「遊戯…こいつらは…」
「分かってる。神殿の入り口で、巫女達やソフィアって人からあらかた聞いた」
闇遊戯の怒りに満ちた視線が、スコルピオス達を射抜く。
「神への生贄だの何だの…そんなことのために、城之内くんを、そしてたくさんの人を傷つけやがったのか…」
「そんなこと?くく…神の力を得るというのはそれほどの一大事なのだよ、小僧。何人かが血を流した所で、まあ
仕方がないことだと赦してはくれんかね」
「黙れと言ったはずだぜ、クソ野郎」
「―――ふん。そういう態度を取るか。おい!」
「はっ!」
スコルピオスが手で合図すると同時に、兵士達が矢を構える。城之内がそれを見て、顔を青くする。
「遊戯…!」
「くくく…如何に貴様が奇妙な術を使うとはいえ、この人数相手にたった一人では、どうにもなるまい!」
「ああ、そうだな」
闇遊戯はしかし、笑みすら浮かべていた。
「確かに、オレ一人ではキツイな…だが、いつオレが、一人だと言った?」
「なに?」
その瞬間、一人の青年が疾風の如き速さで物陰から飛び出す。彼は天高く跳躍し、月光を背にして弓を構えた。
「オリオン流弓術―――必殺!<弓が撓り弾けた焔・夜空を凍らせて>撃ち!」
ちょっぴりアレな技名を叫びながら、異様に長い滞空時間の中でくるくる回転しつつ、集中豪雨のような勢い
で無数の矢を放つ。それは流星のように宵闇を斬り裂き、突き進んでいく。
「ぐあぁぁっ!」
「ひぃっ!?」
狙いなど、付ける必要もなかった。何せ数を揃えただけあって、兵士達は密集状態である。そのど真ん中に雨霰と
矢を放てば、結果は言うまでもない。
「フッ…またつまらぬものを射ち堕としてしまった…」
お前は本当に古代ギリシャ人かと問い詰めたくなるようなセリフをかましたその男はやけにゆっくり落ちながら、
華麗に城之内とミーシャの眼前に着地した。
(すげえ、この男…落ちながら闘った上に、まるで無駄がねえ動きだ…!)
感心する城之内。そして男の顔を見たミーシャが、はっとしたように口を開く。
「あ、あなた…オリオン!?」
「よう、ミーシャ。久し振り。しかしなんだね、この連中は。お前のファンって、こんなにいたの?」
「…全くもう。間違いなくオリオン以外の何者でもないわね…」
「オリオン?つーと、こいつが例の…」
城之内はマジマジとその顔を見て、思わず感心してしまう。
(ひょえ~…信じられねえ。こんな美人な男がいていいのかよ…)
美人度でいけば、レスボスの美女達にすらも勝るとも劣らない―――などと言ったら、あらぬ疑いをかけられそう
なので思うだけにした。城之内はノーマルである。どこぞの王子様とは違うのだ。
「そんで、そこの少年。お前が城之内…で、いいんだよな?」
「ああ―――遊戯の奴、あんたと一緒にいたのか?」
「まあね。色々とあったのさ、こっちも。ま、そっちほどじゃあないけどな…」
「おい、お前ら!我々を無視するな!」
完全に兵士など無視して話を続ける城之内達に、業を煮やした兵士が詰め寄ってくる。
「ヘラヘラと笑いおって、それでも男か―――ぐふ!」
オリオンが矢を放ち、強引に兵士を黙らせる。
「ヘラヘラ笑ってる?お前ら、俺が笑ってるように見えるのか…?俺はなあ、ブチ切れてるんだよ、ボケがっ!」
美しい顔に似合わぬ凄まじい怒号に、兵士達が一様に浮き足立ち、ざわめく。
「き、貴様…何者だ!?」
「何者…だと?」
そして、声を張り上げて見栄を切る!
