SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ AnotherAttraction BC 55-1


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「潰せ! 潰せ潰せ潰せ、潰せェッ!!!」
ノイズと共に現われる、戦鎚を振りかぶる鎧達。避ける度に石畳、露店、噴水の縁、家屋の壁等が木っ端と散る。
矢継ぎ早の集団戦法には途切れなく、そしてイヴの退路を断つ形で生じる。
彼女もまた間隙を縫ってリオンにブロンドの鞭打を見舞うが、敢えて彼は盾を出さずに彼女と同様回避する。
―――皮肉な事に、二人とも合を重ねるごとに冴え渡っていた。互いが強ければ強いほど、自身の戦術が次々更なる扉を開ける。
まるで命懸けの舞踏。共に敵意に満ちた攻撃が掠め過ぎ、その体捌きが次第にしなやかさと機敏さを増していく。

「貫けッ!」
視界の外から突き込まれる騎兵槍―――首を傾げただけで回避する。
「はぁッ!!」
鎧達を迂回して迫る金髪の拳―――威力に逆らわず素手でいなす。

背筋が凍るほど、どちらも自分の有り様に震えていた。自分で自分が信じられなかった。
……力量の近い者同士が戦う事でごくまれに起こる現象だった。
死地をそのまま経験値として、まるで共振現象の様に双方が高まりあう。更にこれは、ランナーズハイにも似た昂揚感に
突き動かされてどちらの意志でも止められない。
多くの場合、完全決着がその終焉だ。
そしてそれが訪れるのは、どちらかが上昇の均衡を破った時だ。
「斬れッ!」
振り下ろされる大剣を二分の見切りで捌き、その向こうに立つリオンに思考の外から一撃を振舞うべく地面にブロンドを穿孔させる。
常の戦闘なら有り得ない地面からの掌打を、黒い自動防御が防ぐ。だが開いた長大な指が盾を掴まえて脇へと押し遣り、
肘の様に曲がった其処から拳が生まれて襲来――――するも、素早く大きな後退で距離を稼ぎつつ、
「―――三人、掴まえろッ!!」
投げ飛ばされた意趣を返す様に、金髪の豪腕に三体の鎧が取り付いて更に足を石畳に打ち込む。
その膂力に動かないのを判断するや、イヴの髪が次の命令を下す前に肩口辺りで切断、たちどころにただの髪からチリとなる。
僅かに遅れて、リオンの命令によって現われた鎧が飛び退いたイヴを槍で刺し損ねる。

息つく間も無い攻撃に次ぐ攻撃、回避に次ぐ回避。
体力と気力の臨界はもう目の前だと言うのに、止まらない、停まれない。
二人の膝は笑っていた。露骨なまでの戦闘疲労が訪れながらも、なお冴え渡る自身と敵に躍らされる。
〝こいつ……何時になったら終わるんだ!!!〟
〝当たらない……当たらない……どうして…〟
焦燥を胸だけに押しとどめ、剣呑な輪舞は激しさを増す。
再び伸長したブロンドが巨大な手となり、大振りの拳鎚を振り下ろすもリオンは手も無く回避。
そして反撃……と思いきやその反力と下腿のバネで少女の身体は飛翔、制空権を物にする。その手には、何時の間にか拾った投槍。
「……ッはあぁッッ!!」
投じるや一転、それは空中で割れ砕け、無数の散弾と化す。
だが命令はしない、回避もしない。自動防御に防がせて真の機を鉄の驟雨に待つ。
その行動に答える様に、リオンの後方にブロンドの手が突き立った。
「! 殴れぇッ!!」
ブロンドの伸縮で自らをリオンの背後に送ろうとしたイヴの前に、威圧する様に拳を振り上げる鎧。その巨拳を、彼女も素手で捌く。
そして消失を確認して次の戦法に切り替えようとした瞬間、ずん、と威力が腹腔を貫いた。
「…ッ!?」
「…やっと………当たったぜ」
――リオンの跳び蹴りが、中空の彼女を完全に捉えていた。
彼がこの高さに来るには、尺が足りない筈だ。故に此処は彼女とせいぜい鎧の領域である筈だ。
しかしイヴは知らない、リオンですら僅か一毛の閃きで至った。
―――――彼女が出させた盾を、足場にしたのだ。
そして落下する二人。だが着地はそれぞれ別………リオンは辛うじて足から。イヴは背中から。
体重が軽いためそれほどきつい自由落下ではないが、それでもその差は明らかだった。
「う………ぐぅ……っ」
「どうだ………勝ったぞ!」
とてつもない疲労の中、荒い息を押しのけてようよう勝利宣言を搾り出す。それを聞く少女は、もう満足に動けない。
「お前は………もう危険だ……。
 絶対この先……オレの計画と星の使徒の脅威になる………」
それは、お互いの戦い振りを慮ってのものだ。
戦いとは、多くの場合技術向上を促す。実際リオンは戦術のケタが跳ね上がった事を理解しているし、イヴも更なるナノマシンの
使用法に目覚めた筈だ。前衛であれ支援であれ、きっと最上の結果を出すだろう。
「動くな……今度こそ動くな…………痛みなんて…感じる暇も、与えねえ」
イヴも見上げながら、全身に廻らせた活性ナノマシンで筋肉から乳酸を追い出し、酸素を最優先で満ち渡らせ、あと少し動ける力を
何とか搾り出そうとするかたわら、修復型で損傷を今動けるだけ直している。
せめて三秒。それだけあれば充分次に繋げるが、それを作る時間すらリオンは与えまい。
「…ぶっ潰…!」

