すべては妹のために(前編)◆CFbj666Xrw
――フランドール・スカーレット。
その名前が呼ばれたとき、彼女は咄嗟にその意味を理解できなかった。
だってそれは、有り得ない事なのだから。
フランを殺せる者なんて居るはずがない。だから放送で呼ばれる事は無い。
ただ単にそれだけの事が、覆った。
「――アイゼン」
『なんでしょう?』
「リピート」
『……放送で呼ばれた名は、フランドール・スカーレットです。
加えてプレセア・コンバティールも死亡したとの事です』
「そう」
死んだものは死んだこと。それを確認する。
死んだのが事実だというならば、事実を元に考えるしかない。
「驚いた。あの子、殺されたのね」
ただそれだけの事だ。
だからレミリアはさっぱりとした口調で言った
憎しみが篭もる事はなく、悲しみに満たされる事もなかった。
「ついでにプレセアも死んで、しんべヱっていう餓鬼も死んだか。
しんべヱの死体捜し……はもういいか。レイジングハートという奴を捜すとしよう」
『――レイジングハートはデバイスです』
「へぇ……」
グラーフアイゼンが唐突に情報をもたらした。
「おまえと似たような物かしら。なんだ、喋る杖の方だったのね。
そうすると仮にそこで死んだとすれば、殺した奴は謎の仮面の女か。……どうでもいいな」
レミリアは訊いた。
「まあいいわ。その杖について詳しく説明なさい」
その名前が呼ばれたとき、彼女は咄嗟にその意味を理解できなかった。
だってそれは、有り得ない事なのだから。
フランを殺せる者なんて居るはずがない。だから放送で呼ばれる事は無い。
ただ単にそれだけの事が、覆った。
「――アイゼン」
『なんでしょう?』
「リピート」
『……放送で呼ばれた名は、フランドール・スカーレットです。
加えてプレセア・コンバティールも死亡したとの事です』
「そう」
死んだものは死んだこと。それを確認する。
死んだのが事実だというならば、事実を元に考えるしかない。
「驚いた。あの子、殺されたのね」
ただそれだけの事だ。
だからレミリアはさっぱりとした口調で言った
憎しみが篭もる事はなく、悲しみに満たされる事もなかった。
「ついでにプレセアも死んで、しんべヱっていう餓鬼も死んだか。
しんべヱの死体捜し……はもういいか。レイジングハートという奴を捜すとしよう」
『――レイジングハートはデバイスです』
「へぇ……」
グラーフアイゼンが唐突に情報をもたらした。
「おまえと似たような物かしら。なんだ、喋る杖の方だったのね。
そうすると仮にそこで死んだとすれば、殺した奴は謎の仮面の女か。……どうでもいいな」
レミリアは訊いた。
「まあいいわ。その杖について詳しく説明なさい」
* * *
「………………」
「………………」
レックスは。アルルゥとレベッカは息を潜めて睨み合う。
敵である少女を、少年を警戒しながら子供達は静かに睨み合っていた。
定時放送が流れていた。
「………………」
レックスは。アルルゥとレベッカは息を潜めて睨み合う。
敵である少女を、少年を警戒しながら子供達は静かに睨み合っていた。
定時放送が流れていた。
ジェダはまず、禁止エリアを告げた。
19時よりB-7。島の南西部。
21時よりH-8。島の南東端。
23時よりA-1。島の北西端。
1時より G-4。島の東部。
3時より E-7。島の南部。
5時より E-2。島の北部。
しばらくの間、この中央部周辺に禁止エリア指定は無いらしい。
その事に三人ともが小さく安堵する。
19時よりB-7。島の南西部。
21時よりH-8。島の南東端。
23時よりA-1。島の北西端。
1時より G-4。島の東部。
3時より E-7。島の南部。
5時より E-2。島の北部。
しばらくの間、この中央部周辺に禁止エリア指定は無いらしい。
その事に三人ともが小さく安堵する。
次に無数の名前が連ねられる。
死者達の名だ。
その場にいた彼ら、彼女らが聞いた名も幾つかあげられた。
01番、明石薫。アルルゥとレベッカは敵の一人が死んだ事を知った。
11番、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。更なる敵の死を知った。
18番、城戸丈。アルルゥは脱出を目指した一人の少年の死を知った。
死者の名前は十を数えても止まらない。
31番、ジーニアス・セイジ。アルルゥとレベッカは彼の死を知った。
「………………」
アルルゥはただ戸惑った。
「そんな……ジーニアス、死んだのか!?」
レベッカは衝撃を受けた。心は千々に乱され、冷静さをこそぎとる。
34番、真紅。35番、翠星石。彼女達の死をレベッカは知っていた。
レベッカは翠星石の死を思い出した。自分とジーニアスを庇って死んだ彼女の死を。
翠星石の友人である真紅は、今や無惨な首飾り。
……どうにもならない。
44番、永沢君男。レックスは自らが殺した少年の名を知らない。
死者の名前は二十を数え尚止まらない。
死者達の名だ。
その場にいた彼ら、彼女らが聞いた名も幾つかあげられた。
01番、明石薫。アルルゥとレベッカは敵の一人が死んだ事を知った。
11番、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。更なる敵の死を知った。
18番、城戸丈。アルルゥは脱出を目指した一人の少年の死を知った。
死者の名前は十を数えても止まらない。
31番、ジーニアス・セイジ。アルルゥとレベッカは彼の死を知った。
「………………」
アルルゥはただ戸惑った。
「そんな……ジーニアス、死んだのか!?」
レベッカは衝撃を受けた。心は千々に乱され、冷静さをこそぎとる。
34番、真紅。35番、翠星石。彼女達の死をレベッカは知っていた。
レベッカは翠星石の死を思い出した。自分とジーニアスを庇って死んだ彼女の死を。
翠星石の友人である真紅は、今や無惨な首飾り。
……どうにもならない。
44番、永沢君男。レックスは自らが殺した少年の名を知らない。
死者の名前は二十を数え尚止まらない。
だがそれでもレックスは安堵する。
発音順に読み上げられる死者の名はタバサを呼ばずに通り過ぎた。
(タバサはまだ、生きているんだ)
死者の羅列はアルルゥ達に暗澹たる未来を告知し続ける。
発音順に読み上げられる死者の名はタバサを呼ばずに通り過ぎた。
(タバサはまだ、生きているんだ)
死者の羅列はアルルゥ達に暗澹たる未来を告知し続ける。
58番、福富しんべヱ。
「……ウソだろ」
レベッカは言葉に詰まる。ほんの数分前に仲間を呼びに行った少年は死者へと変わる。
60番、フランドール・スカーレット。
「レミリア…………」
アルルゥは呟く。フランドールの“おねえちゃん”である吸血鬼の名を。
63番、プレセア・コンバティール。
「……ぁ…………」
そして茫然となる。この島に来てから出会った、アルルゥにとっての“おねえちゃん”。
その名を読み上げられた。
殺された。死んだ事を告げられた。衝撃はただ激しくて。
「ぁ……バカ! 前!!」
「え……」
“一足早く何も失ってない事を確信した”レックスがそれにつけ込む事は容易だった。
「……ウソだろ」
レベッカは言葉に詰まる。ほんの数分前に仲間を呼びに行った少年は死者へと変わる。
60番、フランドール・スカーレット。
「レミリア…………」
アルルゥは呟く。フランドールの“おねえちゃん”である吸血鬼の名を。
63番、プレセア・コンバティール。
「……ぁ…………」
そして茫然となる。この島に来てから出会った、アルルゥにとっての“おねえちゃん”。
その名を読み上げられた。
殺された。死んだ事を告げられた。衝撃はただ激しくて。
「ぁ……バカ! 前!!」
「え……」
“一足早く何も失ってない事を確信した”レックスがそれにつけ込む事は容易だった。
「オピァ……」「させるか!」
一閃。
タマヒポを喚ぼうとサモナイト石をかかげたその手が、斬り飛ばされた。
右手の手首から先が宙を舞い、血飛沫が夜天の光を照り返す。
アルルゥがその激痛と恐怖に襲われるよりも早く、勢いを殺さず飛び込んだレックスが剣を振るう。
懐まで飛び込んでは刃を振るえない。それでも突進の勢いを乗せた柄の打突は重かった。
人として鍛え抜かれた腕が、人として有り得ない怪力を絞り出す。
――レックスの手の中で刀身が黄金色の輝きを放っていた。
肋骨を折りながら食い込んだ柄がアルルゥの小さな体を跳ね飛ばす。
背後の樹に叩きつけられ、湿った嫌な音が響きわたる。
めりめりと音を立て、へし折れた樹が地に伏していった。
「アルルゥ!!」
レベッカの悲鳴が上がる。
アルルゥは動かない。悲鳴を上げる事もない。
それを確認すると、彼女達の敵対者は安堵の息を吐きだした。
「……今度こそ、ようやくだ。もうミスなんてするもんか。
ここでこれまでの失敗を纏めて取り返す。この場で二人殺してご褒美をもらってやる」
「ひっ……」
この場における二人目、レベッカは恐怖した。
一閃。
タマヒポを喚ぼうとサモナイト石をかかげたその手が、斬り飛ばされた。
右手の手首から先が宙を舞い、血飛沫が夜天の光を照り返す。
アルルゥがその激痛と恐怖に襲われるよりも早く、勢いを殺さず飛び込んだレックスが剣を振るう。
懐まで飛び込んでは刃を振るえない。それでも突進の勢いを乗せた柄の打突は重かった。
人として鍛え抜かれた腕が、人として有り得ない怪力を絞り出す。
――レックスの手の中で刀身が黄金色の輝きを放っていた。
肋骨を折りながら食い込んだ柄がアルルゥの小さな体を跳ね飛ばす。
背後の樹に叩きつけられ、湿った嫌な音が響きわたる。
めりめりと音を立て、へし折れた樹が地に伏していった。
「アルルゥ!!」
レベッカの悲鳴が上がる。
アルルゥは動かない。悲鳴を上げる事もない。
それを確認すると、彼女達の敵対者は安堵の息を吐きだした。
「……今度こそ、ようやくだ。もうミスなんてするもんか。
ここでこれまでの失敗を纏めて取り返す。この場で二人殺してご褒美をもらってやる」
「ひっ……」
この場における二人目、レベッカは恐怖した。
――だけど、逃げる事はできない。
(だってアルルゥはまだ、生きている)
右手首を切り飛ばされて、肋骨の骨は恐らく何本もへし折れ、
その挙げ句に樹がへし折れるほどの勢いで叩きつけられた小さな少女。
それでもアルルゥはまだ生きていた。
胸が上下しているのが見えた。かすかな息づかいと呻き声が聞こえた。
アルルゥはまだ生きていた。……まだ。
(でもあんなの……もうどうしようもないじゃないか)
確実に致命傷だ。放っておけば確実に死ぬ。
治す方法だって見当も付かない。どうしようもない。
見捨てて逃げるしか手はないはずのに、それさえも出来なかった。
(くそ、何か無いのか、何か……! 今、私が持ってる物で!