「残念だったな、クソ野郎諸君!このオリオン、貴様ら外道に名乗る名など持ってはおらぬ!」
星女神の寵愛を受けし勇者・オリオン。お約束は忘れない男だった。しかしながら、その口上を耳にした兵士達は
途端にざわめき始める。
「オリオンだと?まさか…!」「星女神の勇者…!」「数々の武術大会で敵無しと謳われた、当代屈指の英雄…!」
「技名がやたら長い…!」「女好きで有名な…!」「しかし性格のせいで顔の割にはあまりモテない…!」
「な…待て!前半はともかく後半は何!?誰だ、そんな噂流したのは!?」
自業自得であった。それはともかく、兵士達は一様に顔を引き攣らせた。
「バカな!奴は今レスボスを離れていたはず…」
「確かにな…あるブサイクな男を探すために本土に出てたんだが、新しい友人のためにレスボスを案内してやろう
と戻ってきたとこだよ。そのおかげでこのバカ騒ぎに間に合った―――存分に大暴れできそうだぜ、ありがとよ、
クソッタレ共!」
ビリビリと大気を震わすような闘志が迸り、兵士達は顔色をなくす。数の上では圧倒的に優位でありながら、彼ら
は捕食される側の気分を嫌になるほど味わわされていた。
「へへ…全く。盛り上がってきたじゃねえか」
熱気にあてられたかのように、城之内は思いの外しっかりした足取りで立ち上がる。そして、腕や肩に刺さった矢
を強引に引き抜いた。
「じょ、城之内…!」
「おいおい、無茶すんなよ!」
「ぐっ…心配、すんな。いい気付けだぜ…」
苦痛に呻きながらも、城之内は不敵に笑う。
「遊戯には後は頼むと言ったけどよ…これだけ騒がしいのに、呑気にオネンネなんてしてられねえぜ!」
そして、ディスクに新たなカードをセットする。
「見やがれ、オレの強敵(とも)から譲り受けたカード―――<要塞クジラ>だ!」
空中に出現したのは、一本角を持つ巨大なクジラだった。その背中には<要塞>の名に恥じぬ、無数の砲門が
鎮座している。兵士達は唖然としてそれを見上げた。
「要塞クジラ―――そのままそいつら、潰してやれ!」
そして、巨大クジラは勢いよく落下する!
「ひいいいぃぃっ!?」
「うわあああぁっ!」
逃げ遅れた兵士数人が哀れ、その下敷きとなった。続けて、城之内が叫ぶ。
「砲撃!ホエール・ボンバード!」
単純明快・故に強大無比―――背中の砲門が一斉に火を噴く。その直撃を受けた兵士は、まるでボウリングの
ピンのように景気よく吹っ飛んでいった。
「ひゅー…やるねえ、城之内」
「へっ!まだまだこれからだぜ、オリオン!」
そしてオリオンに顔を近づけ、そっと耳打ちする。
「ミーシャも見てるぜ?しっかりやれよ」
「な…何言ってやがるんだ、バカ!」
オリオンは怒鳴るが、その顔は真っ赤だ。
「ひひ、やっぱりな。心配すんなよ、オレはあんたらの恋路を応援してるぜ」
「お、お前なあ…」
「オリオン?どうしたのよ、そんなに顔赤くして」
ミーシャはきょとんとした顔で、不思議そうにオリオンを見つめる。オリオンはさらに顔を湯でダコのようにした。
「な、なんでもねえよ!ほら、キミはポンポンでも持って踊りながら俺達の応援でもしていなさい!」
城之内はそれを見て、こんな修羅場だというのに笑いが込み上げるのを感じた。
(素直になれない二人…ってとこか。ひひ、後で思いっきりからかってやる。そのためにはよ…)
「―――テメエら全員、地獄の果てまでぶっ飛ばしてやるぜ!」
城之内は叫び、続けて闇遊戯に向き直る。
「遊戯!雑魚はオレ達に任せろ!お前はその毒蟲野郎をブチのめしてやれ!」
「ああ―――そっちは頼んだぜ、城之内くん、オリオン!」
そして闇遊戯は、スコルピオスと対峙する。
「ふん…どいつもこいつも、そんなにあんな女が大事か。確かにそこそこ見れたツラだが、命をかけて助ける
