SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ WHEN THE MAN COMES ARROUND 48-2


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「来い!!」
震脚で床を強く踏みしめて迎え撃つ防人。
両腕を広げて殺到するホムンクルス。
防人は充分に重心を落として腰を捻り、ホムンクルスに向かって一撃必倒の力を込めた拳を放った。
その拳はストレートというより正拳突きに近い。ただし、スピードは軽量級ボクサーのジャブさえも
遥かに凌駕する。
しかし――
パァンと乾いた音を立てて顔面に炸裂した突きであったが、ホムンクルスは数瞬、その動きを止めただけで
然したるダメージも負ってはいない。
その証拠に、ホムンクルスは打撃を受ける前とまったく変わらぬ勢いで防人に突進し、
勢いよく両手を振り下ろしてくる。
原因は明白。
「くっ……!」
シルバースキンに覆われて見えないものの、右の太腿に巻かれた包帯には血が滲み出している。
アンデルセンの銃剣に貫かれた傷だ。
その貫通創は強烈な痛みと下肢筋力低下を防人に与え、彼の最大火器である直接打撃の威力を奪ったのだ。
そして、激痛と焦りが防人の反応を曇らせた。
振り下ろされる化物の両手に対し、反射的に己が両手を突き上げてそれを受け止めてしまった。
勢い、手四つの力比べに似た姿勢を強いらされる防人。
「CAPTAIN BRAVO……」
ホムンクルスの容貌は長い白髪に隠され、窺い知る事は出来ない。
威嚇の雄叫びも気合いの唸りも上げず、ただ目の前の敵の名前を静かに呟くだけだ。
「うっ、うぅおおおおお……!」
むしろ防人の方が奥歯を噛み締め、搾り出すようにして苦悶の声を洩らしている。
(このホムンクルス、とんでもないパワーだ……!)
両手を組み合った二人の筋緊張は極限まで高まり、全身の細かい震えは周囲の空気まで
振動させているかのような錯覚を他の者に覚えさせた。

ここで狡猾に眼を光らせた人物は、言うまでもない。
“指揮官”マシュー・サムナー戦士長だ。
二人が膠着状態に陥ったと見るや、サムナーは電光石火に行動を開始した。
まずは居丈高な大声で防人とジュリアンに命令を告げる。
「戦士・ブラボー! そのホムンクルスは君に任せたぞ! これより二手に分かれる!」
防人は一瞬も力が抜けない。サムナーの方へは顔を向けず、ただ「ハイ!!」とだけ怒鳴った。
「パウエル! お前は戦士・ブラボーを援護するんだ!」
防人から少し離れ、震えながらライフルを構えるジュリアンの眼にはありありと恐怖の色が浮かんでいる。
だがサムナーに与えられた“戦う力”に後押しされて、やや高めのオクターブではあったが応答の声を返す。
「りょ、了解……!」
次にサムナーは不敵な笑みを浮かべながら、火渡と千歳を見遣る。
「戦士・火渡! 戦士・楯山! 我々三人はパトリック・オコーネルを始末する! ついて来い!」
「了解!」
「……」
千歳は切迫感に満ちた応答を返し、火渡は相も変わらずの態度だ。
三人は中央の大階段へ向かう。
その途中、千歳は足を止めて振り返り、防人に声を掛けた。
出来るだけ大きな声で。彼の耳に届くように、彼の心に残るように。
「防人君! 気をつけてね!」
だが声が届かなかったのか、それとも返事をする余裕が無いのか。
防人は一言も発さずに眼前のホムンクルスを睨みつけながら、パワーショベルクラスの力比べを続けている。
千歳はなおも防人を見つめて何かを訴えようとしていたが、やがて身を翻してサムナーと火渡の後を追った。

