ある蒸し暑い真夏日の午後、ベジータは西の都の裏通りで犬のフンを踏んだ。
新品のシューズにこびりついた茶褐色の汚物。
みるみるうちに彼の広い額に手打ちうどんのようにたくましい青筋が浮かび上がる。
怒りの矛先は、こんなところにフンをした犬に、そしてその飼い主に、さらにはベジー
タが踏むまでフンを放置していた市民たちに、無意味に暑い夏の気候に、果ては今回の件
に全く関係ないカカロットにまで向けられた。
昔の残虐非道なサイヤ人だった頃の彼ならば、少なくとも周囲百メートルを爆発波で吹
き飛ばすくらいのことはしただろう。ついでにラディッツを一、二発殴っていたに違いな
い。
しかし、今では彼も自己中心的な性格と最強を志す信念こそ不動だが、妻子を持ち、一
市民として暮らす身。そんな騒動を起こすわけにはいかない。
とはいえ第一線で戦っていた頃のルール──邪魔者は即座に殺す、障害物があれば破壊
する──は未だに彼の中に根付いている。これを完全に消すこともまた難しい。
──ならば。
幸い周囲には誰もいない。つまり目撃者は出ない。
ベジータは犬のフンに向けて気合砲を放った。凄まじい推進力を得たフンが、亜音速で
西の都から飛び立っていく。すかさずそれを超スピードで追うベジータ。むろん、常人に
過ぎぬ西の都の住人たちが気づけるはずもなかった。
都からさらに西に三十キロ地点。ベジータと犬のフンが対峙していた。
「ふっ、我ながら素晴らしい力加減とコントロールだ……!」
ベジータはいうまでもなく強い。この世とあの世を合わせてもおそらくは宇宙でベスト
5には入る(もっともこんな褒めらめ方をしてもベジータは喜ばないだろうが)。そんな
男の気合砲で吹き飛ばされたにもかかわらず、フンはまるで形を崩していない。もはや芸
術(アート)と呼べるほど器用な芸当である。
ベジータは瞬時に気を高めると、拳をアッパーのようにぐいんと振り上げた。それによ
って生じた突風でフンは上空へと投げ出される。
続いてベジータはかつてサイバイマンやキュイを葬った指による爆破で、フンを華々し
く空中分解させる。
「へっ、きたねぇ花火だ」
まだ終わらない。ベジータは四散したフンの一群に両掌を向ける。
「ファイナルフラァーッシュッ!」
超新星の誕生を予感させるような鮮やかな閃光とともに、ベジータから巨大なエネルギ
ー波が発射された。フンをあっという間に呑み込んだ光線は、瞬く間に地球外に脱出し、
宇宙の闇に消えた。
「ざまあみやがれ!」
惑星をも軽々と消し去る力を五体に潜ませるベジータ。家族の目を気にしてベランダで
喫煙するお父さんのように、彼もまた色々と気を遣っているのである。
新品のシューズにこびりついた茶褐色の汚物。
みるみるうちに彼の広い額に手打ちうどんのようにたくましい青筋が浮かび上がる。
怒りの矛先は、こんなところにフンをした犬に、そしてその飼い主に、さらにはベジー
タが踏むまでフンを放置していた市民たちに、無意味に暑い夏の気候に、果ては今回の件
に全く関係ないカカロットにまで向けられた。
昔の残虐非道なサイヤ人だった頃の彼ならば、少なくとも周囲百メートルを爆発波で吹
き飛ばすくらいのことはしただろう。ついでにラディッツを一、二発殴っていたに違いな
い。
しかし、今では彼も自己中心的な性格と最強を志す信念こそ不動だが、妻子を持ち、一
市民として暮らす身。そんな騒動を起こすわけにはいかない。
とはいえ第一線で戦っていた頃のルール──邪魔者は即座に殺す、障害物があれば破壊
する──は未だに彼の中に根付いている。これを完全に消すこともまた難しい。
──ならば。
幸い周囲には誰もいない。つまり目撃者は出ない。
ベジータは犬のフンに向けて気合砲を放った。凄まじい推進力を得たフンが、亜音速で
西の都から飛び立っていく。すかさずそれを超スピードで追うベジータ。むろん、常人に
過ぎぬ西の都の住人たちが気づけるはずもなかった。
都からさらに西に三十キロ地点。ベジータと犬のフンが対峙していた。
「ふっ、我ながら素晴らしい力加減とコントロールだ……!」
ベジータはいうまでもなく強い。この世とあの世を合わせてもおそらくは宇宙でベスト
5には入る(もっともこんな褒めらめ方をしてもベジータは喜ばないだろうが)。そんな
男の気合砲で吹き飛ばされたにもかかわらず、フンはまるで形を崩していない。もはや芸
術(アート)と呼べるほど器用な芸当である。
ベジータは瞬時に気を高めると、拳をアッパーのようにぐいんと振り上げた。それによ
って生じた突風でフンは上空へと投げ出される。
続いてベジータはかつてサイバイマンやキュイを葬った指による爆破で、フンを華々し
く空中分解させる。
「へっ、きたねぇ花火だ」
まだ終わらない。ベジータは四散したフンの一群に両掌を向ける。
「ファイナルフラァーッシュッ!」
超新星の誕生を予感させるような鮮やかな閃光とともに、ベジータから巨大なエネルギ
ー波が発射された。フンをあっという間に呑み込んだ光線は、瞬く間に地球外に脱出し、
宇宙の闇に消えた。
「ざまあみやがれ!」
惑星をも軽々と消し去る力を五体に潜ませるベジータ。家族の目を気にしてベランダで
喫煙するお父さんのように、彼もまた色々と気を遣っているのである。
お わ り