さて紹介しよう。
新・長門有希である。
どこら辺が新しいのかは俺にも良くわからない。俺の隣にいる古泉も良くわかっていないようだ。
時に長門よ、自分ではどこら辺が変わったと思う?
「・・・脳の各所でいくつかの変化が発生している。それ以外は不明。ただ・・・」
「ただ?」
「性格、趣向等が確実に変化している可能性がある。残念ながら自分では観測できない」
つまり、お前が朝比奈さんみたいな愛らしくちょっとおっちょこちょいな未来人のようになったり、ハルヒみたいな迷惑極まりない
核融合ロケット女のようになったりしてる、ってことか?
「それはない」
長門はやんわりと否定し
「しかしながら、二人が持っている性格が確実に私に影響を及ぼしている」
いつにもましておしゃべりな長門はさらに言葉を紡ぎ
「これはある種の『自立進化』ともいえる。情報統合思念体にとってはある意味喜ばしきこと。
私にとって喜ばしきものかはまだ不明。これから精査が必要だと思う。まぁ、たいした問題では無いと思うけど」
そうかい。長門がもうちょっと外向的な性格になるんなら、それはそれで良いかも知れないな。
「そうかもしれない。それより」
なんだ。
「おなかの中身までは分離時持っていくことが出来なかった。かなりおなかが空いた。ちょっと食堂に行ってパン買ってくる」
来る?と言って長門は俺と古泉を見たが、ついてこないと判断したのかそそくさとドアを開けて行ってしまった。
 
 
取り残された俺と古泉、頭をねじ切らんばかりの勢いで捻る。
「長門の言動が変わった?」
「そのようです。まぁ、もうちょっと観察しないとなんともいえませんが。それより・・・」
そうだ、みるひ(仮)はどうなったんだ・・・っておい。
何だこいつは。
「長門さんが抜けたことで、涼宮さんと朝比奈さんが残りました。このみるひ(仮)さんは二人の融合体と見るべきでしょう」
そりゃそうだよな。
「にしてもまぁ・・・二人が融合したらこんな風になるんだな」
先ほど怪しい光を放ちながらモゴモゴ蠢く物体Xと化していたみるひ(仮)だが、現在は落ち着いて普通の人間もとい超絶美少女に変化していた。
黄色いカチューシャをつけたセミロングな栗色の髪に、愛らしい小さな口。そして巨乳。
ああ神様、どうか彼女には朝比奈さん譲りの優しく、ちょっとおっちょこちょいな性格をお与え下さい――!
「ほれはにゃいとおもふ」

「長門さん、お帰りなさい」
「たふぁいま」
部室の戸口を見ると、長門が帰ってきていた。早いな。
アンパンを口にくわえ、ただの茶色い塊と化している袋詰めにされた大量のパンを抱えながら。
「どうしたんだそれ」
長門は食っていたあんぱんを小さい口に一気に詰め込み、ろくに噛まずに飲み込んで―――って!
パンをのどに詰まらせて悶絶していた。
あの長門が、である。
「おい、水だ水!」
あわてて古泉はペットボトルの水を長門に投げてよこす。
見事に空中キャッチし、急いでふたを開けて苦しそうにグビグビと飲む姿は全然長門らしくない。
つーか、長門におっちょこちょい属性は無かったはずだ。
「・・・っはぁ・・・。古泉君、ありがとう。このパン?購買が閉店時間で見切りセールをやってたから大量に買ってきた」
食えんのか。見た感じ2、3キロありそうなんだが。
「私にとってこれくらいは朝飯前」
「ちゃんと栄養のバランス考えろよ」
「わかってる。心配ない。それより」
何だ。自分に変化が起こってるのやっと判ったか?
「いや。普通どおりだけど。そうじゃなく、キョン。あなたがさっき彼女に対して言ってたこと」
はて。優しくちょっとおっちょこちょいな性格でありますように、っていう祈りがどうかしたか?
「二人は完全に融合している。そんな都合のいい性格になるわけが無い」
ふん、とでも言いたげな表情の長門は
「主体涼宮ハルヒちょっと朝比奈みくる、な性格になるかと思われる。不満?」
さらにぶー、と一瞬口を膨らませ
「それに、さっきからあなたと古泉君の様子がおかしい。なんで半笑い?」
半笑いどころで済んでいたか。てっきり完全なるニヤケ顔になってるかと思ってたんだが。
てか、お前、自分がめちゃくちゃ変化してるのに気がついて無い?
「私はいたって普通のつもり」
「そうですか。これはこれは・・・以前の長門さんをビデオに録っておくべきでしたね」
「同感だ」
怪訝な顔をしながら首をかしげる長門。
「・・・すまない。以前の私はどんな風だったか、具体的に教えて」

 

 

