・・・きりが無い。
泥と得体の知れない飛沫を拭いながら刃牙は思う。
グネグネした腕らしきものが刃牙の眼前をかすめ、あぜ道を深くえぐっていく。
その腕の戻り際、懐にもぐりこみ、掌を粘液に包まれた体幹に当て、全身のバネを解き放つ。
「弛緩と緊張の触れ幅が打力の要…」
剛体術の応用で生み出した疑似消力の衝撃が粘液を貫き怪人の体を侵食し、破裂させ、内容物をぶちまける。
其処へ間髪いれずに振り下ろされた別の怪人の腕を髪一本の差で避け、頭部にそっと手をかけ、力の向きを変えてコンクリートの道路に叩きこむ。
コンクリートの砕ける音に混じって、ぐちゃりと嫌な音が聞こえ、怪人の頭部から嫌な色の液体が盛大に飛び散る。
もはや泥沼と化した田には同様の形をした怪人たちがまだ大量に蠢いていた。
少し前に倒した怪人が早くも動きを取り戻してきている。
百匹は下るまい。
自分を囲む魔化魍の群を前に刃牙の背中を冷たい汗が流れ、口元には笑みが浮かんでくる。
「百人を相手にするのはいつ以来だったかな」
刃牙の呟きに反応してか、怪人たちが怪訝そうな動きをした。
「かかって来いよ、化け物が怖気づいてんじゃねぇ、お前らの半分はすぐに餌だ」
そう叫ぶと化け物達の只中に飛び込んだ。
嵐の如く戦いながら
早くしてくれ。
少し焦りを感じながら刃牙はそう思った。
少し日を遡る。
田の広がるのどかな町の郊外を散歩していたとある解説的柔術家は異様な光景を見た。
職無き柔術家にとって田園風景はとても貴重な食料源である。
河原にある畑も貴重なのだが、なにぶん鍬を遠慮なく振り下ろしてくる方々が相手では身が持たない。
本当(ガチ)に痛いのだ。
辺りを警戒すると奇妙な物体が目に映った。
遠くの田の一枚の中に人型をした何かがうねうねと踊っているのだ。
「むぅ、あれはもしや・・・」
眼を凝らしてみる。
くねくねくねくねくねくねと見ていて気色悪くなってくる。
「あ、あれこそは都市伝説に唄われたクネクネ!長時間見ていると生気を抜かれて死ぬという…」
いや、ウネウネだったかな。
「いや、そんなことより見てちゃいかん、逃げるんじゃ、わし」
「clock up! 宅急道!」
解説屋は脱兎の如く逃げ出した。
さて解説役が逃げ出してしまったのでこの後の描写を少し続けよう。
クネクネと蠢くその物体の周囲が波立ち出し、同じ形をした物体が分裂するように増えていく。
遠目には茶色いイソギンチャクが蠢いて田一枚を多い尽くすように増えると、ずぶずぶと沈んでいき、吸い込まれるように姿を消した。
周囲の町村で行方不明者が多数現れたのはこの数日後のことであった。
話を刃牙と響鬼が出会った翌日の朝に戻す。
刃牙は名刺を手に、走り出していた。
行き先は52km離れた、昨日刃牙を送ってくれた車の運転手の家である。
名刺には電話番号やメールアドレスも記載されていたが、刃牙はメールの打ち方を知らないし、電話も面倒だ。
第一なんと説明すればいいのかがわからない。
「もしもし、すいません、昨日の化け物みたいなのと戦わせていただけませんか?」
とは言えまい。
直接会っていれば何とかなる。
直接聞きに行くのが最も手早く、また熱意も伝わりやすいだろう。
つまり
1、うまく説明はする気はないが、
2、直接会って話せば勢いでなんとかなる
というご都合主義的思考である。
一般人や先の解説屋ならば問題ないが範馬刃牙クラスにこれをやられると酷くまずい。
身にまとう雰囲気だけでも最早単なる脅迫となる。
同じ部屋にいるだけで震えが止まらなくなる人間さえいるのだ。
それを知っていながら刃牙は直接会いに行くのである。
範馬の血とはそういうものなのだ。
同じ頃、飲村一茶は電話機を前をうろうろしていた。
電話をかけるか迷っているのだ。
化け物退治に協力したいと申し出る。用件はそれだけなのだが既に一時間半も行ったり来たりしていた。
何かをしたい、だが化け物は怖い。
いざかけようと受話器を取り上げもするのだが、いざとなると踏ん切りがつかないのだ。
こうして彼は貴重な有給休暇を消費していくのだった。
ヘタレな新入社員にはありがちなことなのだ。
