津村斗貴子という名の少女は、銀成市という場所で、運命の少年と出会う。
これは、その少し前。「二つの」運命の出会いの、少し前の物語。
これは、その少し前。「二つの」運命の出会いの、少し前の物語。
人に隠れて悪を討つ……もとい、社会の裏で化物を退治する錬金の戦士。
錬金術の産物である武器「武装錬金」を用いて、同じく錬金術の産物であり錬金術の力
でしか倒せない人食いの化物「ホムンクルス」を退治する。それが彼らの使命である。
とはいえ、彼らとて猪突猛進で年中戦っているわけではない。というより、それで済む
ような簡単な戦いをしているわけではない。
標的となるホムンクルスの捜索、武装錬金の元となる物質「核鉄」の確保、それらの為の
潜入工作や聞き込みや張り込みなどなど。戦闘以外にも錬金の戦士がやらねばならない
ことは多岐に渡る。それら全てをこなせなければ、一人前の戦士とはいえないのだ。
そんな戦士たちの中にあって、まだ若いが上司から優秀さを認められている少女がいる。
名は津村斗貴子、17歳。処刑鎌(デスサイズ)の武装錬金、「バルキリースカート」を
振るい、これまで数多くのホムンクルスを打ち倒してきた。また前述のように、
直接戦闘以外の任務でも実績を挙げてきている。
今もまた、ニュートンアップル女学院での潜入・探索任務を終えたばかり。現在、拠点と
している安アパートに帰ってきて、携帯電話で次の指令を受けていた。
小柄な体をセーラー服に包み、綺麗に切りそろえられたショートボブの黒髪と、凛々しく
整った顔立ち。すっきりした鼻筋と交差する傷跡は確かに目立つが、それを差し引いても
(差し引く必要もなく似合っているが)大人しく佇んでさえいれば、文句なしの美少女である。
だが彼女は大人しくはない。優秀な錬金の戦士であり、今もまた気を引き締め殺気を纏い、
新たなる戦場に出陣しようとしているのである。
「……はい、核鉄は確保しました。……では、このまま次の任務に? ……了解しました。
確か次は、銀成市という……は? その前に? ……ええ、しかし銀成市では既に、
ホムンクルスによると思われる人食いの事件は起こっているのでしょう。それを
差し置いて、先に他の任務というのは……………………はぃ? あの、その……
すみません戦士長。もう一度、その件についてよくよくご説明をお願いします」
本来、任務に限らず何事もテキパキと、事務的機械的効率的に行うのが斗貴子である。
が、この時は彼女らしくなく、若干非難めいた口調で上司に言い返してしまった。それほど
彼女にとって意外、そして不本意さを感じてしまうことを、上司から告げられたのだ。
頭痛すら覚えてこめかみに人差し指を当て、斗貴子は返事を待つ。
少し間を開けて、彼女の直属上司である戦士長・キャプテンブラボーの声が返ってきた。
《あ~、予想通りの反応だな戦士・斗貴子。だがな、お前は面識ないかもしれんが、
戦士・戦部などはよく言っている。腹が減っては戦はできんと。我々錬金戦団も然りであり、
組織にとっての空腹とはつまり》
「要するに、お金がないんですね」
《活動資金に窮してると言ってくれ。そういうわけで、資金援助を求めたわけだ。もちろん
慎重な調査に厳しい調査を重ね、信頼に値する相手という結論が出たからこそ、》
「だからって、一般企業に核鉄の技術提供なんかしていいんですかっ!?」
ブラボー曰く、その企業というのも錬金戦団とはまた違う形の「戦士」を抱えており、
彼らの為に日々新しい武器の研究開発に余念がないそうだ。だが彼らの「敵」も
日に日に強くなっており、何か斬新で強力な武器はないものかと頭を悩ませていた。
そこに錬金戦団が声をかけ、契約成立と相成った。戦団は核鉄のサンプルと関連資料
をこの企業に提供し、代わりに資金援助を受けたのだ。但し、これによって開発された
武器・技術は絶対に一般販売をせず、「戦士」たちが直接戦闘で使う装備にのみ使用
すること、またその技術を戦団にも還元すること、以上二つの条件をつけて。
《だからだな、戦士・斗貴子。あちらさんの「戦士」たちとて我々同様、日々命懸けで
戦っているんだ。そんな彼らの為に核鉄が、錬金術が役立つ。また場合によっては、
彼らの開発した技術をこちらに逆輸入することで、武装錬金の性能アップなんてことも
あり得る。これは非常にブラボーなことだぞ。それから言うまでもないが、戦団が
OKを出した相手だ。間違っても、罪なき人々に害を為すような戦士や組織ではない》
「それはそうでしょうけど……」
そんなことは、斗貴子にとっては当たり前過ぎて考えるまでもないことだ。
問題なのは、相手が一般企業ということ。そこの「戦士」たちがどんな相手と戦っている
のかは知らないし、結果的には人助けになっているかもしれないが、どうせ目的は
金儲け。古く欧州の錬金術ギルドに端を発し、永きに渡り人類全体の敵である
ホムンクルスやそれに組する組織と戦ってきた戦団とは、あまりにも違いすぎる存在だ。
だというのに、そんな斗貴子の思いなどお構いなしの今回の任務。
《そんなわけで、既に試作品が完成しているそうなんだ。タイミング良くと言っては
不謹慎だが、銀成市の近くでもホムンクルスらしき化物の情報が確認されている。
お前の任務は、あちらさんから派遣されてくる戦士と組んでの、この事件の調査と解決。
対ホムンクルス戦の先輩として助言をしつつ、開発された試作品の実戦テストのチェック
をするんだ》
「……わかりました」
