その男はとても幸せそうだった。悦楽の笑み、という言葉が似合う程に。
まだ、春も始まったばかりの季節であり、東北ということで少し冷たい風が吹く。
だが、『彼女』と手を繋いでいる男は、『彼女』と同じ時間を共有していることが嬉しくて、このうすら寒い空の下を、彼女と一緒にドライブをしたかった。
まだ、春も始まったばかりの季節であり、東北ということで少し冷たい風が吹く。
だが、『彼女』と手を繋いでいる男は、『彼女』と同じ時間を共有していることが嬉しくて、このうすら寒い空の下を、彼女と一緒にドライブをしたかった。
「今日はどこへ行こうか」
男の問いかけに、『彼女』は答えなかった。心ここに在らず、ということなのだろうか。
「まあ、目的地の無いドライブも、中々良いじゃあないか。さ、乗ってくれ」
男は彼女の手を引きながらゆっくりと運転席に座り、エンジンを掛ける。
『彼女』は一言も喋らなかった。だが、別に男はそれを不審がる様子もなかった。
『彼女』は一言も喋らなかった。だが、別に男はそれを不審がる様子もなかった。
「あ、僕の買ったオパールの指輪を嵌めていてくれるんだね。とても嬉しいよ。きっと似合うと思ったんだ」
『彼女』の左手の薬指にきらりと小さな光を発して輝くオパールの指輪を見て、微笑んだ。
男は、見た感じは普通のサラリーマンといった風な風貌をしていたが、指輪を買える辺り、実家はそれなりに大きく、資産があると考えられる。
普段の生活に、特に苦労も無い、平凡だが、幸せな生活を送っているのだろう。
男は、見た感じは普通のサラリーマンといった風な風貌をしていたが、指輪を買える辺り、実家はそれなりに大きく、資産があると考えられる。
普段の生活に、特に苦労も無い、平凡だが、幸せな生活を送っているのだろう。
「へ? 昇進に興味はないのかって? 嫌だな君は、僕は出世とかに興味はないんだ」
男は否定的な言葉を口にする。
「勿論、私であればそれなりの地位にも就けるかもしれない。だが、そのことで職場の同僚達と険悪になるのは嫌だからね…
別に仲良くしようとか言っているんじゃあない。『平穏な生活』を脅かしたくないだけさ…だから仕事もそつなくこなすだけ。
だけど別に暮らしを不憫にさせるつもりはないよ。君と二人っきりで…それなりにいい人生を送れればいい」
別に仲良くしようとか言っているんじゃあない。『平穏な生活』を脅かしたくないだけさ…だから仕事もそつなくこなすだけ。
だけど別に暮らしを不憫にさせるつもりはないよ。君と二人っきりで…それなりにいい人生を送れればいい」
男は笑いながら助手席に顔を向ける。『彼女』は何も言わなかった。
男女のドライブとは思えない程に会話の弾まない空間であった。
それでも、いや、だからこそ男は満足だった。
やけに声を大きくして話す女性などは彼は好きにはなれないだろう。
大きな声がストレスになってしまうこともある。
ストレスが溜まるというのは精神衛生上良くは無い。
彼は極めて健康な生活を心がけているのであった。
彼は日常では遅くとも夜の8時には帰宅する習慣を心がけている。
勿論、健康に気を使っているので煙草も吸わない、酒もたしなむ程度である。
温かいミルクを飲んで20分程のストレッチをし、11時には就寝している。
8時間の睡眠を心がける彼は朝まで熟睡した後、前日の疲労もストレスも無く、出窓から流れ込む優しい日差しに包まれながら眼を覚ます。
社内での健康診断でも異常は無いと毎年言われている。
これだけ健康に気を使う彼なのだから、静かな空間でゆったりと『彼女』と二人で過ごすこの空間が堪らなく美しい一時であると感じた。
男女のドライブとは思えない程に会話の弾まない空間であった。
