SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ


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「修羅と鬼女の刻(ふらーりさま)45-2」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

修羅と鬼女の刻(ふらーりさま)45-2」の最新版変更点

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+燦々と日の光が降り注ぐ、清々しい空気に満ち満ちた山の中。木々が少し途切れて
+ちょっとした広場になっている場所で、若者が木刀を振るっていた。
+速く強く、華麗で切れ味良く、荒々しくはないが鋭さに溢れたその剣筋は、若者が
+正統な剣術の修行を生真面目に積んできたことを示している。
+また、別の方面からも若者の素性を伺うことができる。身に纏っている道着の仕立てと
+いい、綺麗に結われた髪といい、更には木刀の見事さといい。どれを取っても若者の
+身分の高さと育ちのよさ、大切に育てられたのであろう箱入りな人生を如実に語っている。
+もっとも、その割には若者の剣技は見事すぎるのだが。いくつかの型を十度ずつほど終え
+たと思ったら、今度は太く束ねて地面に突き立てた竹の束に、木刀を横薙ぎに打ち込んだ。
+竹は大きくしなる。当然、反動が来る……いや来ない。若者の木刀で押さえられている。
+数拍おいて、若者は木刀を放した。そして今度は、他にも立ててある竹の束に次から次
+へと打ち込んでいく。
+そのどれもが大きくしなり、反動を発揮しようとするが若者の木刀に押さえられて、
+というのを繰り返す。どうやらこれは、力でムリヤリ押さえ込んでいるのではないらしい。
+若者の、どちらかといえば華奢な体にそんな強力があるとは思えない。では、一体?
+「……ふうっ」
+ひとしきり打ち込みを終えて、若者が一息ついた。額の汗を袖で拭う。
+と、どこからか妙に可愛い……というか甘く高い、少女の声が聞こえてきた。
+「お見事お見事、大したものです」
+ぱちぱちと拍手しながら、十代半ばと見えるその少女は歩いてきた。天から降ったか
+地から沸いたか、どこからかいつの間にか、そこにいた。
+その出で立ちも異様というか何というか。袖が大きく裾の短い、簡素な着流し姿
+なのだが、真っ赤なのだ。まるで血で染めたかのように、目に痛いほどの真紅。
+それでいて肌は真っ白。天空から地上へと舞い降り、まだ誰にも踏み荒らされていない
+新雪のような純白。そして流れるように長い髪がまた、血の紅色ときている。
+顔立ちは人形のように整っているのだが、いやそれ故に、人間ではないかのように
+思えてしまう。天女か、それとも……魔女なのか。
+「先ほどから拝見させて頂きましたが、あれは力の流れを読んで制するという、
+柔術の鍛錬ですね? おそらく、素手の戦いも相当な腕前とお見受け致します」
+悠然とした笑みを浮かべて、少女は若者に語りかけてくる。 
 
