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『世界を滅ぼす千の方法 ①』
──08:15、教室内にて。面談者──李小狼、木之本桜。
「……『羽』?」
「うん。俺たちは色んな世界に飛び散った『羽』を求めて旅をしているんだ」
「それって、なんのためになんだ?」
「それは……『羽』がわたしの記憶の欠片だから。わたしの失った記憶を取り戻すために、
小狼くんも、黒鋼さんも、ファイさんも……それから、モコちゃんも、みんな力を貸してくれているの。
──ごめんね、黙ってて。でも、あなたを危険な目に遭わせたくないって、思ったから」
「……『危険な目』って、なにが」
「だって……あなたは、わたしと小狼くんの、大切なお友達だから」
「────。あ、あー、いや、そうじゃなくて……なんで『羽』を探してると危険な目に遭うんだって意味だけど」
「『羽』には姫の魔力が込められている。だから、『羽』の近くでは怪異が起こることが多いんだ。
その力に気付いた誰かが『羽』を手にすると、『羽』の膨大な力がその『誰か』に渡ることになる。
そのなかで姫の『羽』を取り戻すことは……常に危険と隣り合わせなんだ」
「……昨日の『ダーク・フューネラル』とかって奴とかか」
「実は、そのことで聞きたいことがあるんだ。
あの仮面の少年が使った力──『スタンド能力』というやつは、この世界の人間なら誰でも持ってるものなのかな」
「え、いや……あんな超能力、今まで見たことも聞いたこともないぞ」
「だけど、あなたは『スタンド能力』で小狼くんを助けてくれた。『次元の魔女』さんも、十和子さんも、そう言ってたよ?」
「無我夢中だったから良く覚えてねーよ……そりゃ、あの『ダーク・フューネラル』は、俺に『スタンド使い』の素質があるとか言ってたけど」
「そうか……阪神共和国の『巧絶』とはまた違う力のようだな。なんにせよ、君のその力で、俺も姫も助けられた。──ありがとう」
「お礼は昨日聞いたって」
「ううん。何度でも言わせて。小狼くんを守ってくれて、ありがとう。あなたのお陰だよ」
「あー、もー、勘弁してくれよ、そういうの……」
──12:20、生物室にて。面談者──天色優、奈良崎克巳。
「やあ、高等部にまで足を運んでもらって悪かったね。僕の自己紹介は昨日済ませただろうけど、彼とはまだだったね?
──いや、僕もついさっき久しぶりに再会したばかりなんですけどね。
彼は天色優。僕の……元『同僚』と言ったところかな。彼も僕と同じ、合成人間なんですよ」
「はじめまして。天色優です。『ユージン』という名前も持ってるけど、君の好きなように呼んでもらって構いませんよ」
「……あの、奈良崎先輩。この人も女の子なんですか?」
「……それは興味深い質問だね。どんな意図でそんな質問が出てきたのか、ぜひ知りたいですね。
──おいラウンダバウト。貴様、彼にどんな説明をしたんだ」
「僕は彼になにも言っていないさ」
「え、いや……奈良崎先輩は男の格好してるけど女の子なんすよね。
この人……じゃなくて、天色先輩も女の子みたいな顔してるから、そうなのかなって。……すんません。失礼しました」
「ぐ……む、ま、まあ別に構わないよ。ただ、僕は男性型の合成人間だということさえハッキリさせてもらえればいいんです。
──なにが可笑しい、ラウンダバウト。笑うな」
「失敬。僕としたことがつい、ね。──さて、本題に入りましょうか。ユージン、例のスケッチブックを」
「分かっている。──実は、僕たちはこの『スケッチ』について君の意見を訊きたいんだ」
「……これ、なんのスケッチですか?」
「なにに見えますか?」
「『海岸に立つ女の人』。……でも、なんかこの人……『燃えて』いないすか? 炎に包まれているって言うか」
「やはり君にもそう見えるかい? ……詳しい話は省くけど、僕には『予知能力者』の友人がたくさんいるんです。
このスケッチは、そのうちの二人──鏡や瞳などに映る『未来のヴィジョン』を見る『イントゥアイズ』と、
未来の風景を自動書記する『オートマチック』による……いわば『合作』です。
これは僕の『瞳』に映った『予知』──つまり僕は、近い将来に『必ずこの光景を見る』ことになる」
「…………」
「そしてどうやら、この『女性』は本当に炎の中に立っているらしい。と言うのも──
この『スケッチ』に触発されて、『未来の音』を先取りして発声させる『ウィスパリング』が、激しい『燃焼音』に似た音を『予知』しているからです。
同時に、その炎に遮られるような『声』も聞こえた。それは炎の音にほとんど掻き消されていた為に、
男なのか女なのかも判然としないけれど──『未来の声』は確かにこう言っていました。
『明日というのは、今よ──明日、世界を引っ繰り返してやる』……とね」
「なあ、ユージン。僕は疑問に思うんだが……その『声』がこの『炎に立つ女性』の発したものだという根拠はあるのかな?」
「そんなものはないさ、ラウンダバウト。だが、考えてもみろ。
この世に生きる者のうち、一体誰が炎に巻かれた人間を前にしてそんな物騒なことを言える?