ほどの価値も理由もなかろうが」
「理由なら、あるさ」
嘲るように吐き捨てるスコルピオスを睨みつけ、闇遊戯は迷いなく言い放つ。
「城之内くんは命をかけて彼女を助けようとした―――オレにとって、それ以外の理由などいらない」
「ククク…青臭くも美しい友情というべきだなぁ?ならば、それに殉ずるがいい!」
「死ぬのは貴様だ、毒蟲野郎―――行くぜ!決闘(デュエル)!」
宣言と同時に、スコルピオスが剣を構える。闇遊戯もそれに対し、カードをディスクにセットした。
「来たれ、黒魔導の少女―――<BMG(ブラック・マジシャン・ガール)>を召喚!」
くるくるとステッキを回しながら、魔導師の衣装に身を包んだ、可愛らしい少女が出現した。スコルピオスを挑発
するかのように、パチンとウインクする。
「む…そのような小娘で、何をしようというのだ?」
「フフ…確かにこのカードは、そこまで強大な力は持たない―――だが!オレはこの魔法カードを発動するぜ!」
瞬時に、闇遊戯の周囲に大きな四つのシルクハットが出現し、闇遊戯自身もその中に吸い込まれるように消える。
「魔術師との連携で効果を発揮する魔法…<マジカル・シルクハット>だ。さあ、見事オレを貫いてみせな!」
「ちっ…下らん真似をしおって!」
スコルピオスは舌打ちしながらも、四つ並んだシルクハットを注意深く睨む。そして。
「ぶるあぁぁぁ!」
気合一閃、横薙ぎに剣を振るった―――
「…残念だったな。それはハズレだぜ!」
闇遊戯の声が響き、同時にスコルピオスは身体の自由を完全に奪われていた。見れば、不可思議な魔方陣が己の
身に巻きつくようにして、スコルピオスを縛り付けていた。それを確認した闇遊戯は、シルクハットから飛び出す。
「な…なんだ、これは!」
「罠(トラップ)カード…<六芒星の呪縛>!お前の動きは封じたぜ!」
「くっ…!」
「更に、この魔法カードを発動する―――<死者蘇生>!」
古代エジプトの聖なるシンボルである<アンク>が描かれたカード。それには闘い、散っていったモンスターの魂
をも蘇らせる力が秘められているのだ。
「蘇生させるのは、勿論コイツだ―――<真紅眼の黒竜>!」
「グオオオオオオォォ!」
翼を大きく羽ばたかせて、レッドアイズが再び戦場へと舞い戻った。
「レッドアイズ!―――遊戯の野郎、粋なことしてくれるぜ!」
城之内がレッドアイズの復活を喜色満面で迎える。蘇ったレッドアイズも城之内に向けて、力強く吼えてみせた。
そして黒き竜を背に、闇遊戯の眼光がスコルピオスを射抜いた。
「貴様に見えるか…この真紅の瞳に宿る、城之内くんの怒りが。そして、魂が!」
「ぐ…魂だと…そんなもの…!」
「そうか、その腐った目では見えないか…なら精々、その身に刻みつけろ!」
闇遊戯の怒号。同時にレッドアイズが大きく口を開き、灼熱の火球が生み出される。
「吼えろ、レッドアイズ―――黒炎弾!」
「ぐわあぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!」
地獄の炎が放たれ、スコルピオスの肉体を容赦なく蹂躙する。ぶすぶすと肉が焼けていく灼熱感と凄まじい激痛
に、喉が張り裂けるような叫びを迸らせる。
「ぐ、う、う…まだ…まだぁ…!」
それでも―――スコルピオスは持ち堪えた。震える腕で剣を握り締め、闇遊戯に向けて歩を進める。
「これしきで…諦めるような…この私ではないわぁぁぁぁぁーーーーーーっ!」
「…スコルピオス。貴様は、それほどまでに神の力なんかが欲しいのか?」
「ああ、欲しいともさ!神の力―――それさえあれば我が野望は更に前進する!神の力!それこそは選ばれし者
だけが手にできる禁断の領域!神の力!それは…」
「もういい。そんな寝言は、もう聞きたくもない」
