「ふぅん…意外に食い下がってるわね」
と、観客席から闘いを見下ろすレミリアは鼻を鳴らした。
「風見幽香への怒り、そして憎悪…それが奴に力を与えている。そういう事かしら?」
「言い方が悪いよ、レミリアちゃん。せめて正義の怒りをぶつけているって言ってよ」
「どう言おうが、同じ事です」
コタロウは抗議するが、レミリアはすっぱりと切って返す。
「それに、その二つが悪いものだなどと、私は思っておりません」
「ええ~…そうかなあ…」
不満顔で、コタロウは口を尖らせる。
「一番強いのは、愛と友情だと思うけど。漫画やアニメだと、大抵そうだもの」
「成程。そういうこともあるでしょうが、そうでないこともあるでしょう―――負の感情から生まれる力は時に其れ
を凌駕する。特に、怒りと憎しみは―――何よりも強い。憤怒とは、純粋なる人間の情念につきますれば」
まあ、あいつは人間じゃなくてヒーローですが。レミリアはそう締め括り、ジローに向き直った。
「分かるでしょう、あなたなら。かつて怒りと憎しみでその銀刀を振るった、あなたなら…ねえ、ジロー?」
「…貴女の仰る通りですよ、レミリア。それは疑う事なく真実です」
けれど、とジローは微笑んだ。
「ここは弟の説を採用して、愛と友情こそが最強だと言っておきましょう」
「おや、優しいお兄様だこと―――まあ、いいでしょう。こんな議論に意味はない」
と、観客席から闘いを見下ろすレミリアは鼻を鳴らした。
「風見幽香への怒り、そして憎悪…それが奴に力を与えている。そういう事かしら?」
「言い方が悪いよ、レミリアちゃん。せめて正義の怒りをぶつけているって言ってよ」
「どう言おうが、同じ事です」
コタロウは抗議するが、レミリアはすっぱりと切って返す。
「それに、その二つが悪いものだなどと、私は思っておりません」
「ええ~…そうかなあ…」
不満顔で、コタロウは口を尖らせる。
「一番強いのは、愛と友情だと思うけど。漫画やアニメだと、大抵そうだもの」
「成程。そういうこともあるでしょうが、そうでないこともあるでしょう―――負の感情から生まれる力は時に其れ
を凌駕する。特に、怒りと憎しみは―――何よりも強い。憤怒とは、純粋なる人間の情念につきますれば」
まあ、あいつは人間じゃなくてヒーローですが。レミリアはそう締め括り、ジローに向き直った。
「分かるでしょう、あなたなら。かつて怒りと憎しみでその銀刀を振るった、あなたなら…ねえ、ジロー?」
「…貴女の仰る通りですよ、レミリア。それは疑う事なく真実です」
けれど、とジローは微笑んだ。
「ここは弟の説を採用して、愛と友情こそが最強だと言っておきましょう」
「おや、優しいお兄様だこと―――まあ、いいでしょう。こんな議論に意味はない」
「花が枯れるか陽が沈むか―――この闘いの結末は、その二つに一つ。その事実に、何も変わりはない」
深緑の大妖が空を舞う。
それを追い、真紅の太陽が空を駆ける。
単純な速度に関しては、プロミネンスフォームを発動させたサンレッドに比する者は幻想郷にもそうはいまい。
風見幽香といえども、その例外ではない。
「追いかけっこは、正直あまり得意じゃないのよね…」
幽香は、うんざりしたように呟き。
「けど、追いかけてくる相手を追い返すのは得意よ」
奇術師のような仕草で右手を握り込み、開けばその掌には血のように紅い薔薇。
その花びらが、一斉に弾けた。
それを追い、真紅の太陽が空を駆ける。
単純な速度に関しては、プロミネンスフォームを発動させたサンレッドに比する者は幻想郷にもそうはいまい。
風見幽香といえども、その例外ではない。
「追いかけっこは、正直あまり得意じゃないのよね…」
幽香は、うんざりしたように呟き。
「けど、追いかけてくる相手を追い返すのは得意よ」
奇術師のような仕草で右手を握り込み、開けばその掌には血のように紅い薔薇。
その花びらが、一斉に弾けた。
「花符―――<薔薇吹雪>!」
薔薇の花びらが舞い散るその光景は、誰もが見惚れるほどに美しい。
だが幽香の妖力を宿したそれは、一枚一枚が、鉄をも易々と切り裂く鋭利な刃だ。
サンレッドは、避けない。己の身に太陽闘気を纏わせ、真正面から飛び込んだ。
太陽闘気に触れた花びらは炎上し、灰となる。しかし、全てを焼き尽くす事はできない。
焼け残った花びらに切り刻まれるのに構わず、幽香への最短距離を駆け抜けた。
その勢いのまま、肩から全身をぶつける。空中に弧を描きながら、己の肉体ごと大地へと叩き付けた。
衝突のショックで地鳴りが響き、巨大なクレーターが刻まれた。
その惨状は、隕石が激突したのと何ら変わりがない。
「ぐっ…は…!」
さしもの幽香も堪え切れず、口の端から血を吐く。レッドは、手を緩めない。
「ダラララララァァァァァァっ!」
馬乗りになり、両拳で流星群の如き乱打を放つ。その嵐のような攻撃に、実況も興奮気味に叫んだ。
『完全に流れが変わったか!?サンレッド、鬼神の如き攻勢だ!あの究極加虐生物・風見幽香がメッタ打ちィ!
