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第098話 (4-6) - (2014/03/08 (土) 13:55:09) のソース
鐶。 Dブレーンの果てより現れた暗斑帝國・ネプツガレ! 突如侵攻してきた彼らに人類は成す術なく追いつめられた! 唯一の希望は葦嶽アマツが父の命と引き換えに受け継いだ可塑型次元城砦……その名も爆燃砦ヴァクストゥーム! 父の仇を探し闘う彼は次々と各都市を奪還するが、ネプツガレ四棺原譚の1人、ルヴェリエの卑劣な策謀に嵌り絶対 絶命の危機に陥る。消えるアマツの意識。傷つき、動けなくなるヴァクストゥーム。 危機を救ったのは政府防備軍「瓜生」の道祖神ロボ小隊であった。 思わぬ邪魔に激昂したルヴェリエは専用機・十元弩リーベスクンマーの力で破願滅黯の大雨を降らせ洪水を起こす。 呑まれゆく街の中、道祖神ロボ小隊隊長、黒又山キシタ(28)は、直ちに部下たちに撤収を命令。 自らはいまだ動かぬヴァクストゥームを抱え飛び立った。 黄土色の濁り水が轟々と流れる大河川。その中央を土偶が飛んでいく。ブースターで白い波を蹴立て進んでいく。 薄く黄ばんだ灰色の彼方で稲妻が走った。時おり遠くの空が薄く明滅するのは遠い戦地の砲火のせいか。 長くも短くもない黒髪を無造作に分けた無精ヒゲの男……黒又山は別れた仲間の無事を祈った。 (大事な新型とパイロットだ。回収は俺1機でいい。俺の大仙稜は隊長機。一般機より87分早く避難できる。本部に着ける) 瓜生の主力たる道祖神は土偶ソックリで評判は悪い。 (あとは新型との接触。さっきから連絡送っているが) ビコビコとアラームが鳴り、コクピット前面のインターフェイスの一点にノイズ交じりの長方形が現れた。 「ここは……?」 「気付いたか。交信成功」 映像は乱れがちだが顔は分かった。短髪でやや神経質そうな少年にこれまでの経緯を説明する。 ひとまず状況説明と自己紹介が終わると少年──葦嶽アマツは唇を尖らせた。 「離せ。瓜生の手など借りれるか」 「1人で親父さんの仇討ちたいのは分かるけどよ。現状見ろよ」 ヴァクストゥーム。細身で、白鳥を思わせるフォルムの機体には右手と左足がない。先ほどの戦いで根元から破断した。 パイプやコードが剥き出しで火花をバチバチ放ってもいる。とても単独行動できる状態ではなかった。 「だが──…」 言葉を遮るようにけたたましい警報が鳴り響いた。真赤な非常灯に染められるコクピットの中で黒又山は左右の操縦桿を 手早く動かしペダルを踏んだ。壊れた白鳥を右手に抱えたまま急加速し蛇行する土偶の周りで、白い水柱が立て続けに数 十本まき起こった。機雷源に迷い込んだような有様に画面の向こうのアマツは不満顔。 「追ってきたし追いつかれた。これだからショボ推力の道祖神は」 「上空7km後方に十元弩リーベスクンマー! 矢ヲタのルヴェリエちゃんござい!」 黒又山が妙に嬉しそうに呟くのと同時に土偶は各所のバーニアを青白く吹かし反転、 左手をガトリングに換装すると高々と掲げ撃ち始めた。 「撃ちながら下がるぜ!」 「下がるったって振り切れるのかよ! ショボ推力の土偶が、ヴァクス抱えて!」 「撒けねえから戦うんだろうが!!」 怒号。ささくれた白い柱の間を猛然と下がる土偶。やがて弾が尽きたと見え銃身は回転はやめる。 「せめて一発ぐらい掠っててくれよ」 「残念。外れよん」 不意の声。緊迫の黒又山が後部モニター越しに見たのは巨大な光の弩弓を構える人馬。 「一気に後ろ取りますか。さすがだが参ったねえ」 明らかに破滅的な力を蓄えた矢が放たれ──… 彼方あらぬ方へ着弾。水のドームを跳ね上げた。 「外……れた?」 ルヴェリエは驚愕した。 「な? ショボ推力だから詰めてきただろ?」 「うるさい。極秘通信などなくても俺はちゃんとやっていた」 ケタケタ笑う黒又山にアマツは仏頂面だ。その愛機ヴァクストゥームの辛うじて残った左手に輝くものがあった。 