「――――お姉ちゃん、動いちゃダメ!」

その叫びに、リオンの目測が狂う。イヴの回避行動が止まる。鎧が、鉄槌を振り下ろす。
そして―――――、まるで岩同士が激突する様な巨大な轟音。
「な……に…?」
「……ッッ?」
巨大な四角柱の槌頭が、今まさにイヴが移動しようとした位置にめり込んでいた。その僅か指二本分の位置に、彼女の体がある。
呆然とするリオン。その隙にイヴは跳び退り、置き土産に金髪の鞭が彼を弾き飛ばすも地面を擦って着地した。
「くそ…ッ、何だ、一体…!!」
「……………シンディ…」
二人が目をやった其処に、息を切らせる少女が居た。
力の限り走ったのだろう、自分達より更に倒れそうな疲労状況だが、それでも彼女は倒れる事も言葉を停める事も一切拒否する。
「お姉ちゃん、右に逃げて!!」
彼女の能力を知るだけに、体が思考を待たず反応―――――、
「六人、斬れッ!!」
大上段で剣を構える鎧の囲みを、それだけで突破していた。
「上から来るよ! 防いで!!!」
「ブチ割れッ!!」
背後から振り下ろされる斧。しかし炭素結合強化したブロンドの腕が、鋼以上の強度で押しとどめる。
「一歩だけ下がって!!!」
「―――斬れ! 割れ! 投げろッ! 貫けェッ!!」
半ば自棄ぎみの命令の乱発。だが、シンディの言葉に従っただけで攻撃の渦中に居ながら掠りもしない。

思わぬ援護に、イヴは彼女と目を合わす。
二人の間に言葉は無い、しかしシンディの真っ直ぐな眼差しと立てた親指が改めて繋がる心と絆を証明していた。
戦うのは誰が為か、血に塗れるのは何が為か、傷付くのは何を守る為か、彼女は理解してくれた。だから此処に来て、
出来る事をしてくれる。
独り善がりの闘志じゃない―――――それを行動で保証してくれるシンディの勇気と優しさに、思わず涙を零しそうだった。
動けなかった筈の身体に、何処に有ったか判らない力が漲る。
「ありがとう」は後で言おう。今勝つ為に。彼女の一助を無駄にしない為に。そして……支えてくれた意志を、貫く為に。
これから回転するバレリーナの様に、上体を捻る。
「はァッ!!!」
掛け声と共に捻りを戻した勢いに合わせ、まるで太い槍の様に束ねられた金髪がリオンに迫る。
「防げッ!!」
対する彼も、最早定番となった防御で凌ぐ。だが――、彼女の狙いは寧ろ其処から。
全てのブロンドが、鎧に巻き付いた。
「!?」
そして繭の様に覆われた其処から、無数の触手が生まれて再度彼へ猛襲する。
もう鎧や盾で攻撃を防げない事を確信――――やむなく身を転がして捕獲から逃れ、
「く…っ! 潰せ…!」「左に大きく逃げて!」
先刻までならせめて牽制になった一瞬を、あっさり言葉に奪われる。
「何なんだ……何であいつ………何で、〝出す〟のが判るんだ!?」
ばかりか、位置も対処法も。
リオンはシンディの〝力〟を知らない。だが、知った所で何が出来る訳でもない。それが未来を読むと言う事だ。
再び襲い掛かるイヴの鞭打。しかしリオンは防御を出さず敢えて回避に専念、最低限に抑える。
「もっと離れて!! 走ってくるよ!!!」
遂に助言は彼自身の行動にまで波及し、まさにそうしようとした一歩がイヴの大きな後退で無意味に終わる。
二人がそうであった様に、恐らく時間を掛ければ掛けるほど少女の予言も精密を増していくのだろう。
猛攻を凌ぎながら、リオンは苛立っていた。
其処へ、彼にとって最も憎むべきものがやって来た。

