「戦闘神話47-1」(2007/03/20 (火) 12:36:39) の最新版変更点
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貴鬼は、まるで螺旋回廊の中へと落ちていくような錯覚すら覚えた。
はじめはあたり一面、何もない虚無空間だったのだが、間もなく無数の扉が現れた。
ありとあらゆるデザインの、ありとあらゆる建築様式の扉の群れの中、貴鬼は落ちていく。
黄金聖闘士の身体能力の前に、この程度の速度の落下など止まっているも同然であり、
その扉の中に何があるのか思いをはせる余裕すらあった。
もしかしたら、この扉の中の一つが出口なのかもしれない。
もしかしたら、この扉すべては別の空間へでるのかもしれない。
もしも、もしも、もしもとIFを重ねたところで事態は回転を始めない。
だから貴鬼は行動を起こす。
落下中だが、体を捻って反動を生み出し、最も近い位置にあった扉へと身を躍らせたのだった。
一方その頃、アドニスもまた螺旋回廊の中を落ちていた。
気絶した水銀燈を抱えたままだ。
貴鬼ほど逡巡せず最寄の扉に飛び込んだのは、アドニスの腕の中に「護るべきもの」が居るからだ。
護らなきゃいけない、彼女は美しいから。
護らなきゃいけない、あいつとは違うから。
護らなきゃいけない、裏切るわけにはいかないから。
焦燥にも似た感情と共に、アドニスは扉の中へと踊りこんだ。
そしてアドニスと貴鬼は、nのフィールドで離れ離れになる。
それが如何なる運命となるかは、誰も知らない。
東京都銀成市、私立銀成学園高校。
創立は古く、明治三十三年というから百年以上の歴史を持つことになる。
学生寮を備えたこの学園は、女生徒の制服デザインや学生寮、
プールなど福利厚生面に力を入れていることも有名で、それを目当てに進学を希望する学生も多い。
勉学だけでなく部活動といった外部活動にも力を入れており、
剣道部などは全国大会入賞者をだすほどの活躍ぶりをみせている。
学園には、外部にあまり知られていないが女子限定のラクロス部も存在する。
ラクロス部員で今年二年生に進級し、部員としては中堅どころの腕前、
部内の信頼もそこそこ、成績は決して悪くなく、上の下といったところ。
そんな彼女には一つの悩み事があった。
弟のことである。
彼女、桜田のり嬢の弟桜田ジュンは不登校児なのだ。
それが彼女が学生寮に入寮しない理由である。
もともと責任感が強い割りに押しの弱い彼女には、この弟をどうしていいのか分からない、
彼を放り出して入寮するなどもっての他だが、だからと言ってどうしたらいいのかわからない、
書店でその手の本を買いあさるものの、
いまひとつ弟の行状とは合わない為効果は薄く、彼女の悩みは晴れない。
こうして毎日家路につくのがつらい。
無論、つらいのは弟の桜田ジュンもそうだ。
過敏すぎる精神が状況に耐え切れなかったのか、それ以外の原因があるのか、不登校になって一年。
最近では一日中パソコンにむかっている事も多くなった。
ネット通販で買った商品をクーリングオフしてそのスリルを楽しむという、
どう取り繕っても暗いとしかいいよう無い趣味に耽溺するジュン。
彼自身、暗い、と自覚しているだけマシなのかもしれない。
弟を思い、自然、うつむき加減になる桜田のりだったが、そんな彼女を心配に思うものもいる。
彼女に好意をよせる少年は特にだ。
彼、城戸檄もそうだ。
彼は現在一年遅れで高校生をやっている。
聖戦終了後、今一度己を振り返った。
果たして自分は何をしたいのか、何ができるのか、そして何をすればいいのか。
星矢ほど強くない、盟ほど血の縁にこだわることが出来ない、
悩みに悩んだ結果、彼は獣医を目指すことにしたのだ。
ギャラクシアンウォーズの際、星矢に向かって何万頭も熊を絞め殺した、
などと言ったのは詰まる所ハッタリだ。
厳つい風貌に似合わず、彼は動物好きなのである。
勤労青年をしている星矢、聖域の中核を成す瞬、紫龍、氷河、
旅の空の一輝、昇格の話がもちあがる盟、
聖域とアテナを護る邪武、市、那智、後進の指導にあたる蛮、そして獣医を志す檄。
城戸光政の遺児たちは、それぞれの道を歩んでいた。
そしていま、檄は恋路という迷路へと迷い込もうとしていたのだ。
とはいえ、嗚呼ジュブナイル。
