SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 「演劇をしよう!! (前編)」  (13.2)


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【同時刻 日本のどこか山深い地方で】


「村だな」
「村ですね」

 狭く、近未来的な部屋だった。パネルやレバーといった操作器具が敷き詰められ電子音が規則正しく響いている。
 その部屋の正面にはモニターがあり今は粗く緑がかった風景を映し出している。

 モニターの中央と向かい合うように椅子が3つ、配置されていた。うち2つは隣同士で1mばかりの感覚が空いていた。
座っているのは両方とも20代以上の男性で、片方はやせ型、片方は小太り。生白い肌と浅黒い肌も対照的な彼ら、
先ほどからモニターを見てひそひそと話している。

 モニターが遠望していたのは確かに村だった。
 いかにも小規模なそこは山の中腹にあり提灯や屋台が所狭しと並んでいた。時節柄解釈するに祭りでも開いているとみ
るのが妥当だろう。いかにも農民風な人々が望遠レンズの映し出す世界で踊ったり屋台に並んだりとにかく祭りを楽しんでいる。

 麓と村を繋ぐ道は1本しかなかった。とびきり長くて緩やかなのが1本だけだった。村付近の斜面はどれも崖という
べき垂直ぶりだ。コンクリートが固めていなければ台風1つで崩落するだろう。しぜん道は傾斜の緩やかな方へと
伸びざるを得なかった。

 村から吐き出された道は山を螺旋状になぞり緩やかな勾配を描いている。と男たちがモニターから読み取れたのはコケ
の浮いたガードレールが木々の中で長々と自己主張していたからだ。規則正しく並ぶ街灯の向こうで碁盤状の法枠(のりわ
く)が整地区画の草花畑をどこまでもどこまでも伸ばしていた。

 様子からして路面はアスファルトだろう。村まで車で15分というところだ。

 その道に。

 麓の辺りに無数の人影がいた。
 黒い服とサングラスという「いかにも」な人種だ。それが6ダースほど闊歩していた。
 黒服の男たちはところどころ人間らしさを喪失していた。爪が恐ろしく長かったり牙がにゅっと伸びていたり羽根が生えて
いたりでとにかく怪物性を誇示していた。

「ホムンクルスだな」
「ホムンクルスですね」

 彼らは坂を上っていた。ペースは早い。車ほどではないが人間の速度は凌駕している。
 このままいけば20分で村に着くだろう。
 やせた方の若い男は生白い顔を後ろめがけ軽く捻じ曲げ、こう聞いた。

「どうしますか艦長」

「…………」

 最後の椅子は部屋の一番奥にあった。一段高いところにあるそれは見るからに上役用で肘掛けさえついていた。
 艦長と呼ばれたのはいかめしい顔つきの老人だ。彼はしばらく沈黙を保ったままただただ画面を見つめていた。目深に被っ
た帽子の下で瞳だけが鋭く光っていた。荒波を超え続けてきた男だけが持つ威圧感がひたすら黒服どもを射抜いていた。
 黒服たちは知らなかった。
 自分たちが見られているという事はもちろん……背後彼方の場所にある森の中に何があるかというコトを。
 戦艦が一隻、森の広場の中にいた。海からはかなり離れているというのに、どでんと。
 真鍮色のそれは鉄板をごてごて塗り固めたように不格好で、至るところに据え付けられた3連装砲や連装機銃座の数々が
とことん全体のフォルムをややこしくしていた。艦首に居たっては双頭の竜よろしくにゅっと2つに分かれている。
 つまりディティールこそ精緻を極めているが小学生が考えた出来の悪い発明品を思わせる気色の悪い物体だった。
 とても真っ当な軍隊の制式に収まりそうもないそれは錆びついたダンプカーの横にぷかぷかと浮かんでいる。積載量10t
の隣人さえ霞む大きさだった。高さこそ等しくしているが幅や全長はゆうに3倍を超えていた。にも関わらず空気の浮上力
によって一切の重量感を排している。通ってきたと思しき方角を見れば無数の木々が折り重なるように倒れている。強行軍。
これまでの『航路』を言い表すにふさわしい言葉である。