「シンディ!!」
息せき切って彼女の元に現れたのは、銃で武装したマリアだ。
彼女にしてみれば、突然走り出した娘を追いかけて来ただけ。しかしリオンには、その親子が別の光景に映る。
それは―――〝大人の指示で加勢に入った子供〟
「………大人の手先め」
そうと決まれば遠慮は無い。
劣勢で苛立ったリオンの脳はそう判断し、胸中に燎原の火そのままに怒りが燃え広がる。
対して、その怒りを至近で捉えたイヴには氷を捻じ込まれた様な悪寒。
「シンディ! マリアさん! 逃げて!!」
叫んだがもう遅い。しかもシンディは自分の未来を見ていない。
マリアと少年の目が合う……が、彼女には彼が如何なる存在か判らない。
「ブン投げろッ!!」
現れた鎧の握っていた物は、棘だらけの鎖鉄球。しかもそれを、頭上で振り回して遠心力を稼ぐ。
危機を察したマリアがシンディを抱き締める。無論それで何を防げる事も無い。
慌ててイヴが奔る。だが既に、鎧はその手から親子に向かって放っていた。
その軌道を遮るべく手を伸ばす。しかし遠く、遅い。彼女の目前を鉄球が過ぎ去った。
髪の腕が食い止めるべく寸手で軌道に割り込む………が、威力がそれを粉砕しただけで逸れもしない。

―――凍り付いた一瞬で、少女は世界の無情を噛み締める。
〝どうして………?〟
問うがその答えは返って来ない。引き伸ばされた刹那の最中、悪意に満ちた幻影がゆっくりと親子の死に向かう様を目で追いながら、
イヴは余りにも自然に訪れる現実に愕然とした。
『お前に護れるものなんて、この世に有ると思うなよ』
先刻のリオンの言葉が、呪詛となって少女の心に木霊す。
〝頑張ったのに…どうして………〟
救えないのか? 護れないのか? それは何故だ? ヒトでは無いからか?
疑問は何も事態を進展させない。時は止まらず、リオンの殺意が掻き消える事も無い。
再びあの〝どうしようもない〟感覚が蘇る。諦念、絶望、虚無と言ったヒトを生きる屍にする心の死病。
結局全てが無理で、無駄で、所詮自分のやった事は世界を何一つ変えられなくて、空回りしただけだった。
祈りは通じない。希望は闇に消える。愛も夢も弱者が作った幻で、命は無益な強者に奪われるだけの存在だ。
結局全ては力であり、物量であり、物言わぬ行動にのみ支配されるものなのだ。
世界が閉じる。全てが色を失っていく。「この世に意味など無い」と、脳裏で絶望が囁く。
所詮ヒトならぬ身で、祈る事など無意味なのだ。応える神など、居る訳が無い。
〝――――――違う!!!〟
だが絶望の闇を、否定の光が切り裂く。
そうではない、誓ったのだ。今有る全てに。確かに今は限り無くゼロに近いが、諦めれば完全にゼロだ。
捨ててはならない、諦めてはならない、この矛盾と絶望に満ちた世界に折れてなお健在である為に。
絶望も諦念も虚無も、何もかも跳ね除けて吹き飛ばす為に、彼女の足は走った筈だ。
暴威にも、悪意にも、屈さぬと誓った筈だ。
しかしこの状況は、彼女一人では覆せない。最早彼女に出来るあらゆる手が届かない。
〝誰か……〟
祈りに応えないのを判っている筈なのに、それでも彼女は祈る。
〝私はどうなっても良いから…………助けて〟
伸ばした手の先に親子が二人。護りたい、助けたい、そして救いたい。願う、過ぎ行く刹那でひたすらに。
傷付いて欲しくない。死なないで欲しい。世界の悪意に負けない様に、ただ何よりも想う。
〝私に祈る資格が無いのも判ってる………〟
ヒトならぬ者の言葉が届くとは思わない。それでも祈る、世界を変える為に。
〝二人を……………助けて!!!〟