これで勝負は決まるか!?幻想郷の血濡れの大輪・風見幽香がここで終わるのか!?』
(―――まだだ。この女がこれで終わるはずがねえ)
そう実感していたのは、サンレッド自身だ。
一方的に攻めていながら、勝利に近づいている気がまるでしない。
(まだ何かあるはずだ。こいつには、まだ何か―――)
―――視界の端に、人影を捉えた。
横手から激しい衝撃を受けて吹っ飛ばされたのは、それと同時。
予想外の一撃に、受身を取る事も出来ず地に転がる。
闘いに乱入し、横からレッドを蹴り飛ばした<彼女>は静かに口を開いた。
「女の子にそんな乱暴するなんて、紳士的じゃないわね」
「…!」
そこにいたのは。
緩くウェーブのかかった碧の髪をさっぱりとショートボブにして。
赤いチェック柄の上着とスカートを着て。
淑やかな美貌に穏やかな微笑を浮かべた。
風見幽香そのものだった。
突如現れたもう一人の幽香は、クレーターの中心に半ば程埋まった幽香を力任せに引きずり出す。
「双子…って、わけじゃねえか…」
「そう。私達は二人とも、風見幽香本人よ」
「分身といえば、分かりやすいかしら?」
はあー、と、立ちあがったレッドは嘆息する。
「今更だけど、ここの連中は何でもありだな…もう驚きもしねーよ」
埃を払い、再びファイティング・ポーズを取った。
「来やがれ。どこぞのテニス部員の物真似したくれーじゃ俺にゃ勝てねーって事を教えてやる」
「それじゃあ」
「ダブルスでいくわよ…なんてね!」
二人の幽香が迫る。
繰り出される拳と蹴り。単純に考えても、手数は先程までの二倍だ。
レッドも応戦するが、どう考えても分が悪い。
(まともに肉弾戦やってたら、ジリ貧になるのがオチか…!)
距離を取りつつ闘い、ヒットアンドアウェイを繰り返しての各個撃破。
ここは、それに活路を見い出すしかない。
攻撃を受け流しつつ、プロミネンスフォームの機動力を活かして彼女の勢力圏内から離脱する。
幽香はそれをまっすぐ追うことはしない。
円を描いてそれぞれ左右に展開し、レッドを両側から挟み込むように陣取る。
そして、二人ともに両手を腰だめに構えた。
その姿は、かの国民的ヒーローが必殺技を放つ際のポーズに見えなくもない。
幽香の全身から迸る魔力が、掌に集中していく。その余波がバチバチと火花を散らし、暴風を巻き起こす。
だが幽香の妖力を宿したそれは、一枚一枚が、鉄をも易々と切り裂く鋭利な刃だ。
サンレッドは、避けない。己の身に太陽闘気を纏わせ、真正面から飛び込んだ。
太陽闘気に触れた花びらは炎上し、灰となる。しかし、全てを焼き尽くす事はできない。
焼け残った花びらに切り刻まれるのに構わず、幽香への最短距離を駆け抜けた。
その勢いのまま、肩から全身をぶつける。空中に弧を描きながら、己の肉体ごと大地へと叩き付けた。
衝突のショックで地鳴りが響き、巨大なクレーターが刻まれた。
その惨状は、隕石が激突したのと何ら変わりがない。
「ぐっ…は…!」
さしもの幽香も堪え切れず、口の端から血を吐く。レッドは、手を緩めない。
「ダラララララァァァァァァっ!」
馬乗りになり、両拳で流星群の如き乱打を放つ。その嵐のような攻撃に、実況も興奮気味に叫んだ。
『完全に流れが変わったか!?サンレッド、鬼神の如き攻勢だ!あの究極加虐生物・風見幽香がメッタ打ちィ!
