SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 第098話 (4-1)


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「とにかくだ。武術に筋量は必要ない」
「本当にそうなんスか? キャプテンブラボー」
 手を挙げたのは中村剛太。武術……というか鍛錬とは無縁そうな人物である。
「剣術はなんとなく分かりますけど、殴ったり蹴ったりするのはけっこう力要りますよ? そうでもしなきゃナックルダスターや
スカイウォーカー通りませんってホム相手に」
 前半耳にした瞬間わずかに目の色変えた男がふたり。
(……フ。剣士でもマッチョな奴は居たけどな) 
(飛天御剣流。総角の振るう流派の何代目かの継承者が確か……)
 最近思うところあり古流について調べている秋水だから思い当たる。平生バネの付いたひどく重い外套で力を押さえていた
男の話を。
「ブラボー。流石は戦士・剛太。なかなか鋭い質問だ」
 話の腰を折られた形だが防人は涼しい顔だ。むしろ質問大歓迎という風でこう述べる。
「じゃあとりあえず順を追って説明する。ああ戦士・斗貴子たちも必要と思ったらメモしなさい」
 普段の剛太ならば面倒くさそうに後頭部をかくところだが、今回は違う。目下講義を受けているのは斗貴子のためだ。来る
戦いのため僅かでも強くなろうとしている。のでメモを取りたいのだがそこは平素の無精癖、「俺けっこう記憶力いいしいいや」
とばかり携帯してない。
「はい」
「かじったのあるじゃん。やる。垂れ目」
 助け舟は女性陣だ。桜花が手持ちから数枚破り差し出した。筆記用具は歯型だらけの茶色い鉛筆が香美から供出された。
「フ。お前意外にモテるな」
「うっせえよ」
 総角の茶々は無視。用紙を核鉄に当て──ボード代わりだ。臨機応変だが少々だらしないのが剛太流──筆記開始。
「要するに筋力って奴は縮む力と速度だ。まぁ一口に縮むと言っても色々あるが今日は省く。分かりやすくいえば──…

縮む速度 × 縮む力

だな」
「ふんふん」
 武術と無縁な剛太でも大変分かりやすい説明だった。なまじ頭のいい彼だから長話は嫌いである。一般常識の講義に対し
「で、結論なんだよ?」と居眠りこいて後でググってそれでよい点採っていたのが研修時代。防人の説明はそんな性格を
踏まえた速成即席の単純授業だった。数多くの戦士を育ててきた年季を感じ秋水はますます敬意を深めた。
「なお細かい説明がご入用でしたら後ほど不肖が解説する所存!」
「やだよ長くなりそうだし」
「そうは仰られますが剛太どの! 知識といいますのは長く険しき道をかきわけかきわけ進み続けてようやくですねっ?」
「拒絶しても火ぃつくのかよ!」
 剛太は詰め寄られた。
「長いのお嫌でしたらCD! 不肖がポイント別に5分づつ区切って説明いたしまするCDを作成生産のうえ配布! 寝る前
ご飯食べてる時おヒマな時のながら用にちょびちょび聞きますれば効果覿面知らぬ間に熟達するコト必然! 隙間時間が
有効利用できるコト請け合いですっっ!!」
 ロバ少女のどんぐり眼に火が灯った。胸の前で拳を固めきゃいのきゃいのと騒ぎ立てる。「実況つーか喋るの好きすぎだろ
お前……」上背を押しやられる形で剛太はドン引きした。
「む。気乗りされぬご様子。ならばいまなら不肖が読み上げまする百人一首ならび円周率20万桁詠唱のCDもセットで……」
「いらねえ! 最後の地味にすげェけどいらねえ!!
「あ、私は聞きたいです」
「毒島が釣られた! 円周率に釣られた!」
 毒島がちょっと頬を染めながら頷くと(ガスマスクの頬である)小札は澄み渡った鳶色の瞳をいっそう輝かせた。
 そして全力で握手。色々気が合うらしい。


