SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ 杉本家の悲劇


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1984年のM県S市の杜王町に比較的に見て大きな家があった。その家は煙突が三本付いていた。
この杜王町はとても美しい町で、地元に住んでいる人間もまるでピクニックにでも来ている気分だという気持ちになる。
特に真夜中はとても静かな町であり、この晩も、満月が陰り無く見える。よく晴れた月夜だった。
この家の家主は『杉本』夫婦と一人娘、そしてペットの犬が一匹。どこにでもある平凡な家庭である。
今晩は近所付き合いで親しみ深いとある夫婦が急用であるらしく、家を抜けることになり、今晩はその夫婦の間に産まれた、
4歳になる幼子をこの杉本家で預かることになっていた。
家の一階では夫婦が、そして二階では娘の杉本鈴美、そして4歳の幼子が眠っていた。
ふと、幼子が眼を覚める。
「鈴美お姉ちゃん。」
そう言って眠っている鈴美を揺り起こす。この様な真夜中では4歳の子は一人で歩く事も出来ないのだろう。
「う~ん……どうしたの露伴ちゃん?」
鈴美は多少寝ぼけた顔で露伴と名付けられた幼子を見る。
「おしっこ!」
露伴が鈴美の手を引っ張って叫ぶ。将来我を通し過ぎて人の話を聞かなそうな高慢な男になりそうな顔をしているが、
4歳であればまだあどけない、可愛い盛りの少年であった。
「しょうがないわね。お姉ちゃんが一緒に行ってあげる」
こうして鈴美は露伴の手を引いて、一階にあるトイレに向かった。
真夜中に家の中を歩いていると鈴美は『違和感』を感じた。
嫌に静かである。別に真夜中であれば外にある程度通っている車のエンジン音等を除けば静かである。
この時代、夜に働いている店等、都会まで行かなければそうは見つからない筈だし、こんな時間に売春婦もいないだろう。
こんな常識は誰もが知っている。4歳児も知っている。
だが、この違和感のある静けさは妙に気になっていた。
「鈴美お姉ちゃん? 顔色が悪いよ」
「だ、大丈夫よ露伴ちゃん。こんなに暗くても全然怖くないわ!」
鈴美は強がってみせた。だが、彼女達は知らない。
既にこの家に、殺人鬼が潜んでいる事に。

「フフフ、このフック付きのロープでなんとか煙突から侵入する事が出来たな…」
家の一階、リビングに一人の男がいた。男の年は十七~十八歳。高校生か大学生かといったところである。
少なくとも、この家の人間ではない事は確かである。
男は爪を見ている。早く爪を切れよと思うくらいに男の爪は伸びていた。
男が爪を切る事を長い間放っていた訳ではなく、ここ最近彼の爪の伸びがとても速いようだ。
そのおかげかどうかは知らないが、最近この男は妙に『ハイ』になっているらしく、誰にも止められないと自負出来る様な、
不思議な高揚感に包まれていた。
「フフ、勾当台を歩いていたら、偶然道端で見つけてしまった。美しい『手首』だ…是非、触ってみたい……」
男は微笑を浮かべて寝室へ行く。その下半身に奇妙な光景が見える。起っているのだ。
声を荒らげては言えない言葉だが、『勃起している』。彼は少し昔の事を思い返していた。
『あの時も手首の所だけ《切り取って》部屋に飾っていたなぁ……フフフフフ』
男は寝室に着く。そのベッドの上には三十~四十歳の夫婦が眠っていた。これはこの男にとっては予想外のことであった。
「クッ当てが外れたか! あの娘はどこで寝ているんだ?」
一方、鈴美は露伴がトイレで用を足している間、扉の前でずっと待っていた。
早く出てこないかな等と考えていると両親の寝室の方からピチャリ ピチャリと液体が滴っている音が聞こえた。
普段ならそんな小さな音は聞こえにくいが今夜はとても静かで、二十メートル先で小石を蹴る様な音も聞こえる程に静寂な空気に包まれていた。
すると露伴がトイレから出て、一回あくびをし、見るからに『眠い』と訴える表情で鈴美を見る。
鈴美は近くの網戸を開けて、外を確認したが、雨は降っていない。変わらず、『星』のよく見える空だった。
「お姉ちゃん、眠い……」
寝惚けた顔で鈴美に近付く露伴。その鈴美は少々顔が青くなっていた。

『なんだろう…この違和感…』
次第に不安にはなっていたが、網戸を開けっぱなしにした為、部屋に入ってきた飼い犬、アーノルドが鈴美に近付く。
「アーノルド! 勝手に入ってきたら駄目じゃない」
と、口ではそう言うも、鈴美はどことなく安心していた。
アーノルドが近くにいれば何も怖くは無いとすら思えた。大きな番犬である。暗闇でもベッドの下に手をやると、
『ククーン』と甘えて手を舐めることもある。
愛犬アーノルドがいれば安心だと彼女は思っていた。それぐらいに鈴美にとってアーノルドは頼もしい存在だった。
「露伴ちゃん。ちょっと私お父さんとお母さんの寝室を見てくるから、露伴ちゃんはトイレの中に隠れていて」
「へ!?」
露伴は何も分からないままに鈴美にトイレの中に入れさせられた。
「いい? お姉ちゃんが出て良いよって言うまで出ちゃあ駄目よ!」
そう言って鈴美は寝室に行こうとしたが、つい先程まで近くにいたアーノルドがいなくなっている事に気が付いた。

ピチャ! ピチャ!