+「……褒めてくれるのは光栄だが、そなたは?」
+と若者は尋ねるが、少女は相変わらずの笑みを浮かべて流す。
+「ふふ。わたしのことなど、どうでも宜しいではありませんか。ただわたしは、
+殿方の『勇』を何よりも好むもの」
+「? 勇、とな」
+「はい。それぞれの信念を胸に抱き、あるいは怒りを剣に乗せ、あるいは忠義に命を捨て、
+敵わぬ相手にも怯まず向かっていく……『勇』をもって戦う殿方を、何よりも愛しております。
+なれば、まさにそのもの、わたしのことは『勇』と呼んで頂きとうございます。ということで、」
+少女は、初めて表情を変えた。相変わらず笑顔ではあるが、その瞳に青白いものが灯る。
+「貴方様の『勇』をお見せ下さい」
+「何?」
+「わたしと、立ち会って頂きたいのです」
+奇妙な申し出に、若者は怪訝な顔をした。が、すぐさまその表情を引き締めて跳び退いた。
+それほど、凄まじかったのだ。勇、と名乗ったこの少女から感じた殺気が。
+いや、殺気だけではない。この少女の秘めたる実力は、半端ではない。若者はそう読んだ。
+「そ、そなたは……どういうことだ? 女の身でありながら、なぜこんな」
+「さて?」
+勇は、くすくすと笑って答える。
+「なぜ、と改めて聞かれても困ります。わたしにとっての殺傷本能は食欲や性欲と同じ
+ですから……貴方のような殿方を見ると……どうも……喰らいたくなってしまって」
+勇の紅い舌が、そっと唇を撫でる。その、どこか淫靡な匂いが漂う舌なめずりに
+若者の目が引き寄せられる、と、
+「はっ!」
+勇のしなやかな脚が、若者を襲った。長い脚が鞭のようにしなり、鉈のような重さをもって、
+若者の手首を砕こうと振り上げられる。
+若者は咄嗟に木刀の柄で受け止め、打ち落と……せない。ばかりか、一方的に押された。
+このままでは木刀を飛ばされてしまう。だが若者は力を込めて押し返したりはせず、
+自ら積極的に木刀を上に投げた。
+勇の蹴りも上方に流れる。若者の手が素早く下ろされ、下から勇の脚を救い上げた。
+
+「……お見事」
+勇の体は後方に縦に一回転して、ほぼ音もなく着地した。
+若者はというと、大きく目を見開いたまま動かない。
+「頭から落とすこともできたでしょうに、わざわざ空中でわたしの体を操って、
+体勢を整えさせましたね? 技は本当にお見事ですのに、いやはや甘い」
+ため息をつく勇。若者はまだ、硬直したままだ。勇がまた笑って、
+「本能的にかわせたものの、蹴り足が見えなかった、と? けれど逆に言えば、
+見えぬ攻撃を本能の反射のみでかわしたということ。これもまた大したものですよ」
+「……そ、そ、そなたは、一体……」
+冷や汗を流す若者の、道着の襟がぴりりと音を立てて裂けた。勇の爪先が掠ったのだ。
+もし、勇の蹴りが顎を直撃していたら。あるいは、ノド笛を切り裂いていたら。
+「戦いこそは至上の交流ですわ。閨での情交以上の、ね……ふふふふ」
+勇は、若者に冷たい微笑みを見せると、突然くるりと背を向けた。
+「貴方はまだ、喰らう時ではないようです。いずれ熟した折には、ぜひ」
+「じ、熟す、とは、どういう意味だっ」
+もう勇に飲まれつつある若者が、少し震えた声で尋ねた。勇は楽しそうに答える。
+「そうですねぇ。差しあたって、殺気を身につけること。貴方は優しすぎます。それでは
+今以上に強くはなれません。他人を躊躇いなく殺せるようにならないと」
+「そ、そんなこと……いや、できるようにならねばならぬが……だが私は……」
+と若者が目を伏せて呟き、はっと顔を上げた時には、もう勇の姿はなかった。
+辺りには静寂が帰ってきている。川の音と鳥の声だけが聞こえている全てだ。
+冷たい汗と、裂けた襟元を残して、ほんのひと時の魔女との語らいはこうして終わった。
+「な、何なんだ……今のは」
+天下を取るには、あんな化物とも戦っていかねばならないのだろうか。そんな化物すら、
+本能的に助けようとして手を差し伸べてしまう自分が。
+技量の面でも、精神の面でも、自分はまだまだ未熟すぎる。若者は痛感した。
+『……そうだ、悩んでばかりはいられない。この乱れた世を正し、万民を救う為に、
+私はもっともっと強くなり、戦い抜かねばならないんだ……』
+若者は決意も新たに、飛ばされた木刀を拾い上げて振るい始めた。
+近いうちに必ず来る、戦乱の時代に備えて。 
+
+深夜の山奥。月や星以外の明かりはないそこを、焚き火が照らしていた。
+その前にどっかと腰を下ろしているのは、紅い髪と紅い着流しの美妖女、勇。
+「やれやれ。本当に、犬も殺せない顔をしてましたね。あれが源家の嫡流とは……
+まあ、そこがまた、面白いことを引き起こしてくれそうですけど。ふふっ」
+若者のことを考えて、楽しそうに焚き火の中から焼肉を取り出して、噛りつく勇。
+その傍らには、眉間を拳で砕かれた熊の死骸が転がっている。腹や胸は
+抉り出されて空っぽだ。その抉られた部分は今、焼かれて美味しそうな肉汁を
+滴らせている。で、上品で小さな唇の中に消えていく。
+やがて熊一頭をきれいに平らげると、勇はごろりと横になった。若者との
+立会いを思い出し、予想以上だった腕前を胸の中に蘇らせ……
+「よく……眠れそう……」
+そっと、目を閉じた。その周りには熊も猪も狼もいるのだが、どいつもこいつも
+勇に手を出そうとはしない。
+焚き火が怖いのではない。勇が怖いのだ。そこに寝ているのは人間ではなく、
+日本最強の生物……獣たちは、そう感じ取っているのである。
+
+その強さのあまり、人ではないと噂される一族があった。陸奥が修羅なら、
+こちらは魔。先祖に魔物の血が混じっているのではないかと恐れられる、
+人ならざる強さを誇る一族。その末裔にしてズバぬけた力をもって生まれた子が
+この少女、勇。
+『半魔』の勇と、源氏の末裔・足利尊氏の、これが出会いであった。
+
+楠木正成、陸奥大和、足利尊氏、そして勇。
+表と裏、光と陰で壮絶な戦いを繰り広げる四人が、今、歴史の舞台に上がった……