、戦意を根こそぎ奪っていた。
「あの力…まさに神という他ない…」
へなへなと地面に座り込んだ兵士が、絶望を通り越して笑いさえ浮かべて呟く。地面にはほかほかと湯気を立てて
異臭を放つ水溜りが広がり始めていた。
「な、ならば…それを従える、あの小僧は一体…」
「…神だ…そうに違いない…」
兵士の一人が遊戯を指差し、呟いた。
「あの御方は…神域を侵した我らを罰するために光臨なされた、神の化身に違いない…!」
「やはり、神域を穢してはならなかったのだ…」
「星女神様が、御怒りになっておられるのだ…」
「お、御赦し下さい…どうか、罪深き我らを、御赦しに…」
兵士達はもはや怯えながら地に頭を擦り付け、ただひたすらに赦しを乞うのみだ。
「失せろ!」
闇遊戯の怒号が響く。それだけで兵士たちは、雷に撃たれたかのように縮こまった。
「オレは<神>なんかじゃない…大切な友を傷つけられ、悲しみ、怒る、一人の<人間>だ…」
そして、咆哮するオシリスを背に、宣告する。
「オレの視界から、一分以内に消え失せやがれ!それを過ぎて一人でもここにまだ居座るなら、もう容赦しねえ!
貴様らまとめて冥府に叩き落としてやる!」
「ひ…ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!!」
「ま、待ってくれぇっ!」
まさに蜘蛛の子を散らすがごとく、兵士達は一目散に逃げていく。かくて闇遊戯の宣告の通り、一分以内に全員が
逃げ去っていた。
「へっ!ざまー見やがれ、バカ野郎共!二度とこの島に来るんじゃねーぞ!」
「悪は滅びよ、このオリオン様がいる限り、正義は常に勝つ!ふはははは!」
城之内とオリオンは中指を突き立てながら、大笑いする。
「…みんな」
「お、ミーシャ!お互いヤバかったけど、もう安心だぜ。遊戯に感謝しねーとな」
「おいおい、城之内よ。俺にも感謝しろよ?」
オリオンが口を尖らせる。城之内もにかっと笑った。
「分かってるさ。助かったぜ、オリオン」
「うむ。素直でよろしい」
オリオンと城之内は、顔を見合わせ笑いあった。そこに闇遊戯もやってくる。
「城之内くん!無事…とは言い難いが、とにかくまた会えたな。相棒も喜んでるぜ」
「おう。また後でじっくり話をしねえとな。色々あったからなあ、オレも…」
城之内は感慨深げに頷く。そこに、ミーシャが遠慮がちに声をかけた。
「…みんな。ごめんなさい」
「ん?どうしたよ、謝ったりして」
「だって…私のせいで、みんなに迷惑をかけてしまって…」
「アホか、お前」
オリオンがぞんざいな口調で、ミーシャを遮った。
「俺達全員、自分で勝手にやりたいようにやっただけだ。ごめんなさいなんて言葉、聞きたくねーよ」
「でも…それなら、どう言えばいいの?」
「決まってんだろ。ありがとう、って、それだけ言えばいいんだよ」
「それで…いいの?」
「いいに決まってるだろ」
城之内がそう続けた。
「オレらは、友達だろうが―――助けてくれた友達には、ありがとうって、それだけでいいんだよ」
その言葉に、オリオンと闇遊戯も頷いた。ミーシャもそれでようやく、少しだけ笑った。
「…ありがとう。城之内、オリオン。それに…」
「武藤遊戯だ。遊戯でいいぜ」
「ありがとう―――遊戯」
そこにレッドアイズもやってくる。ミーシャに鼻先を寄せ、甘えたように鼻を鳴らしている。さらにふわふわと
漂っていたクリボー達もクリクリ鳴きながら闇遊戯の周囲に集まってくる。