それは碧い光波のファルシオン。 「終結の型・破断塵還剣! まさか! 接近を見越し発射直前!」 「そ。斬ったのさ。どうするルヴェリエちゃん? その傷でまだやるかい?」 「なんでお前が偉そうなんだよ。やったの俺だぞ」 「囮は俺だしー」 人馬の胸は大きく切り裂かれていた。焼け焦げ火花を上げるコクピットの中で地団駄踏むトリプルテールの少女が見えた。 「きぃー! 両腕もやられてるし! 矢ぁ撃てないし今日はここまで! 宮崎でリベンジするから来なさいよ!」 敵は去った!! そしてこれがネプツガレ戦役を駆け抜ける無敵のコンビの誕生であった! 続く! 「続き物!?」 「オイ。短編だぞこれは。ちゃんと決着させろ」 「今回は決着しましたし、1000文字……削ってます……よ? 四天王1人……とか黒又山先輩の部下4人……とかも」 読み終えた桜花は絶叫する。斗貴子は怒る。鐶は涼しい顔である。 「……短編でキャラ8人は多いでしょ」 ヴィクトリアは呆れた。 「ちなみに……次回第4話の舞台は宮崎……2機目の可塑型次元城砦……と……ヒロイン…………出てきます」 「知るか!!」 「じゃあ3話目なんだコレ!!」 「全25話……きょうび珍しい……2クール……です。タイトルは……爆燃砦ヴァクストゥーム……です……」 まひろめがけ無表情でブイサインするニワトリ少女。どこまでもマイペースだった。 「物語って表に出ない部分まで作るべきっていうけど。情報量はかなり多い……たった2000文字なのに」 口に手を当て考えこむ千里。何か思うところがあったようだ。 「ちなみに、ご主人言ってるけど……敵は、カイオウセイとかゆートコが、モトネタらしーじゃん。ルヴェリエとか暗斑とか色々」 香美の発言にすかさず反応したのは沙織で 「貴信さんと話できるの? じゃあ聞いて聞いて。四棺原譚だっけ? 四天王っぽい単語はなーに?」 「えーと。メタンとかいう奴らしーじゃん」 「? 携帯電話使ってないのになんで連絡できるの? それにメタン? なんで?」 微かな疑念と思わぬ言葉に目を丸くした。桜花と斗貴子の18歳コンビが講義した。 「海王星が青いのはメタンの影響なのよ」 「そしてメタンは還元端。これ以上還元しない物質だ。化学で習わなかったのか?」 「おー。だから四棺原譚(よん・かんげんたん)」 感心する沙織だが、香美を見る目が不思議に満ちた。貴信とどう連絡しているか気になり始めたようだ。 「ちなみに味方の名前は日本の古代遺跡縛り……です」 「ひかるん物知り!」 まひろは感動した。千里も同じらしくどうすればコレだけ描けるか質問した。 「ロボットアニメ……沢山……みる……コト……です。参戦した作品は…………必ず……チェック……これ基本……です」 「そ、そう。(参戦って何?)」 ぼうっとした顔と返答。眼鏡少女の顔が引き攣った。 「ヴィクトリアさん。何をメモしてるんですか?」 「な、なんでもないわよ!」 毒島の問いに欧州の偏屈ネコかぶりが慌てて何か背中に回した。 こそーっと背後に回ったまひろと沙織は見た。メモ帳を。何かのタイトルと思しきやたら濁点の多い文字列を。 (チェックするんだロボアニメ) (びっきーてばあのゲームに夢中) 「ヴィクトリアはともかく、課題は短編なんだ。描くなら完結しうる題材を選べ」 「おお。さすが斗貴子さん。愛のある厳しさ!」 「だよねー。何だかんだでやめろとは言わないもんねー。 メモを巡りヴィクトリアと揉みあっていた2人が顔を見合わせて笑うと斗貴子はやや赤面した。 「うるさい! か、描く以上は与えられたリソースの中結果を出すのが責任……って! なに真剣になってるんだ私は!!」 「まぁまぁ津村さん。光ちゃんこういうの好きそうだし、千里さんと一緒に頑張ればきっと台本もできるわよ」 「そう……です……何年かけても…………完結……させます」 「締め切りは半日後ですが」 (((そ う だ っ た ! ! ))) 毒島のツッコミに全員が……桜花さえ愕然とした。 