これで勝負は決まるか!?幻想郷の血濡れの大輪・風見幽香がここで終わるのか!?』
(―――まだだ。この女がこれで終わるはずがねえ)
そう実感していたのは、サンレッド自身だ。
一方的に攻めていながら、勝利に近づいている気がまるでしない。
(まだ何かあるはずだ。こいつには、まだ何か―――)
―――視界の端に、人影を捉えた。
横手から激しい衝撃を受けて吹っ飛ばされたのは、それと同時。
予想外の一撃に、受身を取る事も出来ず地に転がる。
闘いに乱入し、横からレッドを蹴り飛ばした<彼女>は静かに口を開いた。
「女の子にそんな乱暴するなんて、紳士的じゃないわね」
「…!」
そこにいたのは。
緩くウェーブのかかった碧の髪をさっぱりとショートボブにして。
赤いチェック柄の上着とスカートを着て。
淑やかな美貌に穏やかな微笑を浮かべた。
風見幽香そのものだった。
突如現れたもう一人の幽香は、クレーターの中心に半ば程埋まった幽香を力任せに引きずり出す。
「双子…って、わけじゃねえか…」
「そう。私達は二人とも、風見幽香本人よ」
「分身といえば、分かりやすいかしら?」
はあー、と、立ちあがったレッドは嘆息する。
「今更だけど、ここの連中は何でもありだな…もう驚きもしねーよ」
埃を払い、再びファイティング・ポーズを取った。
「来やがれ。どこぞのテニス部員の物真似したくれーじゃ俺にゃ勝てねーって事を教えてやる」
「それじゃあ」
「ダブルスでいくわよ…なんてね!」
二人の幽香が迫る。
繰り出される拳と蹴り。単純に考えても、手数は先程までの二倍だ。
レッドも応戦するが、どう考えても分が悪い。
(まともに肉弾戦やってたら、ジリ貧になるのがオチか…!)
距離を取りつつ闘い、ヒットアンドアウェイを繰り返しての各個撃破。
ここは、それに活路を見い出すしかない。
攻撃を受け流しつつ、プロミネンスフォームの機動力を活かして彼女の勢力圏内から離脱する。
幽香はそれをまっすぐ追うことはしない。
円を描いてそれぞれ左右に展開し、レッドを両側から挟み込むように陣取る。
そして、二人ともに両手を腰だめに構えた。
その姿は、かの国民的ヒーローが必殺技を放つ際のポーズに見えなくもない。
幽香の全身から迸る魔力が、掌に集中していく。その余波がバチバチと火花を散らし、暴風を巻き起こす。
―――彼女が放とうとしているのは、幻想郷に伝わる魔法としては極々つまらない、単純なものだ。
己の魔力を砲弾とし、撃ち出す。ただそれだけの魔法。
習得も使用も特に難しくはない。破壊力も、魔法具の補助なしならば大して脅威というわけでもない。
しかし―――風見幽香のそれは、例外だ。
彼女の莫大な妖力と魔力は、平凡な魔法を戦略兵器のレベルにまで引き上げる―――!
己の魔力を砲弾とし、撃ち出す。ただそれだけの魔法。
習得も使用も特に難しくはない。破壊力も、魔法具の補助なしならば大して脅威というわけでもない。
しかし―――風見幽香のそれは、例外だ。
彼女の莫大な妖力と魔力は、平凡な魔法を戦略兵器のレベルにまで引き上げる―――!