闇遊戯は、ぞんざいに言い捨て―――
「ならば、お前に見せよう。これがお望みの…」
デッキから、一枚のカードを引き抜き、天高く翳す。
「―――神の力だ!」
天空に暗雲が立ち込め、雷光が闇に轟く。
「光臨せよ、天翔る竜王―――!」
そして夜空を切り裂き、天を震わせ、大地を揺るがしながら、それは地上へと舞い降りた。
「分かってる。神殿の入り口で、巫女達やソフィアって人からあらかた聞いた」
闇遊戯の怒りに満ちた視線が、スコルピオス達を射抜く。
「神への生贄だの何だの…そんなことのために、城之内くんを、そしてたくさんの人を傷つけやがったのか…」
「そんなこと?くく…神の力を得るというのはそれほどの一大事なのだよ、小僧。何人かが血を流した所で、まあ
仕方がないことだと赦してはくれんかね」
「黙れと言ったはずだぜ、クソ野郎」
「―――ふん。そういう態度を取るか。おい!」
「はっ!」
スコルピオスが手で合図すると同時に、兵士達が矢を構える。城之内がそれを見て、顔を青くする。
「遊戯…!」
「くくく…如何に貴様が奇妙な術を使うとはいえ、この人数相手にたった一人では、どうにもなるまい!」
「ああ、そうだな」
闇遊戯はしかし、笑みすら浮かべていた。
「確かに、オレ一人ではキツイな…だが、いつオレが、一人だと言った?」
「なに?」
その瞬間、一人の青年が疾風の如き速さで物陰から飛び出す。彼は天高く跳躍し、月光を背にして弓を構えた。
「オリオン流弓術―――必殺!<弓が撓り弾けた焔・夜空を凍らせて>撃ち!」
ちょっぴりアレな技名を叫びながら、異様に長い滞空時間の中でくるくる回転しつつ、集中豪雨のような勢い
で無数の矢を放つ。それは流星のように宵闇を斬り裂き、突き進んでいく。
「ぐあぁぁっ!」
「ひぃっ!?」
狙いなど、付ける必要もなかった。何せ数を揃えただけあって、兵士達は密集状態である。そのど真ん中に雨霰と
矢を放てば、結果は言うまでもない。
「フッ…またつまらぬものを射ち堕としてしまった…」
お前は本当に古代ギリシャ人かと問い詰めたくなるようなセリフをかましたその男はやけにゆっくり落ちながら、
華麗に城之内とミーシャの眼前に着地した。
(すげえ、この男…落ちながら闘った上に、まるで無駄がねえ動きだ…!)
感心する城之内。そして男の顔を見たミーシャが、はっとしたように口を開く。
「あ、あなた…オリオン!?」
「よう、ミーシャ。久し振り。しかしなんだね、この連中は。お前のファンって、こんなにいたの?」
「…全くもう。間違いなくオリオン以外の何者でもないわね…」
「オリオン?つーと、こいつが例の…」
城之内はマジマジとその顔を見て、思わず感心してしまう。
(ひょえ~…信じられねえ。こんな美人な男がいていいのかよ…)
美人度でいけば、レスボスの美女達にすらも勝るとも劣らない―――などと言ったら、あらぬ疑いをかけられそう
なので思うだけにした。城之内はノーマルである。どこぞの王子様とは違うのだ。
「そんで、そこの少年。お前が城之内…で、いいんだよな?」
「ああ―――遊戯の奴、あんたと一緒にいたのか?」
「まあね。色々とあったのさ、こっちも。ま、そっちほどじゃあないけどな…」
「おい、お前ら!我々を無視するな!」
完全に兵士など無視して話を続ける城之内達に、業を煮やした兵士が詰め寄ってくる。
「ヘラヘラと笑いおって、それでも男か―――ぐふ!」
オリオンが矢を放ち、強引に兵士を黙らせる。
「ヘラヘラ笑ってる?お前ら、俺が笑ってるように見えるのか…?俺はなあ、ブチ切れてるんだよ、ボケがっ!」
美しい顔に似合わぬ凄まじい怒号に、兵士達が一様に浮き足立ち、ざわめく。
「き、貴様…何者だ!?」
「何者…だと?」
そして、声を張り上げて見栄を切る!
