蜘蛛の網 -hell and heaven- ◆IEYD9V7.46
初期段階。
まずは、頭の中に思い描く。例えるなら、未開の地を自らの足で踏破し、開拓していくイメージ。
更に正確性を期すなら、トンネルを作るために岩盤を掘削していると言ったところだろうか。
兎に角、重要なのは“広げる”というイメージだ。
自分の脳内で想像、或いは創造したものを現実の世界に押し出す。
大丈夫、私にはそれができる。
要はアンダーグラウンド・サーチライトの構築と同じ。
避難壕内の部屋の数、位置、役割、通路の配置、ライフラインの引き込み口……、
自分の外の世界に、自らの意思を具現化したことなんて幾らでもある。
だから、これも同様にこなせるはず。
……とはいえ、少し集中し過ぎたわね。
息抜きも兼ねて、ここ数十分にあったことを整理しましょうか。
まずは、頭の中に思い描く。例えるなら、未開の地を自らの足で踏破し、開拓していくイメージ。
更に正確性を期すなら、トンネルを作るために岩盤を掘削していると言ったところだろうか。
兎に角、重要なのは“広げる”というイメージだ。
自分の脳内で想像、或いは創造したものを現実の世界に押し出す。
大丈夫、私にはそれができる。
要はアンダーグラウンド・サーチライトの構築と同じ。
避難壕内の部屋の数、位置、役割、通路の配置、ライフラインの引き込み口……、
自分の外の世界に、自らの意思を具現化したことなんて幾らでもある。
だから、これも同様にこなせるはず。
……とはいえ、少し集中し過ぎたわね。
息抜きも兼ねて、ここ数十分にあったことを整理しましょうか。
* * *
午後6時。第一回定時放送。
思い返しただけで耳が腐る。放送の内容以上にあの愉悦に富んだ声そのものが腹立たしい。
人間だったころの私なら「生理的に嫌悪を感じる」とでも口走ったかもしれない。
黒いタールのような哄笑は島を覆い尽くし、皮膚の中にまで染み入るように響いた。
拡声器のような常識的な伝達手段ではありえない。
何か特殊な手段を使ったのだろうと推測し……結果としてその推測は私にとって一つの、小さな指針となった。
これについては後で述べようと思う。
思い返しただけで耳が腐る。放送の内容以上にあの愉悦に富んだ声そのものが腹立たしい。
人間だったころの私なら「生理的に嫌悪を感じる」とでも口走ったかもしれない。
黒いタールのような哄笑は島を覆い尽くし、皮膚の中にまで染み入るように響いた。
拡声器のような常識的な伝達手段ではありえない。
何か特殊な手段を使ったのだろうと推測し……結果としてその推測は私にとって一つの、小さな指針となった。
これについては後で述べようと思う。
禁止エリアと死亡者の情報を記録し終えた私は、まずは後者の考察を行うことにした。
思ったより死亡者数が多い。その上、死者の内訳は少々頭を抱えたくなる結果となっていた。
泉光子郎とイリヤスフィール。
実益と興味から接触を計りたいと思っていた4人のうち、既に2人が脱落した。
特にイリヤスフィールに対してはホムンクルスとしての奇妙な連帯感
――口に出すのは憚られるけど――が心のどこかに確実にあった。
彼女はこの島で何を思い、何を為そうとして散ったのだろうか?
