第二十六話「昔の知人はいつかの重要キャラ」
「あーなんか暇だなーこれ。久々の登場なのにやることがないってどうなのよこれ」
万事屋銀ちゃんは、常時満員御礼の激安スーパー店とは違う。
忙しい日もあれば暇な日もある。それを決めるのはお客様である依頼主次第。
ま、大半は暇な日がほとんどで、大黒柱である坂田銀時も毎日がサンデー状態が続いていた。
忙しい日もあれば暇な日もある。それを決めるのはお客様である依頼主次第。
ま、大半は暇な日がほとんどで、大黒柱である坂田銀時も毎日がサンデー状態が続いていた。
「ちょっと、シャキッとしてくださいよ銀さん。いくら仕事がこないからって、最近だらけすぎですよ」
ソファの上でゴロゴロしているぐうたら主を指摘したのは、仕事はなくとも生活はする男、志村新八。
今はハタキ片手に、万事屋内の埃群と大戦を繰り広げている最中だった。
「しかしなー、新八。ネタのないギャグ漫画なんて載っててもやることないだろ?
仕事のない社会人なんて、いてもやることないんだから大人しく寝てろって理屈に繋がると思わないか?」
「は? どういうことですかそれ?」
「つまりな、仕事もない上、な~んも面白いこと喋れないようなら黙って寝てろってことだ。じゃ、お休み」
「おいィィィ! なに開幕早々寝に入ってんのォォ!? おまえはせっかく巡ってきた僕たちの出番を棒に振るつもりかァァァ!!?」
新八がよくわからない雄叫びをあげること数秒。
今はハタキ片手に、万事屋内の埃群と大戦を繰り広げている最中だった。
「しかしなー、新八。ネタのないギャグ漫画なんて載っててもやることないだろ?
仕事のない社会人なんて、いてもやることないんだから大人しく寝てろって理屈に繋がると思わないか?」
「は? どういうことですかそれ?」
「つまりな、仕事もない上、な~んも面白いこと喋れないようなら黙って寝てろってことだ。じゃ、お休み」
「おいィィィ! なに開幕早々寝に入ってんのォォ!? おまえはせっかく巡ってきた僕たちの出番を棒に振るつもりかァァァ!!?」
新八がよくわからない雄叫びをあげること数秒。
ああ、今回もこんな可もなく不可もなくなツッコミ日常が続くのかなと思った矢先、事件は起きた。
いや、正しくは、事件の発端となる人物がやって来たのだ。
「お~い、ちょっくら邪魔するぜ」
いや、正しくは、事件の発端となる人物がやって来たのだ。
「お~い、ちょっくら邪魔するぜ」
ちゃきちゃきっとした挨拶を土産に、懐かしい声が万事屋に訪れた。
「あ、いらっしゃい……って、あなたは!?」
新八が振り向いたその先には、実に十九話ぶりとなる男の顔が。
「よう銀さん、久しぶりだな」
「西本先生じゃねーか。ずいぶん久々の登場……って、いきなりどうしたんだ?」
万事屋に訪れたのは、『シルバーソウルって英訳するとちょっと格好いい』第一部に登場した、新人漫画家の西本だった。
意外な再登場にやや困惑する銀時と新八を尻目に、西本は豪快な笑顔でこう言った。
「いや、今日は銀さんにちょっくら相談事があってな。って言っても俺がって訳じゃないんだ。おう、芝村さんも、いつまでも悩んでないで顔見せな」
「は、はあ」
西本の声に呼び出され、玄関に入って来たのは、弱々しい様相と妙に腰の低い姿勢が印象的な、中年の男性。
芝村と呼ばれた男性は万事屋に脚を踏み入れてなお、何かを躊躇するような戸惑い顔を見せていた。
普通に考えて、何か相当な悩み事があるように思える。
そうでなくても万事屋を訪ねるほどだ。その相談事というのも、一筋縄ではいかないものなのだろう。
「あ、いらっしゃい……って、あなたは!?」
新八が振り向いたその先には、実に十九話ぶりとなる男の顔が。
「よう銀さん、久しぶりだな」
「西本先生じゃねーか。ずいぶん久々の登場……って、いきなりどうしたんだ?」
万事屋に訪れたのは、『シルバーソウルって英訳するとちょっと格好いい』第一部に登場した、新人漫画家の西本だった。
意外な再登場にやや困惑する銀時と新八を尻目に、西本は豪快な笑顔でこう言った。
「いや、今日は銀さんにちょっくら相談事があってな。って言っても俺がって訳じゃないんだ。おう、芝村さんも、いつまでも悩んでないで顔見せな」
「は、はあ」
西本の声に呼び出され、玄関に入って来たのは、弱々しい様相と妙に腰の低い姿勢が印象的な、中年の男性。
芝村と呼ばれた男性は万事屋に脚を踏み入れてなお、何かを躊躇するような戸惑い顔を見せていた。
普通に考えて、何か相当な悩み事があるように思える。
そうでなくても万事屋を訪ねるほどだ。その相談事というのも、一筋縄ではいかないものなのだろう。