むしろ、業火の中にあってなお立つ人間だからこそ、そんなセリフが出てくるんじゃないのか?
そう──この『炎の魔女』以外に、この『言葉』を言える者がいる可能性は低いだろう、というのが僕の見解だ」
「ふむ……物的証拠にはほど遠いが、君の発言には得体の知れない説得力がありますね。
ならば、その件は保留ということにしておこう。──続けてください」
「……まだいるんですか、天色先輩の知り合いの『予知能力者』」
「あと二人ほどですよ。──未来の『匂い』を嗅ぐ『アロマ』は、僕の身体から発する『向日葵』の匂いを『予知』しています。
そして、最後の──『最も完全に近いかたちの予知能力』ながらも、『曖昧な言葉でしか表現』できない『ベイビィトーク』が、
『羽みたいなものを追っかけてる奴がとんでもなくヤバい』『誰にも止められない感じがする』『誰かに似た人、とかなんとか』
──というような『予知』を残しました。これら全ての『予知』を総合して、僕はこの『杜王町』に危機が迫っていることを知り、ここに来たんです。
全ての『予知』が『実現』したときに起こるであろう、『世界の危機』を退けるために、ね。
さて、僕が訊きたいのはここからです。今僕がした話で、なにか思い当たる事はありますか?」
「……あー。えーと……」
「ユージン、もう少し相手の理解を待ったほうがいいですよ。見たまえ、彼は思いっきり引いている」
「いや……最近はこんなことばかりで、別に引いたりとかはないですけど……一つだけ質問してもいいすか」
「なんなりと」
「それだけの情報で、その『予知』の場所が杜王町だと……なんで分かったんすか?」
「ああ、それは簡単なことですよ。自慢じゃないが、僕は単式型なので情報分析能力にも特化していましてね」
「…………?」
「『スケッチ』をもう一度見てくれますか? この海岸の隅に……ほら、『ヒトデ』が描かれているでしょう?
実は、このヒトデは、かなり限定された地域にしか生息しない新種のヒトデなんです。
それと『スケッチ』に描かれた海岸線を元に、この町に限定して『予知』の起こる割り出したというわけなんです。
ちなみに、この『Kujo sea star』が発見されたのは十数年前……海洋学者の空条承太郎氏が、奇しくもこの杜王町で発見した生物です」
「……そうすか。でも……俺、なにも思い当たる事はないっす」
「そうかい? じゃあ、どんな些細なことでもいい、気が付いたことがあるなら、この僕か、こっちのユージンに教えてくれるかな?」
「あ、はい。それはもう」
「よろしく頼みます。──ああ、そう言えば、ラウンダバウトから聞いたけれど、君は『スタンド能力』という特殊能力の持ち主らしいですね?
