「戦闘神話57-1」(2008/07/13 (日) 12:32:17) の最新版変更点
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「あぁ!もぅ!なんでこんなときに星矢も紫龍も氷河も瞬も一輝も邪武も那智もいないざんすか!
シャイナさんとあたしの二人きりでどうにかするなんて無理無茶無謀の三重苦ざんすよ!」
泣き言言いながらもキッチリとマスクの男たちをなぎ倒していくのが、市のこの四年の濃密さを示していた。
ライトセイバーで切りかかる男をかわし、すれ違いながらわき腹に毒爪を打ち込む。
男はびくりと震えると、のけぞり、そのまま倒れ爆発した。
「ぬぁああ!もぉおおぅ!ショッカーの戦闘員じゃないんざんすからぁあああ!
一撃もらっただけでぇえええ!爆発なんてするんじゃないざんすぅうううう!
盟はどぉおくぉで油うってるざんすかぁああああ!」
しかし、市に余裕はない。
同時多発的に聖域に侵攻してきたこの一団、その戦力たるや聖域雑兵に比肩する程なのだ。
辛うじて身体能力の点で勝るがゆえに持ちこたえてはいるものの、
聖衣を纏わぬ彼らには、聖衣を纏う正規の聖闘士ほどの耐久力も持久力もない。
雑兵と呼ばれる悲しさだ。
長期戦の可能性が存在する現状、損耗は少ないに越した事は無い。
そういったどこか怜悧な部分以外にも、この四年の苦楽を共にしたという事実が市を否応無く焦らしていた。
今聖域にいる「戦力となり得る」聖闘士はわずか四名。
青銅聖闘士・海蛇座ヒドラの市、同・蛇座サーペントのガイスト、白銀聖闘士・蛇遣い座オピュクスのシャイナ、
そして白銀相当位聖闘士・髪の毛座コーマの盟のみだ。
無論、これが常態というわけではない。
通常、黄金聖闘士の貴鬼・アドニス、または神聖闘士の瞬ないし紫龍が常駐しているのだが、
現時点では軒並みそろって外部任務中なのだ。
市の同僚であり、親友の邪武はアテナ城戸沙織の護衛の為に日本、
那智は貴鬼不在の為にジャミールへと修復済み聖衣を回収しに出向中という有様。
ギガースの裏切りを未だ知らぬ市には、まさか内通などとは夢にも思わず、
この不運をもたらしたモイライ(運命の女神)に向かって盛大に文句を付けていた、胸中で、だが。
「イチぃ!あたしを忘れるな!このモヒカン蛇!」
少女らしい甲高い声を仮面の下からあげ、市に突っ込みを入れつつ、
文字通り蛇じみた軌道でライトセイバーを振り上げた男を中空へとブン投げ、
鞭のような打撃で撃破したのは、シャイナの弟子、青銅聖闘士・サーペントのガイストである。
「無駄口叩くな!」
鋭い叱責と共に雷光が地を走った。
雷光に打たれた戦士たちは、一瞬のけぞり、そしてそのまま爆散する。
シャイナのサンダークロウだ。
その一撃でその場の戦士たちと雑兵たちとの数が逆転した、
雑兵などと言われていても、決して彼らは弱くは無い。しかし、聖衣を纏った聖闘士は強い、過ぎる程に強い。
聖衣ひとつで、そこまでの差が開いてしまうのだ、それが教導者としてのシャイナにはたまらなく悔しい。
かつての弟子カシオスが天馬星座の聖衣争奪戦に敗れて以来、シャイナを焦す想いだ。
「ホラ!次だ!急ぐよ!
アンタたちもしっかりしな!聖衣なくともアンタたちも聖闘士なんだからね!」
ただいるだけで空気が変わる、そういった領域の闘気を纏い、
シャイナ一党は聖域に侵攻しつつある戦士たちをなぎ払っていた。
一箇所にとどまるには他が危うい、かといってこの三人を分散させてしまえば、各個撃破の憂き目に会いかねない。
結果、シャイナたちは遊撃部隊として聖域中を駆けずり回る羽目になっていた。
せめて、瞬の弟子たちが聖域にいればまだここまで負担にはならなかっただろうが、
ないものねだりをしたところでどうしようもない。
次の為の今、シャイナらしさの表れともいえる行動である。
しかし、銀に鈍く輝く仮面の下で密かにシャイナは焦っていた。
わずか四名、一人討たれればそれだけ四分の一が減る。
シャイナは、焦っていた。
いかなるときも己の信念を曲げない。
確かにそれはすばらしい事だろう、しかし…。
「さて、盟よ。
ひとつ提案があるんじゃがの」
盟は苦悩する。
今ここでこの薄汚い裏切り者を殺すことはたやすい。
だが、この襲撃の内容を知るだろうギガースを殺してしまえば、裏が見えなくなる。
アテナの聖闘士に報復の殺戮は許されない。
アテナを、城戸沙織を裏切ったという理由での殺傷は、聖闘士としての道を踏み外すことになる。
「…なんだ?ジジィ」
考えろ、盟。
師デスマスクならどうする?