魔導ボード……ダメだ、こんな森の中じゃあいつの足の方が速い! ていうか壊れてるし!
木刀……あんなの相手にできるか! 宇宙服……意味ねー!?
くそ、なにか、なにか……!)
手が、布きれを掴んだ。
レックスが駆け出す。剣を振り上げて。距離が詰まり間合いが迫り刃が走り。
「このぉっ!」
レックスが剣を振り下ろす瞬間、レベッカは反射的にその布切れを振るっていた。
…………ひらり。
(だってアルルゥはまだ、生きている)
右手首を切り飛ばされて、肋骨の骨は恐らく何本もへし折れ、
その挙げ句に樹がへし折れるほどの勢いで叩きつけられた小さな少女。
それでもアルルゥはまだ生きていた。
胸が上下しているのが見えた。かすかな息づかいと呻き声が聞こえた。
アルルゥはまだ生きていた。……まだ。
(でもあんなの……もうどうしようもないじゃないか)
確実に致命傷だ。放っておけば確実に死ぬ。
治す方法だって見当も付かない。どうしようもない。
見捨てて逃げるしか手はないはずのに、それさえも出来なかった。
(くそ、何か無いのか、何か……! 今、私が持ってる物で!
魔導ボード……ダメだ、こんな森の中じゃあいつの足の方が速い! ていうか壊れてるし!
木刀……あんなの相手にできるか! 宇宙服……意味ねー!?
くそ、なにか、なにか……!)
手が、布きれを掴んだ。
レックスが駆け出す。剣を振り上げて。距離が詰まり間合いが迫り刃が走り。
「このぉっ!」
レックスが剣を振り下ろす瞬間、レベッカは反射的にその布切れを振るっていた。
…………ひらり。
「え…………?」「な、なんで!?」
レベッカの放心とレックスの動揺が交差する。
レックスはすぐに気を取り直して第二撃。だがレベッカはそれに対して再び振るった。
……ひらり。
振るわれた赤いマントに当たる寸前、剣は逸れて空を切る。
「なんでだ!!」
レックスは続けざまに剣を振る。
袈裟切り。逆風。逆袈裟。右薙ぎ。刺突。唐竹割り。
ひらり。ひらり。ひらひらり。
「さっきは当たったじゃないか! なのにどうして、どうしてまた当たらないんだよ!?」
「うわ、来るな!?」
逆上したレックスは無闇矢鱈に斬りつける。
その斬撃は全て重く、神速を持っていた。だがその全てが空を切る。
レベッカは当然ながら気付いていた。
この赤いマントが全ての攻撃を受け流している事に。
しんべヱのちょんまげに絡んでいたこのマントは、本人も知らなかった強力な防具だ。
一太刀一太刀が必殺の攻撃を全て完璧に受け流してくれる。
(ど、どういう原理なんだ。いや、それはどうでもいい。とにかく今の内にどうにかしないと……!)
レックスは逆上して無闇に斬りつけてばかりいる。
だけど落ち着けばこのマントが盾である事に気付くだろう。
それまでに何か手を打たないと殺される。アルルゥだって助けられない。
何かを手を打たなければならない。どうにかして。
マントを振るい続けなければ一瞬で斬り殺されるこの状況から。
(……こんなのどうにもなるもんか)
どうしろというのか。
時間を稼ぐ以外に何が出来る。負けを引き延ばした所で何がある。
ジーニアスとプレセアは放送で死を告げられた。
助けを呼びに行ったしんべヱは数分で殺されて、きっと何処にも辿り着けなかった。
レミリアはまだ生きているようだけど、この状況で間に合うわけがない。
そんな都合の良い展開なんて……。
レベッカの放心とレックスの動揺が交差する。
レックスはすぐに気を取り直して第二撃。だがレベッカはそれに対して再び振るった。
……ひらり。
振るわれた赤いマントに当たる寸前、剣は逸れて空を切る。
「なんでだ!!」
レックスは続けざまに剣を振る。
袈裟切り。逆風。逆袈裟。右薙ぎ。刺突。唐竹割り。
ひらり。ひらり。ひらひらり。
「さっきは当たったじゃないか! なのにどうして、どうしてまた当たらないんだよ!?」
「うわ、来るな!?」
逆上したレックスは無闇矢鱈に斬りつける。
その斬撃は全て重く、神速を持っていた。だがその全てが空を切る。
レベッカは当然ながら気付いていた。
この赤いマントが全ての攻撃を受け流している事に。
しんべヱのちょんまげに絡んでいたこのマントは、本人も知らなかった強力な防具だ。
一太刀一太刀が必殺の攻撃を全て完璧に受け流してくれる。
(ど、どういう原理なんだ。いや、それはどうでもいい。とにかく今の内にどうにかしないと……!)
レックスは逆上して無闇に斬りつけてばかりいる。
だけど落ち着けばこのマントが盾である事に気付くだろう。
それまでに何か手を打たないと殺される。アルルゥだって助けられない。
何かを手を打たなければならない。どうにかして。
マントを振るい続けなければ一瞬で斬り殺されるこの状況から。
(……こんなのどうにもなるもんか)
どうしろというのか。
時間を稼ぐ以外に何が出来る。負けを引き延ばした所で何がある。
ジーニアスとプレセアは放送で死を告げられた。
助けを呼びに行ったしんべヱは数分で殺されて、きっと何処にも辿り着けなかった。
レミリアはまだ生きているようだけど、この状況で間に合うわけがない。
そんな都合の良い展開なんて……。
「どいつもこいつも落ち着きのない奴らね」
「え……?」
……有るわけ無いと思った。ただの幻想だと。
「くそ、仲間を呼んだのか!?」
だけどレックスが悔しげに距離を取り、視線を逸らした事で知った。
どういう偶然かそれ以外の何かか、それともしんべヱが間に合ったのか。
レミリア・スカーレットが現れたのだ。
レベッカは思った。助かったかもしれないと。だから喜色を露わにレックスの視線の先を追って。
「レミリ……ひっ、おまえさっきの!?」
先程レベッカから血を吸った、紅い悪魔の姿を見た。
……有るわけ無いと思った。ただの幻想だと。
「くそ、仲間を呼んだのか!?」
だけどレックスが悔しげに距離を取り、視線を逸らした事で知った。
どういう偶然かそれ以外の何かか、それともしんべヱが間に合ったのか。
レミリア・スカーレットが現れたのだ。
レベッカは思った。助かったかもしれないと。だから喜色を露わにレックスの視線の先を追って。
「レミリ……ひっ、おまえさっきの!?」
先程レベッカから血を吸った、紅い悪魔の姿を見た。
「ああ、さっきのB型の血の奴ね」
気にもせずに言うレミリアの姿は紅く血に濡れていた。
爆発で受けた傷を治そうとレベッカから血を吸った名残だ。
血を飲む時に派手に零して服を真っ赤に染めてしまう事から、かつてレミリアはこう呼ばれた。
スカーレット・デビル(紅い悪魔)。
理由を辿ればどこか抜けた異名とさえ言えたが、
それでも全身を紅く血に染めたその姿は否応なしに一つの事実を突きつける。
此は人ではない物だ、と。
「まあおまえの事はどうでもいい」
レミリアはレックスとレベッカの間を堂々と横切って、倒れ伏すアルルゥへと近づいた。
レミリアはアルルゥを見下ろした。
アルルゥの右手は手首から切断され、折れた木の下敷きになっていた。
服の上からは見えないが、服の破れ方は体が壊れるほど強烈な打撃を受けた事を物語っていた。
アルルゥはレミリアを見上げた。
痛みに涙が零れる。
「……れみ……りあ…………いたい…………」
息も絶え絶えに声を絞り出したアルルゥに、レミリアは冷たく言い放つ。
「あの二匹の『召喚獣』を喚びなさい」
「おい、まだ戦わせる気かよ!」
レミリアは背後で憤るレベッカを無視して、言った。
「今度こそきっちり叩きのめしてやるわ。私の勝ちを確認するためにね」
三者三様の動揺が場に広がった。
気にもせずに言うレミリアの姿は紅く血に濡れていた。
爆発で受けた傷を治そうとレベッカから血を吸った名残だ。
血を飲む時に派手に零して服を真っ赤に染めてしまう事から、かつてレミリアはこう呼ばれた。
スカーレット・デビル(紅い悪魔)。
理由を辿ればどこか抜けた異名とさえ言えたが、
それでも全身を紅く血に染めたその姿は否応なしに一つの事実を突きつける。
此は人ではない物だ、と。
「まあおまえの事はどうでもいい」
レミリアはレックスとレベッカの間を堂々と横切って、倒れ伏すアルルゥへと近づいた。
レミリアはアルルゥを見下ろした。
アルルゥの右手は手首から切断され、折れた木の下敷きになっていた。
服の上からは見えないが、服の破れ方は体が壊れるほど強烈な打撃を受けた事を物語っていた。
アルルゥはレミリアを見上げた。
痛みに涙が零れる。
「……れみ……りあ…………いたい…………」
息も絶え絶えに声を絞り出したアルルゥに、レミリアは冷たく言い放つ。
「あの二匹の『召喚獣』を喚びなさい」
「おい、まだ戦わせる気かよ!」
レミリアは背後で憤るレベッカを無視して、言った。
「今度こそきっちり叩きのめしてやるわ。私の勝ちを確認するためにね」
三者三様の動揺が場に広がった。
「れみり……どうして……?」
アルルゥの掠れた声。
「フランが死んだから、最強の証明でもしてみようかと思ったのよ」
レミリアの冷たい言葉。
「どういう事だよ、それ。フランドールって、おまえの妹なんだろ」
レベッカの声を荒げた叫び。
「………………」
レックスは傍観していた。いわば様子を見ていた。突然現れた彼女の目的を知るために。
それぞれの射線上から離れて静かに傍観し様子を観察し続ける。
(フランドール? そういえばさっき、放送にそんな名前が有った。
あのモンスターの女の子の妹なのか。だけどそれじゃどうして……あんなに冷たいんだ?