もしも君がその『能力』について深く知りたいなら、僕に心当たりがありますよ。連絡を取ってみましょう」
──16:00、広瀬宅の客室にて。面談者──静・ジョースター。
「お待たせしました。紅茶で良かった?」
「あ、いえ、紅茶好きです」
「そう、良かった。──優くんと克巳さんから聞いているわ。ごめんなさい、わざわざ家にまで来てもらって。
今日はちょっと用事があって、早く家に帰らなきゃいけなかったから」
「え、じゃあ俺邪魔じゃないんですか」
「そんなことないよ。同じ『スタンド使い』なんだから、遠慮しないで。今、家の人いないから大したお構いもできませんけど、楽にしてね。
──どうしたの? 冷房の効き弱い? 暑いの?」
「ぜ全然暑くないです、はい」
「ふふ、変なの。お砂糖は?」
「あたし三つね」
「あ、じゃあ俺は一つで──って、あれ? ……と、遠野先輩!?」
「ハロー」
「い、いつからそこに?」
「最初からいたっつーの。あんたさあ、女の子の部屋に入ったの初めてでしょ。
もー、可笑しかったわー。ガッチガチに緊張して床しか見てねーんだもの。……マジであたしがいることに気付かなかったの?」
「ちょっと十和子、なに言ってるの?」
「あんたもあんたよ、静。初対面の人間をほいほい家に上げるもんじゃねーわ。相手が強盗だったらどうする気さ?」
「そんな、失礼だよ。優くんからも聞いてるし、克巳さんだって──」
「はん。奈良崎ちゃんも、それから、あの……天色だっけ? あいつらとだって知り合ったばかりじゃない。そんなのの紹介がなんの保証になんの?」
「そんな言い方──」
「だからあんたは甘ちゃんだっての」
「十和子みたいな鼻につく物の言い方なんか嫌だもん」
「あのー、二人とも……そろそろ本題に……」
「あ、そうそう。ごめんね? 『スタンド』について教えてあげればいいんだったよね? ──なんか、先生になった気分」
「じゃあ、あたしは見張番ね」
「……なにを見張るの?」
「いやいや、お構いなく。あたしはただのオブザーバーに徹するから、いないもんだと思って『スタンド』とやらの話をしてちょーだい。──ほら、話せって」
「そ、そう? ……それじゃ、いい? 『スタンド』っていうのはね──」
──20:30、自室にて。
「……だはぁ」
なんともだらしのない息を吐いて、南方航は制服姿のままベッドに突っ伏した。
「なんか……疲れた」
シーツに顔を押し付けて、夏の日差しが残る布の匂いを嗅ぎながらも、航の頭の中身はぐるぐるありえないトルク量で慣性運動を行っていた。
朝から夕方にかけて、様々な場所、様々な人物に叩き込まれた情報のせいで脳焼けを起こしかけているような気がする。
「『羽』と……『予知』と……『スタンド』……?」
小狼とサクラと出会ってからのここ最近、どうも自分の理解を振り切るような話が多すぎた。
それらの根本的な理解を求めて、『そのこと』を知っていそうな人物と話す機会を持ってみたわけだが──、
「話がデカすぎる……」
事情を知る者の口から語られる途方もないスケール感が、結局は理解を妨げることとなっていた。
いや──それでも『自分のこと』として実感できた収穫がある。
「俺が……『スタンド使い』?」
小狼とサクラの友人である奈良崎の知り合いである天色優の友人である、という、なんだか迂遠過ぎて
『そこら辺歩いてるやつに声かけるのと変わらない』って微妙な感じの縁で自宅へ訪問した少女、静・ジョースターによれば、
『スタンド使い』の第一条件は『スタンドが見える』ということらしい。
それが事実なら、自分は確かに遠野にも奈良崎にも『見えな』かった『スタンド』を『見た』わけで、
『スタンド使い』の必要条件を満たしていることになる。
精神を具象化した『力ある』ヴィジョンを発現させ(例外はあるが)、それを操ることで『眠れる才能』を自在に行使する『能力』──『スタンド』。
「だけど……出てこないよな、俺の『スタンド』」
寝返りを打ち、仰向けになると、見慣れた天井が航の目に飛び込んでくる。
もしも航が本当に『スタンド使い』だと言うのなら、ぜひともこの目でもう一度『スタンド』を見て確信を持ちたいところだったのだが、
あの静・ジョースターという人は「『ヴィジョン』を持たない例外的な『スタンド使い』」だということで、航の「確信したい」という欲求が満たされることはなかった。
「あの静って人……俺のこと、からかってるんじゃないだろーな。いや、でも……あの人『消えた』からなあ……」
彼女の『スタンド』である『アクトン・ベイビー』を目の当たりにしたときは本当に驚いた。
だが──驚いただけである。
静・ジョースターが『スタンド使い』であることは信じてもいいかも知れないが、それは航が『スタンド使い』であるということとイコールにはなり得ない。
昨日の夕暮れの戦闘で自分が見たもの──あの『ダーク・フューネラル』は、もしかしたら幻で、
謎の敵の攻撃を受けて錯乱した自分が勝手に脳内ででっち上げたものなのかも知れないとまで、航は考え始めていた。
「なあ、俺の『スタンド』、よ……いるならちょっくら出て来いよ」
返事は無し。
なんだか自分がとんでもなく馬鹿な──それこそ、かめはめ波とかの練習をしているような──ことをしている気になって、不意に虚しくなる。
(あー、やめやめ!)