遠く西の空。夜に押されて、地平に消える赤い太陽を見やる。
揺々とした落日を眼に焼き付け、そのまま思いを馳せようとして――我に返る。
……私は、何をしているの。
感傷なんかに意味がないことくらい、疾うの昔に悟りきったはずだ。
しかも、見ず知らずの存在に情を絆されるなんてどうかしている。
そう、今必要なのは不明瞭な感情なんかじゃない。
求めるのは、厳然たる事実のみ。イリヤスフィールというホムンクルスがいて、
それを打ち倒した強者がいるというだけで充分。
ホムンクルスを殺せる者がいるのなら、この死亡者数の多さも頷けるというものだ。
おまけに当初懸念していた通り、ジェダ子飼いの女――リリスがこの殺し合いに送り込まれたらしい。
片隅で考慮していたとはいえ、途中から刺客を追加したのは何故かと疑問が湧く。
これもジェダの計画通りか、それとも否か。
……判断できない。意図が見えないのだから考えるだけ無駄だろう。
思ったより死亡者数が多い。その上、死者の内訳は少々頭を抱えたくなる結果となっていた。
泉光子郎とイリヤスフィール。
実益と興味から接触を計りたいと思っていた4人のうち、既に2人が脱落した。
特にイリヤスフィールに対してはホムンクルスとしての奇妙な連帯感
――口に出すのは憚られるけど――が心のどこかに確実にあった。
彼女はこの島で何を思い、何を為そうとして散ったのだろうか?
遠く西の空。夜に押されて、地平に消える赤い太陽を見やる。
揺々とした落日を眼に焼き付け、そのまま思いを馳せようとして――我に返る。
……私は、何をしているの。
感傷なんかに意味がないことくらい、疾うの昔に悟りきったはずだ。
しかも、見ず知らずの存在に情を絆されるなんてどうかしている。
そう、今必要なのは不明瞭な感情なんかじゃない。
求めるのは、厳然たる事実のみ。イリヤスフィールというホムンクルスがいて、
それを打ち倒した強者がいるというだけで充分。
ホムンクルスを殺せる者がいるのなら、この死亡者数の多さも頷けるというものだ。
おまけに当初懸念していた通り、ジェダ子飼いの女――リリスがこの殺し合いに送り込まれたらしい。
片隅で考慮していたとはいえ、途中から刺客を追加したのは何故かと疑問が湧く。
これもジェダの計画通りか、それとも否か。
……判断できない。意図が見えないのだから考えるだけ無駄だろう。
私が直接遭遇した参加者は少ない。ゆえに、死亡者発表を聴いても得られるものは多くなかった。
焼失した詳細名簿の内容、その半分が頭の中に朧気に残っているが、
それだけで事を進めるなど机上の空論もいいところ。
隠れ潜むことをよしとしていたとはいえ、そろそろ直に動く必要があるだろう。
……その前に。
もう少し情報を引き出してみようかしら。甚だ不本意だけど。
私は“努めて優しく”、黙過し続ける杖に先の放送について尋ねてみた。
…………たっぷり3秒ほど経ってから、短い応答。不快だ。
内部の回路と信号の動きが透けて見えたような気がした。
命令を伝達する信号が、同じところで酔っ払ったようにループ演算に引っかかり、遅延される。
グルグルグルグル……。
馬鹿みたいに幾度も同じ道を回って、漸く抜けたと思えば今度は違うループに嬉々として突入する。
上等だ。そちらが感情の赴くままに反抗するなら、それを逆手にとるまで。
焼失した詳細名簿の内容、その半分が頭の中に朧気に残っているが、
それだけで事を進めるなど机上の空論もいいところ。
隠れ潜むことをよしとしていたとはいえ、そろそろ直に動く必要があるだろう。
……その前に。
もう少し情報を引き出してみようかしら。甚だ不本意だけど。
私は“努めて優しく”、黙過し続ける杖に先の放送について尋ねてみた。
…………たっぷり3秒ほど経ってから、短い応答。不快だ。
内部の回路と信号の動きが透けて見えたような気がした。
命令を伝達する信号が、同じところで酔っ払ったようにループ演算に引っかかり、遅延される。
