SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 第006話 「時間も分からない暗闇の中で」 1-5


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 当事者 4

 夜。都心にある廃工場でハシビロコウはため息をついた。ハシビロコウとはペリカンに似た大型鳥類の名称だ。全身はネ
ズミ色。トレードマークは、異様に大きいクチバシ&何を考えているか分からない三白眼。

 ああ。憂鬱だ。

 すぐ横の錆びた鉄柱が火を吹いた。何か刃物のような物が掠ったようだ。というか簡単にいえば「投げつけられた」。銀色
の円弧が鉄骨に似た柱を一削り。そして反転。遡行。遠ざかっていく。元来た軌道をブーメランのように、持ち主へ。入れ替
わるように響く怒号、飛びこむ殺意。人影が来る。辺りに散らばる塗料の缶──昔ここで生産された物らしい──をガタガタ
ガタガタ吹き飛ばし。

 ああ。憂鬱だ。

 ディプスレス=シンカヒアという名のハシビロコウは何度目かの溜息をついた。
 工場は暗い。天井に空いた大穴から月明かりが射しこんでいる以外、何ら光なき空間だ。鳥目にとって些か難儀な状況
設定。それがまず憂鬱だ。突っ込んでくる人影の遥か後ろでいくつかの影が散開したのも憂鬱だ。
 ゆっくりと首を動かす。見まわす。
 包囲。
 柱の傍から。
 直立する1mほどの赤い筒の裏から。
 朽ち果てたベルトコンベアーの後ろから。
 堆積するパレットとガラクタ山の背後から。
 暗くて見えないが、静かな殺意が拡がっていくのが分かった。内に不快感をあらん限り蓄えているが、目的達成のためグッ
っと堪えている。自分を取り巻く気配はそんな感じだ。
 ディプレスは知る。
 前の人影は囮だ。自分を包囲するまでの、時間稼ぎの。
 見えざる闇から無数の視線が刺さる。全身の肌にねっとりとした感情がまとわりつく。彼らは隙あらばディプレスに飛びか
かるだろう。……息の根を止めるべく。
 いよいよ迫る人影についての感想は特にない。強いて言うなら彼が吹き飛ばしている塗料の缶。幾つかのそれが細い
足にガンガンと直撃して地味に痛い。ああ痛い。

 チャチな恫喝にチャチな痛み。

 ああ。憂鬱だ。

 天を仰いで溜息をつく。天井の大穴はいまや鈍色のネットで封鎖されている。当たり前だが敵どもは、ここで自分を仕留
めるつもりらしい。人影はついに2歩先までに肉薄している。彼との攻防如何では周囲の殺意が爆発し、嵐のような総攻撃
が降りかかるだろう。

 ああ。憂鬱だ。



「お前らの馬鹿さ加減がマジ憂鬱wwwwwwwwww オイラ逃がす方が生w存w確w率w高wいwのwにwなあwwwwwwwwwwww」



 ディプレス=シンカヒアという名前のハシビロコウは……薄く笑った。そして視線を水平に戻し、ニタニタと目の前の情景
を眺めた。相対する影が持つは銀色のチンクエディア。刀身に溝が彫られた大振りの短剣は遂にいよいよ鼻先に迫っている。


 そもそも動物園かウガンダ共和国のビクトリア湖周辺にしかいないハシビロコウがなぜ都心の廃工場にいるのか。
 まず彼は本物のハシビロコウではない。本物の細胞をもとに作られたホムンクルスで、元は人間。かつては勤勉なマラ
ソンランナーだったが本番中思わぬ妨害を受けて以来すっかり転落の一途を辿り、人外をやっているという訳だ。

