「……オレは……何をやってたんだ……」
「黒沢さん?」
暗いプレハブの中。浅井には何も聞こえていないが、超人化した黒沢の耳はしっかりと
聞き取っていた。遥か遠くの戦いの様子を。
猛々しい3号の咆哮を、無数の炎が燃え上がる音を、そして野明の決死の叫びを。
『あんな子が……あんなバケモノとサシで殺りあってる……このオレを護る為にって……』
黒沢の胸に、死んでも忘れないと誓った野明の顔、声、姿が蘇ってきた。
『あの子は……そりゃあ今は立派な婦警さんだろうが……どう見たって、つい最近まで
学校に通ってたんだぞ……学生カバン持ってセーラー服着て……体育の時間となりゃあ、
ブルマでスク水で……(44歳の男的な時代超越妄想)……あぁメチャクチャよく似合う……
って、そうじゃなくてだな……つまりそんな女の子が、命捨てて戦ってるって時に……
このオレは何……? 何をしてる……? 何を考えてる……? どこか遠くへ旅に出よう
とか……そして野たれ死のうとか……………………って……』
黒沢の、全力で握り締められた拳が、
「寝ぼけてんじゃねぇぞこの腰ヌケ野郎おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!」
自分の横っ面を殴りつけた。頬を腫らし、顎から脳を揺らして黒沢がぶっ倒れる。
何が起こったのかと浅井が慌てて駆け寄るが、黒沢はすぐ跳ね起きるとプレハブを出て、
崖の上の道を上流に向かって一目散に駆けていった。
「く、黒沢さん? 急に耳澄ましてブツブツ言ってニヤけて悶えて苦悩して自分殴りつけて
走り出して、一体何が?」
浅井が何か言ってるが、そんなのは無視。今の黒沢は聴覚のみならず、視覚も常人のそれ
ではないので暗い山中も問題ない。筋力も同様なので風のように疾駆できる。
『オレは……オレは……オレは……オレは……っ!』
「黒沢さん?」
暗いプレハブの中。浅井には何も聞こえていないが、超人化した黒沢の耳はしっかりと
聞き取っていた。遥か遠くの戦いの様子を。
猛々しい3号の咆哮を、無数の炎が燃え上がる音を、そして野明の決死の叫びを。
『あんな子が……あんなバケモノとサシで殺りあってる……このオレを護る為にって……』
黒沢の胸に、死んでも忘れないと誓った野明の顔、声、姿が蘇ってきた。
『あの子は……そりゃあ今は立派な婦警さんだろうが……どう見たって、つい最近まで
学校に通ってたんだぞ……学生カバン持ってセーラー服着て……体育の時間となりゃあ、
ブルマでスク水で……(44歳の男的な時代超越妄想)……あぁメチャクチャよく似合う……
って、そうじゃなくてだな……つまりそんな女の子が、命捨てて戦ってるって時に……
このオレは何……? 何をしてる……? 何を考えてる……? どこか遠くへ旅に出よう
とか……そして野たれ死のうとか……………………って……』
黒沢の、全力で握り締められた拳が、
「寝ぼけてんじゃねぇぞこの腰ヌケ野郎おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!」
自分の横っ面を殴りつけた。頬を腫らし、顎から脳を揺らして黒沢がぶっ倒れる。
何が起こったのかと浅井が慌てて駆け寄るが、黒沢はすぐ跳ね起きるとプレハブを出て、
崖の上の道を上流に向かって一目散に駆けていった。
「く、黒沢さん? 急に耳澄ましてブツブツ言ってニヤけて悶えて苦悩して自分殴りつけて
走り出して、一体何が?」
浅井が何か言ってるが、そんなのは無視。今の黒沢は聴覚のみならず、視覚も常人のそれ
ではないので暗い山中も問題ない。筋力も同様なので風のように疾駆できる。
『オレは……オレは……オレは……オレは……っ!』
逆手に持ったナイフを、野明は渾身の力を込めて3号の心臓に向かって振り下ろし、
突き刺そうとする。が3号は片手でその刃を掴み取って止めた。
そして握り締め、砕く。バランスを崩した野明の心臓の辺りを、爪で撫で上げてやると、
「ぅあぐっっ!」
野明は殴り飛ばされたように呻き倒される。撫でられた部分の防刃チョッキは裂けて
血が滲んでいるが、それももう何十個目の傷か数えていない。肩も腕も胸も腹も脚も、
あちこち切り裂かれて赤く濡れている。
「ログ・ガドグボギンギボヂザバ……」
(もう、あと少しの命だな……)
野明は間合いを取ってまた立ち上がり、一本だけになったナイフを構えた。が、
切れ切れになった弱い呼吸にはもう精気がない。目に闘気だけはある。だがそれだけだ。
「負けるもんか……あんたたちなんかに、絶対……負けない……」
3号は自分の爪についた血を舐め取ると、満足げな笑みを野明に向けた。そして、
「ギブグギギ・ドゾレザァァッ!」
(死ぬがいい。とどめだぁぁっ!)
