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 「就職活動」 より

 

 

「あの、涼宮さん」
 何?
「いったい、僕達は何をしているんでしょうか?」
 何って……見ればわかるでしょ?
 カーテンを閉め切った生徒会室の中、煌々と光を放つPCのモニターから顔を上げたあたしを、古泉君は不思議そうな
顔で眺めている。
「……すみません、わからないです」
 生徒会室の入口で、あたしの指示通りに廊下の様子を伺っている古泉君は困った様な笑顔を返してきた。
 ペンライトを片手に立っている彼に、あたしは現状をできるだけ短い言葉で伝える事にした。
 これは世界の意思なのよ。多分。
「はあ」
 そう、きっとそうなの。
 詳しい事は後で話すから、今はちゃんと見張っててね?
 顔中に疑問符をつけてる古泉君には悪いけど、今は時間がない。
 予算の少なさと、頭の固い教師のおかげでセキュリティーの概念とは縁遠い北高だけど、やっかいな事に宿直なんて
前時代的な勤務が今も生きている以上、ここに長居するのは危険なだけ。
 まあ、万一の時は「あの力」があるけど……だめ、あれは当てにはできない。
 そうする事で作業が早く終わる訳じゃないんだけど、モニターに写るHDの検索中の文字、そして該当したファイルの
文字列をあたしは睨みつけた。

 


 涼宮ハルヒの愛惜 第8話 「台風」

 


「涼宮さん」
 ごめん、もうちょっとだから
「いえ、宿直の見回りが来ました」
 嘘! 
 急いでモニターの電源を切り、物音を立てない様に静かに古泉君の隣に移動する。
 耳を澄ませてみると、廊下からは確かに誰かの足音が聞こえてきていた。
 ああもう! 勤務日誌には23時に巡回を実施とか書いてあったのに、まだ20時じゃない!
 それまで聞こえていた廊下を歩く足音が止まり、少し離れた場所の部屋の引き戸が開けられる音が聞こえてくる。
「宿直の先生は2つ隣の部屋を見回っている様ですね。一旦別の部屋に移動するか、この部屋に隠れますか?」
 生徒会室は不必要な程に広い部屋だったけど、見た限り隠れられそうな場所は机の下に一人分しか見つからない。
 考えている時間はないわ。
 そうね……じゃあ移動しましょう。
 あたしの言葉に古泉君は頷く、急いで生徒会室から出ようとすると
「おい、誰か居るのか?」
 生徒会室の扉のすぐ前から、教師の物らしい大人の声が聞こえてきた。
 え? 何で? ……今は迷ってる時間はないわ!
 あたしは古泉君の手を取り、ペンライトの明かりを頼りに生徒会長の机へと急いだ。無駄に大きな椅子をどけて、
そのスペースに古泉君を
「ここは僕に任せてください」
 古泉君を押し込もうとしたあたしは、逆にその隙間に押し込まれてしまった。
 抗議しようとするあたしに、古泉君は指で沈黙するように伝えてくる。
 古泉君、隠れるなら貴方でしょ? あたしなら別に教師に見つかってもどうって事ないじゃない。何か言われた
り、怒られたってそれは自分の責任だもの。
 囁くような声で訴えるあたしを見て、古泉君はゆっくりと首を横に振った。
「そうはいきません。ここまでお付き合いした以上、僕も共犯者ですから」
 椅子がゆっくりと定位置近くまで戻された時、生徒会室の扉が開く音が聞こえてきた。
 懐中電灯の光が真っ暗な室内を飛びまわり、そして止まる。
「おい! そこに居るのは誰だ!」
 緊張した教師の声……この声は、もしかして岡部?
「1年9組の古泉です。お騒がせしてすみません」
「古泉? ……お前、こんな時間に生徒会室で何をしているんだ」
 間の抜けた岡部の声の後、真っ暗だった生徒会室に電気がつけられた。
「生徒会室に忘れ物を取りに来たんですが、宿直室に先生の姿が見えなかったので一人で取りにきたんです」
「なるほどな。いや、ここに居たのがお前でよかった。俺はてっきり涼宮だとばっかり思ったよ」
 どーゆー意味よ、それ。
「ご迷惑をおかけしてすみません」
「用が済んだら早く帰るんだぞ」
「わかりました」
 ああもう、あんたこそさっさと帰りなさいよ!
 生徒会室から出て行こうとする足音が、不意に止まる。
「ん、古泉。そういえばお前、生徒会には入ってなかったと思うんだが」
 心臓の音が聞こえてしまうんじゃないかと思うほど、あたしは動揺した。
「生徒会長に忘れ物を取ってきて欲しいと頼まれまして」
「……お前にか?」
「はい、彼とは友達なんです。ここは生徒会室で貴重品もありますし、念の為電話を繋ぎましょうか?」
 数秒の沈黙、あたしにはそれが数分もの長さに感じられた。
「ん……まあ、お前が言うのなら信じていいだろう。用が済んだら電気は消しておいてくれ」
「わかりました」
 誰かが生徒会室から出て行き、しばらくして目の前にあった椅子がどけられてもあたしはそこから動けなかった。
「窮屈な思いをさせてすみません、もう大丈夫ですよ」
 ……うん。
「どうかしましたか?」
 え、あ。なんでもない。
 差し伸べられた古泉君の手を取り、あたしは机の隙間から這い出した。
 