 2人の若い男といかめしい顔つきの老人はその戦艦の中にいた。

 「ディープブレッシング」という戦艦の中に、先ほどからずっと。

 武装錬金の中には複数の創造者や核鉄を要するものもある。好例がディープブレッシングであり、核鉄の組み合わせに
よって姿さえ自在に変える。基本形態こそ潜水艦だが宇宙船を思わせる空中戦艦にも変形可能。創造者たちいわく三核鉄
六変化、つまりは全部で6つの形態を持つ変わり種の武装錬金なのである。

 その操縦席の奥で老人──艦長──が口を開いた。とても厳かな声だった。

「諸君。我々は現在大戦士長救出作戦を補佐する立場にある。数多くの戦士たちを合流ポイントに向けて輸送中……。
それもヴィクターにはとうとう見せてやれなかった陸戦艇形態でだ」
「アイアイ」
「アイアイ」
「本来戦艦であるディープブレッシングがこのような扱いを受けている。不当だと感ずる者もいるだろう。だが戦団がヴィク
ター討伐により数多くの輸送手段を失っている以上、やらねばならない。辛いだろうが諸君らの一層の克己と奮励に期待
する」
「アイアイ」
「アイアイ」
「敵はレティクルエレメンツ。1秒の遅参も許されない。海域空中戦形態で空を飛べばもっと早くつけるだろうとかという
文句も戦士たちから上がっているがアレは目立つし第一ヴィクターに見せたからもういい」
 アイアイ。アイアイ。機械のような返事を聞き届けると艦長は深く息を吐き椅子にもたれた。画面の中では黒服たちが
とうとう山の中腹にまで登り詰めている。進行速度は予想以上でともすればあと5分で村は惨劇の舞台になるだろう。
「では艦長。村民たちは」
「航海長。命令を忘れたか。『とにかく余計な戦闘に時間を裂くな』。火渡戦士長は我々にそう伝えた筈だ」
 底冷えのする声だ。航海長と呼ばれた痩躯の男は沈黙した。
「すでに上層部は彼を大戦士長代行とさえ認めている。である以上、火渡戦士長の命令は絶対だ。私は艦長として万難を
排し不要な戦闘を避けねばならない。……という訳だ航海長」
「アイアイ」
 ・ ・ ・ ・ ・ ・
「村へ向かえ」
「アイアイ。また命令違反ですか艦長」
 にこりともせず艦長は答えた。
「人命を助ける。そのどこが余計だね?」
「アイアイ」
 航海長は特にどうという感慨も浮かべぬまま桿を握った。こんな問答は茶飯事らしい。
 やがて戦艦各所にしつらえられた通風口を大量の空気が通り抜けた。唸る艦底。熱ぼったい奔流が艦全体を緩やかに
持ち上げる。草木がさざめいた。流れる木の葉は五線譜の音符だった。さらさらと綺麗に鳴り消えていった。
 静かな空気の音が充満する操縦室の中、小太りの男が一言ぼやく。「帰ったらまた大ゲンカか」。浅黒い顔の後ろで腕を
組み天井を眺めるうち艦はとうとう錆まみれの隣人に別れを告げた。
 ほどなくして山裾に達した艦は木々の犇めく斜面を登り始めた。艦長はぽつりと呟いた。
「第一火渡はディープブレッシングをいろいろ小馬鹿にしてくる上に何かと突っかかってくる。嫌いだ。命令など聞いてやらん。
まったく。戦士になりたての頃誰がサバイバル訓練に付き合ってやったと思っている」
「やはり重りを付けて深海に放置したのはマズかったですね」
「火炎同化を持つアイツにはあれが一番サバイバルだと思ったのだ。ディープブレッシングの全形態も見せたかった」
………………水雷長。艦砲射撃準備」
「アイアイ。もう終わってますよ艦長。いつでも行けます!!」

