Humpty Dumpty sat on a wall,◆CFbj666Xrw
反応速度はどちらも人を超えていた。
レミリアの方が早く、しかし致命的には至らない速度の差。
一瞬で距離を詰めるよりも、準備済の魔法を半瞬で発動する方が僅かに早い。
『Divine Shooter』
ヴィクトリアがレイジングハートを使って魔法を発動する。
即座に三つの球体がレミリアに襲い掛かった。前からも左右からも襲い来る魔弾。
レミリアは不敵にそれを嘲笑う。
「フン、どうしてやろうか」
跳躍した。
くるりと前方一回転を交えて走る速度を落としもせずに飛び越える。
「墜ちなさい」
声と共にレミリアを前方と上方から襲う二つの魔弾。
ディバインシューターで放たれるスフィアの数は五つ。即ち二つが温存されていた。
対する空中には足場が無い。地を這いずる者に突然の方向転換などできはしない。
空中での高速戦闘は、それを否定する所から始まる。
「おまえがね」
レミリアは翼で夜闇を叩いて空気を足場に加速した。
前方からのスフィアを容易く切り落とし、足を止めるどころかこれまでよりも更に、速く。
放たれた矢の速さで突き進む。
『Protection』
展開された防御魔法を気にもせず、レミリアは剣を振り抜いた。
ヴィクトリアが生きていたのは直前で飛び退いた成果だった。
「この! ちゃんと仕事をなさい、レイジングハート!」
『いいえ、違いますI.M。彼女の斬撃は通常の防御魔法では止められません』
圧倒的な攻防の差に歯噛みする。
極めて高い肉体能力を持つ吸血鬼の中でもとくに肉弾戦を好むレミリアと、
桁外れの切れ味を誇り、その上に所有者の肉体能力を大幅に底上げするラグナロク。
その結果として生まれた斬撃はプロテクションを素通りした。
まるでそこに何も無いかのように通り抜け、その後でプロテクションが粉砕されたのだ。
「どうしたの、紛い物。どうしたのレイジングハート。
フランと遊んだんだろう? フランを殺したんだろう? それでその程度だというの?」
ヴィクトリアは焦りを抑えこんで考える。
どうすればこの状況を打開できる? 十分な答えは見つかりそうにない。
それならせめて、少しでもマシな手は? 一つ、結論が出た。
「レイジングハート、空を飛ぶ魔法が有ったわね」
『空中戦は推奨出来ませんが、よろしいのですね?』
ヴィクトリアにもそんな事は判っている。
今見せつけられた通り、自前で羽を持つレミリアは空中戦も得意とするらしい。
対するヴィクトリアに空中戦の経験は無い。空で戦いを挑むなど無謀の極みだ。
「地上よりマシよ」
だが地上で戦えば次で確実に斬り殺される。
レイジングハートに入っている魔法とそこから組み立てられる戦術はシンプルだ。
相手の攻撃を強力な防御魔法で凌ぎ。
相手の足を誘導弾あるいは捕縛魔法で止め。
相手の防御をより上回る圧倒的な火力で吹き飛ばす。
この力任せの戦術はその単純さ故に強力だが、単純さ故に力負けする相手には弱い。
レミリアの攻撃は防御魔法で止める事が出来ず、先手を打って倒す事さえできない。
防御面の戦術が完全に崩壊してしまっている。
それなら基本戦術を放棄して避けと逃げに徹するしかない。
当然ながら生まれる欠点は、レミリアに攻撃を当てるのが更に難しくなる事だ。
(ただの時間稼ぎでも、やるしかない!)
『Flier Fin』
レイジングハートによる魔法の発動と共に、戦場は空へと移った。
レミリアの方が早く、しかし致命的には至らない速度の差。
一瞬で距離を詰めるよりも、準備済の魔法を半瞬で発動する方が僅かに早い。
『Divine Shooter』
ヴィクトリアがレイジングハートを使って魔法を発動する。
即座に三つの球体がレミリアに襲い掛かった。前からも左右からも襲い来る魔弾。
レミリアは不敵にそれを嘲笑う。
「フン、どうしてやろうか」
跳躍した。
くるりと前方一回転を交えて走る速度を落としもせずに飛び越える。
「墜ちなさい」
声と共にレミリアを前方と上方から襲う二つの魔弾。
ディバインシューターで放たれるスフィアの数は五つ。即ち二つが温存されていた。
対する空中には足場が無い。地を這いずる者に突然の方向転換などできはしない。
空中での高速戦闘は、それを否定する所から始まる。
「おまえがね」
レミリアは翼で夜闇を叩いて空気を足場に加速した。
前方からのスフィアを容易く切り落とし、足を止めるどころかこれまでよりも更に、速く。
放たれた矢の速さで突き進む。
『Protection』
展開された防御魔法を気にもせず、レミリアは剣を振り抜いた。
ヴィクトリアが生きていたのは直前で飛び退いた成果だった。
「この! ちゃんと仕事をなさい、レイジングハート!」
『いいえ、違いますI.M。彼女の斬撃は通常の防御魔法では止められません』
圧倒的な攻防の差に歯噛みする。
極めて高い肉体能力を持つ吸血鬼の中でもとくに肉弾戦を好むレミリアと、
桁外れの切れ味を誇り、その上に所有者の肉体能力を大幅に底上げするラグナロク。
その結果として生まれた斬撃はプロテクションを素通りした。
まるでそこに何も無いかのように通り抜け、その後でプロテクションが粉砕されたのだ。
「どうしたの、紛い物。どうしたのレイジングハート。
フランと遊んだんだろう? フランを殺したんだろう? それでその程度だというの?」
ヴィクトリアは焦りを抑えこんで考える。
どうすればこの状況を打開できる? 十分な答えは見つかりそうにない。
それならせめて、少しでもマシな手は? 一つ、結論が出た。
「レイジングハート、空を飛ぶ魔法が有ったわね」
『空中戦は推奨出来ませんが、よろしいのですね?』
ヴィクトリアにもそんな事は判っている。
今見せつけられた通り、自前で羽を持つレミリアは空中戦も得意とするらしい。
対するヴィクトリアに空中戦の経験は無い。空で戦いを挑むなど無謀の極みだ。
「地上よりマシよ」
だが地上で戦えば次で確実に斬り殺される。
レイジングハートに入っている魔法とそこから組み立てられる戦術はシンプルだ。
相手の攻撃を強力な防御魔法で凌ぎ。
相手の足を誘導弾あるいは捕縛魔法で止め。
相手の防御をより上回る圧倒的な火力で吹き飛ばす。
この力任せの戦術はその単純さ故に強力だが、単純さ故に力負けする相手には弱い。
レミリアの攻撃は防御魔法で止める事が出来ず、先手を打って倒す事さえできない。
防御面の戦術が完全に崩壊してしまっている。
それなら基本戦術を放棄して避けと逃げに徹するしかない。
当然ながら生まれる欠点は、レミリアに攻撃を当てるのが更に難しくなる事だ。
(ただの時間稼ぎでも、やるしかない!)
『Flier Fin』
レイジングハートによる魔法の発動と共に、戦場は空へと移った。
* * *
(な、なんでこんなところにあいつが居るのかしら?)
ローゼンメイデン第二ドール・金糸雀は少々間が悪かった。
姉妹を捜す為にこれまで移動していない場所へ向かった彼女は、北東の市街地に辿り着いた。
この選択自体に特別間違いはなかっただろう。
問題は間の悪さだ。
ダイレクに乗り夜闇に紛れて空を飛んでいたら、突然森で見たレミリアが舞い上がってきたのだ。
慌てて近くに建っていた時計台の鐘に飛び込んだ。
しかしレミリアと先に上がってきた仮面の少女が目の前で撃ち合いを始めてしまったのだ。
(どどど、どうすればいいのかしらー!!)
目と鼻の先を掠めた流れ弾に息を呑む。
金糸雀は仮面の少女ことヴィクトリアが何者かを知らないが、レミリアは確実に敵だ。
だが敵の敵が味方と限らない前例は既に経験済みだし、そもヴィクトリアは明らかに押されていた。
ローゼンメイデン第二ドール・金糸雀は少々間が悪かった。
姉妹を捜す為にこれまで移動していない場所へ向かった彼女は、北東の市街地に辿り着いた。
この選択自体に特別間違いはなかっただろう。
問題は間の悪さだ。
ダイレクに乗り夜闇に紛れて空を飛んでいたら、突然森で見たレミリアが舞い上がってきたのだ。
慌てて近くに建っていた時計台の鐘に飛び込んだ。
しかしレミリアと先に上がってきた仮面の少女が目の前で撃ち合いを始めてしまったのだ。
(どどど、どうすればいいのかしらー!!)