 

 見上げた夜空は厚い雲で覆われていて、暗い夜道を照らすのは所々に立つ街灯の古ぼけた明かりだけ。 
「宿直室で聞いたんですが、近くで窃盗事件が続いていたので警備強化の為に宿直の人数を増やしていたそうです」
 うん。
「それと、生徒会長とは本当に面識があるので、口裏を合わせてくれるようにメールで頼んでおきました」
 うん。
 俯いて歩くあたしの隣には、いつもと変わらない声の古泉君が居る。
 何故かわからないけど、その時あたしは古泉君の顔を見れなかった。
 ――自分を変えよう、そう決めた日からあたしは思いつく限りの事をやってきたつもり。
 その中には回りに受け入れられない事もいっぱいあって、そのたびに色んな人とあたしはぶつかってきた。あたし
は自分が間違っていたなんて思ってないし、後悔もしてないわ。
 でも、今日の事は……間違ってた。
 古泉君。
「はい」
 勇気を出して顔を上げてみると、そこには期待していた古泉君の笑顔があった。
 ……そっか、何で古泉君の顔を見れなかったのかわかった。
 あたしは、この笑顔を失いたくないんだ。
 そっと、車道側を歩いている古泉君の手を握る。
 ちょっと驚いた顔をしたけど、彼はその手を振り払わなかった。
 本当に、共犯者になる覚悟ってある?
 あたしの問いかけに古泉君はくすぐったそうな笑顔を浮かべて、力強く頷いてくれた。
 

 

 あれは、いつもと変わらない週末の部室でのこと。キョンはあたしの所に1枚のA4紙を持ってきた。
 何これ? と思いつつもとりあえずその内容を読んでみると……その内容も日程もあたしには不満な物だった。
 鶴屋さんの家で遊ぶ約束をしてた日と重なってたって事もあるわ。
 それに、絵本の読み聞かせなんて地味なイベント、悪いけど趣味じゃないもの。
 でも……これがもし、キョンの提案だったのなら別にそれでもいいって思った。
 楽しくないイベントなら、楽しくすればいいだけの事よね。
 でも、違った。
 これは有希に届いた物で、キョンはそれをあたしの所に持ってきただけ。
 キョンはあたしに何て言って欲しかったのかな?
 みんなで一緒に行くわよ? それとも――
 だからあたしは試してみた。
 もしも1人で行く事になったら、キョンはどうするのかって。
 あたしを待っていたのは……予想外な結果だった。

 


