己が倒すべき者、己を倒すべき者、そんな互いの名を確かめ合うように呟き、向かい合う二人。
この瞬間に二人の闘いは始まり、もう次の瞬間には終結を迎えるだろう。
しかも、最早大勢は決している。
再生能力が衰えているとはいえ、気力、闘志共に頂点に達したアンデルセン。
失血死ギリギリの出血量に加え、銃剣や爆薬によるダメージが著しい防人。
いや、防人に関しては“ダメージ”という言葉も生易しい。
その身体は死に瀕している、まさに“瀕死”の状態だ。
あとはその銃剣が、首を斬り落とすのか、心臓を突くのか。
“どう殺されるか”とでも言うべきか。
この瞬間に二人の闘いは始まり、もう次の瞬間には終結を迎えるだろう。
しかも、最早大勢は決している。
再生能力が衰えているとはいえ、気力、闘志共に頂点に達したアンデルセン。
失血死ギリギリの出血量に加え、銃剣や爆薬によるダメージが著しい防人。
いや、防人に関しては“ダメージ”という言葉も生易しい。
その身体は死に瀕している、まさに“瀕死”の状態だ。
あとはその銃剣が、首を斬り落とすのか、心臓を突くのか。
“どう殺されるか”とでも言うべきか。
暗転を始めた視界。寒気の止まらぬ肌。
四肢は萎え、全身全霊の力を込めても、立位を保持して構えを取るのがやっとの身体。
今の防人にあるのは、ただ“闘う”という意志だけである。
“どうやって闘う”
“どうやったら勝てる”
“このままでは負ける”
“死ぬ”
これらの意識は、すべて思考の外だ。
四肢は萎え、全身全霊の力を込めても、立位を保持して構えを取るのがやっとの身体。
今の防人にあるのは、ただ“闘う”という意志だけである。
“どうやって闘う”
“どうやったら勝てる”
“このままでは負ける”
“死ぬ”
これらの意識は、すべて思考の外だ。
そして、防人以上に防人の今の状態、更にはこの闘争の結末を知る者が一人。
その者こそが、今この時、防人と向かい合うアレクサンド・アンデルセン神父だ。
始まり、終わる。
遂に現れた“錬金の戦士”。己が倒すべき“宿敵”。
始まり、終わる。
アンデルセンは満足していた。
生涯の敵を得て、この手で彼の者を打ち倒す。
“闘い”そのものが重要なのではない。“闘い、打ち倒す”という一事が重要なのだ。
だからこそ、“始まり、終わる”その時間がただの一瞬でも、一生分の満足を得る事が出来る。
大河を挟んだ恋人達が一年の長い時を待ち、たった一日という刹那の逢瀬を楽しむように。
「終わりだ……」
まさに人生最高の瞬間に口の端を吊り上げたアンデルセンは、右手に握る銃剣を高々と振り上げた。
どうやら、“袈裟懸けに一刀両断”が防人の向かえる“死”らしい。
防人は動けない。
「闘う……闘って、やるぞ……アンデル……セン……」
うわ言のように呟きながらも、弱々しく両手を前に出した構えから動こうとしない。
意識は半ば黄泉路へ踏み入れられているのだ。
その者こそが、今この時、防人と向かい合うアレクサンド・アンデルセン神父だ。
始まり、終わる。
遂に現れた“錬金の戦士”。己が倒すべき“宿敵”。
始まり、終わる。
アンデルセンは満足していた。
生涯の敵を得て、この手で彼の者を打ち倒す。
“闘い”そのものが重要なのではない。“闘い、打ち倒す”という一事が重要なのだ。
だからこそ、“始まり、終わる”その時間がただの一瞬でも、一生分の満足を得る事が出来る。
大河を挟んだ恋人達が一年の長い時を待ち、たった一日という刹那の逢瀬を楽しむように。
「終わりだ……」
まさに人生最高の瞬間に口の端を吊り上げたアンデルセンは、右手に握る銃剣を高々と振り上げた。
どうやら、“袈裟懸けに一刀両断”が防人の向かえる“死”らしい。
防人は動けない。
「闘う……闘って、やるぞ……アンデル……セン……」
うわ言のように呟きながらも、弱々しく両手を前に出した構えから動こうとしない。
意識は半ば黄泉路へ踏み入れられているのだ。
「死ねィ!!」