父・城戸光政のように、あれよあれよと言う間に肩に手をやり腰に手をやりベッドイン、
などという手練手管は持ち合わせてはいない。
気になるあの娘の一挙手一投足が気になって仕方なく、気が付けば姿を探す日々、
おかげで受験勉強にも身が入らずと、青春の迷路でリングワンデリングの真っ最中なのだった。
そんな檄だが、彼にも友がいる。
懐の携帯電話がそのボディを震わせ、着信を知らせる。
てれれれ~れれ、ソルジャードリームのメロディに併せて踊る携帯。
ああ、星矢かと檄は軽い調子で電話に出た。
桜田のりが少し鬱向きながら家路についている真っ最中、その弟は何をしていたかというと…。
なんでも人工精霊ホーリエが人形をくれるらしい。
まきますか。まきませんか。
それが意思確認らしい。
まきます。の欄を丸く囲ったのは、桜田ジュンの気まぐれに過ぎなかった。
何時ものようにダイレクトメールの怪しい商品を買い、何時ものようにクーリングオフする。
そのつもりだったのに。
手紙の指示に従い、机の二段目に封筒に収めた手紙を仕舞うと、トイレに行った。
その僅かな間に、手紙は机の中から忽然と姿をけした。
手紙の代わりに、机の前には鞄が置いてあり、
中には紅い外出着を着た美しい金髪の人形が入っていた。
ネジ穴が分からなくてあちこち触ったり、少年らしい好奇心で下着の有無を確認したりした後、
背中に巧妙に隠されたネジ穴を巻くと、彼女は動き出す。
そしていきなりはたかれた。
「なッ…。何すんだよ!」
「全く、人間の牡は想像以上に下劣ね」
少しばかり頬を赤くして、呆れた様な怒ったような声の人形に、ジュンも呆然とした。
ややあって、下着の有無を確認したことをさしているのだと気が付く。
「に、人形が、しゃべって、る…?」
だが、いきなりの事態に彼は混乱するしかない。
「静かにして頂戴、人間」
ジュンの当惑など知ったことではない。気品溢れる仕草で彼女はあたりを見回した。
状況を確認しているらしい。
「お、お前一体なんなんだよ!」
「礼儀がなってないわね。
相手に名を尋ねるときは、先ずは自分から名乗るものよ」
毅然としてそういわれてしまったら、ジュンは従うしかない。
人形に呑まれてしまう己の情けなさに気が付かないのは、果たして良い事なのかは分からないが。
「ぼ、僕は桜田ジュンだ。
お前こそ一体なんなんだよ!」
「ジュン…。
冴えない名前ね」
不服そうな顔をするジュンを無視しながら、彼女は続けた。
「私の名は真紅、ローゼンメイデン第五ドールの真紅よ」
と、そこで真紅はパソコンのほうへと目を向けた。
「おい!人の話きけよ!」と、言いかけたジュンだったが、そこで彼もようやく異変に気が付く。
パソコンのモニターが膨張しているのだ。
黒く沈んだモニターが、まるで風船のように膨らんでいく。
真紅の表情に緊張が滲み出す。
彼女の経験上、こんな事をするのは一人しか居ない。
だが、しかし、それは半分だけ当たり、半分だけ外れた。
「なんだぁあああああああ!」と、ジュンはみっともなく叫ぶ。
金色の鎧を纏った少年が、銀髪の少女(のように見えた、後に真紅と同類だと判明するが)
を抱えてモニターから飛び出してきたのだ。
ジュンはもう、訳が分からなかった。
そして、同時刻。貴鬼もまた純和室の三面鏡から飛び出ていた。
見回すと、どうやら女性の部屋らしい。貴鬼は何となく居づらい気分になるが、
そこで襖の間から何かが覗いている事に気が付く。
貴鬼は生来の好奇心を発揮して、襖を開けると、そこには少女と呼ぶにはまだ幼く、
子供と呼ぶにはそぐわない人形が居た。
怯え三割、好奇心七割、そんな表情でその人形は貴鬼を見上げていた。
そりゃ珍しかろうな、ド派手な金の鎧つけてりゃ。貴鬼がそんな事を思う余裕はすぐさま吹き飛ぶ。
すっと、貴鬼からしたら右隣の位置にある襖がひらいたのだ。
おかっぱというか姫カットというか、そんな感じの髪型の少女が、驚いたような顔で立っていた。
さて、どうしよう。
奇しくも、貴鬼も少女も少女人形も同じことを考えていた。
かくして、銀成市に聖闘士が、エドワードが、ローゼンメイデンが集う。
戦が始まる。避け様のない戦が。
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