「じゃあ……じゃあ…………優勝…………できません……か?」 暗鬱たる碧い瞳の淵に涙がじんわり滲み出た。 「厳しいコトいうけどムリだよひかるん。文章舐めないで。完結は最低条件。優勝するにはそれ以上の努力が必要だよ」 「いや私の見るところ結構……じゃなくて! そもそも優勝自体ないコトにいい加減気付け!」 やや本性を出し棘を刺すヴィクトリアに、斗貴子(そろそろ場の雰囲気に毒されつつある)は言うが誰も聞かない。 「あるよ! 優勝はある! きっとある!」 (ないから。まひろちゃん、絶対ないから) 「無銘くんが見てみたいといっていたロボットアニメの草案ですね! 以前から不肖完結を楽しみにしております!」 「……前から考えてたんだ」 千里は微苦笑した。 「ん」 「次は香美さんね。どれどれ……」 香美。 「ねむい」 「書けェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」 斗貴子の怒号が轟いた。しかし期待する鐶と桜花。 (ある意味おいしい材料……です) (さあどう評価するの小札さん! あなたならできる! きっと上手く実況できる!) 他の者の視線を浴びながら小札はゆっくりと立ち上がった。生唾を飲む一同。話す小札。 「……ふ、不肖少しノドが乾きました故ちょっとコンビニへ…………」 「小札さんさえ投げるレベル!!!」 沙織は白目で叫んだ。横隔膜の震える心からの叫びだった。 小札が退室したので執筆一時中断。 「ここで……再攻撃……です」 鐶。 ・爆燃砦ヴァクストゥーム 全長22m。重量31t。 Dブレーンの果てより現れた暗斑国家・ネプツガレに対抗するため、葦嶽カツトキ博士が創り上げた可塑型次元城砦。 ネプツガレの急襲により命を落としたカツトキ博士の想いを受け継いだ養子・葦嶽アマツが乗り込み操縦する。 必殺技は概念をAdS空間方面から崩壊させる「終結の型・破断塵還剣」。 さいとばる 西都原マナミの操る劈頭楼ベフライウングとはカールピアソンシステムにより合体が可能。 合体後の例外群像ヴァクストゥーム・ベフライウングは常時量子化しておりその実態は把握不可能。 不確定性原理により実質的に宇宙全域に充満しているためあらゆる物質は勝てない。 ケイサルエフェスも一目置いてるしジ・エーデルさえ見たら泣いて悔い改める。超悔い改める。その改心ぶりたるやモジャ モジャ金髪のちっちゃい天使たち6体が周囲に現れラッパ吹いて祝福するレベル。だもんで体中から虹色の光の帯が溢 れ出しマザーテレサに転生し西宮あたりで炊き出しして橋元に褒められる。 ペルフェクティオなんぞスナック感覚ですわ。昼下がりに頬杖づいて寝っころがって尻掻いて相棒の再放送みながらサク サクぅ~~サクっ! ですわ。そのサクサクぅ~~サクっ! が怖いんで奴は次元の向こうに逃げ去り引き篭もった。もうね、 逃げてからは毎晩毎晩「明日くるんじゃないか、夜中くるんじゃないか」って掛け布団頭まで被ってガタガタ震えてたんで、 手違いでこっち戻ってしまったとき追い返してくれたトレーズやらウェントスやらにはね、もう感謝ですよ。言葉には出せな いけど毎日感謝ですよ。 だから戻ってから彼らを祀るため日光東照宮ぐらいでっかい寺作って朝夕必ずお百度参りしてる。 冬場は水かぶってやる。吹雪だろうと3m雪積もってようとインフルだろうとやる。凍った石畳の上、裸足でやる。 年喰って孫やら長男の嫁やらが「おじいちゃんそろそろ年だしやめようよ」とか健康気遣ってくれても「いいやここでやめ たら散っていった恩人たちに申し訳が立たん!」とか生き残った日本軍の老兵みたく頑固に言い張ってケンカして家族会 議になって主治医からドクターストップかかったりもするけど結局家族の目ぇ盗んでやりつづけて皆もうそれが生きる道なん だって諦めるけど理解してくれて、いつも朝夕帰った時テーブルの上にホッカホカの湯気あげてるお茶と好物の沢庵数切れ 置いてくれてて、そういう暖かな家族を得たのはやっぱトレーズとかウェントスとかが命繋いでくれたお陰だって布団の中で 泣きじゃくって、そんである日、そろそろ梅のつぼみが膨らんできた初春のころ、屋根から、前日の晩珍しく積もった雪が、 暖かい朝日に溶かされ綺麗な雫としてポタポタ落ちてる寺の軒下で冷たくなって横たわってんの。