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「天体戦士サンレッド ~フロシャイムの姦計!軍曹・孤高の闘い」(2010/01/26 (火) 20:17:28) の最新版変更点
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「―――あらまあ。ヴァンプさんとこの子じゃない。こんにちは」
「ふもっふ!」
フロシャイム川崎支部への道すがら、通りがかりの近所の森末さんに手を上げて朗らかに挨拶するボン太くん。
されど、その和やかな容姿を真に受けてはならない。
彼の裡には、獣が住むのだ。
(フロシャイム…奴等の実態も大分掴めてきたな…)
数百・数千もの構成員それぞれが、並のヒーローを遥かに超える実力の持ち主である事。
幼い子供に対し<フロシャイムは善良な悪の組織>と刷り込みを行っている事。
カードゲームを発売し、法を犯す事無く大金をせしめた事。
異次元への扉を開くほどの科学力の持ち主であるという事。
最近ではとある吸血鬼の一族や恐るべき力を秘めた魔界の戦士、悪の姫君を奉ずる謎の軍団とも接触し、更に勢力を
増している事。
何という事か。一見平和な神奈川県川崎市溝ノ口に、ここまで恐ろしい悪が蔓延っていようとは!
(天体戦士サンレッド…彼の活躍がなくば、既に日本はフロシャイムに制圧されている事だろう…だがこれ程の巨悪に、
大佐殿以外は誰も気が付かなかったとは!恐ろしい…あれだけの力を持った組織が、ここまで完璧にその実情を世間
から隠し通し、堂々と悪の看板を掲げて存在しているという事実が!)
この地に住まう人々は、今はまだフロシャイムの事を<お人好し揃いの悪の組織>としか思っていない。
だが、もしも奴等の本性が知れ渡る事になれば、少なくとも川崎市は大混乱に陥るだろう。
いや、それすら見越して、フロシャイムは人畜無害な悪の組織を演じているのかもしれない。
(サンレッドもいつまで持ち堪える事ができるか…早急にミスリルが動くに足るだけの悪事の証拠を掴んで、奴等の野望
を食い止めねば!)
そんな決意と共に、ボン太くんは川崎支部アジトへと入っていく。
「あ、ボン太くん、久しぶりー!最近顔を見せないから心配してたんだよー」
「これでアニマルソルジャーが全員揃ったね」
「ボン太くん スキ」
アニソルメンバーからのお出迎え。Pちゃんも翼をパタパタさせて挨拶している。
「ふもっ!」
元気に挨拶を返すボン太くん。彼は台所への暖簾をくぐり―――絶句した。
そこには。
「そうそう。中々筋がいいよ、かなめちゃん」
割烹着姿の我等がカリスマ将軍ヴァンプ様。
「そうですか?ありがとうございます、ヴァンプ様」
そして、同じく割烹着を身に付けた千鳥かなめであった。
「ふもぉぉぉぉぉぉーーーーっ(千鳥ぃぃぃぃぃぃーーーーっ)!!!???」
ボン太くんの絶叫が、川崎支部アジトを中心に、半径1kmに渡って轟いたという…。
天体戦士サンレッド ~フロシャイムの姦計!軍曹・孤高の闘い
「―――って、何でアンタがここにいんのよぉぉぉ!?」
耳をツーンと言わせながらも、千鳥かなめはボン太くんに詰め寄った。頭を抱えてガクガク揺さぶる。
「ふ…もふもふもふ、ふもっ!(そ…それはこっちのセリフだ!何故千鳥がここに!?)」
「ええい、相変わらず何を言っとんのかさっぱり分からんわぁぁぁっ!…あ、そう言えば前に悪の組織に潜入するとか
何とか言ってたわね。まさかここだったの?何だってまたここなのよ!?」
脳をシェイクする勢いで、なおも揺する。見かねたヴァンプ様がかなめを押し止め、かなめは息を荒くしつつどうにか
落ち着きを取り戻した。
「ちょちょちょ、ちょっとかなめちゃん!いきなりどうしたの?ウチのボン太くんが何か?」
「す…すいません、ヴァンプ様。ちょっとこいつの事、知ってたものですから…」
「え?かなめちゃん、ボン太くんの知り合いだったの?」
「はい。何と言いますか、こいつは」
「もっふー!」
ボン太くんは大声で会話を遮った。中の人は背中まで冷汗でびっしょりだ。
(危なかった…俺の正体をバラされてしまう所だった!)
