奪う覚悟があるのならば ◆2l/FbkSG0.
声が、消えない。
今でもタバサが泣いているような気がする。
今でも小太郎君が僕をなじっているような気がする。
イシドロや、あのミミと言う少女までもが、僕を責めているような気がする。
もう良い……もう、わかったから。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ。
あやまるから。何度だって、謝るから。
今でも小太郎君が僕をなじっているような気がする。
イシドロや、あのミミと言う少女までもが、僕を責めているような気がする。
もう良い……もう、わかったから。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ。
あやまるから。何度だって、謝るから。
「やめて……がんばる、から……ちゃんと僕、がんばるから!」
だけど耳を塞いでも、目を閉じても、何度謝っても、声は消えてくれなかった。
ひょっとしたら、この声はもう消える事はないのかもしれない、とも思う。
僕の犯した過ちを忘れさせない為に。幾度でも、僕に罪を突き付けるように。
ひょっとしたら、この声はもう消える事はないのかもしれない、とも思う。
僕の犯した過ちを忘れさせない為に。幾度でも、僕に罪を突き付けるように。
そんな僕を、何かがじっと見ているような気がした。
責めるように。嘲笑うように。僕を見ている気がした。
溢れる涙で世界が歪む。暗い闇の中で不気味な、形の無い何かが蠢いている。
僕は周りを見渡してみるものの、その何かを発見する事は出来なかった。
それが不快で、恐ろしくて。
責めるように。嘲笑うように。僕を見ている気がした。
溢れる涙で世界が歪む。暗い闇の中で不気味な、形の無い何かが蠢いている。
僕は周りを見渡してみるものの、その何かを発見する事は出来なかった。
それが不快で、恐ろしくて。
「いやだ……やだ…………、見るなぁぁあああぁ!!」
見えない何かに少しでも抗おうと、バイオリンと弓をがむしゃらに振り回し、放り投げ、ランドセルをも投げ飛ばす。ランドセルが何処かにぶつかって、落ちる音がした。
だがそれが無意味な行為だと、僕はとうに理解している。
だって、涙でぼやける視界の先には、「僕を見る何か」なんて存在していないのだ。
最初から声なんか聞こえていないし、誰も僕を見ていない。
だがそれが無意味な行為だと、僕はとうに理解している。
だって、涙でぼやける視界の先には、「僕を見る何か」なんて存在していないのだ。
最初から声なんか聞こえていないし、誰も僕を見ていない。
でも……でも!
僕には聞こえるし、見えるんだ。
何処まで走っても犯した罪は、戻れない過去は、決して僕を逃がしてはくれない。
僕には聞こえるし、見えるんだ。
何処まで走っても犯した罪は、戻れない過去は、決して僕を逃がしてはくれない。
もう嫌だ。
苦しいのも。怖いのも。辛いのも。
赦して……助けて……。
もうなにもかも、いやなんだ……っ。
苦しいのも。怖いのも。辛いのも。
赦して……助けて……。
もうなにもかも、いやなんだ……っ。
苦痛の中で喘ぐように頭を抱えたその時、
ジェダの『臨時放送』が始まった。
ジェダの『臨時放送』が始まった。
◇ ◇ ◇
放送が終わって、僕は体の震えを抑えられなかった。
これは、恐怖なんかとは別の感情。
これは、恐怖なんかとは別の感情。
「そうだよ……やっぱり、そうだったんだ!」
僕は――歓喜していた。
だってこれで、証明されたんだ。
それは僕が今こうして此処に居る時点で、解っていた事だけれど。これで今度こ
そ本当に、はっきりした。
ジェダは死をも覆す。
そう、僕が想像した通り……まるで、時を巻き戻すかのように!
だってこれで、証明されたんだ。
それは僕が今こうして此処に居る時点で、解っていた事だけれど。これで今度こ
そ本当に、はっきりした。
ジェダは死をも覆す。
そう、僕が想像した通り……まるで、時を巻き戻すかのように!