そんな気分を振り払うように、がばっとベッドから身を起こし──また仰向けに倒れた。
なんだか胸にしこりがあるような気がして──ふと、思い起こす。
(遠野先輩がいたのにはビックリしたな……あの人たち、知り合いだったんだ……)
そして、小さな疑問が浮かぶ。
元々独言癖のある航は、いつものノリで無意識のうちにそれを口に出していた。
「なんで、俺は驚いたんだ……?」
“そりゃお前、『なんか大人の階段とか登れそうな超素敵なこと』を期待してたからだろ? 違うか? え? この童貞野郎”
いきなり返事が返ってきたことに、航はそれこそ冷や水でもぶっ掛けられたように飛び起きた。
上下左右に目を走らせる──なにも無し。
“いやいや、俺ぁそいつが悪いことだとは言わねーよ。そんくらいの妄想力が無けりゃ、ヒトっつー種はとてもじゃねーが存続できねーからな”
なんだか物凄く乱暴な口調の声の後に、けけけ、というかなり下品な笑い声までついてくる。
「ど、どこだ! どこにいる!?」
“どこってこたねーだろ、この間抜け。てめーの目の前にいるぜぇ”
はっとなって前方を注視する。そこには、乱雑に散らかった勉強机しか見えない。
“本当にてめーはダメなやつだな。丸出ダメ夫だな。いっぺん死んどく? けけけけけッ!”
37 名前: シュガーハート&ヴァニラソウル [sage] 投稿日: 2007/12/19(水) 13:38:47 ID:QYfQburL0
目に見えぬ声の主を捜し求め──窓に映った自分の姿を見る。
“俺様はここにいるぜ。お前が生まれたときから、ずーっっとな”
その背後に……かたちもおぼろげな『なにか』がいた。
“見えたか? 気付いたか? そいつが俺様だ。感覚の目でよーく見てみろ”
混乱した航だったが、そのなかで辛うじて冷静な自分が告げている。『こいつの言っている事は正しい』、と。
なので──その通りににした。見るでもなく、見ないでもなく──『そいつがそこにいるのが本来のあり方』だと信じるように。
昨日の夕暮れ、『敵はそこにやってくる』と信じて疑わず、それゆえに『ダーク・フューネラル』の姿を見たときのように。
さっきの取り乱し方がまるで嘘のように、ゆっくりと振り返り、そして──確かに、『そいつ』は『そこ』にいた。
自分のすぐ側──机の上に腰掛けていた。
『そいつ』を一見した印象は、「なんか銀食器みたいな細工物」だった。
細く、鋭利で、薄べったく……そんな質感の手足のようなものを持つ──人型の『なにか』。
その表面は、ぴかぴか銀色に輝いていた。
“よお、間抜け。十四年待ったぜ”
「お前……『スタンド』……なのか? お前……」
静・ジョースターの言葉は──あの『ダーク・フューネラル』の存在は、紛れもない真実だったのだ。
『眠れる才能』──『スタンド』。名も無き『可能性』がこの世に誕生したとき、『それ』はなんと呼べばいいのだろう。
「お前……名前? とか、あるのか?」
“『メタル・グゥルー』”
『そいつ』──『メタル・グゥルー』は傲然とした声で名乗りという産声を上げ、ひとつの『可能性』がこの世に実現したことを宣言した。
“STAND BY YOU!!”