「ボクらも褒めて」といったところか?ミーシャは笑って、レッドアイズの頭を撫でた。闇遊戯もクリボー達に
労いの笑みを向ける。
「分かってるわよ。ありがとう、レッドアイズ」
「クリボー。お前達のおかげで城之内くん達を守れたよ」
その言葉を聴いて、彼らは満足げに一声鳴いて消えていった。同時にオシリス達も消えていく―――
闘いは、終わったのだ。
「ありゃ…あのカワイコちゃんも消えちゃったの?もったいない…」
オリオンが残念そうに指を鳴らす。城之内は小声で遊戯に耳打ちする。
「おい、遊戯。こいつに頼まれてもBMGを召喚するなよ。間違いが起きるぜ」
「ああ、分かってる」
闇遊戯も真面目くさった顔で答える。ミーシャは呆れたようにそっぽを向いてしまった。その時。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
「―――!?」
地獄から響いてくるような怒号に思わず振り返れば―――黒焦げになったはずのスコルピオスが、全身に大火傷
を負いながらも、立ち上がるところだった。
「まさか…オシリスの攻撃を受けて、生きているだと…!?」
「く、く、くくく…確かに…凄まじい力だった…だが私とて、雷神の加護を受ける…アルカディアの武人―――
あの攻撃もまた、雷の力…ならばこそ、耐えられようというもの…」
「くっ!やはりオベリスクで挽き肉にするか、ラーで消し炭にするべきだったぜ…!」
選択を誤ったことを知り、闇遊戯は舌打ちする。スコルピオスは笑みすら浮かべ、ゆっくり近づいてくる。
「神…あれが…神か…素晴らしい…あれが…神の力…ふふふ…くはははは…」
その場の全員が戦慄した。目の前のこの男は、確かにどうしようもない悪党で、外道だ。
しかし悪党が信念を持たぬわけではない。外道が意地を見せぬわけではない。それがオシリスの力を受けてなお
彼を突き動かしているのだ。善悪を越えた―――揺るぎない意志。それを、この場の誰もが感じていた。
「力…神の、力…星女神の巫女を、殺せば…私にも、神の力が…」
「バカか、てめえ!そんな身体で、しかも手下も全員逃げ出した。こっちにはオレとオリオン、遊戯だっている。
これでまだ、ミーシャを生贄にするなんてほざくつもりかよ!?」
「それが…どうした…私には…神の力が必要…そのために命を捨てる覚悟など…とうに済ませておるわぁぁっ!」
「あの力…まさに神という他ない…」
へなへなと地面に座り込んだ兵士が、絶望を通り越して笑いさえ浮かべて呟く。地面にはほかほかと湯気を立てて
異臭を放つ水溜りが広がり始めていた。
「な、ならば…それを従える、あの小僧は一体…」
「…神だ…そうに違いない…」
兵士の一人が遊戯を指差し、呟いた。
「あの御方は…神域を侵した我らを罰するために光臨なされた、神の化身に違いない…!」
「やはり、神域を穢してはならなかったのだ…」
「星女神様が、御怒りになっておられるのだ…」
「お、御赦し下さい…どうか、罪深き我らを、御赦しに…」
兵士達はもはや怯えながら地に頭を擦り付け、ただひたすらに赦しを乞うのみだ。
「失せろ!」
闇遊戯の怒号が響く。それだけで兵士たちは、雷に撃たれたかのように縮こまった。
「オレは<神>なんかじゃない…大切な友を傷つけられ、悲しみ、怒る、一人の<人間>だ…」
そして、咆哮するオシリスを背に、宣告する。
「オレの視界から、一分以内に消え失せやがれ!それを過ぎて一人でもここにまだ居座るなら、もう容赦しねえ!
