不気味な鳥の鳴き声だけが響く、深夜の山中。海馬とエレフは焚火を囲んで向き合っていた。
「海馬―――本当に、ミーシャはレスボスにいるんだろうな?」
「フン。オレも実際に見たわけではない。そう聞いただけだ」
海馬はブルーアイズの背にもたれかかりながら、ぞんざいに言い放つ。
「とはいえ、どうせ手がかりもないのだろう?ならば行ってみても損はあるまい。オレも当面は色々と調べ物を
せねばならんからな。ひとまず貴様と行動を共にするのも悪くはないさ」
「ちっ。いい加減なことだ…まあいい。レスボスにもいずれは行くつもりだったからな。それよりも海馬、貴様
は一緒にいたという連中は探さなくてもいいのか?確か、遊戯と…」
「凡骨馬之骨之介負犬左衛門(ぼんこつ・うまのほねのすけ・まけいぬざえもん)だ。まあ奴のことだ、城之内
とかいうもっともらしい偽名を名乗っていることだろうがな…」
「そうか。しかし、世の中とんでもない名前の持ち主もいるものだな」
堂々と大嘘をぶっこく海馬だった。それにまるで疑いを持たないエレフも大物だった。
「まあ、オレは奴らなどいなくても別に構わん。それよりもエレフ…貴様は、そんなに妹が大事か」
「―――ミーシャは、私の全てだ」
エレフは静かな、しかし確かな口調で言った。
「彼女を守るためなら私は…それ以外の全てを、命さえ失っても、悔いはない」
「フン…ならば、何故貴様はこんなところで一人くすぶっている?」
海馬の言葉には、隠す気もない棘があった。
「口では何とでも言えるさ―――だが貴様は、結局妹を守れなかったのだろう」
「何だと…!」
エレフは海馬に詰め寄ったが、海馬は怯む様子もなく続けた。
「何よりも大切な存在ならば、何故その手を離した?貴様の想いが本物なら―――例え腕が千切れようとも、
妹の手を離しはしなかったはずだ」
海馬はなお、容赦なく畳みかける。
「オレなら、そうした」
「…………」
「オレが貴様ならば、掴んだその手を離すことなどなかった―――何があろうともだ!」
「私とて…離したくはなかった。だが―――あの頃の私は、あまりにも無力だった」
「それでどうする?貴様はただただ悲しい時代と、諦め顔で、無力に嘆くのか?」
海馬はエレフに指を突きつけた。
「貴様に今、敢えて問おう―――エレフ。貴様は何を守りたい?」
「…妹を」
エレフは、きっぱりと答えた。
「私は…妹を、守る。次こそは、その手を離さない。例え何が襲おうとも、例え何が相手でも、例えこの身が
朽ち果てようと、私は妹を守る」
「そうか…なら、そうしろ」
海馬は素気なく、しかし、少しだけ語気を和らげていた。
「貴様が、守ってやればいい。相手が運命(かみ)だろうが、何だろうがな」
「―――言われるまでもない」
エレフは天を仰ぎ、呟いた。
「ミーシャを傷つけるものは全てこの腕で退け、滅ぼしてみせる―――例えそれが運命(かみ)であっても、
世界そのものであろうとも」
―――二人はもはや言葉を交わすこともなく、ただ月と焚火の焔(ひかり)だけが、彼らを照らしていた。
(フフフ…エレフ。久シ振リダネ、元気ダッタカィ?)