それにここに居るアルルゥっていうモンスターの女の子も仲間じゃないのか?)
レックスが見守る中、少女達の言葉が交わされる。
アルルゥの掠れた声。
「フランが死んだから、最強の証明でもしてみようかと思ったのよ」
レミリアの冷たい言葉。
「どういう事だよ、それ。フランドールって、おまえの妹なんだろ」
レベッカの声を荒げた叫び。
「………………」
レックスは傍観していた。いわば様子を見ていた。突然現れた彼女の目的を知るために。
それぞれの射線上から離れて静かに傍観し様子を観察し続ける。
(フランドール? そういえばさっき、放送にそんな名前が有った。
あのモンスターの女の子の妹なのか。だけどそれじゃどうして……あんなに冷たいんだ?
それにここに居るアルルゥっていうモンスターの女の子も仲間じゃないのか?)
レックスが見守る中、少女達の言葉が交わされる。
「ええそうね、フランドール・スカーレットは私の妹よ。どこかで死んだみたいだけど」
レミリアの言葉はあまりにも素っ気なくて、冷たかった。
「それじゃ、悲しくないのか?」
「悲しい? 私が?」
「そうだよ、妹が死んだんだろ! お姉ちゃんなんだろ!
それなら……悲しくなったり、怒ったりするだろ。そういうもんだろ……」
(……なのに、どうしてそんなに冷たいんだ)
レミリアはレベッカを見つめて……嗤った。
その笑顔はこれっぽっちも楽しそうではなくて、見ている誰も楽しくなれなかった。
何かを嘲笑う昏い嗤いだった。だからみんな、嗤うレミリアが気に障った。
そしてレミリアは、酷いことを告げた。
「495年間地下に閉じこめて一緒にいてやった時間すら殆ど無い妹の死に、どう悲しめというんだ?」
レミリアの言葉はあまりにも素っ気なくて、冷たかった。
「それじゃ、悲しくないのか?」
「悲しい? 私が?」
「そうだよ、妹が死んだんだろ! お姉ちゃんなんだろ!
それなら……悲しくなったり、怒ったりするだろ。そういうもんだろ……」
(……なのに、どうしてそんなに冷たいんだ)
レミリアはレベッカを見つめて……嗤った。
その笑顔はこれっぽっちも楽しそうではなくて、見ている誰も楽しくなれなかった。
何かを嘲笑う昏い嗤いだった。だからみんな、嗤うレミリアが気に障った。
そしてレミリアは、酷いことを告げた。
「495年間地下に閉じこめて一緒にいてやった時間すら殆ど無い妹の死に、どう悲しめというんだ?」
レミリアは嗤う。
「フランを殺した奴も別に恨んで何かいないよ。
フランはこの島でも弾幕ごっこで遊んでいたみたいだし、その結果の生き死にを気にする理由は無いな。
弾幕ごっこで死んだなら、それはフランの行為の結果に過ぎないんだし」
レミリアはただ嗤う。
「結局こうなる運命だったのよ、あの子は」
なにも楽しげではないのに、なにかを面白がるように嘲笑う。
おかしくて無様だと嘲笑う。
「久しぶりに外に出されて、はしゃいで遊んで殺されて。まあそれだけの事よ、大した事じゃないわ」
そして全てを切り捨てて。
「遊びの時間が終わっただけ。
冥界でも地獄だろうとフランの魂を捜し出して、引きずってでも家に連れ戻せば一件落着。
まあちょっぴり面倒くさいか」
自らの方針を確固と示す。
「だからフランの死はそれだけの事」
レミリアは嗤う。
「私の戦いにはこれっぽっちも関係無いわ」
吸血鬼は嗤う。
「私はこれから最強を証明する」
悪魔は嗤う。
「立ち塞がる者は全て叩き潰す。
フランを殺した奴も、他の兵どもも、そしてジェダ・ドーマも、一切合切区別せず。
全て纏めて叩き潰すことで勝者となって、何者も怖れることない無敵の存在だと証明してやるわ。
その後で冥界の底からだろうとフランを引きずり出す。
たったそれだけの事」
傲然と。
「フランを殺した奴も別に恨んで何かいないよ。
フランはこの島でも弾幕ごっこで遊んでいたみたいだし、その結果の生き死にを気にする理由は無いな。
弾幕ごっこで死んだなら、それはフランの行為の結果に過ぎないんだし」
レミリアはただ嗤う。
「結局こうなる運命だったのよ、あの子は」
なにも楽しげではないのに、なにかを面白がるように嘲笑う。
おかしくて無様だと嘲笑う。
「久しぶりに外に出されて、はしゃいで遊んで殺されて。まあそれだけの事よ、大した事じゃないわ」
そして全てを切り捨てて。
「遊びの時間が終わっただけ。
冥界でも地獄だろうとフランの魂を捜し出して、引きずってでも家に連れ戻せば一件落着。
まあちょっぴり面倒くさいか」
自らの方針を確固と示す。
「だからフランの死はそれだけの事」
レミリアは嗤う。
「私の戦いにはこれっぽっちも関係無いわ」
吸血鬼は嗤う。
「私はこれから最強を証明する」
悪魔は嗤う。
「立ち塞がる者は全て叩き潰す。
フランを殺した奴も、他の兵どもも、そしてジェダ・ドーマも、一切合切区別せず。
全て纏めて叩き潰すことで勝者となって、何者も怖れることない無敵の存在だと証明してやるわ。
その後で冥界の底からだろうとフランを引きずり出す。
たったそれだけの事」
傲然と。
「バ、バカ言うな、生き返らすとかみんな殺すとかそんな無茶苦茶出来るわけ……」
ハッと我に返るレベッカの常識を、レミリアは軽くはね除けた
「私を誰だと思っているのかしら。
私の名はレミリア・スカーレット。『運命を操る程度の能力』を持つ吸血鬼よ」
そして迫る。
アルルゥに要求する。
「さあ、『召喚獣』を喚びなさい。昼に遊んだときだってもちろん私の勝ちだけど、確認するわ。
私の方が強いって事を」
……アルルゥは、手を伸ばした。
「やめろ、アルルゥ! 殺されるぞ!」
レベッカの叫びを聞かず、アルルゥは言った。
「……アルルゥのおねーちゃんは、やさしい」
ハッと我に返るレベッカの常識を、レミリアは軽くはね除けた
「私を誰だと思っているのかしら。
私の名はレミリア・スカーレット。『運命を操る程度の能力』を持つ吸血鬼よ」
そして迫る。
アルルゥに要求する。
「さあ、『召喚獣』を喚びなさい。昼に遊んだときだってもちろん私の勝ちだけど、確認するわ。
私の方が強いって事を」
……アルルゥは、手を伸ばした。
「やめろ、アルルゥ! 殺されるぞ!」
レベッカの叫びを聞かず、アルルゥは言った。
「……アルルゥのおねーちゃんは、やさしい」
アルルゥは、言う。
「アルルゥのおねーちゃんは、薬師をしてる」
アルルゥは目の前に転がっていた、切り飛ばされた右手首を掴んだ。
レックスに切り飛ばされた自分の手。その根本は今、叩きつけられ倒れた木に挟まれている。
「人をたすけるおしごと。おとーさんの戦争も手伝ってるけど、でも人をたすけるおしごと」
左手で自分の右手を掴み取る。
痛みは無い。切り飛ばされた右手がものすごく痛かったのに、今は何故か気にならなかった。
「アルルゥのおねーちゃんはとってもやさしい。時々しかられるけど、でもすごくやさしい。
アルルゥのこと、気にしてくれる。アルルゥがケガしたらすごく心配してくれる」
その右手首が掴み続けていた、小さな石を摘み取る。
タマヒポのサモナイト石。念じることで召喚獣を呼び出す不思議な石だ。
「プレセアおねーちゃんも、おねーちゃんだった」
一瞬感覚が無くなり、左手から石がこぼれ落ちる。暗い地面に紛れてしまう。
それでも諦めずに足下を見回して、月明かりを照り返す小さな石を摘み上げた。
「プレセアおねーちゃんはとってもかっこよかった。アルルゥのこと、気にしてくれた。
ジーニアスはにげだしたけど、でもプレセアおねーちゃんはかっこよかった」
指先には強い力が篭められて、もう石を落とさない。
アルルゥは、怒っていた。怒りのあまり痛みも忘れていた。
「生き返らせてくれるのはすごい。でも……」
サモナイト石がゆっくりと掲げられる。
「アルルゥ、アルルゥがいたがってるのを笑うおねーちゃんなんてキライ!!」
「アルルゥのおねーちゃんは、薬師をしてる」
アルルゥは目の前に転がっていた、切り飛ばされた右手首を掴んだ。
レックスに切り飛ばされた自分の手。その根本は今、叩きつけられ倒れた木に挟まれている。
「人をたすけるおしごと。おとーさんの戦争も手伝ってるけど、でも人をたすけるおしごと」
左手で自分の右手を掴み取る。
痛みは無い。切り飛ばされた右手がものすごく痛かったのに、今は何故か気にならなかった。
「アルルゥのおねーちゃんはとってもやさしい。時々しかられるけど、でもすごくやさしい。
アルルゥのこと、気にしてくれる。アルルゥがケガしたらすごく心配してくれる」
その右手首が掴み続けていた、小さな石を摘み取る。
タマヒポのサモナイト石。念じることで召喚獣を呼び出す不思議な石だ。
「プレセアおねーちゃんも、おねーちゃんだった」
一瞬感覚が無くなり、左手から石がこぼれ落ちる。暗い地面に紛れてしまう。
それでも諦めずに足下を見回して、月明かりを照り返す小さな石を摘み上げた。
「プレセアおねーちゃんはとってもかっこよかった。アルルゥのこと、気にしてくれた。
ジーニアスはにげだしたけど、でもプレセアおねーちゃんはかっこよかった」
指先には強い力が篭められて、もう石を落とさない。
アルルゥは、怒っていた。怒りのあまり痛みも忘れていた。
「生き返らせてくれるのはすごい。でも……」
サモナイト石がゆっくりと掲げられる。
「アルルゥ、アルルゥがいたがってるのを笑うおねーちゃんなんてキライ!!」
その側に一人、寄り添った。
「……どうした。おまえには関係無いでしょう?」
レミリアの問いに、レベッカ宮本は答えた。
「…………私も、お姉ちゃんが居るんだ」
それがレベッカの答えだった。
「私に色んな服を着せて楽しんだり、料理してくれたりもするお姉ちゃんでさ。
