そういえば、国木田と谷口の存在を完全に忘れていた。
ひとまずこのみるきなる人物の事を聴いておく事にする。
二時間目の間は後ろにいるみるきを警戒して、俺は特にアクションを起こさず(寝そうになって精神棒ならぬ精神本で後頭部に打撃を食らって死にそうになったが)二時間目の終わりに聴こうとしたが、何故か俺の後頭部から視線は離れてくれないし出て行くと俺をストーキン グする仕草を見せるので、どうにかみるきが何処かに行くタイミングを見計らっていたわけだが、ようやく昼休み、みるきはフラフラっと何処かへ行ってくれた。

よし、弁当食いつつ情報収集だ。
「なあ。お前ら」
弁当を何故か楽しそうにかき回す谷口と、反対にごく普通に弁当を食らう国木田に
「涼門みるきさんについての情報を、すべて教えてくれ」
と言ってみた。例によって気の毒そうな顔になる二人だったが、別に答えない義理は無いようで
「彼女は・・・まぁおかしな人だ」
やばいのか?
「いや、お前のヤバイ基準がどの程度かは知らんが、そんなにヤバイ奴でもないとは思う」
どういうことだよ。
「まあ無意味なことは良くしてたぜ。友達の頭にジュースこぼしたら顔ごと舐めてジュースを除去しただとか、
中学校のズラ校長のズラを外してオリーブオイル染み込ませた布巾で拭いて殴られたり、雨降らなくてあわや干ばつって時期に、
校庭のど真ん中に立ってぼーっと空を見上げてなにやら呪文を唱えてたり」
「雨は降ったのか?」
「ヤツが立ち始めてから1時間くらいたったころ、突然入道雲が発生して大雨を降らせたとさ」
巫女さんの才能もあるようだな。

 

「ただ、そんなにヤバい奴じゃない。むしろ役に立つ奴だ。中学時代、クラスが荒れてどうも纏まらなかった時期に、不良どもに蹴られ殴 られしながらクラスを建て直した上に、不良グループを全員公正させちまったんだからな。・・・ってか、この話以前お前にしたような気がするが」
「気にするな。俺は若年性痴呆なんだ」
「お気の毒にな。そりゃ前から後頭部を鈍器で殴られまくってりゃそうなるよな」
今日に限らず結構殴られてたんだな。
「お前、マジで脳外科に行ったほうが良いかもしれないぞ」
「そうだよキョン。動脈瘤とかなら、発見さえ早ければ十分完治は可能だからね。大学病院なら知り合いが居るし、話通しておこうか?」
「大丈夫だ。冗談だよ」
「それよりキョン」
谷口はなにやらニヤつきながら俺のほうに身を乗り出し
「お前、涼門さんに気でもあんのかぁ?」
そりゃな。俺の萌え三大要素がすべてミックスされてるようなもんだからな、とは口が裂けても言えない。
「もし気があるなら・・・あきらめろ。他にもお前が好きになれそうな女性は一杯いる。悪いことは言わん。手を引いてくれ!」
どうした谷口!
「俺は・・・俺はどうやら彼女を好いてしまったようなのだよ、キョン君」
トチ狂ったか谷口。
「あのなんともいえない神々しいオーラ、もはや神性を感じざるをえないその知識量、大きな胸・・・ああ、俺はあの人の手にかかって死ぬなら、本望だ」
日本語おかしいぞ谷口。それに、その台詞はどこぞのスパイが言うような台詞であって、少なくともお前のような学なし能無し女っ気無しの男が言っていい台詞じゃない。
「聞き捨てならんぞその言葉」
アヘアヘ、と擬音がついてしまいそうだった弛緩した顔から一変、やたら眼光を利かした鋭い表情に変わり・・・きれてはいないようで、
相変わらず口が弛緩している。お前、その顔は正直ヤバイ。
「す・・・すまん、俺としたことが」
ヨダレを拭け。
そんな奇妙な問答をしているうちに、みるきはふらふらと教室に戻って来、その数分後昼休み終了のチャイムが校内に鳴り響いた。


さて、あっという間に放課後だ。
まあ色々と後ろのみるきと話をしてやろうかと思っていたんだが、何故か昼過ぎからはだんまりを決め込むし、第一何故か抜き打ちの模試とかいう奴が始まってしまったので、満足に会話すらする暇もなく、心的余裕も無かった。
ハルヒ並みの気まぐれ女のようだな。ほかにあの二人が融合してんだから、ちっとはましな精神構造になってるかと思ってたんだが・・・
ひとまず放課後、みるきの後を付けてみることにした俺であった。

「やぁ。僕もご一緒させて戴いてよろしいですか?」
俺の背後に怪しい奴。
古泉以外の誰でもない。
「何か見つけてくれるのであれば、ついて来てもいいぞ」
「そのつもりです」
ガチホモ疑惑ありの微笑み青年は、ご一緒させていただくとか言いながら先陣切ってみるきの後を追い始めやがった。
おい待てよ。
「正直、悠長に待ってる時間はありません」
どういうことだ?古泉は若干スピードを落とし俺と並び、小声で
「この時間平面上の情報が改変されかけているようです」
おいおい、お前も未来人的能力を持っちまったのか?どうしてそんなことが判る。
「先刻、他のTFEI端末・・・もとい喜緑さんからのコンタクトを受けて判明しました」
「このままだとどうなるんだ?」
「さあ、予測もつきません」
微笑少年の顔が歪む。
「最低でも長門さんを分離させないと危険です。精神構造は涼宮さんのままなのですから、長門さんの能力を駆使して何かをやらかす前に、どうにかして止めねばなりません」
「止めるってどうやって」
「だから、あなたは鍵なんです。なんでも協力します。なんなら僕のア・・・いえ、何したって構いません。とにかく早急に”鍵穴”を見つけ出してください」
お前、アレと鍵穴をかけようとしたな。
まあいい。みるきの後をつけるのが先だ。
 