目と鼻の先を掠めた流れ弾に息を呑む。
金糸雀は仮面の少女ことヴィクトリアが何者かを知らないが、レミリアは確実に敵だ。
だが敵の敵が味方と限らない前例は既に経験済みだし、そもヴィクトリアは明らかに押されていた。
ヴィクトリアが放つ弾幕を尽く回避したレミリアが剣を振るう。
ヴィクトリアも空の広さを最大限に利用して必死に躱す。右へ左へ、上へ下へ。
それでも空中を縦横無尽に飛び回りレミリアの斬撃は時を経ずしてヴィクトリアを捉えてしまう。
『Protection Powered』
先程より数段強固なバリアがヴィクトリアを包み込みその斬撃を受け止めた。
にもかかわらず一撃で蜘蛛の巣のような無数のヒビが走る。
レミリアは続けて蹴り上げる。バリアの反動で少し吹き飛ばされる。
吹き飛ばされながら四本の杭型の魔弾を放つ。バリアが軋む。
攻撃を受け止めたというのに、反撃に転じる余裕も逃げる余裕さえも生まれない。
レミリアは開いた距離を加速に使い、再突撃した。
「バ、バリア爆破!」
『Barrier Burst』
ヴィクトリアの指示に従いレイジングハートがプロテクションパワードを爆破する。
――もしかすると、これで戦況は変わっていたかもしれない。
ヴィクトリアは距離を開け、レミリアに対して十分に強力な策を打てたかもしれない。
レミリアが森でばくだんいわのメガンテを受けていなければ。
弾幕ごっこの外にある存在をまだ知らなければ。
レミリアは突撃したのと殆ど同じ勢いで空中をバックステップ、かわしてみせる。
そして再び再突撃。剣を一振りして爆発を切り裂いた。
その向こうにはほんの僅かしか距離を開けられなかったヴィクトリアの姿がある。
更に加速したレミリアの蹴りがヴィクトリアに直撃した。
「かはっ」
受け止めたレイジングハートの柄が軋む。受け止めきれない。
ラグナロクの補正は格闘面にまで及んでいるのだ。
レミリアは吹き飛ばされたヴィクトリアに更なる針弾を送りつけてやった。
ヴィクトリアはそれをあえて受ける。いや、受けるしかない。
耐えるだけで反撃できる機会さえ数少ないのだから。
バリアジャケットとホムンクルスの強固な肉体が無数の針弾に耐えきった。
「今……! 受けなさい、『アクセルシューター・シャイニングケージシフト』!」
光の軌跡を引いて8発の魔弾が夜空を飾った。
追撃する事も出来たのに悠然と待ち受ける吸血鬼を引き裂かんと魔弾が踊る。
ヴィクトリアも空の広さを最大限に利用して必死に躱す。右へ左へ、上へ下へ。
それでも空中を縦横無尽に飛び回りレミリアの斬撃は時を経ずしてヴィクトリアを捉えてしまう。
『Protection Powered』
先程より数段強固なバリアがヴィクトリアを包み込みその斬撃を受け止めた。
にもかかわらず一撃で蜘蛛の巣のような無数のヒビが走る。
レミリアは続けて蹴り上げる。バリアの反動で少し吹き飛ばされる。
吹き飛ばされながら四本の杭型の魔弾を放つ。バリアが軋む。
攻撃を受け止めたというのに、反撃に転じる余裕も逃げる余裕さえも生まれない。
レミリアは開いた距離を加速に使い、再突撃した。
「バ、バリア爆破!」
『Barrier Burst』
ヴィクトリアの指示に従いレイジングハートがプロテクションパワードを爆破する。
――もしかすると、これで戦況は変わっていたかもしれない。
ヴィクトリアは距離を開け、レミリアに対して十分に強力な策を打てたかもしれない。
レミリアが森でばくだんいわのメガンテを受けていなければ。
弾幕ごっこの外にある存在をまだ知らなければ。
レミリアは突撃したのと殆ど同じ勢いで空中をバックステップ、かわしてみせる。
そして再び再突撃。剣を一振りして爆発を切り裂いた。
その向こうにはほんの僅かしか距離を開けられなかったヴィクトリアの姿がある。
更に加速したレミリアの蹴りがヴィクトリアに直撃した。
「かはっ」
受け止めたレイジングハートの柄が軋む。受け止めきれない。
ラグナロクの補正は格闘面にまで及んでいるのだ。
レミリアは吹き飛ばされたヴィクトリアに更なる針弾を送りつけてやった。
ヴィクトリアはそれをあえて受ける。いや、受けるしかない。
耐えるだけで反撃できる機会さえ数少ないのだから。
バリアジャケットとホムンクルスの強固な肉体が無数の針弾に耐えきった。
「今……! 受けなさい、『アクセルシューター・シャイニングケージシフト』!」
光の軌跡を引いて8発の魔弾が夜空を飾った。
追撃する事も出来たのに悠然と待ち受ける吸血鬼を引き裂かんと魔弾が踊る。
「な、なんなのかしら、この線は」
金糸雀は隠れ場所から顔を覗かせ、いつの間にか張り巡らされた光線に首を傾げた。
ぼんやりと光る不思議な線。それが無数張り巡らされている。
丁度顔を引っ込めていた時だからよく判らないが、何かが通り過ぎたような風が吹いて、
その後にこの奇妙な光線が残っていたのだ。
そのうっすらとした光は一見するとそれほど危険な物には思えない。
だからか、止せばいいのにふと好奇心が沸き上がってしまった。
好奇心に突き動かされて手を伸ばし……指先ちょっぴり一瞬だけ、触れてしまった。
「あっちゃああああぁっ!?」
ライターやマッチの火に一瞬触れたみたいな熱さに飛び上がる。
それから気付いた。
「………………あ」
予測していた特殊な攻撃――無数の光線をかいくぐって刃を振るったレミリアの視線と、
回避用の加速魔法アクセルフィンで辛くも突撃を回避したヴィクトリアの視線が、
ばっちり金糸雀に向いていた。
金糸雀は隠れ場所から顔を覗かせ、いつの間にか張り巡らされた光線に首を傾げた。
ぼんやりと光る不思議な線。それが無数張り巡らされている。
丁度顔を引っ込めていた時だからよく判らないが、何かが通り過ぎたような風が吹いて、
その後にこの奇妙な光線が残っていたのだ。
そのうっすらとした光は一見するとそれほど危険な物には思えない。
だからか、止せばいいのにふと好奇心が沸き上がってしまった。
好奇心に突き動かされて手を伸ばし……指先ちょっぴり一瞬だけ、触れてしまった。
「あっちゃああああぁっ!?」
ライターやマッチの火に一瞬触れたみたいな熱さに飛び上がる。
それから気付いた。
「………………あ」
予測していた特殊な攻撃――無数の光線をかいくぐって刃を振るったレミリアの視線と、
回避用の加速魔法アクセルフィンで辛くも突撃を回避したヴィクトリアの視線が、
ばっちり金糸雀に向いていた。
「そういえばカナは隠れていたのかしらー」
………………。
………………。
「さ、三十六計逃げるが勝ちなのかしらー!!」
ダイレクに乗った金糸雀は大急ぎで逃げ出した。
レミリアは無造作に弾幕を放った。
弾幕に追いつかれて、金糸雀はあっさり撃ち落とされた。
「あーれーかしら――――!?」
金糸雀は真っ逆様に墜ちていった。
ダイレクに乗った金糸雀は大急ぎで逃げ出した。
レミリアは無造作に弾幕を放った。
弾幕に追いつかれて、金糸雀はあっさり撃ち落とされた。
「あーれーかしら――――!?」
金糸雀は真っ逆様に墜ちていった。
* * *
「どうする? 連絡するなら、何て言えばいいの?」
トリエラは口の中で言葉を転がし、闇の中に答えを求めた。
だが当然、誰もいるはずがなかった。
誰も居ないはずだった。
「くそ、遅かったか!」
「っ!?」
思わず心臓が止まりそうになった。
慌てて音を立てず物陰に潜んで周囲を窺う。
(誰か来てる! 誰!?)
考える。さっき聞こえた声は、ククリ達の物ではなかった。少年の声だ。
(まさか……)
その、まさかだった。
トリエラは口の中で言葉を転がし、闇の中に答えを求めた。
だが当然、誰もいるはずがなかった。
誰も居ないはずだった。
「くそ、遅かったか!」
「っ!?」
思わず心臓が止まりそうになった。
慌てて音を立てず物陰に潜んで周囲を窺う。
(誰か来てる! 誰!?)
考える。さっき聞こえた声は、ククリ達の物ではなかった。少年の声だ。
(まさか……)
その、まさかだった。
「ま、待ってよ小太郎君! ひぃ、はぁ……」
「何をグズグズしとんのや、のび太! ああでも、走れるだけの体力は残しとけよ。ここはまだ危険なんやからな」
「そんな無茶な!」
崩落した警察署跡に2人の少年が訪れていた。犬上小太郎と、野比のび太。
トリエラから見てこの所業の主犯と目されるのはシャナとのび太だ。
その片割れたる野比のび太と、その仲間らしき少年がそこに居た。
更に小太郎は空を見上げて呻く。
「あかん、力が足りひん。シャナが居れば飛んでいくんやろうけど……俺やと手が出せへんな」
「そんな! どうするの!?」
「今考えとる!」
「何をグズグズしとんのや、のび太! ああでも、走れるだけの体力は残しとけよ。ここはまだ危険なんやからな」
「そんな無茶な!」
崩落した警察署跡に2人の少年が訪れていた。犬上小太郎と、野比のび太。
トリエラから見てこの所業の主犯と目されるのはシャナとのび太だ。
その片割れたる野比のび太と、その仲間らしき少年がそこに居た。
更に小太郎は空を見上げて呻く。
「あかん、力が足りひん。シャナが居れば飛んでいくんやろうけど……俺やと手が出せへんな」
「そんな! どうするの!?」
「今考えとる!」
トリエラは思わず歯噛みした。これで確定だ。
(そうか、当たり前じゃない。シャナが来たならのび太もここに来てないはずがない!
しかも横に居る奴もその仲間みたいだし……くそ、最悪だ)
トリエラの居る場所はまだ崩落した警察署内だった。
外の様子は断片的にしか伺えず、視界に入るのはのび太だけだ。
おかげで見つかってもいないが、相方の方は声だけしか聞こえない。
(どうする? 私はまだ見つかっていない。逆に狙い撃つ手も有るけど……)
「小太郎君はどうにかできないの? すっごく強いんでしょ!?」
「今は気が尽きてて殆ど犬神を使えへんのや! 瞬動で殴り込む手もあるけど、足場が足りひん。
あの時計台の壁面から……いや、空中の姿勢制御がでけへんとどうにもならん。
虚空瞬動は不安定やし、やっぱり空中戦は無理やな。どっちかが降りるのを待つしかないわ」
トリエラは少し考えて、結論を出す。
横の小太郎という少年は恐らく魔法使いとかそれに類するものだ。
(本当に最悪だ。何が出るか判らないじゃない。防弾チョッキみたいな物だって着ているかもしれない。
駄目だ、戦うより逃げた方が良い。どうにかククリ達に連絡して、別の場所に向かわせて合流しよう。
でも今電話したら気付かれる。あいつらがここを離れるのを待つ? それともやり過ごしてここを離れる?