師デスマスクならどうする!
師デスマスクなら…。
「ワシの拘束を解くのと」
師デスマスクなら…。
簡単な事だ、とても、とても簡単な事だ。
「ここで死ぬのと!
エビルクリムゾン!」
右腕ごと燃やしながら、否、己の右腕を火種にしながら燃え盛る業炎の拳。
通常の炎の朱色ではなく、色の見えない白い炎は、触れるだけで骨も残さず焼き尽くしてくれるだろう。
触れれば、だが。
「…。
戦闘中に余計な事を考えるのは、素人のすることだ。
分かっていますよ、師匠…」
師・デスマスクは苛烈な人であった。
兄弟子・ケルベロスのダンテもその苛烈さに倣った。
しかし、盟はその苛烈さの向こう側にあるものを知っていた。
苛烈なその振る舞いも、敢えて汚れて見せるのも、
その実デスマスクという男が何よりも清冽を望んだからに他ならない。
「アクベンス」
そう、師デスマスクならば、死者に尋ねる。
小気味良いぱちんという音と共に、盟の眼前の空間が真っ二つに裂けた。
その光速の一撃を避けえたのは、偶然か必然か、ギガースの燃え盛る右腕は切断され、
一撃の余波でもんどりうって教皇の間の扉付近まで転がって行った。
ふーっと長い吐息と共に、ギガースにむかって突き出されていた右腕を左手で掴み、
無理やり押さえ込むと、盟はふらりとよろめいた。
同時に、盟の聖衣の両腕のパーツが粉と砕けた。
光速の一撃に耐え切れなかったのだ。
「…め、盟!」
声と共に彼に駆け寄ったのは、さすがにニコルだった。
戦士二人の気迫にあてられたか、ヒューズは佇んだままだったが。
「来るな!ニコル!
この刺客、まだ息が有る!」
盟は苦痛を呑んだ声色で、鋭く叱責する。
彼の右腕上腕、聖衣の僅かな隙間を縫い、一本のハリが打ち込まれていた。
毒針だ。
「恐れ入ったぜ、野郎…」
そういってニコルの前に右腕を差し出す。
針の刺さったあたりが赤く腫れだしていた。
盟は、顔面の筋肉を総動員して笑ったような顔だ、しかしそれは激痛をこらえているのだと知れた。
それが今この場でどれほどニコルの、ヒューズの支えとなっているのか。
「くくく、なんという男だ…。
先の教皇にも、老師にもないぞ、貴様のような風は。
蛮勇と清風が同居しておるわ」
ぐらりと、陽炎のようにギガースは起き上がった。
「恐れ入ったよ、光速拳とはな!
なるほど、確かにお前の師は光速拳をもってしても名の知れた男だったが、
ただの糸使いではなかったという事か!
白銀風情と侮ったわ、くくくく」
「俺の聖衣がランク外なのは知っているだろう?
何をいまさら言いやがる。
この聖衣が相棒にしてくれろと泣きつくからな」
脂汗をにじませながらも、盟は軽口を忘れない。
むしろそうやって己を奮起しているようでもあった。
「聖域史上、位階外の聖衣を纏ったものは何人もいた。
だが、貴様ほど着こなしたものは稀であろうさ…」
ひとしきり笑うと、ギガースは片腕とは思えない速度で教皇の間から逃げ出した。
「ニコル!すまん!毒で眩んだ…ッ!」
しかし、盟は追えなかった。
黄金に指をかけようかという程の聖闘士ですら苛む毒は、まるで炎のように盟の身体を焼いていた。
「たとえ貴様の小宇宙が黄金に匹敵しようとも!その毒は一筋縄ではいかんぞ!
ワシが逃げおおせるまで毒火で炙られ悶えていろ!」
畜生というつぶやきは、いったい誰のものなのだろうか。
聖域最悪と呼ばれることになる惨劇の幕が上がった。
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