「というコトでらじかせどの一席お付き合いのほどREADYでありますレディのゴー。けほん」

 農家のおばあさんのような平坦で抑揚なき牧歌的な声をあげながら。
 一団から少し離れたところで正座状態の小札が万歳しつつペコリとお辞儀。向かいにはラジカセ。紫の座布団に乗っている。

「あれ……上座よ…………」
「分かったから笑うな! 桜花お前最近笑いすぎだぞ!!」

 斗貴子の怒声も空しく銀成学園生徒会長は麗しい顔を俯かせブルブル震える。電化製品をもてなす姿がツボに入ったらしい。
『はは! 小札氏にとって録音機器は神だからな!! いまの気持ちたるや伝説の棋聖と差し向かう駆け出しの少女棋士!!』
「だからって……上座…………ラジカセ座布団に乗せて上座…………」
 いよいよ切迫、引き攣った声を上げる桜花をよそにマイクを刺しなにやら吹き込み始める小札。
 タイマーをセットしたのを見るとホントに5分区切りで行くらしい。
「あ、あと……CD作れるラジカセって何……? あるの、あるのそれ……?」
「知るか!! 笑いながらツッコむな!」
『小札氏がマジックで出したからな! 常識外れでも仕方ない!!』



「でだな。筋力のうちトレーニングで鍛えられるのは縮む力の方だけだ」
「なるほどなるほど。縮む力だけと」
 ひとりごちながら鉛筆を走らせる後輩に
「というか珍しいな。剛太がマジメに勉強しているところ始めてみた」
 斗貴子は感心したような不思議そうな目を向けた。
(たぶん姉さんが入れ知恵したな。さっき話した時)
 嫣然と微笑む──やや剛太に対する不憫を混ぜながら──桜花を思いだし悟る弟。
「ん? そーいや筋肉って鍛えりゃ鍛えるほどデカくなりますよねキャプテンブラボー」
 剛太は顔をあげた。気付きがそこに満ちている。
「縮む力……でしたっけ。ソレ高めて筋力つけた場合、もう片方、ええと、ああそうだ縮む速度。コレ落ちずに済むんですか?」
「ブラボー。キミはつくづく鋭いな」
「……なにをあの男は言ってるのだ?」
「…………さあ……です」
 良くわからないという年少組ふたりに呼び掛けるよう防人。
「戦士・剛太。キミはつまりこう言いたいんだな? 『筋トレのしすぎで体が大きくなればそのぶん動きが遅くなる。それは筋肉
の縮む速度に影響するのか』……と」
「ええまあ。そんなトコ」
「答えはノーだがイエスでもある。理論上は力の強い者ほど速い。まあ実際は結果として違うが……フム。どうしたものか」
 防人は軽く唸りながら秋水を見た。なぜ見られたか分からず彼は少したじろいだが微かな笑いと実直な目線に役割を悟る。
(成程。さすがキャプテン)
 何を目論んだか理解すると林檎を齧ったような清涼感が全身いっぱいに広がった。
「そうだな。戦士・剛太。キミのいうケースもあるにはある。ただ説明するとなると少々フクザツでな。決戦まで時間がない。
今回は駆け引きに関する部分……心理面なものだけ説明しよう。」
「えーと。じゃあ俺の言ったのと逆。筋肉鍛えすぎたばかりに縮むのが遅くなって、だから動作もノロくなるケース、と」
「ブラボー。察しがいいな。火渡を出し抜いたのも納得だ」
「ぐ……。そろそろあの男(剛太)の言ってるコトが分からなくなってきた……」
 無銘は頭を抱えた。鐶は「そんな時は……ビーフージャーキー……食べます?」と差し出した。
「なに簡単な話だ。心理的な問題だ」
(分からん。だがビーフージャーキーは今日もうまい)
 ぱくぱくと咀嚼しながら聞く。防人の説明を。
「誰だって鍛えた筋肉は使いたいと思う。するとつい意識を集中してしまう。だが筋肉ってやつは難しくてな。意識し力むと