でも死に顔には微笑浮 かんでんの。 それぐらいヴァクストゥーム・ベフライウングは怖いしトレーズとウェントスに感謝ですよ。 (↓イデオンと同じ作品に参戦したときのための裏設定) まだネプツリブに掌握(ディス・コントロール)されていた頃のヴァクステゥーム・ベフライウングが破願滅黯の雨を降らして 惑黄昏の極洪水(ラグナロック・シンパシー)が起こったとき第六文明人は大事な人を連れて避難するためイデオンを作った。 「イデオンと同じ作品に参戦したときのためって何!?」 桜花の美しい声が珍しく裏返った。 「念のため……ですよ。念のため……。フフフ……」 紙を差し出しながらドヤ顔し、右コメカミ近くに一等星を浮かべる鐶。 「よく分からないけどまだ完結もしてないのに他の作品とのコラボ考えるの痛いよひかるん」 「というか何だこの文章……。普段と違いすぎる。……ディプレスとかいう師匠の影響か?」 沙織のツッコミ。斗貴子の愕然。死せる両目の自由を! 「四話と思いきや四話じゃなかった……」 (もうファンができてるし) 続きが読めず心から残念そうなまひろに桜花は少し噴き出した。 ババーン! 鐶は控え目な胸を張った。 「そして課題もクリア……です。……大事な人を……連れて……避難……して……ます……!」 「あの、光さん」 「光……で……いいです……よ? 私……いまは……年下……ですし……」 「じゃあ呼び捨てにするけど、光。これじゃお題が申し訳程度よ。ダメだと思う」 諭すような優しい千里の声に鐶は獲物を探すゾンビがごとく両目をうろうろさせた。 「…………。そ……それでも…………二作品描いた……心意気を…………ですね……」 「買えと!? フザけるな! そもそもコレは作品じゃない! 羅列だ! おかしな設定の羅列だ!」 斗貴子がバシバシと原稿を叩くと鐶は今にも泣きそうな、庇護欲をそそる桃色の表情でトテトテ走り桜花の後ろに隠れた。 「あらあらダメよ津村さん。そんな強く言ったら」 「くそう。この場で一番の権力者にすり寄りやがった! 見た目に反して厚かましい!」 ニヤリ。戯画的だが悪い顔で笑う鐶が桜花の背中から一瞬はみ出すのを斗貴子は見逃さなかった。 ヴィクトリアはいうとちょっと瞳が潤んでいた。 「あ、びっきーが泣いてる」 「な! 泣いてないわよ! こんなヘンな話で泣いたりなんかしないわよ!!」 悪友の指摘に顔を真赤にして怒鳴る少女は恥ずかしげである。 (ちょっと本性出てるがいいのか?) (後半のおじいさんの下りでグッと来たんでしょうか?) (まぁ、家庭環境が家庭環境だし、家族ネタには弱いのよきっと) 戦士側の女子たちはうんうん頷いた。 (家族、か) ヴィクトリアでさえホロリとくる話にまったく反応できなかった自分に気付き斗貴子は陰を落とす。 (彼女がしんみりできるのはきっと日常を知っているからだろうな。覚えているからこそ奪った戦団を憎んでもいる) 覚えていないにも関わらずホムンクルスを憎むコトのちぐはぐさ。 斗貴子の煩悶は尽きない。 管理人室・地下。 剛太と無銘。 竹刀を正眼に構えた両者、一足一刀の間合いに入ったまま動きを止めた。 剛太は防具フル着用。無銘は相変わらず素肌。ホムンクルスのため必要ない。 ここまで勝ち続け波に乗っている無銘は、相手が人間というコトもあり、余裕があった。 (我のタイ捨……まだまだ発展途上だが新米戦士程度なら十分翻弄できると分かった。だが彼奴は先ほど何やら早坂秋水 に知恵つけられていたようだ) ネコ型の香美には劣るが、無銘の耳もまたいい。