グルグルグルグル……。
馬鹿みたいに幾度も同じ道を回って、漸く抜けたと思えば今度は違うループに嬉々として突入する。
上等だ。そちらが感情の赴くままに反抗するなら、それを逆手にとるまで。
“言うことを聞かなければ高町なのはを殺す”
このようなニュアンスを話の端に混ぜてみたら、反応速度が幾らか素直になった。
本気で殺すかどうかは会ってみるまで判らないけれど、
レイジングハートが私のことを極悪人だと認識しているなら、実体のない威脅だけでも充分拘束力があるだろう。
何せ、私には既に実績がある。
私としては、全参加者にとって有害な吸血鬼を一匹処分しただけのつもりだけど、
この杖はそれが甚く気に入らなかったらしい。
正義を掲げる杖は、しかし狂った悪魔に肩入れしている。
理解に苦しむが、今はそんなことはどうだっていい。
本気で殺すかどうかは会ってみるまで判らないけれど、
レイジングハートが私のことを極悪人だと認識しているなら、実体のない威脅だけでも充分拘束力があるだろう。
何せ、私には既に実績がある。
私としては、全参加者にとって有害な吸血鬼を一匹処分しただけのつもりだけど、
この杖はそれが甚く気に入らなかったらしい。
正義を掲げる杖は、しかし狂った悪魔に肩入れしている。
理解に苦しむが、今はそんなことはどうだっていい。
発する言葉以上に豊かな感情を内包しているこの杖は、今ごろ理不尽な仕打ちに憤りを感じているだろう。
しかし、受け入れることね。この世は不条理に満ちているのだから。
その思考に至ると同時に、脳天からストン、と落ちてくるものがあった。
“今私がやっているのは、人面獣心の錬金戦団の屑どもやジェダと同じではないか”
他者を不条理で抑えつける様は、彼らのそれと酷似している。
DVを受けて育った子供が大人になると、自分の子供にもDVを行う。
以前どこかで聞いた話を思い出し、僅かに気が滅入った。
……違う、道具を個として認めることがそもそも間違っている。
道具は道具。それ以上の存在ではないし、大人しく使い手に従わないなら欠陥品だ。
考え方の軌道修正を行い、落ち着こうとする。だが、
“化け物に人格も人権もない、早くヴィクターを倒して来い”
大昔に身も心も抉られ、道具以下の扱いを受けたことを思い出してしまい、更に気が沈んだ。
しかし、受け入れることね。この世は不条理に満ちているのだから。
その思考に至ると同時に、脳天からストン、と落ちてくるものがあった。
“今私がやっているのは、人面獣心の錬金戦団の屑どもやジェダと同じではないか”
他者を不条理で抑えつける様は、彼らのそれと酷似している。
DVを受けて育った子供が大人になると、自分の子供にもDVを行う。
以前どこかで聞いた話を思い出し、僅かに気が滅入った。
……違う、道具を個として認めることがそもそも間違っている。
道具は道具。それ以上の存在ではないし、大人しく使い手に従わないなら欠陥品だ。
考え方の軌道修正を行い、落ち着こうとする。だが、
“化け物に人格も人権もない、早くヴィクターを倒して来い”
大昔に身も心も抉られ、道具以下の扱いを受けたことを思い出してしまい、更に気が沈んだ。
一苦労を重ねて、レイジングハートから聞き出せた情報は思いの外多かった。
まずは死者について。
フェイト・テスタロッサと八神はやて――二人とも有能な魔導士だったそうだ――の死は、
レイジングハートにとって衝撃的だったらしい。
片やスプライトザンバーなる結界破砕魔法の使い手で、閉鎖空間から脱出した経験の持ち主。
片や条件次第でありとあらゆる魔法を行使し得る、強大な夜天の主。
両者とも脱出のキーを持つ、代え難い存在だったようだ。
レイジングハートが知る限りでは、この殺人遊戯の盤上を覆せるのはその二人をおいて他にはいなかったらしい。
高町なのははこの状況を打破できる人間ではないの?