くそ、どうすれば……)
トリエラの焦る中、2人の少年は更にアクションを起こす。
「そや、のび太。おまえはこれ持っとけ」
「え? こ、これって銃! 良いの!?」
トリエラに更なる動揺が走る。
遠目だが目を凝らしてみた所、渡されたのは大口径で有名な自動拳銃デザートイーグルのようだった。
「良いって良いって。だって……」
小太郎はのび太に小声で何かをした。生憎とトリエラにはその内容までは聞き取れない。
(そうか、当たり前じゃない。シャナが来たならのび太もここに来てないはずがない!
しかも横に居る奴もその仲間みたいだし……くそ、最悪だ)
トリエラの居る場所はまだ崩落した警察署内だった。
外の様子は断片的にしか伺えず、視界に入るのはのび太だけだ。
おかげで見つかってもいないが、相方の方は声だけしか聞こえない。
(どうする? 私はまだ見つかっていない。逆に狙い撃つ手も有るけど……)
「小太郎君はどうにかできないの? すっごく強いんでしょ!?」
「今は気が尽きてて殆ど犬神を使えへんのや! 瞬動で殴り込む手もあるけど、足場が足りひん。
あの時計台の壁面から……いや、空中の姿勢制御がでけへんとどうにもならん。
虚空瞬動は不安定やし、やっぱり空中戦は無理やな。どっちかが降りるのを待つしかないわ」
トリエラは少し考えて、結論を出す。
横の小太郎という少年は恐らく魔法使いとかそれに類するものだ。
(本当に最悪だ。何が出るか判らないじゃない。防弾チョッキみたいな物だって着ているかもしれない。
駄目だ、戦うより逃げた方が良い。どうにかククリ達に連絡して、別の場所に向かわせて合流しよう。
でも今電話したら気付かれる。あいつらがここを離れるのを待つ? それともやり過ごしてここを離れる?
くそ、どうすれば……)
トリエラの焦る中、2人の少年は更にアクションを起こす。
「そや、のび太。おまえはこれ持っとけ」
「え? こ、これって銃! 良いの!?」
トリエラに更なる動揺が走る。
遠目だが目を凝らしてみた所、渡されたのは大口径で有名な自動拳銃デザートイーグルのようだった。
「良いって良いって。だって……」
小太郎はのび太に小声で何かをした。生憎とトリエラにはその内容までは聞き取れない。
だが耳打ちの後、トリエラはのび太の動きに再び驚愕した。
のび太は誰も居ない方を向いてデザートイーグルをポケットに突っ込み、銃の抜き撃ちをしたのだ。
姿勢だけ。
実際に引き金を引けば弾が出たであろう所まで。
(……冗談でしょ?)
トリエラの顔から血の気が引いた。
自動拳銃とはいえシングルアクションのデザートイーグルは初弾の撃鉄を手動で起こさなければならない。
もちろん安全装置だって外さなければならない。その後で引き金を引いて始めて弾が出る。
更にデザートイーグルは『女性や子供が撃つと肩の骨が外れる』という風説が流れるほど反動が強い。
流石にそれは少しオーバーだが、不適当な姿勢で撃てば大人でさえ関節を傷めかねない。
だから衝撃を逃がすための姿勢も重要となる。
その大きさ自体も難関だ。
例えばトリエラの愛用するP230は全長17センチ、重量420グラムという小ささと軽さを誇っている。
この小ささゆえに『女性のような手の小さい人でも十分に扱える』事が利点の一つとなっているのだ。
優れた身体能力を誇る義体であれ反動が小さいに越した事は無いし、手の大きさに至っては変えられない。
一方のデザートイーグルは全長27センチ、重量は口径によって違うがもし50AE版なら2キロを超える。
訓練すれば子供でも使えない事はないだろう。だが、明らかに扱いづらい。
その銃をポケットから抜き、安全装置を外すと同時に撃鉄を上げ、照準を定め引き金に指を掛け姿勢を反動に備える。
そこまでの動作を、のび太は一瞬でやってのけた。
実際に引き金を引いて銃を撃ったわけではない。
だが数千数万回と銃を撃ってきたトリエラには一目瞭然だ。あれは引き金を引けば当たり、姿勢も崩れない。
完璧な早撃ちだった。
(そっちまで凄腕だったなんて聞いてない。ほんとどうしろっていうのよこんなの。
相手できるのはせいぜい二人、真っ向から遭遇すれば一人相手でも怪しいか。
ククリ達の事も考えるとやっぱり逃げるしかない)
幸い二人は空を見上げて何か話し、今なら何とか……。
「……落ちたな。あの辺は確か、旅館が有ったか」
トリエラは息を呑んだ。
「よしおまえはどっか隠れてろ」
「そんな、ぼくも行くよ!」
「……良いけど、無理はすんなよ。判ってるな?」
そう言って小太郎は跳躍した。慌ててのび太も走り去る音がする。
その一方でトリエラは歯噛みしながら携帯電話を操作した。
今飛び出せば、多分のび太は仕留められるだろう。
だけどそうすればもう一人の小太郎という奴と正面から戦う羽目になる。
その後で隠れれば? 出来るかも知れない。しかし恐らくは追い回され、すぐには無理だ。
その間に、警察署を丸ごと破壊したシャナは悠々と旅館も殲滅するだろう。
トリエラは身を潜めて静かに駆け出しながら、銃ではなく携帯電話を手に取った。
素早く操作する。
(お願い、出て! ククリ! リルル!)
返答はすぐに有った。
『――お客様のお掛けになった電話番号は現在使われておりません』
「…………っ」
トリエラは思わず取り落としそうになった携帯電話をポケットに突っ込んで、走り出す。
(電話線を切られた。あいつら万が一の連絡も断って潰す気だ。間に合って、お願い!)
無数の建物に遮られて見えない、ククリ達の居る温泉旅館。
直線距離にすれば僅か500mが、あまりにも遠かった。
のび太は誰も居ない方を向いてデザートイーグルをポケットに突っ込み、銃の抜き撃ちをしたのだ。
姿勢だけ。
実際に引き金を引けば弾が出たであろう所まで。
(……冗談でしょ?)
トリエラの顔から血の気が引いた。
自動拳銃とはいえシングルアクションのデザートイーグルは初弾の撃鉄を手動で起こさなければならない。
もちろん安全装置だって外さなければならない。その後で引き金を引いて始めて弾が出る。
更にデザートイーグルは『女性や子供が撃つと肩の骨が外れる』という風説が流れるほど反動が強い。
流石にそれは少しオーバーだが、不適当な姿勢で撃てば大人でさえ関節を傷めかねない。
だから衝撃を逃がすための姿勢も重要となる。
その大きさ自体も難関だ。
例えばトリエラの愛用するP230は全長17センチ、重量420グラムという小ささと軽さを誇っている。
この小ささゆえに『女性のような手の小さい人でも十分に扱える』事が利点の一つとなっているのだ。
優れた身体能力を誇る義体であれ反動が小さいに越した事は無いし、手の大きさに至っては変えられない。
一方のデザートイーグルは全長27センチ、重量は口径によって違うがもし50AE版なら2キロを超える。
訓練すれば子供でも使えない事はないだろう。だが、明らかに扱いづらい。
その銃をポケットから抜き、安全装置を外すと同時に撃鉄を上げ、照準を定め引き金に指を掛け姿勢を反動に備える。
そこまでの動作を、のび太は一瞬でやってのけた。
実際に引き金を引いて銃を撃ったわけではない。
だが数千数万回と銃を撃ってきたトリエラには一目瞭然だ。あれは引き金を引けば当たり、姿勢も崩れない。
完璧な早撃ちだった。
(そっちまで凄腕だったなんて聞いてない。ほんとどうしろっていうのよこんなの。
相手できるのはせいぜい二人、真っ向から遭遇すれば一人相手でも怪しいか。
ククリ達の事も考えるとやっぱり逃げるしかない)
幸い二人は空を見上げて何か話し、今なら何とか……。
「……落ちたな。あの辺は確か、旅館が有ったか」
トリエラは息を呑んだ。
「よしおまえはどっか隠れてろ」
「そんな、ぼくも行くよ!」
「……良いけど、無理はすんなよ。判ってるな?」
そう言って小太郎は跳躍した。慌ててのび太も走り去る音がする。
その一方でトリエラは歯噛みしながら携帯電話を操作した。
今飛び出せば、多分のび太は仕留められるだろう。
だけどそうすればもう一人の小太郎という奴と正面から戦う羽目になる。
その後で隠れれば? 出来るかも知れない。しかし恐らくは追い回され、すぐには無理だ。
その間に、警察署を丸ごと破壊したシャナは悠々と旅館も殲滅するだろう。
トリエラは身を潜めて静かに駆け出しながら、銃ではなく携帯電話を手に取った。
素早く操作する。
(お願い、出て! ククリ! リルル!)
返答はすぐに有った。
『――お客様のお掛けになった電話番号は現在使われておりません』
「…………っ」
トリエラは思わず取り落としそうになった携帯電話をポケットに突っ込んで、走り出す。
(電話線を切られた。あいつら万が一の連絡も断って潰す気だ。間に合って、お願い!)