却って性能を発揮しない」
「要するに力込めると縮むの遅くなるって訳ですね」
「ブラボー。そういうコトだ。極端な話、縮む力を2倍にしても速度が4分の1なら意味はない。実質半減だからな」
 やっと無銘は分かってきたようだ。「力むの良くないのだな」と頷いた。
「言い換えればだ中村。相手に無理な力みを与えれば本来の性能を発揮させず済む」
「それが武術の真髄って訳? でもホムに通じるのかソレ? あいつらカナモノっぽいだろ、筋肉とかあんの?」
「え」
 秋水の瞳が瞬いた。
「え」
 答えが来るとばかり思ってた剛太も虚をつかれた。
 まじめくさった顔つきで考え込む秋水。
「そういえば分からないな。あるのだろうか」
「いやお前元信奉者だろ! ソレぐらい知っとけよ!!」
「なんだなんだお前たち。いつの間にか打ち解けているな。ブラボーだ」
 防人はメイドカフェの件について何が出てきてどう倒されたか位しか聞いていない。剛太と秋水の変化が意外らしい。
「というかキャプテンブラボー! どうなんですか!」
「ホムンクルスの筋肉か? そういえばあまり研究進んでいないな。弱いのは似たり寄ったりだし……」
 聞けば生け捕りは難しいらしい。人間型で強い者はだいたい武装錬金を持っている。それを制そうとすればより強い力で
叩き潰すほかない。よって強さの秘密は未解明。司法解剖も不可。死ねば塵なのだ、ホムンクルスは。
「ただ複雑な構造のホムンクルスほど挑発に弱い傾向がある。クモのように手が多い奴とかな。激昂すると体の操作を
誤り隙が生じる」
「! そうか。ホムンクルスは高出力。それゆえ人間相手に修練する必要はない」
「持ち前の力振るってるだけで食事できるもんな」
「強いが鍛えていない。それ故アイツらは不測の事態にひどく弱い」
 人間でさえ怒りに我を忘れれば足が縺れ転んでしまう。2本しかない足すら精神状態如何で操作過つのだ。いわんや
動植物型ホムンクルスをや。指に多寡あり足は無数で羽さえあり触手については数千本……。人間より遥か入り組む
デバイスを、修練もなくどうして完璧に使いこなすコトができよう。
「俺が筋肉を通じ今回知って欲しいのはそういう部分だ。力の出し方そのものじゃない」
「最初さっぱりでしたけど内容聞けば一発ですよ一発。要は仕組みの穴をどう突くかでしょ。人間もホムも自分の体カン
ペキに使いこなせてない奴があまりに多いから、うまく立ち回って、本領発揮できなくすりゃあ勝てると」
(言うほど簡単じゃないぞ中村)
 相手を心の方から崩すのもまた難しい。他者の心を崩さんとするとき先立って崩れるのが自らのそれだ。「崩してやる」
そう思って攻めるコトの弊害を剣道経由で十分知っている秋水だから剛太は少し危なっかしい。
(ま、こうなるのは見えていたがな)
 防人は「予想通り」という顔をして秋水を見る。剣客としてすべきコトが自ずと分かった。
 話、続く。
「で、こっちから攻める場合の話だ。一般的に筋力といって思い浮かべるのはさっき言った縮む力だ。ただコイツは力んで出
せるものじゃない……ってのも説明済みだな。筋量を増やしても結果的には変わらない」
「鍛えて筋骨隆々になれば力出せそうな気がするが違うって訳か。メモだなメモ」
「なんだと! じゃあ柘植の飛猿は無力な役立たずなのか!!?」
「……君が反応するのはそこなのか?」
 悲痛な叫びを上げる無銘に秋水は少し呆れた。
「ならどうすりゃ効果的に力出せるんすかブラボー?」
「出すというか、効果的に伝える方法なら3つある」
 腕組みしたまま横向きの三本ピースを作る防人。
「1つ目はズバリ重力」
「脇構えのとき話したアレですね」