それでも、いや、だからこそ男は満足だった。
やけに声を大きくして話す女性などは彼は好きにはなれないだろう。
大きな声がストレスになってしまうこともある。
ストレスが溜まるというのは精神衛生上良くは無い。
彼は極めて健康な生活を心がけているのであった。
彼は日常では遅くとも夜の8時には帰宅する習慣を心がけている。
勿論、健康に気を使っているので煙草も吸わない、酒もたしなむ程度である。
温かいミルクを飲んで20分程のストレッチをし、11時には就寝している。
8時間の睡眠を心がける彼は朝まで熟睡した後、前日の疲労もストレスも無く、出窓から流れ込む優しい日差しに包まれながら眼を覚ます。
社内での健康診断でも異常は無いと毎年言われている。
これだけ健康に気を使う彼なのだから、静かな空間でゆったりと『彼女』と二人で過ごすこの空間が堪らなく美しい一時であると感じた。
「ここら辺は別荘地帯で避暑地としてもよく使われているんだ。ここには僕がよく通っているお店もあるし、空き地もある。
休日はいつもここで過ごしているんだ」
休日はいつもここで過ごしているんだ」
男は空き地の辺りで車を止める。
「この近くにパン屋さんがあるから、ここで昼食を買おうか」
男はよくこのパン屋、『サンジェルマン』に通っている。
この店では昼の11時に焼きあがったパンでサンドイッチを作ることで有名である。
その為、営業の合間に昼食に立ち寄るサラリーマンや、子供を幼稚園に送り、家事を終えた後の主婦達のお茶会や憩いの場として評判が良かった。
この店では昼の11時に焼きあがったパンでサンドイッチを作ることで有名である。
その為、営業の合間に昼食に立ち寄るサラリーマンや、子供を幼稚園に送り、家事を終えた後の主婦達のお茶会や憩いの場として評判が良かった。
「ほら、このカツサンドもラップの上からでもホカホカしているだろう」
満面の笑みでカツサンドを眺める男と、カツサンドを触る『彼女』
すると、マニキュアで尖っていた彼女の指がラップを突き破り、ソースをしみ出す。
すると、マニキュアで尖っていた彼女の指がラップを突き破り、ソースをしみ出す。
「あらあら、いけない子だね」
ふっと男は微笑ってソースが付着した『彼女』の指を『舐めた』。
「ふふふ…ふふふふふ……フフフフフフフフフフフ~~~~~~……」
近くに人が居なかった事が幸いし、えらく昂った男の『異常』な笑い声と唸るような声が混ざるような小さな声は届かなかった。
「そのカツサンド、突き破っちゃったから……他のを買おうよ。ほら、そこのホットドックもマスタードがたぁっぷりかかってるよ」
満足な笑顔を浮かべ、『二人』は店を立ち去る。
早速、彼等は空き地の木陰に座り、昼食を取ることにした。
未だに、冷たい空が吹いているが、この雲一つない晴天に、天高く太陽が輝く。
絶えず光を地上にもたらし、正午には暖かい気温の中で、人々は過ごす。
今日も絶好のピクニック日和であった。
早速、彼等は空き地の木陰に座り、昼食を取ることにした。
未だに、冷たい空が吹いているが、この雲一つない晴天に、天高く太陽が輝く。
絶えず光を地上にもたらし、正午には暖かい気温の中で、人々は過ごす。
今日も絶好のピクニック日和であった。
「美しい街だね。地元住民なのにまるでピクニックにでも来ているようだよ。車のエンジン音も少ないし…とてもいい場所だね。
ねえ、僕達はここで永住しないかい?」
ねえ、僕達はここで永住しないかい?」
男は絶えず上機嫌であった。『彼女』と過ごす一瞬が楽しくて堪らないようだった。
「あ、口の周りが汚れちゃったよ。君に拭いてもらいたいな」
と、男はポケットティッシュを『彼女』に差し出す。『彼女』は一人でポケットティッシュを掴むことが出来ず、男に手伝ってもらって、ようやくティッシュを掴んだ。