忍びという自負もあり鍛えたチワワの耳は幸い人間への形状変更を経ても さほど劣化しておらず(おそらく感覚野の神経的なものが発達したのであろう)、秋水たちの会話は総て耳に入っている。 であるから目論みにも薄々だが気付いている。 (流れから察するに奴らは我に勝とうとするだろう。この立ち会いを仕組んだ人のうちブラボーさんは戦士側。早坂秋水に 教導をさせそれによって術理への理解、朋輩との連携を深めるつもりだ) 出方を見るように切っ先で軽くく打ち合いながら考える。 (実際に干戈を交えた栴檀どもが言っていたが、あの新米は外観に似合わず切れる男。となればブラボーさんや早坂秋水 の教導の意味するところもまた気付いた筈。鍛えるべきは武技ではなく頭脳面だと。武術の機微……我との読みあいを制す コトが勝利であり強化だと) 叩きのめすコト自体は容易い。意表を突くタイ捨の技など幾らでも知っている。 兵馬俑からフィードバックしつつある忍法を忍法らしく密かに使えばまず勝てる。 (だが……それをやれば師父の面目は潰れる。母上は悲しまれる。『不肖が両断されたゆえ遺恨を……』と気にされる。 栴檀どもは怒る。鐶に至っては偉そうに説教するだろう) 飛び込んできた剛太の竹刀を軽く払う。それだけで剛太の体は面白いようにつんのめった。 人とホムンクルス。馬力は元より違う。小細工など使わずとも剣道において叩きのめすのも可能だった。 (だが) 茫洋たる影が胸に浮かぶ。 (我には何としても果たしたい望みがある!) 打とうと思えば打てる剛太を敢えて見逃し後ずさる。面の奥から怪訝そうな瞳が見えた。 (いま打っても糧にはならん) 以前繰り広げられた戦士と音楽隊の戦いは結局総角による後者の力の底上げが目的だった。 それは彼らの旅における原則だった。共に旅する総角は何かにつけて部下たちに課題を出し超えさせた。 (いま師父がこの立会いに意義を唱えぬのは原則に反さぬからだ。我が向上しうる機会と見たからだ) 忍びにとって主の命令は絶対である。まだ若輩の無銘ではあるが、それだけに純粋な忠誠心がある。イヌ型なのも作用 しているだろう。目先の、個人的な勝利の陶酔より、総角という主君の利益を第一に考えている。で、あるから勝ち戦でも 深追いはしない。好きな古代中国の軍記ものでは深追いした者は必ず負ける。 (……ココは真っ当な剣道で戦うのが吉。古人に云う。腹八分目に医者いらず。タイ捨の肩慣らしは十分やった。問題点 も洗い出した。これ以上の勝ち星は無意味どころか気を緩める。敗亡覚悟で読み合いの基礎を固めるが後のため) 両者再び一足一刀の間合い。剛太の動きはやや悪い。 「ブラボー。鳩尾無銘は真向勝負で行くらしいな」 「ええ。ですがそれが却って中村の読みを潰しています」 「……だな。フ」 遠巻きに様子を見ていた秋水たちが口々に感想を述べる。 「読みには蓄積が必要です。タイ捨流に限って言えば先ほどまでの立ち会いで型や呼吸、癖といった様々な情報を得た筈です」 「フ。だがそれが白紙になった」 「正々堂々を選んだからこそ、手の内が読み辛くなった。皮肉な話だがある意味恩恵だな」 荒唐無稽な剣法から一転まっとうな剣道へ。 (今の無銘は手ごわい。だが君ならきっと……勝てる) 秋水は無言のエールを、固まり気味な剛太の背中にそっと贈った。 剛太は仕掛けた。前進しながら右から左から面を打ち下ろすが悉く捌かれる。 (なら小手だ!) 面を見せかけ身長差ゆえ上がりがちな手首を狙って振り下ろすが無銘はスルスルと左開き足で後退。空を切る竹刀。 「剣道でも動けるのか彼は」 「フ。それはもう。俺が手ほどきしましたからね防人戦士長」 「中村は更に踏み込み胴を狙うが」 硬く小気味いい音とともに裏鎬で半ば打ち落とすよう回避する無銘。 一足一刀の間合いから2歩ずつ後ずさったぐらいの距離で両者いったん制止。 ここまでで剛太の方は息が上がり始めている。無銘は平然と正眼に構え待つ姿勢。 「攻めあぐねてる訳じゃなく」 「そうだな。フ。律儀な奴。