「そうだ。戦士・剛太。ちょっとジャンプしてみろ。膝を伸ばしたまま爪先立ちして背伸び。踵を落としてから飛べ。着地も爪先
立ちだ」
 従う。豊かな髪が揺れた。
「キミはいま何気なく飛んだが、実をいうと体は無意識に重力を使っている」
「?? 飛んだのにですか? カンペキ重力に逆らってるじゃないですか」
「と、思うだろう。爪先立ちだというところがミソでな。飛ぶ直前、ちゃんと踵を下ろしたな?」
「ええまあ」
「踵を降ろしたときアキレス腱は落下の運動エネルギーを蓄えている。つまり重力を溜めた。跳躍時ほかの筋肉はすでに
説明した縮む速度と縮む力の掛けあわせでパワーを発揮するが、アキレス腱は違う。貯蔵した重力を解放している」
「つまり重力が俺を打ち上げたんスか? ……まじすげえっすね重力。つーか人間の体」
 右膝から下を横向きに跳ね上げしげしげ見る。
「これを脇構えのときに説明した『抜重』……足に体の重みをかけず完全に脱力する行為と組み合わせるとより効果的だ」
「破壊力が増すんですか?」
「やれやれ。キミは破壊力にこだわりすぎだぞ」
 ため息をつき首を振る防人に剛太は呆れる。秋水ともども。
「いや言われましても。というかブラボーに教えてもらってるんですよ? あれだけ破壊振りまける人に教えて貰ったらそりゃ
拘るでしょ破壊力」
「俺そんなに色々壊してるか?」
 防人は心底意外そうだ。秋水に問う。
「ええまあ、色々……」
 火渡との件で一線を退いた感のある防人だが、鐶との戦いではそれをまったく感じさせなかったという。桜花から色々
聞いた。秋水さえ下した鐶相手に互角の戦いを繰り広げたと。時速300キロ以上で急降下してきた鐶を一撃必殺ブラボー
正拳で迎撃し引き分けたと。踏み込んだアスファルトが広範囲に亘ってヒビ割れたと。衝撃で周辺施設のガラスが砕けたと。
(ビルだって幾つも壊したというし……)
「?」
 ある意味人間兵器な防人だが自分の危険性をよく分かってないらしい。
「まあいい。俺が言いたいのは破壊力を上げるコトじゃない。元ある攻撃力を効果的に伝えるコトだ。そうすりゃ自然に数倍
まで引きあがる」
(ブラボーの場合数倍どころか数百倍ぐらいに見える……)
 呻く剛太。秋水も追随。総角が敬服するのも無理はない……改めて実感だ。
「で、効果的に伝える方法だが。あまり深入りすると話が見えなくなるんでな。実際やろう」
 つかつかと剛太に歩み寄った防人。の姿が急に消えた。
「え? ブラボー消え……あれ?」
 剛太は仰天した。拳。それがみぞおちの前にある。ニカリと笑う防人の顔も間近にいる。
「い、いつの間に来たんすか? 飛んでくる気配なんて微塵も……」
「それを消すのが重力だ」
 拳を引っ込め数歩下がる防人。
「何度も言うが決戦まで時間がない。体術に関しては仕上げる時間がない。だから俺がキミたちに伝える技術というのは
あくまで駆け引き的なものだ。本来修練の果てやっと悟る武術の心構え……真髄の方からまず教える」
「いま気配も悟らせず突っ込んできたのがその1つ……」
 やっと青くなる剛太。殴られかけた恐怖がよぎる。
 防人がどれほど強いか知っている。一線を退いたとはいえ殴られればまだまだ相当痛いだろう。
「武術において大事なのは敵意を悟らせないコトだ。迂闊に気配を出すとそれだけで避けられる。だが……いま俺がやった
ように重力をうまく使えばまず察知されない。力の伝達がムダなくできる。身もフタもないコトをいえばだ。殴れる」
「……いったい何をやったんですか?」
「たいしたコトはしていない。ただの騙しだ。結果から言えば俺はただ重心を時速6.5キロで16センチばかり沈めただけだ」