『世界を滅ぼす千の方法 ①』
──08:15、教室内にて。面談者──李小狼、木之本桜。
「……『羽』?」
「うん。俺たちは色んな世界に飛び散った『羽』を求めて旅をしているんだ」
「それって、なんのためになんだ?」
「それは……『羽』がわたしの記憶の欠片だから。わたしの失った記憶を取り戻すために、
小狼くんも、黒鋼さんも、ファイさんも……それから、モコちゃんも、みんな力を貸してくれているの。
──ごめんね、黙ってて。でも、あなたを危険な目に遭わせたくないって、思ったから」
「……『危険な目』って、なにが」
「だって……あなたは、わたしと小狼くんの、大切なお友達だから」
「────。あ、あー、いや、そうじゃなくて……なんで『羽』を探してると危険な目に遭うんだって意味だけど」
「『羽』には姫の魔力が込められている。だから、『羽』の近くでは怪異が起こることが多いんだ。
その力に気付いた誰かが『羽』を手にすると、『羽』の膨大な力がその『誰か』に渡ることになる。
そのなかで姫の『羽』を取り戻すことは……常に危険と隣り合わせなんだ」
「……昨日の『ダーク・フューネラル』とかって奴とかか」
「実は、そのことで聞きたいことがあるんだ。
あの仮面の少年が使った力──『スタンド能力』というやつは、この世界の人間なら誰でも持ってるものなのかな」
「え、いや……あんな超能力、今まで見たことも聞いたこともないぞ」
「だけど、あなたは『スタンド能力』で小狼くんを助けてくれた。『次元の魔女』さんも、十和子さんも、そう言ってたよ?」
「無我夢中だったから良く覚えてねーよ……そりゃ、あの『ダーク・フューネラル』は、俺に『スタンド使い』の素質があるとか言ってたけど」
「そうか……阪神共和国の『巧断』とはまた違う力のようだな。なんにせよ、君のその力で、俺も姫も助けられた。──ありがとう」
「お礼は昨日聞いたって」
「ううん。何度でも言わせて。小狼くんを守ってくれて、ありがとう。あなたのお陰だよ」
「あー、もー、勘弁してくれよ、そういうの……」
──12:20、生物室にて。面談者──天色優、奈良崎克巳。
「やあ、高等部にまで足を運んでもらって悪かったね。僕の自己紹介は昨日済ませただろうけど、彼とはまだだったね?
──いや、僕もついさっき久しぶりに再会したばかりなんですけどね。
彼は天色優。僕の……元『同僚』と言ったところかな。彼も僕と同じ、合成人間なんですよ」
「はじめまして。天色優です。『ユージン』という名前も持ってるけど、君の好きなように呼んでもらって構いませんよ」
「……あの、奈良崎先輩。この人も女の子なんですか?」
「……それは興味深い質問だね。どんな意図でそんな質問が出てきたのか、ぜひ知りたいですね。
──おいラウンダバウト。貴様、彼にどんな説明をしたんだ」
「僕は彼になにも言っていないさ」
「え、いや……奈良崎先輩は男の格好してるけど女の子なんすよね。
この人……じゃなくて、天色先輩も女の子みたいな顔してるから、そうなのかなって。……すんません。失礼しました」
「ぐ……む、ま、まあ別に構わないよ。ただ、僕は男性型の合成人間だということさえハッキリさせてもらえればいいんです。
──なにが可笑しい、ラウンダバウト。笑うな」
「失敬。僕としたことがつい、ね。──さて、本題に入りましょうか。ユージン、例のスケッチブックを」
「分かっている。──実は、僕たちはこの『スケッチ』について君の意見を訊きたいんだ」
「……これ、なんのスケッチですか?」
「なにに見えますか?」
「『海岸に立つ女の人』。……でも、なんかこの人……『燃えて』いないすか? 炎に包まれているって言うか」
「やはり君にもそう見えるかい? ……詳しい話は省くけど、僕には『予知能力者』の友人がたくさんいるんです。
このスケッチは、そのうちの二人──鏡や瞳などに映る『未来のヴィジョン』を見る『イントゥアイズ』と、
未来の風景を自動書記する『オートマチック』による……いわば『合作』です。
これは僕の『瞳』に映った『予知』──つまり僕は、近い将来に『必ずこの光景を見る』ことになる」
「…………」
「そしてどうやら、この『女性』は本当に炎の中に立っているらしい。と言うのも──
この『スケッチ』に触発されて、『未来の音』を先取りして発声させる『ウィスパリング』が、激しい『燃焼音』に似た音を『予知』しているからです。
同時に、その炎に遮られるような『声』も聞こえた。それは炎の音にほとんど掻き消されていた為に、
男なのか女なのかも判然としないけれど──『未来の声』は確かにこう言っていました。
『明日というのは、今よ──明日、世界を引っ繰り返してやる』……とね」
「なあ、ユージン。僕は疑問に思うんだが……その『声』がこの『炎に立つ女性』の発したものだという根拠はあるのかな?」
「そんなものはないさ、ラウンダバウト。だが、考えてもみろ。
この世に生きる者のうち、一体誰が炎に巻かれた人間を前にしてそんな物騒なことを言える?
