SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ DRIFTERS VERSUS ... 第二話


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猛暑と疲労と落胆に、流石の土方もそこへ腰を下ろさざるを得なかった。
与一はそれに倣い、呂布もまた異人娘を傍らへ下ろして胡坐を掻く。
彼らをここまで導いた口喧嘩の主であるビリーとウィリアムも、喧嘩に飽きたか疲れたか、それぞれ座り込み、
へたばっていた。

一方、木にもたれて座っていたメンゲレは新たに加わった四人を興味深げに眺めていた。
いや、眺めるというよりも“観察”に近い。四人を一人一人、代わる代わる。
やがて、立ち上がったメンゲレは一行の下に近づいてきた。
異人娘の近くにしゃがみ込み、長と見た土方に話し掛ける。もちろん、母国語であるドイツ語で。
「良かったら私が診よう(Werde ich sie untersuchen)」
土方は慌てた。ドイツ語は当たり前の事、英語すらもわからないのだ。箱館陸軍の頃はフランス軍人もいたが、
会話は日本語か通訳を介してのものだった。
思わず与一の方に顔を向ける。
「何と言っている」
「さあ。おそらく彼女の様子を見て下さるのでは?」
「そうか」
かたじけない、とメンゲレへ頭を下げる土方。
老医師は返事を聞くまでも無いとばかりに、“診察”を始めている。
異人娘の手足や頭部に手を遣りながら、詳細に状態を観察する。
一通りの診察が終わり、一段落したところで眼は“患者”に落としたまま、ボソリと呟いた。
「大きな外傷や骨折は無いようだ。それと…… 硬膜外血腫や頭蓋底出血の心配も無いな」
すると、異人娘に僅かな動きが現れた。
「ううん……」
うなされたようなか細い声を上げながら、うっすらと瞼を開ける。
しばらくの間、薄目でゆっくりと頭を揺らしていた異人娘だったが、突然にハッと眼を見開いた。

「いや! 熱い! 炎が、炎がァ!!(Non! J'ai chaud! Flamme,La flamme m'entoure!!)」

弾かれたように身体を起こし、金切り声のフランス語で喚き立てた。手足をバタつかせ、転がるとも這いずるとも
つかない動きで、その場を離れようとしている。
メンゲレはすぐに彼女を押さえつけ、フランス語で静かに諭す。
「落ち着きなさい。急に動いては身体に障る(Calmez-vous.Ne bougez pas soudainement)」
フランスはナチス・ドイツの占領国だった為か、やけに流暢だ。
異人娘はメンゲレの声をかき消さんばかりの大声で怒鳴る。
「うるさい! もうやめて! アンタのせいよ! アンタの言う事なんて聞くんじゃなかった!
おかげで私は火あぶりよ!」
ただ、奇妙な事に彼女はメンゲレから顔を背け、身を仰け反らせていた。
つまり誰もいない虚空に向かって話しているのである。
「落ち着きたまえ。自分の名前を言えるか? どうだ?」
尚も沈静させようとするメンゲレから離れ、異人娘は地面にうずくまり、ブツブツと名前らしき言葉を呟く。
「ジャ、ジャンヌ…… ジャンヌ……」
それが引き金になったのか、彼女は額で地面をコツコツとリズミカルに打ちながら、それに合わせて呟きを続けた。
「ジャンヌ、ジャンヌ…… ジャンヌ、ジャンヌ、ジャンヌ、ジャンヌ、ジャンヌ、ジャンヌ……」
メンゲレはしばらくジャンヌの奇行を観察し続けていたが、程無く立ち上がった。溜息交じりな諦めの表情で。
「主症状は解体思考、自我意識障害、認知障害、それに妄想と幻聴。専門医を連れてこなければな」
土方に向かって軽く首を振ると、メンゲレは元にいた場所へ戻って行った。