時々いじわるだったり、怒るとすっごく怖かったりするけど……私はお姉ちゃんのこと、大好きだ」
レミリアはただ聞いている。
彼女達の答えを聞いている。
「私はレミリアとレミリアの妹の関係なんて知らないし、口出す権利も無いんだろうけど……でも」
レベッカはレミリアをキッと睨んだ。精一杯の怒りを篭めて。
「おまえなんて最低のお姉ちゃんだ! このバカ姉!!」
宣戦を布告した。
「……どうした。おまえには関係無いでしょう?」
レミリアの問いに、レベッカ宮本は答えた。
「…………私も、お姉ちゃんが居るんだ」
それがレベッカの答えだった。
「私に色んな服を着せて楽しんだり、料理してくれたりもするお姉ちゃんでさ。
時々いじわるだったり、怒るとすっごく怖かったりするけど……私はお姉ちゃんのこと、大好きだ」
レミリアはただ聞いている。
彼女達の答えを聞いている。
「私はレミリアとレミリアの妹の関係なんて知らないし、口出す権利も無いんだろうけど……でも」
レベッカはレミリアをキッと睨んだ。精一杯の怒りを篭めて。
「おまえなんて最低のお姉ちゃんだ! このバカ姉!!」
宣戦を布告した。
* * *
「オピァマタ!」
アルルゥが叫び、空間が捻れ、限りなく球体に近い不格好な巨犬が姿を顕わした。
アルルゥの命名とは違い、本来の名はタマヒポという。
そのタマヒポは軽く息を吸い込み、次の瞬間、溜めに溜めた毒素を吐息に乗せて吐き出した。
毒消しの手段が無いとき、毒は必殺の武器となる。その毒は吸血鬼すら冒すのだ。
更にレベッカはひらりマントを手にしてアルルゥの前に立ち、レミリアからの攻撃に備える。
万全の布陣で吸血鬼に挑む。
レミリアは毒の魔獣と攻撃を逸らすマントを前に、宣言した。
「スペルカード……『マイハートブレイク』!」
手を掲げる。掲げたその手に強大な魔力が集中する。
瞬時にその魔力は長大な紅い槍へと姿を変えた。
迫り来る毒の吐息と、その先に居るタマヒポ、その向こうに居る守りのマントを持つレベッカ、そしてアルルゥ。
レミリアはその全てを睨み付けて狙いを定める。
『よろしいのですか?』
逆の手に握るハンマーから声がした。
「……良いのよ」
レミリアは短く答えて。
――全力で必殺の槍を投げ放った。
アルルゥが叫び、空間が捻れ、限りなく球体に近い不格好な巨犬が姿を顕わした。
アルルゥの命名とは違い、本来の名はタマヒポという。
そのタマヒポは軽く息を吸い込み、次の瞬間、溜めに溜めた毒素を吐息に乗せて吐き出した。
毒消しの手段が無いとき、毒は必殺の武器となる。その毒は吸血鬼すら冒すのだ。
更にレベッカはひらりマントを手にしてアルルゥの前に立ち、レミリアからの攻撃に備える。
万全の布陣で吸血鬼に挑む。
レミリアは毒の魔獣と攻撃を逸らすマントを前に、宣言した。
「スペルカード……『マイハートブレイク』!」
手を掲げる。掲げたその手に強大な魔力が集中する。
瞬時にその魔力は長大な紅い槍へと姿を変えた。
迫り来る毒の吐息と、その先に居るタマヒポ、その向こうに居る守りのマントを持つレベッカ、そしてアルルゥ。
レミリアはその全てを睨み付けて狙いを定める。
『よろしいのですか?』
逆の手に握るハンマーから声がした。
「……良いのよ」
レミリアは短く答えて。
――全力で必殺の槍を投げ放った。
槍はまず毒の吐息とぶつかった。
――魔槍が纏う魔力の渦は毒の吐息を吹き飛ばす。
槍は次に召喚獣タマヒポに直撃する。
――タマヒポはドーナツの様に消し飛んだ。
槍は瞬時にレベッカの構えるマントに到達した。
――魔槍が纏う魔力の渦は毒の吐息を吹き飛ばす。
槍は次に召喚獣タマヒポに直撃する。
――タマヒポはドーナツの様に消し飛んだ。
槍は瞬時にレベッカの構えるマントに到達した。
ひらりマントの力が槍を押しとどめる。それはありとあらゆる攻撃を弾き飛ばす鉄壁の盾。
だがひらりマントも無敵というわけではない。
幾度も使い続ければボロボロになるように、決して無敵の盾ではないのだ。
「く、くそぉ……」
特にこの『マイハートブレイク』は纏う魔力の渦によってギリギリの見切りを無効とし、
ありとあらゆる防御を貫き穿つという、レミリアの大技グングニルの強化版たる必殺の槍だ。
全力で投げる隙につけ込む高速回避こそが最も効果的な防御法。
知った所でレベッカにもアルルゥにもどうしようもない、正面から防ぐ者を叩き潰す必殺の正面突破。
相手がそうである事を知って放った以上、これはもう弾幕ごっこの域を外れた殺意の具現に他ならない。
穂先は徐々に、確実に、ひらりマントの防御圏へと食い込んでいく。
「は……弾けえ!!」
レベッカは力を篭めて、マントを大きく翻した。
――――弾いた。
だがひらりマントも無敵というわけではない。
幾度も使い続ければボロボロになるように、決して無敵の盾ではないのだ。
「く、くそぉ……」
特にこの『マイハートブレイク』は纏う魔力の渦によってギリギリの見切りを無効とし、
ありとあらゆる防御を貫き穿つという、レミリアの大技グングニルの強化版たる必殺の槍だ。
全力で投げる隙につけ込む高速回避こそが最も効果的な防御法。
知った所でレベッカにもアルルゥにもどうしようもない、正面から防ぐ者を叩き潰す必殺の正面突破。
相手がそうである事を知って放った以上、これはもう弾幕ごっこの域を外れた殺意の具現に他ならない。
穂先は徐々に、確実に、ひらりマントの防御圏へと食い込んでいく。
「は……弾けえ!!」
レベッカは力を篭めて、マントを大きく翻した。
――――弾いた。
即座に続く魔力の渦が襲い掛かった。
「え……!?」
槍の後に泡のように残った無数の魔弾が、槍の作った魔力の渦に流れて襲い来る。
威力は劣る。必殺とは決して言えまい。だが充分な威力を秘めた第二の槍。
「あ……」
ギリギリでレベッカはもう一度マントを振るおうとして、数個の魔弾を弾き飛ばした所で渦に呑み込まれた。
背後のアルルゥ諸とも。
――直撃した。
「え……!?」
槍の後に泡のように残った無数の魔弾が、槍の作った魔力の渦に流れて襲い来る。
威力は劣る。必殺とは決して言えまい。だが充分な威力を秘めた第二の槍。
「あ……」
ギリギリでレベッカはもう一度マントを振るおうとして、数個の魔弾を弾き飛ばした所で渦に呑み込まれた。
背後のアルルゥ諸とも。
――直撃した。
レミリアはゆっくりと足を進める。
地に伏すのは二人の少女。レミリアのではない、だけど誰かの妹達。
呻き声を上げて藻掻く敗者達。
「……まだ二人とも生きてはいるようね」
少し離れた所にはレベッカ、目の前にはアルルゥが倒れている。
レベッカはひらりマントをボロボロにしたが、体中の数ヶ所を魔弾に小さく抉られた程度だった。
血が流れ出ているが、血を止めれば助かるだろう。がんばれば動けるかもしれない。
しかし気を失っているのか、動く様子は無かった。
アルルゥは……こちらも思ったほどではない。まだ息はしているし意識もある。
切断された右手が木に挟まれ止血されていた事も幸運だったのだろう。
即死するかと思ったが、まだ生きていた。死を目前に迎えて生きていた。
「だけどすぐに死ぬわね。楽にしてあげようか?」
アルルゥの瞳にレミリアが映る。
傲然と高慢に聳える吸血鬼が目に映る。
「……れみ……りあ…………」
アルルゥがレミリアを見つめ、か細く呟く。
戸惑いと苦痛と、恐怖と悲しみと、無数の雑多な感情が湛えられた瞳。
その目に映るのは仲間だったはずなのに突如凶行に走った悪魔の姿だろうか。
その瞳が、冷たい眠気と苦痛に呑まれてゆっくりと閉じていく。
レミリアは結局何も手出しせず、自らの与えるその死を見送ろうとする。
別れはゆっくりと確実に訪れて。
地に伏すのは二人の少女。レミリアのではない、だけど誰かの妹達。
呻き声を上げて藻掻く敗者達。
「……まだ二人とも生きてはいるようね」
少し離れた所にはレベッカ、目の前にはアルルゥが倒れている。
レベッカはひらりマントをボロボロにしたが、体中の数ヶ所を魔弾に小さく抉られた程度だった。
血が流れ出ているが、血を止めれば助かるだろう。がんばれば動けるかもしれない。
しかし気を失っているのか、動く様子は無かった。
アルルゥは……こちらも思ったほどではない。まだ息はしているし意識もある。
切断された右手が木に挟まれ止血されていた事も幸運だったのだろう。
即死するかと思ったが、まだ生きていた。死を目前に迎えて生きていた。
「だけどすぐに死ぬわね。楽にしてあげようか?」
アルルゥの瞳にレミリアが映る。
傲然と高慢に聳える吸血鬼が目に映る。
「……れみ……りあ…………」
アルルゥがレミリアを見つめ、か細く呟く。
戸惑いと苦痛と、恐怖と悲しみと、無数の雑多な感情が湛えられた瞳。
その目に映るのは仲間だったはずなのに突如凶行に走った悪魔の姿だろうか。
その瞳が、冷たい眠気と苦痛に呑まれてゆっくりと閉じていく。
レミリアは結局何も手出しせず、自らの与えるその死を見送ろうとする。
別れはゆっくりと確実に訪れて。
とさっと。空き瓶が草むらに落ちる音がした。
「ベホマ」
割り込んだ声は僅かな戸惑いを秘めていた。
「ベホマ」
暖かい輝きを持っていた。
強い憤りと、純粋な意志を持っていた。
「ベホマ! ベホマ!」
制限されて尚強い癒しの力を、ありったけに注ぎ込む。
冷たく青ざめていたアルルゥの肌に温もりが戻る。
血が止まる。傷が塞がる。切断された右手首すら、薄皮が張り出血が停止する。
アルルゥは閉じかけていた目を、開いた。唇が潤い言葉を紡ぐ。
「…………たすけてくれたの……?」
でも……どうして?