「よかったですね、銀さん。出番を活かすチャンスがきたみたいですよ」
「そうダネ、新八クン」
「そうダネ、新八クン」
微笑む新八に、銀時は面倒くさそうに返した。
うっす~い髪が視界にちらつく。
「相談があるってのは実は俺じゃなくて、この芝村さんなんだよ」
それが気になって気になって、この人完璧ハゲになるまであと二、三年はかからないな。とか思っちゃったりする。
「この人には恩があってな。困ってる姿を見たら放っておけなかったのよ。んで、俺が銀さんとこの万事屋を紹介してやったわけだ」
「あーそうかそうか。でも毛髪の悩みならアデランスに行った方がいいと思うぞ」
「は? 毛髪?」
銀時のまったく話を聞いていない発言に、新八はため息をついた。
世間では、あの近藤、土方が属していた武装警察・真選組が解散し、新たに『新選組』なる集団が結成されたという大事件が起きたというのに。
この人は相変わらずというか、なんというか。
うっす~い髪が視界にちらつく。
「相談があるってのは実は俺じゃなくて、この芝村さんなんだよ」
それが気になって気になって、この人完璧ハゲになるまであと二、三年はかからないな。とか思っちゃったりする。
「この人には恩があってな。困ってる姿を見たら放っておけなかったのよ。んで、俺が銀さんとこの万事屋を紹介してやったわけだ」
「あーそうかそうか。でも毛髪の悩みならアデランスに行った方がいいと思うぞ」
「は? 毛髪?」
銀時のまったく話を聞いていない発言に、新八はため息をついた。
世間では、あの近藤、土方が属していた武装警察・真選組が解散し、新たに『新選組』なる集団が結成されたという大事件が起きたというのに。
この人は相変わらずというか、なんというか。
「あの、坂田さん。わたくし、こういうものをしております」
おどおどとした動作で芝村が差し出したのは、一枚の名刺だった。
名刺には、『集英屋 週刊少年ジャンプ編集部 芝村』と書かれている。
銀時はまず、その黄金に輝く肩書きを目にし、驚愕した。
「マジデ!? あんたジャンプの編集さんなのか!?」
「はあ……」
「編集もなにも、この人は講談屋を蹴った俺を拾ってくれた人だよ。『連載すっぽかし』の汚名を持つにも関わらず、俺の力を見込んで即連載ありつけるようにしてくれたのもこの人だ。言わば、俺の漫画の恩人ってわけだ」
誇らしげに胸を張る西本の横で、芝村は恐縮そうな顔をする。
「いえいえ、西本先生のセンスには目を見張るものがありましたから。私なんかが目をつけなくても、その内どこかの出版社が引き抜いていましたよ」
「またまた~嬉しいこと言ってくれるじゃねえか!」
「それだけに、西本先生には本当に申し訳ないことをした……私の力が及ばなかったために、あんな結果になってしまって……」
「いや……うん、あれはね……しょうがないのよ……芝村さんのせいじゃないって……単純に、ウケが悪かっただけみたいだし……」
さっきまで笑っていた西本が、急に意気消沈してしまった。
新人漫画家、西本。そんな彼の初連載作品は、もうジャンプには載っていない。
硬派な絵柄でラブコメなんて描いたのがそもそもの失敗だったのか、読者アンケートではすこぶる評判が悪く、あえなく全十八話で打ち切りを迎える結果となってしまった。
ちなみに、西本の作品に代わって今ジャンプ本誌で連載しているラブコメ漫画といえば、『To LOVEる』だ。
西本には悪いが、銀時もこっちの方がおもしろいと思っている。
「だけどよ、芝村さんがいなかったら、今の俺はねえ! 芝村さんが恩人であることには変わりねえんだよ! 俺は、そんな芝村さんの助けになりてえのさ!」
「西本先生……ありがとう。こんなダメ編集者が今もここにいられるのは、あなたという成長が楽しみな種があるからこそですよ」
ああっ、麗しき作家×編集愛。二人の持ちつ持たれつの関係は正に理想といえ、全国の漫画家さんたちが羨むほどだった。
「それで、芝村さん。俺に相談したいことってのはなんなんだ?」
ひとしきり感動を覚えたところで、銀時が本題に入った。
視線は依然として危機信号を発している芝村の頭部に向いているが、耳はちゃんと集中しているので心配ない。
「実は……他でもない集英屋のことについてなのです」
「集英屋の?」
なにやら大掛かりな依頼の臭いがした。
悪い予感というのはよく当たるもので、銀時がたたずをのんで耳を傾けると、芝村はゆっくりと語り始めた。
「いつかの講談屋事件……真相は誤解だったわけですが、講談屋がテロリストのパトロンをしていたという話はご存知でしょう?」
「ああ」