むしろ、業火の中にあってなお立つ人間だからこそ、そんなセリフが出てくるんじゃないのか?
そう──この『炎の魔女』以外に、この『言葉』を言える者がいる可能性は低いだろう、というのが僕の見解だ」
「ふむ……物的証拠にはほど遠いが、君の発言には得体の知れない説得力がありますね。
ならば、その件は保留ということにしておこう。──続けてください」
「……まだいるんですか、天色先輩の知り合いの『予知能力者』」
「あと二人ほどですよ。──未来の『匂い』を嗅ぐ『アロマ』は、僕の身体から発する『向日葵』の匂いを『予知』しています。
そして、最後の──『最も完全に近いかたちの予知能力』ながらも、『曖昧な言葉でしか表現』できない『ベイビィトーク』が、
『羽みたいなものを追っかけてる奴がとんでもなくヤバい』『誰にも止められない感じがする』『誰かに似た人、とかなんとか』
──というような『予知』を残しました。これら全ての『予知』を総合して、僕はこの『杜王町』に危機が迫っていることを知り、ここに来たんです。
全ての『予知』が『実現』したときに起こるであろう、『世界の危機』を退けるために、ね。
さて、僕が訊きたいのはここからです。今僕がした話で、なにか思い当たる事はありますか?」
「……あー。えーと……」
「ユージン、もう少し相手の理解を待ったほうがいいですよ。見たまえ、彼は思いっきり引いている」
「いや……最近はこんなことばかりで、別に引いたりとかはないですけど……一つだけ質問してもいいすか」
「なんなりと」
「それだけの情報で、その『予知』の場所が杜王町だと……なんで分かったんすか?」
「ああ、それは簡単なことですよ。自慢じゃないが、僕は単式型なので情報分析能力にも特化していましてね」
「…………?」
「『スケッチ』をもう一度見てくれますか? この海岸の隅に……ほら、『ヒトデ』が描かれているでしょう?
実は、このヒトデは、かなり限定された地域にしか生息しない新種のヒトデなんです。
それと『スケッチ』に描かれた海岸線を元に、この町に限定して『予知』の起こる割り出したというわけなんです。
ちなみに、この『Kujo sea star』が発見されたのは十数年前……海洋学者の空条承太郎氏が、奇しくもこの杜王町で発見した生物です」
「……そうすか。でも……俺、なにも思い当たる事はないっす」
「そうかい? じゃあ、どんな些細なことでもいい、気が付いたことがあるなら、この僕か、こっちのユージンに教えてくれるかな?」
「あ、はい。それはもう」
「よろしく頼みます。──ああ、そう言えば、ラウンダバウトから聞いたけれど、君は『スタンド能力』という特殊能力の持ち主らしいですね?