レックスはアルルゥの困惑に直接答えず、彼女を背にレミリアと向かい合う。
「しばらく動かない方が良い。多分、まだ痺れが残ってるだろうから」
背中越しの労りが確かな答え。
「ベホマ」
割り込んだ声は僅かな戸惑いを秘めていた。
「ベホマ」
暖かい輝きを持っていた。
強い憤りと、純粋な意志を持っていた。
「ベホマ! ベホマ!」
制限されて尚強い癒しの力を、ありったけに注ぎ込む。
冷たく青ざめていたアルルゥの肌に温もりが戻る。
血が止まる。傷が塞がる。切断された右手首すら、薄皮が張り出血が停止する。
アルルゥは閉じかけていた目を、開いた。唇が潤い言葉を紡ぐ。
「…………たすけてくれたの……?」
でも……どうして?
レックスはアルルゥの困惑に直接答えず、彼女を背にレミリアと向かい合う。
「しばらく動かない方が良い。多分、まだ痺れが残ってるだろうから」
背中越しの労りが確かな答え。
「おまえ、名前は?」
「…………レックス」
悪魔の問いに少年は名乗る。
「僕の名前は、レックスだ」
「…………レックス」
悪魔の問いに少年は名乗る。
「僕の名前は、レックスだ」
* * *
最初は勿論、アルルゥとレベッカを助けるつもりなんてなかった。
レックスの望みはただ妹のタバサを生還させる事だ。
それに“出来れば”タバサと一緒に自分も生還したいと続く。
他の者達は全て、その為なら犠牲にしても良いと思っている。
(……いや、良いわけじゃない。悪い。悪いけど、それでも僕は、タバサを守りたいんだ)
そしてもしタバサが殺されたなら、優勝のご褒美で生き返らせてもらう為に殺し続けようと思ってい。
生き返らす為に戦うのは彼にとっても理解できる。
「……復活は貴い。それは僕達に与えられた奇跡だ。それは知ってるし、否定もしない。
この世界に制限されていなければ僕も使える……回復の奥義だ」
「へぇ……」
「僕は妹のタバサの為にこのゲームに乗っていた。タバサを帰す為に殺し合いを認めていた。
もしタバサが死んでも、優勝した後にタバサを生き返らせれば良い。そう考えてた。
今も間違ってたなんて思わないし、おまえがおまえの妹を生き返らせるのも貴いと思う。
……でも、だから」
生も死も溢れた世界に居たレックスは、その思想を持っていた。
これまでもここまでは。
「だから……おまえとは違う! 僕はタバサが居なくなるのはイヤだ。
タバサが死ぬのもイヤだ。タバサが傷付くのもイヤだ、タバサが泣くのもイヤだ!
生き返らせる事が出来たって死んでほしくない。傷付いてほしくない!
僕はタバサが居なくなるのも、死ぬのも、傷付くのも、泣くのも……」
最低でもタバサが生き続ければそれで良いと思っていた。
そうでなくても傷付くことも泣くことも無ければそれで良い。満足だ。
そう思っていて、でもアルルゥとレベッカの言葉を聞いて、思った。
「………………妹に嫌われるのも、イヤだ」
レックスの望みはただ妹のタバサを生還させる事だ。
それに“出来れば”タバサと一緒に自分も生還したいと続く。
他の者達は全て、その為なら犠牲にしても良いと思っている。
(……いや、良いわけじゃない。悪い。悪いけど、それでも僕は、タバサを守りたいんだ)
そしてもしタバサが殺されたなら、優勝のご褒美で生き返らせてもらう為に殺し続けようと思ってい。
生き返らす為に戦うのは彼にとっても理解できる。
「……復活は貴い。それは僕達に与えられた奇跡だ。それは知ってるし、否定もしない。
この世界に制限されていなければ僕も使える……回復の奥義だ」
「へぇ……」
「僕は妹のタバサの為にこのゲームに乗っていた。タバサを帰す為に殺し合いを認めていた。
もしタバサが死んでも、優勝した後にタバサを生き返らせれば良い。そう考えてた。
今も間違ってたなんて思わないし、おまえがおまえの妹を生き返らせるのも貴いと思う。
……でも、だから」
生も死も溢れた世界に居たレックスは、その思想を持っていた。
これまでもここまでは。
「だから……おまえとは違う! 僕はタバサが居なくなるのはイヤだ。
タバサが死ぬのもイヤだ。タバサが傷付くのもイヤだ、タバサが泣くのもイヤだ!
生き返らせる事が出来たって死んでほしくない。傷付いてほしくない!
僕はタバサが居なくなるのも、死ぬのも、傷付くのも、泣くのも……」
最低でもタバサが生き続ければそれで良いと思っていた。
そうでなくても傷付くことも泣くことも無ければそれで良い。満足だ。
そう思っていて、でもアルルゥとレベッカの言葉を聞いて、思った。
「………………妹に嫌われるのも、イヤだ」
兄としてタバサの事を守らないといけないと思っていた。
タバサが守れれば、タバサが幸せになれればそれで良いと思った。
(でもやっぱり……イヤだ)
タバサに嫌われるのは、イヤだ。
タバサを助ける為に身を磨り減らして、顧みられずに捨て行かれるのはイヤだ。
タバサに憎まれるのは、イヤだ。
「だから殺し合いに乗るのは、もうやめにする。
僕はタバサに嫌われたくない。タバサに好かれるように生きたい」
「なんだかみっともないわね」
「みっともなくてもいい。もっとみっともないままでいるよりマシだもの」
烏滸がましくても自分の中では筋を通せる。
だから、決めたのだ。
「僕の名はレックスだ。
誇り高きグランバニアの王子にして魔物使いの息子、天空の勇者レックスだ!
今からもう一度、そう生きる!」
レミリアは笑った。
「それなら力を示すがいい。今も昔も妖怪を屈服させるのはそれがルールだ」
レックスは小さく頷いた。
タバサが守れれば、タバサが幸せになれればそれで良いと思った。
(でもやっぱり……イヤだ)
タバサに嫌われるのは、イヤだ。
タバサを助ける為に身を磨り減らして、顧みられずに捨て行かれるのはイヤだ。
タバサに憎まれるのは、イヤだ。
「だから殺し合いに乗るのは、もうやめにする。
僕はタバサに嫌われたくない。タバサに好かれるように生きたい」
「なんだかみっともないわね」
「みっともなくてもいい。もっとみっともないままでいるよりマシだもの」
烏滸がましくても自分の中では筋を通せる。
だから、決めたのだ。
「僕の名はレックスだ。
誇り高きグランバニアの王子にして魔物使いの息子、天空の勇者レックスだ!
今からもう一度、そう生きる!」
レミリアは笑った。
「それなら力を示すがいい。今も昔も妖怪を屈服させるのはそれがルールだ」
レックスは小さく頷いた。
レックスはアルルゥを背中に守り、闇夜に立った。
その手に握る両刃の剣は黄金色に輝いている。
天空の勇者は光輝を手に悪魔と対峙する。
レミリアはグラーフアイゼンを固く握り締め、構えた。
月光を浴びるだけのその姿は、殆ど暗闇と一体に見えた。
悪魔は闇夜を背に勇者と対峙する。
そして両者は駆け出した。
光を伴って。闇に潜んで。
その手に握る両刃の剣は黄金色に輝いている。
天空の勇者は光輝を手に悪魔と対峙する。
レミリアはグラーフアイゼンを固く握り締め、構えた。
月光を浴びるだけのその姿は、殆ど暗闇と一体に見えた。
悪魔は闇夜を背に勇者と対峙する。
そして両者は駆け出した。
光を伴って。闇に潜んで。
ラグナロクとグラーフアイゼンが交差した。
* * *
先手は吸血鬼。視界から消える神速の踏み込みがレックスに迫る。
(速い!)
振るわれたハンマーの狙いは正確に頭部。翳した剣がそれを受け止める。
衝撃は重く、弾かれまいと踏みしめる足が土を削った。
「へえ、受けたか」
レミリアの小さな驚き。レックスはそれに乗じて剣を振り上げる。
レミリアはグラーフアイゼンでそれを受け流し、足が宙に浮く。
すかさずレックスは再び剣を振り下ろした。受け止めたレミリアの足が地に沈む。
「ちっ……」
「力なら負けない!」
レックスは即座にレミリアとの能力差を理解した。
(攻撃は相手の方がずっと速い。力も相当だ。多分どっちも、生物としての限界近い。
だけど僕も、この剣を足せば力は限界を超えられる!)