光芒煌めく銃剣が一気に振り下ろされた――
「!?」
――その瞬間、入口の大扉、だけではなく壁全体が突き崩される激しい破壊音が轟いた。
間を置かず眼の端に入ってきたものは“巨大”な“金属質”の“拳”。
拳はアンデルセン目掛けてまっしぐらに襲いかかり、彼の全身を痛烈に“殴打”した。
「ヌグウゥオオオオオッ!」
まるで大型トレーラーに追突されたかのような凄まじい衝撃に、アンデルセンの身体はロビーの
端まで吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
そして、己のすぐ目の前で発せられた風圧のせいか。それとも体力の限界が訪れたのか。
胸に深く長い斬撃の跡を刻みつけられた防人は、その場に倒れこんだ。
本来ならその身を真っ二つに断ち割られるところを、大胸筋と鎖骨、それに数本の肋骨を
斬り裂かれた“だけ”なのだから、軽傷で済んだと言っても言い過ぎではあるまい。
もっとも、我々一般人にとっては十二分に言い過ぎだが。
間を置かず眼の端に入ってきたものは“巨大”な“金属質”の“拳”。
拳はアンデルセン目掛けてまっしぐらに襲いかかり、彼の全身を痛烈に“殴打”した。
「ヌグウゥオオオオオッ!」
まるで大型トレーラーに追突されたかのような凄まじい衝撃に、アンデルセンの身体はロビーの
端まで吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
そして、己のすぐ目の前で発せられた風圧のせいか。それとも体力の限界が訪れたのか。
胸に深く長い斬撃の跡を刻みつけられた防人は、その場に倒れこんだ。
本来ならその身を真っ二つに断ち割られるところを、大胸筋と鎖骨、それに数本の肋骨を
斬り裂かれた“だけ”なのだから、軽傷で済んだと言っても言い過ぎではあるまい。
もっとも、我々一般人にとっては十二分に言い過ぎだが。
倒れた防人の眼に見慣れた人物の姿が映る。耳には聞き慣れた声も。
それは、防人が敬愛してやまない、あの人物。
「どうやら間に合ったようですね」
「さ、坂口、戦士長……? 何故、ここに……?」
錬金戦団日本本部所属、戦士長・坂口照星。
破壊された入口から射し込む朝陽が逆光となり、霞む眼も相まってなかなか容貌の区別が
付き辛かったが、確かに坂口照星その人だ。
照星は倒れ伏す防人に歩み寄り、そっと腕を回して身体を支えた。
「私が千歳に託しておいたのです。『もし、三人の命が危機に瀕する事があれば私を呼びなさい』と。
ヘルメスドライブの特性“瞬間移動”を使ってね」
ニコリと穏やかな笑顔の照星。防人はその後ろに立つ人影に眼を遣る。
「火渡……千歳……」
「……」
「防人君……。よかった、生きてた……」
上階にいた筈の二人だ。千歳は尚も不機嫌な表情の火渡に背負われて、涙で顔中を濡らしながらも
微笑んでいる。
そして、もう一人。その横に立つ人物。
イギリスへ向かう機内で三人の話題に上り、火渡が「オカマ野郎」と揶揄していた人物。
照星は“彼”を紹介するように優しげな視線を向ける。
「ただし、ヘルメスドライブによる瞬間移動の重量制限は100kgまでです。そこで新たに
錬金の戦士として認められた彼、円山円君の武装錬金“バブルケイジ”で、私と円山君を
小さくして運んでもらった訳ですよ」
戦士・円山円。操るは風船爆弾(フローティングマイン)の武装錬金“バブルケイジ”。
後年、その“風船爆弾に触れた者の身長を一発につき15cm縮める”という特性を駆使し、
錬金戦団に追われる身となった武藤カズキや津村斗貴子達を大いに苦しめる事となるのだが、
それは別な話である。
現在ここに立つ、この長身かつ眉目秀麗な美少年は緊張に身体を硬くしている。
それも無理は無い。
戦士になりたての自分が、戦士長である照星と共にこのような重大な任務に参加する事になるとは、
夢にも思っていなかったのだろうから。
それは、防人が敬愛してやまない、あの人物。