貴様らまとめて冥府に叩き落としてやる!」
「ひ…ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!!」
「ま、待ってくれぇっ!」
まさに蜘蛛の子を散らすがごとく、兵士達は一目散に逃げていく。かくて闇遊戯の宣告の通り、一分以内に全員が
逃げ去っていた。
「へっ!ざまー見やがれ、バカ野郎共!二度とこの島に来るんじゃねーぞ!」
「悪は滅びよ、このオリオン様がいる限り、正義は常に勝つ!ふはははは!」
城之内とオリオンは中指を突き立てながら、大笑いする。
「…みんな」
「お、ミーシャ!お互いヤバかったけど、もう安心だぜ。遊戯に感謝しねーとな」
「おいおい、城之内よ。俺にも感謝しろよ?」
オリオンが口を尖らせる。城之内もにかっと笑った。
「分かってるさ。助かったぜ、オリオン」
「うむ。素直でよろしい」
オリオンと城之内は、顔を見合わせ笑いあった。そこに闇遊戯もやってくる。
「城之内くん!無事…とは言い難いが、とにかくまた会えたな。相棒も喜んでるぜ」
「おう。また後でじっくり話をしねえとな。色々あったからなあ、オレも…」
城之内は感慨深げに頷く。そこに、ミーシャが遠慮がちに声をかけた。
「…みんな。ごめんなさい」
「ん?どうしたよ、謝ったりして」
「だって…私のせいで、みんなに迷惑をかけてしまって…」
「アホか、お前」
オリオンがぞんざいな口調で、ミーシャを遮った。
「俺達全員、自分で勝手にやりたいようにやっただけだ。ごめんなさいなんて言葉、聞きたくねーよ」
「でも…それなら、どう言えばいいの?」
「決まってんだろ。ありがとう、って、それだけ言えばいいんだよ」
「それで…いいの?」
「いいに決まってるだろ」
城之内がそう続けた。
「オレらは、友達だろうが―――助けてくれた友達には、ありがとうって、それだけでいいんだよ」
その言葉に、オリオンと闇遊戯も頷いた。ミーシャもそれでようやく、少しだけ笑った。
「…ありがとう。城之内、オリオン。それに…」
「武藤遊戯だ。遊戯でいいぜ」
「ありがとう―――遊戯」
そこにレッドアイズもやってくる。ミーシャに鼻先を寄せ、甘えたように鼻を鳴らしている。さらにふわふわと
漂っていたクリボー達もクリクリ鳴きながら闇遊戯の周囲に集まってくる。
「ボクらも褒めて」といったところか?ミーシャは笑って、レッドアイズの頭を撫でた。闇遊戯もクリボー達に
労いの笑みを向ける。
「分かってるわよ。ありがとう、レッドアイズ」
「クリボー。お前達のおかげで城之内くん達を守れたよ」
その言葉を聴いて、彼らは満足げに一声鳴いて消えていった。同時にオシリス達も消えていく―――
闘いは、終わったのだ。
「ありゃ…あのカワイコちゃんも消えちゃったの?もったいない…」
オリオンが残念そうに指を鳴らす。城之内は小声で遊戯に耳打ちする。
「おい、遊戯。こいつに頼まれてもBMGを召喚するなよ。間違いが起きるぜ」
「ああ、分かってる」
闇遊戯も真面目くさった顔で答える。ミーシャは呆れたようにそっぽを向いてしまった。その時。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」
「―――!?」
