中国ナンバーワンの毒手使い李海王が、何者かによって倒された。
この報せがコーポ海王の面子に与えた動揺は大きかった。しけい荘と並び立つほどの武
力を持つ彼らにとって、武術における敗北は絶対に許されないからだ。
コーポ海王を束ねる立場にある劉海王は、すぐさま李を除く全メンバーを集めた。
「すでに知っておる者もおろうが、昨夜李海王が路上で発生した立ち合いにて不覚を取っ
た。中国最高峰の拳法家であるべき“海王”が野試合とはいえ敗北したのだ。──否、野
試合にもかかわらず、というべきか」
ゆっくりと絞り出すように劉海王が告げた。表情にこそ出ていないが言葉の節々に悔し
さがにじみ出ている。
凶報に驚きと焦りを禁じえない海王たち。兄である範海王は特に不機嫌な面持ちをして
いる。
気まずい沈黙を断ち切るように、烈海王がいった。
「ところで範海王よ、李氏の容態はどうなのだ」
「幸い脳震盪を起こしているだけだ。じきに目を覚ますだろう」
突然、陳海王が笑い始めた。
「ふん、たしかに幸いだったな。ずいぶんお優しい相手だったようだ。相手が相手なら、
今頃アンタの弟は墓の下にいただろうな」
これを聞いた範は陳を鋭く睨み返した。が、あながち間違いでもないので反論すること
はない。
「しかし……彼の毒手は触れさえすれば有効打になるはずね」
「うむ、薬硬拳の威力は絶大だ。私の肉体といえど、毒の侵食は避けられん」
毛海王と楊海王が立て続けに疑問の声を上げる。李と立ち合えば、相手もただで済むは
ずがないと。
「毒手に命中した形跡はなかった。つまり李は一撃も与えられずに倒されたということに
なる」
李は決して毒手だけの拳法家ではない。体術にも秀でている。そんな彼が触れられもせ
ずに敗れるという場面はいささか想像がしにくい。
「──ならば不意の一打での決着、が考えられるな」
このように孫海王は推測した。現在与えられている情報では、これがもっとも妥当な分
析だといえる。
結局議論はまとまらず、集会は劉によって幕を下ろす。
「……とにかくじゃ。我ら海王は闘争では必ず勝利せねばならん。たとえ敵が近代兵器を
装備した軍隊であろうとな」
すると真っ先に範は部屋を出て行った。
「不意打ちとは、海王も嘗められたものだ。不甲斐ない弟の不始末は俺がつける」
この報せがコーポ海王の面子に与えた動揺は大きかった。しけい荘と並び立つほどの武
力を持つ彼らにとって、武術における敗北は絶対に許されないからだ。
コーポ海王を束ねる立場にある劉海王は、すぐさま李を除く全メンバーを集めた。
「すでに知っておる者もおろうが、昨夜李海王が路上で発生した立ち合いにて不覚を取っ
た。中国最高峰の拳法家であるべき“海王”が野試合とはいえ敗北したのだ。──否、野
試合にもかかわらず、というべきか」
ゆっくりと絞り出すように劉海王が告げた。表情にこそ出ていないが言葉の節々に悔し
さがにじみ出ている。
凶報に驚きと焦りを禁じえない海王たち。兄である範海王は特に不機嫌な面持ちをして
いる。
気まずい沈黙を断ち切るように、烈海王がいった。
「ところで範海王よ、李氏の容態はどうなのだ」
「幸い脳震盪を起こしているだけだ。じきに目を覚ますだろう」
突然、陳海王が笑い始めた。
「ふん、たしかに幸いだったな。ずいぶんお優しい相手だったようだ。相手が相手なら、
今頃アンタの弟は墓の下にいただろうな」
これを聞いた範は陳を鋭く睨み返した。が、あながち間違いでもないので反論すること
はない。
「しかし……彼の毒手は触れさえすれば有効打になるはずね」
「うむ、薬硬拳の威力は絶大だ。私の肉体といえど、毒の侵食は避けられん」
毛海王と楊海王が立て続けに疑問の声を上げる。李と立ち合えば、相手もただで済むは
ずがないと。
「毒手に命中した形跡はなかった。つまり李は一撃も与えられずに倒されたということに
なる」
李は決して毒手だけの拳法家ではない。体術にも秀でている。そんな彼が触れられもせ
ずに敗れるという場面はいささか想像がしにくい。
「──ならば不意の一打での決着、が考えられるな」
このように孫海王は推測した。現在与えられている情報では、これがもっとも妥当な分
析だといえる。
結局議論はまとまらず、集会は劉によって幕を下ろす。
「……とにかくじゃ。我ら海王は闘争では必ず勝利せねばならん。たとえ敵が近代兵器を