それは天賦の素質を絶対条件にどこまで鍛えられるかという世界。
人間のみならず魔物も含めた生物としての限界領域。レミリアの身体能力はそれに近い。
レックスも鍛えれば何時かは辿り着ける、だけどまだ辿り着けない領域に居る。
本来あるその差を、手の中の剣が埋め尽くした。腕力においてレミリアを超える場所に導いた。
「受けろ!」
レックスは体勢の崩れたレミリアを下から逆風に切り上げる。
レミリアはそれを受け、支えの無い空中へ。即座にレックスは追撃の斬撃を放ち。
「甘いよ」
空中で半回転したレミリアの足が木の枝を踏みしめた。蝙蝠のように逆さに直立する。
振るうハンマーが剣を弾き、羽が夜気に膨らみバランスを保つ。
「今度はこっちのターンね」
その言葉と共に続けざまに振るわれるハンマーの連撃。天から墜ちる暴力の乱打。
剣で受け止め、流し、必死に凌ぐ。地面に足が打ち込まれていく。
(まずい! この体勢から使える手は……)
レックスは上半身に向けて集中する連撃を必死に受け流しながら唱えた。
「ライデイン!」
(速い!)
振るわれたハンマーの狙いは正確に頭部。翳した剣がそれを受け止める。
衝撃は重く、弾かれまいと踏みしめる足が土を削った。
「へえ、受けたか」
レミリアの小さな驚き。レックスはそれに乗じて剣を振り上げる。
レミリアはグラーフアイゼンでそれを受け流し、足が宙に浮く。
すかさずレックスは再び剣を振り下ろした。受け止めたレミリアの足が地に沈む。
「ちっ……」
「力なら負けない!」
レックスは即座にレミリアとの能力差を理解した。
(攻撃は相手の方がずっと速い。力も相当だ。多分どっちも、生物としての限界近い。
だけど僕も、この剣を足せば力は限界を超えられる!)
それは天賦の素質を絶対条件にどこまで鍛えられるかという世界。
人間のみならず魔物も含めた生物としての限界領域。レミリアの身体能力はそれに近い。
レックスも鍛えれば何時かは辿り着ける、だけどまだ辿り着けない領域に居る。
本来あるその差を、手の中の剣が埋め尽くした。腕力においてレミリアを超える場所に導いた。
「受けろ!」
レックスは体勢の崩れたレミリアを下から逆風に切り上げる。
レミリアはそれを受け、支えの無い空中へ。即座にレックスは追撃の斬撃を放ち。
「甘いよ」
空中で半回転したレミリアの足が木の枝を踏みしめた。蝙蝠のように逆さに直立する。
振るうハンマーが剣を弾き、羽が夜気に膨らみバランスを保つ。
「今度はこっちのターンね」
その言葉と共に続けざまに振るわれるハンマーの連撃。天から墜ちる暴力の乱打。
剣で受け止め、流し、必死に凌ぐ。地面に足が打ち込まれていく。
(まずい! この体勢から使える手は……)
レックスは上半身に向けて集中する連撃を必死に受け流しながら唱えた。
「ライデイン!」
更なる上空から降りた雷撃は木を焼き、枝を貫き、レミリアを穿つ。
しかしその雷撃は当然そのまま下へと流れ落ちた。
レミリアからグラーフアイゼンへ、グラーフアイゼンからラグナロクへ、そしてレックスを突き抜ける。
「ぐうっ」
レックスは呻きを上げて膝をついた。
レミリアは優雅に地面に舞い降てり、僅かに足取りをふらつかせる。
「痛ぅ……随分と無茶をする奴ね……」
「この位……なんてことないさ」
睨み合いつつ、ベホマを一回。ライデインの痺れを回復する。
レックスはしっかりとした足取りで立ち上がった。ダメージはもう残っていない。
ただでさえ頑強なレックスに、ラグナロクの体力精神力大幅強化効果が重なっているのだ。
普通人なら即死するライデインのダメージも、制限下のベホマで回復出来る程度まで軽減されていた。
しかしその雷撃は当然そのまま下へと流れ落ちた。
レミリアからグラーフアイゼンへ、グラーフアイゼンからラグナロクへ、そしてレックスを突き抜ける。
「ぐうっ」
レックスは呻きを上げて膝をついた。
レミリアは優雅に地面に舞い降てり、僅かに足取りをふらつかせる。
「痛ぅ……随分と無茶をする奴ね……」
「この位……なんてことないさ」
睨み合いつつ、ベホマを一回。ライデインの痺れを回復する。
レックスはしっかりとした足取りで立ち上がった。ダメージはもう残っていない。
ただでさえ頑強なレックスに、ラグナロクの体力精神力大幅強化効果が重なっているのだ。
普通人なら即死するライデインのダメージも、制限下のベホマで回復出来る程度まで軽減されていた。
「……訂正。面倒な奴ね」
レックスがまだ何度か回復出来るならば、レミリアは優勢とは言えない。
相打ちでもダメージを与えていけば、長く耐え、多く回復できる方が勝つ。
本来ならそれは圧倒的耐久性と再生力を誇る吸血鬼有利の出来レースになるはずだが、
この局面においてはむしろレックスの方が優勢だった。
「行くよ」
一声を上げて、レックスが再び駆け出す。
「まあいい、一撃で叩き潰してやる」
レミリアもそれに応え飛翔した。
レックスがまだ何度か回復出来るならば、レミリアは優勢とは言えない。
相打ちでもダメージを与えていけば、長く耐え、多く回復できる方が勝つ。
本来ならそれは圧倒的耐久性と再生力を誇る吸血鬼有利の出来レースになるはずだが、
この局面においてはむしろレックスの方が優勢だった。
「行くよ」
一声を上げて、レックスが再び駆け出す。
「まあいい、一撃で叩き潰してやる」
レミリアもそれに応え飛翔した。
再びの激突は最初から地と空の激突となった。
レミリアが鉄槌を振り下ろす。レックスは受け止め、切り返す。
レミリアは押し合わずに距離を取り、立木の側面に着地。そして宣言ではなく、唱えた。
「グラーフアイゼン、ラケーテンフォルム」
『Raketenform』
グラーフアイゼンがカートリッジを装填、炸裂、排出した。
変形する。ハンマーの打撃部に尖角が生え、逆側にはジェット噴射の排出口が形成される。
そこから魔力がジェット状に噴き出す。アイゼンを握るレミリアを中心にくるりと回転。
くる、くる、くるくるくるくるくるくるくるくる。
そこに宣言を重ねた。
「受けなさい。『バッドレディスクランブル』!」
自前の螺旋加速をそこに重ね、跳躍。踏み締めた木がそれだけでへし折れた。
アイゼンの加速とレミリアの加速が。それぞれの螺旋運動が絡み合い、捩れて尖る。
「ベギラマ!」
レックスが試しに放ったベギラマはレミリアの纏う魔力の渦を破れず消えた。
舌打ちと共に次の手を打つ。
「スクルト。……スクルト!」
スクルトを重ね掛けラグナロクを構える。鉄壁の防御でレミリアの必殺の一撃と交錯する。
そしてグラーフアイゼンとラグナロクが、激突した。雌雄を決する為に。
レミリアが鉄槌を振り下ろす。レックスは受け止め、切り返す。
レミリアは押し合わずに距離を取り、立木の側面に着地。そして宣言ではなく、唱えた。
「グラーフアイゼン、ラケーテンフォルム」
『Raketenform』
グラーフアイゼンがカートリッジを装填、炸裂、排出した。
変形する。ハンマーの打撃部に尖角が生え、逆側にはジェット噴射の排出口が形成される。
そこから魔力がジェット状に噴き出す。アイゼンを握るレミリアを中心にくるりと回転。
くる、くる、くるくるくるくるくるくるくるくる。
そこに宣言を重ねた。
「受けなさい。『バッドレディスクランブル』!」
自前の螺旋加速をそこに重ね、跳躍。踏み締めた木がそれだけでへし折れた。
アイゼンの加速とレミリアの加速が。それぞれの螺旋運動が絡み合い、捩れて尖る。
「ベギラマ!」
レックスが試しに放ったベギラマはレミリアの纏う魔力の渦を破れず消えた。
舌打ちと共に次の手を打つ。
「スクルト。……スクルト!」
スクルトを重ね掛けラグナロクを構える。鉄壁の防御でレミリアの必殺の一撃と交錯する。
そしてグラーフアイゼンとラグナロクが、激突した。雌雄を決する為に。
それは長い長い一瞬の激突。
螺旋に歪み捩れた軌道を描き、ハンマーの先端がラグナロクの刃先と噛み合う。
火花が散り金属音が響く。閃光と轟音の世界。夜を照らす激突。
ジェット流を噴き出すハンマーが、黄金に輝く刀身が互いの意義を主張する。
より強い武器である事を声高く咆哮する。
……ピキリと音を立て、アイゼンの尖角にヒビが入り。
螺旋に歪み捩れた軌道を描き、ハンマーの先端がラグナロクの刃先と噛み合う。
火花が散り金属音が響く。閃光と轟音の世界。夜を照らす激突。
ジェット流を噴き出すハンマーが、黄金に輝く刀身が互いの意義を主張する。
より強い武器である事を声高く咆哮する。
……ピキリと音を立て、アイゼンの尖角にヒビが入り。
しかし力の奔流を抑えきれなかったのはレックスの方だった。
打撃自体は物理攻撃。だがそれに伴うレミリアの魔力の渦とアイゼンから流し込まれる力は魔法攻撃。
(ダメだ、スクルトじゃ一手足りない――!)
気付いたときにはもう遅い。レックスの手からラグナロクが跳ね飛ばされた。
直撃を受けて吹き飛ばされたレックスは夜の木陰へと吹き飛ばされ、叩きつけられる。
宙を舞うラグナロクはレミリアの手へと納まった。
「――――神々の黄昏。いや、“神々の運命”……ね」
レミリアは剣の銘を読み上げた。
「…………ふふっ。ふふ、あは、あはははははははは!
面白いな。そうね、神の運命すらも私の物にしてやるわ。全ての運命は私が操る。
この世界の全てを跪かせてやる! 私の下に!」
それは傲慢で子供じみた、禍々しい宣言。
まるで魔王のように、吸血鬼は闇夜へと宣言する。
打撃自体は物理攻撃。だがそれに伴うレミリアの魔力の渦とアイゼンから流し込まれる力は魔法攻撃。
(ダメだ、スクルトじゃ一手足りない――!)