バキッボキッ
『彼女』の手首が音を鳴らせた。関節がかたいなどというような音の鳴り方では無いことは確かだった。肉体が硬直しているとしか思えない。
そっと『彼女』は男の口を拭く。この時、男は異変に気付く。
そっと『彼女』は男の口を拭く。この時、男は異変に気付く。
「ちょっと臭ってきたかな……」
男は『彼女』の手に香水を使った。
「ン~ン、もう限界かな…そろそろこの女とも手を切る時期だな…クク…クククク…『手を切る』……またどこかで旅行してる女の子を私の家に『誘って』みようか…
ククククククククク」
ククククククククク」
そう言って男は、『彼女』の手を放り投げる。もうとっくに肉体を失い、『手だけ』になっていたその死体は空中を舞った後に地面に堕ちていく。
「ム…臭くなっていることに憤りを感じてつい放り投げてしまった。ちゃあんと後始末はしておかなくっちゃあ」
先程まで、『永住しよう』といっていた男は、『彼女』にぬっと近づく。
「もう君には飽きちゃったよ。でも、君の指の味…『今までの女』よりも良かったよ。私自身、君と居られて幸せだった。
でも、もういらないな、違う人を見つけるから……御馳走様」
でも、もういらないな、違う人を見つけるから……御馳走様」
『美しい手首』は、突如として爆発した。男は、証拠隠滅の為に死体を完全に消すことを絶対に忘れない。
「キラークイーン、これがあれば、私の『殺人衝動』とも上手く付き合って行けるな。つくづく確信しているよ」
男、吉良吉影はくつくつと笑いながら車に乗る。
喚起の為に、窓を開けると、20代後半辺りの女性がハイヒールの音をリズム良く鳴らして歩く姿を見つけた。
喚起の為に、窓を開けると、20代後半辺りの女性がハイヒールの音をリズム良く鳴らして歩く姿を見つけた。
「ああ、もう、課長ったら本当にムカつくったら! 今日だって電車の中で私のケツ触りやがって本当に殺してやりたいわ!」
ふんっと鼻息を荒くして歩道を歩く女性。吉良はその女性を眼で追っていた。
「口は悪いな…だが、綺麗な『手』をしている…僕のところに来れば清い心で付き合えるよ」
そっと車を降りて、吉良は、女性に駆けよっていった。
彼は常に心の平穏を願って生きてきた男である。それはこれからも変わらない。
仕事もそつなくこなし、誰に恨まれるわけでもないが、これといった喜びもない極めて普通の生活をしていた。
適度に自分の力を発揮するため、各種コンクールなどの成績は3位に入賞することもあった。
自分に対しても周りに対しても常に気を配れる存在であった。
自分自身、細やかな気配りと要所で役立つ大胆な行動力があれば変わりなく平穏な生活が送れると確信していた。
平穏な生活を望んでいるだけの、どこにでもいる平凡なサラリーマン。
だが、彼はたった一つ、たった一つのシンプルなある性格において…異常であった。
仕事もそつなくこなし、誰に恨まれるわけでもないが、これといった喜びもない極めて普通の生活をしていた。
適度に自分の力を発揮するため、各種コンクールなどの成績は3位に入賞することもあった。
自分に対しても周りに対しても常に気を配れる存在であった。
自分自身、細やかな気配りと要所で役立つ大胆な行動力があれば変わりなく平穏な生活が送れると確信していた。
平穏な生活を望んでいるだけの、どこにでもいる平凡なサラリーマン。
だが、彼はたった一つ、たった一つのシンプルなある性格において…異常であった。
「クック~ン、お姉さん、綺麗な手首をしていますね~。私の……『吉良吉影』の家に来てください」
また一人、殺人鬼の魔の手に堕ちた淑女が一人、彼の家に導かれていく。