先程まで寄り掛かっていた大木まで来たメンゲレは、また座り込むでもなく、両手を腰に当てて緑の枝葉を
見上げていた。
日光と揺れる葉がなかなかの風景だが、残念な事に、そこに登っている白人男の自動小銃“M1カービン”が
美観を損ねている。
メンゲレはしばらく眩しげな眼つきで男を眺めると、開きたくもないと言いたげに、口を歪めて彼に話し掛けた。
「やあ、そこのターザン君。そろそろ名乗ってくれると有難いのだが」
「……チャールズ・ホイットマンだ。クソッ、頭が痛え」
男は片手で頭を押さえて、顔をしかめた。
そして、それとは正反対の歓喜の表情でダーマーが声を上げた。その眼はメンゲレの名を聞いた時と同様に
大きく剥かれている。
「し、知ってるぞ! 1966年のテキサス大学時計塔銃乱射事件! 16人を殺した……!」
「そう、そうだ。そりゃ俺の仕事だ。ヘヘッ……」
自慢げなホイットマンとはしゃぐダーマーに背を向け、苦りきるメンゲレ。
どいつもこいつも、といった気分なのだろう。
そんな気分の延長線上で、最後に残った鎧兜と赤マントの騎士を見ると、更にゲンナリとした胸糞悪さに襲われる。
やっかいな役回りだ、と半ば義務感で、老医師は騎士に話し掛けた。
「君は誰だ? 君の名は?(Who are you? What's your name?)」
自分を除いた九人中四人は英語圏の人間だった。まずは英語だ。
しかし、騎士は微動だにせず、腕を組んだ姿勢を崩さぬまま、遥か遠くを望んでいる。
予想はしていた。
メンゲレは言語を変える。
「君は誰なんだ(Wer sie sind) 何者か教えてくれないか?(Qui est-ce que vous êtes?)
なあ、教えてくれ(Ei,Que é o senhor)」
母国語のドイツ語、先程も使ったフランス語、終戦後の逃亡先であるブラジルのポルトガル語と、
様々な言語でアプローチする。
だが、反応は無し。
言葉が通じないか、話す気が無いか。もしかしたら両方かもしれない。
メンゲレはフウと溜息をひとつ吐き、肩をすくめて口を芝居がかったへの字に曲げた。
諦めもつき、気も楽になったのだろう。

その時――

「我が名はゲオルギウス。お主ら、少し静かにせぬか。ここはドラゴンの巣ぞ(meus nomen est georgius.
neut,exsisto quietis.hic locus draco nidus)」

――騎士が口を開いた。

耳に届いたのはメンゲレの予想を超えた言語だった。
それだけではなく、その言語は今の自分達が置かれた状況に不思議と符号するのではないか、という錯覚めいたもの
さえも感じさせた。
返事も出来ずに立ち尽くすメンゲレに、ウィリアム・キッドが声を掛ける。
「おい、奴は何て言ったんだ」
「名前は“ゲオルギウス”というらしい。あとは、ドラゴンがどうとかこうとか。古代ラテン語にはあまり造詣が
深くないものでね」
「ゲ、ゲオルギウス? 野郎がセント・ジョージだって!? あのドラゴン退治伝説の?」
「ああ、あのキリスト教の大聖人だそうだ。もう、うんざりだよ」
鬱陶しそうに頭を振るメンゲレは強制的に話を打ち切り、またダーマーの隣に座った。
取り残されたウィリアムは、それでも尚、その場に立ち、他の九人を見渡しながら考え込んでいた。
彼は決して思慮深い性格ではないが、このメンバーの中では56歳と比較的年かさであった。
その為か、この状況を少しでも整理したい、良い方向へ向かわせたいという無意識に近い思考を働かせていた。
「なあ、ちょっといいか?」
ウィリアムは意思の疎通が図れそうな一部のメンバーを見渡した。
「俺はロンドンで縛り首になった。大勢の前で公開処刑だぜ? 俺が死んだ瞬間はそこにいた全員が見ただろうし、
自分でも死の覚悟をしたまま意識を失った。なのに……――」
密林の木々を見上げ、目を細める。
未だに信じられない。自分の存在そのものが。
「――死んだ筈が何故か生きて、この森へ落とされた。こりゃ俺だけか? おい、糞餓鬼。お前はどうだ」
信じたいのだ。自分だけではない、という事実を。