大口を開けて牙を剥き、野明の細い首筋に向かって……突然、止まった。
野明の背後。切り立った高い崖。そこから跳び下りてくる人影。見覚えはある。が、
思い出す前にそいつは、全体重を乗せた落下ラリアートを3号の顔面にぶちかます!
「ガゥッッ!」
吹っ飛ぶ3号、着地した人影。辺り一帯で燃えている炎に照らされ立つその男を、
野明はもちろん知っている。
「く、黒沢さん!? そんな、どうしてここに……あ、ダメですよ! もう戦っちゃダメです!
浅井さんに聞きましたけど、例のベルトが何なのかとか、全然解ってないんでしょう?」
「ああ」
「だったら! これ以上戦ったら、黒沢さんの体に何が起こるか……それに黒沢さん、
警察にだって追われて」
「んなことは重々承知だ! だがそんなのどうでもいいっ! どうでも……いいんだ……っ」
振り向いた黒沢の目から、ボロ……ボロ……と涙がこぼれている。
気迫に押されて、野明は黙り込む。
「本来なら……あんっっまりにも当たり前すぎて言うまでもないことを……オレは忘れて
しまっていた……オレは……オレは男だ……そして男ってのは……あの頃、目を輝かせて
彼らに憧れた……自分もいつか、と夢見てた……オレも、近所の悪ガキ仲間も一緒に……」
突き刺そうとする。が3号は片手でその刃を掴み取って止めた。
そして握り締め、砕く。バランスを崩した野明の心臓の辺りを、爪で撫で上げてやると、
「ぅあぐっっ!」
野明は殴り飛ばされたように呻き倒される。撫でられた部分の防刃チョッキは裂けて
血が滲んでいるが、それももう何十個目の傷か数えていない。肩も腕も胸も腹も脚も、
あちこち切り裂かれて赤く濡れている。
「ログ・ガドグボギンギボヂザバ……」
(もう、あと少しの命だな……)
野明は間合いを取ってまた立ち上がり、一本だけになったナイフを構えた。が、
切れ切れになった弱い呼吸にはもう精気がない。目に闘気だけはある。だがそれだけだ。
「負けるもんか……あんたたちなんかに、絶対……負けない……」
3号は自分の爪についた血を舐め取ると、満足げな笑みを野明に向けた。そして、
「ギブグギギ・ドゾレザァァッ!」
(死ぬがいい。とどめだぁぁっ!)
大口を開けて牙を剥き、野明の細い首筋に向かって……突然、止まった。
野明の背後。切り立った高い崖。そこから跳び下りてくる人影。見覚えはある。が、
思い出す前にそいつは、全体重を乗せた落下ラリアートを3号の顔面にぶちかます!
「ガゥッッ!」
吹っ飛ぶ3号、着地した人影。辺り一帯で燃えている炎に照らされ立つその男を、
野明はもちろん知っている。
「く、黒沢さん!? そんな、どうしてここに……あ、ダメですよ! もう戦っちゃダメです!