新人戦士の駆け引きを待っている」 「彼もまた武術的な機微の勝負を望んでいる、か」 一同の思惑は無論わかっている剛太だが、体はそれについていかない。 (駆け引きやろうったって仕掛けるたび軽くあしらわれているんだぜ? そんなんでどうにかできるのか?) 一瞬弱い考えが掠めたが、それを振り払うのはやはり斗貴子だ。 (弱気になんな俺。ずいぶん負けちまったがそれが斗貴子先輩助ける土台にならないって決まった訳じゃねぇ。武術の機微 とやらが先輩守る術になるなら俺はやる。何度負けようが齧りついてモノにしてやる) 力量差はこのさい言い訳にもならなかった。むしろ駆け引きとは圧倒的な差を埋めるためのものである。ある意味温情的 な──もっとも彼は彼の打算のうえ蹂躙を選ばなかったのだが──無銘さえ知略で出し抜くコトができないならきたる決戦で 剛太はついぞ斗貴子のためになれないだろう。 (剣道型に切り替えやがったお陰でさっきまでの観察がパーだ。読み辛くはあるが、相手の手の内なんざ見えない方が当然 だ。それでも俺は色んな戦いに勝ってきた。ゼロから僅かな手がかりを頼りに見抜いて) 気を静めるべく原点に立ち返る。数々の戦闘で行った駆け引き。それは何故奏功したか考える。 そうしていると、最近闘った、無銘と系統を同じくする相手が浮かんだ。 (……そういやああの出歯亀ニンジャも忍びだったな。忍びってのは任務遂行のため恐ろしく合理的で冷徹だ) 文に起こせば長いが、漠然とした、概念的な考えが剛太の頭を駆け抜けたのは刹那である。 (コイツは読み合いで勝つためにさっきから正攻法で攻めてこない訳だが) 剣の攻めには2つある。有形と無形。体を攻めるものと……心を攻めるもの。 秋水と防人が剛太をして武術向きだと評したのは後者に即しているからだろう。 むろん当人は気付かないが、体術で勝てないという事実が自動的に心理戦を組み立て始めた。 (なぜあのニンジャ小僧は読み合いで勝ちたいのか? ひっくり返して考えてみよう。まず俺が読み合いやろうとしてるのは 斗貴子先輩のためだ。不慣れで負けの多いコトを敢えて選んだのは、そうしてでも先々に役立てたいもんがあるからだ。 となればこのニンジャ小僧にもそういう戦略的な目的がある筈。それは何だ? 小札や鐶を守るためか? 違う) 小札には総角がいる。鐶に至っては戦士6人相手にしてようやく僅差で負けたほどだ。 (目先の勝利を逃してでも読み合いを望む理由。それは昨日聞いたコイツの前歴と繋ぎ合わせれば自ずと見える) イオイソゴ=キシャク。無銘を犬の体に押し込めた仇敵。 老獪きわまる忍びの大家(たいか)。 (レティクル木星の幹部。恐らく鳩尾にとって俺との戦いは仮想戦。頭使うタイプだがまだ新人でしかも不慣れな剣道をして いる俺すら出し抜けないようではイオイソゴにも勝てないと……そう思ってやがるな) そこまで考えたところで剛太は無銘との決定的な差に気付く。 (アイツとじゃ目的の質が違う。俺は別に勝ちたい敵はいねえ。斗貴子先輩守れさえすればいい。もちろん敵斃せりゃそれ に越したコトねぇけど、どうしても勝てそうになけりゃ身を挺して先輩守ればいいだけだ。先輩は強いからな。俺が楯になって 隙作りゃ絶対勝てる) 斗貴子さえ守れれば個人的な勝利は別に要らないと思う剛太と。 (絶対に仇敵を斃したいと願うニンジャ小僧) この局面での読み合いにおける”負け”の重みは必然的に違ってくる。 (俺は別に負けようがいい。掴めるまで繰り返すだけだ。そう決めてる) けれど無銘は違う。イオイソゴに遥か劣るルーキーへの敗北は確実に自信を揺るがせる。 (つまりだ。俺の動きに敏感なんじゃないか? 過剰といえるぐらい警戒してくる。裏を読む。だからこそ仕掛けるときは内 心疑う。フェイントだと見抜かれるのではないか、と) 忍術とタイ捨。剣道での力押し。剛太に勝ちうるあらゆるカードを捨ててまでイオイソゴに備える無銘だから読み合いには 全力だろう。 (だったら) (……来る!) 剛太の踏み込みにようやく読み合いの始まりを察知した無銘は平凡きわまる正面を敢えて受け止め鍔迫り合いを挑む。 