「残念だったな、クソ野郎諸君!このオリオン、貴様ら外道に名乗る名など持ってはおらぬ!」
星女神の寵愛を受けし勇者・オリオン。お約束は忘れない男だった。しかしながら、その口上を耳にした兵士達は
途端にざわめき始める。
「オリオンだと?まさか…!」「星女神の勇者…!」「数々の武術大会で敵無しと謳われた、当代屈指の英雄…!」
「技名がやたら長い…!」「女好きで有名な…!」「しかし性格のせいで顔の割にはあまりモテない…!」
「な…待て!前半はともかく後半は何!?誰だ、そんな噂流したのは!?」
自業自得であった。それはともかく、兵士達は一様に顔を引き攣らせた。
「バカな!奴は今レスボスを離れていたはず…」
「確かにな…あるブサイクな男を探すために本土に出てたんだが、新しい友人のためにレスボスを案内してやろう
と戻ってきたとこだよ。そのおかげでこのバカ騒ぎに間に合った―――存分に大暴れできそうだぜ、ありがとよ、
クソッタレ共!」
ビリビリと大気を震わすような闘志が迸り、兵士達は顔色をなくす。数の上では圧倒的に優位でありながら、彼ら
は捕食される側の気分を嫌になるほど味わわされていた。
「へへ…全く。盛り上がってきたじゃねえか」
熱気にあてられたかのように、城之内は思いの外しっかりした足取りで立ち上がる。そして、腕や肩に刺さった矢
を強引に引き抜いた。
「じょ、城之内…!」
「おいおい、無茶すんなよ!」
「ぐっ…心配、すんな。いい気付けだぜ…」
苦痛に呻きながらも、城之内は不敵に笑う。
「遊戯には後は頼むと言ったけどよ…これだけ騒がしいのに、呑気にオネンネなんてしてられねえぜ!」
そして、ディスクに新たなカードをセットする。
「見やがれ、オレの強敵(とも)から譲り受けたカード―――<要塞クジラ>だ!」
空中に出現したのは、一本角を持つ巨大なクジラだった。その背中には<要塞>の名に恥じぬ、無数の砲門が
鎮座している。兵士達は唖然としてそれを見上げた。
「要塞クジラ―――そのままそいつら、潰してやれ!」
そして、巨大クジラは勢いよく落下する!
「ひいいいぃぃっ!?」
「うわあああぁっ!」
逃げ遅れた兵士数人が哀れ、その下敷きとなった。続けて、城之内が叫ぶ。
「砲撃!ホエール・ボンバード!」
単純明快・故に強大無比―――背中の砲門が一斉に火を噴く。その直撃を受けた兵士は、まるでボウリングの
ピンのように景気よく吹っ飛んでいった。
「ひゅー…やるねえ、城之内」
「へっ!まだまだこれからだぜ、オリオン!」
そしてオリオンに顔を近づけ、そっと耳打ちする。
「ミーシャも見てるぜ?しっかりやれよ」
「な…何言ってやがるんだ、バカ!」
オリオンは怒鳴るが、その顔は真っ赤だ。
「ひひ、やっぱりな。心配すんなよ、オレはあんたらの恋路を応援してるぜ」
「お、お前なあ…」
「オリオン?どうしたのよ、そんなに顔赤くして」
ミーシャはきょとんとした顔で、不思議そうにオリオンを見つめる。オリオンはさらに顔を湯でダコのようにした。
「な、なんでもねえよ!ほら、キミはポンポンでも持って踊りながら俺達の応援でもしていなさい!」
城之内はそれを見て、こんな修羅場だというのに笑いが込み上げるのを感じた。
(素直になれない二人…ってとこか。ひひ、後で思いっきりからかってやる。そのためにはよ…)
「―――テメエら全員、地獄の果てまでぶっ飛ばしてやるぜ!」
城之内は叫び、続けて闇遊戯に向き直る。
「遊戯!雑魚はオレ達に任せろ!お前はその毒蟲野郎をブチのめしてやれ!」