忘れもしない、桂が持ってきたとんでもないデマ情報のことである。
しかもそのデマ情報、どうやら真選組の方にも流れ渡っていたらしく、相当な赤っ恥をかいたと聞く。
だがそれも過去の事件だ。講談屋も今ではすっかり平和になり、マガジンの売り上げも上々。変な噂も立っていない。
おどおどとした動作で芝村が差し出したのは、一枚の名刺だった。
名刺には、『集英屋 週刊少年ジャンプ編集部 芝村』と書かれている。
銀時はまず、その黄金に輝く肩書きを目にし、驚愕した。
「マジデ!? あんたジャンプの編集さんなのか!?」
「はあ……」
「編集もなにも、この人は講談屋を蹴った俺を拾ってくれた人だよ。『連載すっぽかし』の汚名を持つにも関わらず、俺の力を見込んで即連載ありつけるようにしてくれたのもこの人だ。言わば、俺の漫画の恩人ってわけだ」
誇らしげに胸を張る西本の横で、芝村は恐縮そうな顔をする。
「いえいえ、西本先生のセンスには目を見張るものがありましたから。私なんかが目をつけなくても、その内どこかの出版社が引き抜いていましたよ」
「またまた~嬉しいこと言ってくれるじゃねえか!」
「それだけに、西本先生には本当に申し訳ないことをした……私の力が及ばなかったために、あんな結果になってしまって……」
「いや……うん、あれはね……しょうがないのよ……芝村さんのせいじゃないって……単純に、ウケが悪かっただけみたいだし……」
さっきまで笑っていた西本が、急に意気消沈してしまった。
新人漫画家、西本。そんな彼の初連載作品は、もうジャンプには載っていない。
硬派な絵柄でラブコメなんて描いたのがそもそもの失敗だったのか、読者アンケートではすこぶる評判が悪く、あえなく全十八話で打ち切りを迎える結果となってしまった。
ちなみに、西本の作品に代わって今ジャンプ本誌で連載しているラブコメ漫画といえば、『To LOVEる』だ。
西本には悪いが、銀時もこっちの方がおもしろいと思っている。
「だけどよ、芝村さんがいなかったら、今の俺はねえ! 芝村さんが恩人であることには変わりねえんだよ! 俺は、そんな芝村さんの助けになりてえのさ!」
「西本先生……ありがとう。こんなダメ編集者が今もここにいられるのは、あなたという成長が楽しみな種があるからこそですよ」
ああっ、麗しき作家×編集愛。二人の持ちつ持たれつの関係は正に理想といえ、全国の漫画家さんたちが羨むほどだった。
「それで、芝村さん。俺に相談したいことってのはなんなんだ?」
ひとしきり感動を覚えたところで、銀時が本題に入った。
視線は依然として危機信号を発している芝村の頭部に向いているが、耳はちゃんと集中しているので心配ない。
「実は……他でもない集英屋のことについてなのです」
「集英屋の?」
なにやら大掛かりな依頼の臭いがした。
悪い予感というのはよく当たるもので、銀時がたたずをのんで耳を傾けると、芝村はゆっくりと語り始めた。
「いつかの講談屋事件……真相は誤解だったわけですが、講談屋がテロリストのパトロンをしていたという話はご存知でしょう?」
「ああ」
忘れもしない、桂が持ってきたとんでもないデマ情報のことである。
しかもそのデマ情報、どうやら真選組の方にも流れ渡っていたらしく、相当な赤っ恥をかいたと聞く。
だがそれも過去の事件だ。講談屋も今ではすっかり平和になり、マガジンの売り上げも上々。変な噂も立っていない。
「実はですね……そのテロリストのパトロンをしているという話、どうやら講談屋じゃなくてうち……つまり、集英屋のことみたいなんですよ」
「……は?」
芝村が突然告げた言葉に、銀時と芝村は同時にポカン。
我らがジャンプ、我らが集英屋が、テロリストのパトロン?
「おいおい、なんでそうなるんだよ」
「私は見てしまったのです。編集長が、宇宙海賊らしき天人と一緒に武器の横流しについて話し合っているところを」
「……は?」
芝村が突然告げた言葉に、銀時と芝村は同時にポカン。
我らがジャンプ、我らが集英屋が、テロリストのパトロン?
「おいおい、なんでそうなるんだよ」
「私は見てしまったのです。編集長が、宇宙海賊らしき天人と一緒に武器の横流しについて話し合っているところを」
「……マジか」
疑いようのない、本格的な事実だった。
まさか、今度ばかりは漫画の打合せと言う訳でもあるまい。
しかもテロリストというのは、攘夷浪士ではなく宇宙海賊。ますます厄介な話に発展してきた。
疑いようのない、本格的な事実だった。
まさか、今度ばかりは漫画の打合せと言う訳でもあるまい。
しかもテロリストというのは、攘夷浪士ではなく宇宙海賊。ますます厄介な話に発展してきた。