 やがてディープブレッシングは山を登り始めた。道は使わず直接村を目指した。木々の密集する斜面へ突入し山肌を削
るように疾走し、登りながらも高度を上げた。「ガードレールまで距離200」「面舵いっぱい」。大きく円弧を描きながらガード
レールをブチ破り道へ合流。風が法面に吹きつき艦の動きが静止した。
 遥か前方で黒い影がまろぶように駆けている。

「艦長! やはり気付かれたようです!! 黒服たちは……村へ!!」
「ああやっぱり。ばらばらに発動した方が良かったんじゃ」
「艦内へ通達。総員前方からのGに備えよ。これより本艦は最大船速に入る。目標到達後は船速の如何に関わらず村へ
突入……ホムンクルスを殲滅せよ」
「アイアイ。要するに爆走中の戦艦から飛び降りろってコトですか」
「アイアイ。時間がないとはいえ恨まれますよ」
「機動力のあるものや押しつぶされたくないものは直ちに下艦。のち後方より本艦を援護せよ」

 やがて艦後部で空気が爆発した。道路の幅いっぱい以上に広がるディープブレッシングはガードレールを歪なかつら剥き
にしながら火花を散らしぐんぐんと黒服に追いすがり、追いすがり、追いすがり──…

 村の入口付近で6人ばかり撥ね飛ばした。
 振り向いた黒服たちはまず艦の威容に息を呑んだ。慌てた様子で村を振り返り再び艦を見るものもいた。逡巡。わずか
だが一同を迷いが支配しその動きが止まった。その瞬間ディープブレッシング右側面のある位置でハッチが開いた。
 出てきてきたのは老若男女さまざまだ。服装もまちまちで手にした武器もどれ1つとして同じ物がない。
 ただ全員ただならぬ眼光を持っているのだけは共通しており、それが黒服たちに不吉な予感をもたらした。
 戦士たちが、一歩踏み出した。

(来る)

 身を固くする黒服たちの前で…………戦士たちはそろって踵を返し、艦を蹴った。

「あれほど言ったのに急加速してんじゃねえ!!!」
「おぇ。ただでさえ船酔いしてんのに……いきなりあんな速……おぇ」
「最高船速の船から飛び降りろだあ! できるか!! 死ね!」

「あの……」

 黒服たちは困惑した。戦士たちはみな悪態をつきながら執拗に艦を蹴っている。とても異様な光景だった。

「だいたい何で陸戦艇なんだよヴォケ!!!」
「3人別々に小型飛行機発動してピストン輸送する方が効率いいだろ!! どう考えても!!」
「傷病兵だって乗っているんだ!! 目立ちたいからって無茶すんな!!!」
「だからお前らに輸送されたくなかったんだよ!!!!」

 ハッチの奥から海兵らしい人物たちが引きずり出された。若い男2人と老人だった。彼らは顔面に殴られたような痕が
あり衣服もところどころが乱れている。特に老人などは筋骨隆々の中年男に襟首を掴まれいまにも処刑されそうな勢い
だ。(そのくせ眼光は異常なまでに鋭かったが)