ビリー・ザ・キッドは悪態に近い調子で答える。
「ああ。メシと女を調達しようとヤサの外に出たら、保安官(ギャレット)のクソ野郎に撃たれたんだ。チクショウ!
んで、気づいたらジャングルにいて、“キッド”を名乗るクソオヤジに出くわした」

ウィリアムとビリーが睨み合う中、ダーマーがおずおずと告白した。
「刑務所の中で同じ受刑者の黒人に、ベンチプレスのバーで頭を殴られた。ジーザスでも復活出来ないくらい、
こっぴどくね」

ホイットマンはライフルをきつく抱えたままだ。
「警官隊に射殺された、筈なんだ。憶えてるだけでも十発以上は喰らったと思う。生きてるなんて信じられない……」

メンゲレは皆から顔を背けている。
「ブラジルの海岸で泳いでいる最中に、心不全を起こし、誰にも助けられずに溺れたよ――」
彼もまた信じられない。受け容れたくもない。
「――これでも医者だからな。自分に起きた症状はよくわかっていた。あの強さの発作は、まず助からない。
ましてや海に沈んだのに、何故……」

徐々に情報が集まる。それと同時に、ウィリアムだけではなく、その場にいる者達もひとつの“仮定”に
近づきつつあった。
それを悟り始めたのか、悪童ビリーまでもが立ち上がり、積極的に輪に加わる。
「よう、クソオヤジ。あそこにいるチャイニーズ達はどうなんだ?」
土方達の事を言っているらしい。
中国人移民の多い西部開拓時代に生きたビリーには、日本人も中国人も見分けの付かない“東洋人”なのだろう。
話の本筋にしか興味が無いウィリアムには関係無いようだが。
「さあな、糞餓鬼。けど、俺達と同じようにここへ来た、と見るのが自然じゃねえか」
土方らに加えて、火刑に処されたジャンヌ・ダルク、異教徒に斬首されたゲオルギウス。
これである程度の仮定は導き出されたのかもしれない。

“この10人の男女は一度死んで甦り、どことも知れないジャングルに送られた”

突拍子も無い、あまりにも現実味の無い、なのに他に考えようの無い、無い無い尽くしの仮定である。
とても納得のいくものではない。

「フッ、ククククッ……」

不意にメンゲレが低く笑い出した。視線はビリーへと向けられている。
「おい、コラ。何がおかしいんだよ、じいさん」
いとも簡単に気分を害したビリーがメンゲレに絡む。
メンゲレは笑いを収めようとしない。別にビリーそのものが可笑しい訳ではないのだ。
「彼らは中国人じゃない。日本人だ。サムライだよ」
日本はナチス・ドイツ第三帝国の同盟国だった。米英の連中よりは余程理解が深い、と自分では思っている(呂布は
本物の中国人なのだが)。
しかし、メンゲレの笑いの真意はそこでもない。むしろ、その先だ。
彼は人差し指を伸ばし、他の九人を順番に指差す。