「たったそれだけ! 俺なんかの目には神業来たようにしか見えませんでしたよ!?」
 具体的……しかも決して高くない数字の羅列に掠れた声が張りあがる。
「そう。タネさえ聞けば大したコトはないだろう。しかし俺は重心を落としながら抜重しつつ全身の筋肉を連動、踏み出しながら
拳を突き出した。そうすると爆発的な加速が生まれる。加速するとパワーもまた必然的に高まる」
「一流選手の反応時間は0.35から0.4秒。一般的なストレートの突きは0.3秒。十分対応できる範囲にある」
「なんだよ早坂。いきなり解説かよ」
「しかし重心を6.5キロで16センチ落とした場合の所要時間は0.18秒」
「れ、0.18秒! ってコトは!!」
「そう。人の認知の外にある」
「これはいわば攻撃の起こりだが、まず察知されない。実際キミだって反応できなかったろ」
「気付いたらもう近づかれてました」
「でも俺はメチャクチャ早く動いた訳じゃないぞ? キミならなぜか分かるはずだ」
「あー……。重力っすよね。最初言いましたもんね。重力に任せて重心沈めたと」
 意識によって動かすべき体を重力に動かさせる。0.18秒だから気付かれない訳ではない。攻撃の気配そのものを発さぬ
からこそ悟られない。
「ブラボー。これもそれなりの修練はいるが目指すところは単純だ。『相手に攻撃を察知させない』。たったそれだけを実現
するため俺は体を鍛えた。いいか。鍛錬そのものが目的じゃない。武術的な機微で相手より優位に立つため鍛えるんだ」
「突き詰めれば中村。キミと武術の相性は案外いい。最終的には智謀や精神がモノをいう世界なんだ」
 だからやってみよう。熱を帯びた口調で誘う体育会系ふたりに剛太はかなりたじろいだ。
「興味がねえ訳じゃないけど時間ないって。やる時間が。というかブラボー、力効果的に伝える方法の残りは?」
「待て中村」
 制止する秋水に剛太は怪訝な顔。何か重力について聞き残したコトでもあるのだろうか? 取り合えず向き直り話を聞く。
「君は奥義ばかり手っ取り早く求めすぎだ。もっとこう地道な鍛錬をだな」
「なにかと思えば説教かよ!! お前好きなのか鍛錬!」
「ああ。昔は義務感でやっていたが今は鍛錬そのものに落ち着く。素振り1つやるだけでも心洗われる気分だ」
「しみじみ語るな!! そこまで好きか剣道!!」
 もちろんだ。辛いコトもあるし夏場の防具はひどい匂いだがそれでも好きだ……生真面目にかつ力強く頷く秋水にただ呆
れた。
「この剣術オタクが! もういいっすキャプテンブラボー。残りお願いします」
 力を効果的に伝える方法。残りは──…
「2つ目はテコ。最後は間接の力」
「テコと……間接」
「そうだ。人間の体にはおよそ600の筋肉があるがいずれも単体では威力を発揮できない。他の筋肉と複合して初めて
最高のパフォーマンスを発揮できる。さっきの突きもその応用だ」
「じゃあバルスカと似たようなもんですね」
「ん?」
「アレ。ひょっとして知りませんでしたブラボー? 先っぽについてる鎌が目にも止まらねェ速度で動く時って必ず他の可動
肢と連動してるんすよ。ホムの目玉アタマごと突き刺しに行くとき先端そのものも動いてますけど、太ももの辺りとか途中の
間接部分とか勢いよく動いてます」
(…………君は津村を見すぎだ)
 本体を眺めているうち気付いたのだろう。凄いのか凄くないのか良く分からず秋水は呻いた。防人もちょっと頬に汗。
「ま、まあ例えはともかく」
「ともかくって何ですかブラボー。先輩はすごいんスよ!」
(君……俺の剣術好き貶せないのでは……」