そう尋ねて、返って来た答えを要約するとこうなる。
“結界の破壊はできます、力づくで”
……あまり意見を交わしたくない類の人間だということはよく分かった。
まずは死者について。
フェイト・テスタロッサと八神はやて――二人とも有能な魔導士だったそうだ――の死は、
レイジングハートにとって衝撃的だったらしい。
片やスプライトザンバーなる結界破砕魔法の使い手で、閉鎖空間から脱出した経験の持ち主。
片や条件次第でありとあらゆる魔法を行使し得る、強大な夜天の主。
両者とも脱出のキーを持つ、代え難い存在だったようだ。
レイジングハートが知る限りでは、この殺人遊戯の盤上を覆せるのはその二人をおいて他にはいなかったらしい。
高町なのははこの状況を打破できる人間ではないの?
そう尋ねて、返って来た答えを要約するとこうなる。
“結界の破壊はできます、力づくで”
……あまり意見を交わしたくない類の人間だということはよく分かった。
死亡者の考察を終えて、次は禁止エリアの考察に移る。
発表された6箇所の禁止エリアは、概ね島全体に偏りなく配置されていた。
地図を信じるなら交通の要所、大掛かりな建造物を避けているようにも見える。
偶然かもしれない――と、そのように思考停止したのでは何も掴めない。
あえて徹底的に穿った見方をしてみる。
すると禁止エリアの一つに、看過できない異質さがズシリと乗っていることに気付いた。
B-7、タワー。
ここだけは、ドロドロと渦巻く恣意的なものを感じる。
この島一番のランドマークを、初回の放送の最初の禁止エリアで塞ぐ?
他の禁止エリアが要所を潰していないことも考慮すれば、明らかにおかしい。
ジェダにとって、参加者に調べられたくない“何か”がタワーにあるのかもしれない。
それなら、是が非でも調査しなければ。時間がない。
タワーの禁止エリア化まで、とっくに一時間を切っている。
距離はここから道なりに進んで、約10kmほど。
余裕で間に合う。
普段どおりの力が出せて、周囲への警戒を完全にカットして夜闇を突き進めば、余裕で間に合う。
……前提からして砂上の楼閣に立っている。話にならない。
よしんば間に合ったとしても、探索時間など皆無だろう。
これに関しては諦めるほかない。次善策を考える。
発表された6箇所の禁止エリアは、概ね島全体に偏りなく配置されていた。
地図を信じるなら交通の要所、大掛かりな建造物を避けているようにも見える。
偶然かもしれない――と、そのように思考停止したのでは何も掴めない。
あえて徹底的に穿った見方をしてみる。
すると禁止エリアの一つに、看過できない異質さがズシリと乗っていることに気付いた。
B-7、タワー。
ここだけは、ドロドロと渦巻く恣意的なものを感じる。
この島一番のランドマークを、初回の放送の最初の禁止エリアで塞ぐ?