浅井さんに聞きましたけど、例のベルトが何なのかとか、全然解ってないんでしょう?」
「ああ」
「だったら! これ以上戦ったら、黒沢さんの体に何が起こるか……それに黒沢さん、
警察にだって追われて」
「んなことは重々承知だ! だがそんなのどうでもいいっ! どうでも……いいんだ……っ」
振り向いた黒沢の目から、ボロ……ボロ……と涙がこぼれている。
気迫に押されて、野明は黙り込む。
「本来なら……あんっっまりにも当たり前すぎて言うまでもないことを……オレは忘れて
しまっていた……オレは……オレは男だ……そして男ってのは……あの頃、目を輝かせて
彼らに憧れた……自分もいつか、と夢見てた……オレも、近所の悪ガキ仲間も一緒に……」
♪俺もお前も 名もない花を 踏みつけられない男に なるのさ……♪
♪男だもんな 強さだもんな こころの握手を 信じるもんな……♪
♪男の意地は 伊達じゃない 護り抜くんだ 君の笑顔を……♪
♪男だもんな 強さだもんな こころの握手を 信じるもんな……♪
♪男の意地は 伊達じゃない 護り抜くんだ 君の笑顔を……♪
「男ってのは……男ってのはみんな、『成長した男の子』なんだ……『男の子』がいろんな
事件を経て傷つきながらも、強く大きくパワーアップした姿……それが『男』……当たり前
だ……こんなの、当たり前すぎることなのに……いつの間にか忘れてしまっていた……」
ならば、あの頃よりも後退してどうする? あの頃よりも強きく大きくなったのなら、
前進せずにどうする? あの頃には無力さゆえに届かなかった夢の自分へ、
パワーアップした今なら届く、届くはず、手を伸ばしさえすれば必ず……そう、夢見て憧れ
を抱くだけの『男の子』ではない。パワーアップし、クラスチェンジした最強形態『男』
ならばできる……オレが新たに創る伝説、オレの、オレによる、オレだけの英雄伝説!
「だから……だから見ててくれ! オレのっ! 変身っっ!」
黒沢の呼び声に応じて、その腰に古代のベルト、『アークル』が姿を現した。中央に輝く
霊石『アマダム』に、これまでになかった紅い光が灯っている。
「リントグッ!」
(人間がっ!)
3号が向かってきた。薙ぎ払われた最初の一撃を黒沢はかわして、左、右と拳を打ち込む。
少しよろめいた3号が組み付いてきたのを、真っ向から受けて黒沢も組む。
両腕両脚を踏ん張って力を込めると、アークルから放たれた紅い光が四肢に巻きついて、
輝きながら実体化する。そしてそれが全身へと広がっていき、
「ぬぅおおおおぉぉぉぉ……っ、りゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
黒沢は力に任せて、3号を頭上に持ち上げブン投げた。
岩場に叩きつけられた3号が、立ち上がって振り向く。その時、そこに黒沢はいなかった。
いたのは、真紅の生体装甲に身を包み、黄金の刃のような一対の角を備えた雄々しい戦士。
3号……殺戮民族グロンギの怪人、ズ・ゴオマ・グはこの戦士を知っている。太古の昔、
たった一人で自分たちに戦いを挑み、その身を犠牲にして封印の鍵となった男だ。
だが、あの戦士はもう死んだはず。もういないはず。もう二度と遭遇しないはず。なのに?
「ビガラ・バゼ……」
(貴様、なぜ……)
ゴオマは、驚愕と困惑と憤怒と怨恨に震える手で黒沢を指さし、叫んだ。
「クウガ……クウガッッ!」
「……クウガ? そうか、クウガか!」
「ボ・ボソグ! ボソギデジャス! クウガッッ!」
(こ、殺す! 殺してやる! クウガっっ!)
これまでにない怒気殺気を撒き散らしながら、ゴオマが黒沢に向かってきた。だが今度は、
黒沢は身をかわすまでもなく自分から真っ直ぐに踏み込み、低く落とした右拳に力を込めて、
「どっせええええぇぇぇぇいっ!」
天に届けとばかりにゴオマの顎をブチ上げた。瞬間、まるで空中に巨大な波紋が広がった
ような……後ろにいる野明には、そんな幻影が見えた。それほどの一撃だった。
黒沢渾身のアッパーカットをまともに受けたゴオマは、自分の身長分ほど打ち上げられて
から、何とか体勢を整えて着地した。だがその口の両端から、だらだらと血が流れている。
『力』。黒沢も野明も知らないが、変身ベルト『アークル』に刻まれた古代文字。今、正に
それが黒沢の全身に宿っていた。
「なるほど……赤い戦士クウガ、これが完全版ってわけか……これなら勝てそうだ!」
白い姿の時とは比較にならぬほどの力。かつてグロンギの魔手から人々を救った伝説の
戦士の力が、時を越えて蘇ったのだ。熱く燃え盛る紅蓮の炎のような、赤い体の戦士。
その名は、
「クウガアアアアァァァァッ!」
「ぃよぉ~し! 来やがれバケモノ野郎! いや、こっちからいくぞおおぉぉっ!」
事件を経て傷つきながらも、強く大きくパワーアップした姿……それが『男』……当たり前
だ……こんなの、当たり前すぎることなのに……いつの間にか忘れてしまっていた……」
ならば、あの頃よりも後退してどうする? あの頃よりも強きく大きくなったのなら、
前進せずにどうする? あの頃には無力さゆえに届かなかった夢の自分へ、
パワーアップした今なら届く、届くはず、手を伸ばしさえすれば必ず……そう、夢見て憧れ
を抱くだけの『男の子』ではない。パワーアップし、クラスチェンジした最強形態『男』
ならばできる……オレが新たに創る伝説、オレの、オレによる、オレだけの英雄伝説!