俺と古泉はあらん限りの「以前の長門像」を叩き込んだ。
無口で内向的で、いつも本ばかり読んでる宇宙人。
だけど必ず困ったときは助けてくれる宇宙人。
迷惑ばかりかけてた俺とハルヒと朝比奈さんと古泉。
しかしながら、うんうんとか言いながらも、今にもはてなマークが頭上に飛び出しそうな顔となっている長門。
「どうやらお前が覚えてる記憶と、俺たちが覚えてる記憶とでは大分違うようだな」
「大まかなアウトラインは同じの様だけれど」
「・・・ともかく、感謝してる」
「たしかに・・・私はあなたたちを助けてきた」
長門は言葉を紡ぎだした。
「だけど、殆どが私のミスで起こるか、最初から不可避のものだった。だから、お礼なんていい。でも・・・」
長門は頬を赤らめ、ばつが悪そうに頭をかき
「こう面と向かって言われると、ちょっと照れちゃうな・・・」

俺はお前に惚れたぞおおおおおおおおおっ!!!長門おおおおおおぉぉぉ!!!!
とは口が裂けてもいえない俺。
「しかし、そんなキャラだったのか私は」
「ええ。覚えていませんか?」
「恐らく私の記憶中枢、・・・もしくは、私を定義付けている基底現実内の情報まで書き換わっているのかもしれない。確認をとる。少し待って」
長門はかくん、と首をもたげて宇宙的な何かと交信を開始した・・・かと思ったら、すぐに元に戻り、部室のドアを開けた。
「こんにちは」
喜緑さん、お久しぶりです。
「お久しぶりです。長門さんからの呼び出しで来たんですが・・・?」
「私の様子、何処かおかしいか精査してもらうために呼び出した。何処か変?」
 
明らかに困惑している喜緑さん。
何やら小声で俺に
「あの・・・長門さん・・・ですよね?」
と怪訝そうな顔で聞いてきたが、多分そうですとしか答えるほか無く、さらに
「おかしなところは無い。そんなに私が不満?」
と、ぶーと頬を膨らませる長門を見て抱腹絶倒の装いを呈し始め、ついに
「これは・・・っ・・・流石に・・・ないです。ないですぅ!ないですぅぅぅ!!」
と笑い転げ回りだした喜緑さん。大丈夫か?って俺も大爆笑しかけてるわけだけどさ。
「そんなに変?」
ああ。変だ。俺は萌えまくりで嬉しいがね。
「僕の恋敵が増えたようですね」
黙ってろガチホモ。
「そう。そこまで変だとキョンが言うのであれば、情報統合思念体内にある私の構成情報を上書き初期化するけれど」
「無駄無駄無駄ァですぅ・・・!!ひぇっひぇっっひっく」
横隔膜痙攣を起こしシャックリまで出すほど笑いまくる喜緑さんは
「・・・っ!既に長門さんのバックアップを含めた構成情報はあっ、、完全に今のっ長門さんのっ・・・ひぇっ!データを元としたものと置き換わってるんですぅ」
どういうことですか。
・・・と無駄なようだ。喜緑さんは笑いすぎて呼吸もままならなくなってる。そのうち笑い死ぬんじゃないか?
この神様的宇宙人に死というものがあるのかは不明だが。
「恐らくです」
出たな解説員古泉。
「長門さんははじめからそういうキャラクターであった、という風にこの時間平面上の情報が書き換えられているのでしょう」
判らんぞ、もっと平たく言え。
「涼門みるきさんですが、彼女もまた同じように時間平面上の情報・・・主に来歴ですが・・・が完全に書き換わっていたはずです。涼宮さん、朝比奈さん、そして以前の長門さんとは似ても似つかないような来歴に」
そういや雨乞いしたり、ハゲの頭にオリーブオイルを塗りたくったなんて話は未だかつて聞いたことが無かったな。
「この長門さんにも同じことが言えます」
・・・そうだな。よく考えればそうだ。
「だがな、喜緑さんはともかくなぜ俺とお前は元のハルヒも朝比奈さんも、長門のことも知っているんだ。書き換わるなら俺たちが覚えてるようなことも全部書き換わらないとおかしいだろ」
「それもそうですね。ですがあなたは既に同じようなことを経験している筈です」
とスマイル青年。
「・・・あれか」
長門が世界を作り変えちまい、俺以外の奴らが皆それぞれ別の人生を植え付けられて生活することになっちまった、あの12月18日。
「長門さんに必要とされていたから、貴方だけ時間平面の改変の影響を殆ど受けなかった。今回も、貴方がキーとして必要とされたから、時間平面の改定の影響を殆ど受けなかった」
「おい、今回に限ってはお前もだろう」
「たぶんそれはですね」
古泉は髪をガッと大げさに掻き揚げるしぐさをして
「貴方と僕は運命共同体だからですよっ!」
そうほざいた。
・・・そろそろ肉塊に変えとくべきだろうか、なあ長門。

長門?
「私がキョンを必要として・・・確かにそうだけれど・・・必要・・・私にとって・・・キョン・・・キョン・・・」
頬どころか耳まで赤くなってやがるぞ、長門。
ああもう萌えるなぁ。

そうそう、長門以外にも別の萌えるべき存在が居たんだっけか。
俺の背後に。
どうやら覚醒モードに入ったようで、ふるふると体を震わせ静かなる唸りを上げていたかと思ったら
某巨神兵よろしく不気味なほどゆっくりと目を見開いた。
「ちょっとうるさいんですけど・・・あれ、ってここ何処?なんであたしここにいるんですかぁ?お腹が空きましたぁ、キョン」

やれやれ、また良く判らんのが出来ちまったようだ。


  

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