「なんかいえよ艦長!! ア゛!!」
「諸君らに告ぐ。我々は目標地点に到達せり。速やかにホムンクルスを殲滅し村民を救助せよ」
「おーおーおーおーおー!!! 命令する方は楽でいいよなあ本当に!!」
「だいたいお前ただのヒラだろヒラ!! 勝手に艦長とか名乗ってるだけだよな!!?」
 筋骨隆々の男は露骨に青筋を浮かべながら艦長のヒゲを引き始めた。それなりの痛覚があるらしく艦長はうっすらと
脂汗を浮かべた。
「やめろ。私に手を上げるのは構わんがディープブレッシングを蹴るのは止めてもらおうか……!!」
「蹴りでもしなきゃやってらんねーだろうがアアアアアアアアア!!」
「デカいから目立つんだよコレ!! 人の目のあるところ飛べないんだよ!!」
「潜水艦形態は嫌だっつーし!」
「いつも通るの獣道! しかもそういう場所に限って共同体があるからケンカふっかけられるのな!!」
「お陰で俺たちボロボロ!! 決戦前なのに!!」
「くそう!! あのときパーを出してればヘリ乗れたのになあ!!」
「ヘリ組は毎日ホテルで寝れるらしいぜ。フランス料理とか好きなん食えるらしい」
「もうすぐ決戦で死ぬかも知れないから? いいなあ。俺も寿司食べたい」
「あのー」
 黒服たちは困り果てた。仲間の肩を借りているのは先ほど跳ね飛ばされた者だろう。彼らもまた呆然と見守るばかりだ。
攻撃された恨みも忘れるほど異様で滑稽な喧噪だ。
「クーデターが発生」
「艦内放送後すぐ戦士たちが操舵室を制圧。安全な速度でここまで来る事になった」
「は、はあ」
 いかにもデコボココンビな男たち──航海長と水雷長──の説明に黒服たちが首を傾げていると。
 騒ぎを聞きつけてきたのだろう。
 村人たちが何人か、誰何の声を上げた。

「オイ騒いでる場合じゃねえぞ!! 要救助対象者がホムと鉢合わせだ!!」
「誰だよお前たち!! ココで何を……」
「ええいもうこうなったら襲うしかねえっぺよ!!!」

 三者三様の喧噪の中で最も早く動いたのは黒服たちだ。
 混乱と動揺を振り切りるように村人たちへ振り返るや凄まじい形相で突貫し──…



 30分後。村は灰燼と化していた。
 生き残りだろうか。村人が黒服に追い立てられ金切り声を上げている。
 求められた助け。戦士である筈の艦長はしかし一瞥さえくれず黙殺し、じっとその場にたたずんでいる。
 彼を軸に林立する航海長や水雷長も同じだった。戦士たちはというと事後処理に忙しく駆け回っている。
 怨嗟と憤怒と断末魔の絶叫が混じり合い響き合い、村は狂乱の様相を呈していた。

「航海長。これはいったいどういう事だね」
「アイアイ。調査結果を報告します。ホムンクルスは村人の方でした」
「で、麓から人間攫ってきてお祭り騒ぎかよ」
 大柄な男──水雷長──は溜息をついた。元民家のカーボンが視界両側にどこまでも伸びるこの場所は大通りとみえ
屋台の残骸があちこちに散乱している。「焼き人間」。煤まみれの看板が転がっているのが見えた。比較的原状を保って
いるその屋台へ何気なく視線を移した水雷長はうっと口を抑えた。調理用の小型ガスボンベの前で横倒しになったバケツ
から色々なものが零れていた。長い髪や小さな手はまだいい方だったがウニやネギトロに似た質感のサーモンピンクは流
石にダメだったらしい。「陽菜!!」「ヤスシ!!」。別の屋台の商品もだいたい似たような品ぞろえだ。『商品』へ涙ながら
にすがりつく黒服たちが如実に証明していた。