もしも君がその『能力』について深く知りたいなら、僕に心当たりがありますよ。連絡を取ってみましょう」
──16:00、広瀬宅の客室にて。面談者──静・ジョースター。
「お待たせしました。紅茶で良かった?」
「あ、いえ、紅茶好きです」
「そう、良かった。──優くんと克巳さんから聞いているわ。ごめんなさい、わざわざ家にまで来てもらって。
今日はちょっと用事があって、早く家に帰らなきゃいけなかったから」
「え、じゃあ俺邪魔じゃないんですか」
「そんなことないよ。同じ『スタンド使い』なんだから、遠慮しないで。今、家の人いないから大したお構いもできませんけど、楽にしてね。
──どうしたの? 冷房の効き弱い? 暑いの?」
「ぜ全然暑くないです、はい」
「ふふ、変なの。お砂糖は?」
「あたし三つね」
「あ、じゃあ俺は一つで──って、あれ? ……と、遠野先輩!?」
「ハロー」
「い、いつからそこに?」
「最初からいたっつーの。あんたさあ、女の子の部屋に入ったの初めてでしょ。
もー、可笑しかったわー。ガッチガチに緊張して床しか見てねーんだもの。……マジであたしがいることに気付かなかったの?」
「ちょっと十和子、なに言ってるの?」
「あんたもあんたよ、静。初対面の人間をほいほい家に上げるもんじゃねーわ。相手が強盗だったらどうする気さ?」
「そんな、失礼だよ。優くんからも聞いてるし、克巳さんだって──」
「はん。奈良崎ちゃんも、それから、あの……天色だっけ? あいつらとだって知り合ったばかりじゃない。そんなのの紹介がなんの保証になんの?」
「そんな言い方──」
「だからあんたは甘ちゃんだっての」
「十和子みたいな鼻につく物の言い方なんか嫌だもん」
「あのー、二人とも……そろそろ本題に……」
「あ、そうそう。ごめんね? 『スタンド』について教えてあげればいいんだったよね? ──なんか、先生になった気分」
「じゃあ、あたしは見張番ね」
「……なにを見張るの?」
「いやいや、お構いなく。あたしはただのオブザーバーに徹するから、いないもんだと思って『スタンド』とやらの話をしてちょーだい。──ほら、話せって」
「そ、そう? ……それじゃ、いい? 『スタンド』っていうのはね──」
──20:30、自室にて。
「……だはぁ」
なんともだらしのない息を吐いて、南方航は制服姿のままベッドに突っ伏した。
「なんか……疲れた」
シーツに顔を押し付けて、夏の日差しが残る布の匂いを嗅ぎながらも、航の頭の中身はぐるぐるありえないトルク量で慣性運動を行っていた。
朝から夕方にかけて、様々な場所、様々な人物に叩き込まれた情報のせいで脳焼けを起こしかけているような気がする。
「『羽』と……『予知』と……『スタンド』……?」
小狼とサクラと出会ってからのここ最近、どうも自分の理解を振り切るような話が多すぎた。
それらの根本的な理解を求めて、『そのこと』を知っていそうな人物と話す機会を持ってみたわけだが──、
「話がデカすぎる……」
事情を知る者の口から語られる途方もないスケール感が、結局は理解を妨げることとなっていた。
いや──それでも『自分のこと』として実感できた収穫がある。
「俺が……『スタンド使い』?」
小狼とサクラの友人である奈良崎の知り合いである天色優の友人である、という、なんだか迂遠過ぎて
『そこら辺歩いてるやつに声かけるのと変わらない』って微妙な感じの縁で自宅へ訪問した少女、静・ジョースターによれば、
『スタンド使い』の第一条件は『スタンドが見える』ということらしい。
それが事実なら、自分は確かに遠野にも奈良崎にも『見えな』かった『スタンド』を『見た』わけで、
『スタンド使い』の必要条件を満たしていることになる。
精神を具象化した『力ある』ヴィジョンを発現させ(例外はあるが)、それを操ることで『眠れる才能』を自在に行使する『能力』──『スタンド』。
「だけど……出てこないよな、俺の『スタンド』」
寝返りを打ち、仰向けになると、見慣れた天井が航の目に飛び込んでくる。
もしも航が本当に『スタンド使い』だと言うのなら、ぜひともこの目でもう一度『スタンド』を見て確信を持ちたいところだったのだが、
あの静・ジョースターという人は「『ヴィジョン』を持たない例外的な『スタンド使い』」だということで、航の「確信したい」という欲求が満たされることはなかった。
「あの静って人……俺のこと、からかってるんじゃないだろーな。いや、でも……あの人『消えた』からなあ……」
彼女の『スタンド』である『アクトン・ベイビー』を目の当たりにしたときは本当に驚いた。
だが──驚いただけである。
静・ジョースターが『スタンド使い』であることは信じてもいいかも知れないが、それは航が『スタンド使い』であるということとイコールにはなり得ない。
昨日の夕暮れの戦闘で自分が見たもの──あの『ダーク・フューネラル』は、もしかしたら幻で、
謎の敵の攻撃を受けて錯乱した自分が勝手に脳内ででっち上げたものなのかも知れないとまで、航は考え始めていた。
「なあ、俺の『スタンド』、よ……いるならちょっくら出て来いよ」
返事は無し。
なんだか自分がとんでもなく馬鹿な──それこそ、かめはめ波とかの練習をしているような──ことをしている気になって、不意に虚しくなる。
(あー、やめやめ!)