冥王ジェダは、命も、空間も、時間さえも操れる。
やはりジェダの力なら、僕の願いを叶える事が出来るのだろう。
時間を巻き戻して貰うんだ。僕とタバサが出会う前に。こんな場所に来る前に。全てが始まる、その前に。
全て消し去って貰うんだ。僕の苦しみも。彼女の傷も。僕が犯した罪も。これから重ねる過ちも。
僕にはそれしか残されていない。唯一確かな、希望なのだから。
やはりジェダの力なら、僕の願いを叶える事が出来るのだろう。
時間を巻き戻して貰うんだ。僕とタバサが出会う前に。こんな場所に来る前に。全てが始まる、その前に。
全て消し去って貰うんだ。僕の苦しみも。彼女の傷も。僕が犯した罪も。これから重ねる過ちも。
僕にはそれしか残されていない。唯一確かな、希望なのだから。
願いを叶えるには相応の代価が必要と言うならば、
罪を消す為の代価が更なる罪でしかないと言うならば、
僕は喜んでこの手を血に染めてみせよう。
罪を消す為の代価が更なる罪でしかないと言うならば、
僕は喜んでこの手を血に染めてみせよう。
やるべき事は決まった。
出発の前にまずは、散らばった荷物を集めないと。
出発の前にまずは、散らばった荷物を集めないと。
「ごめんよ、金糸雀。こんな事に付き合わせて……」
手近に転がっていたバイオリンを拾いながら、僕は金糸雀に詫びた。
金糸雀のローザミスティカは、僕が継承している。これから進む如何なる道をも、金糸雀と共に在り続けるという事だ。
金糸雀のバイオリンも手元にある以上、その能力に頼る事も多くなるだろう。
金糸雀のローザミスティカは、僕が継承している。これから進む如何なる道をも、金糸雀と共に在り続けるという事だ。
金糸雀のバイオリンも手元にある以上、その能力に頼る事も多くなるだろう。
だけど金糸雀なら、こんな僕にでも協力してくれるんじゃないかと思った。
トリエラから聞いている。金糸雀が、人を殺した可能性を。
どんな理由があったかも、それが事実であるかさえ分からないけれど――金糸雀も、罪を犯しているかもしれない。
つまり時間を戻して僕の罪を消す事は、金糸雀の罪を消す事にもなるんだ。
だから、金糸雀。君はきっと……力を、貸してくれるよね?
トリエラから聞いている。金糸雀が、人を殺した可能性を。
どんな理由があったかも、それが事実であるかさえ分からないけれど――金糸雀も、罪を犯しているかもしれない。
つまり時間を戻して僕の罪を消す事は、金糸雀の罪を消す事にもなるんだ。
だから、金糸雀。君はきっと……力を、貸してくれるよね?
あまりにも都合の良い考え。可能性は所詮、可能性でしかないのに。
けど、そうとでも思っていなければ、本当に耐えられなくなりそうな気がした。
金糸雀への罪悪感を無理矢理正当化させてでも、独りになるのは嫌だった。
どんなに罪にまみれても、誰かにすがる資格なんかないと知っていて尚、何より孤独が怖かったから――。
けど、そうとでも思っていなければ、本当に耐えられなくなりそうな気がした。
金糸雀への罪悪感を無理矢理正当化させてでも、独りになるのは嫌だった。
どんなに罪にまみれても、誰かにすがる資格なんかないと知っていて尚、何より孤独が怖かったから――。
バイオリン以外の、ランドセルに入っていた物も拾い集める。ランドセルを投げた時、木にぶつかった衝撃で中身がバラけてしまっていた。
急いだ方が良い。ジェダの話だと、もう直ぐ雨になるようだ。4時間も雨ざらしになるのは流石に辛い。
何処か屋根のある所で、雨が止むまで休みたい、というのが正直なところ。
此処には眠る為の鞄も無いし、今後休む機会に恵まれない場合も考えられる以上、休める内に休んでおくべきだ。
東の方へは戻れないから、西を目指そう。地図を見る限り、西の方には休めそうな建物も幾つかある。