地獄から響いてくるような怒号に思わず振り返れば―――黒焦げになったはずのスコルピオスが、全身に大火傷
を負いながらも、立ち上がるところだった。
「まさか…オシリスの攻撃を受けて、生きているだと…!?」
「く、く、くくく…確かに…凄まじい力だった…だが私とて、雷神の加護を受ける…アルカディアの武人―――
あの攻撃もまた、雷の力…ならばこそ、耐えられようというもの…」
「くっ!やはりオベリスクで挽き肉にするか、ラーで消し炭にするべきだったぜ…!」
選択を誤ったことを知り、闇遊戯は舌打ちする。スコルピオスは笑みすら浮かべ、ゆっくり近づいてくる。
「神…あれが…神か…素晴らしい…あれが…神の力…ふふふ…くはははは…」
その場の全員が戦慄した。目の前のこの男は、確かにどうしようもない悪党で、外道だ。
しかし悪党が信念を持たぬわけではない。外道が意地を見せぬわけではない。それがオシリスの力を受けてなお
彼を突き動かしているのだ。善悪を越えた―――揺るぎない意志。それを、この場の誰もが感じていた。
「力…神の、力…星女神の巫女を、殺せば…私にも、神の力が…」
「バカか、てめえ!そんな身体で、しかも手下も全員逃げ出した。こっちにはオレとオリオン、遊戯だっている。
これでまだ、ミーシャを生贄にするなんてほざくつもりかよ!?」
「それが…どうした…私には…神の力が必要…そのために命を捨てる覚悟など…とうに済ませておるわぁぁっ!」
「―――哀れだな、いじましい虫けらめ」
天空より突如響いたその声は静謐にして、圧倒的な威厳が秘められていた。
「蠍如きが神を語るなど、笑止千万。神を知るのは―――神に選ばれた者のみだ」
傲然と言い放ったのは、遊戯や闇遊戯、それに城之内もよく知る、あの男だった。
「そして見るがいい…神すら凌駕する地上最強の決闘者と、そのしもべたる史上最強の白龍の姿を!」
旋風を巻き起こしながら、それは大地に立つ。男はその背から飛び降り、スコルピオスを射竦めるように睨む。
そして、彼を乗せていた存在は、まさしく忠実なしもべとして彼に付き従う。それは―――青き眼の、白龍。
スコルピオスはそれを、愕然と見つめる他なかった。
「強大…至高…究極…華麗…強靭…無敵…最強…鉄血…壮烈…優雅…精強…覇大…剛毅…熾烈…無双…剛力…
如何なる言葉を以ってしても足りぬ…クク…ククク…ハァ~ハッハッハッハッハ!」
そう、その男こそは、海馬瀬人。そして彼は、大地に、天に、全てに向けてその力を誇示する。
「圧倒的ィ!絶対的ィ!!超無敵ィィィ!!!これがオレのブルーアイズだ!ワハハハハハ!」
強大なる白龍を従え、海馬は世界中に響き渡るかのように哄笑する。
「貴様…何奴…何故だ…何故…」
スコルピオスは、まるでうわ言のようにブツブツと繰り返す。
「何故…何故…私でなく、貴様らに…これほどの力が…何故…」
「何故、だと?フン―――そんなことは決まっている」
海馬は冷たく言い放った。
「所詮貴様は、地べたをコソコソと這い回る虫けらに過ぎなかった。それだけだ」
そして海馬は天高く腕を振り上げ―――スコルピオスは剣を構え直し、最後の抵抗を試みるが―――
如何に蠍が毒針を振り翳そうと、龍はそれを、軽々と踏み砕く―――!