 
 
さて、しばらくみるきの追跡を続けるわけだが、案の定部室棟への最短ルートをとるように歩き、部室棟の、ある一室へと消えた。
ある一室。
文芸部部室である。
いや、文芸部部室じゃないな。
SOS団部室だ。ちゃんとドアに張られてる紙にもそう書かれている。
ま、明らかにハルヒの字じゃなかったがな。
長門の字に近い、綺麗な明朝体だ。

「さあ、入りましょう。そんな虎穴に入る狩人みたいな顔しなくても大丈夫ですよ」
「どうしてそんなにお前は平静を保っていられるんだ」
「仮にも僕達はSOS団員なんですから」
「それはこの、三人が融合しちまった世界にも継承されているのか?」
「ええ。恐らく2人意外の誰かと涼宮さんが融合していたらその限りではなかったようですが」
大丈夫です。SOS団副団長として保障しますと言い残し、先に扉を開ける古泉副団長であったが、なぜか一瞬顔を顰めたかと思うと
すぐに扉を閉めてしまった。
「どうした?入れよ」
「恐らくあなたがまず入るべきです、早く!」
「んだよ」
別にドア開けて入るくらいのカロリー消費には目を瞑れる。
「判った、先に入るよ」
ギィ、と扉を開けてそろりと中に入ると
長門がいた。
先日消えたはずの長門が。
「手を貸して」
顔だけ長門なグニョグニョは言った。
顔こそ長門だが、首から下は先ほど見たみるきのソレである。おまけにまるで擬態中の昆虫か遺伝子改良されたアメーバか何かのように、目まぐるしく首から下の色、形状が変化していく。
こいつは何かUMAの細胞でも移植した新人類か何かだろうか。
「早く、手を貸して。私の頭を掴んで手前に引っ張って。思い切り」
 
 
声は確実に長門のソレだ――ええい、どうとでもなりやがれ!
「古泉、みるきの肩掴んで後ろから引っ張れ!俺は正面から頭掴んで引っ張る!」
「わかりました!」
俺はまるで両面テープに引っ付いた保護カバーを引き剥がすかのごとく、長門の髪を掴んで思い切りを手前に引っ張った。
すまねえ、ハゲたら俺の所為だ。

すっぽん

そういう擬音が聞こえてもおかしくない感触を残して、長門のようなものは目まぐるしく変化を続けていたみるきの体から引き離された。
古泉は勢い余って持っていたみるきの体ごと後頭部からダイブする。
「あいたたた・・・」
確かにヤバイダイブの仕方だったが、そんなに痛そうには見えんぞ、古泉。
ははっ、と自嘲めいた笑いを漏らすと、よっこらせと一緒に倒れたみるきの体を引き起こし、壁にもたれかけさせた。
分離?いや脱皮という方が正しいかもしれない。だが、脱皮と違って抜け殻にあたるみるき・・・いや長門が抜けたから”みるひ(仮)”としておこう・・・の体は色を変え、光を放ち、ついでに形まで変化させまくっていたし、見た感じ長門が新型長門へと変化を遂げたわけでもないようだ。
しばらく何故か顔を手でぺたぺた触っていた長門だったが、気が済んだのか
ふぅ、と珍しく安堵にも似た溜息をつき
「ありがとう」
といって、俺と古泉を特に何の感慨もなさそうに眺めた。
ま、少々申し訳なさそうな色を液体窒素的な冷たさの瞳に浮かべてはいるが。
いやいや、例には及ばんさ。
 
しかしまぁ、こうもあっさりと長門が分離してくれるとは。

「現在新規情報の整理を実行中・・・完了」
長門は機械的な言葉をつぶやき、
「非常に苦労した。2時間と25分をかけて”私”の存在確率を上げ、その後融合しかけていた私の意識と情報野を強制的に分離、その後物理的分離を実行した」
未だ絶賛変化中のみるひ(仮)をちょっと気味悪そうに眺めながら古泉が
「強制的に、とはどういう風にです?」
「癒着したデータを構成するセルの一部をパージ、このインターフェース内に存在するバックアップデータの一部を利用して擬似再生した」
という事は、昨日の消滅前の長門ではないということか?
「結果的にはそう。一部の情報を失っていたりもするし、涼宮ハルヒおよび朝比奈みくるに起因する情報の一部を持っていたりもする。失った情報は殆ど再生されたため、問題ない。しかしながら私の情報因子が二人に深く侵食していたため、パージし情報を擬似再生する際他の二人の情報も顕著に再生された」
「どういうことだ?」
「私は、ほか二人を構成する情報の一部を持った」
なにやら長門は俺が見たことの無いほどのエネルギーを眼孔に湛えて


「新・長門有希ということ」


力を込めて言い放った。
 
 
  

|