「マスタァァァァァァァァ…!」
「スパァァァァァァァァクッ!」
「スパァァァァァァァァクッ!」
突き出された両腕から放たれた、破壊と破滅の閃光。
或いはそれは、全てを呑み込み、押し流し、消し飛ばす濁流。
大口を開けた二匹の大蛇の如く、左右からレッドに襲い掛かった。
「―――!」
サンレッドといえど、ここは逃げるしかない。上空へ飛び上がる。
直後、二条の光は互いにぶつかり合い、激しい輝きを残して対消滅する。
「うおっまぶしっ…!」
一瞬、目が眩む。
その時、背中にそっと、誰かの手が当てられた。
優しいくらいに柔らかな手がもたらしたのは、全身が泡立つ様な悪寒だった。
振り向けば、そこにあったのは、今では鬼女としか思えない、その微笑―――!
「さ…三人目、だと…!」
或いはそれは、全てを呑み込み、押し流し、消し飛ばす濁流。
大口を開けた二匹の大蛇の如く、左右からレッドに襲い掛かった。
「―――!」
サンレッドといえど、ここは逃げるしかない。上空へ飛び上がる。
直後、二条の光は互いにぶつかり合い、激しい輝きを残して対消滅する。
「うおっまぶしっ…!」
一瞬、目が眩む。
その時、背中にそっと、誰かの手が当てられた。
優しいくらいに柔らかな手がもたらしたのは、全身が泡立つ様な悪寒だった。
振り向けば、そこにあったのは、今では鬼女としか思えない、その微笑―――!
「さ…三人目、だと…!」
「マスター…スパァァァァァァク!」
零距離から放たれた、万物を焼き尽くす業火。
炎や熱に対して高い耐性を持つレッドですら、骨まで燃えていくような圧倒的な熱量に悲鳴を上げる。
それでも全力で身を翻し、逃れる。
全身から黒煙を吹き出させながらも、態勢を崩す事なく着地した。
三人の幽香も、その前方10メートルの距離に勢揃いする。
「ちっ…聞いてねーぞ、三人に増えるなんざ」
「あら、やろうと思えば百人にだってなれるわよ」
「はん…テニス部員じゃなくて、忍者の方か。芸達者なこった」
レッドは吐き捨て、しかし、何かを確信したように言い放つ。
炎や熱に対して高い耐性を持つレッドですら、骨まで燃えていくような圧倒的な熱量に悲鳴を上げる。
それでも全力で身を翻し、逃れる。
全身から黒煙を吹き出させながらも、態勢を崩す事なく着地した。
三人の幽香も、その前方10メートルの距離に勢揃いする。
「ちっ…聞いてねーぞ、三人に増えるなんざ」
「あら、やろうと思えば百人にだってなれるわよ」
「はん…テニス部員じゃなくて、忍者の方か。芸達者なこった」
レッドは吐き捨て、しかし、何かを確信したように言い放つ。
「けど、さっきの攻防で分かった…その技は欠陥品だ。次で、破ってやらあ」
その自信ありげな態度に、会場は逆転の予感で沸き立つ。対する幽香は、楽しげに唇を三日月の形に歪めた。
「単なる虚勢でもなさそうね…いいわ」
「破れるものなら」
「やってみなさい」
三人揃って、迷う事なく一直線に駆け抜ける。
接近戦でケリを付けるつもりなのは明白だった。
如何にレッドでも、それでは数の優位で押し切られるだろう。
しかして、レッドは退かない。
両の脚を踏ん張り、迎え討つ。
(俺の考えが正しいなら―――やれるはずだ!)
レッドの狙いは一つ。
一人だけ倒しても、二人残る。二人を倒しても、一人残る。
ならば―――三人まとめて迎撃するのみ!
そのためには、一呼吸で三回の攻撃を繰り出すしかない。
無理難題とも思えたが、彼には心当たりがあった。
(一つだけある…完全無欠な、一瞬での三連撃が!)
脳裏に、一回戦で闘った彼女の姿が蘇る。
イメージすべきは、それだ。
「星熊勇儀―――!あんたの技を借りるぜ!」
強烈な踏み込みと共に、一人目の幽香の脇腹を右拳で撃ち抜いた。
間髪入れず、二人目の幽香の側頭部(テンプル)を左拳で砕く。
同時に、右のアッパーカットで最後の幽香を殴り飛ばした。
その一連の動きは、まさしく一回戦で自らがその身に受けた、あの奥義の再現だ。
「単なる虚勢でもなさそうね…いいわ」
「破れるものなら」
「やってみなさい」
三人揃って、迷う事なく一直線に駆け抜ける。
接近戦でケリを付けるつもりなのは明白だった。
如何にレッドでも、それでは数の優位で押し切られるだろう。
しかして、レッドは退かない。
両の脚を踏ん張り、迎え討つ。
(俺の考えが正しいなら―――やれるはずだ!)