無数の建物に遮られて見えない、ククリ達の居る温泉旅館。
直線距離にすれば僅か500mが、あまりにも遠かった。
* * *
「早く、早くトリエラさんに電話しなきゃ!」
トリエラが向かったはずの警察署が倒壊したのを見て、ククリは慌てて電話機に向かう。
携帯電話に電話をかけてトリエラの安否を確かめる為だ。
しかし受話器を持ち上げようとしたその手を、リルルが制止した。
「待って。向こうから掛かってくるのを待つべきよ」
「え? ど、どうして?」
「トリエラなら電話を掛けられる状況になれば必ず掛けてくるわ。
彼女は現場に居るし、判断力も彼女の方が適切なはずよ」
「あ、そうか」
トリエラが向かったはずの警察署が倒壊したのを見て、ククリは慌てて電話機に向かう。
携帯電話に電話をかけてトリエラの安否を確かめる為だ。
しかし受話器を持ち上げようとしたその手を、リルルが制止した。
「待って。向こうから掛かってくるのを待つべきよ」
「え? ど、どうして?」
「トリエラなら電話を掛けられる状況になれば必ず掛けてくるわ。
彼女は現場に居るし、判断力も彼女の方が適切なはずよ」
「あ、そうか」
すんなりと納得するククリ。
話を理解しているのかも判らないが、リルルの腕の中でひまわりもたーと声を上げた。
……そんな彼女達の目の前で、電話機が鳴った。
「掛かってきた!」
そう間違いないと思ってククリが受話器を取る。
けれどその向こうから聞こえてきたのは、聞き覚えのない声だった。
『――もしもし?』
「え……トリエラさんじゃ、ない? あなた誰ですか?」
困惑するククリ。
『はい、ボクはイエローといいます。今、仲間を捜して電話をしていて』
「イエロー? イエローなの?」
その名前にリルルが反応した。
ククリは知ってる人なのかと受話器を手渡す。
『その声はリルル? 良かった、急に何処かへ行ってしまって心配したんだよ』
「私は大丈夫よ。興味深い人達を見つけて、そちらを観察していたの。それが私の役目だから」
無機質な言葉。だけどその声はどこか人間的な揺らぎを、喜びを宿しているようだった。
「トリエラにククリ、それにひまわり。特にひまわりは赤ん坊っていうのね。とても不思議な存在だわ」
『赤ん坊だって? そんな子まで連れて来られてるのか』
受話器の向こうからは人の良い憤慨の声。
「リ、リルルちゃん、今は……」
「ええ、わかっているわククリ。ごめんなさいイエロー、こっちは今、余裕が無いの。
トリエラが危ないかもしれないの」
『トリエラ? その人もリルルの仲間なの?』
「ええ、でも予想外の何かが有ったみたいで……」
ククリが窓の外を指差して、叫んだ。
「リルルちゃん、空から誰か来るよ!」
リルルの目が夜空へと向く。
「本当だわ。あれは……剣に乗った人形? 黄色い服……あっ」
夜空を裂いた弾幕がソレを捉えた。
『待ってリルル、空を飛ぶ剣!? それに黄色い服の人形ってまさかカナ――』
「きゃあああああああああああああああああぁっ」
金切り声を上げてそれが墜落すると共に、電話が途切れた。
話を理解しているのかも判らないが、リルルの腕の中でひまわりもたーと声を上げた。
……そんな彼女達の目の前で、電話機が鳴った。
「掛かってきた!」
そう間違いないと思ってククリが受話器を取る。
けれどその向こうから聞こえてきたのは、聞き覚えのない声だった。
『――もしもし?』
「え……トリエラさんじゃ、ない? あなた誰ですか?」
困惑するククリ。
『はい、ボクはイエローといいます。今、仲間を捜して電話をしていて』
「イエロー? イエローなの?」
その名前にリルルが反応した。
ククリは知ってる人なのかと受話器を手渡す。
『その声はリルル? 良かった、急に何処かへ行ってしまって心配したんだよ』
「私は大丈夫よ。興味深い人達を見つけて、そちらを観察していたの。それが私の役目だから」
無機質な言葉。だけどその声はどこか人間的な揺らぎを、喜びを宿しているようだった。
「トリエラにククリ、それにひまわり。特にひまわりは赤ん坊っていうのね。とても不思議な存在だわ」
『赤ん坊だって? そんな子まで連れて来られてるのか』
受話器の向こうからは人の良い憤慨の声。
「リ、リルルちゃん、今は……」
「ええ、わかっているわククリ。ごめんなさいイエロー、こっちは今、余裕が無いの。
トリエラが危ないかもしれないの」
『トリエラ? その人もリルルの仲間なの?』
「ええ、でも予想外の何かが有ったみたいで……」
ククリが窓の外を指差して、叫んだ。
「リルルちゃん、空から誰か来るよ!」
リルルの目が夜空へと向く。
「本当だわ。あれは……剣に乗った人形? 黄色い服……あっ」
夜空を裂いた弾幕がソレを捉えた。
『待ってリルル、空を飛ぶ剣!? それに黄色い服の人形ってまさかカナ――』
「きゃあああああああああああああああああぁっ」
金切り声を上げてそれが墜落すると共に、電話が途切れた。
* * *
「リルル! どうしたのリルル!?」
突然の普通に慌てるイエロー。だが電話は途切れて雑音を返すだけだった。
慌てて一度受話器を置き、もう一度短縮ダイヤルを試してみる。
『――お客様のお掛けになった電話番号は現在使われておりません』
シェルターの機械室でイエローは歯噛みする。
「ダメだ、繋がらない。回線が切れちゃったんだ」
詳しい状況を知るには直接行ってみるしか無い。
城の方を放って置くのかと迷い、しかし電話の内容が気になりすぎた。
(空を飛ぶ剣はきっとダイレクだよね。それに乗っていた人形、最後の悲鳴は金糸雀だった。
ダイレクはベルフラウに渡したのに、どうして金糸雀が持っているんだろう)
恐らく金糸雀が城に行き、ベルフラウと鈴木みかに出会った。
その後、その場所で何が起き、彼女達はどう動いたのか?
イエローが知っている状況と人柄から思いつく事は少なかった。
突然の普通に慌てるイエロー。だが電話は途切れて雑音を返すだけだった。
慌てて一度受話器を置き、もう一度短縮ダイヤルを試してみる。
『――お客様のお掛けになった電話番号は現在使われておりません』
シェルターの機械室でイエローは歯噛みする。
「ダメだ、繋がらない。回線が切れちゃったんだ」
詳しい状況を知るには直接行ってみるしか無い。
城の方を放って置くのかと迷い、しかし電話の内容が気になりすぎた。
(空を飛ぶ剣はきっとダイレクだよね。それに乗っていた人形、最後の悲鳴は金糸雀だった。
ダイレクはベルフラウに渡したのに、どうして金糸雀が持っているんだろう)
恐らく金糸雀が城に行き、ベルフラウと鈴木みかに出会った。
その後、その場所で何が起き、彼女達はどう動いたのか?
イエローが知っている状況と人柄から思いつく事は少なかった。
例えば……ベルフラウはあのまま死に、ダイレクが金糸雀に譲り渡された。
だとすればみか先生はどこだろう? 金糸雀と一緒で北東の街に居るのだろうか?
もしそうなら、北東の街に行かなければならない。
あるいはもっと最悪の展開。みか先生を助けられず、ベルフラウも死んでしまった。
もしこうなってしまったなら城に行っても……二人を埋葬する事しかできない。
二人が死ぬのに立ち会ったかも知れない、そうだとすれば動揺しているだろう金糸雀の所に行ってあげるべきだ。
そしてそれらの可能性よりも先に、そして強くイエローが思いついた可能性。
みか先生を助けられたけれどベルフラウは瀕死の重傷で、金糸雀は彼女を助ける方法を捜しに行った。
もしこの答えが正しいなら、北東の街には傷を癒せる人が居るのかも知れない。
それは推測の上に憶測まで重ねた願望のような答え。
だけども彼女達の事を信じているイエローにとって、それは一番しっくりと来る答えだった。
だとすればみか先生はどこだろう? 金糸雀と一緒で北東の街に居るのだろうか?
もしそうなら、北東の街に行かなければならない。
あるいはもっと最悪の展開。みか先生を助けられず、ベルフラウも死んでしまった。
もしこうなってしまったなら城に行っても……二人を埋葬する事しかできない。
二人が死ぬのに立ち会ったかも知れない、そうだとすれば動揺しているだろう金糸雀の所に行ってあげるべきだ。
そしてそれらの可能性よりも先に、そして強くイエローが思いついた可能性。
みか先生を助けられたけれどベルフラウは瀕死の重傷で、金糸雀は彼女を助ける方法を捜しに行った。
もしこの答えが正しいなら、北東の街には傷を癒せる人が居るのかも知れない。
それは推測の上に憶測まで重ねた願望のような答え。
だけども彼女達の事を信じているイエローにとって、それは一番しっくりと来る答えだった。
「……はっきりとは判らないけど、ううん、だからこそ行ってみるしかないんだ」
どちらにしてもイエローが城へ向かって出来る事なんて無い。
イエローの能力ではベルフラウの傷を治せない。
城戸丈の時そうだったように手をこまねいて見送るか、あるいは――痛みを終わらせる事だけだ。
もうあんな後悔はしたくなかった。
だからたとえ手遅れかもしれなくたって、一筋の希望に縋りたかった。
イエローはG-1エリアに向かうことを、決めた。
どちらにしてもイエローが城へ向かって出来る事なんて無い。
イエローの能力ではベルフラウの傷を治せない。
城戸丈の時そうだったように手をこまねいて見送るか、あるいは――痛みを終わらせる事だけだ。
もうあんな後悔はしたくなかった。
だからたとえ手遅れかもしれなくたって、一筋の希望に縋りたかった。
イエローはG-1エリアに向かうことを、決めた。
* * *
庭の池に水飛沫が上がる。
「あ、あいたたた。急いで逃げないといけないのかしら」
下が池だったのは幸いだろう。びしょぬれになってしまったが、大した怪我はしていない。
慌てて立ち上がって逃げようとした金糸雀の足がすぐ止まる。
「えーっと……お人形さん?」
「見つかったのかしらー!?」
跳び上がって逃げようとし、池の縁ですっ転ぶ。
ククリは思わず警戒よりも心配が先に出た。
「だ、大丈夫!?」
「待って、ククリ。不用意に近づいたら危ないわ。一体何が落ちてきたの?」
「増えたー!? やばいのかしらー! ……って、あら?」
ククリに続いて現れたリルルを見て、金糸雀はぴたりと動きを止める。
「あ、あなたイエローと一緒にいた子じゃないかしら!?」
「……? あなた、イエローを知っているの?」
問い掛けにかくかくと頷く金糸雀。
「イエローの仲間で、金糸雀っていうの。
あなたと入れ違いでイエローと一緒に行動して、あなたの事を聞いてて……
た、助けて欲しいのかしらー!」
「待って。警察署の方で何が起きているか知らない? 仲間が向かっていたの」
「え? その人かは知らないけど空で誰かが戦って……」
そこまで話した所で、彼女がそこに現れた。
「あ、あいたたた。急いで逃げないといけないのかしら」
下が池だったのは幸いだろう。びしょぬれになってしまったが、大した怪我はしていない。
慌てて立ち上がって逃げようとした金糸雀の足がすぐ止まる。
「えーっと……お人形さん?」
「見つかったのかしらー!?」
跳び上がって逃げようとし、池の縁ですっ転ぶ。
ククリは思わず警戒よりも心配が先に出た。
「だ、大丈夫!?」
「待って、ククリ。不用意に近づいたら危ないわ。一体何が落ちてきたの?」
「増えたー!? やばいのかしらー! ……って、あら?」
ククリに続いて現れたリルルを見て、金糸雀はぴたりと動きを止める。
「あ、あなたイエローと一緒にいた子じゃないかしら!?」
「……? あなた、イエローを知っているの?」
問い掛けにかくかくと頷く金糸雀。
「イエローの仲間で、金糸雀っていうの。
