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 図書館より

 

 

 朝比奈さんは、ハルヒの一番凄いところってどこだと思います?
 たまにはのんびりと一人で昼食を――そう思って部室にやってきた俺は、同じような理由で部室に きていた朝比奈
さんに何となくそう聞いてみた。
 まあ世間話って奴さ、特に意味があっての発言じゃない。
「一番凄い所……ですか?」
 ええ。
 対面に座る朝比奈さんは箸を止め、視線を宙に彷徨わせながら思考するように固まっている。
 そんな見ていて心が安らいでしまう様なお姿をしばらく楽しませて貰った後、
「行動力、かな」
 朝比奈さんはそう結論付けた。
 なるほど、確かにあいつの行動力は凄い。
 今更語るまでもない様なあれこれが脳内を駆け巡り、その節々で溜息をついていた自分を思い出して 思わずため
息が出る。
 何故俺がた溜息をついたのか想像できたのだろう、そんな俺を見てくすくすと朝比奈さんは微笑んでいた。
「キョン君はどう思ってるんですか?」
 俺ですか? そうですね……。
 肉体的能力、まあ確かにこれは凄いな。
 学習能力、これに関しては常識以外はたいしたもんだろう。
 社交性? マンションの管理人さんとか第三者には礼儀正しくできるんだから俺より社交性があるよな。
 さて、自分で聞いておいて俺はその答えが思いつかない事に驚いた。
 俺が長考に入った事に気づいたのだろう、朝比奈さんはまたちんまいお弁当の切り崩しに取り掛かる。
 別にここで朝比奈さんに特別な答えを言う必要性はない、でも何故か適当な答えを言って誤魔化すのは 何か違う
気がするんだよな。
 チーズ入りのオムレツを箸で二つに分けながら、俺は頭に浮かんだ言葉をそのまま呟いた。
 意志の力、って奴ですかね。
「意志の力……ですか」
 ああ、口に出してみてやっとわかったぜ。これが俺の本音なんだ。
 適当に聞き流してくださいね? そう前置きして、俺は思いつくままに口を動かした。
 これを言ってしまうと俺はハルヒの事を馬鹿にできなくなるんですが……まあ、禁則事項って事でお願い しますね? 
 実は俺、子供の頃から結構最近まで宇宙人や未来人、超能力者がどこかに居てくれないかなって思ってたんですよ。  

 でもまあ普通に考えるとそんなの居る訳がない、でも少しは居て欲しい。
 ……なんて、そんな程度の考えでしたけどね。
 でも、あいつの場合はその思いは本気だったって所。それが凄いと思うんです。
 子供の頃からって簡単に言えますけど、これってとんでもない時間ですよね。例えば、俺が欲しい物が あったとして、
それを1週間欲しいと思い続けろ! って言われたらまず無理です。
 思い続けたらそれをプレゼントしてもらえるって言われても無理だと思います――まあ、朝比奈さんの心が頂けるって
事なら可能性は十分にありますが――それ程、自分の思いを持ち続けるのは難しい事だと思うんですよ。
 でもあいつはずっと、俺と朝比奈さんと出会ったあの七夕の日からずっと。世界が面白くなる日を信じて 努力してきた。 

 ……まあ、その努力がいい事かどうかは別としてですがその意志の強さだけは認めざるを得ない、 そんな感じです。
 ん、喋り過ぎたか。朝比奈さんはいつの間にか箸を止めていて、俺の顔をじっと見ている。
 その顔は……なんだろう、笑顔の様で寂しい様な……。
「涼宮さんが羨ましいな」
 なんですか、それ。
「だって、本当に理解してくれている人が居るんだもん」
 ……それって、まさか俺の事ですか? いつもあいつの行動に頭を抱えてる俺があいつの理解者だとは正直思えない
んですが。
 空になった弁当箱をしまいながら朝比奈さんは微笑む。今度は素直な笑みで。
「内緒です。……キョン君、一つ約束してください。これから何があっても、涼宮さんの事を信じるって」
 何ですか、急に。
 そう誤魔化そうとした俺だが、朝比奈さんは真剣な眼差しで俺の事を見つめている。
 えっと、それも規定事項って奴なんですか?
「いえ、これは私からのお願いです」
 なるほど、貴女のお願いなら断る理由なんてありませんよ。
 信じますよ、あいつの事。何があってもって訳にはいかないかもしれませんが、可能な限りで。
「誓ってもらえますか?」
 誓いましょう。
 安請け合いする俺だが、朝比奈さんの視線は真剣なままだ。これはそれ程重要な事なんだろうか?
 それと、朝比奈さんの事も信じてますよ。それこそ何があっても、こっちは頼まれなくても誓います。
「ええ?!」
 慌てふためく朝比奈さんをのんびりと眺めさせてもらっていると
 バアン!
 勢いよく開く部室の扉、思わず固まる部室の空気。
 恐る恐る顔を向けた先にあったのは
「キョン、団長である私を信じるってのは団員として当然の事だけど……あたしは頼まれて、で。みくるちゃんは 頼まれる
までもなく信じるってのはどーゆーこと!」
 やっぱりお前か。いやハルヒ、お前で良かった。そんな扉の開け方をしたのがもしも長門だったらよけい怖かったからな。
 弁当を片手に固まっているハルヒは怒りで細かく震えている。
「そんな適当な事を言って誤魔化されるとでも思ってんの? あんたの忠誠心って奴を叩き直してやるわ!」
 座っていた俺の首に絡まるハルヒの腕、っておいハルヒ、まじで入ってる! チョークだチョーク!
 慌てて腕を叩く俺を無視して、ハルヒはぎりぎりと首を締めあげてくる。
 チョークスリーパが忠誠心を上げる効果があるなんて初耳だな……って意識が遠のいてる場合じゃない、あ、朝比奈さん

助けてください!
 声が出せないので視線で訴える俺に、朝比奈さんは小さく「約束ですよ?」と呟いた……ってそれはともかく今は助けて
下さいよ?

 


 「誓い」 終わり

 

 「就職活動」へ続く

 

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最終更新:2008年10月08日 19:01