レッドの狙いは一つ。
一人だけ倒しても、二人残る。二人を倒しても、一人残る。
ならば―――三人まとめて迎撃するのみ!
そのためには、一呼吸で三回の攻撃を繰り出すしかない。
無理難題とも思えたが、彼には心当たりがあった。
(一つだけある…完全無欠な、一瞬での三連撃が!)
脳裏に、一回戦で闘った彼女の姿が蘇る。
イメージすべきは、それだ。
「星熊勇儀―――!あんたの技を借りるぜ!」
強烈な踏み込みと共に、一人目の幽香の脇腹を右拳で撃ち抜いた。
間髪入れず、二人目の幽香の側頭部(テンプル)を左拳で砕く。
同時に、右のアッパーカットで最後の幽香を殴り飛ばした。
その一連の動きは、まさしく一回戦で自らがその身に受けた、あの奥義の再現だ。
「見様見真似―――<俺式三歩必殺>!」
吹き飛ばされた三人の幽香は折り重なるように倒れ、一人に戻った。
深いダメージを受け、分身が解けたのだ。
「…確かに分身なんてスゲー技だけどよ…それにゃ、致命的な弱点があった」
倒れたまま動かない幽香にゆっくりと近寄りながら、レッドは語る。
「戦闘力まで、そのまま複製できるわけじゃねー…一つの力を、複数に分散しちまうんだ。分身の数を増やせば
増やすだけ、一人一人は弱くなっちまう。そうじゃなかったら、それこそ百人に分身してりゃいいだけだもんな」
幽香は大地に倒れ、目を閉じたまま身じろぎ一つしない。
そんな彼女まで、あと一歩の距離までレッドは歩み寄った。
「三人になった時点で、相当にパワーもスピードもタフさも落ちてたはずだ。そんな状態なら、ある程度以上の力
と速度さえあれば、一瞬で全員仕留める事はそれほど難しくねー。今、俺がやったみてーにな」
深いダメージを受け、分身が解けたのだ。
「…確かに分身なんてスゲー技だけどよ…それにゃ、致命的な弱点があった」
倒れたまま動かない幽香にゆっくりと近寄りながら、レッドは語る。
「戦闘力まで、そのまま複製できるわけじゃねー…一つの力を、複数に分散しちまうんだ。分身の数を増やせば
増やすだけ、一人一人は弱くなっちまう。そうじゃなかったら、それこそ百人に分身してりゃいいだけだもんな」
幽香は大地に倒れ、目を閉じたまま身じろぎ一つしない。
そんな彼女まで、あと一歩の距離までレッドは歩み寄った。
「三人になった時点で、相当にパワーもスピードもタフさも落ちてたはずだ。そんな状態なら、ある程度以上の力
と速度さえあれば、一瞬で全員仕留める事はそれほど難しくねー。今、俺がやったみてーにな」
「分かっていたわよ、そんな弱点…」
幽香が、口を開いた。
「分かっていて、どうしてわざわざそんな技を使ったと思ってるの…?」
「…………」
「待っていたのよ、サンレッド…勝利を確信して、あなたが油断する、その瞬間を!」
バネ仕掛けのように跳ね起きて。
がら空きになったレッドの心臓に向けて、右の貫手を突き出す―――!
「分かっていて、どうしてわざわざそんな技を使ったと思ってるの…?」
「…………」
「待っていたのよ、サンレッド…勝利を確信して、あなたが油断する、その瞬間を!」
バネ仕掛けのように跳ね起きて。
がら空きになったレッドの心臓に向けて、右の貫手を突き出す―――!
