SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ AnotherAttraction BC 49-1


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「馬鹿な………こんな、馬鹿なッ!!」
スピード、パワー、剛性、装備、全てに於いて生身を上回るコンツェルトの分隊長は、眼前の状況を力の限り否定した。
彼らの外殻装甲に通常の銃弾は通じない。なのに次から次と、手足や首を舞わせて隊員が斃れる。
理由はトレイン=ハートネットだった。彼の手が霞むたび、頑強を頼んだ鋼の体が悪夢の様に破壊されていった。
「おおおぉッッ!!!」
迅、と逆袈裟にハーディスが奔るや、思わず受けの態勢を取った隊員の腕が斜めに切断された。明らかに銃器に有り得ぬ一撃だ。
その答えは、銃身下部の大仰なスタビライザー(反動による銃口の跳ね上がりを緩和する為の重りとなる無垢部分)に有る。
先刻それが獣の顎さながらに開き、中から肉厚で幅広なタントーポイント(貫通力重視の和製短刀状の切っ先)の銃剣が飛び出したのだ。
ハーディスの刺殺形態、牙(ファング)。これによって彼の銃は短剣に等しい間合いと殺傷力を得た事になる。
………広い意味で言って彼の愛銃は銃器に有らず、銃殺の咆哮(ロア)、撲殺の爪(クロウ)、絞殺の尾(テイル)、そして
刺殺の牙(ファング)の四形態を持つ複合武器なのだ。

「死ねッ!」
斬り倒された仲間越しに腕に仕込んだニードルガンを放つ――――前に、ピンヘッドが顔面装甲ごと頭を貫く。
「畜生ッッ!!」
背後からダイヤモンドダストロッドを突き込む――――よりも速く、銃撃の反動と腕力で高速となった銃剣が振り向き様に首を刎ねる。
「う…お……!!」
格闘用パイルガントレットで攻撃を受ける――――ものの、それごと頭を唐竹に割られる。
「ふざ…けるな、この野郎オォッ!」
巨大なヒートナイフで、大上段でトレインに迫る――――が、ワイヤーに足を掬われ、弾みで仲間を斬り捨てた後銃床が頭を砕く。


「何だ……これは…」
――――圧倒的、だった。勝てぬまでも腕の一本は貰うつもりにも拘らず、傷一つ負わせられない。
確かにまだ試作段階に有るとは言え、それでも人間に倍する力のサイボーグボディで、しかも数まで多い。
だが所詮中身は、当たり前の戦場に於ける定番に慣れた傭兵だ。彼らに単騎で圧倒する怪物との戦闘経験は全く無い。
善戦しようにも反応速度の差と経験の無さ、そして相手が彼では奇跡でも起こらない限り夢のまた夢だ。
これがクロノナンバーズなのか? これが、黒猫(ブラックキャット)なのか? 何より、総身を鋼としてもまだ届かないのか?
……最後の部下が斃れる音が、彼を思考の迷路から引き戻した。
「お前で終わりだ」
彼らの身勝手に憎悪を滾らせて、最強のイレギュラーナンバーは銃剣からオイルを振り落とした。勿論それが、切れ味を鈍らせる要素に
はならない。だからこそのオリハルコンなのだ。
「ち………」
残った分隊長の両腕には何の武器も無い……が、精一杯の威嚇の様に肘から指先にかけて超振動を展開する。
「畜生オォッ!!!」
触れれば鉄をも粉砕する腕を振り上げ、トレインに飛び掛った。しかし待ち受ける彼の掌中で、ハーディスが食指を支点に回転した。
一閃―――――、二人は擦れ違い様に激突する。