他の禁止エリアが要所を潰していないことも考慮すれば、明らかにおかしい。
ジェダにとって、参加者に調べられたくない“何か”がタワーにあるのかもしれない。
それなら、是が非でも調査しなければ。時間がない。
タワーの禁止エリア化まで、とっくに一時間を切っている。
距離はここから道なりに進んで、約10kmほど。
余裕で間に合う。
普段どおりの力が出せて、周囲への警戒を完全にカットして夜闇を突き進めば、余裕で間に合う。
……前提からして砂上の楼閣に立っている。話にならない。
よしんば間に合ったとしても、探索時間など皆無だろう。
これに関しては諦めるほかない。次善策を考える。
地図上の禁止エリアと自分の位置を再確認。私のいる北東部の禁止エリアは、どれも発動時間が遅い。
ならば、距離と時間、その両方の釣り合いをとれば21時のH-8、もしくは23時のA-1のどちらかがベターだろう。
何をするつもりなのかは決まっている。――禁止エリアと首輪の調査だ。
試したいこと、確かめたいことが数多くある。私はずっと待ち焦がれていたのだ。
ジェダが手札のオープンを開始する、このときを。
これから先は、大人しく後手に回るつもりはない。
あの男の鼻柱を、一刻も早く折るためにも。……しかし、一抹の不安は残る。
ジェダは自らの気分で首輪を爆破できる。その匙加減の判別が全くつかない。
不自然に禁止エリアに近づいただけでも爆破してくるかもしれない……が、
成果を得るためには虎穴に身を置くことも肝要だ。行くしかない。
どうせいつ死のうが生きようが構わないのだから、高いリスクにも飛び込んでやる。
それで死んだなら、あの世でママと一緒にジェダの小物さでも笑えばいい。
ならば、距離と時間、その両方の釣り合いをとれば21時のH-8、もしくは23時のA-1のどちらかがベターだろう。
何をするつもりなのかは決まっている。――禁止エリアと首輪の調査だ。
試したいこと、確かめたいことが数多くある。私はずっと待ち焦がれていたのだ。
ジェダが手札のオープンを開始する、このときを。
これから先は、大人しく後手に回るつもりはない。
あの男の鼻柱を、一刻も早く折るためにも。……しかし、一抹の不安は残る。
ジェダは自らの気分で首輪を爆破できる。その匙加減の判別が全くつかない。
不自然に禁止エリアに近づいただけでも爆破してくるかもしれない……が、
成果を得るためには虎穴に身を置くことも肝要だ。行くしかない。
どうせいつ死のうが生きようが構わないのだから、高いリスクにも飛び込んでやる。
それで死んだなら、あの世でママと一緒にジェダの小物さでも笑えばいい。
方針を決定したところで、ふと先の放送を回想する。
あの得体の知れない声は、どこから、何を使って響かせたのか……。
私は多少従順になってくれた杖に、期待半分で訊いてみた。
するとレイジングハートは逡巡し、あの放送は念話に近いものではないかと返答した。
念話というのは文字通り、思念を相手に伝えることで会話する手段で、
魔法の心得があるものなら簡単に習得できる初等技術らしい。
逆に言えば魔法が使えないものには何も伝えられないので、ジェダの放送はこれとは違うものだとも補足された。
これは使える。
首輪には間違いなく盗聴機能が備わっているのだから、参加者同士で密談するのに最適な手段になるだろう。
念話までもジェダに盗聴されているかもしれないという疑念は拭えないが、その可能性は相当低いとのこと。
いや、低いと見るほかない。念話という使い手が限定される手段まで抑えるくらいなら、
その前に首輪に盗撮機能を付加したほうが全参加者にとって脅威となる。
それら全ての機能が首輪に備わっているのかもしれないが、もしそうだとしたら誰もジェダに刃向えなくなる。
情けない話だけど、その最悪の前提は思考から排除する。
でなければ、先に進むことは絶対にできないのだから。
仮に首輪のキャパシティに限界があり、機能の取捨選択を行わざるを得ないなら、
優先順位は盗聴、盗撮、そして最後に念話盗聴の順のはずだ。