泥と得体の知れない飛沫を拭いながら刃牙は思う。
グネグネした腕らしきものが刃牙の眼前をかすめ、あぜ道を深くえぐっていく。
その腕の戻り際、懐にもぐりこみ、掌を粘液に包まれた体幹に当て、全身のバネを解き放つ。
「弛緩と緊張の触れ幅が打力の要…」
剛体術の応用で生み出した疑似消力の衝撃が粘液を貫き怪人の体を侵食し、破裂させ、内容物をぶちまける。
其処へ間髪いれずに振り下ろされた別の怪人の腕を髪一本の差で避け、頭部にそっと手をかけ、力の向きを変えてコンクリートの道路に叩きこむ。
コンクリートの砕ける音に混じって、ぐちゃりと嫌な音が聞こえ、怪人の頭部から嫌な色の液体が盛大に飛び散る。
もはや泥沼と化した田には同様の形をした怪人たちがまだ大量に蠢いていた。
少し前に倒した怪人が早くも動きを取り戻してきている。
百匹は下るまい。
自分を囲む魔化魍の群を前に刃牙の背中を冷たい汗が流れ、口元には笑みが浮かんでくる。
「百人を相手にするのはいつ以来だったかな」
刃牙の呟きに反応してか、怪人たちが怪訝そうな動きをした。
「かかって来いよ、化け物が怖気づいてんじゃねぇ、お前らの半分はすぐに餌だ」
そう叫ぶと化け物達の只中に飛び込んだ。
嵐の如く戦いながら
早くしてくれ。
少し焦りを感じながら刃牙はそう思った。
少し日を遡る。
田の広がるのどかな町の郊外を散歩していたとある解説的柔術家は異様な光景を見た。
職無き柔術家にとって田園風景はとても貴重な食料源である。
河原にある畑も貴重なのだが、なにぶん鍬を遠慮なく振り下ろしてくる方々が相手では身が持たない。
本当(ガチ)に痛いのだ。
辺りを警戒すると奇妙な物体が目に映った。
遠くの田の一枚の中に人型をした何かがうねうねと踊っているのだ。
「むぅ、あれはもしや・・・」
眼を凝らしてみる。
くねくねくねくねくねくねと見ていて気色悪くなってくる。
「あ、あれこそは都市伝説に唄われたクネクネ!長時間見ていると生気を抜かれて死ぬという…」
いや、ウネウネだったかな。
「いや、そんなことより見てちゃいかん、逃げるんじゃ、わし」
「clock up! 宅急道!」
解説屋は脱兎の如く逃げ出した。
さて解説役が逃げ出してしまったのでこの後の描写を少し続けよう。
クネクネと蠢くその物体の周囲が波立ち出し、同じ形をした物体が分裂するように増えていく。
遠目には茶色いイソギンチャクが蠢いて田一枚を多い尽くすように増えると、ずぶずぶと沈んでいき、吸い込まれるように姿を消した。
周囲の町村で行方不明者が多数現れたのはこの数日後のことであった。
話を刃牙と響鬼が出会った翌日の朝に戻す。
刃牙は名刺を手に、走り出していた。
行き先は52km離れた、昨日刃牙を送ってくれた車の運転手の家である。
名刺には電話番号やメールアドレスも記載されていたが、刃牙はメールの打ち方を知らないし、電話も面倒だ。
第一なんと説明すればいいのかがわからない。
「もしもし、すいません、昨日の化け物みたいなのと戦わせていただけませんか?」
とは言えまい。
直接会っていれば何とかなる。
直接聞きに行くのが最も手早く、また熱意も伝わりやすいだろう。
つまり
1、うまく説明はする気はないが、
2、直接会って話せば勢いでなんとかなる
というご都合主義的思考である。
一般人や先の解説屋ならば問題ないが範馬刃牙クラスにこれをやられると酷くまずい。
身にまとう雰囲気だけでも最早単なる脅迫となる。
同じ部屋にいるだけで震えが止まらなくなる人間さえいるのだ。
それを知っていながら刃牙は直接会いに行くのである。
範馬の血とはそういうものなのだ。
同じ頃、飲村一茶は電話機を前をうろうろしていた。
電話をかけるか迷っているのだ。
化け物退治に協力したいと申し出る。用件はそれだけなのだが既に一時間半も行ったり来たりしていた。
何かをしたい、だが化け物は怖い。
いざかけようと受話器を取り上げもするのだが、いざとなると踏ん切りがつかないのだ。
こうして彼は貴重な有給休暇を消費していくのだった。
ヘタレな新入社員にはありがちなことなのだ。