そしてこの場に残されたのは三人。いや、二人と一匹。
錬金の戦士とホムンクルス。それに、怯えを隠し切れない非戦闘員。
そのジュリアンに向かって防人は叫んだ。集中力が途切れ、力比べが劣勢に回るのは承知の上だ。
「ジュリアン!」
「ハ、ハイ!」
「お前は隠れてるんだ! ぐぅおおっ……! こ、こいつは普通の武器ではッ……手に負えない!」
「そんな……! 僕だって戦えます!」
だが、これは超人的な力に超常の兵器を併せ持つ戦士と、異形の化物の戦いだ。
たとえある程度の訓練を受けていようとも、生身の人間が何の変哲も無いただの銃を撃ったところで、
死体が余分に一体増えるだけだろう。
少なくとも“今のまま”では。
「僕だって戦う力を――わあっ!」
懸命に己の戦いへの意志を訴えようとするジュリアンの足元で突如、火花が散った。
見ると右側の通路で、一人のテロリストが銃を構えている。
サムナーは一階の敵全てを射殺した訳ではなかったようだ。
それがわざとなのか、それともそろそろ露になってきた彼の粗忽なのか、どちらかはわからない。
「よくも、よくも俺達の仲間を……!」
怒りに燃えるテロリストは誰彼といわず、ロビー中央に向けてライフルを乱射した。
組み合ったままの防人とホムンクルスにも銃弾は雨のように浴びせられたが、それはシルバースキンや
体表で弾かれ、それぞれどちらも物ともしていない。
しかし、ジュリアンは別だ。
腰を抜かしたように這い回り、銃弾から身を遠ざけようと必死になっている。
「わわっ、うわわわ……」
「逃げるんだ! 早く!!」
「ハッ、ハイィ!」
今は既に“戦う意志”も秘めた“武器”の存在も忘れ、ジュリアンは左側の通路に向かって
只々つんのめりながら駆け出した。
この姿を笑う者もいるだろう。謗る者もいるだろう。
だが少しでも超人や狂人、人外の戦いを見慣れてしまったと思う者は、これだけは覚えておいた方がいい。
戦士でも騎士でも兵士でも闘士でも、ましてや化物(フリークス)でもない。
これこそが我々の世界に溢れかえる“人間”の姿なのだ。
フロアの奥へ逃げ出すジュリアンの姿を見たテロリストは、腰の無線機を抜いて怒鳴った。
「コーネリアス! サミュエル! そっちに一人行ったぞ! 殺せェ!!」
彼のこの無線連絡で、一階には更に生き残りのテロリストがいる事が判明した。最低でもあと二人。
「な、何だと!? ……ウオオッ!」
度重なる集中力の欠如に、防人は遂にホムンクルスの勢いに負け、床に片膝を突いてしまった。
更にそのショックで大腿に激痛が走る。
「くっ……! お、お前の……」
しかし、痛みなどよりも遥かに熱いものが身体中を流れていく。
もう、誰も死なせたくない。誰かが死に、誰かが泣く世界なんてまっぴらだ。
ジュリアンは、共に戦う仲間だ。自分の尊敬に足る人物が愛する者だ。遠い異国で出会えた友だ。
絶対に、絶対に死なせない。
どうしても守り抜かなければ。

「お前の相手をしてる暇なんて……――」

防人の両腕、いや両掌にこれまで以上の力が込められる。
相手をねじ伏せようとする腕力でもない。身体を踏ん張ろうとする脚力でもない。
それは、握力。

「――無いんだァアアア!!」

防人の怒号と共に、ホムンクルスの両手は一度にグシャリと握り潰された。
手掌も指もバラバラに千切れ飛び、床に落ちる。
「……」
ホムンクルスはやはり無言だ。自分の身に起きた異常な事態に戸惑っているように見えなくもない。
動きを止めて、手首から先が消失した両腕を眺めているのだから。

この、一瞬。

防人は敵が見せたこの隙を逃す程、お人好しでもなければ、戦士として無能でもない。
片膝を突いた姿勢から一転、勢いよく立ち上がり、凄まじい速度で両の拳を繰り出した。
「粉砕! ブラボラッシュ!!」
赤銅島事件の際に開発・命名した防人の必殺技だ。
幾重にも残像を発した拳が、次々にホムンクルスの身体を連打する。
それはまさに拳の弾幕。しかも、威力はマシンガンどころではない、バズーカそのものだ。
見る見るうちにホムンクルスの全身がへこみ、捻れ、捩れていく。
「ウォオオオオオオオオオオ!!!!」
10ダース以上もの拳を撃ち込んだ防人は、ワインドアップを思わせる勢いで大きく振りかぶり、
とどめとばかりにホムンクルスの頬を強烈に撃ち抜いた。
3mを超える巨漢がまるで風に舞う塵か芥の如く、軽々と吹き飛ぶ。
吹き飛んだその先は壁と、立ち尽くすテロリスト。
「ちょ、嘘だろ……」
ホムンクルスは一階全体に響き渡る程の轟音を立てて、壁に叩きつけられた。
その巨体とひび割れた壁の間から見える人間の腕はピクリとも動かない。

だが防人はすぐに驚愕の光景を見る事になる。
壁に叩きつけられてものの数秒もしないうちに、ホムンクルスがスクリと立ち上がったのだ。
ノーダメージを誇示する訳でもなく、ノックされたドアを開けに行くように、ただ何の気無しという風情で。
「CAPTAIN......BRAVO......」
そして相変わらず標的の名を静かに呟く。
防人の頬を冷たい汗が伝わり落ちた。
「何てタフな奴なんだ……」
驚愕の光景はそれだけでは終わらず、更に続きを見せる。
「……!?」
ホムンクルスは突然ビクビクと痙攣を始め、体表面がモザイクのように変化していく。
動物型ホムンクルスに見られる、人間形体から動物形体への変身だ。だが、どこかおかしい。
通常のホムンクルスなら一瞬で変身を済ませる筈。
なのに目の前の化物は徐々に時間を掛けて、しかもこれまで見た事も無い生物に変身しようとしている。