あなたと入れ違いでイエローと一緒に行動して、あなたの事を聞いてて……
た、助けて欲しいのかしらー!」
「待って。警察署の方で何が起きているか知らない? 仲間が向かっていたの」
「え? その人かは知らないけど空で誰かが戦って……」
そこまで話した所で、彼女がそこに現れた。
「トリエラさんは殺されたわ」
殆ど落ちるように降りてきた仮面の少女は、開口一番にそう告げた。
ククリは息を呑む。
「うそ!?」
「本当よ。あなたがククリでしょう? 私はあなたに念話で助けを求めた魔法使いなの。
彼女は警察署に私を助けに来てくれて、でも建物ごとあいつにやられてしまったの。
あいつに、殺されてしまったわ」
沈痛な声。
「ウソだよ、だってトリエラさんすごいもの! 強くて、恐いと思ったけどほんとは優しくて……」
「私は彼女の事をよくは知らないわ。でもあの崩落に巻き込まれたのよ。無理よ」
深く考える時間なんて今は無い。
「私は一人分なら飛べる力が有ったから、それで命辛々逃げてきたの。あいつに襲われながら、必死によ」
「あいつというのは、誰?」
ククリよりは幾分冷静なリルルの問い掛け。
ヴィクトリアは頷いて答えた。
「フランドールの姉、レミリア・スカーレットよ」
そして彼女が舞い降りた。
殆ど落ちるように降りてきた仮面の少女は、開口一番にそう告げた。
ククリは息を呑む。
「うそ!?」
「本当よ。あなたがククリでしょう? 私はあなたに念話で助けを求めた魔法使いなの。
彼女は警察署に私を助けに来てくれて、でも建物ごとあいつにやられてしまったの。
あいつに、殺されてしまったわ」
沈痛な声。
「ウソだよ、だってトリエラさんすごいもの! 強くて、恐いと思ったけどほんとは優しくて……」
「私は彼女の事をよくは知らないわ。でもあの崩落に巻き込まれたのよ。無理よ」
深く考える時間なんて今は無い。
「私は一人分なら飛べる力が有ったから、それで命辛々逃げてきたの。あいつに襲われながら、必死によ」
「あいつというのは、誰?」
ククリよりは幾分冷静なリルルの問い掛け。
ヴィクトリアは頷いて答えた。
「フランドールの姉、レミリア・スカーレットよ」
そして彼女が舞い降りた。
「あら、仲間が居たのね、おまえ」
旅館の塀の天辺に立ち、紅い悪魔は不敵に笑った。
蝙蝠のような黒い羽を広げ、右手には黄金に輝く聖剣ラグナロクを握り締め地に居る者を睥睨する。
「なんだ、森で遭ったその人形もおまえの仲間だったのか。丁度良い。
ここで纏めて叩き潰せば、二つ纏めて終いじゃない」
「お、お助けかしらー!?」
金糸雀は震えながらも地面に突き刺さっていたダイレクに手を伸ばし、引き抜いた。
もう応戦するしかないと決意したようだ。
深く突き立ったその刃により“地中に埋まっていた電線の一本が切断されていた事”など知る由もない。
旅館の塀の天辺に立ち、紅い悪魔は不敵に笑った。
蝙蝠のような黒い羽を広げ、右手には黄金に輝く聖剣ラグナロクを握り締め地に居る者を睥睨する。
「なんだ、森で遭ったその人形もおまえの仲間だったのか。丁度良い。
ここで纏めて叩き潰せば、二つ纏めて終いじゃない」
「お、お助けかしらー!?」
金糸雀は震えながらも地面に突き刺さっていたダイレクに手を伸ばし、引き抜いた。
もう応戦するしかないと決意したようだ。
深く突き立ったその刃により“地中に埋まっていた電線の一本が切断されていた事”など知る由もない。
「待って、フランちゃんのお姉さん! どうして、そんな事をするの!?」
ククリの問いにレミリアは笑った。
「私の最強を証明する為さ」
レミリアの答えにククリは食い下がる。
「それじゃやっぱり……フランちゃんもそういう理由で動いていたの?」
ククリの問いにレミリアは笑った。
「まさか。あの子は遊びたかっただけだろう」
レミリアの答えにククリは惑う。
「じゃあどうして、レミリアちゃんはそんな事するの?」
ククリの問いにレミリアは嗤った。
「フランが遊びたがっていたからさ」
レミリアの答えはククリには理解できない。
「それってどういう事なの?」
ククリの問いにレミリアは笑った。
「別にわざわざ説明する義理もないな」
そしてレミリアは言った。
「で、まだ増えるのか? 別に良いけど」
ククリの問いにレミリアは笑った。
「私の最強を証明する為さ」
レミリアの答えにククリは食い下がる。
「それじゃやっぱり……フランちゃんもそういう理由で動いていたの?」
ククリの問いにレミリアは笑った。
「まさか。あの子は遊びたかっただけだろう」
レミリアの答えにククリは惑う。
「じゃあどうして、レミリアちゃんはそんな事するの?」
ククリの問いにレミリアは嗤った。
「フランが遊びたがっていたからさ」
レミリアの答えはククリには理解できない。
「それってどういう事なの?」
ククリの問いにレミリアは笑った。
「別にわざわざ説明する義理もないな」
そしてレミリアは言った。
「で、まだ増えるのか? 別に良いけど」
彼もその場に間に合った。
「そや、俺も混ぜてもらう。こんなんは放置できんしな」
犬上小太郎。最低限のモラルを保ったまま裏社会を生き抜いてきた、狗族と人間のハーフ。
実を言うと小太郎は直前まで、どちらかに着くかそれとも様子を見るか迷っていた。
どちらが『いい奴』なのか判らないし、仮に『いい奴』だったとしても助けてやる義理が有るわけではない。
一見すると『いい奴』だったとしても、相手の方も『いい奴』じゃないとは限らない。
殺し合い自体には不快感を感じていたが、どちらかに付く理由は無かったのだ。
さっきまでは。
「事情はわからへんけど、赤ん坊まで連れた女子供に喧嘩売る奴なんてほっとけるか」
小太郎の視線の先にはリルルに抱かれたひまわりの姿。深刻さも理解できない様子でたーっと声を上げた。
「別にわざわざ潰す気も無いけど、確かに巻き込まないよう気を付けるつもりも毛頭無いな。
で、それだから私は女子供に数えないっていうのね」
「それだけやあらへん。おまえ、多分やけど吸血鬼やろ? それも結構生きた」
「たったの500歳とちょっとだけどね」
(十分すぎるやろうが)
小太郎は連想する。自分と自分のライバルのネギを鍛えた吸血鬼、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルを。
推定年齢600歳以上にして自称『最強の悪の魔法使い』、自称のみならず伝説と化しているとんでもない怪物。
彼女の場合は色々あって力の殆どを封印され、特別な異次元においてはかなりの力を振るえるものの、
それも呪いの分は有効な筈で、小太郎が正真正銘全力の彼女を見たのは一度だけ、遠目に魔法を一度見ただけだ。
それの二割減くらいの力を想像してみた。
「……生憎とそんな相手に手加減できる程の自信は無いんや」
正確には手加減すまいと自分に言い聞かせながら、小太郎はそう言った。
「へえ。なかなか判ってるじゃない」
レミリアは満足げに頷く。
「それでおまえはそんな相手に挑むのかしら? 何の益も無く」
「ああ。一応、一つだけ用も有るけどな」
小太郎は振り向き、睨み付ける。隅で怯えながら剣を構える黄色い服の少女人形を。
「おい、そこの人形娘。おまえ、もしかして昼頃学校の近くにおらへんかったか?」
金糸雀はびくっと震えた。
「なな、なんの事だかさっぱり」
それだけで小太郎は十分に確信を得た。
「ネギが死んだ時、あの場に居ったな」
「居ない、居なかった、いや、居たかもしれないかしらー」
小太郎に睨まれて吐く。
「一つ聞かせろ。別に後でも良い。その時にあの場所で、何がどうなって、誰がネギを殺したんや。
おまえか? それとももう一つの足跡の誰かか? 見てたんやろ?」
「それは……」
金糸雀は更に少し考え、すぐにぺらぺらと舌を回す。
「か、カナではないのかしら。あの後、別の少女が来てネギっていう少年と戦ったの。
ネギは強かったみたいだけれどその子に撃ち殺されたのかしらー」
「そや、俺も混ぜてもらう。こんなんは放置できんしな」
犬上小太郎。最低限のモラルを保ったまま裏社会を生き抜いてきた、狗族と人間のハーフ。
実を言うと小太郎は直前まで、どちらかに着くかそれとも様子を見るか迷っていた。
どちらが『いい奴』なのか判らないし、仮に『いい奴』だったとしても助けてやる義理が有るわけではない。
一見すると『いい奴』だったとしても、相手の方も『いい奴』じゃないとは限らない。
殺し合い自体には不快感を感じていたが、どちらかに付く理由は無かったのだ。
さっきまでは。
「事情はわからへんけど、赤ん坊まで連れた女子供に喧嘩売る奴なんてほっとけるか」
小太郎の視線の先にはリルルに抱かれたひまわりの姿。深刻さも理解できない様子でたーっと声を上げた。
「別にわざわざ潰す気も無いけど、確かに巻き込まないよう気を付けるつもりも毛頭無いな。
で、それだから私は女子供に数えないっていうのね」
「それだけやあらへん。おまえ、多分やけど吸血鬼やろ? それも結構生きた」
「たったの500歳とちょっとだけどね」
(十分すぎるやろうが)
小太郎は連想する。自分と自分のライバルのネギを鍛えた吸血鬼、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルを。
推定年齢600歳以上にして自称『最強の悪の魔法使い』、自称のみならず伝説と化しているとんでもない怪物。
彼女の場合は色々あって力の殆どを封印され、特別な異次元においてはかなりの力を振るえるものの、
それも呪いの分は有効な筈で、小太郎が正真正銘全力の彼女を見たのは一度だけ、遠目に魔法を一度見ただけだ。
それの二割減くらいの力を想像してみた。
「……生憎とそんな相手に手加減できる程の自信は無いんや」
正確には手加減すまいと自分に言い聞かせながら、小太郎はそう言った。
「へえ。なかなか判ってるじゃない」
レミリアは満足げに頷く。
「それでおまえはそんな相手に挑むのかしら? 何の益も無く」
「ああ。一応、一つだけ用も有るけどな」
小太郎は振り向き、睨み付ける。隅で怯えながら剣を構える黄色い服の少女人形を。
「おい、そこの人形娘。おまえ、もしかして昼頃学校の近くにおらへんかったか?」
金糸雀はびくっと震えた。
「なな、なんの事だかさっぱり」
それだけで小太郎は十分に確信を得た。
「ネギが死んだ時、あの場に居ったな」
「居ない、居なかった、いや、居たかもしれないかしらー」
小太郎に睨まれて吐く。
「一つ聞かせろ。別に後でも良い。その時にあの場所で、何がどうなって、誰がネギを殺したんや。
おまえか? それとももう一つの足跡の誰かか? 見てたんやろ?」
「それは……」
金糸雀は更に少し考え、すぐにぺらぺらと舌を回す。
「か、カナではないのかしら。あの後、別の少女が来てネギっていう少年と戦ったの。
ネギは強かったみたいだけれどその子に撃ち殺されたのかしらー」
「そいつの外見は?」
「金髪で小麦色の肌だったかしら。ナイフと銃を使ってカナの事も利用して、きっと性悪極悪人に違いないのかしら」
息を呑む音がした。
「トリエラさんはそんな人じゃない!」
それからククリの叫びが響いた。
「トリエラ? さっきおまえが言ってた……そいつなんか?」
小太郎の問いにリルルが頷く。
「外見は一致しているわ」
「違うよ!」
しかしククリは否定する。
「だ、だってトリエラさんは良い人だもん。
殺されそうになったけど誤解だったし、性悪極悪人なんてそんなわけ絶対ないもん」
「え、あう、その……」
状況の混迷振りに金糸雀は困惑するしかない。
(あちらを立てればこちらが立たずなのかしらー!?)