既に自分が<組織>の工作員であるという事は勘付かれている筈。にも関わらずフロシャイムが抹殺行動に出ない
のは、向こうにも確証がないということだろう(以前、ケーキに猛毒が仕込まれているものと疑ったのが、後でどれだけ
調べても毒物は検出されなかったので結局食べた。美味しかった)。
まさか彼女がそこまで暴露するとは思わないが、自分の<中身>について言及されれば、そこからいくらでも素性は
洗い出せるだろう。フロシャイムには、それだけの力がある。
(※あるにはあるんです。そういうまともな悪事に使おうとしないだけです)
そうなれば自分はおろか<ミスリル>まで危機に晒されてしまっていた。最悪の事態を間一髪で回避し、どうにか胸を
撫で下ろす。
「もう、ボン太くんたら。そんなに大きな声ばかり出しちゃダメ。近所迷惑でしょ?」
「ほんとにアンタは…いつもそんなんでヴァンプ様達に迷惑かけてんじゃないの?全く…」
まだ耳を押さえつつ、ヴァンプ様とかなめは顔をしかめる。妙に仲の良い様子の二人に、ボン太くんは首を傾げる。
(しかし、千鳥は一体どうしたんだ?これではまるで、フロシャイムの一員ではないか…)
ぞくっ―――
その想像は、余りにも恐ろしかった。
千鳥かなめ―――少しばかりお転婆なのが玉に瑕だけど、いつも元気で明るい少女。
けれど、彼女には<とある秘密>がある。
その<秘密>を巡り、悪党共からその身柄を狙われた事は一度や二度ではない。
そして今、フロシャイム川崎支部に千鳥かなめはいる…しかもやたらとヴァンプ将軍と仲良しになって…!
この二つの符号が示す事実はただ一つ…!
(何という事だ…!千鳥は既にヴァンプ将軍によって洗脳されている…!)
それは、本当におぞましい想像で―――恐ろしい事実だった(少なくとも、彼の脳内では)。
いや、待て。まだ、そうとは限らない。
早急に、本人に確かめてみなければならない。
「ふもっ!」
「ちょ、ちょっと。急に手を引っ張らないでよ」
「あ、ボン太くん!何処行くの?かなめちゃんは今…あー、行っちゃった」
ヴァンプ様はポリポリと頭を掻きつつ、先程までかなめが作っていた<それ>を見つめ、にやりと笑う。
「ククク…よく出来ておるわ。あの娘、本当に見所があるぞ。フフフフフ…」
特に意味はないけど、悪モードに入ってみるお茶目なヴァンプ様であった。
一応言っとくけど、かなめは別に何か法に触れるモノを作ってたわけじゃありませんので、悪しからず。
―――かなめの手を引き、ボン太くんが辿り着いたのは川崎支部アジトの庭。
洗濯物がたなびく牧歌的な背景で、得体の知れないナマモノと仏頂面した美少女が向かい合うという、訳の分からん
光景が展開されていた。
<千鳥…率直に訊こう>
ボン太くんはふもふももふもふしか喋れないので、筆談である。
「何よ、ソースケ」
<ヴァンプ将軍に拉致され、体中を弄り回された挙句に洗脳されたんだな?>
「何でそうなる!?」
バチコーン、と素晴らしい音を立ててハリセンが炸裂した。
<痛いぞ、千鳥>
「じゃかあしいわ!どういう思考回路してんのよ、アンタは!」
当然ながらプリプリ怒るかなめである。
<しかし、奴等は悪の組織だ。何故そこに千鳥がいるんだ?>
「そ、それは…何だっていいでしょ!ソースケには関係ないんだから」
明らかに態度がおかしくなった。ボン太くんは確信する。
(やはり…重要な部分については口を閉ざすように脳を弄られているのか!間違いない…洗脳だ!)
彼は戦慄した。
フロシャイムの監視を怠っていたつもりはない。だというのに…。
自分の目を掻い潜り、千鳥かなめにこうも易々と接触し、手駒にしてしまうとは…!