気付いたときにはもう遅い。レックスの手からラグナロクが跳ね飛ばされた。
直撃を受けて吹き飛ばされたレックスは夜の木陰へと吹き飛ばされ、叩きつけられる。
宙を舞うラグナロクはレミリアの手へと納まった。
「――――神々の黄昏。いや、“神々の運命”……ね」
レミリアは剣の銘を読み上げた。
「…………ふふっ。ふふ、あは、あはははははははは!
面白いな。そうね、神の運命すらも私の物にしてやるわ。全ての運命は私が操る。
この世界の全てを跪かせてやる! 私の下に!」
それは傲慢で子供じみた、禍々しい宣言。
まるで魔王のように、吸血鬼は闇夜へと宣言する。
「……させない、そんな事」
そんな宣言を聞いたなら、立ち上がらなければならない。
「そんな事は、絶対にさせない!」
魔王の侵略に抗するのは勇者の務めだ。ならば戦わなければならない。
どれだけそれが強大でも挫けず、どれだけ打ちのめされようとも立ち上がらなければならない。
戦って戦って打ち勝たなければならない。
(エーテルもこれで打ち止めだ)
レックスは空き容器を投げ捨てる。エーテルはこれで使い切った。
直前に受けた攻撃の傷は癒えたが、残ったマジックポイントを使い切ればもう回復は無い。
(それがどうした)
それでも立ち止まらない。まだレックスは戦える。
「人間が、武器も無しに?」
「武器なら有る」
レックスはランドセルに仕舞っていたもう一本の武器を抜き出した。
ドラゴンの杖。伝説の聖剣と同格の強大な力を秘めた杖。
「父さんの愛用の杖だ」
「……本当に面白いわね、人間って」
ドラゴンの杖を装備したレックスを前に、レミリアはラグナロクを構えて言った。
「おまえは休みなさい、アイゼン」
『……Jawohl』
了解の意を示し、グラーフアイゼンが待機状態に移行する。
ペンダントのようなそれを首にかけ、ポケットに入っていた爆薬を地面に投げ捨てる。
ライデインに引火しなかったのは騎士甲冑が雷撃を大幅に緩和していた事を意味する。
「防護服も今は良いわ」
だがその騎士甲冑もレミリアの言葉に従い、解かれた。
つまり防具であり、衣服を脱ぎ捨てた。
そんな宣言を聞いたなら、立ち上がらなければならない。
「そんな事は、絶対にさせない!」
魔王の侵略に抗するのは勇者の務めだ。ならば戦わなければならない。
どれだけそれが強大でも挫けず、どれだけ打ちのめされようとも立ち上がらなければならない。
戦って戦って打ち勝たなければならない。
(エーテルもこれで打ち止めだ)
レックスは空き容器を投げ捨てる。エーテルはこれで使い切った。
直前に受けた攻撃の傷は癒えたが、残ったマジックポイントを使い切ればもう回復は無い。
(それがどうした)
それでも立ち止まらない。まだレックスは戦える。
「人間が、武器も無しに?」
「武器なら有る」
レックスはランドセルに仕舞っていたもう一本の武器を抜き出した。
ドラゴンの杖。伝説の聖剣と同格の強大な力を秘めた杖。
「父さんの愛用の杖だ」
「……本当に面白いわね、人間って」
ドラゴンの杖を装備したレックスを前に、レミリアはラグナロクを構えて言った。
「おまえは休みなさい、アイゼン」
『……Jawohl』
了解の意を示し、グラーフアイゼンが待機状態に移行する。
ペンダントのようなそれを首にかけ、ポケットに入っていた爆薬を地面に投げ捨てる。
ライデインに引火しなかったのは騎士甲冑が雷撃を大幅に緩和していた事を意味する。
「防護服も今は良いわ」
だがその騎士甲冑もレミリアの言葉に従い、解かれた。
つまり防具であり、衣服を脱ぎ捨てた。
「な、なんで……?」
「ハンデと思うことね」
月と剣の光を浴びて、吸血鬼の裸体が夜闇に浮かび上がる。
露わになった肋が浮き出るほどに未熟な肢体には無数の青痣が浮かんでいた。
(こいつ、こんな傷を負っていたのか)
おそらくはレックスと戦う前に受けていた傷だ。レックスも似たような傷を見た事はある。
イオ系やメガンテなど魔力の爆発による傷に違いない。
それも死に瀕するほどの重傷。防具も無い今なら、当たれば終わる。
それがドラゴンの杖による打撃なら当然のこと、ベギラマでも今直撃すれば致命傷となる。
一撃で吹き飛ぶたった一つの命を賭場に出して、レミリアは不敵に笑った。
「そろそろ本気で殺すわよ。健気な勇者」
「ハンデと思うことね」
月と剣の光を浴びて、吸血鬼の裸体が夜闇に浮かび上がる。
露わになった肋が浮き出るほどに未熟な肢体には無数の青痣が浮かんでいた。
(こいつ、こんな傷を負っていたのか)
おそらくはレックスと戦う前に受けていた傷だ。レックスも似たような傷を見た事はある。
イオ系やメガンテなど魔力の爆発による傷に違いない。
それも死に瀕するほどの重傷。防具も無い今なら、当たれば終わる。
それがドラゴンの杖による打撃なら当然のこと、ベギラマでも今直撃すれば致命傷となる。
一撃で吹き飛ぶたった一つの命を賭場に出して、レミリアは不敵に笑った。
「そろそろ本気で殺すわよ。健気な勇者」
やはり踏み込みは神速。小細工無しにレミリアは突撃、斬撃を振るう。
レックスはドラゴンの杖をかざしその斬撃を受け止めるが、重い。
(あの剣の力か……!)
レミリアの手の中でラグナロクは黄金に輝き、その力を爆発的に増大させる。
レミリアとレックスの力を逆転させていた強大な力が根こそぎレミリアに流れたのだ。
効力を発揮するスクルトの重ね掛けが打撃を大幅に緩和し、辛うじて受け止めた。
瞬間には人間を凌駕する反射速度で横薙ぎの斬撃が迫っていた。
後ずさり受けた次の瞬間には刺突が。頬を切られながらも避けた瞬間には避けた方向からの袈裟斬りが。
体を捻りかわし強引に杖を振るい反撃。だが杖を突きだし始める瞬間には既に半歩の見切りでかわされている。
(さっきより速くなった!? いや、違う!)
脳天から叩き降ろされた斬撃を更に体をよじりかわす。肩口を刃が通り抜けた。
そこから血が噴き出すより早く迫る次の斬撃。完全に体を転倒させて空振りさせる。
「ベギラマ!」
そこから放った炎の筋は髪がちりつく程の距離で見切られた。
それで生まれた刹那の隙に体を転がし地に突き立つ追撃を躱す。
力任せに地面に突き立ったまま横薙ぎに迫る更なる斬撃を杖で受け止め跳ね飛ばされて起きあがる。
「ライデイン!」
既にこちらに向けて突進していたレミリアの行く先にライデインを放つ。だがそれすらも速度を落とさずすりぬける。
右薙ぎの斬撃を後退して避けた瞬間に刺突に変化した切っ先を杖で受けた次の瞬間に脳天から次の斬撃。
(レミリアは攻撃を見切ったんだ!)
レックスの白兵攻撃。ベギラマ。ライデイン。全ての攻撃の速度と間合いを完璧に把握し、見切った。
だからレックスの攻撃が当たらない。レミリアは全てをかわして全ての時間を攻撃に注ぎ込んでいる。
それは回避行動の時間が減るだけではない。攻撃からも余分が消えた。
一見無謀な突撃をして防御を顧みない前のめりな攻撃をしても、
その裏には相手の反撃を躱す絶対の自信が潜んでいる。
(だけどはぐれメタルとは違うんだ。一撃当たりさえすればそれで……!?)
脳天からの斬撃を紙一重で凌ぎ、刃が離れレミリアの居るはずの目の前を睨み、何も居ない空間を見た。
寒気に襲われて全力で前に跳躍する。次の瞬間背中に熱い感覚が走った。
「うあっ」
「ふん、仕留めきれないか」
高速で背後頭上まで回り込んで放たれた斬撃に背中を大きく切り裂かれた。勢いよく血が噴出する。
(スクルトを重ね掛けしたのに……!)
鋼鉄の如き守りもレミリアとラグナロクの合力の前には薄紙のように脆い。
レミリアはラグナロクの刃先をレックスに向けて突きつけると、余裕を見せて笑った。
「回復してもいいわよ? その位は待ってやるわ」
「くそ……」
当たれば一撃。だがその一撃が当たっていない。防戦の合間に放つ攻撃ではとても倒せない。
(どうすれば良い? どうすればこいつを倒せる?)
既に見切られた攻撃は当たらない。一度でも使った攻撃は全て見切られている。
逆に言えば一度も使ってない攻撃を放つしかない。
(ドラゴンの杖の力を使うか? だけど……)
ドラゴンの杖で竜になった時の攻撃は底無しだが、単調だ。
それで押しきれる相手なら良いが、レミリアを倒せるとはとても思えない。
(そうなると残るは……ギガデインだけだ)
ライデインより強烈な雷の一撃で吹き飛ばす。これなら当たる見込みはある。
そしてだとすればその機会は“今をおいて他にない”。
(回復する為に呪文を使う時間を与えられた今だけが勝機だ)
レックスはレミリアを見つめた。
「あら、もう回復しないの? それならそれでいいけど」
「……一つ、聞いていいかな」
「何かしら」
レックスは問い掛けた。
「本当に君は、妹が死んだ事を何とも思っていないの?」
「………………弟妹が死んでも泣けない兄姉なんて幾らでもいるわ」
「……そっか」
レミリアの答えは何も変わらなかった。
「それだけかしら?」
「ううん、あと一つだけ……僕から送る言葉がある」
決意を固めた。そして息を吸って、発した。
一撃必殺の破壊の呪文を。
レックスはドラゴンの杖をかざしその斬撃を受け止めるが、重い。
(あの剣の力か……!)