双方を背後に置いて、互いに武器を振り抜いた形のまま固まった。
最初に動いたのは…………超振動を掠めたらしいトレインの頬に流れる血だ。
しかし、言葉を発したのは…………
「クリード…様………」
分隊長の胴は、回転を加えたハーディスの銃剣に袈裟懸けに斬られていた。生命維持ユニットの大部分が、その斬撃で損傷している。
「こいつは……危険で………す…」
それを遺言に、分隊長は斃れた。
……その亡骸を、トレインは何処か悲しげな眼で見詰めていた。
「最後まであいつかよ………馬鹿野郎共が」
クリードと自身はかつて仕事のパートナーだった。しかし誰一人寄って来ない自分に対して、クリードは損得や策略的信頼で常に
誰かが傍に居た。セフィリアやジェイドに到っては、彼をまるで弟や息子の様に扱ってさえいた。
あの時は何とも思わなかったが、今となっては彼の求心力が羨ましい。それが例え、嘘偽りであっても。
しかしそれを、敢えて彼は自嘲する。
「……行くか、皆の所に」
携帯の発信機モードでGPS画像を見れば、リンス達の位置も判る。今は仲間が待っている、何はともあれ其処に急ぐのが今の仕事だ。


「…意外でしたね、ハートネット」

―――――トレイン自身、意外な声に驚きを隠さず振り向いた。
そして其処には誰有ろう、アウトラウンドを侍らせたセフィリアが居たでは無いか。
「てめえ……」
「まさか貴方が人助けばかりか、あんな有り得ない台詞を言ってのけるとは……正直少々驚いています」
服装は私服だが、腰には愛用の剣を佩いている。収めてはいるが、恐らくは星の使徒の手勢を幾人も切り捨てた事だろう。
彼女はトレインの憎悪に反応しないが、アウトラウンド達はそれぞれの武装で身構える。
「しかし……誤算でしたね。貴方が居ればクリード自ら出向く物かと思っていたのですが………やはり莫迦では有りませんね」
その言葉だけで充分だった。それに現状に於ける何もかもが集約されていた。
まるで黒い炎さながらに〝何か〟が彼から沸き立つのを、セフィリアを始め一同が肌で感じる。
「…そうかよ」
「止せ! 止さねえか、ハートネット!!!」
誰一人呻きすら上げられない殺気の中で、ナイザーが割り込む形でセフィリアを庇う。
「…どけよ、ナイザー」
「駄目だ、来るんじゃねえ!! おめえ其処まで先代に不義理働く気か!!!」
成る程言い分の筋は通っているが、それでもトレインは静かに歩を進める。ナイザーが身を挺して守っているのは、この状況
を自分一人の算盤で作った許し難い悪党なのだ。それなのに何処吹く風と涼しい貌で居るのが、彼には一層腹立たしい。
「不義理…だ? この鉄火場に義理もクソも有るか…?」
「落ち着け! お嬢にだってこんなのは予想外だったんだよ!!
 そもそもクリードさえ来りゃあ何もかも最小限で済んでたんだ! それが……たまたま、こんな…」
「もういい、さっさとどけ。今オレの獲物はセフィリアだけだ、庇う奴は殺す」
彼の瞋恚の程が理解出来るだけに、ナイザーもこれ以上強くは制止出来なかった。
正直此処まで怒ったトレインを見た事が無い。彼の怪物振りを知るだけに、自分一人なら早々に逃げ出したい気分だ。
「…お前ら……ここは俺が食い止める。お嬢を……!!」
「逃がしたら、そいつもまとめて殺す。オレの邪魔をしたら、一匹も逃がさねえ」
アウトラウンド達は構えた武器を取り落としそうだった。彼に抵抗すれば絶対に死ぬ、しかし立場は敵前逃亡を許さない。
かつてクロノス本部からオリハルコン武装を奪い逃亡した際は、当時のナンバーズを九割方蹴散らした怪物なのだ。そんな
相手に単なる候補生の彼らで、如何に抗する事が出来ようか。