「ああ―――そっちは頼んだぜ、城之内くん、オリオン!」
そして闇遊戯は、スコルピオスと対峙する。
「ふん…どいつもこいつも、そんなにあんな女が大事か。確かにそこそこ見れたツラだが、命をかけて助ける
ほどの価値も理由もなかろうが」
「理由なら、あるさ」
嘲るように吐き捨てるスコルピオスを睨みつけ、闇遊戯は迷いなく言い放つ。
「城之内くんは命をかけて彼女を助けようとした―――オレにとって、それ以外の理由などいらない」
「ククク…青臭くも美しい友情というべきだなぁ?ならば、それに殉ずるがいい!」
「死ぬのは貴様だ、毒蟲野郎―――行くぜ!決闘(デュエル)!」
宣言と同時に、スコルピオスが剣を構える。闇遊戯もそれに対し、カードをディスクにセットした。
「来たれ、黒魔導の少女―――<BMG(ブラック・マジシャン・ガール)>を召喚!」
くるくるとステッキを回しながら、魔導師の衣装に身を包んだ、可愛らしい少女が出現した。スコルピオスを挑発
するかのように、パチンとウインクする。
「む…そのような小娘で、何をしようというのだ?」
「フフ…確かにこのカードは、そこまで強大な力は持たない―――だが!オレはこの魔法カードを発動するぜ!」
瞬時に、闇遊戯の周囲に大きな四つのシルクハットが出現し、闇遊戯自身もその中に吸い込まれるように消える。
「魔術師との連携で効果を発揮する魔法…<マジカル・シルクハット>だ。さあ、見事オレを貫いてみせな!」
「ちっ…下らん真似をしおって!」
スコルピオスは舌打ちしながらも、四つ並んだシルクハットを注意深く睨む。そして。
「ぶるあぁぁぁ!」
気合一閃、横薙ぎに剣を振るった―――
「…残念だったな。それはハズレだぜ!」
闇遊戯の声が響き、同時にスコルピオスは身体の自由を完全に奪われていた。見れば、不可思議な魔方陣が己の
身に巻きつくようにして、スコルピオスを縛り付けていた。それを確認した闇遊戯は、シルクハットから飛び出す。
「な…なんだ、これは!」
「罠(トラップ)カード…<六芒星の呪縛>!お前の動きは封じたぜ!」
「くっ…!」
「更に、この魔法カードを発動する―――<死者蘇生>!」
古代エジプトの聖なるシンボルである<アンク>が描かれたカード。それには闘い、散っていったモンスターの魂
をも蘇らせる力が秘められているのだ。
「蘇生させるのは、勿論コイツだ―――<真紅眼の黒竜>!」
「グオオオオオオォォ!」
翼を大きく羽ばたかせて、レッドアイズが再び戦場へと舞い戻った。
「レッドアイズ!―――遊戯の野郎、粋なことしてくれるぜ!」
城之内がレッドアイズの復活を喜色満面で迎える。蘇ったレッドアイズも城之内に向けて、力強く吼えてみせた。
そして黒き竜を背に、闇遊戯の眼光がスコルピオスを射抜いた。
「貴様に見えるか…この真紅の瞳に宿る、城之内くんの怒りが。そして、魂が!」
「ぐ…魂だと…そんなもの…!」
「そうか、その腐った目では見えないか…なら精々、その身に刻みつけろ!」
闇遊戯の怒号。同時にレッドアイズが大きく口を開き、灼熱の火球が生み出される。
「吼えろ、レッドアイズ―――黒炎弾!」
「ぐわあぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ!」
地獄の炎が放たれ、スコルピオスの肉体を容赦なく蹂躙する。ぶすぶすと肉が焼けていく灼熱感と凄まじい激痛
に、喉が張り裂けるような叫びを迸らせる。