 努力の総てをフイにされた。また頑張っても同じコトが起こる。
 拭いきれぬ挫折感を抱えたまま飛び込んだ社会は彼をまったく歓迎せず、傷口ばかりを広げた。そうして馘首(かくしゅ。
クビの事)と再就職を繰り返すうちとうとう憂鬱が爆発し、上司と同僚を殺害。逃げ込むように転がり込んだ闇医者の紹介
で化け物をやっている。人間が嫌いだから鳥の姿で、積極的に動くのが嫌いだからエサのハイギョ取りで数時間身じろぎも
せぬハシビロコウを選んだ。



 そんな彼に向かって走る人影は怒りを抑えきれずにいた。



 いつもと同じ夜だった。この廃工場を根城にしているホムンクルスどもを掃討する。ただ、それだけの任務だった。
 敵のレベルは平均よりやや上という所だ。頭数も30に満たない。事前調査がしっかりしていたから予想外の事態に戸惑う
コトというもなかった。おかげで新人込み8人のパーティは不慣れなヒヨッコどもにレクチャーしながらなお全員無傷……だった。
「ちょろいぜ。人数半分でも制圧できた」
 誰かがおどけたが、正にその通りだった。


 どこからともなく、ハシビロコウがやってくるまでは。





 元のターゲットの仲間でもないらしい。「誰だお前」。ここの共同体を統べるライオン型ホムンクルスが最後に残した言葉
だ。(直後ウィンチェスター銃の武装錬金で額を章印ごとブチ抜かれ、絶命した)
 そしてハシビロコウは無言のまま、ゆらりと戦士たちに近づいた。


 接近を許したのは迂闊だった。


 ハシビロコウにはあまりに殺意がなさ過ぎた。誰もが最初、ただの普通の鳥だと思うほど。
 戦勝ムードで気を緩めていたのも、災いした。というより敵はわざとそこを「狙った」のかも知れない。

 最初に犠牲になったのは最も入口に近い戦士だった。20を過ぎたばかりにしてはひどく度胸が据わっていると評判の男で
任務が終わると決まって行きつけの小料理屋に仲間たちを呼び込み、大盛りの飯と、ビールと、刺身の盛り合わせを一式
振るまう習慣の持ち主だ。刺身のレベルは殲滅対象のレベルと比例するから今晩はそこそこの刺身が食える。戦士たちは
それを楽しみしていた。

 彼が絶えず入口近くをマークしていたのは、初めての任務で同僚が退路確保をしくじったせいだ。おかげで右頬に3本線
の爪痕が刻み込まれ、すっかりトレードマークだ。
「傷は残す。常に退路を確保する決意の証として。誰も俺のように傷つけたくはない」。それが信条で、命取りになった。
 入口に最も近い場所にいた彼は、入口から来たハシビロコウに呼びかけた。

「お、なんだ鳥ちゃんどこから来た?」

 ネズミ色の鳥は頬傷の戦士を軽く一瞥したきり、緩やかに歩を進めた。
 ト、ト、ト。やたらクチバシの大きな鳥が歩く様はひどく不格好で、それが頬傷の戦士の気さくさをくすぐったのだろう。


 もし彼が7年前の決戦にいたなら、もっと運命は違っただろう。むしろ闖入者の姿に怖れ戦き、抵抗を選び、或いは逃げ
延びれたかも知れない。


「な、な。刺身食べるか?」

 気軽に肩を叩いた戦士の手から。
 鮮やかな肉の塊がズルリと剥け落ちたのはその時だ。
 腕橈骨筋がズタ裂け隣接する長掌筋や橈側手根屈筋もろとも骨から乖離したのである。それが目視できたのはすでに皮
膚が粒子レベルにまで分解されていたためである。錬金戦団支給の制服はとっくに消滅していた。
 知覚。
 痛みと共にようやく鳥ちゃんが敵だと認識する頃にはもう何もかもが、手遅れだった。落ちる途中の尺骨と橈骨が粉々に
なって舞い散り、手首が落ち、それも、肘から先にいる若い戦士の全身も、滴る血さえも塵埃となって虚空に消えていった。


 チンクエディアを持つ茶髪と色眼鏡の戦士は堅い奥歯をギリリと噛みしめた。

(更に2人だ! 逃げようとした奴飛びかかった奴2人! バラバラになりやがった! 何を目当てに来たかはしらねーが、
許せねえ!!)