「……ちなみに黒服たちは人間とのコトです。麓に住んでいるといえば何をしに来たか……言うまでもありません」
「人間!? んな馬鹿な!! お前もモニター見たろ。アイツら確かに牙とか爪とか生やしてたよな!?」
「しかし調査の結果、全員間違いなく人間……錬金術とは無縁の一般人です」
「でもあの黒服たち、ホムンクルスども圧倒してるぞ。陸戦艇に魅かれた人も無事だし」
 水雷長の指さす先で村人が袋叩きにあっている。本来錬金術以外の力では破壊不能のホムンクルスが無手の黒服たちの
殴る蹴るでどんどん壊れている。事態の異常さに気付いたのだろう。何人かの戦士たちが驚いたように凝視している。
「戦士でもない人間がホムンクルス倒せるとかおかしいだろ」
「それですが興味深い証言があります。実は──…」
「オイ!!!! あれはなんだ!!!!」
 戦士の誰かが発したのだろう。割れんばかりの声が航海長を遮った。
 すわ何事かと目を剥く水雷長の足元が大きく揺らいだ。すんでのところで転びそうになったがどうにかこうにか持ち直す。ズドン。
足元が再び揺らいだ。それは村にいるもの総ての身上に注ぐ宿命だった。消し炭の家屋も崩滅寸前の屋台も何もかも飛び
あがって元の場所へ叩きつけられた。地響きがしている。当たり前でつまらない結論へたどり着くまで3度のズドンを要した
水雷長は”判断力が衰えている”そんな痛感と──最初に訪れるのは20をいくらか過ぎたあたりだ。もっとも何万かの脳細
胞が死滅し始めるころだいたいは社会に対するうまいやり方を覚え互助に預かれるので30年後ぐらいまでどうにかトント
ンでいられる──痛感と、どよめきの中で見た。

 ホムンクルスを。
 高さ200mを超えるシロナガスクジラ型を。
 そしてダンプカーさえスクラップにできそうなほど巨大なヒレが頭上3mでうねりを上げているのを。

 水雷長の口を叫びが貫いた。恰幅のいい体は猛然と航海長を跳ね飛ばし野太い腕は無遠慮に艦長をひっつかみ、そして
投げ飛ばした。
 痩せた色白の相棒は心得たもので上役を受けとめながら地を蹴った。幸運を上げるとすればヒレの向きがそうだった。水
雷長たちの視線と水平だったのだから。30m超の長さに不釣り合いな狭幅(きょうふく)の稜線。仲間たちがその埒外に無事
逃げおおせたのを確認すると水雷長は誰ともなしにニカリと笑い──…

 山が煙を噴いた。村の辺りからたなびくそれは闇夜にとても生える茶色だった。震度6クラスの振動が大地を揺るがした。

 爆発的な衝撃が水雷長の全身を貫いた。黒光りする749kgの金属板は彼の肉体に接触しまるで勢いを殺さぬまま地面に
向かって振り抜かれた。ダイナイマイトの炸裂の方がまだマシだという破裂音が航海長や艦長の鼓膜を著しく傷つけ膨大な
土煙を巻き上げた。屋台や家屋のひしゃげるめりめりという音がした。難を逃れたものたちはただ唖然とその様子を見ていた。
尻もちをつく黒服もおり中には涙を浮かべる戦士さえいた。

「具申しよう!! みどもはこの村の村長……つまりは共同体のボォス!! どうだこの大きさスゴいだろう絶望だろう!!」

 山の手高くにある村へ悠然と並び立ったホムンクルスはとてもとてもクジラだった。瞳は球体型ジャングルジムに匹敵す
る大きさでそれがぎょろぎょろぎょろぎょろ忙しく動き回りながら戦士を見ていた。

「普段はこの大きさゆえに村入るンじゃあねえ出禁くらってやむなく穴掘って地下でうつらうつら眠っているが今回みたいな
有事の際には何かと頼られるタイプ!! 現に戦士1名殺害!! え!! なんでみんな祭りやってたの!! 先週貰った
お知らせのプリントには一言もなかったのに!! 連絡の不備なのかなあどうなんだろう」

 でっかい頭をぐにぐに左右へ振りながらシロナガス型は「ま。いっか」と潮を吹いた

「戦士全滅させれば誘ってもらえるよねえきっと。うん。さあ覚悟しろこんなでっかい村長さんに効く武装錬金などある訳──…」
「なあー!! いまの文言訂正しておいた方がいいぜー」
 戦士の1人が声を上げた。
「???」
「だからー。お前いま水雷長殺したようなコトいったけどー」
 大通りに振り下ろされたままのヒレに異変が生じた。ほぼ中央。水雷長の居た辺りに穴が1つ。穿たれた。
「??????」
 針でも刺したような、凝視せねば分からぬほど微細な穴。だがそれを中心に大きく亀裂が入った。ピキリ。ヒレの外装が
花瓶のように割れ飛んで火花散る内装を露呈した。ピキリ。ピキリ。スプーンで叩いたゆで卵を思わせる様相で伝播する
亀裂。それはあっという間にヒレ全体を覆い尽くし息も尽かさず粉々にした。そして──…