装備した軍隊であろうとな」
すると真っ先に範は部屋を出て行った。
「不意打ちとは、海王も嘗められたものだ。不甲斐ない弟の不始末は俺がつける」
午後九時を回った頃、範は一人で住宅街を歩いていた。むろん、弟を仕留めた敵と決着
をつけるためだ。
打撃主体の流派「拳王道」を極めた範海王は、中国でもトップクラスの打撃のスペシャ
リストである。実力は弟である李海王をまるで寄せつけないほどだ。彼の拳足は鋭利な刃
物のように研ぎ澄まされている。
まるで待っていたかのように仇は眼前に現れた。
「出たな。李を不意打ちで倒してのけたらしいが、俺には通用しないと正面から挑みに来
たか」
「不意打ち? とんでもない、昨日のあれは正々堂々とした決闘だった」
「ほう、ならば貴様は海王の名に実力で打ち勝ったといいたいわけか」
怒りをにじませる範。
「今から証明すればいいのかな? 昨日の彼や君より、私の方が上だと──」
「貴様ッ!」
挑発に乗せられる形で範が構えた。戦いが始まる。
その頃、コーポ海王でようやく李海王が目覚めた。まだ敗北の記憶が残っているのか、
ひどく息を切らしている。
「私の毒手が……かすりもしなかった……。触れることさえできなかった……」
李は兄が仇に挑んでいることを知らない。が、肉親としての第六感が兄の危険を知らせ
ていた。
「兄さんは、勝てない……ッ!」
予感は当たった。範は一撃たりとも当てられず、暗い道路に頭から沈んでいた。
「ワケ分かんねェ……」
をつけるためだ。
打撃主体の流派「拳王道」を極めた範海王は、中国でもトップクラスの打撃のスペシャ
リストである。実力は弟である李海王をまるで寄せつけないほどだ。彼の拳足は鋭利な刃
物のように研ぎ澄まされている。
まるで待っていたかのように仇は眼前に現れた。
「出たな。李を不意打ちで倒してのけたらしいが、俺には通用しないと正面から挑みに来
たか」
「不意打ち? とんでもない、昨日のあれは正々堂々とした決闘だった」
「ほう、ならば貴様は海王の名に実力で打ち勝ったといいたいわけか」
怒りをにじませる範。
「今から証明すればいいのかな? 昨日の彼や君より、私の方が上だと──」
「貴様ッ!」
挑発に乗せられる形で範が構えた。戦いが始まる。
その頃、コーポ海王でようやく李海王が目覚めた。まだ敗北の記憶が残っているのか、
ひどく息を切らしている。
「私の毒手が……かすりもしなかった……。触れることさえできなかった……」
李は兄が仇に挑んでいることを知らない。が、肉親としての第六感が兄の危険を知らせ
ていた。
「兄さんは、勝てない……ッ!」
予感は当たった。範は一撃たりとも当てられず、暗い道路に頭から沈んでいた。
「ワケ分かんねェ……」
李海王と範海王。謎のチャレンジャーによって、わずか二日間で海王が二人も潰された。
この事実はしけい荘にも伝えられた。かつて「中国拳法体験ツアー」にて海王の恐ろし
さを嫌というほど味わった彼らも、それぞれが大きなショックを受けた。
「得体が知れん相手だ。夜出歩く時はくれぐれも気をつけるように」
わざわざオリバが皆にこう告げたことが、新たな敵が一筋縄ではいかない相手だという
ことを証明していた。
しかし、ただ一人闘志を燃やすドリアン。
しけい荘にいながらにして海王の名を継ぐ彼にとっても、海王の敗北は見過ごせる事件
ではない。海王の恥は海王が雪がねばならない。
海王の誇りを守るべく──ドリアンは自らを囮とする。
範海王が倒されてから三日後の夜道にて機は訪れた。電柱の陰からドリアンに投げかけ
られる若い声。
「あなたと対決したい」
この事実はしけい荘にも伝えられた。かつて「中国拳法体験ツアー」にて海王の恐ろし
さを嫌というほど味わった彼らも、それぞれが大きなショックを受けた。
「得体が知れん相手だ。夜出歩く時はくれぐれも気をつけるように」
わざわざオリバが皆にこう告げたことが、新たな敵が一筋縄ではいかない相手だという
ことを証明していた。
しかし、ただ一人闘志を燃やすドリアン。
しけい荘にいながらにして海王の名を継ぐ彼にとっても、海王の敗北は見過ごせる事件
ではない。海王の恥は海王が雪がねばならない。
海王の誇りを守るべく──ドリアンは自らを囮とする。
範海王が倒されてから三日後の夜道にて機は訪れた。電柱の陰からドリアンに投げかけ
られる若い声。
「あなたと対決したい」