おそらく金糸雀は、ひどく不運だった。
「金髪で小麦色の肌だったかしら。ナイフと銃を使ってカナの事も利用して、きっと性悪極悪人に違いないのかしら」
息を呑む音がした。
「トリエラさんはそんな人じゃない!」
それからククリの叫びが響いた。
「トリエラ? さっきおまえが言ってた……そいつなんか?」
小太郎の問いにリルルが頷く。
「外見は一致しているわ」
「違うよ!」
しかしククリは否定する。
「だ、だってトリエラさんは良い人だもん。
殺されそうになったけど誤解だったし、性悪極悪人なんてそんなわけ絶対ないもん」
「え、あう、その……」
状況の混迷振りに金糸雀は困惑するしかない。
(あちらを立てればこちらが立たずなのかしらー!?)
おそらく金糸雀は、ひどく不運だった。
「……もう、うるさいな。纏めて叩き潰すか」
救いの手が問答無用の敵対者だった事に至っては幸運なのだか不運なのだかわからない。
レミリアは少し考えて、決めた。
カードは無くともスペルカードを宣言する。小手調べとしてレミリアが選んだスペルは――。
「まずはこの辺りから行くか。紅符『スカーレットシュート』」
ある程度余裕を残しながらもそれなりの本気で戦った時に、切り札の一つ前として使ったスペルカード。
散弾銃のようにばらけながら飛来する強烈な魔力弾の塊を無数に放ち力任せに圧殺する弾幕だ。
無数の紅い巨弾が闇夜を引き裂いた。
救いの手が問答無用の敵対者だった事に至っては幸運なのだか不運なのだかわからない。
レミリアは少し考えて、決めた。
カードは無くともスペルカードを宣言する。小手調べとしてレミリアが選んだスペルは――。
「まずはこの辺りから行くか。紅符『スカーレットシュート』」
ある程度余裕を残しながらもそれなりの本気で戦った時に、切り札の一つ前として使ったスペルカード。
散弾銃のようにばらけながら飛来する強烈な魔力弾の塊を無数に放ち力任せに圧殺する弾幕だ。
無数の紅い巨弾が闇夜を引き裂いた。
* * *
ヴィクトリアは内心でほくそ笑んでいた。
これでレミリア・スカーレットもどうにかなるはずだ。
(若干の矛盾を抱えて騙しきれるか不安だったけど、レミリアが事実危険人物だったおかげで助かったわ。
これだけの人数を持ってすれば恐らく、どうにかできる。例え倒せずともね)
参加者の数だけを数えれば1対6という圧倒的優勢だが、ヴィクトリアは油断していなかった。
なにせ戦力的には随分と不安が残る。
リルルは赤ん坊のひまわりを抱えていて、右手だけしか使えない。
それも抱いている腕は怪我をしているのかシーツまで巻いている。あまり戦力にはならないだろう。
ククリも魔法使いのようだがあの様子ではどこまで頼りになるものか。ひまわりは当然論外。
都合が良いことに通りすがって巻き込まれてくれた金糸雀も臆病そうでアテにはできない。
同じく駆け付けてくれた犬上小太郎は詳細名簿によればなかなかの実力者だが、一人でどこまでできるものか。
頭数だけは揃ったが、前情報から判断できる限りでは大半が戦力にならない。もしかすると劣勢かもしれない。
だが、ヴィクトリア達が勝つ必要もなかった。
(ひまわりを抜いた上で、頭数にして四人も居るわ。これだけ居れば“逃げようと思えばどうとでもなる”。
一人二人がやられて旗色が悪くなったら、残った奴を前に押し出して逃げ切ればいいのよ。
もちろん、ここでレミリアを殺せるなら殺しておけば万全だわ。
レイジングハートが余計な事を言う危険も有ったけど、『しばらく無駄口を止めろ』という命令は有効だったようね。
行ける。ここでレミリアを倒すか、こいつらを囮にして逃げきれるわ)
そこまでの目算を済ました矢先、レミリアが宣言した。
「紅符『スカーレットシュート』」
直感する。あれはおそらく詠唱か何かだ。
来る攻撃を予感してヴィクトリアはレイジングハートを振るう。
「防ぎなさい、レイジングハート!」
『Wide Area Protection』
放射状に放たれた真紅の魔弾が広域障壁へと殺到した。
これでレミリア・スカーレットもどうにかなるはずだ。
(若干の矛盾を抱えて騙しきれるか不安だったけど、レミリアが事実危険人物だったおかげで助かったわ。
これだけの人数を持ってすれば恐らく、どうにかできる。例え倒せずともね)
参加者の数だけを数えれば1対6という圧倒的優勢だが、ヴィクトリアは油断していなかった。
なにせ戦力的には随分と不安が残る。
リルルは赤ん坊のひまわりを抱えていて、右手だけしか使えない。
それも抱いている腕は怪我をしているのかシーツまで巻いている。あまり戦力にはならないだろう。
ククリも魔法使いのようだがあの様子ではどこまで頼りになるものか。ひまわりは当然論外。
都合が良いことに通りすがって巻き込まれてくれた金糸雀も臆病そうでアテにはできない。
同じく駆け付けてくれた犬上小太郎は詳細名簿によればなかなかの実力者だが、一人でどこまでできるものか。
頭数だけは揃ったが、前情報から判断できる限りでは大半が戦力にならない。もしかすると劣勢かもしれない。
だが、ヴィクトリア達が勝つ必要もなかった。
(ひまわりを抜いた上で、頭数にして四人も居るわ。これだけ居れば“逃げようと思えばどうとでもなる”。
一人二人がやられて旗色が悪くなったら、残った奴を前に押し出して逃げ切ればいいのよ。
もちろん、ここでレミリアを殺せるなら殺しておけば万全だわ。
レイジングハートが余計な事を言う危険も有ったけど、『しばらく無駄口を止めろ』という命令は有効だったようね。
行ける。ここでレミリアを倒すか、こいつらを囮にして逃げきれるわ)
そこまでの目算を済ました矢先、レミリアが宣言した。
「紅符『スカーレットシュート』」
直感する。あれはおそらく詠唱か何かだ。
来る攻撃を予感してヴィクトリアはレイジングハートを振るう。
「防ぎなさい、レイジングハート!」
『Wide Area Protection』
放射状に放たれた真紅の魔弾が広域障壁へと殺到した。
「くっ、思ったより……!」
魔弾を受け止めた衝撃が軋みを上げる。幸い防ぎきれない威力ではなかった。
一度なら。
往復して二度目、放射状に巨弾の塊が押し寄せる。
一度目で既に軋みを上げていた障壁はガラスの様に砕け散った。
更にレミリアの手の中で、紅く輝く三波目の弾幕が禍々しく開放を待っている。
「させるか!」
小太郎が飛び出した。
瞬動。文字通り瞬間移動のように見える超高速移動術がレミリアとの距離を零にする。
人間を超えた動体視力ですら殆ど目視できない速さでレミリアへと飛びかかる。
だがその足が瞬時に止まり、二連続の瞬動で横に跳ぶ。
「やるじゃないか」
不敵に笑うレミリアの右手には最強の聖剣ラグナロクが握られている。
振り抜かれたその右手よりもあと一瞬遅ければ、小太郎の首は飛んでいた。
温存していた右手を使わせた。だが放とうとしていた左手を止められない。
魔弾を受け止めた衝撃が軋みを上げる。幸い防ぎきれない威力ではなかった。
一度なら。
往復して二度目、放射状に巨弾の塊が押し寄せる。
一度目で既に軋みを上げていた障壁はガラスの様に砕け散った。
更にレミリアの手の中で、紅く輝く三波目の弾幕が禍々しく開放を待っている。
「させるか!」
小太郎が飛び出した。
瞬動。文字通り瞬間移動のように見える超高速移動術がレミリアとの距離を零にする。
人間を超えた動体視力ですら殆ど目視できない速さでレミリアへと飛びかかる。
だがその足が瞬時に止まり、二連続の瞬動で横に跳ぶ。
「やるじゃないか」
不敵に笑うレミリアの右手には最強の聖剣ラグナロクが握られている。
振り抜かれたその右手よりもあと一瞬遅ければ、小太郎の首は飛んでいた。
温存していた右手を使わせた。だが放とうとしていた左手を止められない。
「でもまずはそっちね」
スカーレットシュートの第三波はこれまでよりも収束した魔弾群だった。
巨大な魔弾の塊が三つ、殆ど隣接するように隙間無く襲い掛かる。
ククリや金糸雀にはある程度密集していようとも三つも寄り添う魔弾群を避ける技などない。
ワイドエリアプロテクションを再び展開する猶予は無く、展開しても耐えきれない。
これまでは放射状に放たれた塊の一つが炸裂しただけだ。それが二度で砕かれた。
三つ寄り添う魔弾群は広く薄い広域結界など容易く砕いてしまうだろう。
「えーい! トカゲのしっぽ!」