「―――トレイン!!」
…唐突な呼びかけに、彼の殺意が一瞬で掻き消えた。
「こんな所で何やってんのよ!? ちょっとこっちが大変……!」
駆け寄って来たリンスだったが、トレインの前に居る集団を見るや必死だった貌に疑問を差す。
「…………どういう事、これ」
感情は一気に右肩下がりとなり、沈黙して足を止めるトレインの後ろまでやって来た………が、坊主頭の男が庇う女を見た途端、
口元にとても微かな微笑を見せた。
「ああ……成る程。そっか…………そういう事なんだ…」
その微笑のままトレインの横を過ぎようとしたその時、トレインの手が彼女の肩を捕まえた。
「…止めろ」
「止めろ? 何で?」
彼女は、貌も言葉も穏やかだった。しかし、それが何を指しているのか判らないのは一人としていない。
「オリハルコン武装を持ってる。お前じゃ無理だ」
「関係無いわよそんなの。良いから、離しなさいよ」
その落ち着き様は、凪、だった。これから嵐が吹き荒れる前兆だった。
「良く考えろ、今はこいつに構ってる暇なんか無い。大変って何なのか………」
「うるさいわね……離せって、言ってんでしょ」
ついに表情が消えた。アウトラウンドの面々も、報告で道士を圧倒したと聞いているだけに改めて身構えた。
「いいから、もう放って……」

「………放って置ける訳無いでしょ! こんなクソ女!!!」
怒りが弾けるや、トレインは彼女を羽交い絞めにした。それでもリンスはセフィリアに飛び掛らんと暴れに暴れる。
「アンタ頭のネジ何処に置いて来やがったの!!? それともお眼々はガラス球か節穴!!?
 舐めてんじゃないわよこのクソ女!!!」
トレインを振り解こうともがくも、彼の拘束は鉄の様に堅牢だった。
「放しなさいよ!! アンタムカつかないの!!? この女がこの状況作ったから、此処に居るんでしょ!?
 良くそんな涼しい貌してられるわね! 気は確かなの!!?」
彼女の罵声に、ナイザーは流石に気分の悪い貌をした。全くその通りだ、反論のしようも無い。
「アンタあのイカレ野郎と良い勝負よ! アイツとアンタだけで、どっか人の居ない山奥か海の上かで死ぬまで殺し合ってりゃ
 それで世の中大団円だわ!!! 
 血や涙が通ってるなら………今すぐ死ね! この売女!!!」
噛み付きそうな怒りに、アウトラウンドですら直視に堪えなかった。
――――悪党である、と言う事を真剣に向き合える人間は居ない。
悪とは、別視点で言えば「非難されても何を言う資格も無い存在」の事を指す。後は非難が心に届くかどうかの問題だ。
然るに、それを弁える人間は進んで悪になりたいと思うまい。それしか道が見えないのならまた別な話だが、そうで無いなら
まずその重圧には耐えられない。誰でも自分が正しいと信じて行動するからだ。
三下が悪を気取った所で、それは上辺だけでしかない。単に罪悪感と矜持が欠如しているだけの話だ。
だが、「世界を救う」という矜持が有る彼らにとって、悪し様になじられるのは苦痛以外の何物でもなかった。

…思う様に猛り、ようやく怒鳴り疲れたリンスを開放したトレインもまた、疲れていた。この、救い難い現実に。
力だけではどうにもならない人の世に、彼はほとほと嫌気が差していた。詮無く、彼の人に会いたいとも考えてしまう。
彼女ならきっと、これさえ笑い飛ばすのだろうと思うと、それが容易に出来ない彼はますます肩に重いものが圧し掛かった。
だが、怒り狂うリンスのお陰で冷静になれたのも間違い無い。言いたい事は彼女が殆ど言ってしまった。
それでも、最後に一つだけ―――
「セフィリア………あんた、オレが変わったって言ったよな…」
戦意を収める形で、銃をホルスターに仕舞う。
「オレも言わせて貰うぜ。あんたも…変わった、どころか変わり過ぎた。
 昔は気に食わないほど規律人間だったのに………今は気に食わないほど腐れ外道だ」
勿論この程度では、彼女の眉一つ動かないのを彼も知っている。だが、それもこの決め手に持って行く為の布石だ。
今彼に出来る精一杯の皮肉を込め、かつ恨みたっぷりに―――しかし全くその色を見せず次句を紡ぐ。