「だから……だから見ててくれ! オレのっ! 変身っっ!」
黒沢の呼び声に応じて、その腰に古代のベルト、『アークル』が姿を現した。中央に輝く
霊石『アマダム』に、これまでになかった紅い光が灯っている。
「リントグッ!」
(人間がっ!)
3号が向かってきた。薙ぎ払われた最初の一撃を黒沢はかわして、左、右と拳を打ち込む。
少しよろめいた3号が組み付いてきたのを、真っ向から受けて黒沢も組む。
両腕両脚を踏ん張って力を込めると、アークルから放たれた紅い光が四肢に巻きついて、
輝きながら実体化する。そしてそれが全身へと広がっていき、
「ぬぅおおおおぉぉぉぉ……っ、りゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
黒沢は力に任せて、3号を頭上に持ち上げブン投げた。
岩場に叩きつけられた3号が、立ち上がって振り向く。その時、そこに黒沢はいなかった。
いたのは、真紅の生体装甲に身を包み、黄金の刃のような一対の角を備えた雄々しい戦士。
3号……殺戮民族グロンギの怪人、ズ・ゴオマ・グはこの戦士を知っている。太古の昔、
たった一人で自分たちに戦いを挑み、その身を犠牲にして封印の鍵となった男だ。
だが、あの戦士はもう死んだはず。もういないはず。もう二度と遭遇しないはず。なのに?
「ビガラ・バゼ……」
(貴様、なぜ……)
ゴオマは、驚愕と困惑と憤怒と怨恨に震える手で黒沢を指さし、叫んだ。
「クウガ……クウガッッ!」
「……クウガ? そうか、クウガか!」
「ボ・ボソグ! ボソギデジャス! クウガッッ!」
(こ、殺す! 殺してやる! クウガっっ!)
これまでにない怒気殺気を撒き散らしながら、ゴオマが黒沢に向かってきた。だが今度は、
黒沢は身をかわすまでもなく自分から真っ直ぐに踏み込み、低く落とした右拳に力を込めて、
「どっせええええぇぇぇぇいっ!」
天に届けとばかりにゴオマの顎をブチ上げた。瞬間、まるで空中に巨大な波紋が広がった
ような……後ろにいる野明には、そんな幻影が見えた。それほどの一撃だった。
黒沢渾身のアッパーカットをまともに受けたゴオマは、自分の身長分ほど打ち上げられて
から、何とか体勢を整えて着地した。だがその口の両端から、だらだらと血が流れている。
『力』。黒沢も野明も知らないが、変身ベルト『アークル』に刻まれた古代文字。今、正に
それが黒沢の全身に宿っていた。
「なるほど……赤い戦士クウガ、これが完全版ってわけか……これなら勝てそうだ!」
白い姿の時とは比較にならぬほどの力。かつてグロンギの魔手から人々を救った伝説の
戦士の力が、時を越えて蘇ったのだ。熱く燃え盛る紅蓮の炎のような、赤い体の戦士。
その名は、
「クウガアアアアァァァァッ!」
「ぃよぉ~し! 来やがれバケモノ野郎! いや、こっちからいくぞおおぉぉっ!」
【邪悪なるもの あらば 希望の霊石を身に着け 炎の如く 邪悪を打ち倒す 戦士あり】