「ブルーアイズよ!このクズをせめて美しい花火にしてやれ!」
海馬の腕が振り下ろされた。同時にブルーアイズが咆哮し、全てを破壊する一撃を叩きこむ。
「粉砕!玉砕!!大喝采!!!滅びの爆裂疾風弾(バースト・ストリーム)!」
「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぁぁぁぁぁーーーーーーーーっっ!!!」
天を貫くかの如き、光の奔流。スコルピオスは人間とは思えない叫びを上げながら、遥か彼方へ吹き飛ばされて
いく。その様は、先の海馬の言い草ではないが、まさに花火のようだった。
「ワハハハハハハハ―――スゴイぞー!カッコいいぞー!流石はオレのブルーアイズだ!」
それを見送りながら高笑いする海馬。そんな彼を、オリオンはゲンナリした顔で見つめていた。
「なんなの、あいつ…すげえな、色んな意味で…」
「言うな。あいつと知り合いだってだけで恥ずかしいぜ…」
城之内は本当に恥ずかしそうだった。闇遊戯も、なんとも複雑な顔をしていた。
「け、けど、私たちを助けてくれたじゃない。悪く言うのは失礼よ」
「いーや、ありゃオレたちを助けたんじゃなくて、ただ単にブルーアイズを見せびらかしたかっただけだね」
どうにかフォローしようとするミーシャに、城之内の返答は実に身も蓋もない。
「フン、分かっているではないか。凡骨」
しかも肯定した。海馬瀬人、恐ろしい男である。
「海馬…お前もここに来たか」
闇遊戯が顔を厳しく引き締めて、海馬を見据える。はっきり言ってこの男だけは油断ならない。何を考えている
のか、理解できないところがあるのだ。
「別にオレはこんな辺鄙な島に用などない。奴の付き添いだ」
「奴?」
海馬は後ろを振り向き、くいっと顎先で示す。そこに、一人の男が立っていた。彼はその紫の瞳で、他の全てが
消え失せたかのように、ミーシャだけを見つめていた。その姿に、オリオンとミーシャは口元を押さえ絶句する。
「そんな…まさか、あいつは…!」
「嘘…」
城之内はその様子を見て、どういうことかと訝しがる。
「?二人とも、あいつのこと、知ってんのかよ?」
「城之内くん…あの男の姿をよく見てみろ。もしかしたら…」
闇遊戯に耳打ちされ、城之内は男をよく観察してみた。そして、あることに思い至る。
「あいつ…あの髪…それにあの瞳…ミーシャに似てる…?じゃあ、あいつが!?」
「そうだ…間違いねえ…あいつ、エレフだ!」
答えたのはオリオンだった。彼は視線をせわしなく二人の間で泳がせている。ミーシャはといえば、ただ呆然と、
目の前に現れた男―――エレフを見ていた。城之内はそんな彼女に対して叫んだ。
「ミーシャ…何やってんだよ!」
「え…?」
「ずっと兄貴と離れ離れだったんだろ!?ずっと兄貴を待ってたんだろ!?だったら―――どうしてそんな顔で
ボケっとしてやがるんだ!」
「だけど…どうすればいいのか、分からないよ…」
「どうにでもすりゃ、いいだろうが」
オリオンがその先を引き継ぐ。
「笑おうが泣こうが、どうしたっていい。お前のやりたいようにすりゃいいだけだろ」
「おうよ!とにかく、行って来い!ウダウダ考えるんじゃねえ!」
二人の言葉に背中を押されるようにして、ミーシャはゆっくりと駆け出す。エレフは両手を広げて、そんな彼女
を待ち受けた。
「エレフ…エレフ!」
「ミーシャ…ミーシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!」
お互いの名を呼び合い。そして、二人は、強く、強く、抱きしめあった。
「エレフ…私…私…」
「いいんだ…何も言わなくてもいい…」
泣きじゃくるミーシャの頭を、エレフはそっと抱え込んだ。
「お前がこうして、生きていてくれた…また、会えた…それだけで…もういいんだ…」
「エレフ…」
そんな二人を、皆はそれぞれの想いと共に見つめていた。