その願いに―――――――、銃声が福音となって応えた。

親子の背後から鎖鉄球を迎え撃つ強装弾の連射。それによって軌道が逸れ、少し遠くに有った屋台を破壊して消失した。
「危ねえな……ギリギリだったぜ」
残響が木霊す中、トレインが愛銃を下ろしながら安堵の息を吐いた。
「マリアさん、シンディちゃん、怪我は!?」
その後ろから、リンスが二人に駆け寄った。そして無事なのを確かめるや、彼女もまた肩を落とす。
「良かった…………もしこいつを連れて来るのがあと少し遅れてたら…」
……リンスの言っていた「大変」とは、シンディの暴走だった。
危険極まりない街中を、少女一人がイヴを捜すと勝手に走り去ったのは全く以って大変な事態だったが………
それが無ければイヴは死んでいたし、もし本当に遅れていたらマリア親子は助からなかった。
何もかもが危うい綱渡りの現実。だがそれは、祈りが届いたとしか思えない神の配剤。
イヴも体から力が抜け、その光景を見るままにへたり込む。
「イヴ」
彼女に、トレインの力のこもった言葉が届く。
「………よく此処まで頑張った。後はオレ達に任せろ」
これまで邪魔扱いしていた男の暖かく優しい言葉。
染み入った。これまで受けたどんな言葉よりも。
一人じゃない。そう教えてくれる、簡素で拙い………だが何より届く極限状況だからこその愛情。
此処が戦場で、そしてまだ戦いが終わっていない事も判っている。それでも、双眸から零れ落ちる〝熱さ〟を止められない。
そして止められないままに、彼女は声を上げて赤子の様に泣いた。
だが悲しくも無い、辛くも無い、満身創意では有るから痛くは有るが、それとは関係無しに溢れる号泣。
彼女は生まれて初めて――――――嬉しさで泣いた。

「…さて、次はこっちの問題だが……」
イヴの激涙を背景に、トレインはイヴと同じ様に満身創意の少年へと足を運ぶ。
「坊主、お前が道士だな? 今消えた鎧がお前の道か」
弾丸を込めながら、トレインは警戒を全て彼の一挙手一投足に注ぐ。
「ウチのお姫様と随分遊んでくれたじゃねえか。遊び賃代わりにクリードの居場所を教えたら、大人しく帰してやっても良いぜ」
銃剣やらスパイクやらが飛び出した異形の銃に、それだけでリオンの戦意が挫かれそうになる。
のみならず黒服の怪物に「逃げるので精一杯だった」と言わしめる魔獣の前では、何が出来るだろうか。
しかし……だから此処で終わり、と言う結論は彼の中には無い。
「上……等…ッ…だぜ。
 大人なんかに負けてたまるか………オレの道はナンバーズを蹴散らした事だって有るんだ……」
「オレがそんなもんに収まると思ってんのか?」
それでもトレインの眼差しは空気が軋む音がしそうな鋭さと強さだ。視殺戦でこの男に敵うのはクリード位のものだろう。
「オレは、悪意向ける奴に老若男女平等だがな……それでも良いのか?」
シンディやマリアばかりか、リンスまでその気迫の余波にさえ潰されそうになる。
トレインも内心怒りに怒っているのだ。平和な街を戦場にされ、一般市民を巻き添えにされ、そして仲間はこうして傷付いている。
その上、事の一因が自分にもあるのだと言う事が、彼を魔獣に戻しつつあった。

「やってやるぜ………遊びは終わりだ。
 もう…こんな街知った事か。お前ら……一匹残らず瓦礫に埋めてやる!」
「安心しろ、オレは丁寧に埋葬してやる」
何処までも淡々と、しかし雄弁なトレインの殺意。だが、それでも少年の妙な自信を見逃さない。
「見せてやるぜ……これがオレの…………!!!」
そう身構えたその時だった。
まるで隕石の様に――――――、何かがリオンの傍に降り立った。
激しい破砕音、飛び散る破片、それらが闘争の空気に水を打つ。
「! てめえ……あの時の…」「こいつ…!」
トレインとリンスが懐かしい敵の襲来に緊張を固める。
「……リオン、これ以上の戦闘は無意味だ。撤退するぞ」
二人の戦意に動じる事無く、黒服の怪物はうっそりと撤退命令を告げる。
「邪魔すんなよファルセットさん! こいつらは………此処で絶対に殺す!!!」
しかし少年は、怪物の指示に応じず頑と戦意を示す。
「もう戦闘可能なのは俺達二人だけだ。此処で手を全て晒す事も有るまい」
「…ああ? エキドナはどうしたんだよ!? あいつが居れば……!」
「生きてはいるが、この通りだ」
怪物が顎をしゃくって肩に背負うそれに目を向けさせると………其処には、濡れた布の様に力無く手足を垂れ下がらせる彼女が居た。
良く見れば、何事かを呻くばかりで意識も覚束無いらしい。
「はあぁ!? 一体誰が…!」

「―――――イヴ!!!」

「…奴だ」
怪物が示した先には、戦い抜いたイヴを見つけて蒼白のスヴェンが立っていた。