「どうやら間に合ったようですね」
「さ、坂口、戦士長……? 何故、ここに……?」
錬金戦団日本本部所属、戦士長・坂口照星。
破壊された入口から射し込む朝陽が逆光となり、霞む眼も相まってなかなか容貌の区別が
付き辛かったが、確かに坂口照星その人だ。
照星は倒れ伏す防人に歩み寄り、そっと腕を回して身体を支えた。
「私が千歳に託しておいたのです。『もし、三人の命が危機に瀕する事があれば私を呼びなさい』と。
ヘルメスドライブの特性“瞬間移動”を使ってね」
ニコリと穏やかな笑顔の照星。防人はその後ろに立つ人影に眼を遣る。
「火渡……千歳……」
「……」
「防人君……。よかった、生きてた……」
上階にいた筈の二人だ。千歳は尚も不機嫌な表情の火渡に背負われて、涙で顔中を濡らしながらも
微笑んでいる。
そして、もう一人。その横に立つ人物。
イギリスへ向かう機内で三人の話題に上り、火渡が「オカマ野郎」と揶揄していた人物。
照星は“彼”を紹介するように優しげな視線を向ける。
「ただし、ヘルメスドライブによる瞬間移動の重量制限は100kgまでです。そこで新たに
錬金の戦士として認められた彼、円山円君の武装錬金“バブルケイジ”で、私と円山君を
小さくして運んでもらった訳ですよ」
戦士・円山円。操るは風船爆弾(フローティングマイン)の武装錬金“バブルケイジ”。
後年、その“風船爆弾に触れた者の身長を一発につき15cm縮める”という特性を駆使し、
錬金戦団に追われる身となった武藤カズキや津村斗貴子達を大いに苦しめる事となるのだが、
それは別な話である。
現在ここに立つ、この長身かつ眉目秀麗な美少年は緊張に身体を硬くしている。
それも無理は無い。
戦士になりたての自分が、戦士長である照星と共にこのような重大な任務に参加する事になるとは、
夢にも思っていなかったのだろうから。
すべては、この任務がまだ自分の元にある時から、照星が入念に計画していた事だった。
万が一、防人達がヴァチカンと、第13課(イスカリオテ)と、アンデルセン神父と交戦状態になったとしたら。
千歳のヘルメスドライブの特性、新たに戦士となった円山、そして己の持つ武装錬金。
これらを熟慮し、最高のタイミングで最強の援軍として、防人ら三人を助けてやれるように。
もちろんベストなのはアンデルセンとの接触、交戦を避ける事だったのだが。
万が一、防人達がヴァチカンと、第13課(イスカリオテ)と、アンデルセン神父と交戦状態になったとしたら。
千歳のヘルメスドライブの特性、新たに戦士となった円山、そして己の持つ武装錬金。
これらを熟慮し、最高のタイミングで最強の援軍として、防人ら三人を助けてやれるように。
もちろんベストなのはアンデルセンとの接触、交戦を避ける事だったのだが。
ふと照星の表情が堅くなった。
強烈な殺意を含む気が自分に向けられているのは、そちらを見ずとも充分に感じ取れる。
防人の身を円山に任せると、照星は立ち上がり、殺気の発生源の方へ振り向いた。
叩きつけられた衝撃で崩壊した壁を背に、アンデルセンが仁王立ちとなっている。
どうやら戦闘力を削ぎ落とす程の大きなダメージを与えるには至っていないようだ。
「さあ、アレクサンド・アンデルセン神父――」
激怒に眼を見開き、憎悪に歯を剥くアンデルセンに対し、照星は気負う事無くサラリと言ってのける。
「――今度は私がお相手しましょう」
そんな自信に満ちているかのように見える態度も、彼の武装錬金を知れば至極当然と頷ける
かもしれない。
照星が操るは全身甲冑(フルプレートアーマー)の武装錬金“バスターバロン”。
身長57m、体重550tというサイズは巨大戦闘ロボットと言ってもいい。
加えてその特性は“両肩のサブ・コクピットに載せた錬金の戦士の武装錬金の特性を、
同時に五種類まで増幅して使用できる”といった桁外れのものである。
そして、この場にいる錬金の戦士は、防人、火渡、千歳、円山の四人。