「へっ…全く。泣かせてくれるぜ、あいつら…」
オリオンは涙をぐいっと拭い、ふと城之内を見て、ぎょっとした。
「う、う、ううう…よがっだなあ…よがっだなあ、あいづら…」
「お、おま…泣きすぎだろ、おい!どういう涙腺してたらそんな泣き方できるんだよ、なあ!?おかげでこっち
の涙が引っ込んじまっただろうが!俺の感動を返せ、感動を!」
「う…うるぜえ!泣いでねえよ!心の汗だ、ヂグジョウ!」
闇遊戯、そして遊戯は抱き合う二人を静かに、対照的にやかましくわめく二人を苦笑しながら見ていた。
(皆…嬉しそうだね。よかったね…グスッ…)
(はは…お前まで泣くなよ、相棒。とにかく、これでもう何も問題はない―――そのはずだ)
「フン。全く、騒々しい連中だ…」
海馬は相変わらずの態度だったが―――それでもきっと、彼なりに、兄妹の再会を喜んでいるのだろう。彼には
珍しく、口の端に皮肉でも嘲りでもない、穏やかな笑みを浮かべていた。
そんな周囲の喧騒を余所に、エレフとミーシャは、ただいつまでも互いを抱きしめあっていた。
「蠍如きが神を語るなど、笑止千万。神を知るのは―――神に選ばれた者のみだ」
傲然と言い放ったのは、遊戯や闇遊戯、それに城之内もよく知る、あの男だった。
「そして見るがいい…神すら凌駕する地上最強の決闘者と、そのしもべたる史上最強の白龍の姿を!」
旋風を巻き起こしながら、それは大地に立つ。男はその背から飛び降り、スコルピオスを射竦めるように睨む。
そして、彼を乗せていた存在は、まさしく忠実なしもべとして彼に付き従う。それは―――青き眼の、白龍。
スコルピオスはそれを、愕然と見つめる他なかった。
「強大…至高…究極…華麗…強靭…無敵…最強…鉄血…壮烈…優雅…精強…覇大…剛毅…熾烈…無双…剛力…
如何なる言葉を以ってしても足りぬ…クク…ククク…ハァ~ハッハッハッハッハ!」
そう、その男こそは、海馬瀬人。そして彼は、大地に、天に、全てに向けてその力を誇示する。
「圧倒的ィ!絶対的ィ!!超無敵ィィィ!!!これがオレのブルーアイズだ!ワハハハハハ!」
強大なる白龍を従え、海馬は世界中に響き渡るかのように哄笑する。
「貴様…何奴…何故だ…何故…」
スコルピオスは、まるでうわ言のようにブツブツと繰り返す。
「何故…何故…私でなく、貴様らに…これほどの力が…何故…」
「何故、だと?フン―――そんなことは決まっている」
海馬は冷たく言い放った。
「所詮貴様は、地べたをコソコソと這い回る虫けらに過ぎなかった。それだけだ」
そして海馬は天高く腕を振り上げ―――スコルピオスは剣を構え直し、最後の抵抗を試みるが―――
如何に蠍が毒針を振り翳そうと、龍はそれを、軽々と踏み砕く―――!
「ブルーアイズよ!このクズをせめて美しい花火にしてやれ!」
海馬の腕が振り下ろされた。同時にブルーアイズが咆哮し、全てを破壊する一撃を叩きこむ。
「粉砕!玉砕!!大喝采!!!滅びの爆裂疾風弾(バースト・ストリーム)!」
「ぐぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぁぁぁぁぁーーーーーーーーっっ!!!」
天を貫くかの如き、光の奔流。スコルピオスは人間とは思えない叫びを上げながら、遥か彼方へ吹き飛ばされて
いく。その様は、先の海馬の言い草ではないが、まさに花火のようだった。
「ワハハハハハハハ―――スゴイぞー!カッコいいぞー!流石はオレのブルーアイズだ!」
それを見送りながら高笑いする海馬。そんな彼を、オリオンはゲンナリした顔で見つめていた。
「なんなの、あいつ…すげえな、色んな意味で…」
「言うな。あいつと知り合いだってだけで恥ずかしいぜ…」
城之内は本当に恥ずかしそうだった。闇遊戯も、なんとも複雑な顔をしていた。
「け、けど、私たちを助けてくれたじゃない。悪く言うのは失礼よ」
