神心会本部五階。
自分のために用意された一室で愚地克己は思い悩んでいた。
「親父に勝てる気が一向にしねぇ…」
このことである。
自分のために用意された一室で愚地克己は思い悩んでいた。
「親父に勝てる気が一向にしねぇ…」
このことである。
体格
俺 > 独歩
スピード
俺 > 独歩
パワー
俺 > 独歩
スタミナ
俺 > 独歩
技術
俺 > 独歩
俺 > 独歩
スピード
俺 > 独歩
パワー
俺 > 独歩
スタミナ
俺 > 独歩
技術
俺 > 独歩
顔
俺 > 独歩
経験
俺 < 独歩
俺 > 独歩
経験
俺 < 独歩
「なぜ勝てる気がしないんだろう?」
経験以外の総てで俺が上回っているはずだ。
経験以外の総てで俺が上回っているはずだ。
父とはいえ、武道家たる者、それは
「納得するわけにはいかねぇ」
というわけだ。
「納得するわけにはいかねぇ」
というわけだ。
確かに経験の差は大きい。だがそれを補って余りあるものを克己は持っているはずである。
それに経験があると言っても最終的にはそれは技術や戦術として現れ、空手として外に出てくるのだ。
勝てない理由がない。
それに経験があると言っても最終的にはそれは技術や戦術として現れ、空手として外に出てくるのだ。
勝てない理由がない。
「敢て言うならオリジナリティか…」
基本しか知らずに戦いの中で愚地流を、そして神心会空手へと技術を作り上げてきた独歩と、既に存在した空手を完成した(つもりだった)克己。
その差が出ているのだろうか?
基本しか知らずに戦いの中で愚地流を、そして神心会空手へと技術を作り上げてきた独歩と、既に存在した空手を完成した(つもりだった)克己。
その差が出ているのだろうか?
そういえば俺のオリジナルの音速拳と親父の菩薩の拳。
理屈では音速拳の方が速いはずなのに、作中で決まるのは、いつも菩薩の拳の方だ。
「どうすればいいっていうんだよ」
窓辺に立ち、カーテンを開け夕焼けを眺めた。
「俺はこんなにも無力だったのか」
ジワリとこみ上げてくる思いに胸を焦がした。
理屈では音速拳の方が速いはずなのに、作中で決まるのは、いつも菩薩の拳の方だ。
「どうすればいいっていうんだよ」
窓辺に立ち、カーテンを開け夕焼けを眺めた。
「俺はこんなにも無力だったのか」
ジワリとこみ上げてくる思いに胸を焦がした。
その克己の目の端に一つの光景が飛び込んできた。克己の両目とも2.0の視力が、ビルの狭間で一羽の鳥がトンボを鮮やかに捕らえるのを見た。
初めはどうということはなかった。
「トンボか、んん?やごは何処で育ったんだ?この大都心で?」
少ししてポンと手を打った。
「ああ、ああ、空きビルかぁ。バブルのなごりがまだ残ってやがるのか、おいこら日本経済?あぁ?きにくわねぇな畜生め?」
ストレスにさらされている人間の独り言は極めて不可解である。
よってあまり気にしてはならない。
しかし、その瞬間、日曜の朝八時に見ていたテレビドラマが克己の脳裏にフラッシュバックした。
準主人公の青年が一般庶民に敗れ、悟りを開く場面である。
初めはどうということはなかった。
「トンボか、んん?やごは何処で育ったんだ?この大都心で?」
少ししてポンと手を打った。
「ああ、ああ、空きビルかぁ。バブルのなごりがまだ残ってやがるのか、おいこら日本経済?あぁ?きにくわねぇな畜生め?」
ストレスにさらされている人間の独り言は極めて不可解である。
よってあまり気にしてはならない。
しかし、その瞬間、日曜の朝八時に見ていたテレビドラマが克己の脳裏にフラッシュバックした。
準主人公の青年が一般庶民に敗れ、悟りを開く場面である。
「これだぁァァ!!!」
大声を出し、手を打った。
今度は「ポン」なんて生易しいものではない。
下段突きで目に入ったソファを切り裂きガラスを割り、床板を貫いた。
割れたガラスは病院から復帰したばかりの末堂の頭頂部に刺さり、病院へ逆戻りさせる破目に陥れたが、それはあまり関係ないので置いておこう。
「ITE」それは末堂の最期の言葉だったのだろうか(シグルイ風に)
ちなみにこれらは手を打ってから、血中アドレナリン濃度が最高値を記録し、平常値の115%まで下がるまでの一瞬(とはいえない)の出来事だった。
今度は「ポン」なんて生易しいものではない。