 彼もまた若かった。7年前を実感していなかった。『7年前』。錬金戦団ととある共同体の間に起こった決戦を、あくまで伝聞
……新人のころ行われた退屈な講義の中でしか知らなかった。だから迂闊にも──…

 地面を蹴り、大きく飛んだ。無数の缶を飛び越え、向かう。向かってしまった。
 天井を見上げうすら笑いを浮かべるハシビロコウへと……正体も知らず。

(この武装錬金の特性は麻痺ならびに硬直! 切りつけさえすりゃあテメーは動けなくなる! 腕解体(バラ)されよーと絶対
に当ててやる!)

 敵に動く様子はない。斬撃はついに正中線を捉えた。当たる。
 茶髪は会心の笑みを浮かべ、それは次の瞬間、驚きと戸惑いの色をも含んだ。


 火花が、散った。


 最初見えたのはそれだった。次いで不快な手応え。堅い装甲──例えば、訓練をつけてくれた防人衛のシルバースキン
──を力任せに斬った時のような跳ねッ返りと骨に沁み入る痺れ。それがチンクエディアを通して広がった。
 迷わず飛びのく。動揺はない。相手が予想外に頑丈で斬りつけられない? 任務によくある出来事だ。
 茶髪と入れ替わるように敵の右斜め後方から銃声がした。反対側からは旋回するトマホーク。網が投げられる音もした。
それは龍のように蛇行しながらハシビロコウを取り巻いた。さらに白い棘が闇の地面をひた走る。寒々しい音と感触は正に
氷結のそれだった。身じろぎもしない怪鳥の足が凍りつき、散らばる塗装缶ともども地面に癒着した。

 茶髪は、中指を立てた。

「何やったか知らねーがこっちは複数いるんだぜ? 果たして全部避け切れるかテメー!」


 ああ、憂鬱だ。


 首をクイっクイっと曲げて殺意の出所を確かめたディプレスは、深く息を吸った。


 詐欺だと思った。銃声はひどく旧式銃の気配を帯びているのに、やってくるのはプラズマを帯びた超高熱の奔流だ。
 トマホークの方もひどい。古めかしい野球漫画のように分裂している。迫りくるそれは今や100近い。幻影かと思ったが
質感はあまりにリアル。ナタの質量とカミソリの切れ味を帯びている。張り巡る網は飛んで避けるという選択肢を確実に
阻むだろう。触れれば粘着するか切り裂くか、とにかく行動を阻害する特性なのは間違いない。だいたい足元が既に
凍りついているのが宜しくない。氷は強い。ホムンクルスの高出力でもすぐには剥ぎとれないほど強烈な氷結。


 普通に考えると、「詰んでいる」。まったくその通りだと思う。


 ああ、憂鬱だ。


「この程度の特性4つでオイラ殺せると思ってるお前らの程度の低さがwwwwwww憂鬱だっぜwwwwwwwwwwwwwwww」
 まず100本近いトマホークがハシビロコウの周囲で爆ぜた。橙色の火花と破片が舞い散る中、白く輝く極太の光線が
奇妙な鳥を飲み干し、100m先の壁をブチ抜いた。轟音が響き工場全体が揺れた。しかし光の行き過ぎた場所に佇む
ハシビロコウにみな……息を呑む。