眼がグロテスクに大きくなっていく。それは何千個もの眼球が魚卵のように密集した“複眼”だ。
それと同時に下顎が縦に二つに割れ、おぞましい口となった。
胴体部分が胸と腹に大きく分かれ、全身を硬い“殻”が覆い尽くす。
背中からとても飛行には使えなさそうな申し訳程度の羽が突き出てくる。“羽”と言うよりも
“翅”と言った方がいいのかもしれない。
振り上げるのは“鎌”のような二本の腕。更にその下には巨大な“鋏”を有した二本の腕。
四本の後脚はしっかりと安定して床を踏み締めており、尻に当たる部分からは“糸”に似た
粘液が垂れ下がっている。
不思議と身体のどのパーツも、防人には幼い頃に見慣れているような気がした。
「こ、こいつ……」
加えて通常のホムンクルスと同じように、胸に浮かび上がった人間形体の顔。荒い縫い目だらけの顔。
糸のように細い右眼と、まぶたが捲れ上がって大きく見開かれた左眼。
鼻は削げ落ちたように見当たらず、二つの鼻腔だけが顔の中心に空いている。
唇の無い口は歯茎と前歯が剥き出しだ。
そして、額には、三つ葉のクローバー(シャムロック)を連想させるかの如く、ホムンクルスの証である
“章印”が三つに連なっていた。

「一匹だけじゃ、ない……!?」



影が一つ。息せき切って走る。追い立てられるように。
後ろを振り向き振り向き、小柄な身体をふらつかせながら、もはや“走る”とは形容し難い速度で。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ、ハァッ……」
やがてジュリアンは立ち止まり、壁に手を突きながらひたすらに荒い呼吸を繰り返す。
恐怖と全力疾走で失った酸素を取り戻すかのように。
逃げた。
逃げ出してしまった。
巨大な化物から。テロリストの銃弾から。そして、何よりも死の恐怖から。
防人が「逃げろ」と言ったから、その場から離れた。
そんなものは言い訳にしかならない。
自分の声によく似た声が気安く話しかけてくる。

『お前も戦うんじゃなかったのか?』
「うるさい……」

『そんなに恥じるなよ。殺されたい奴なんかいないさ』
「うるさい……!」
『お前は戦いになんて向いてないんだ。戦闘は戦士に任せときゃいいんだよ。
ジョンや、サムナー戦士長や、防人サンに』
「うるさい! うるさいうるさいうるさい! うるさい!!」

『でも、男になりたいんだろ?』
「!!」

恐怖と混乱に満ちた頭蓋の中に、一条の光が射した。
やや盛り上がった懐に意識が向き、服の上からそれに手を遣ると、確かに心強い感触が触れた。
戦士になりたかった弱い自分にもたらされた“武器”。戦士になれなかった弱い自分が望んだ“戦う力”。
「そ、そうだ! サムナー戦士長がくれた“武器”だ! 僕にはこれがあっ――」
「いやがった!」
突然の荒々しい声によって、希望に満ちた笑顔は打ち消された。
声がした方向に移したジュリアンの眼には、曲がり角から姿を表した二人のテロリストが向ける
アーマライトAR‐18の銃口が映った。
撃たれる。撃たれちゃうよ。
身体が動かない。早く身体を動かせ。早く動かさないと――
ジュリアンはとっさに一番手近なドアに向かって駆け出した。
「うぐぅ!」
身体中に強烈な異物感が刻み込まれるのを感じながら、ジュリアンは後ろ手にドアを閉め、そのまま倒れ込んだ。

何発の銃弾が身体を貫いたのか、何発の銃弾が体内に残っているのか、そんなものは知る術も無い。
身体中が濡れている。胸も、腹も、背中も、脚も。
気分が悪い。喉の奥から鉄臭い何かが次々に湧き出てくる。
「ごほっ……! うぅ、痛い……痛いよ……」
ジュリアンの震える手は上着の懐をまさぐり、ゆっくりとゆっくりと“箱”を取り出した。
「ぶ、武器……。早く……早く、武器を……」
早く開けよう。中から武器を取り出して戦うんだ。化物に苦戦してる防人サンを助けるんだ。
血で滑る手を懸命に動かしながら、ジュリアンは“希望”の詰まった箱の蓋に爪を立てる。
やがて、固く閉ざされていた蓋が、小気味の良い音を立てて外れ、床に落ちた。
「あ、あはは……。開い、た……」

箱の中身が眼に入るなり、ジュリアンの時間が止まった。
身体も表情も驚きのあまり動かない。動かせない。
思考も脳裏に大きなクエスチョンマークが浮かんだまま止まってしまった。
「え……?」
箱の中を蠢いている3cm程の物体。
「パミイイィィィ……」
胎児のような外観。大きく突き出た頭部。長い尻尾。機械を思わせる無機的な質感。耳障りな奇声。
コレは。
見た事がある。
いや、“見た事がある”では済まされない。
“見慣れている”
戦団の研究所(ラボラトリー)で。ホムンクルスや信奉者のアジトで。脳ではなく末端部から巣食われた人間の身体で。
コレは、コレは、コレは、コレは、コレはコレはコレはコレはコレはコレはコレはコレはコレはコレはコレは。

“ホムンクルス寄生体”

「パミィイイイイイイイイ!!」
ジュリアンを認識した寄生体は喜びの声を上げながら、彼の額に向かって素早く飛びすがった。
まるで母親の胸に飛び込む幼い子供のように。

「うわぁああああああああああ!!!!」