「第1楽章、攻撃のワルツ!」
対抗して瞬時に放たれたククリのグルグルが、金糸雀がエスパー帽子で模倣した必殺技が相殺をかける。
彼女達がこの高速戦闘の中で瞬時に発動できて、且つ周囲を巻き込まない数少ない選択肢。
魔弾の塊が二つ消え、それでも一つの塊が残ってしまう。
ヴィクトリアは即座に防御を断念した。弾数が減ったのを良いことにそこから右に跳躍して攻撃を回避する。
リルルは瞬時に状況を判断した。片手にひまわりを抱えたまま、もう片手でククリを掬い飛んで回避する。
金糸雀だけがその場に残された。
「きゃ、きゃあああぁ!?」
瞬時にダイレクを盾にして、それでも防ぎきれない衝撃が金糸雀を跳ね飛ばした。
旅館の壁に叩き付けられぐったりと意識を手放した。
――金糸雀、戦闘不能。
スカーレットシュートの第三波はこれまでよりも収束した魔弾群だった。
巨大な魔弾の塊が三つ、殆ど隣接するように隙間無く襲い掛かる。
ククリや金糸雀にはある程度密集していようとも三つも寄り添う魔弾群を避ける技などない。
ワイドエリアプロテクションを再び展開する猶予は無く、展開しても耐えきれない。
これまでは放射状に放たれた塊の一つが炸裂しただけだ。それが二度で砕かれた。
三つ寄り添う魔弾群は広く薄い広域結界など容易く砕いてしまうだろう。
「えーい! トカゲのしっぽ!」
「第1楽章、攻撃のワルツ!」
対抗して瞬時に放たれたククリのグルグルが、金糸雀がエスパー帽子で模倣した必殺技が相殺をかける。
彼女達がこの高速戦闘の中で瞬時に発動できて、且つ周囲を巻き込まない数少ない選択肢。
魔弾の塊が二つ消え、それでも一つの塊が残ってしまう。
ヴィクトリアは即座に防御を断念した。弾数が減ったのを良いことにそこから右に跳躍して攻撃を回避する。
リルルは瞬時に状況を判断した。片手にひまわりを抱えたまま、もう片手でククリを掬い飛んで回避する。
金糸雀だけがその場に残された。
「きゃ、きゃあああぁ!?」
瞬時にダイレクを盾にして、それでも防ぎきれない衝撃が金糸雀を跳ね飛ばした。
旅館の壁に叩き付けられぐったりと意識を手放した。
――金糸雀、戦闘不能。
「この、やったなおまえ!!」
小太郎が反転して再び瞬動。レミリアへと襲い掛かる。
四連投擲した手裏剣を瞬動で追い越して。
「ええ、やったわよ」
レミリアがそれを迎撃する。
放たれた無数の針弾が手裏剣を撃ち落とす。
振るわれる剣。ギリギリで見切って飛び込む小太郎。
小太郎の拳とレミリアの左腕が交錯した。小太郎は受け止め、それでも体ごと弾かれる。
レミリアの追撃。小太郎の迎撃。
矢のように跳ね飛ばされながらも小太郎は拳を振るう。レミリアはそれを蹂躙する。
当人の背丈も相まって極端に低いスライディングが小太郎の足を刈りとった。
続く斬撃を小太郎は辛うじて真剣白刃取りで受け止める。だが吸血鬼は意にも介さない。
レミリアはそのまま小太郎がはりついた剣を棍棒のように振り切って立木をへし折り石灯籠をダルマ落とし。
「がぁっ?! こ、のデタラメやなっ!」
堪らず小太郎は振り飛ばされた。それでも数瞬一歩だけレミリアの足を止められた。
小太郎が反転して再び瞬動。レミリアへと襲い掛かる。
四連投擲した手裏剣を瞬動で追い越して。
「ええ、やったわよ」
レミリアがそれを迎撃する。
放たれた無数の針弾が手裏剣を撃ち落とす。
振るわれる剣。ギリギリで見切って飛び込む小太郎。
小太郎の拳とレミリアの左腕が交錯した。小太郎は受け止め、それでも体ごと弾かれる。
レミリアの追撃。小太郎の迎撃。
矢のように跳ね飛ばされながらも小太郎は拳を振るう。レミリアはそれを蹂躙する。
当人の背丈も相まって極端に低いスライディングが小太郎の足を刈りとった。
続く斬撃を小太郎は辛うじて真剣白刃取りで受け止める。だが吸血鬼は意にも介さない。
レミリアはそのまま小太郎がはりついた剣を棍棒のように振り切って立木をへし折り石灯籠をダルマ落とし。
「がぁっ?! こ、のデタラメやなっ!」
堪らず小太郎は振り飛ばされた。それでも数瞬一歩だけレミリアの足を止められた。
「アクセルシューター・シャイニングケージシフト!」
ヴィクトリアの放った光の檻がレミリアを囲い込む。
「えい、へびいちご!」
ククリが足下に描いた魔法陣からいちご型の砲台が出現し無数のいちご爆弾を発射する。
跳躍したレミリアの下で地面が爆発に包まれた。爆風にさえ巻き込まれない。
そのまま連射を続けるいちご爆弾もチョンチョンと少しずつ動くだけで当たらない。
闇夜に吸い込まれ遠くで炸裂するばかりだ。
発射の瞬間に狙いが定められているならば、到達までに一歩動くだけで全てが空を撃つ道理。
それどころか反撃で放たれた魔弾がいちご砲台の蔦を引き裂いてしまう。
ならばと左腕でひまわりを抱えたリルルが、右手でレミリアを指差した。その指から雷撃が放たれる。
空気中の雷撃の速度は光速にこそ劣るもののおおよそマッハ440、放たれてから回避など不可能だ。
しかし光速のレーザーはおろか、止まった時間の向こうから零瞬で訪れるナイフさえもレミリアには届かない。
予兆を察知したレミリアは一瞬早く加速して、放たれる寸前に雷撃を回避した。
「止まらんかい! 狗音爆砕拳!!」
加速した先に待ち受ける犬神を集中させた小太郎の拳も。
「遅い方が悪いのよ」
振り下ろされたラグナロクと鬩ぎ合い、力が爆裂して二人の間合いを引き離す。
ヴィクトリアの放った光の檻がレミリアを囲い込む。
「えい、へびいちご!」
ククリが足下に描いた魔法陣からいちご型の砲台が出現し無数のいちご爆弾を発射する。
跳躍したレミリアの下で地面が爆発に包まれた。爆風にさえ巻き込まれない。
そのまま連射を続けるいちご爆弾もチョンチョンと少しずつ動くだけで当たらない。
闇夜に吸い込まれ遠くで炸裂するばかりだ。
発射の瞬間に狙いが定められているならば、到達までに一歩動くだけで全てが空を撃つ道理。
それどころか反撃で放たれた魔弾がいちご砲台の蔦を引き裂いてしまう。
ならばと左腕でひまわりを抱えたリルルが、右手でレミリアを指差した。その指から雷撃が放たれる。
空気中の雷撃の速度は光速にこそ劣るもののおおよそマッハ440、放たれてから回避など不可能だ。
しかし光速のレーザーはおろか、止まった時間の向こうから零瞬で訪れるナイフさえもレミリアには届かない。
予兆を察知したレミリアは一瞬早く加速して、放たれる寸前に雷撃を回避した。
「止まらんかい! 狗音爆砕拳!!」
加速した先に待ち受ける犬神を集中させた小太郎の拳も。
「遅い方が悪いのよ」
振り下ろされたラグナロクと鬩ぎ合い、力が爆裂して二人の間合いを引き離す。
弾かれたレミリアの体を何か強い力が引き寄せる。見るとその先に有るのは小さな星だった。
「プチ惑星、これなら!」
ククリが叫ぶ。敵を引き寄せ激突させるグルグルだ。幾ら速くても見えない引力は避けられない。
更にその軌道上をヴィクトリアのアクセルシューターが交錯して光のトラップを紡ぎ出す。
「その弾幕はもう見飽きたわ」
レミリアはしかし軌道を調整してみせる。
引き寄せられながらも待ちかまえる無数の光線と襲い来るアクセルシューターを擦り抜ける。
その先に訪れる激突の運命さえも。
「こんな木偶に何ができる」
“神々の運命”の名を冠した聖剣が一刀両断に破壊した。
ふと気づき、そのまま剣を突き立て頭を抱えて屈み込む。
上空に舞い上がったリルルからの雷撃も避雷針となった剣が吸い込んだ。
壮絶な猛攻を鮮やかに捌ききり、レミリアは不敵に笑う。
地に立った聖剣を抜き放ち、高らかに最強を謳う。
「神々の運命さえも私の手の内に有る」
小太郎は少ない気から犬神を使ったせいで荒い息を吐いていた。
ククリはどんなグルグルを使えば効果があるのか判らず慌てていた。
ヴィクトリアはレイジングハートを手に逃げる算段を練っていた。
金糸雀は既に意識を失っていた。
リルルは上空から、瞳に僅かな焦りを浮かべてレミリアを見下ろしていた。
「もう誰も私に触れる事なんて出来はしない」
「たーっ」
「プチ惑星、これなら!」
ククリが叫ぶ。敵を引き寄せ激突させるグルグルだ。幾ら速くても見えない引力は避けられない。
更にその軌道上をヴィクトリアのアクセルシューターが交錯して光のトラップを紡ぎ出す。
「その弾幕はもう見飽きたわ」