「ブヒヒwwwwwww はい効きませーん! 効きまッすぇっええええーん! オイラの能力ってばマジ無敵ーーーーーーーー! 」

 彼はまったくの無傷で、

「ま、足の氷は溶けたがね」

 足を震いしぶきを飛ばし、それから翼を腰に当て、ゆっくりと舐めまわすように茶髪を見た。



 茶髪は見た。
 いよいよ攻撃が当たるという瞬間。
 無数の細長い影が、ディプレスの周囲に現れるのを。シャープペンシルほどしかない影は工場の闇の中でも一際異彩を
放つほど色濃く、彼が知る何物よりも黒かった。
 最初ふわふわと浮遊していたそれらが攻撃を開始するまでさほどの間は要さなかった。影は、一斉に飛んだ。100本ある
トマホークを総て事もなげに撃ち貫き、火花とともに分解した。先ほどチンクエディアを阻んだのもその特性だろう。茶髪が持
つ愛刀は柄から先が、なかった。

(武装錬金を壊した……ってぇところまでは分かるけど、)

「熱戦に呑まれて無事なのは不可解……って顔してる? ねえ、そんな顔してる? ねえ!」

 声が、意識を現実世界に引き戻す。下卑た声だった。言葉の端々に不快な響きが籠っている。わざと、だろう。このハシ
ビロコウは他人を煽り立て蔑(なみ)するためだけに言葉を選んでいるようだった。

「ヒントwwww 後の壁wwww 見てみwwwwwwwww」

 茶髪は振り返り、工場の壁を見た。先ほど光線が貫いたそこは奇妙な破壊痕を残していた。
 よくアメリカのカートゥーンでウサギだのネコだの叩きつけられた壁が彼らの形に「抜かれる」描写がある。
 工場の壁は、それと反対の現象を起こしていた。破壊され、円形に「抜かれた」壁の中で、ハシビロコウの形だけが残っ
ていた。そこだけ切り取ればハシビロコウの看板が出来るほど、綺麗に。
 身震いが起こる。眼前の敵の異常さがいよいよ分かってきた。その武装錬金の攻撃力はチンクエディアを破壊された
時から薄々気付いていたが、しかし熱線に呑まれながらもそれを耐えしのぐというのは理解の範疇を超えている。

「まwwwwww普通のチンケな悪党ならここで『冥土の土産に教えてやろう』とかいって能力ばらすんだけど」

 悲鳴が届いた。否。悲鳴のような叫び声が、茶髪の耳を劈(つんざ)いた。もし彼があと数秒命を永らえていたとすれば
叫びの正体を理解しただろう。何を言われているか、理解できただろう。

「避けろ」

 と。

 ひゅらりと舞い上がったハシビロコウが彼を通り過ぎ、静寂が訪れた。
 背中合わせの彼らは3mほど離れていた。
 着地し、大きな翼を畳んだディプレス=シンカヒアの背後で茶髪の首が螺旋状にきりもみながら宙を舞い、工場の端々から
どよめきが巻き起こる。

「冥土の土産は死亡フラグwwwwww 敵の前で茫然自失する級のなwwwwwwwww だから、教えてやんねー」

 ああ、死んだ。
 ああ、憂鬱だ。

 思考とは裏腹に、ディプレス=シンカヒアは歓喜に身を震わせた。

 戦士という奴は。
 人間という奴は。
 信念という奴は。

 なんと脆く、破壊しやすいものなのだろう。
 そんな脆い物が充満し、そんな脆い物に支えられている世界はひどく憂鬱だった。

 血の雨が、降った。

 神経と筋の雑多な束も剥き出しに、茶髪の首が地面に落ちた。


 それを分解した黒い影を胸に仕舞い込むと、ディプレスはゆっくりと歩みを進めた。

 直立する赤く大きい筒の裏から。
 朽ち果てたベルトコンベアーの後ろから。
 堆積するパレットとガラクタ山の背後から。

 戦士達が歩いてくる。中央の禿頭の男はリーダー格なのだろう。その右で銃を弄びながらやってくる男はスレた様子を差
し引いても10代後半らしい幼さがある。額にバンダナを巻き、いかにも傭兵風で、くちゃりくちゃりとガムを噛んでいる。は
ちきれそうな筋肉で上半身を覆った男は30後半か。「いかにもインディアン」という服を纏い、岩のような顔面を微かに波打
たせている。