急いだ方が良い。ジェダの話だと、もう直ぐ雨になるようだ。4時間も雨ざらしになるのは流石に辛い。
何処か屋根のある所で、雨が止むまで休みたい、というのが正直なところ。
此処には眠る為の鞄も無いし、今後休む機会に恵まれない場合も考えられる以上、休める内に休んでおくべきだ。
東の方へは戻れないから、西を目指そう。地図を見る限り、西の方には休めそうな建物も幾つかある。
持ち物を集めて、最後に拾おうとした物を前に――僕は思わず手を止めた。
それは、金色の小さな如雨露。金糸雀の荷物から、僕が受け取っていた物。
翠星石が能力を発揮するのに使う、庭師の如雨露だった。
それは、金色の小さな如雨露。金糸雀の荷物から、僕が受け取っていた物。
翠星石が能力を発揮するのに使う、庭師の如雨露だった。
結局再会する事は叶わなかった双子の姉。彼女がこの地で何を思い、何を成したのか――僕は何一つ知らないままだ。
翠星石は怖がりで、直ぐ僕の後ろに隠れてしまうのに、本当は僕とは比べ物にならない強さを持っている。
そんな翠星石だから、最期まで誰かの為に、誰かの心を守る為に戦ったのかもしれない。
翠星石は怖がりで、直ぐ僕の後ろに隠れてしまうのに、本当は僕とは比べ物にならない強さを持っている。
そんな翠星石だから、最期まで誰かの為に、誰かの心を守る為に戦ったのかもしれない。
――蒼星石の鋏は人の心を守る為にあるのです!
水銀燈との戦いに向かおうとする僕を、泣きながら止めようとしてくれた翠星石の叫びを、僕は今でも忘れられない。
結局僕はまた、あの時と同じ事を繰り返している。
あの時の僕は、あの選択が正しいと信じていた。だけど今は、この選択が間違いだと知っている。
それでも僕はもう、取り返しの付かない罪を重ね過ぎてしまったから……。
結局僕はまた、あの時と同じ事を繰り返している。
あの時の僕は、あの選択が正しいと信じていた。だけど今は、この選択が間違いだと知っている。
それでも僕はもう、取り返しの付かない罪を重ね過ぎてしまったから……。
やっぱり駄目だよ……翠星石。
僕は君が思うほど、強くなんかない。君が思うよりずっと、僕は愚かで臆病者だ。
双子なのに、どうして僕らはこんなにも、悲しいくらいに違うんだろう。
僕は君が思うほど、強くなんかない。君が思うよりずっと、僕は愚かで臆病者だ。
双子なのに、どうして僕らはこんなにも、悲しいくらいに違うんだろう。
「僕は……翠星石みたいに強くなんかなれないよ……」
僕は何も守れなかった。あの時も、今も、僕に出来たのは傷付ける事だけ。
あの時は翠星石の。そして今はタバサの、心を。
守りたかった筈のものさえ、傷付けてしまった。
あの時は翠星石の。そして今はタバサの、心を。
守りたかった筈のものさえ、傷付けてしまった。
今のこんな僕の姿を見たら、強く優しい最愛の姉は泣くのだろうか。
あの時と同じように。――或いは、タバサのように。
あの時と同じように。――或いは、タバサのように。
如雨露は、此処に置いて行く事にした。
どうせ僕には使えない。
例え翠星石のローザミスティカを持っていたとしても……今の僕には、使えない。
この如雨露は僕の鋏とは違う。人の心を、守る為の物なんだ。
だからこれは、僕が持っていたって仕方の無い物。穢れ過ぎてしまった僕が持っていてはいけない物。
どうせ僕には使えない。
例え翠星石のローザミスティカを持っていたとしても……今の僕には、使えない。
この如雨露は僕の鋏とは違う。人の心を、守る為の物なんだ。
だからこれは、僕が持っていたって仕方の無い物。穢れ過ぎてしまった僕が持っていてはいけない物。
暗い森の中に庭師の如雨露を置き去りにして、僕は脇目も振らずに駆け出した。
「ごめん……翠星石」
◇ ◇ ◇
気付けばいつからか、僕を責める声が聞こえなくなっていた。視線も感じなくなっていた。