 楽しそうに語る剛太に呆れた。男というのはどうも他人の趣味に狭量らしい。
「ともかく! 連動という点では筋肉もバルキリースカートも同じだ。あっちが速度を稼いでいるように筋肉も力……縮む力を
稼げる」
「テコってのはアレっすねブラボー。斗貴子先輩が敵の生首ぶっ刺したまま鎌ふりかざしたら予想以上の破壊力が生まれて
敵ミンチ! みたいな!!」
 斗貴子が絡んだせいか剛太の理解力は飛躍的に向上した。語る顔ときたらエビス様もビックリの緩みぶりだ。
 ちなみに桜花もまだ小札の件がツボで笑っている。賑やかしい御前が先ほどからまったく会話に加わってこないのは、本
体が、めくるめく笑撃にいま1つの人格を操作する余裕をすっかり奪われているからだ。
 響く笑い声。和やかだが秋水はちょっといたたまれない気分だ。
「間接についても似たようなモンだ。骨組みを伝わる力や回転を調整すれば少ない労力でより大きな力を発揮できる」
「というコトは戦士長」
 初めてココで斗貴子が話に入ってきた。無銘や鐶はと肩越しに見れば香美(というか後頭部の貴信)から噛み砕いた防
人の説明を哺(ふく)ませて貰っている。「年長者だな」。剣道部で副部長として最近ようやく後進の育成に当たり始めた
秋水だから貴信のそういう部分は好ましい。
 とにかく斗貴子が会話に加わる。骨組みや回転に反応した以上議題は1つだろう。(というかバルスカという単語に
引き寄せられた)
「だな。パワー型に劣勢を強いられるキミの武装錬金でも戦いようはある」
(…………これはかなり大きい。バルキリースカートの特性は高速精密機動。武術……特に合気の呼吸を取り入れれば)
(マレフィックとかいう強そうな連中との戦いに役立つ)
 秋水と剛太は頷きあった。斗貴子も気付いたようで「だったらもう少し早く言って下さい」と嘆息した。
「まあ、どうせ以前の私じゃ危なっかしかったからでしょうけど」
「そ。でも今は違う。俺のさっきの言葉に何か考えるところがあるようだしな」
 精悍な顔に好ましさを滲ませながら指差すと斗貴子は軽く目を逸らす。まだ気持ちの整理がついていないのがよく分かった。
「筋肉に話を戻そう。色々利点を話してきたが、実は難点が1つあってな」
「難点?」
「ああ。全身の筋肉を協調させるにも訓練がいる。ただ鍛えればいいってもんじゃない。それぞれの筋肉のつながりを理解
した上で無理なく力を入れず動かす訓練がな」
 斗貴子は頷く。
「話はだいたい聞いていた。ヘタに力めば縮む力や縮む速度が失われる。重力だって効果的に使えない。テコも間接もな」
「そんな。筋肉って600ぐらいあるんでしょ? 今からじゃとても決戦間に合いませんって」
「だから絞る。戦士・剛太。キミがこなすのは2つでいい。2つの型のフォームだけ徹底的に作り上げる。長い目で見れば
あまり好ましくないが2つのフォームに関わる筋肉だけを重点的に調整する。もちろん全身のコントロールも軽くレクチャー
するが…………そちらはキミの理解力と自主性に賭ける」
「2つ……? なんですか?」
「決まっているだろう中村。ナックルダスターとスカイウォーカー。平たく言えば拳打と蹴撃」
 剣客らしい古風な言い回しに「いやアッパーとハイキックっていえよ」と呆れつつ剛太。すっと真顔に変化する。
「鍛えりゃ先輩助けられますね?」
「キミ次第だ」
 防人はニカりと笑う。やる気を認めた証拠である。
(これも大きい。モーターギアは破壊力に劣る武装錬金。ゆえに基本は遠距離攻撃)
(だが剛太自身の攻撃力が増せば近接戦闘でも十分戦力になる。武術から駆け引きを学べば、なお)
 斗貴子の横で秋水は考える。
自らのすべきコトを。