 年齢も立場も、恐らく国籍さえもばらばらかもしれない彼らだが、一つだけ共通点があった。
 能面のような表情をしながらも、全身から激しい怒りを迸らせている。

「お? お? オイラ斃そうって訳かwwww ビビってないのね?」
「…………」
「…………」
「…………」
「むしろオイラを殺せば仇は打てる、引くわけにはいかない。ここで逃せば犠牲者が増える。だから、タチムカウ」
「…………」
「信念だよなあwwwww 誇り高いよなああああああああwwwwwwwwwww 正直尊敬に値するし感動的だわマジwwwwwwwww
この勝負精神的なバクゼンとした要素で判断すんならお前らの方が勝ち、勝ち。オイ良かったな勝ちだぜお前ら!」
 でもな、と大きな嘴が品なく綻んだ。

「お前らが必死こいて守ろうとしてる人間。あいつらの中にはだねえ」

「大企業の社長とか、アイドルとか、大物政治家とか、上手くやってる奴が躓く様を見て」

「喜ぶ奴らが確かにいる。つまりオイラの様な性根の腐った輩どもをwwww必死こいて守っている訳だwwwwwww」

 戦士たちの顔にわずかだが変化が訪れた。

「連中はクズだじょお?  お前らが傷つき、幾つもの挫折を涙と共に乗り越えている時に奴らは部屋で寝そべって尻を掻き、
無気力な目でテレビを見ている。使命の為に何かを犠牲にしたとして、民衆はそれを決して贖(あがな)わない」
「……」
「ふへへ、キタキタ鬱ってきた! 憂鬱な言い方しちゃうとだねえ『駿馬とて悪路を走らば駄馬と化す』。うんコレ、これだよ?」
 誰からともなく舌打ちが漏れ、露骨に視線が逸らされた。
 にも関わらずハシビロコウはそれを面白がっているらしい。右の翼を高々と上げ、ペラペラと喋りはじめた。
「はいココで白状ターイム! あ、こっからオフレコなwwwwwwwwww 実はお前ら、守ってやってる連中に不服の1つでもあ
るだろ? お、目ぇ背けたな端っこのお前wwwww 図星か? お? おお? いいからいえよ? な? 化け物と戦う毎日で
恋人もできず仲間が死ぬばっかりの辛い非日常を必w死wこwいwてw生きてるのに、守ってやってる連中ときたら何も供出
してくれないよなああああああああ? 奴らが一度でも失くしたモノ以上のモノ、与えてくれたかあああ? あるならいえよ
信じてやるからwwwwwwww ほら、ほらっ、俺が間違っているっていうなら証拠出せよwwww」
「それでも耐え忍ぶのが、戦士だ……」
 禿頭の戦士は正に唾棄するように言葉を絞った。
 ハシビロコウは爆笑した。柏手さえ打った。
「はーい出た定型句! キタコレ! キタコレ! あんた残り4人の中で一番偉いだろwwwwww 迂闊なコトぁ吐けないもん
なああwwww 敵の、ホムンクルス、落伍者の! 文言肯定したら士気ガッタガタだもんなあああwwwwww だから無難な
定型句吐いたんだろ? 社会でちゃんと積み重ねてそれなりの地位つかんだ奴ってのはみんなそうだもんなあ? 地位相応
の責任を守らなきゃいけないから、定型句ばかり上手くなるんだろ? な、な? ちょちょちょwwww オイラの目ぇ見てwwww
話したくもないってカオされるとwwwwマジでwwww傷つくwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwああヤベまた鬱ってきたwwww」
 言葉通りの感情を味わっているのか。彼は一度大きく俯いた。
「飢え餓(かつ)え、わずかな報いと救いを頼りにするもそれはなく、墓標に餞(はなむけ)向けるは身内のみ……。想像する
だに憂鬱な生き方。考えるだけで嫌になる。ああ。憂鬱だ」
「……?」
 ひどく暗い声だ。打って変った態度に戦士たちは顔を曇らせた。
「なーんつっていまのウソウソ。でもおまえら、じーぶんらしく、生きてますか? 気持ちイイこと、そーこーにありますかあ?」