どうしようもない。念話まで拘束されていることはないと祈って動くしかない。
思考をそこで打ち切り、意を決して、するべきことを確認。
魔法の適性が殆どない私でも、デバイスの補助を受ければ念話の使用も可能となるらしい。
使えるものなら藁にだって縋りたい。私は今後のためにもこれを習得することにした。
あの得体の知れない声は、どこから、何を使って響かせたのか……。
私は多少従順になってくれた杖に、期待半分で訊いてみた。
するとレイジングハートは逡巡し、あの放送は念話に近いものではないかと返答した。
念話というのは文字通り、思念を相手に伝えることで会話する手段で、
魔法の心得があるものなら簡単に習得できる初等技術らしい。
逆に言えば魔法が使えないものには何も伝えられないので、ジェダの放送はこれとは違うものだとも補足された。
これは使える。
首輪には間違いなく盗聴機能が備わっているのだから、参加者同士で密談するのに最適な手段になるだろう。
念話までもジェダに盗聴されているかもしれないという疑念は拭えないが、その可能性は相当低いとのこと。
いや、低いと見るほかない。念話という使い手が限定される手段まで抑えるくらいなら、
その前に首輪に盗撮機能を付加したほうが全参加者にとって脅威となる。
それら全ての機能が首輪に備わっているのかもしれないが、もしそうだとしたら誰もジェダに刃向えなくなる。
情けない話だけど、その最悪の前提は思考から排除する。
でなければ、先に進むことは絶対にできないのだから。
仮に首輪のキャパシティに限界があり、機能の取捨選択を行わざるを得ないなら、
優先順位は盗聴、盗撮、そして最後に念話盗聴の順のはずだ。
どうしようもない。念話まで拘束されていることはないと祈って動くしかない。
思考をそこで打ち切り、意を決して、するべきことを確認。
魔法の適性が殆どない私でも、デバイスの補助を受ければ念話の使用も可能となるらしい。
使えるものなら藁にだって縋りたい。私は今後のためにもこれを習得することにした。
* * *
そうして現在に至る。
魔法を練る感覚に慣れた私は、次のステップ、別のイメージの構築に励んでいた。
念話の感覚は高い場所に手をかけて、昇ろうとすることに近い。
通常の魔導士ならこれを一人でこなして悠々と昇降できるらしいが、
私の場合はどんなに上達しても上から手を伸ばしてくれないと昇ることはできない。
今はひたすらこの手を高く伸ばす作業を繰り返す。まだ、上にいるレイジングハートの手には届かない。
難儀だ。けど、今の私は間違いなく満たされている――明確な目的が定まったのだから。
ジェダは放送によって絶望を振り撒いたつもりなのだろう。
だが、そんなものは私には通用しない。この島で、絶望する理由が何もない。
おおよそ考えられうる苦難苦痛は100年も前に経験し尽くし、数日前に両親との別れも経たばかりだ。
これ以上、何に消沈する必要がある。
思考を整理し終え、再び空へと手を伸ばす。
魔法を練る感覚に慣れた私は、次のステップ、別のイメージの構築に励んでいた。
念話の感覚は高い場所に手をかけて、昇ろうとすることに近い。
通常の魔導士ならこれを一人でこなして悠々と昇降できるらしいが、
私の場合はどんなに上達しても上から手を伸ばしてくれないと昇ることはできない。
今はひたすらこの手を高く伸ばす作業を繰り返す。まだ、上にいるレイジングハートの手には届かない。
難儀だ。けど、今の私は間違いなく満たされている――明確な目的が定まったのだから。
ジェダは放送によって絶望を振り撒いたつもりなのだろう。
だが、そんなものは私には通用しない。この島で、絶望する理由が何もない。
おおよそ考えられうる苦難苦痛は100年も前に経験し尽くし、数日前に両親との別れも経たばかりだ。
これ以上、何に消沈する必要がある。
思考を整理し終え、再び空へと手を伸ばす。
* * *
――――蜘蛛は、糸を吐き出した。
糸は幾重にも張り巡らされ、線から面が形成される。