レミリアの手の中でラグナロクは黄金に輝き、その力を爆発的に増大させる。
レミリアとレックスの力を逆転させていた強大な力が根こそぎレミリアに流れたのだ。
効力を発揮するスクルトの重ね掛けが打撃を大幅に緩和し、辛うじて受け止めた。
瞬間には人間を凌駕する反射速度で横薙ぎの斬撃が迫っていた。
後ずさり受けた次の瞬間には刺突が。頬を切られながらも避けた瞬間には避けた方向からの袈裟斬りが。
体を捻りかわし強引に杖を振るい反撃。だが杖を突きだし始める瞬間には既に半歩の見切りでかわされている。
(さっきより速くなった!? いや、違う!)
脳天から叩き降ろされた斬撃を更に体をよじりかわす。肩口を刃が通り抜けた。
そこから血が噴き出すより早く迫る次の斬撃。完全に体を転倒させて空振りさせる。
「ベギラマ!」
そこから放った炎の筋は髪がちりつく程の距離で見切られた。
それで生まれた刹那の隙に体を転がし地に突き立つ追撃を躱す。
力任せに地面に突き立ったまま横薙ぎに迫る更なる斬撃を杖で受け止め跳ね飛ばされて起きあがる。
「ライデイン!」
既にこちらに向けて突進していたレミリアの行く先にライデインを放つ。だがそれすらも速度を落とさずすりぬける。
右薙ぎの斬撃を後退して避けた瞬間に刺突に変化した切っ先を杖で受けた次の瞬間に脳天から次の斬撃。
(レミリアは攻撃を見切ったんだ!)
レックスの白兵攻撃。ベギラマ。ライデイン。全ての攻撃の速度と間合いを完璧に把握し、見切った。
だからレックスの攻撃が当たらない。レミリアは全てをかわして全ての時間を攻撃に注ぎ込んでいる。
それは回避行動の時間が減るだけではない。攻撃からも余分が消えた。
一見無謀な突撃をして防御を顧みない前のめりな攻撃をしても、
その裏には相手の反撃を躱す絶対の自信が潜んでいる。
(だけどはぐれメタルとは違うんだ。一撃当たりさえすればそれで……!?)
脳天からの斬撃を紙一重で凌ぎ、刃が離れレミリアの居るはずの目の前を睨み、何も居ない空間を見た。
寒気に襲われて全力で前に跳躍する。次の瞬間背中に熱い感覚が走った。
「うあっ」
「ふん、仕留めきれないか」
高速で背後頭上まで回り込んで放たれた斬撃に背中を大きく切り裂かれた。勢いよく血が噴出する。
(スクルトを重ね掛けしたのに……!)
鋼鉄の如き守りもレミリアとラグナロクの合力の前には薄紙のように脆い。
レミリアはラグナロクの刃先をレックスに向けて突きつけると、余裕を見せて笑った。
「回復してもいいわよ? その位は待ってやるわ」
「くそ……」
当たれば一撃。だがその一撃が当たっていない。防戦の合間に放つ攻撃ではとても倒せない。
(どうすれば良い? どうすればこいつを倒せる?)
既に見切られた攻撃は当たらない。一度でも使った攻撃は全て見切られている。
逆に言えば一度も使ってない攻撃を放つしかない。
(ドラゴンの杖の力を使うか? だけど……)
ドラゴンの杖で竜になった時の攻撃は底無しだが、単調だ。
それで押しきれる相手なら良いが、レミリアを倒せるとはとても思えない。
(そうなると残るは……ギガデインだけだ)
ライデインより強烈な雷の一撃で吹き飛ばす。これなら当たる見込みはある。
そしてだとすればその機会は“今をおいて他にない”。
(回復する為に呪文を使う時間を与えられた今だけが勝機だ)
レックスはレミリアを見つめた。
「あら、もう回復しないの? それならそれでいいけど」
「……一つ、聞いていいかな」
「何かしら」
レックスは問い掛けた。
「本当に君は、妹が死んだ事を何とも思っていないの?」
「………………弟妹が死んでも泣けない兄姉なんて幾らでもいるわ」
「……そっか」
レミリアの答えは何も変わらなかった。
「それだけかしら?」
「ううん、あと一つだけ……僕から送る言葉がある」
決意を固めた。そして息を吸って、発した。
一撃必殺の破壊の呪文を。
「――ギガデイン!」
* * *
その瞬間だけ、そこは確かに真昼と化した。
凄まじい閃光はまるで地上に太陽が生まれたかのようで、轟音は音とすら認識できない衝撃だった。
「やったか!?」
その強烈な閃光が落ちる直前、レックスは確かに見た。
虚を突かれたレミリアの体勢は飛び退く準備が出来ていなかった。
幾らあの速度が有ったとしても、当たったはずだ。当たっていなくてはならない。
これはレックスにとって最後の切り札なのだから。
果たして閃光が収まり、闇夜に目が慣れたレックスが見たのは……クレーターに突き立つ聖剣だけだった。
凄まじい閃光はまるで地上に太陽が生まれたかのようで、轟音は音とすら認識できない衝撃だった。
「やったか!?」
その強烈な閃光が落ちる直前、レックスは確かに見た。
虚を突かれたレミリアの体勢は飛び退く準備が出来ていなかった。
幾らあの速度が有ったとしても、当たったはずだ。当たっていなくてはならない。
これはレックスにとって最後の切り札なのだから。
果たして閃光が収まり、闇夜に目が慣れたレックスが見たのは……クレーターに突き立つ聖剣だけだった。
「……勝った…………」
ホッと安堵の溜息を吐いた。
――――微かな違和感。
「今度こそ、決まりだ」
そう思う。
――――何かを忘れている。
「今度こそ…………」
そう、今度こそ……?
――――思い出せ。
「………………」
そうだ、前にもこんな事が有った。
――――警鐘が鳴る。
(…………本当に、終わったのか?)
あの時はどうなった?
――――前に撃った時も仕留め損ねたのに?
ホッと安堵の溜息を吐いた。
――――微かな違和感。
「今度こそ、決まりだ」
そう思う。
――――何かを忘れている。
「今度こそ…………」
そう、今度こそ……?
――――思い出せ。
「………………」
そうだ、前にもこんな事が有った。
――――警鐘が鳴る。
(…………本当に、終わったのか?)
あの時はどうなった?
――――前に撃った時も仕留め損ねたのに?
羽音が、聞こえた。
無数の黒い影が夜闇を飛び交う。それぞれに光るは二つの紅い瞳。
キイキイと耳障りな鳴き声と共に影の獣共が舞い降りてくる。
その中の一際大きい一匹の首にはアイゼンのペンダントと首輪が輝く。
無数の蝙蝠は地に突き立つラグナロクにまとわりつき……凝縮された。
「悪いけど、もう油断も慢心もする気はないんだ」
レミリア・スカーレットは地に突き立つ聖剣を引き抜く。月の光を照り返し、刀身が黄金に輝いた。
首飾りと剣に飾られた生まれたままの姿で、レミリアは傲然と宣言する。
「それじゃ、続きをやろうか」
無数の黒い影が夜闇を飛び交う。それぞれに光るは二つの紅い瞳。
キイキイと耳障りな鳴き声と共に影の獣共が舞い降りてくる。
その中の一際大きい一匹の首にはアイゼンのペンダントと首輪が輝く。
無数の蝙蝠は地に突き立つラグナロクにまとわりつき……凝縮された。
「悪いけど、もう油断も慢心もする気はないんだ」
レミリア・スカーレットは地に突き立つ聖剣を引き抜く。月の光を照り返し、刀身が黄金に輝いた。
首飾りと剣に飾られた生まれたままの姿で、レミリアは傲然と宣言する。
「それじゃ、続きをやろうか」
(この戦い、僕の負けだ……)
レックスはがくりと膝をついた。
レックスはがくりと膝をついた。
* * *
アルルゥは、徐々に痺れが抜け自由を取り戻していく体で足掻いていた。
何かがおかしい。
何か……今の、ここの、この状況は何かがおかしい。
何かを見落としている。
(レミリア……)
その中心は間違いなくレミリアに他ならない。
そもそもレミリアの心変わりはあまりにも唐突だった。
レックスは……朧気ながら判る。彼は妹と自分の為に動いているのだ。
例え方針が変わろうともその根底は変わらない。だから引っかかりがない。
だがレミリアは何かが足りない。
レミリアは妹に対して酷い仕打ちをしていたのかもしれない。
その上にアルルゥに戦いを挑んできたから、アルルゥは怒ってそれを受け、戦った。
(……どうして?)
どうして急にアルルゥを襲ったのだろう。アルルゥとレミリアの間には何も起きていなかったのに。
「どうして……」
アルルゥは息を吸い込み、言葉を紡ぐ。
レミリアがそれに気づき、アルルゥの方を振り向いた。
アルルゥの透明な眼差しがレミリアの瞳を射抜く。
「レミリア……どうして……」
どうしてだろう。
あの時、アルルゥとレベッカに向けて魔槍を投げた時のレミリアが――
「…………どうして、泣いてるの……?」
――まるで泣きじゃくっているように見えたのはどうしてだろう。
何かがおかしい。
何か……今の、ここの、この状況は何かがおかしい。
何かを見落としている。
(レミリア……)
その中心は間違いなくレミリアに他ならない。
そもそもレミリアの心変わりはあまりにも唐突だった。
レックスは……朧気ながら判る。彼は妹と自分の為に動いているのだ。
例え方針が変わろうともその根底は変わらない。だから引っかかりがない。
だがレミリアは何かが足りない。
レミリアは妹に対して酷い仕打ちをしていたのかもしれない。
その上にアルルゥに戦いを挑んできたから、アルルゥは怒ってそれを受け、戦った。
(……どうして?)
どうして急にアルルゥを襲ったのだろう。アルルゥとレミリアの間には何も起きていなかったのに。
「どうして……」
アルルゥは息を吸い込み、言葉を紡ぐ。
レミリアがそれに気づき、アルルゥの方を振り向いた。
アルルゥの透明な眼差しがレミリアの瞳を射抜く。
「レミリア……どうして……」
どうしてだろう。
あの時、アルルゥとレベッカに向けて魔槍を投げた時のレミリアが――
「…………どうして、泣いてるの……?」
――まるで泣きじゃくっているように見えたのはどうしてだろう。