ボン太くんの脳裏には、悪の女幹部っぽい服(露出度パネェ)を着て悪っぽい高笑いを響かせるかなめの姿が鮮明に
映し出されていた。
「あのね…勘違いしてるみたいだから言っとくけど、別にあたし、フロシャイムに入ったとかじゃ…」
「―――あ、いたいたボン太くん!…と、かなめちゃん。二人して、何してたの?」
と、庭にやってきたウサコッツが駆け寄ってきた。かなめはその愛らしい姿に頬を綻ばせる。
「あら、ウサちゃん。何でもないの。ちょっとこのバカ…コホン、ボン太くんとお話ししてただけよ」
「えー、二人だけのナイショ話?ずるーい!ぼくも混ぜてよー」
「ふふ、はいはい。じゃあ、一緒に遊びましょうね」
かなめは今までに見たこともないような笑顔で、ウサコッツを抱き上げる。
「うふふ、かーわいい!」
「もー、かなめちゃんまでぼくをバカにしてー!ぼくは全然可愛くなんてないもん!」
そんな二人(一人と一匹)の姿を、ボン太くんは茫然と見つめるしかなかった。
間違いなかった。千鳥かなめは身も心も完全に、フロシャイムの構成員と化していた。
「…ふも…」
ふらふらと歩き出し、ボン太くんは川崎支部を後にする。
「あ、ちょっとソー…ボン太くん、どこ行くのよ!?」
かなめの声も、もはや彼の耳には届かない。
何という事だ。
自分の本来の任務において最重要事項は、千鳥かなめの安全を守る事。
だというのに、こうしておめおめと洗脳されてしまうとは!
(…大佐殿に報告だけは、しておかなくては。そして…責任を取ろう)
携帯を取り出し、ボン太くんは決意した。
自宅に隠し持っている爆薬の質・量を思い出す。
(あれだけあれば、川崎支部を吹き飛ばす事くらいは可能だ…そう、この役立たずで愚かな軍曹の命ごとな…)
そう、自爆テロである。誰かこの子を止めてあげて!
―――何かよー分からんけどSF的なすっげー高性能な潜水艦。
その執務室にて、<大佐殿>ことテレサ・テスタロッサ…愛称テッサは、頭を抱えていた。
「…何だったのかしら、あの電話は…」
彼女が秘かに想いを寄せている、寡黙な少年からの連絡。
その内容は、実に不可解なものであった。
『フロシャイムの恐るべき計画を食い止めることができませんでした』
『奴等の野望は、恐らくは既に手の付けられない所まで来ています』
『その上に、千鳥まで洗脳され…』
「…うーん…」
考える。一体、何があったのか。
何だって、彼はあんなにもテンパっていたのか。
今にもありったけの爆弾を抱えて特攻しそうな勢いだった。
その常人を遥かに超越する脳細胞の全てを使って、仮説から更なる仮説を導き出し、辿り着いた答えは。
「な…何てことなの…!」
思わず、涙が零れた。
自分のせいだ。自分があの前途有望で頼り甲斐があって無口だけどかっこよくて素敵な少年(大佐主観)を、こうも
追い込んでしまったのだ。
責任感の強い彼は、自分のバカバカしい頼み事も一生懸命にやりすぎてしまったのだろう。
だけど、彼にも精鋭部隊の一員としての誇りと矜持があったはずだ。
間違っても、あんなノホホンとした悪の組織を調査するために<ミスリル>にいるわけではない。
テッサが知る限りのフロシャイムは御近所付き合いを欠かさず、幼稚園児のためのボランティアで楽しい遠足行事を
プロデュースし、子供から大人まで遊べるカードゲームを作って皆を喜ばせる、そんな組織だ。
(ちなみに主な情報源はウサコッツである。本人は世界征服の一環と言い張っていたが)
恐らく、何故自分がこんなバカな事をやらなければならないのかと、悩み抜いていた事だろう。
けれど<大佐殿から直々に受けた任務だから>と、必死にやり遂げようとした。
不満も何も言わず、自分一人で抱え込んで。
その結果、彼をここまで精神的に追い詰めてしまった―――
<フロシャイムは本格的に世界征服を企んでいる恐ろしい組織>という妄想を創り出し、自分のしている事に意味を
見出したのだ。そうでもなければ、バカバカしくてやってられなかったから。
テッサはそう理解し、泣いた。手元にピストルがあったなら、確実に自分の頭をブチ抜いていただろう。
いや、贖罪として敢えて苦しみを長引かせるため、腹をブチ抜いたかもしれない。
嗚呼、恐るべきはフロシャイム。自分は何一つ手を下すことなく、強大な正義の組織の中核を成す若き才女を、自殺
寸前にまで陥らせるとは!もう一度云おう、フロシャイムは恐るべき悪の組織である!