少し落ち着いたからか。それとも、土砂降りの雨が掻き消してくれているのだろうか。
何にせよ、ほんの一時の間でも全てを忘れさせてくれた雨に、僕は心から感謝した。
少し落ち着いたからか。それとも、土砂降りの雨が掻き消してくれているのだろうか。
何にせよ、ほんの一時の間でも全てを忘れさせてくれた雨に、僕は心から感謝した。
そしてずぶ濡れになりながら、僕は見覚えのある塔の前にやって来ていた。
タバサと共に訪れた、あの塔だった。
偶然辿り着いたのか。――もしかすると知らず知らずの内に、僕は此処を目指していたのかもしれない。
タバサと共に訪れた、あの塔だった。
偶然辿り着いたのか。――もしかすると知らず知らずの内に、僕は此処を目指していたのかもしれない。
半日前、僕はタバサと共に此処に居た。
最初から間違えていた僕が、決定的に間違え始めてしまった場所。
僕はこの場所でタバサと分かり合えたと錯覚し、タバサを守り抜くと誓った。
それが僅か半日程度で、こんなにも変わってしまうなんて。
少女の姿に見た幻影は呆気なく砕け散り、少女がくれた偽りの希望は絶望へと転化した。
天空の勇者達の従者になると誓った、強固だった筈のあの気持ちも、今となっては思い出せない。
最初から間違えていた僕が、決定的に間違え始めてしまった場所。
僕はこの場所でタバサと分かり合えたと錯覚し、タバサを守り抜くと誓った。
それが僅か半日程度で、こんなにも変わってしまうなんて。
少女の姿に見た幻影は呆気なく砕け散り、少女がくれた偽りの希望は絶望へと転化した。
天空の勇者達の従者になると誓った、強固だった筈のあの気持ちも、今となっては思い出せない。
「タバサ……」
それでもまだ、僕は彼女の幻から逃げる事は出来ないのだろうか。
壊れた幻影を未練がましく追い求め、此処に戻って来てしまったと言うのだろうか。
分からない……雨と共に零れてくる涙の意味さえ、僕にはもう分からない。
壊れた幻影を未練がましく追い求め、此処に戻って来てしまったと言うのだろうか。
分からない……雨と共に零れてくる涙の意味さえ、僕にはもう分からない。
冷たい雨の中でもう一度だけ、タバサが僕を呼ぶ声が聞こえたような気がした。
【C-3/塔の前/2日目/深夜】
【蒼星石@ローゼンメイデン】
[状態]:金糸雀のローザミスティカ継承、全身打撲(行動には余り支障なし)、激しい後悔と罪悪感、雨でずぶ濡れ
[装備]:金糸雀のバイオリンと弓@ローゼンメイデン
[道具]:基本支給品×2、ジッポ、板チョコ@DEATH NOTE、戦輪×4@忍たま乱太郎
素昆布@銀魂、旅行用救急セット(消毒薬と針と糸)@デジモンアドベンチャー
[思考]:僕、は……。
第一行動方針:この塔の中で休む?
基本行動方針:まずタバサを除く全参加者を殺害し、最後にタバサを殺す
最終行動方針:優勝してジェダに時間をゲーム開始以前にまで戻してもらい、全てを無かったことにする。
[状態]:金糸雀のローザミスティカ継承、全身打撲(行動には余り支障なし)、激しい後悔と罪悪感、雨でずぶ濡れ
[装備]:金糸雀のバイオリンと弓@ローゼンメイデン
[道具]:基本支給品×2、ジッポ、板チョコ@DEATH NOTE、戦輪×4@忍たま乱太郎
素昆布@銀魂、旅行用救急セット(消毒薬と針と糸)@デジモンアドベンチャー
[思考]:僕、は……。
第一行動方針:この塔の中で休む?
基本行動方針:まずタバサを除く全参加者を殺害し、最後にタバサを殺す
最終行動方針:優勝してジェダに時間をゲーム開始以前にまで戻してもらい、全てを無かったことにする。
[備考]:庭師の如雨露@ローゼンメイデン は、D-2森の中に放置されています。
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