「ぐ、う、う…まだ…まだぁ…!」
それでも―――スコルピオスは持ち堪えた。震える腕で剣を握り締め、闇遊戯に向けて歩を進める。
「これしきで…諦めるような…この私ではないわぁぁぁぁぁーーーーーーっ!」
「…スコルピオス。貴様は、それほどまでに神の力なんかが欲しいのか?」
「ああ、欲しいともさ!神の力―――それさえあれば我が野望は更に前進する!神の力!それこそは選ばれし者
だけが手にできる禁断の領域!神の力!それは…」
「もういい。そんな寝言は、もう聞きたくもない」
闇遊戯は、ぞんざいに言い捨て―――
「ならば、お前に見せよう。これがお望みの…」
デッキから、一枚のカードを引き抜き、天高く翳す。
「―――神の力だ!」
天空に暗雲が立ち込め、雷光が闇に轟く。
「光臨せよ、天翔る竜王―――!」
そして夜空を切り裂き、天を震わせ、大地を揺るがしながら、それは地上へと舞い降りた。
「―――<オシリスの天空竜>!」
「ゴァァァァーーーー!」
耳を劈くような唸り声と共に<神>は、人間達の前にその姿を見せつけた。
「な…!」
スコルピオスは大きく目を見開き、その光景を網膜にまで焼き付けられることとなった。それはとぐろを巻いた
蛇に似ているが、凶悪さは比する気も起きない。赤い、紅い、緋い―――血のような体色。全長は数十メートル
にも及び、なおかつ巨木のように太く、重厚。上下に二つ並んだ異形の大口には、ズラリと鋭い牙が覗く。
その威厳に満ちた瞳が、絶対的な力を誇示するかのように周囲を睥睨する。
「ひ…!」
「うう…!」
その眼光に射すくめられた者達は、それだけで震え上がる。
食物連鎖など、それにとっては人間が勝手に決めた矮小な枠にすぎない。そんなちっぽけな檻を軽々と破壊し、
粉砕し、駆逐し、そしてあらゆる存在を凌駕する。
それはまさに、不条理を更なる不条理で捻じ伏せる、大不条理。
人は畏れを以って、それをただ一言、こう呼ぶのだ。即ち―――<神>と。
「な…なんだよ、アレ…反則だろ、いくらなんでも…」
オリオンが弓を射るのも忘れ、紅き神の姿に見入る。戦場ではあるまじき隙だらけの姿だったが、敵からの反撃
は一切ない。それも当然だ。
兵士達とて、一様に目を奪われていたのだ。天空より降り立った、大地を震わす神の姿に。
「あ…ああ…あれは…神…さま…?」
ミーシャは畏敬を露わにし、祈るように両の手を合わせる。
「おうよ―――あれが遊戯の持つ三幻神が一柱!天空の神…オシリスの天空竜だ!」
城之内が傷の痛みも忘れ、誇らしげに叫ぶ。
「て、て、天空の神…オシ、オシ、オシリス、だと…バカな…知らぬ!そのような神など―――私は知らぬぞ!」
スコルピオスが口から泡を飛ばしながら喚き散らす。だが、いくら頭で否定しようと、根源的な恐怖がさらにそれ
を塗り潰す。何故ならば、眼前に現れたそれは、まさに自らが追い求めた存在そのもの―――
「知る必要もない―――ただ一つだけ、覚えておけ」
闇遊戯は、冷たく言い放つ。
「お前はオレを怒らせた…それが、貴様の敗因だ」
同時にオシリスが猛り、吼える。その超存在を前に、誰もが身動き一つ取れなかった。彼らは、聴いたのだ。
神罰を告げる、竜王の咆哮を―――!
「覚悟しろよ…この毒蟲野郎!」
闇遊戯の怒りに呼応するかのように、オシリスが牙を剥く。
「遊戯!もうごちゃごちゃ細かいことは言わねえ…ブチかませぇぇぇぇぇ~~~~~っ!!!」
城之内が力の限り叫ぶ。そして放たれる、神の鉄鎚!