「そう、ニッポンからやって来た三人のサムライ――」

「ドラゴンを退治した大聖人、百年戦争を戦った聖女、ならず者の王(バンディット・キング)、七つの海を暴れた海賊――」

「凶悪な犯罪者が二人に――」

最後に立てた親指を自分に向けた。笑いにやや自嘲の色が混じる。
「数百のユダヤ人に生体解剖や人体実験を繰り返した元ナチス」
誰もが頭の片隅に浮かべ、そして必死に打ち消していた事実が突きつけられようとしている。
“一度死んで甦り”というひとつめの仮定よりも遥かに現実離れした、何よりもくだらない、くだらなさ過ぎる
それである。
「フフッ、時空を超えてあらゆる時代のあらゆる国から集められた厳選のメンバーだ。さあ、我々は何をしたらいい?
世界一豪華な殺し合いか? それともダンスパーティかな?」
「馬鹿馬鹿しい! SF小説の読み過ぎだぜ!」
耐え切れなくなったように、樹上のホイットマンが叫んだ。
メンゲレは既に笑いを収めている。
「ああ、同感だね」
憤懣に歪めた表情であっさりと吐き捨てた。その通り。まったくもって馬鹿馬鹿しい。
だが、ホイットマンは収まらない。ライフルを抱える両手にも力が入る。
「俺はわかったぞ!」
銃口を眼下の九人に向けて、彼の至った彼なりの結論を振りかざした。
「これは新しい死刑だ! さもなきゃテレビ・ショウか何かさ! 死刑判決になった囚人同士を戦わせるつもりなんだ!
最後の一人になるまで!」
ホイットマンの射撃体勢を受けて、ビリーは素早く腰のホルスターから回転式拳銃“コルトM1877
ライトニング”を抜いた。
気が立っていただけに反応も激しく、俊敏だ。
「テメ、誰に銃向けてんだ! とっとと降りて来いや! ブッ殺してやるからよ!」
アウトローの本性が剥きだしとなっている。
その横では、ウィリアムもまたベルトに挟んだフリントロックピストルを抜き、木の上の大量殺人犯へ向けている。
この場は“糞餓鬼”と手を組むのが最も適切と判断したのか。
ホイットマンは己に向けられた威嚇と二つの銃口を見るに至り、更に興奮の度合いを強めるしかなかった。
もう後戻り出来ない程に。
「うるせえ! 俺は死んでも降りねえぞ! ここにいれば俺は無敵なんだ! 絶対生き残ってやる!」
出番を今か今かと待つ、三丁の銃の引き金と撃鉄。
まさしく、一触即発だ。
大木の根元にいたダーマーとメンゲレは、慌ててその場所から離れていった。

その様子を見ていた土方は軽く腰を上げ、左手を大刀“和泉守兼定”に掛けた。
「不穏だな」
既に鯉口を切っている。
与一も、
「ええ」
と答えるが早いか、瞬時に一の矢をつがえていた。

高まる緊張感の中、“それ”にいち早く気づいたのは、海賊の視力を持つウィリアムだった。

最初は見間違いかと思い、数度眼をしばたかせていたが、そうではない。
「あれは……」
激昂しているホイットマンの胸の辺りにおかしなものが浮かんでいた。
赤い三つの点。それが小さな三角を描くように並んでいる。
図で表すならば、


といったところか。
先程までは何も無かった筈なのに。
しかし、奇妙な現象はそれだけでは終わらない。増えたのだ。
腹と、更には額に。全部で三つ。
ここまで来て、ようやくホイットマンも異変に気づいた。
胸と腹に浮かんだ赤い点と、眼を刺す赤い光。
「な、何だコレ……?」
汚れを落とすように赤い点を手で払った、次の瞬間――

三方向から同時に、三つの青白い光弾が発射され、ホイットマンを襲った。
避ける間も無く、ホイットマンの頭部と胴体が爆発し、粉々に砕け散る。
原形を留めた両手足と、血肉臓物の雨が下にいる二人のキッドに降り注いだ。
「何だ! 何だってんだ!」
「見えたぞ! 砲弾だ! 大砲だ! 青く燃えてやがった!」
ビリーとウィリアムはすぐに背中を合わせ、自分達を囲むジャングルへ銃口を向ける。
土方も今は刀を抜き払い、与一は矢をつがえた弦をいっぱいにまで引き絞っていた。
呂布は猛然と立ち上がり、方天画戟を構えると、ダーマー、メンゲレ、ジャンヌの三人を己の後ろへと回した。

何者かが自分達を攻撃した。
だが、敵の姿は見えない。一体どこにいるのか。いかなるものを以ってして攻撃したのか。



[続]