レミリアはしかし軌道を調整してみせる。
引き寄せられながらも待ちかまえる無数の光線と襲い来るアクセルシューターを擦り抜ける。
その先に訪れる激突の運命さえも。
「こんな木偶に何ができる」
“神々の運命”の名を冠した聖剣が一刀両断に破壊した。
ふと気づき、そのまま剣を突き立て頭を抱えて屈み込む。
上空に舞い上がったリルルからの雷撃も避雷針となった剣が吸い込んだ。
壮絶な猛攻を鮮やかに捌ききり、レミリアは不敵に笑う。
地に立った聖剣を抜き放ち、高らかに最強を謳う。
「神々の運命さえも私の手の内に有る」
小太郎は少ない気から犬神を使ったせいで荒い息を吐いていた。
ククリはどんなグルグルを使えば効果があるのか判らず慌てていた。
ヴィクトリアはレイジングハートを手に逃げる算段を練っていた。
金糸雀は既に意識を失っていた。
リルルは上空から、瞳に僅かな焦りを浮かべてレミリアを見下ろしていた。
「もう誰も私に触れる事なんて出来はしない」
「たーっ」
………………。
「ひ、ひまわりちゃん!?」
ククリがそれに気づいて蒼白になる。
いつの間にかリルルの手の中にひまわりが居ない。
ひまわりの居場所に気付いた時、ある者は焦燥し、ある者は驚愕した。
「……赤ん坊?」
レミリアはぽかんとなった。
いつの間にかレミリアの背中にひまわりが張り付いていた。
元々リルルは左手首を引きちぎり、溶解して機能が低下した上に断面を隠すためのシーツを巻いていた。
その半端な腕でひまわりを抱いていたのだ。
左手でひまわりを抱きながら飛翔し、右手で攻撃した時、ついにその腕からひまわりが零れてしまった。
「たーっ」
ひまわりはわしわしと体を動かしレミリアの頭頂にまでよじ登る。
赤ん坊にあるまじき見事な身体能力である。
そしてレミリアが引き剥がそうと手を伸ばした頭の上で。
赤ちゃん用のおむつを脱いだひまわりが。
「ひ、ひまわりちゃん!?」
ククリがそれに気づいて蒼白になる。
いつの間にかリルルの手の中にひまわりが居ない。
ひまわりの居場所に気付いた時、ある者は焦燥し、ある者は驚愕した。
「……赤ん坊?」
レミリアはぽかんとなった。
いつの間にかレミリアの背中にひまわりが張り付いていた。
元々リルルは左手首を引きちぎり、溶解して機能が低下した上に断面を隠すためのシーツを巻いていた。
その半端な腕でひまわりを抱いていたのだ。
左手でひまわりを抱きながら飛翔し、右手で攻撃した時、ついにその腕からひまわりが零れてしまった。
「たーっ」
ひまわりはわしわしと体を動かしレミリアの頭頂にまでよじ登る。
赤ん坊にあるまじき見事な身体能力である。
そしてレミリアが引き剥がそうと手を伸ばした頭の上で。
赤ちゃん用のおむつを脱いだひまわりが。
おしっこをした。
…………………………………。
痛いほど静かな空気。
「ふー」
それを気にもせず、ひまわりは満面の笑顔で飛び降り転がって、駆け付けたリルルの腕へと帰り着く。
とりあえず、無事生還。
その場にいる者達はそうっとレミリアの顔を覗いてみた。
「………………ふ」
俯いているレミリアの表情は。
「ふ……ふふ…………ふふふふふ……ふふふ………………」
完全に目が据わっていた。
痛いほど静かな空気。
「ふー」
それを気にもせず、ひまわりは満面の笑顔で飛び降り転がって、駆け付けたリルルの腕へと帰り着く。
とりあえず、無事生還。
その場にいる者達はそうっとレミリアの顔を覗いてみた。
「………………ふ」
俯いているレミリアの表情は。
「ふ……ふふ…………ふふふふふ……ふふふ………………」
完全に目が据わっていた。
レミリアは右手に握られていたラグナロクを背中のランドセルにしまい込んだ。
それから、首に下げていたおもちゃのハンマーみたいなペンダントを引きちぎる。
ペンダントは瞬時に長柄のハンマーへと姿を変えた。だがレミリアは更に要求する。
「……アイゼン。ギガントフォルムよ」
『Gigantform』
ガコンガコンと音を立て二つのカートリッジが撃発された。だが弾は出ない。
漲る魔力がグラーフアイゼンの形状を変化するだけだ。
身の丈ほども有る巨大なハンマー。そのハンマーヘッドは角柱型をしていた。
危険を感じて攻撃しようとする者達を制して、小太郎が叫んだ。
「あかん、逃げろ!」
レミリアは口元を歪めて飛翔する。上空へと一直線に。
それは流れ星のように速く旋回して、再び地上へと押し寄せる。
「砕けてしまえええええええええええええええええええええぇっ」
ハンマーヘッドが巨大化し夜の空を埋め尽くす。
それから、首に下げていたおもちゃのハンマーみたいなペンダントを引きちぎる。
ペンダントは瞬時に長柄のハンマーへと姿を変えた。だがレミリアは更に要求する。
「……アイゼン。ギガントフォルムよ」
『Gigantform』
ガコンガコンと音を立て二つのカートリッジが撃発された。だが弾は出ない。
漲る魔力がグラーフアイゼンの形状を変化するだけだ。
身の丈ほども有る巨大なハンマー。そのハンマーヘッドは角柱型をしていた。
危険を感じて攻撃しようとする者達を制して、小太郎が叫んだ。
「あかん、逃げろ!」
レミリアは口元を歪めて飛翔する。上空へと一直線に。
それは流れ星のように速く旋回して、再び地上へと押し寄せる。
「砕けてしまえええええええええええええええええええええぇっ」
ハンマーヘッドが巨大化し夜の空を埋め尽くす。
空の天井が落ちてきた。
* * *
トリエラは全力で走り続けていた。
足下を屋根が流れていく。しかし視線の先で屋根は道路によって途切れていた。
細い、それでも5m以上有る道の向かいには次の家。
迷わず跳躍した。
眼下を道が流れ去り、トリエラは次の屋根に足を届かせる。足に衝撃が響く。
「くっ……あと少し!」
まだ行ける。そう判断して再び走り出した。
これはトリエラの選んだ、一秒でも早く旅館に辿り着く近道だ。
これなら何処を通っているか判らない小太郎とのび太に鉢合わせる事も無い。
実は小太郎は同じルートを神速の瞬動術で駆け抜けているのだが、トリエラが知る由もない。
トリエラが今考えているのは、とにかく急いで旅館に駆け付ける事だ。
シャナに襲撃を受けた時、ククリ達はどこまで耐えられる? 何秒、何分間生きていられる?
最悪の場合――例えば特殊部隊が立て篭もり事件を制圧するケースなら、決着に掛かる時間は秒単位だ。
もしこの速度で決着していたら、トリエラがどれだけ急ごうとどうにもならない。
最初の攻撃を防いで膠着状態を作る事が出来ているかどうか。
(5分……せめて4分凌いでくれていれば……!)
小規模なビルの横のアパートを走り抜けたトリエラの視界に温泉旅館が広がった。
複雑な地形の500mを駆け抜けるまで200秒足らず。
辿り着いたその眼前で。
足下を屋根が流れていく。しかし視線の先で屋根は道路によって途切れていた。
細い、それでも5m以上有る道の向かいには次の家。
迷わず跳躍した。
眼下を道が流れ去り、トリエラは次の屋根に足を届かせる。足に衝撃が響く。
「くっ……あと少し!」
まだ行ける。そう判断して再び走り出した。
これはトリエラの選んだ、一秒でも早く旅館に辿り着く近道だ。
これなら何処を通っているか判らない小太郎とのび太に鉢合わせる事も無い。
実は小太郎は同じルートを神速の瞬動術で駆け抜けているのだが、トリエラが知る由もない。
トリエラが今考えているのは、とにかく急いで旅館に駆け付ける事だ。
シャナに襲撃を受けた時、ククリ達はどこまで耐えられる? 何秒、何分間生きていられる?
最悪の場合――例えば特殊部隊が立て篭もり事件を制圧するケースなら、決着に掛かる時間は秒単位だ。
もしこの速度で決着していたら、トリエラがどれだけ急ごうとどうにもならない。
最初の攻撃を防いで膠着状態を作る事が出来ているかどうか。
(5分……せめて4分凌いでくれていれば……!)
小規模なビルの横のアパートを走り抜けたトリエラの視界に温泉旅館が広がった。
複雑な地形の500mを駆け抜けるまで200秒足らず。
辿り着いたその眼前で。
突如天から降った巨大な角柱が旅館を完膚無きまでに粉砕した。
「――――っ」
トリエラに出来たのは、余波で粉砕されるアパートの屋根から頭を庇って転げ落ちる事だけだった。
トリエラに出来たのは、余波で粉砕されるアパートの屋根から頭を庇って転げ落ちる事だけだった。