要するに「瞬間移動を使い、あらゆる攻撃を弾き返し、相手の身長を縮める風船爆弾と
五千百度の炎で攻撃する、巨大戦闘ロボット」を使ってアンデルセンと戦う、という事だ。
強烈な殺意を含む気が自分に向けられているのは、そちらを見ずとも充分に感じ取れる。
防人の身を円山に任せると、照星は立ち上がり、殺気の発生源の方へ振り向いた。
叩きつけられた衝撃で崩壊した壁を背に、アンデルセンが仁王立ちとなっている。
どうやら戦闘力を削ぎ落とす程の大きなダメージを与えるには至っていないようだ。
「さあ、アレクサンド・アンデルセン神父――」
激怒に眼を見開き、憎悪に歯を剥くアンデルセンに対し、照星は気負う事無くサラリと言ってのける。
「――今度は私がお相手しましょう」
そんな自信に満ちているかのように見える態度も、彼の武装錬金を知れば至極当然と頷ける
かもしれない。
照星が操るは全身甲冑(フルプレートアーマー)の武装錬金“バスターバロン”。
身長57m、体重550tというサイズは巨大戦闘ロボットと言ってもいい。
加えてその特性は“両肩のサブ・コクピットに載せた錬金の戦士の武装錬金の特性を、
同時に五種類まで増幅して使用できる”といった桁外れのものである。
そして、この場にいる錬金の戦士は、防人、火渡、千歳、円山の四人。
要するに「瞬間移動を使い、あらゆる攻撃を弾き返し、相手の身長を縮める風船爆弾と
五千百度の炎で攻撃する、巨大戦闘ロボット」を使ってアンデルセンと戦う、という事だ。
しかし――
その実、照星に“アンデルセンを倒す自信”などというものは毛頭無い。
日本、いや亜細亜最強と呼んでもいい己のバスターバロンを以ってしても、この伝説とも言える
“ヴァチカンの聖堂騎士”“第13課(イスカリオテ)の殺し屋”を倒せるとは、照星には思えないのだ。
錬金の戦士達が抱くアンデルセンへの負の感情は最早、“恐怖”“畏怖”を通り越して“信仰”に
近いものかもしれない。
“アンデルセン神父と刃を交えれば殺される”という。
だが同時に、照星には“何があろうとも部下の命を守る”という信念もある。
しかも、その部下は今の今まで当のアンデルセンと真正面から堂々と闘っていたのだ。
その実、照星に“アンデルセンを倒す自信”などというものは毛頭無い。
日本、いや亜細亜最強と呼んでもいい己のバスターバロンを以ってしても、この伝説とも言える
“ヴァチカンの聖堂騎士”“第13課(イスカリオテ)の殺し屋”を倒せるとは、照星には思えないのだ。
錬金の戦士達が抱くアンデルセンへの負の感情は最早、“恐怖”“畏怖”を通り越して“信仰”に
近いものかもしれない。
“アンデルセン神父と刃を交えれば殺される”という。
だが同時に、照星には“何があろうとも部下の命を守る”という信念もある。
しかも、その部下は今の今まで当のアンデルセンと真正面から堂々と闘っていたのだ。
アンデルセンはひどく軽蔑含んだ視線で、照星とその他の戦士達を睨めつけている。
「先生とお友達が助太刀か? まるで幼稚園だな……」
「幼稚園で結構。何を言われようと可愛い部下達を死なせるよりは遥かにマシですからね。それに、今ここに立っているのがあなたでなければ、私が来る事も無かったでしょう」
ギリギリという音が照星まで聞こえてくるようだ。宿敵との闘争を邪魔立てされ、怒りに燃える
アンデルセンの歯軋りの音である。
その怒りはいつになく激しい。異教異端に向けるものと同じか、あるいはそれ以上。
「幼稚園で結構。何を言われようと可愛い部下達を死なせるよりは遥かにマシですからね。それに、今ここに立っているのがあなたでなければ、私が来る事も無かったでしょう」
ギリギリという音が照星まで聞こえてくるようだ。宿敵との闘争を邪魔立てされ、怒りに燃える
アンデルセンの歯軋りの音である。
その怒りはいつになく激しい。異教異端に向けるものと同じか、あるいはそれ以上。
「いいだろう……。貴様らまとめて皆殺しにしてくれる!!」