心なしか落ちてくる水滴の量が多くなっている様に感じる。
怖くは無い。アーノルドがいるから全く怖くは無い。
しかし彼女の中にはひとかけらの不信感があった。例えるならば宿便が腸に溜まってしまったような感じである。
『なんでパパとママはあの音に気が付かないのだろう…』
そんな事を考えていると、時間は数十分は過ぎてしまっていた。
流石に不信感が募って来たので勇気を振り絞り、鈴美は両親の眠る寝室を見に行く事にした。

階段近くにあったトイレのある廊下を歩いてリビングに辿り着き、その薄暗いリビングから寝室へ続く廊下に出た時、
彼女に初めて、疑いの無い『恐怖』が襲いかかって来た。

ピチャ! ピチャ!

寝室に向かえば向かう程その音は大きくなる。寝室に来た時、少女は悲鳴を上げることすら出来なかった。
寝室の壁のコート掛けに、先程まで鈴美の近くにいた愛犬アーノルドが、死んでいた。
首を斬られて、ぶら下がって死んでいた。色鮮やかな血が滴っていた。
ピチャピチャと液体を垂らしていた音は……
恐怖で顔面蒼白になる鈴美。声を上げることすら出来ない。ベッドを見ると両親がベッドから首だけが落ち、切れ目から血がピチャピチャと滴っていた。
極度のショックである。脳内にある物は『恐怖』そのものである。ああ、自分はこれから死ぬのね、という考えすら浮かばない恐怖。
すると突然ベッドの下から、『手』が出てきたのである。その手は鈴美の足を掴み、鈴美を転ばせた。
「いや~~~!!!!」
生まれて初めて産声を上げる赤ん坊の様な声を発して鈴美は身体をのけ反らせようとする。
しかし『手』はより強く鈴美の足を引き、やがて、鈴美の左手を掴むまでに至った。

ドドドドドドドドドド

姿が見えないことの恐怖。加えてその男の発した言葉。

「おじょうちゃんの手ってスベスベしててカワイイね。クックックッーーン」

匂いを嗅いでいる。鈴美の手の匂いを嗅いでいるのだ。
ここまで来て鈴美はようやくその『手』の人間を知った。
年格好は十八ぐらいの学生。だが、その顔は到底普通の学生等が見せる表情では無かった。

「両親も既に殺したぞ」

あまりにもリアルに響くその言葉。夢では無い。自分はこれから殺されてしまうと。
分かってしまったのだ。余りにもリアルで、絶望に包まれたこの空間で。
「きゃあぁ~~~!!!」
求め続けた美少女の手を持ち、恍惚の笑みを浮かべる青年。
「君の名前は…杉本鈴美…だろう? さっき煙突から二階に入って一階に下りて、リビングで君の身分証明書を見たんだ。
フフゥ~~~…気持ちが良い~~……こんなにも滑らかで…暖かいなんて、ホンモノは違うなぁ~~~」
本当に気持ちよさそうに鈴美の手に頬を擦り合わせている。最早狂気の沙汰である。
「わたしはね…子供の頃レオナルド・ダ・ヴィンチの『モナリザ』ってあるよね? その絵を画集で見た時に…下品なんだけど、
勃起……しちゃってね…フフフフフゥゥゥ~~~~~……『手』の所だけ切り抜いて、しばらく………部屋に飾っていたんだ。
君の手も……切り抜きたい……」
男は鈴美の手をペロペロ舐め始めた。しかしそれは愛犬アーノルドにされる行為とはまるで別。
この男は、抑えきれないのだ。自分の中にある欲情と…殺人衝動が。
鈴美は掴まれていなかった右手を男の顔面に突き出す。運良く掌が男の眼に当たり、数秒程の時間稼ぎにはなった。
「うっ」
少々の痛みと衝撃で咄嗟に両手で眼を抑えてしまった青年。その隙に鈴美は逃げた。
リビングに出ると、そこには露伴がいた。
「ろ、露伴ちゃん! どうして出てきたの!!」
「だ、だって鈴美お姉ちゃんが叫んだから……」
居ても経ってもいられなくなり、彼はトイレから飛び出してしまった。
「露伴ちゃん。ここにいたら危ないわ! 逃げて!!」
そう叫んで鈴美は露伴の小さな体を持ち上げて、大切に抱き、裏口の窓を開けて露伴を家の外に出した。
そうした後で窓の鍵を内側から閉め、家に戻って来れない様にした。
「鈴美おねえちゃああん!!! 開けてエエエェェ!!!」
露伴は涙ながらに頼んだが、鈴美は窓を開けない。
「逃げて露伴ちゃん!! こっちに戻って来ちゃあ駄目ぇ!!」
露伴には鈴美の声が聞こえていたが、それでも窓を開けて欲しいと希う。4歳児の男子には、心を許せる人が必要なのだ。
しかし、鈴美の背後から忍び寄って来た人影。それを遠目に目撃した時、彼は、この4年間の人生で培ってきた物を全て無くさざるを得なかった。
四つん這いで鈴美に近付き、鈴美に馬乗りになり、彼女の腕を取る。
幸か不幸か。青年は鈴美に夢中で露伴には気が付かなかった。
「露伴ちゃん、逃げてー!」
搾り出す様に声を出す鈴美。その声を露伴は聞こえたのかどうかは今となっては分からないが、
この時、露伴は涙ながらに逃げた。4歳という幼さで、命の危険にさらされてしまったのだ。
露伴はただ本能だけで逃げた。言葉を失くした赤ん坊の様に泣き叫んで逃げた。
「そう、これでいいの……これで、ろ…はん……ちゃ…」
彼女の言葉はそれ以上続かなかった。