「なんだ。この程度か」

 破片の雨の中、水雷長はぼんやり呟いた。腕を無造作に突き上げたまま無造作に突っ立っている彼は特にどうという
外傷もなく、それがシロナガス型をうろたえさせた。

「な。言った通りだろ」
「俺らのかなり本気の総攻撃喰らって無事だもんな」
「防人戦士長との組手、33勝56敗だからな。シルスキなしのガチンコだけど」
「負け越し? いやいや素手で勝てるだけでも大したもんだ」
 楽しそうに顔を見合わせうんうん頷く戦士たちがまた混乱に拍車をかける。
「おーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!! なんだよ!! なんでだよ!! 村長さんの
ヒレはねえ!! 749kgあるんだよ!! しかもホムンクルスだから金属っぽいし!! なのに生身の人間が直撃受けて
無事なのはどうしてなの! 手ごたえは確かにあったよね! ね!!」
「あー。いや。俺いちおう深海を生身で動けるし。6000mぐらいなら平気」
「はい?」
「だって俺らとか艦長とか潜水艦持ちだろ。万が一武装解除に追い込まれた場合でも核鉄だけは持ち帰れって戦団から強く
いわれてるんだよな。だから訓練した。今まで味わった超深海層の圧力とかの悪条件に比べたらお前のヒレは、そのまあ、
別に……かなあ?」
 気休め程度だけどいちおうこの制服も耐圧使用だし。後頭部をかきつつ淡々と述べる水雷長。シロナガスは「ええと、え
えと」と汗を飛ばしてからまくし立てた。
「いやいやいや。どんな訓練ですかそれは。学研の2年の科学とかだとカップラーメンの容器がめちゃくちゃ小さく圧縮され
るのが深海なんですってば。それ以外にもいろいろあるし、普通絶対死ぬんじゃ」
「いや。戦士の特訓の要領で核鉄治療繰り返せば割と何とかなる。わざと死にそうになって回復。わざと死にそうになって回
復。すると段々頑丈になる。最初は大変だったな。浅いところから始めてみたけど深さ4ケタ辺りから様子が変わってきてさあ
ちょっと生身で潜るだけで半年ぐらい意識不明。植物状態になったな。で、治ったら寝てた分だけリハビリしてまたチャレンジ。
それを8セットぐらい繰り返したかな。10代のころ学校も通わず。航海長も似たようなものさ」
「…………えーと」
「脳だけで200回は手術した。なんだかったかな。よく覚えてないけど血栓だか浮腫だかの問題で手術しなきゃ死ぬって言
われたから仕方なくサインしてさ。自前の肺なんてもう32分の1ぐらいしか残っていない。後は深海用にチューニングされた
人工物。でもまあいいかなって。だって肺ガンにだけはならない、なりようがないって聖サンジェルマンの連中はいってくれるし。
あ、でも骨は一応全部自前。ただ困ったコトに」
 『白い輝き』が不自然に目立つ拳を水雷長は突き上げた。
「頑丈になりすぎちまった。トドメこそさせないけどホムンクルスの攻撃凌ぐぐらいはできるんだよなあ……」
(ヒレに皮膚擂り潰されたせいで露出した骨!! それで防……いや、ヒレにカウンターかまして砕いた!!? うそぉん!!)