 ――有希とキョンが町立図書館に行った日曜日、あたし達は鶴屋さんの家で遊んでいた。
 別に2人が一日くらい居なくたって何も変わらない、そうでしょ?
 みくるちゃんも鶴屋さんもとても楽しそう、もちろん古泉君も。
 明日学校で会ったら、今日あった事をキョンに自慢してやろう。きっとあいつは悔しがる、あたしの傍に居れば
よかったって言わせてやる。
 そんな事を考えていたの……ばかみたい。
 いつもよりも騒いだ休日が終わって月曜日、学校で会うのを待ちきれなかったあたしは通学中のキョンを待ち伏せ
してたの。
 キョンはどんな顔をしているのかな?
 なんて声をかけよう?
 民家の塀の影に隠れている時間はとても楽しかった。
 そして、数十分後――
 塀の隙間からあたしが見たのは、ゆっくりと歩く有希とその隣を歩くキョンの姿だった。
 遠くからでも見えたのは、キョンが何かを言うたびに小さく頷く有希。
 そんな2人に、あたしは声をかける事なんてできなかった。
 通り過ぎていく2人の姿を見送って、やがてその姿が見えなくなってからあたしは塀の隙間から出てきた。
 その時、急に視界が歪み始めたの。 
 何が起きたのか、今でもわからないわ……。

 


 その時の事を思い出すといつも不思議な気持ちになる。
 古泉君が奢ってくれたコーヒーを片手に、あたしは地面に接地していた足を上げてブランコに全体重を預けた。
 冬を目前に控えた夜中の公園には、あたしと古泉君の姿しかない。
 隣のブランコに座ったまま、それまで何も言わずにあたしの話を聞いてくれていた古泉君が初めて口を開いた。
「涼宮さん。僕の記憶では、その町立図書館にはみんなで行ったと思うんですが」
 うん。
 あたしの言葉に古泉君は不思議そうに頷く。
 確かに、その通りね。
 通学路で不思議な感覚に捕らわれたあの時――気がついたらあたしはベットの上だったの。時計を見たらもう
学校に行く時間だったし、変な夢だったなって最初は思った。でもね、目を覚ましたのは月曜の朝じゃなかったの。
信じられないだろうけど日曜日の朝だったのよ。
 あたしの顔を見つめる古泉君の顔は、不思議とそれ程驚いてはいないようだった。
 まあ、信じてくれなくてもいいけど。
「信じます!」
 急に力強く言い切られて驚くあたしに、古泉君は慌てて付け加えた。
「というよりも、信じざるを得ないといった感じです。つまり、涼宮さんは過去に戻って歴史を……この場合、長門
さんと彼が2人だけで町民図書館に行くという出来事を改変したという事なんですね」
 夢じゃないなら、ね。
 二度目の日曜日の朝、鶴屋さんの家に集まった所であたしは町立図書館へみんなで行く事を提案した。
 結果、意外に楽しい時間をみんなで過ごして……まあよくわからないけど、月曜の朝に通学路を歩いていたのは
キョン1人だったわ。
「市立図書館に2人で出かけるように言ったのも、過去に戻ったせいなんですか?」
 そう。
「そして今日、ファミレスに行ったのも涼宮さんにとっては2回目だった。だから僕のオーダーや、あの質問の
答えが予めわかっていた」
 正解……それともう一つだけ。これは違うかもしれないけど去年も同じような事が一度あったのよ。
 話の続きを待つ古泉君から何となく視線を外して、あたしは続けた。
 去年の今頃だったかな……あたしとキョンが……その、何故か付き合いはじめてね? それから……どうして
も思い出せないんだけど、凄く嫌な事があった様な気がするの。その時は、気がついたらあたしは部室で寝てい
て、隣にはキョンと有希が居たの。もちろん気がついたのはあたしがキョンと付き合い出す前。それが、不思議な
体験のはじまりだったと思う。 
 温くなっていたコーヒーを飲み干し、あたしはブランコから立ち上がった。
 どうして過去に戻れるのか……ううん、自分の意思では戻れないんだから、戻ってしまうのかあたしにはわか
らない。過去に戻るきっかけに、どうしていつも有希とキョンが関わっているのかもね。でも、この力には何か
意味があるんだって思ってるの。
 ……そうでなければ、あまりにも寂しすぎるじゃない。
 古泉君、今日は……その、巻き込んじゃってごめんね? 夜の学校って、ちょっと変な思い出があってどうし
ても1人で行きたくなかったの。それに、キョンには頼めない事だし……。
 そこまで言った所で、古泉君もブランコから立ち上がった。
 あたし手からの空になっていたコーヒー缶をそっと取り、古泉君は不思議な笑顔を浮かべている。
「涼宮さん」
 うん。
「共犯者になる意思があるからこそ、僕は貴女の話を最後まで聞いたんです」
 うん。
「貴女に頼ってもらえて嬉しいと思っています。僕でよければ手助けをさせてください」
 その言葉が、その笑顔が嬉しくて。
 ……ありがとう。
 自分でも止められない感情を隠す為、古泉君の胸にあたしは顔を埋めた。