 何かが決裂する音をきっかけに。
 戦士たちが、跳んだ。


「ブヒヒwwww オイラはいつでも嫌われもんだよなあ。たった一度の挫折のせいで、ああ辛い」

 ハシビロコウは、嘲るように笑った。


 44口径から放たれたとは思えぬ光の万倍の奔流が、彼を飲み干した。




 そして、
 廃工場に、
 とびきり不釣り合いな歌が、

 流れた。




「♪何でも自分で出来るーって、強がるだけ強がってもね」


 灼熱地獄の中で、無数の影が、ネズミ色の体から湧きだした。


「♪君が居なきゃなんもでーきないし」


 先ほどトマホークを分割した細い影。無数のそれが『光を引き裂きながら』、ディプレスの左翼へ流れた。


「♪こんなちっぽけな部屋が今じゃ、ちょっとだけ広く見えるよ」


 翼の上で影たちは整列し、一つの形を描いた。


「♪冷蔵庫開けりゃ、なんもありゃしないや」


 小魚の群れが大きな魚を描くように、ただ一つの姿を、描いた。

 ”それ”は翼を広げた鳥だった。
 ”それ”は鳥と航空機の相の子のようなフォルムだった

 ”それ”は神火飛鴉(しんかひあ)という古代中国の攻城兵器だった。

 本来は腹部に装着した4本の火箭で攻撃を行うが──…


「さぁ!」


 翼を広げた武装錬金を、ディプレス今度は自らの翼に装着、深く深く息を吸う。


「吸い込んでくれぃー♪」


 パイルバンカーよろしく突き出した神火飛鴉の尖端で、激しい熱が分解されていく。


「僕の寂しさ、孤独を全部君がー」


 次から次に襲い来る大口径の熱線は流石に分解しきれない。自分とその周囲数cm分殺すのがようやくという有様だ。


「さぁ!」


 ディプレスは、地を蹴った。やったコトはただの、体当たり。至極簡単で、単純な──…


「噛み砕いてくれぃー♪」


『熱線を分解しながら、その大元へ突撃する』、捻りも何もない、体当たり。


「くだらん事悩みすぎるー」


 彼の左翼の先で傭兵風の男の体が跳ねた。貫かれたのは左胸。手から銃が落ち、嫌な音。


「僕の悪いクセを!」


 ディプレス=シンカヒアはとても嬉しそうな叫びをあげ、左翼を振った。


「さぁ!」


 瑞々しいハート型の臓器がずるずると引きずりだされ、塵と化した。


「笑ってくれぃー♪」


 残り2人が獣のような咆哮を上げ、駆けだし、トマホークが投げられ、網が擲(なげう)たれ

「無邪気な顔で、また僕を茶化すよぉに♪」


 無数のそれを無数の影が寸断した。


「さぁ!」


 幾つかの影は綺麗な円弧を描いた。唖然とする戦士2人の背後へ、回りこみ


「受け取ってくれぃー♪」


 2つの額を撃ち貫いた。戦士たちの頭部はまるでハエが飛び去るように分解され、消滅した。


「この辛さを、さぁ分けあいましょうぅぅぅ~」


 生物だったモノが両膝を付き、前のめりに倒れた。


「さぁ!!」


 そしてディプレスは、視線を下ろす。
 まだ少し氷が残り、まだ冷たい足を見て……


──「この程度の特性4つでオイラ殺せると思ってるお前らの程度の低さがwwwwwww憂鬱だっぜwwwwwwwwwwwwwwww」
──「はーい出た定型句! キタコレ! キタコレ! あんた残り4人の中で一番偉いだろwwwwww」

「撃墜率75パー。いや8分の7か? とにかくああ、憂鬱だ」


 とだけ笑った。