「オシリスの攻撃―――!超電導波・サンダーフォース!」
大きく開かれたオシリスの口から、雷を纏う閃光が迸る。スコルピオスは身動き一つ取れずに、その輝きの中に
呑み込まれた。
「ぎゃ…!!!」
断末魔の叫びさえ、荒れ狂う光に掻き消される。眼を焼くような閃光が収まった時、スコルピオスはプスプスと
全身から煙を上げながら、声もなく崩れ落ちた。
「思い知ったかよ、毒蟲野郎…」
闇遊戯はスコルピオスを一瞥し、言い放つ。
「これが―――仲間を、親友を傷つけられた、オレの怒りだ」
耳を劈くような唸り声と共に<神>は、人間達の前にその姿を見せつけた。
「な…!」
スコルピオスは大きく目を見開き、その光景を網膜にまで焼き付けられることとなった。それはとぐろを巻いた
蛇に似ているが、凶悪さは比する気も起きない。赤い、紅い、緋い―――血のような体色。全長は数十メートル
にも及び、なおかつ巨木のように太く、重厚。上下に二つ並んだ異形の大口には、ズラリと鋭い牙が覗く。
その威厳に満ちた瞳が、絶対的な力を誇示するかのように周囲を睥睨する。
「ひ…!」
「うう…!」
その眼光に射すくめられた者達は、それだけで震え上がる。
食物連鎖など、それにとっては人間が勝手に決めた矮小な枠にすぎない。そんなちっぽけな檻を軽々と破壊し、
粉砕し、駆逐し、そしてあらゆる存在を凌駕する。
それはまさに、不条理を更なる不条理で捻じ伏せる、大不条理。
人は畏れを以って、それをただ一言、こう呼ぶのだ。即ち―――<神>と。
「な…なんだよ、アレ…反則だろ、いくらなんでも…」
オリオンが弓を射るのも忘れ、紅き神の姿に見入る。戦場ではあるまじき隙だらけの姿だったが、敵からの反撃
は一切ない。それも当然だ。
兵士達とて、一様に目を奪われていたのだ。天空より降り立った、大地を震わす神の姿に。
「あ…ああ…あれは…神…さま…?」
ミーシャは畏敬を露わにし、祈るように両の手を合わせる。
「おうよ―――あれが遊戯の持つ三幻神が一柱!天空の神…オシリスの天空竜だ!」
城之内が傷の痛みも忘れ、誇らしげに叫ぶ。
「て、て、天空の神…オシ、オシ、オシリス、だと…バカな…知らぬ!そのような神など―――私は知らぬぞ!」
スコルピオスが口から泡を飛ばしながら喚き散らす。だが、いくら頭で否定しようと、根源的な恐怖がさらにそれ
を塗り潰す。何故ならば、眼前に現れたそれは、まさに自らが追い求めた存在そのもの―――
「知る必要もない―――ただ一つだけ、覚えておけ」
闇遊戯は、冷たく言い放つ。
「お前はオレを怒らせた…それが、貴様の敗因だ」
同時にオシリスが猛り、吼える。その超存在を前に、誰もが身動き一つ取れなかった。彼らは、聴いたのだ。
神罰を告げる、竜王の咆哮を―――!
「覚悟しろよ…この毒蟲野郎!」
闇遊戯の怒りに呼応するかのように、オシリスが牙を剥く。
「遊戯!もうごちゃごちゃ細かいことは言わねえ…ブチかませぇぇぇぇぇ~~~~~っ!!!」
城之内が力の限り叫ぶ。そして放たれる、神の鉄鎚!
「オシリスの攻撃―――!超電導波・サンダーフォース!」
大きく開かれたオシリスの口から、雷を纏う閃光が迸る。スコルピオスは身動き一つ取れずに、その輝きの中に
呑み込まれた。
「ぎゃ…!!!」
断末魔の叫びさえ、荒れ狂う光に掻き消される。眼を焼くような閃光が収まった時、スコルピオスはプスプスと
全身から煙を上げながら、声もなく崩れ落ちた。
「思い知ったかよ、毒蟲野郎…」
闇遊戯はスコルピオスを一瞥し、言い放つ。
「これが―――仲間を、親友を傷つけられた、オレの怒りだ」