―――通常とは、相当に違う意味で。
夜である。ボン太くんスーツを脱いだ相良宗介は、街灯の寂しい灯りの下、トボトボと帰り道を歩む。
彼の脳裏には、既に遺書の文面が並んでいる。後は原稿用紙に書き写すだけだ。
(大佐殿…クルツ…マオ…そしてミスリルの仲間達…後は任せた…俺は、俺は…もうダメだ…)
そして学校の皆を思った。
(今思えば、悪くない体験だった…さらば、愛すべき我が母校…愛すべき恩師、愛すべき学友達よ…)
「―――何を捨てられた野良犬みたいな顔で歩いてんのよ、アンタは」
そんな思索に耽る宗介の眼前にいたのは、何かの紙箱を持つ千鳥かなめ。
今や悪の手先と化してしまった少女だった(※あくまで宗介の脳内設定です)。
「千鳥…」
宗介は決意を固めた。こうなってしまったからには、せめて彼女をこれ以上、悪事に加担させたくはなかった。
すっと、拳銃を構える。慣れ親しんだその感触が、今はどこか空々しい。
「お前を殺した後で川崎支部に特攻してヴァンプ将軍率いるフロシャイム怪人諸共、俺も死ぬ!」
「お前だけ死ねぇっ!」
スパーン。ハリセンが炸裂し、宗介は悶絶する。
「ったく、もう…今度はどんなアホらしい勘違いしてんのよ」
「勘違いだと?しかし、千鳥はフロシャイムの手にかかり洗脳…」
「まだ言ってんのか、アンタは!何をどうすりゃそう思えんのよ!」
「いや、川崎支部での千鳥の行動を見る限り、そうとしか…」
「…………アンタは…ホント、一回頭をかち割って中身を見てみたいわ」
はあー、と盛大な溜息をつき、かなめは手にしていた紙箱を差し出す。
「ほら、ソースケ。ありがたく受け取りなさい」
「…これは何だ?」
「試作品よ。秘密にしておくつもりだったけど、このままじゃロクでもない勘違いを続けそうだから、あげるわ」
宗介は訝しげに紙箱を受け取り、注意深く開く。爆発物や毒ガスの可能性も考慮したが、そうではなかった。
「…む」
それは、見事なチョコレートケーキだった。かなめは少し誇らしげに、胸を張る。
「どう?ヴァンプ様も上出来だって褒めてくれたのよ」
「確かに、よく出来ているが…これと今回の件に、一体何の関連が?」
「アンタが知ってるとは思えないけど、バレンタインのためよ」
「ばれんたいんだと?」
当然の如く知らない。知ってる方が驚きだ。
「2月14日。簡単に説明すると、女の子から男の子へ、親愛の証としてチョコレートを贈る日なの」
「何と…そんな行事があったとは、知らなかった」
「でしょうね…だから、まあ、アンタにチョコケーキでも作ってやろうかと思って。それで、友達からヴァンプ様の噂を
聞いたのよ。すっごく料理上手だって。で、美味しいチョコケーキの作り方を教わってるってわけ」
「では…洗脳は」
「されてないっつってんでしょうが」
もう一発、ハリセンをお見舞い。今度は手加減してくれたのか、あまり痛くはなかった。
「…すまない。どうやら、俺の早とちりだったようだ」
「それで拳銃で撃たれたらたまんないわよ、バカ…ま、いいわ。明日学校で、感想聞かせてよ」
手を振りながら去っていくかなめを見送って、宗介は手の中のケーキを見つめる。
「バレンタイン、か…」
一口分だけ指で千切り、口に放り込む。
「…悪くない」
それは、ほんのり甘く。
少しだけほろ苦い、青春のような味がした。
―――天体戦士サンレッド。
これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な闘いの物語である!
なお大佐殿は後日、今回の事の次第を聞いてほっと胸を撫で下ろしつつ、自分もヴァンプ将軍の下でケーキの作り方
を学ぼうかと割と真剣に悩んだという。
※追記
レッドさんは今回さっぱり出てこなかったけど、きっと川崎市の平和を人知れず守って下さっていたのでしょう。
主にパチンコ屋周辺をパトロールしてるのを見かけたから、間違いありません。
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