やがて現れたのは獲物を捕らえ、待ち構えるための広大な巣。
幾何学的な模様は、それ単体なら芸術性すら感じられる。
しかし、それは叶わない。そこにはおぞましい主がいる。
巣の中心で、蜘蛛は静かに羽虫がかかるのを待ち……、
時間の経過とともに、糸という絶望に囚われる虫の数が増えていく。
蜘蛛は二度、三度と口元の牙を開閉して、満足げに嗤う。
哀れな犠牲者を、どこまでも愉快だとばかりに見つめている。
糸は幾重にも張り巡らされ、線から面が形成される。
やがて現れたのは獲物を捕らえ、待ち構えるための広大な巣。
幾何学的な模様は、それ単体なら芸術性すら感じられる。
しかし、それは叶わない。そこにはおぞましい主がいる。
巣の中心で、蜘蛛は静かに羽虫がかかるのを待ち……、
時間の経過とともに、糸という絶望に囚われる虫の数が増えていく。
蜘蛛は二度、三度と口元の牙を開閉して、満足げに嗤う。
哀れな犠牲者を、どこまでも愉快だとばかりに見つめている。
……なるほど。
死亡者の読み上げ、そして禁止エリア。
確かに希望を奪い、人を狂わせるのには充分過ぎるカードだ。
しかし、思い知らせてやる。おまえが絶望を煽る為に吐き出した無数の糸。
それに囚われることなく、それどころか逆にその糸を伝って、
おまえのもとに辿り着き――牙を突き立てる者がいるということを。
抗う者は何人も残っている。例えば、ここにも一人――
死亡者の読み上げ、そして禁止エリア。
確かに希望を奪い、人を狂わせるのには充分過ぎるカードだ。
しかし、思い知らせてやる。おまえが絶望を煽る為に吐き出した無数の糸。
それに囚われることなく、それどころか逆にその糸を伝って、
おまえのもとに辿り着き――牙を突き立てる者がいるということを。
抗う者は何人も残っている。例えば、ここにも一人――
* * *
ピクリ。
指先に今までにない感触が返り、私は上方を見やる。
目一杯、空に向かって伸ばした指の先。
そこに自分のものではない、他の誰かの手があった。
私はその手をしっかりと、握り締める。
指先に今までにない感触が返り、私は上方を見やる。
目一杯、空に向かって伸ばした指の先。
そこに自分のものではない、他の誰かの手があった。
私はその手をしっかりと、握り締める。
“Connection was completed,my I.M.”
成功だ。レイジングハートからの念話が届いた。
ちなみにI.M.というのはillegal masterの略であるらしい。何度も呼んでるから面倒になったのだろう。
やはり、妙に人間臭い杖だ。まあ、使えさえすれば呼び方なんて何だろうと構わない。
これで第一段階、受信過程は終了。次はより難易度の高い、自分の思念を他者に送る送信過程に移る。
これから数十分か、あるいは数時間か……。
兎に角、習得までまだ時間が掛かるだろう。しかし、順調だ。十二分な手応えも感じる。
後は止まることなく行動し続けてて、結果を手繰り寄せるのみ。
ふっ、と。軽く口元が吊り上るのを自覚する。
……ああ、そうだ。これが始まりだ。
私は今ここから、ジェダの振りかざす不条理に意志を打ち立てるのだ。
徹底抗戦の、確固たる意志を。
ちなみにI.M.というのはillegal masterの略であるらしい。何度も呼んでるから面倒になったのだろう。
やはり、妙に人間臭い杖だ。まあ、使えさえすれば呼び方なんて何だろうと構わない。
これで第一段階、受信過程は終了。次はより難易度の高い、自分の思念を他者に送る送信過程に移る。
これから数十分か、あるいは数時間か……。
兎に角、習得までまだ時間が掛かるだろう。しかし、順調だ。十二分な手応えも感じる。
後は止まることなく行動し続けてて、結果を手繰り寄せるのみ。
ふっ、と。軽く口元が吊り上るのを自覚する。
……ああ、そうだ。これが始まりだ。
私は今ここから、ジェダの振りかざす不条理に意志を打ち立てるのだ。
徹底抗戦の、確固たる意志を。
【G-1/民宿2階/1日目/夜】
【ヴィクトリア=パワード@武装錬金】