気は進まないが、戦団からの正式な任務とあらば、どうせ拒否することはできないのだ。
不承不承、斗貴子は了解の意を伝え、細かな指示を受けて電話を切った。
錬金術の産物である武器「武装錬金」を用いて、同じく錬金術の産物であり錬金術の力
でしか倒せない人食いの化物「ホムンクルス」を退治する。それが彼らの使命である。
とはいえ、彼らとて猪突猛進で年中戦っているわけではない。というより、それで済む
ような簡単な戦いをしているわけではない。
標的となるホムンクルスの捜索、武装錬金の元となる物質「核鉄」の確保、それらの為の
潜入工作や聞き込みや張り込みなどなど。戦闘以外にも錬金の戦士がやらねばならない
ことは多岐に渡る。それら全てをこなせなければ、一人前の戦士とはいえないのだ。
そんな戦士たちの中にあって、まだ若いが上司から優秀さを認められている少女がいる。
名は津村斗貴子、17歳。処刑鎌(デスサイズ)の武装錬金、「バルキリースカート」を
振るい、これまで数多くのホムンクルスを打ち倒してきた。また前述のように、
直接戦闘以外の任務でも実績を挙げてきている。
今もまた、ニュートンアップル女学院での潜入・探索任務を終えたばかり。現在、拠点と
している安アパートに帰ってきて、携帯電話で次の指令を受けていた。
小柄な体をセーラー服に包み、綺麗に切りそろえられたショートボブの黒髪と、凛々しく
整った顔立ち。すっきりした鼻筋と交差する傷跡は確かに目立つが、それを差し引いても
(差し引く必要もなく似合っているが)大人しく佇んでさえいれば、文句なしの美少女である。
だが彼女は大人しくはない。優秀な錬金の戦士であり、今もまた気を引き締め殺気を纏い、
新たなる戦場に出陣しようとしているのである。
「……はい、核鉄は確保しました。……では、このまま次の任務に? ……了解しました。
確か次は、銀成市という……は? その前に? ……ええ、しかし銀成市では既に、
ホムンクルスによると思われる人食いの事件は起こっているのでしょう。それを
差し置いて、先に他の任務というのは……………………はぃ? あの、その……
すみません戦士長。もう一度、その件についてよくよくご説明をお願いします」
本来、任務に限らず何事もテキパキと、事務的機械的効率的に行うのが斗貴子である。
が、この時は彼女らしくなく、若干非難めいた口調で上司に言い返してしまった。それほど
彼女にとって意外、そして不本意さを感じてしまうことを、上司から告げられたのだ。
頭痛すら覚えてこめかみに人差し指を当て、斗貴子は返事を待つ。
少し間を開けて、彼女の直属上司である戦士長・キャプテンブラボーの声が返ってきた。
《あ~、予想通りの反応だな戦士・斗貴子。だがな、お前は面識ないかもしれんが、
戦士・戦部などはよく言っている。腹が減っては戦はできんと。我々錬金戦団も然りであり、
組織にとっての空腹とはつまり》
「要するに、お金がないんですね」
《活動資金に窮してると言ってくれ。そういうわけで、資金援助を求めたわけだ。もちろん
慎重な調査に厳しい調査を重ね、信頼に値する相手という結論が出たからこそ、》
「だからって、一般企業に核鉄の技術提供なんかしていいんですかっ!?」
ブラボー曰く、その企業というのも錬金戦団とはまた違う形の「戦士」を抱えており、
彼らの為に日々新しい武器の研究開発に余念がないそうだ。だが彼らの「敵」も
日に日に強くなっており、何か斬新で強力な武器はないものかと頭を悩ませていた。
そこに錬金戦団が声をかけ、契約成立と相成った。戦団は核鉄のサンプルと関連資料
をこの企業に提供し、代わりに資金援助を受けたのだ。但し、これによって開発された
武器・技術は絶対に一般販売をせず、「戦士」たちが直接戦闘で使う装備にのみ使用
すること、またその技術を戦団にも還元すること、以上二つの条件をつけて。
《だからだな、戦士・斗貴子。あちらさんの「戦士」たちとて我々同様、日々命懸けで
戦っているんだ。そんな彼らの為に核鉄が、錬金術が役立つ。また場合によっては、
彼らの開発した技術をこちらに逆輸入することで、武装錬金の性能アップなんてことも
あり得る。これは非常にブラボーなことだぞ。それから言うまでもないが、戦団が
OKを出した相手だ。間違っても、罪なき人々に害を為すような戦士や組織ではない》
「それはそうでしょうけど……」
そんなことは、斗貴子にとっては当たり前過ぎて考えるまでもないことだ。
問題なのは、相手が一般企業ということ。そこの「戦士」たちがどんな相手と戦っている
のかは知らないし、結果的には人助けになっているかもしれないが、どうせ目的は
金儲け。古く欧州の錬金術ギルドに端を発し、永きに渡り人類全体の敵である
ホムンクルスやそれに組する組織と戦ってきた戦団とは、あまりにも違いすぎる存在だ。
だというのに、そんな斗貴子の思いなどお構いなしの今回の任務。
《そんなわけで、既に試作品が完成しているそうなんだ。タイミング良くと言っては
不謹慎だが、銀成市の近くでもホムンクルスらしき化物の情報が確認されている。
お前の任務は、あちらさんから派遣されてくる戦士と組んでの、この事件の調査と解決。
対ホムンクルス戦の先輩として助言をしつつ、開発された試作品の実戦テストのチェック
をするんだ》
「……わかりました」
気は進まないが、戦団からの正式な任務とあらば、どうせ拒否することはできないのだ。
不承不承、斗貴子は了解の意を伝え、細かな指示を受けて電話を切った。