下段突きで目に入ったソファを切り裂きガラスを割り、床板を貫いた。
割れたガラスは病院から復帰したばかりの末堂の頭頂部に刺さり、病院へ逆戻りさせる破目に陥れたが、それはあまり関係ないので置いておこう。
「ITE」それは末堂の最期の言葉だったのだろうか(シグルイ風に)
ちなみにこれらは手を打ってから、血中アドレナリン濃度が最高値を記録し、平常値の115%まで下がるまでの一瞬(とはいえない)の出来事だった。
大声で叫び廊下に飛び出し、興奮に任せしゃべり続ける。
よしよしよしよしよしよしよーし、いい子だ。
「これならなんとかなりそうだぞ。」
よしよしよしよしよしよしよーし、いい子だ。
「これならなんとかなりそうだぞ。」
途中三人の門弟とすれ違ったが、お互い見向きもしない。
というか眼を合わせるのが怖い。
「やべぇよ、俺の兄貴のダチがラリでちょうどあんな感じだったぜ」
金髪に髭の(イメージカラー黄色っぽい)の太った少年がいう。
「まぁ、そういうなって、横田、街中でリルボム使う赤の戦士よりは無害だって」
イメージカラー青といった感じのつんつん頭の青年が返す。
というか眼を合わせるのが怖い。
「やべぇよ、俺の兄貴のダチがラリでちょうどあんな感じだったぜ」
金髪に髭の(イメージカラー黄色っぽい)の太った少年がいう。
「まぁ、そういうなって、横田、街中でリルボム使う赤の戦士よりは無害だって」
イメージカラー青といった感じのつんつん頭の青年が返す。
さて克己は道場に駆け込み、門弟に何事かを頼み、二三の試しを行うや否や独歩の部屋に駆け込んだ。
「親父ぃぃ~、今日こそ決着つけようぜぇ」
独歩の隻眼がギロリと克己を睨みあげ、克己は一瞬ひるむが、即座に睨み返す。
二人の間に見えない火花が飛び散り、間にあった机の真ん中に焦げ跡がついた。
ちなみにこの机、松尾松山とおそろいで買った上等なマホガニー製である。
要するにお気に入りの一品だ。
二人の間に見えない火花が飛び散り、間にあった机の真ん中に焦げ跡がついた。
ちなみにこの机、松尾松山とおそろいで買った上等なマホガニー製である。
要するにお気に入りの一品だ。
独歩の心に涙が流れた。机も悲しいが、自分の教育に自信がなくなってきたのだ。
「いつからこんな子になっちまったんだろうなぁ…夏江」
この前まで
「お父さん、やっぱりあなたは才能がない」
とか誇らしげに言ってくれる、優しくて折り目正しい、まっすぐな空手をするいい子だったのに。
「いつからこんな子になっちまったんだろうなぁ…夏江」
この前まで
「お父さん、やっぱりあなたは才能がない」
とか誇らしげに言ってくれる、優しくて折り目正しい、まっすぐな空手をするいい子だったのに。
やはり呼び方ってのは
親父ぃぃぃ、ふしゅる <<(越えてはいけない壁) <父さん<< (越えられない壁)<<お父さん<父上 <(超えて欲しい壁)< おとうさま♪
だろうがよ、やっぱりよ。
呼び方だけならまだ良いのだ。今の克己の空手は邪道に堕ちている。
「いっちょもんでやらねぇといけねぇな」
いやいやながら椅子から立ち、顎をしゃくって道場へ促す。
「いこうや」
「いっちょもんでやらねぇといけねぇな」
いやいやながら椅子から立ち、顎をしゃくって道場へ促す。
「いこうや」
二人で誰もいない道場に降りていく。
使い古した空手着に帯をギュッと締め、二人同時に畳の中央に立った。
使い古した空手着に帯をギュッと締め、二人同時に畳の中央に立った。
「稽古をつけてもらうのも久しぶりだな、親父」
意気揚々と殺気を叩きつける息子。
「ふん、最近の若いのはこらえ性がなくていけねぇな」
笑いながらもうんざりとした様子の独歩。
「ふん、最近の若いのはこらえ性がなくていけねぇな」
笑いながらもうんざりとした様子の独歩。
ふん、俺が上回っているリストに
殺気
俺 > 独歩
を加えなきゃならねぇな
と克己は内心息巻いた。
殺気
俺 > 独歩
を加えなきゃならねぇな
と克己は内心息巻いた。
二人が向かいあって構えると、三メートルほどの空間に空気(加えてけだるさ)が凝縮していく。
独歩の右中段正拳が襲い掛かかる。
克己に当てるには速度も威力も篭もらぬ拳。
「遅い、かすりもせぬわ、かすりも・・・」
しかし、かわしたはずの独歩の拳は克己の肩を打ち抜いた。
「くっ」
吹き飛ばされ、片膝をついて立ち上がった。