エレフの心に、あの声が囁き掛ける。
(彼ハィィ。何処カォ前に似ティル―――彼ニモィルノカモシレナィネ、ォ前ノヨゥニ守ルベキ兄弟ガ―――
彼トハ仲良クスルトィィ。キット、ォ前ノ力ニナッテクレルヨ―――)
声は、闇へと消えた。
「海馬―――本当に、ミーシャはレスボスにいるんだろうな?」
「フン。オレも実際に見たわけではない。そう聞いただけだ」
海馬はブルーアイズの背にもたれかかりながら、ぞんざいに言い放つ。
「とはいえ、どうせ手がかりもないのだろう?ならば行ってみても損はあるまい。オレも当面は色々と調べ物を
せねばならんからな。ひとまず貴様と行動を共にするのも悪くはないさ」
「ちっ。いい加減なことだ…まあいい。レスボスにもいずれは行くつもりだったからな。それよりも海馬、貴様
は一緒にいたという連中は探さなくてもいいのか?確か、遊戯と…」
「凡骨馬之骨之介負犬左衛門(ぼんこつ・うまのほねのすけ・まけいぬざえもん)だ。まあ奴のことだ、城之内
とかいうもっともらしい偽名を名乗っていることだろうがな…」
「そうか。しかし、世の中とんでもない名前の持ち主もいるものだな」
堂々と大嘘をぶっこく海馬だった。それにまるで疑いを持たないエレフも大物だった。
「まあ、オレは奴らなどいなくても別に構わん。それよりもエレフ…貴様は、そんなに妹が大事か」
「―――ミーシャは、私の全てだ」
エレフは静かな、しかし確かな口調で言った。
「彼女を守るためなら私は…それ以外の全てを、命さえ失っても、悔いはない」
「フン…ならば、何故貴様はこんなところで一人くすぶっている?」
海馬の言葉には、隠す気もない棘があった。
「口では何とでも言えるさ―――だが貴様は、結局妹を守れなかったのだろう」
「何だと…!」
エレフは海馬に詰め寄ったが、海馬は怯む様子もなく続けた。
「何よりも大切な存在ならば、何故その手を離した?貴様の想いが本物なら―――例え腕が千切れようとも、
妹の手を離しはしなかったはずだ」
海馬はなお、容赦なく畳みかける。
「オレなら、そうした」
「…………」
「オレが貴様ならば、掴んだその手を離すことなどなかった―――何があろうともだ!」
「私とて…離したくはなかった。だが―――あの頃の私は、あまりにも無力だった」
「それでどうする?貴様はただただ悲しい時代と、諦め顔で、無力に嘆くのか?」
海馬はエレフに指を突きつけた。
「貴様に今、敢えて問おう―――エレフ。貴様は何を守りたい?」
「…妹を」
エレフは、きっぱりと答えた。
「私は…妹を、守る。次こそは、その手を離さない。例え何が襲おうとも、例え何が相手でも、例えこの身が
朽ち果てようと、私は妹を守る」
「そうか…なら、そうしろ」
海馬は素気なく、しかし、少しだけ語気を和らげていた。
「貴様が、守ってやればいい。相手が運命(かみ)だろうが、何だろうがな」
「―――言われるまでもない」
エレフは天を仰ぎ、呟いた。
「ミーシャを傷つけるものは全てこの腕で退け、滅ぼしてみせる―――例えそれが運命(かみ)であっても、
世界そのものであろうとも」
―――二人はもはや言葉を交わすこともなく、ただ月と焚火の焔(ひかり)だけが、彼らを照らしていた。
(フフフ…エレフ。久シ振リダネ、元気ダッタカィ?)
エレフの心に、あの声が囁き掛ける。
(彼ハィィ。何処カォ前に似ティル―――彼ニモィルノカモシレナィネ、ォ前ノヨゥニ守ルベキ兄弟ガ―――
彼トハ仲良クスルトィィ。キット、ォ前ノ力ニナッテクレルヨ―――)
声は、闇へと消えた。
―――エレフは夢を見た。
子供の頃の自分とミーシャが、一緒に遊んでいた。大人の自分は少し離れて、それを見つめている。
ミーシャは、水面に映る月を掴もうと、一生懸命手を伸ばしていた。
「無理だよ、ミーシャ」
子供の自分は困った顔で、ミーシャに呼びかける。
「それは水に映ってるだけだよ。触れないよ」
ミーシャはぶすっと頬を膨らませて、言い返してくる。
「そんなの、やってみないと分からないでしょ」
「えー…」
やってみなくたって、分かることもある。子供の自分はそう言ったが、ミーシャは首をブンブン振った。
「無理だって思ってたら、何でも無理になっちゃうでしょ。だからまず、やってみないと」
「そうかなあ」
「そうだよ」
ミーシャは、満面の笑みを浮かべた。素敵な笑顔だと思った。
「諦めたら、そこで何もかも終わりだよ、エレフ」
子供の頃の自分とミーシャが、一緒に遊んでいた。大人の自分は少し離れて、それを見つめている。
ミーシャは、水面に映る月を掴もうと、一生懸命手を伸ばしていた。
「無理だよ、ミーシャ」
子供の自分は困った顔で、ミーシャに呼びかける。
「それは水に映ってるだけだよ。触れないよ」
ミーシャはぶすっと頬を膨らませて、言い返してくる。
「そんなの、やってみないと分からないでしょ」
「えー…」
やってみなくたって、分かることもある。子供の自分はそう言ったが、ミーシャは首をブンブン振った。
「無理だって思ってたら、何でも無理になっちゃうでしょ。だからまず、やってみないと」
「そうかなあ」
「そうだよ」
ミーシャは、満面の笑みを浮かべた。素敵な笑顔だと思った。
「諦めたら、そこで何もかも終わりだよ、エレフ」
―――そうだね、ミーシャ。私は、諦めないよ。
私は必ず、お前を見つけ出す。そして、二度と、その手を離さない。
約束しよう―――お前を守る。
必ず―――
私は必ず、お前を見つけ出す。そして、二度と、その手を離さない。
約束しよう―――お前を守る。
必ず―――