剛太もそれは読んでいたらしく両者は激しく押し合いだした。もっともそこは人とホムンクルス、馬力の少ない方が面白い ように押されていく。 そこで剛太が初めて変則的な行為を見せた。後退しつつあった右足を大きく跳ね上げたのだ。 「スカイウォーカーの蹴り!?」 「タイ捨を真似たか!?」 先ほどの特訓を見ていた秋水と防人が驚く中、身を引く無銘は竹刀を返す。頭よりやや高い箇所に柄を引きつけ左半身 を庇った。そこに蹴りが炸裂するかと思いきや、剛太はヘソの辺りまで上げた右膝を急速に下げ倒れこむよう突きを見舞う。 (フェイント!) (フ。蹴りを使うがゆえ蹴りを疑う無銘をハメる魂胆か) 術理上あまり好ましくない踏み込みを選んでまでした引っ掛けにしかし無銘は掛からない。流れるような手つきで正眼に 構えなおすと、迫りくる突きを緩やかにすり上げた。 「ブラボー。読んでいたか」 「無銘は面に移るようだ 「正攻法だな。フ」 滑らかに剛太の中心めがけ竹刀を戻した無銘が面を振り下ろし──… 決定的な乾いた音が訓練場に響く。 「……」 「予定より遅れた……やっぱ鍛錬必要だわこーいうの」 (読まれるコトを読んでいた、か。さすが中村) 震える剛太。無銘の竹刀はその面に届いていない。あと30cmという所で剛太の竹刀の鍔元に阻まれたのは一瞬のコト、 剛太はまるで無銘を迎えるようにアキレス腱から全身のバネをアップに解放、無銘の打突をすり上げるや面に転ずる。 「表鎬で受けた!」 「フ。面すりあげ面。相手が小柄なほどやりやすい技」 「足のバネ……重力も存分に使っている! ブラボーだ!」 (スカイウォーカー特訓で疲弊した足は核鉄で治療済み! 特にアキレス腱は念入りにやった! 弾性上げるために!) 人間が術理でホムンクルスの高出力を上回る奇跡のような瞬間だが (だがそれも読んでいた!) (手ごたえが来ない……? 避けられた? いや!!」 予想に反し会心の打撃を得られない剛太は目を剥いた。 「身長差か」 「同年代なら問題なく当たっただろう。だが小兵である無銘には若干の猶予が与えられる」 「彼もまた俺の教えを活かしたか」 ──『相手に攻撃を察知させない』。たったそれだけを実現するため俺は体を鍛えた。いいか。鍛錬そのものが目的じゃな い。武術的な機微で相手より優位に立つため鍛えるんだ」 (しまった! そういう優位、小さい奴なりのアドバンテージを忘れていた!) 面すりあげ面が有効なほど小さい相手なのだ。面が届き辛いというコトまで考慮に入れるべきだった……。 剣道初心者ならではのつまらない不覚を悔いる剛太に対し (見られているからこそ気にも留められぬ要素! それを活かす! 古人に云う、これすなわち陽忍なり!!) 素早く腕を引き突きに移行する無銘。 その顎が上がっているのを見た剛太は咄嗟に竹刀を正眼に下げた。 「小手を取られかねない動きだが」 「フ。突きに全霊込めた無銘は打てないし止まれない」 無謀にも剛太、突きに対し鍔迫り合いを敢行! (俺なら避けるか小手を取る) (フ。同じく) 熟練者2人が目を丸くする常識外れだが剛太そのまま突きで浮き足立つ無銘を右後方へ追いやり面を決めた。 「表崩し!」 「無銘……。だから顎を上げるなと…………」 「フ。勝負ありだ」 竹刀を取り落とした剛太は毟るように面を取り激しく息をつき始めた。 「ああクソ疲れた! あちこち痛いし! ホム相手に武術とか二度とやりたくねえ!」 大声で不満を漏らす。だがひとしきり叫ぶと気分は段々落ち着いてきた。 (でも、まあ、アレだな) 様々な読み合いと咄嗟の機転で初めて打てた無銘の面。 (ヤッベ。すっげえ気持ちよかった) そもそも無銘はかつて斗貴子に敵対特性で以て重傷を負わせた男なのだ。 怨恨を晴らせたという点でも爽快だし、剛太自身先ほど散々痛めつけられた経緯がある。 (そんな生意気なニンジャ小僧に一撃かませたのは悪くねえな。