[状態]:精神疲労(中)。
[服装]:制服の妙なの羽織った姿。(バリアジャケット展開時の外見は『ルリヲヘッド』そのもの)
[装備]:i-Pod@現実?、レイジングハート・エクセリオン(スタンバイモード)@魔法少女リリカルなのは(カートリッジ残数5発)
[道具]:アイテムリスト、天空の剣@ドラゴンクエストⅤ、基本支給品×2(食料のみは1人分)、
首輪×2、詳細名簿(ただし損傷して情報が一部欠損)、
[思考]:習得時間がどれだけ掛かるか……。
第一行動方針:念話(送信)の習得完了までここに留まる。
第ニ行動方針:参加者を見かけたら慎重に観察し、場合によっては接触。
第三行動方針:禁止エリアが発動したら調査に赴きたい(候補はH-8かA-1)
第四行動方針:首輪を外す。主催者の目的について考える。
第五行動方針:“信用できてなおかつ有能な”仲間を捜す。
第六行動方針:インデックス、エヴァにできれば接触してみたい。
基本行動方針:様子見をメインに、しかしチャンスの時には危険も冒す
参戦時期:母を看取った後
[備考1]:能力制限により再生能力及び運動能力は低下、左胸の章印を破壊されたら武器を問わずに死亡。
いわゆる「ジョーカー」の存在を疑っています。
[備考2]:「詳細名簿」はア行の参加者の情報は無事です。それ以外の参加者の情報は顔写真と名前以外はすべて灰となりました。
リリスの情報は載っておらず、ふみこ・O・Vの情報は載っていました。
[備考3]:
レイジングハートは、ヴィクトリアに非協力的です。ヴィクトリアのことを憎んですらいます。
レイジングハートは、ヴィクトリアの持ち物や情報をほとんど把握していません。
(特に、アイテムリストの存在を知らないため、自分をどうやって使ったのかが大きな謎になっています)
【ヴィクトリア=パワード@武装錬金】
[状態]:精神疲労(中)。
[服装]:制服の妙なの羽織った姿。(バリアジャケット展開時の外見は『ルリヲヘッド』そのもの)
[装備]:i-Pod@現実?、レイジングハート・エクセリオン(スタンバイモード)@魔法少女リリカルなのは(カートリッジ残数5発)
[道具]:アイテムリスト、天空の剣@ドラゴンクエストⅤ、基本支給品×2(食料のみは1人分)、
首輪×2、詳細名簿(ただし損傷して情報が一部欠損)、
[思考]:習得時間がどれだけ掛かるか……。
第一行動方針:念話(送信)の習得完了までここに留まる。
第ニ行動方針:参加者を見かけたら慎重に観察し、場合によっては接触。
第三行動方針:禁止エリアが発動したら調査に赴きたい(候補はH-8かA-1)
第四行動方針:首輪を外す。主催者の目的について考える。
第五行動方針:“信用できてなおかつ有能な”仲間を捜す。
第六行動方針:インデックス、エヴァにできれば接触してみたい。
基本行動方針:様子見をメインに、しかしチャンスの時には危険も冒す
参戦時期:母を看取った後
[備考1]:能力制限により再生能力及び運動能力は低下、左胸の章印を破壊されたら武器を問わずに死亡。
いわゆる「ジョーカー」の存在を疑っています。
[備考2]:「詳細名簿」はア行の参加者の情報は無事です。それ以外の参加者の情報は顔写真と名前以外はすべて灰となりました。
リリスの情報は載っておらず、ふみこ・O・Vの情報は載っていました。
[備考3]:
レイジングハートは、ヴィクトリアに非協力的です。ヴィクトリアのことを憎んですらいます。
レイジングハートは、ヴィクトリアの持ち物や情報をほとんど把握していません。
(特に、アイテムリストの存在を知らないため、自分をどうやって使ったのかが大きな謎になっています)
≪183:血と涙がまだ足りない | 時系列順に読む | 185:まっくら隧道≫ |
≪183:血と涙がまだ足りない | 投下順に読む | 185:まっくら隧道≫ |
≪153:ゆとり教育の弊害? ≪175:第一回定時放送 |
ヴィクトリアの登場SSを読む | 212:北東市街は静かに眠る≫ |