 

 

――

 

 

 これは、非常事態です。

 

 

――

 


 ――古泉です。どうでしたか?
「生徒会長様を、深夜に欠片の遠慮もなく電話一つで使いまわしてくださってどうもありがとうよ」
 感情を少しも隠そうとしない彼の言葉は、今の僕にはありがたかった。
 すみません。このお礼は、
「時間が惜しいから手短に話す。団長さんがいじってくれたデータは明日印刷に回す予定だった北高広報誌の
3面の記事と画像だ。バックアップからデータは復元できてるが内容を聞きたいか?」
 ええ、是非お願いします。
「旧文芸部の活動を再開したお前のお仲間が居るだろう、あの寡黙な女生徒だ。記事の内容は町立図書館から
のお礼の手紙の掲載、後は図書館から送られてきた画像を貼ってあった。その画像に大量の子供と例の女生徒、
それともう1人暇そうな顔をした男子生徒が写ってるぞ。こんな記事の何が気に入らなかったんだろうな」
 それだけわかれば十分です。それで、記事の方なんですが
「記事は差し替え、町立図書館にはこちらからもお礼の手紙を送りこの話を終わらせる。それでいいか?」
 申し分ありません。
「言葉はいらん、形で示せ。じゃあな」


「そ、そんな事があったんですか?」
 携帯電話の向こうから聞こえる驚きの声に、僕は聞こえない様に溜息をつく。
 未来人である貴女なら、何か知っていると思ったんですが……どうやら何も気づいていなかったようですね。
 とにかく、今は早急に対策を取らないといけません。
 涼宮さんの話が本当であれば、彼女は無意識の間に何度と無く時間遡行を行っているか、周囲の情報を改竄して
いると思われます。彼女の話によれば、そのきっかけは彼、そして長門さんです。2人について、何か変わった事は
ありませんでしたか?
「えっと。これって関係あるのかな」
 何でも構いません、言ってみてください。
「今日は、キョン君と2人で長門さんのお家に行って、夕食をご一緒してきました」
 ……そうですか。
「それで、長門さんは何だか普通の人みたいにカレーコロッケを食べてて、キョン君はカニクリームコロッケを食べて
ました。あたしはジャガイモのコロッケを食べて。あ、もちろんコロッケだけじゃなくてご飯とお味噌汁も食べました。
あとは……えっと、みんなで色んな事をお話しして、週末には買い物に行こうねって約束したり……す、すみません。
あたし、そんな事しか覚えてなくって」
 いえ、いいんですよ? ともかく、彼女は自分の力を誤解した形とはいえ認識しつつあると言えます。そちらでも、
対策の方をお願いできますか?
 この場合の「そちら」とは、もちろん未来の勢力に対しての事を言っているつもりです。
「わかりました。何かあったらすぐに連絡します」
 お願いします、それでは。
「あ! あの」
 なんですか?
「その、古泉君は……涼宮さんから聞いた今の話を、私に話してもよかったんですか?」
 長門さんが力を失った今、僕や機関の人間だけでできる事は限られますのでこの際、派閥といった事は
「そうじゃなくて、その。…………ごめんなさい、なんでもないです」
 暫くの沈黙の後に、彼女は通話を終了させた。
 彼女はいったい何を言いたかったのだろう?
 物言わぬ携帯電話は、その答えを教えてはくれそうになかった。