これが稽古試合ならば既に技有りである。
克己に当てるには速度も威力も篭もらぬ拳。
「遅い、かすりもせぬわ、かすりも・・・」
しかし、かわしたはずの独歩の拳は克己の肩を打ち抜いた。
「くっ」
吹き飛ばされ、片膝をついて立ち上がった。
これが稽古試合ならば既に技有りである。
「克己よ、おめぇ弱くなっとりゃせんか?」
独歩が諭すように言う。遠まわしに言っているのだ。
"昔の克己ちゃんに戻ってくれ、プリーズ。"(意訳)
拳鬼(おに)は(心の中で)無念の涙を流した。
独歩が諭すように言う。遠まわしに言っているのだ。
"昔の克己ちゃんに戻ってくれ、プリーズ。"(意訳)
拳鬼(おに)は(心の中で)無念の涙を流した。
「まだまだァ、クァ、オラァ」
立ち上がり突進する克己。
立ち上がり突進する克己。
上段、下段、対角線のコンビネーションで独歩の正中線をこじ開け、四連突きへと繋ごうという腹だ。
上段 ― 回しうけの右手で裁かれる。
下段 ― 回しうけの左。
打ち下ろしの右 ― 返ってきた右
左のローキック ― 下段受け
上段 ― 回しうけの右手で裁かれる。
下段 ― 回しうけの左。
打ち下ろしの右 ― 返ってきた右
左のローキック ― 下段受け
開いた!正中線ッッ!
正中線へ最高のタイミングで四連突き始まりの右の正拳。
だが、その瞬間克己の顔と腹を衝撃が襲い、右拳は空を切った。
だが、その瞬間克己の顔と腹を衝撃が襲い、右拳は空を切った。
大きく踏み込んだ独歩の双掌打、そしてがら空きの右顔面へ更に一歩踏み込んだ横突き。
一瞬意識が体からはみ出し、再び畳の上を転がる。
ぎりぎりで威力をそらしたが、このダメージ。
まるで大人と子供である。親父と息子の差はそれほど大きかった。
一瞬意識が体からはみ出し、再び畳の上を転がる。
ぎりぎりで威力をそらしたが、このダメージ。
まるで大人と子供である。親父と息子の差はそれほど大きかった。
「併せて一本だな、しめぇだ、けぇるぜ」
ふぅとため息をついて背を向ける父親。
だから昔のおめぇに戻ってくれ克己。
ふぅとため息をついて背を向ける父親。
だから昔のおめぇに戻ってくれ克己。
何を言っているんだ、まだ俺は何も見せてねぇぞ―――待てよ親父
「何いってやがる、親父、俺はまだ立ってるぜ」
鼻血にまみれ、右頬から血をにじませ、眼ににじんだ涙に視界を遮られながら立ち上がり、独歩を睨みつける。
「ほう」
独歩の顔に嘲りと、嬉しさを秘めた笑みが浮かぶ。
「何いってやがる、親父、俺はまだ立ってるぜ」
鼻血にまみれ、右頬から血をにじませ、眼ににじんだ涙に視界を遮られながら立ち上がり、独歩を睨みつける。
「ほう」
独歩の顔に嘲りと、嬉しさを秘めた笑みが浮かぶ。
「俺と組み手してるときによ…」
ぼそぼそと克己がつぶやく。
「背中向けてんじゃねぇぇ」
振り返り様の独歩に渾身の胴廻し回転蹴り。
一歩身を引いてかわした独歩に、被せるように大振りの左。
右受けから鉄槌で迎え撃つ。
それを大きくしゃがみこみながら、左脇下へ逃れる。
同時に右フック。
不十分ながらもロシアンフック気味に入ったそれは独歩の顎を十分に下げた。
その顎先を、最高にバネを聞かせられる姿勢から放たれる渾身の左拳が打ち抜く。
本来空手にはない拳
ぼそぼそと克己がつぶやく。
「背中向けてんじゃねぇぇ」
振り返り様の独歩に渾身の胴廻し回転蹴り。
一歩身を引いてかわした独歩に、被せるように大振りの左。
右受けから鉄槌で迎え撃つ。
それを大きくしゃがみこみながら、左脇下へ逃れる。
同時に右フック。
不十分ながらもロシアンフック気味に入ったそれは独歩の顎を十分に下げた。
その顎先を、最高にバネを聞かせられる姿勢から放たれる渾身の左拳が打ち抜く。
本来空手にはない拳
「アッパーカット」
豪快さとは裏腹に、三日月のような美しい弧を描いて立ちあがる左腕。
独歩の体は、浮き上がり、畳を転がった。
独歩の体は、浮き上がり、畳を転がった。
「はぁはぁ」
肩で息をしながら、倒れた独歩を見下ろす。
「一本だぜ、親父」
たれてきた鼻血をぬぐう。
肩で息をしながら、倒れた独歩を見下ろす。
「一本だぜ、親父」
たれてきた鼻血をぬぐう。
「くっくっく」
不意に独歩が笑う。
「ハァッハッハ」
克己は驚愕に眼を見開く、効いていないのか?