「いま考えると部分発動だけで防御できたかもな。こういう風に」

 水雷長の腕の辺りで空間が……”歪んだ”。小さな光とゴテゴテした影が収束し、そして消えた。
 次の瞬間。
 妙な物体が30本ほどシロナガス型を襲撃した。筒に羽根とトンガリのついたタイプのミサイルだった。「3BK29?」「成形
炸薬弾キタコレ」「水雷長のくせにアイツいろいろなミサイル使えるんだぜ」。はやし立てる戦士たちの目の前で巨大なホム
ンクルスは顔面のあちこちを爆発させた。内部機械が剥き出しになり破片がガラガラと降り注いだ。

「あれはキくぜー。ユゴニオ弾性限界を超えた銅のメタルジェットがうんぬん」
「なんやかんやで装甲との相互作用面が装甲材自体の機械的強度を無視するんだ!」
「つまり防御力無視? でかくて頑強そうな分、ショックだろうな」
「ああ。よろめいた。侵徹口から弾片や爆風が染み込んだんだ」

 シロナガスクジラは後ろに向かってたたらを踏んだ。身長ゆえに後ずさりもダイナミックだ。あっというまに先ほどディープブ
レッシングが停泊していた森へ達し。とうとう錆びついたダンプカーに足を──クジラにも関わらず、ある。不思議な──取
られ蹴躓いた。そのとき村にいた戦士のひとりは大笑いした。10tは積める決して小さくはない車両運搬具がヒラリヒラリと
夜空にきり揉んでいた。夜中(やちゅう)にも関わらず観測できた理由は高度にあり、最高時はおよそ58mまで達していた。
弱り目に祟り目。律儀にも垂直に飛び上っていたダンプカーはほぼ元の位置に落着した。そこはやや様子が変わっており、
仰向けで呻くクジラの腹が広がっていた。落着。ダンプカーはささくれたバンパーから全重量をねじ込んだ。柔らかな腹が
地軸へ向かってひん曲りトランポリンよろしく陥没した。ほとんどテイルランプの辺りまで埋まった巨大車両は何本かの脊柱
にヒビを入れた辺りでようやくびょーんと飛び上り森の奥へと去って行った。
 さてクジラ。彼は泣きながら立ち上がり大慌てで走り始めた。口から零れおちる消化液臭い大量のオキアミが道程をどし
ゃどしゃと汚した。脊柱のヒビはすぐ治ったが──錬金術制のダンプでなかったのがせめてもの幸いだった──あらゆる非
情の予想外に決心した。
 逃げよう。
 どこか海で暮らそう。

 彼の旅は、ここから始まった。

「逃げるのは勝手だが一言だけ言わせてもらおう」

 エコーの掛った厳粛な声。その出所を求め頭上を見上げたクジラは戦慄した。
 潜水艦。全長だけなら自分を凌ぐ超ド級の武装錬金が……飛んでいる。
 落ちて、来ていた。
 もちろん頭部──急所たる章印のある──めがけ轟然と。
 体感だがそれは音速を超えているようでまだまだ20mある距離などまったく気休めにならなかった。

「私は貴様を絶対に許さん。絶対にだ。なぜなら……」

 わずかな沈黙の後、艦長はいらただしげに肘掛けを叩いた。

「クジラが陸にいるなど……まったく場違いにもほどがある。不愉快だ!」
「潜水艦に言われたかねえええええええええええええ!!!」

 絶叫と轟音が世界を揺るがす中、戦士たちは胸中「まったくだ」と十字を切った。それがせめてもの哀悼だった。


 10分後。夜空を巨大な戦艦が飛んでいた。満ち始めた月も背後に緩やかに飛んでいくその船は艦首に巨大な
ドリルが付いている。やがて雲海の中で艦影が加速を帯びた。艦は何事もなかったように飛んでいく。