「いーや、ありゃオレたちを助けたんじゃなくて、ただ単にブルーアイズを見せびらかしたかっただけだね」
どうにかフォローしようとするミーシャに、城之内の返答は実に身も蓋もない。
「フン、分かっているではないか。凡骨」
しかも肯定した。海馬瀬人、恐ろしい男である。
「海馬…お前もここに来たか」
闇遊戯が顔を厳しく引き締めて、海馬を見据える。はっきり言ってこの男だけは油断ならない。何を考えている
のか、理解できないところがあるのだ。
「別にオレはこんな辺鄙な島に用などない。奴の付き添いだ」
「奴?」
海馬は後ろを振り向き、くいっと顎先で示す。そこに、一人の男が立っていた。彼はその紫の瞳で、他の全てが
消え失せたかのように、ミーシャだけを見つめていた。その姿に、オリオンとミーシャは口元を押さえ絶句する。
「そんな…まさか、あいつは…!」
「嘘…」
城之内はその様子を見て、どういうことかと訝しがる。
「?二人とも、あいつのこと、知ってんのかよ?」
「城之内くん…あの男の姿をよく見てみろ。もしかしたら…」
闇遊戯に耳打ちされ、城之内は男をよく観察してみた。そして、あることに思い至る。
「あいつ…あの髪…それにあの瞳…ミーシャに似てる…?じゃあ、あいつが!?」
「そうだ…間違いねえ…あいつ、エレフだ!」
答えたのはオリオンだった。彼は視線をせわしなく二人の間で泳がせている。ミーシャはといえば、ただ呆然と、
目の前に現れた男―――エレフを見ていた。城之内はそんな彼女に対して叫んだ。
「ミーシャ…何やってんだよ!」
「え…?」
「ずっと兄貴と離れ離れだったんだろ!?ずっと兄貴を待ってたんだろ!?だったら―――どうしてそんな顔で
ボケっとしてやがるんだ!」
「だけど…どうすればいいのか、分からないよ…」
「どうにでもすりゃ、いいだろうが」
オリオンがその先を引き継ぐ。
「笑おうが泣こうが、どうしたっていい。お前のやりたいようにすりゃいいだけだろ」
「おうよ!とにかく、行って来い!ウダウダ考えるんじゃねえ!」
二人の言葉に背中を押されるようにして、ミーシャはゆっくりと駆け出す。エレフは両手を広げて、そんな彼女
を待ち受けた。
「エレフ…エレフ!」
「ミーシャ…ミーシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!」
お互いの名を呼び合い。そして、二人は、強く、強く、抱きしめあった。
「エレフ…私…私…」
「いいんだ…何も言わなくてもいい…」
泣きじゃくるミーシャの頭を、エレフはそっと抱え込んだ。
「お前がこうして、生きていてくれた…また、会えた…それだけで…もういいんだ…」
「エレフ…」
そんな二人を、皆はそれぞれの想いと共に見つめていた。
「へっ…全く。泣かせてくれるぜ、あいつら…」
オリオンは涙をぐいっと拭い、ふと城之内を見て、ぎょっとした。
「う、う、ううう…よがっだなあ…よがっだなあ、あいづら…」
「お、おま…泣きすぎだろ、おい!どういう涙腺してたらそんな泣き方できるんだよ、なあ!?おかげでこっち
の涙が引っ込んじまっただろうが!俺の感動を返せ、感動を!」
「う…うるぜえ!泣いでねえよ!心の汗だ、ヂグジョウ!」
闇遊戯、そして遊戯は抱き合う二人を静かに、対照的にやかましくわめく二人を苦笑しながら見ていた。
(皆…嬉しそうだね。よかったね…グスッ…)
(はは…お前まで泣くなよ、相棒。とにかく、これでもう何も問題はない―――そのはずだ)
「フン。全く、騒々しい連中だ…」
海馬は相変わらずの態度だったが―――それでもきっと、彼なりに、兄妹の再会を喜んでいるのだろう。彼には
珍しく、口の端に皮肉でも嘲りでもない、穏やかな笑みを浮かべていた。
そんな周囲の喧騒を余所に、エレフとミーシャは、ただいつまでも互いを抱きしめあっていた。
―――泉に浮かぶ水月は、二人を、静かに見守っているようだった…。