SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 修羅と鬼女の刻(ふらーりさま)46-5


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平安京の一角に、足利軍の駐屯所がある。尊氏と、家臣や兵たちはそこで暮らしている。
毎夜、兵たちと手分けして街の巡回をしている尊氏だが、では日中はどうしているのかと
いうと、ここで大賑わい大混雑の窓口業務に勤しんでいる。
なにしろ倒幕直後のこと。江戸幕府が倒れた後の、明治政府の立ち上がりと同様、
戦うことよりもその後の政治的あれやこれやの方が大変なのだ。まして後醍醐天皇は
自身が陣頭に立って政務を執り、それがまた貴族中心・武士そっちのけな姿勢丸出し
だったものだから、この平安京に集まっている武士たちの不満が日々高まっている
(それがまた治安悪化の一因になっている)。
なので尊氏は、そういった武士たちの相談所を設置。窮状を聞き、訴状を集め、
それらを整理しては新政府にかけあい、苦しむ武士たちのために働いているのである。
そんな駐屯所の中にある尊氏の屋敷にて。尊氏の右腕といわれる足利家執事、
高師直(こうの もろなお)が、書類の山を抱えて奥の部屋にやってきた。
「では、次はこれを」
どさ、と机の上に置かれたその山は、元々そびえていた書類山脈に新たな伝説を
築き上げた。延々続く悪戦苦闘伝説を。
「ぅあ~」
「ほらほら、呻いているヒマはありませんぞ陸奥殿」
筆を握った手で頭を抱えてる大和と向かい合わせに、師直が腰を下ろした。護良親王
ほどではないが、筋骨隆々でいかにも歴戦の勇士といった感じである。だが猪突猛進
な印象はなく、良く言えば思慮深そう。悪く言えば狡猾そう。底を見せない瞳をしている。
「夜間のみならず昼間も我らの手伝いをしたい、と言われたのは陸奥殿。なれば、
この程度で降参されては世の物笑いとなりましょうぞ」
「こ、降参なんかしないよ。陸奥圓明流に敗北の二字はないっっ」
大和は歯を食い縛って、筆を取り書類に向き直った。慣れぬ作業で目眩がしてきたが、
だがオレの名は陸奥だっ、今のオレは人間じゃないっ、とか思って耐える。
「殿は今も受付に立ち、臣下の者たちと共に全国の武士たちの訴えを浴びておるところ。
我らも負けぬよう、頑張らねばなりませんぞ」

「うん、解ってる」
筆を持った手で頭をほりほり掻きながら、大和は疲れた声で答えた。
「平和な新時代のために……でしょ。お兄さんもさんざん、熱く語ってたよその話」
「左様、全ては新時代のため。こうした作業や夜間の巡回で殿自身が前線に立って
いれば、やがて武士たちの間で殿の名は不動のものなる。大戦でバラバラになった
武士たちの心が、また昔のように一つにまとまることとなる。足利の旗の下、
武士たちは一枚岩となって二度と崩れない」
「みんなが一つになれば戦はなくなる、か。壮大な話だね。でもって、」
ちょっと楽しそうに、大和は言った。
「師直さん、足利さんのこと本当に好きなんだね。自分のことみたいに誇らしげだよ」
「え?」
「気持ちは解るよ。オレも、街でお兄さんのこと褒められてるの聞くと何だか嬉しいしね。
楠木正成は当代随一の軍師、並ぶ者なき勇将だ、とかさ」
自分のことみたいに嬉しそうに語る大和を見て……師直は、笑った。
「ははははっ。いや、確かに。拙者は殿のことが好きでござるぞ。なればこそ殿の為ならば、
何でもする所存。それこそが足利家執事の務め、この高師直の存在理由にござれば」
「オレはお兄さんのため、高さんは足利さんのため、で目指す所は同じってことだね。
そんじゃお互いの目的のため、仕事頑張ろうか高さん」
「で、ござるな陸奥殿」
二人は仲良く向かい合い、筆を取って事務処理に励んだ。
だが大和は気付いていない。師直の目指す所は、自分のそれとは大きく違っていることに。
そしてそれが、大和と足利家を引き裂いていくこととなる。
『そう、殿の前に立ちはだかる者は、誰であろうと容赦しない。幕府でも朝廷でも、
もちろん皇族でも天皇でも……』

日に日に足利尊氏の声望が高まっていく中、危機感を募らせている者がいた。
楠木正成が籠城戦なら、こちらは山野を駆け巡って幕府軍を翻弄した護良親王である。
「足利め、幕府を倒したと思ったら武士どもの人気取りとは。抜け目ない奴」
御所近くにある親王の屋敷。親王も尊氏と同様、都の治安維持の任についている。
が、先の戦いでの部下たちは所詮傭兵であり、親王は自分の兵というものを殆ど
持っていない。加えて、後醍醐天皇もそうだが親王も武士たちを身分的に見下して
いるので、尊氏のように「彼らの生活を守ろう」なんて考えてはいない。
なので尊氏の屋敷と違い、この屋敷にはロクに人がおらず、静かなものである。
親王が考えているのは、父である後醍醐天皇が問答無用で全ての上に立つ世を
創ること。というか、それが世の正しい姿だと信じている。武士の政権などもっての他だ。
その辺は、楠木正成だってほぼ同意見である。だが親王には、正成ほどの思慮はない。
「せっかく鎌倉幕府を潰しても、このままでは足利の奴めが新たな幕府を建てかねん」
「でしたら、やることは一つでしょう」
はっ、と親王が振り向くと、いつの間にやら勇が座っていた。きちんと背筋を伸ばして、
行儀よく正座している。……ほんの数瞬前にはいなかったと思うのだが。
「邪魔者は排除。それ以外に何があるというのです?」
「そう言うがな。表向き足利は倒幕の功労者、新政府の重鎮だ。ヘタなことはできん。
実際、新たに兵を集めたりはしてみたのだが、足利本人はともかく家臣ども……執事
の高師直などは、余はもちろん父上にすら目を光らせておる。身動きが取れんのだ」

「それは、加害者の身元が明らかな場合の心配です。謎の人物に夜討ちされて
謎の死を遂げた、となればどうにもなりませんわ。親王様もさんざんご覧になられた
はずの、このわたしの力をお忘れですか?」
親王は、ぎょっとして勇を見つめた。
「で、では、お前が足利を?」
「はい。わたしは女の身ゆえ、戦や政のことなど、しかとは解りませぬ。が、この国の
正統なる主は天皇、すなわち帝以外にないということぐらいは存じております。
今こそ、卑しき武士どもに思い知らせてやるべきでしょう」
勇の冷たい殺気が、声に乗って紡ぎ出されていく。
「源頼朝が築いた武士政権、幕府。『武士による天下統一』などと思い上がった
百五十年が、取るに足らぬ錯覚であったことを……親王様にしか、できぬことですわ」
親王の心に、勇の言葉と視線が染み込んでいく。皇族としての誇り、武士への蔑視、
己の強さへの自信など、それらの隙間に隅々まで根を張り広がっていく、勇の存在。
「……よかろう、足利の始末を任せる。日本国の未来はお前に預けたぞ」
勇は両手を着き、深々と頭を下げた。
「勿体無き御言葉です。必ずや足利の首級、挙げてご覧に入れましょう」