「だろうな、俺だって分かってたよ…お前がこのまま終わるタマじゃねーって事くれーな!」
―――幽香の手刀は、皮膚を貫く寸前で止められていた。
その細い手首は、レッドの手によってガッシリと掴まれている。
「ズアァァッ!」
全力の握撃。血管が潰され、肉が裂かれ、骨が砕ける。
悲鳴どころか、呻き声さえ上がらなかったのは流石の一言だった。
最後の策を見破られ、戦意を喪失するどころか、更に凶気を滾らせて幽香は吼えた。
左手に全てを込めて、殴りかかってくる。
みしり、と鈍い音がして、レッドの頭蓋が軋む。
更に踏み込み、小さな口を一杯に開いてその首筋に歯を突き立てた。
血飛沫が、端麗な少女の顔を紅く染めていく。
レッドの力が緩んだ隙に、手首を掴んでいたその腕を振り払う。
「これで、本当に最後よ…これに耐えれば、あなたの勝ち」
左手と、使い物にならなくなったはずの右手を合わせて、レッドに向けて砲門の如く突き出す。
残された全身全霊を、その一撃に込めて。
その細い手首は、レッドの手によってガッシリと掴まれている。
「ズアァァッ!」
全力の握撃。血管が潰され、肉が裂かれ、骨が砕ける。
悲鳴どころか、呻き声さえ上がらなかったのは流石の一言だった。
最後の策を見破られ、戦意を喪失するどころか、更に凶気を滾らせて幽香は吼えた。
左手に全てを込めて、殴りかかってくる。
みしり、と鈍い音がして、レッドの頭蓋が軋む。
更に踏み込み、小さな口を一杯に開いてその首筋に歯を突き立てた。
血飛沫が、端麗な少女の顔を紅く染めていく。
レッドの力が緩んだ隙に、手首を掴んでいたその腕を振り払う。
「これで、本当に最後よ…これに耐えれば、あなたの勝ち」
左手と、使い物にならなくなったはずの右手を合わせて、レッドに向けて砲門の如く突き出す。
残された全身全霊を、その一撃に込めて。
「マスタァァァァァァァァァァァァァァァァ!!スパァァァァァァァァァァァァァァァァクゥゥゥゥゥッ!!!」
咆哮と共に光が弾ける。
奔流はサンレッドを呑み込み、天へと向けて巨大な火柱を噴き上げた。
魂までも燃やし尽くすような爆熱の地獄で、しかし。
サンレッドは、全身を焼かれながらも立っていた。
炎を宿す眼光で、幽香を射抜く。
その瞬間―――風見幽香は、自覚した。
己の敗北を。
ググっと、レッドは弓を引き絞るように身体を後ろへ仰け反らせて。
幽香の額に、自らの額を渾身の力で打ち付けた。
グジャっ、と、トマトが潰れるような音が響く。
グラリと幽香の身体がよろめき、前のめりに倒れ込んだ。
審判・四季映姫がそれに駆け寄り、状態を冷静に見極める。
「風見幽香の戦闘不能を確認…」
長く激しい闘いに今、終止符が打たれた。
奔流はサンレッドを呑み込み、天へと向けて巨大な火柱を噴き上げた。
魂までも燃やし尽くすような爆熱の地獄で、しかし。
サンレッドは、全身を焼かれながらも立っていた。
炎を宿す眼光で、幽香を射抜く。
その瞬間―――風見幽香は、自覚した。
己の敗北を。
ググっと、レッドは弓を引き絞るように身体を後ろへ仰け反らせて。
幽香の額に、自らの額を渾身の力で打ち付けた。
グジャっ、と、トマトが潰れるような音が響く。
グラリと幽香の身体がよろめき、前のめりに倒れ込んだ。
審判・四季映姫がそれに駆け寄り、状態を冷静に見極める。
「風見幽香の戦闘不能を確認…」
長く激しい闘いに今、終止符が打たれた。
「白黒はっきり付きました―――勝者・サンレッド!」
「おおおおおおおおおおーーーーーーーーーっ!」
勝ち名乗りと共に、怒号のような大歓声が闘技場を埋め尽くす。
サンレッドが天を衝くように両手を掲げ、勝利の雄叫びを上げたのはそれと同時だった。
勝ち名乗りと共に、怒号のような大歓声が闘技場を埋め尽くす。
サンレッドが天を衝くように両手を掲げ、勝利の雄叫びを上げたのはそれと同時だった。
―――天体戦士サンレッド・幻想郷最大トーナメント二回戦突破!