そんな気分を振り払うように、がばっとベッドから身を起こし──また仰向けに倒れた。
なんだか胸にしこりがあるような気がして──ふと、思い起こす。
(遠野先輩がいたのにはビックリしたな……あの人たち、知り合いだったんだ……)
そして、小さな疑問が浮かぶ。
元々独言癖のある航は、いつものノリで無意識のうちにそれを口に出していた。
「なんで、俺は驚いたんだ……?」
“そりゃお前、『なんか大人の階段とか登れそうな超素敵なこと』を期待してたからだろ? 違うか? え? この童貞野郎”
いきなり返事が返ってきたことに、航はそれこそ冷や水でもぶっ掛けられたように飛び起きた。
上下左右に目を走らせる──なにも無し。
“いやいや、俺ぁそいつが悪いことだとは言わねーよ。そんくらいの妄想力が無けりゃ、ヒトっつー種はとてもじゃねーが存続できねーからな”
なんだか物凄く乱暴な口調の声の後に、けけけ、というかなり下品な笑い声までついてくる。
「ど、どこだ! どこにいる!?」
“どこってこたねーだろ、この間抜け。てめーの目の前にいるぜぇ”
はっとなって前方を注視する。そこには、乱雑に散らかった勉強机しか見えない。
“本当にてめーはダメなやつだな。丸出ダメ夫だな。いっぺん死んどく? けけけけけッ!”
37 名前: シュガーハート&ヴァニラソウル [sage] 投稿日: 2007/12/19(水) 13:38:47 ID:QYfQburL0
目に見えぬ声の主を捜し求め──窓に映った自分の姿を見る。
“俺様はここにいるぜ。お前が生まれたときから、ずーっっとな”
その背後に……かたちもおぼろげな『なにか』がいた。
“見えたか? 気付いたか? そいつが俺様だ。感覚の目でよーく見てみろ”
混乱した航だったが、そのなかで辛うじて冷静な自分が告げている。『こいつの言っている事は正しい』、と。
なので──その通りににした。見るでもなく、見ないでもなく──『そいつがそこにいるのが本来のあり方』だと信じるように。
昨日の夕暮れ、『敵はそこにやってくる』と信じて疑わず、それゆえに『ダーク・フューネラル』の姿を見たときのように。
さっきの取り乱し方がまるで嘘のように、ゆっくりと振り返り、そして──確かに、『そいつ』は『そこ』にいた。
自分のすぐ側──机の上に腰掛けていた。
『そいつ』を一見した印象は、「なんか銀食器みたいな細工物」だった。
細く、鋭利で、薄べったく……そんな質感の手足のようなものを持つ──人型の『なにか』。
その表面は、ぴかぴか銀色に輝いていた。
“よお、間抜け。十四年待ったぜ”
「お前……『スタンド』……なのか? お前……」
静・ジョースターの言葉は──あの『ダーク・フューネラル』の存在は、紛れもない真実だったのだ。
『眠れる才能』──『スタンド』。名も無き『可能性』がこの世に誕生したとき、『それ』はなんと呼べばいいのだろう。
「お前……名前? とか、あるのか?」
“『メタル・グゥルー』”
『そいつ』──『メタル・グゥルー』は傲然とした声で名乗りという産声を上げ、ひとつの『可能性』がこの世に実現したことを宣言した。
“STAND BY YOU!!”
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