ドドドドドドドドドド

彼女の背中には、惨たらしく、普通では考えられない程に深く抉れている様な傷、そして夥しい程の血を出し、彼女は死んでいた。
一方露伴は道路に出た直後に警察に保護された。その時、駆けつけた警官に彼は立った一言だけを繰り返して泣いていた。

『鈴美おねえちゃんが窓から逃がしてくれた』『鈴美おねえちゃんが窓から逃がしてくれた』

一方青年は手に持っていたナイフで、鈴美の手首を斬ろうとしていた。
「杉本鈴美ちゃん。わたしの…『吉良吉影』の家に…来てくれますね?」
人が見れば身震いするようなその笑顔。その顔は、天国を見たかのように高揚感に満ち溢れていた。
「フゥッ~~~…」
何度も、何度も頬ずりをしたり、舐めまわしたりした後にいよいよ手首を斬ろうとしたその瞬間。
闇夜の静寂を破る。サイレンの音が鳴り響く。
今回、吉良吉影の犯行は『最初の犯行』であった。何も考えずに、女性の手首を持ちかえろうとした。(最低限指紋は残さない様に靴下と手袋は付けていたが)
手首を斬って現場から退散する前に手の味を知り、快感に浸ってしまったのが彼の失敗である。
彼はもう彼女の『手首』を斬っている暇は無くなってしまった。
ここで自分が犯人であると繋がってしまう禍根は全て断っておきたい。何故ならば彼は、この恐ろしい殺人衝動に駆られながらも、
『植物の様に平穏な人生』を望んでいるのだから、証拠を残していてはならないのだ。
吉良はリビングの食器棚を倒し、タンスを開けてから靴を裏口へ持ってきて、底から立ち去った。
その後駆けつけた警察は、現場の状況から見て物盗りの犯行の可能性が高いとし、捜査を進めていたが、結局その後十五年、手掛かりは見つからない事になる。

吉良は裏口から出た時に、ズボンに泥が掛かっていた事に気付く。
「ん? あの家は庭に水でも巻いていたのか?」
家に帰ってから吉良はまじまじとズボンに掛かった泥水を見た。
「まあ大丈夫だろう。こんなもの洗えばすぐに落ちるし、警察はこんなことからこのわたしを見つける事は出来ない」
と、余裕たっぷりに吉良は思った。

その後十五年が経ち……
当時四歳だった露伴はプロの漫画家となってまたこの杜王町に帰ってくる。幽波紋『ヘブンズ・ドアー』と呼ばれる超能力を習得して。
そして吉良吉影も幽波紋『キラークイーン』の能力により、この十五年で47人の女性及び自分に関わった者を男女問わず殺した。
杉本鈴美はその無念から自縛霊となってしまい、この杜王町で『生きている者』が勇気と誇りを持って、吉良吉影を追いつめてくれるのを待っている。

やがて、杉本鈴美と岸部露伴は再び出会うことになる。そして、彼女が長年待ち続けていた。吉良吉影を追う者も現れた。
その首筋に星形のアザを持つ血統の一族が…
十五年前のあの真夜中に、杉本鈴美は空を見た。吉良吉影はズボンに着いたある物を見た。


ある屋敷に二人の人間がそれぞれ別のものを見たとさ。
青年は泥を見た。少女は星を見た。(フレデリック・ラングブリッジ『不滅の詩』のパロディ)