 かつて貴信と香美の能力を暴き、秋水の戦いを支えてくれた剛太に。

 何をすれば報えるか……と。

「それから各自に課題を与える。まず桜花。キミは──…」






 2時間後。




「キツい……マジにキツい……」

 真白になって横たわる剛太の姿があった。
「こらこらバテるのはまだ早いぞ。ナックルダスターもスカイウォーカーもまだ50発ずつしか練習してないだろうが。休むなら
せめて全身運動してから休みなさい。整理運動になる、やった方がのちのち楽だし立ちなさい」
 伏せる垂れ目。力なく手をあて一言。
「……もうダメ。動きたくない」
「やれやれ」
 腰に手をあて嘆息する糸目の防人。秋水も続けて呼びかける。
「中村……」
「なんだよ……早坂」
「君は体力ないのか? いつも使ってる技だろう。途中20分も休憩入れれば十分こなせる量だと思うが」
「うるせえよ」
 うつ伏せになって顔を背ける剛太。顔色はそろそろ土気色だ。声もハリがない。床の冷たさが鼻先にこたえたのか、顎
を床に乗せ直し唇も尖らす。
「同じように見えても普段使ってねェ筋肉いろいろ使ってんの! それが1分にだいたい1発だぞ1発…………。キツい……」
 50×2プラス休憩20分。現実的すぎるメニューだからこそ疲労もリアル。
「だいたい俺はお前やブラボーのような体育会系じゃないの。頭使って戦うタイプ」
「……。それで思い出したが中村。後で俺と──…」
「よく分からないが剛太。休むならちゃんと休め。おかしな休み方すると却って疲れるぞ」
「先輩」
 秋水を遮った斗貴子が傍にしゃがみ込む。それだけで剛太は輝きに包まれ至福の顔だ。
「さっきから姿が見えなかったが。津村。君はどこに──…」
「風呂を沸かした。布団だって上(管理人室)に敷いてある。夜も遅いしもう休め。休息も核鉄当てて眠るのも特訓だ」
(はは! 意外に優しい!!)
(優しいじゃん)
(我知ってるぞ! ああいうのをよくできた副部長というのだ!!)
(…………でも……逆効果……なのでは)
 総角が笑い小札がいまだ円周率を唱える中。
「いーえ大丈夫! 俺まだまだ全ッ然やれますってば先輩!」
 剛太は跳ね起きた。速攻で拳を突き上げたり高く蹴り上げたりした。掠れた声が熱く燃える。
「先輩に励まされていつまでも寝ていられるかってんだ! キャプテンブラボー! もっとキツい特訓をお願いします!!」
「ブラボー!! その意気だ戦士・剛太!! 頑張れば! 頑張っていればいつか報われる時も来るッ!!」
「はいブラボー!! おおおおおおおおおお!! 調子出てきた! 見てください先輩! 出てきましたよ先輩!!」
「落ち着けお前ら!!」
 目を三角にして叫ぶ斗貴子に秋水は思う。ああ翌日筋肉痛で動けなくなるなと。剣道部の後輩はテンションをあげるたび
よくそうなる。

 チーン。

 頭にタンコブをこさえた剛太が幸せそうに微笑んでいる。目を三本線にし鼻水を少し垂らし。
「まったく。熱を入れるのはいいが少々ハシャギすぎだぞ。分かってるのか。決戦前だぞ」
 ここで潰れたら意味がない。ガミガミと説教する斗貴子だが剛太はまったく動じない。むしろ怒られるたび回復している
らしかった。
「聞いてるのか!! ああもう正座してろ正座! 少し頭を冷やせ!」
 呆れ果てた斗貴子が離れる。剛太は従順だ。「ウフフ。先輩に正座命令された先輩に正座命令された」とご満悦だ。