「効いた、今のは効いたぜぇ、頭の先から足の先までジーンと痺れた」
克己に眼を向ける。
「まぁだ、眼の前がドロドロしてらぁ、クックック」
糸が切れたかのように笑う独歩を見て克己は恐怖に駆られた。
不意に独歩が笑う。
「ハァッハッハ」
克己は驚愕に眼を見開く、効いていないのか?
「効いた、今のは効いたぜぇ、頭の先から足の先までジーンと痺れた」
克己に眼を向ける。
「まぁだ、眼の前がドロドロしてらぁ、クックック」
糸が切れたかのように笑う独歩を見て克己は恐怖に駆られた。
これが俺と親父の差なのか。
「だがまだ寝れねぇぜ、克己よ」
おめぇが空手に戻ってこねぇからよ
「よっこらせ」
独歩はゆっくりと立ち上がり、大きく右の拳を振り上げながら、またゆっくりと克己に近づいていく。
「いくぜ、克己」
「だがまだ寝れねぇぜ、克己よ」
おめぇが空手に戻ってこねぇからよ
「よっこらせ」
独歩はゆっくりと立ち上がり、大きく右の拳を振り上げながら、またゆっくりと克己に近づいていく。
「いくぜ、克己」
やはりこれまで範馬星人と戦ってきた親父と、地球の生き物としか戦っていない自分の間には大きな差があるのか。
俺は空手のエリートだが戦いのエリートではないのか。
ここはやはり、さっき閃いたあの技しかない。
一介のショ・ミィーンですらエリートを破るあの技。
俺は空手のエリートだが戦いのエリートではないのか。
ここはやはり、さっき閃いたあの技しかない。
一介のショ・ミィーンですらエリートを破るあの技。
独歩が無造作に振り上げた拳に対し、鶴の構えを取る克己。
「克己、おめぇ…」
「言うな親父」
「克己、おめぇ…」
「言うな親父」
まるでスローモーションのように近づいてくる独歩の拳。
確かに拳は触れるべからざる凶器だ。
だが、腕は?
鶴の構えにより、攻撃部位を正面に限定、独歩の腕を白刃取りし、横に逸らす。
その後開いた横面に一撃。するはずだった。
確かに拳は触れるべからざる凶器だ。
だが、腕は?
鶴の構えにより、攻撃部位を正面に限定、独歩の腕を白刃取りし、横に逸らす。
その後開いた横面に一撃。するはずだった。
手首捕まれてなお独歩の拳は力強く克己の両腕を押しのけ、克己の左頬に突き刺さった。
崩れるように倒れる克己。
体と頭の連結が断たれ、脳震盪も起している。
「ダメなのか」
立ち続けようという努力もむなしく、克己は畳の上に横たわった。
崩れるように倒れる克己。
体と頭の連結が断たれ、脳震盪も起している。
「ダメなのか」
立ち続けようという努力もむなしく、克己は畳の上に横たわった。
しばらくして、眼を覚ました克己の横には独歩がいた。
「―――克己」
独歩が僅かに微笑みながら言う。
「日曜の朝八時」
克己がハッと眼を見開く。
「俺も毎週見てるんだぜ」
そういうと独歩は道場を出て行った。
「―――克己」
独歩が僅かに微笑みながら言う。
「日曜の朝八時」
克己がハッと眼を見開く。
「俺も毎週見てるんだぜ」
そういうと独歩は道場を出て行った。
「ハッ…」
手を顔の上に載せて、眼を塞ぐ。今はまだ天井を見たくはない。
「・・・かなわねぇなぁ」
克己の顔に少しだけ笑顔が戻った。
手を顔の上に載せて、眼を塞ぐ。今はまだ天井を見たくはない。
「・・・かなわねぇなぁ」
克己の顔に少しだけ笑顔が戻った。
本日は晴天なり。(あと、おとうさん♪と呼べ)
二重の極め 完