「戦団本部に打電。我ら無辜の人々を救出せり。以後は予備兵にて保護されたし。場所は──…」

「……以上だ」
「アイアイ」
「アイアイ」
 いわれたとおりの作業を行うと狭い操舵室に安堵の空気が満ちた。
「しかし結局何だったんだあの黒服ども? 最初見た時は明らかに化け物だったよな?」
「ホムンクルスも圧倒していた。ディープブレッシングに跳ね飛ばされてもほぼ無傷だった」
 珍しく雑談に紛れ込んできた艦長に水雷長は気をよくした。軽く席から身を乗り出し航海長に呼び掛けた。
「でも調べじゃあの黒服たち人間なんだろ? どういう訳だ」
「ええ。人間です。その点については聴取済みです。艦長。報告してよろしいですか?」
「うむ」
 艦長はただ、重苦しく頷いた。


【以下、黒服たちの証言】

「山神さまだべ。山神さまがおでらに力ばくれたんたべ!!」

「んだんだ。先代がむかす迷惑かけちまったからって助けてくれた!!」

「よぐできた2代目さんだべ。先代はあなたもう本当ヒドイ奴だったば」

「作物は荒らすわコッコ食べまくるわ娘ご犯すわで本当手がつけられんかった」

「おで子供6人ぐらい喰われたべ。仕方ねーから父ちゃんと頑張って10人ぐらいこさえたべ!! ははは!!」

「先代の山神さんべか? あー。7年前か8年前だったべか? 死んだの」

「金髪の剣士さんとか実況好きな女のコとかが退治してくれたんだべ」

「あんとき不慣れな感じでビクついてた鎖使いさんいま何してだろーね」

「やたら声がでかくてねえ。しゃべるたび山さ崩れるんじゃねーかってオラ不安で不安で」

「2代目の山神さんべか? 1年半ぐらい前からちょくちょく村さ来るようになったべ」

「最近? 最近はあなた来なかったべよ。なんか関東の辺りさ出稼ぎに行くとか何とかで」

「入れ替わりに村の奴らさ来だのもそのころだっぺ」

「あいつらもまたヒドかった!!」

「作物は荒らすわコッコ食べまくるわ娘ご犯すわで本当手がつけられんかった」

「おで子供6人ぐらい喰われたべ。仕方ねーからまた父ちゃんと頑張って10人ぐらいこさえるべ!! ははは!!」

「実際アイツラもまたヒドくて! でもどうせ戦っても勝てねーからってオラたちじっと我慢してた」


「そこであーた2代目さんが帰ってきたべよ」

「いーい山神さんだったべ」

「事情話したらあいつら倒せる力ぽんとくれたべ。最初腕とか変形した時はびっくらこいたけどよー」

「ん? お金取られたかって? いんや何にも。タダでくれたべタダで!」

「怪しい実験? それもされなかったべ」

「んだんだ。ちょっと自己紹介して欲しいって言われたぐらいだな」

「名前教えるぐらい普通だっぺ。それがお前敬意ってもんだぁ」

「最近の都会の若いコたづはそこがダメだべ。ゆとり世代の弊害だべか」」

「とにかく山神さまがオラたち点呼したらキバとか生えたべ」


【以上、黒服たちの証言おわり】

「するとアレか? その山神さまとかいうのが黒服たちに」
「ホムンクルスを打破しうる力を与えたようです」
 水雷長はあんぐりと口を開けたまま天井をしばらく眺め……面倒くさそうに溜息をついた。
「いまはもう黒服たち、人間に戻ってるんだよな」
「はい。調査用の武装錬金を持つ戦士が何人か彼らをくまなく調べましたがどの結果も”シロ”です」
「じゃあ何なんだ? ホムンクルス幼体を埋め込まれたって感じでもないし」
「……武装錬金だ」
 はい? 若い男2人は思わずハモりながら背後を見た。
 そこにいるのはやはり艦長で、やはりいつものまま鋭い三白眼をギラつかせている。
「航海長。戦団に再び打電。調査要請を掛けろ」
「アイアイ。相手は誰ですか」

 艦長は迷いなくその名を告げた。

「戦士・千歳と根来だ」