 


 以上で報告は終わりです。
 僕の報告を聞き終えても、森さんは何も言わなかった。
 盗聴されないよう機関の管理下にある僕の部屋まで話を聞きに来た彼女は、話の間も今も無言のままで僕を見つめている。
「……」
 世界の再構築が行われるのでは? と、機関が恐慌状態に陥った時ですら何の変化もなかった彼女だが……今の彼女が僕
を見る目には、何かの感情が込められている様に見える。
 好意的ではない、何らかの感情が。
「古泉」
 はい。
 僕を見る森さんの目に色んな感情が浮かんでは消えていき……最後に残ったのは、いつもの無感情だった。
「……いや、なんでもない。機関には私から報告しておく、状況からするとお前には目標から私的な連絡がいつきてもおか
しくない。しばらくの間、神人討伐からは外れるように手配しておく。連絡があるまでは、閉鎖空間が発生しても気にしな
くていい」
 わかりました。
 こんな事を言ってはなんですが、神人を相手にしている時のほうがまだ気が楽ですね。言えませんけど。 
 話を終えて、部屋から出て行こうとした森さんが足を止めて振り向く
「それから」
 はい。
 僕の顔を見て、視線をそらしてから
「買いかぶりだったようだ」
 そう言い残し、僕の返事を待たずに彼女は部屋を出て行った。
 

 

 空を覆っていた厚い雲は、深夜になって大雨を降らせ始めた。
 吹き荒ぶ風の音と窓を叩く雨の音は眠気を邪魔するには十分で、ベットの中で眠れない時間が過ぎていく。
『その、古泉君は……涼宮さんから聞いた今の話を、私に話してもよかったんですか?』
 話すしかなかった。
 この状況で、僕だけが保有していていい情報ではないのだから。
『買いかぶりだったようだ』
 何がですか?
 森さんはいったい僕に何を望んでいたんですか?
 2人の女性の声が、風の音に混ざって頭に響く。
 涼宮さんが自分の力を自覚してしまう事になれば、それは世界滅亡の危機とも言える。だからこそ、僕達は人知れず神人
と戦い続けてきた。
 彼女には、力の存在に気づく事無く何事も無い人生を送ってもらう事が機関からの指示だ。僕の行動は、その考えに逆ら
う物とは思えない。
 迷う事はない、何も間違ってはいないのだから。
 そう自分に言い聞かせようとしても
『……ありがとう』
 僕の胸にもたれて呟いた、涼宮さんの一言。
 その一言が、僕の中で全てだったはずの神人との戦いや世界の命運をも掻き消してしまった。

 


 否定しなくてはいけない――それを認めれば僕はもう今までの僕でいられなくなる。
 認めてはいけない――個人などという物はこの力に気づいて機関に所属した時に捨てたんだ。
 望んではいけない――僕は「鍵」ではないのだから。
 全てを捨てなければ神人とは戦えない、戦えない僕には……何の価値もない。
 眠れずに目を開けると、闇に慣れた目に薄暗い室内が映る。
 ……ふ、ふふふ……ははははっははっは!
 突然、乾いた笑い声が暗い部屋に響きだす。
 それが自分の声だと分かっても、僕は笑う事を止められなかった。
 自分が無価値になっても、信頼を裏切る事になってもそれがなんだ! SOS団につれてこられてからの自分を思い出せ
ばすぐに分かる。機関? 任務? 指令? それがなんだ。そんな理由で僕は涼宮さんの傍に居んじゃない!
 僕自身が、そこに居たかっただけなんだ。
『即戦力の転校生! その名も――』
 涼宮さんの近くに居たい。
『ナイスよ古泉君!」
 涼宮さんの声が聞きたい。
『どお? 古泉君、このアイディア』
 涼宮さんの笑顔が見たい。それが……僕へ向けられたものではなくても。

 


 季節外れの台風が訪れたその夜、僕はずっと隠してきた自分を受け入れた。

 

 第8話 「台風」 ~終わり~

 

 第9話 ハルヒの選択へ続く

 

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