「昔のオレも……そんな奴だったのか?」

一見彼女の鉄面皮は変わらない様に見えた。だが流石に堪えたらしく何一つ答えようとはしなかった。
訪れるのは重苦しい沈黙。その長さが、セフィリアが受けた衝撃を物語っていた。
しかし、それとは別に突然湧き上がった耳をつんざく爆発音に、一同正気に引き戻された。
「!?」「な…んだ、ありゃあ!!」
候補生達が遠くに渦巻く巨大な爆炎に驚愕を零した。
「………どうやら、クリード級の道士が来ているようですね」
それに沈黙の帳を払われたのか、ようやくセフィリアが口を開いた。
「ハートネット、私達はあそこに向かいます。貴方達は出来る事をおやりなさい」
それを短く告げると、彼女は部下達を引き連れて足早に場を去った。
…居なくなればこれ以上怒り狂う必要も無い、一息長く吐くと、それで平常心を弾丸の様に胸に込めた。
「で…リンス。何が大変なんだ?」


「…何………あれ…?」
イヴもまた、爆炎の大きさに戦いの最中にも拘らず愕然としていた。
「あらら、可哀そうに。エキドナだな、ありゃ」
全く慈悲など含有しない口調で、リオンは呟いた。
「星の使徒でな、クリードやシキに次ぐ危なさの道士だ。あんまり危ないもんだから、部下を持てないんだよ。巻き込むから」
さも当然の様に、イヴにとっての絶望を伝えた。
「だって、戦艦並みの火器を一人で使えるって言うんだから、仕方無いよな。
 誰と闘ってんだか知らないけど、今頃バラバラか消し炭だな」
勿論闘っているのは一行の誰かだ。それを考えるだけで心が騒ぐ。
「でもな………今お前が闘ってるのは、オレだぜ。
 集中しろよ、オレを………倒したいなら」
負傷を感じさせぬ踏み込みで、リオンがイヴに肉薄した。
「!」
それに反応したイヴは、ブロンドの拳を見舞った――――が、
「防げッ!」
現れた盾を構える鎧が、それを手堅く受け止める。
だが、彼も其処で終わりでは無い。消える前の鎧を足場に、上からイヴへと追撃する。
「刺せェッ!」
騎兵槍を持った鎧が、リオンの背後に生じた。巨大な円錐はこれまでに無い正確で彼女の額を突くが、それをもう一つの副腕が
握って受け止めた。
「~~~~~~ッッ!!!」
如何に一瞬とは言え、気を抜けば押し切られそうなほどに重い。だが此処で、身体を固定する訳には行かない。
「叩き割れェッ!!」
槍の鎧が消えるより僅かに早く、イヴは先刻盾に止められた腕を伸ばし噴水の縁を掴まえた。そして高速で縮めるのと、薙ぎ払いの
大斧の旋回半径を逃れるのはほぼ同時――――では無い、僅かにふくらはぎを重い刃が掠めた。


「…っくぅ…」
斬られたが歩けないほどではない。傷にナノマシンを廻せばすぐに塞がる程度の物だが、それを見逃すほど今のリオンは甘くない。
彼は積極的に攻め手に回る事で、かつ無節操に出さない事で出鼻を挫き辛くした。
そして何より、半端な負傷が彼から全ての油断を取り去っている。
近過ぎでも無ければ遠過ぎでもない微妙な距離を確保しながら、彼の猛攻は次第に容赦無くなって行く。
だがそれ以上に彼を鋭くするのは、その窮地に有ってもなお折れないイヴの眼光だ。
「だからってオレも…負けてやらないぜ」