「津村」
「なんだ?」
 振り返ったショートボブの凛々しい少女に言うべきか言わざるべきか悩んだ秋水がそれでも吐露を選んだのは、らしくも
なく気焔をあげ特訓に挑む剛太がいたたまれなくなったからだ。
「中村は君にいいところを見せたいんだ。だから頑張ってる」
「ん? あ、ああ。そうだな。昔からああだ。私の前だと妙に張り切る。何故だろうな」
「……」
 まったく分かってないのが分かった。
「ああそうか。サバイバル訓練を担当したからか。情けない姿を見られた分、取り返そうとしているんだな。やっと分かった」
(中村……」
 無理解にも気付かず幸せそうに正座続行中の彼を見て思う。
(不憫だ)
「しかし珍しいな」
「何が?」
 腕組みする斗貴子も少し言いよどむ。どうもお互いまだ遠慮があるようだ。普通に話すようになってまだ間もない。
「君が他人を、剛太を気にかけるなんて」
「……変わらないようで変わっていくのが人間だ。今だからこそそう思う」
 前歴は違った。桜花以外見えていなかった。世界に無関心で人にも無関心で。剛太に憐憫の情が動くのは大きな
進歩だろう。
「津村。君だって例外じゃない。悩むのは分かる。だが無理に結論を決めるな」
「戦士長のさっきの話、か」
 斗貴子は難しい顔だ。
「俺がとやかくいう権利はない。だが君まで俺のようになる必要はない」
 沈黙が返る。彼らにとって言葉を尽くすべき議題ではない。カズキ。秋水は刺した。斗貴子が傷つけてでも守ろうとした
彼の命を……奪わんと、した。
「誰かを守りたい。そう願うのはきっと正しい。だがあらゆる災厄から守る事と何もかも敵視する事は似ているようで違うん
だ。だから俺は誤った。誰かの日常に欠かせない大事な存在さえただの敵だと思い込みそして刺した。俺にとっての姉さ
んのような存在なのに、気付けず、慮るコトもできず……。君が俺にわだかまりを抱くのは当然だ」
「……」
「このまま行けばいつか君は俺になる。誤り、誰かの大事な存在を傷つけそして果てない怒りを買う。君がホムンクルス
に抱いているような憎悪を今度は君自身が受けるんだ。ともすれば周りも……それを」
 剛太は懸命だ。膝が笑う中、上段回し蹴りとアッパーを何度も何度もやっている。
 汗を散らしながら励む後輩の姿に一瞬斗貴子の目が優しくなるのを秋水は見逃さなかった。
「澱んだ感情に見境などない。俺を見たはずだ。俺たちを殺さんとした君ではなく守らんとした武藤を刺した俺の姿と
俺の目を。道理は、通じない。復讐は波及する。苦しめるためむしろ周りこそ攻め立てる。それは君をますますもって
苦しめる。だから……急ぐな。結論を」
「…………」
「戦士長も言っていた筈だ。君だって誰かの日常の一部なんだ。慕うものだっている。武藤さんはそうだし……中村も同じだ。
だから彼や武藤さんを悲しませるような真似はしないでくれ。少しでいい。気持ちは……汲むべきだ」
 重い口が開いた。
「覚えてはおく。だが……」
 背中を向け斗貴子は遠ざかる。
「ずっとホムンクルスを憎んできたんだ。すぐ何もかも変えられる訳はない。しばらく考えさせてくれ」
 疲れきった声。カズキを失って沈んだ彼女に防人の問いは少し酷だろう。だがだからこそ引き上げる行為を敢行したのだ
ろう、防人は。必ずしも正しいとはいえない難しい判断。だがやらねばレティクルとの戦いで捨て鉢になりかねない。故の調整。
キャプテンであるコトの複雑さを秋水は感じた。
(それでも……考える、か。急ぎはしないんだな君は)
 ほんのわずか。ほんの僅かだが言葉は通じたようだった。

「足……シビれる……で、でも、先輩の命令だと考えるとこれはこれで気持ちイイ……」
 ビリビリと震えながらもやっぱり多幸感あふれる剛太である。
「イヌか!」
「無銘くんに言われなくない……です」
「いま分かったぞ。あの男……ヘン!!」
「だからそれも…………無銘くんに言われたく……ない、です」
 無銘と鐶(ちなみに防人の指導のもと組み手をしていた。人型になって間もない前者は体の試運転。基本ノーガードな後
者は初歩的な防御の練習。ある意味実力均衡な組み合わせに秋水は防人の指導者としての素養を見た)が呟くなか、
防人は右手の槌で左を拍つ。



「ふむ。他の皆も疲れているようだしいったん解散。好きな場所に行きなさい。残りたい者はまあ適当に休憩したのち続行」