うん) カズキも一時期秋水ともども剣道に勤しんでいたと言うが、その道でボコボコに出来たら尚いいだろう。 「分かっただろう。剣術とは駆け引きだ」 「早坂……」 座り込む剛太を上から覗きこむ秋水は淡々と呟く。 「君達がやったように、敢えて隙を作る場合もある。敵に攻撃させるんだ。いかな堅牢な構えでも攻めた途端……崩れる。 ほころびが生じるんだ」 「だから敵に仕掛けさせこれを打つ……だな。打たれるコトもある。ソレだけは身に染みて分かったって。今度こそ、な」 垂れ目を覗き込んだ美丈夫は無言で力強く頷いた。それは何よりの太鼓判だった。理解を理解した印だった。 「ところでどうだった中村。剣道は楽しかったか?」 剛太はちょっと目を泳がせた。頭だけはいい少年である。楽しいといえば秋水はそれをネタにグングン来るだろう。聞きた くもない剣術の話を生真面目な様子で延々と、かつマジメすぎてつまらない様子でやるだろう。 「心底楽しい訳じゃねえよ。いまの戦いでマメできたし足だってまた限界。防具も臭いし相手は厄介だし……なんでお前こん なのが好きな訳?」 「厳しくない津村に君は魅力を感じるか?」 からかうような、しかし見事すぎる返しに剛太の脳髄は稲妻に撃たれた。 「お前分かってるし俺も分かった!!」 「だろう」 微笑する秋水と拳を打ち付けあう。お互いの理解が深まった気がした。 「でも俺にぞっこんでいつも優しい先輩もそれはそれで」 「……あ、ああ」 とろんとする剛太に秋水はちょっと引き気味だった。 「負 け た ! !」 無銘はがくりと膝をついた。 「イオイソゴどころか新人戦士に負けた! 読み合いで負けた!!」 顔は真青、絶望にガタガタ震えている。 「フ。気にするな。勝敗は兵家の常だ。忍びが竹刀でよくやった」 「師父……」 しゃがみこみ頭を撫でる総角に無銘の瞳が潤んだのは嬉しさよりも報えなかった悔しさゆえか。 「そうだ。君は君で十分考えて闘っていた。ブラボーだ。勝ち星の方が多いし負けたのだって僅差。可能性はまだあるさ」 「ブラボーさん…………」 後ろで仁王立ちする防人に少しはにかみながらも無銘はまだ俯いたままだ。 「これで顎さえ上げてなければ勝てたのにな……フ」 (そうだ……。顎。…………早坂秋水の忠告受け入れていれば…………) 四つん這いで落ち込む無銘を防人も総角もそっとしておくコトにした。 (フ、根は素直な奴だ。すぐ立ち直るだろう) (忍びの本質は正心。俺たちの意を汲み敢えて専門外の剣道で勝負した時点で忍者としても成長している) 石川五右衛門……。風摩小太郎……。 歴史上、悪心を催した忍びはどれほど術技が優れていても滅ぼされた。 無銘が仇敵と狙うイオイソゴ=キシャクもまた悪心の忍びである。 「ナックルダスターでシルバースキン破れ!? 無茶でしょそれ!」 防人の訓練は厳しい。やっと無銘に勝ったと思ったら次なる課題が出された。 「理論上は可能だぞ。硬化再生より早く第二撃を叩き込めば行ける」 「理屈の上ではそうですけど! 仮にアッパー後の密着状態でモーターギア回転させても破壊力は低いんです。シルバー スキン爆ぜさせるコト自体まず無理ですって」 「ん? 別に殴ってもいいんだぞ?」 「殴るって……。アッパーしてからすぐにですか?」 「その通りだ。そもそも如何なる攻撃であれ一撃で決着するコトは稀だ。仮に致命傷を与えたとしても、最後の悪あがきで 思わぬ反撃が来たりもする」 「剣道でいうところの残心……拳打後に何か攻撃を打てるよう訓練すべきだ」 「俺はどっちかというと遠距離戦向きなんだけどな……」 とはいえ先ほどの戦い、体が思惑通り動かなかった局面が何度かある。 人間形態になって間がなく、剣道にも不慣れで、しかも蹂躙は自重していた無銘相手でさえああである。 接近戦に持ち込まれるや守るより早く斗貴子が傷つけられては意味がない。 「分かったよ。やるよそれも」 大儀そうに目を瞑りながら剛太は答えた。 (フ。つくづく動かしやすい奴) 総角は静かに笑った。