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「何であたしはここにいるんですかぁぁぁぁぁああ?キョン、説明して下さいぃぃぃぃ」

何だこの話し方は。

おっと危ない。みるひ(仮)は脱ぎかけた上履きを放り投げてきやがった。

お前は入園者に向かって糞投げるゴリラか。

「そんな下等なものじゃないですぅ。キョン、今すぐ謝りなさいぃぃ!!」

なんだ?ゴリラにか?

「あたしにですぅ!!」

酔った朝比奈さんみたいな話し方だが、中身はハルヒのそれのようだ。

「謝らないならぁ!!」

かなりの健脚の持ち主であった彼女は、瞬時に俺の後ろに回りこんでいきなり羽交い絞めにすると、そのまま力任せに持ち上げで後ろに・・・って!!





「大丈夫ですか?」

いや、あんまり大丈夫じゃないな、古泉。

一瞬記憶が飛びやがった。まあいい。

どうやら俺はプロレス教科書に載せれちまうほど見事なジャーマンスープレックスを食らったらしい。

「大丈夫。貴方へのダメージは限りなくゼロに近い」

そりゃよかった。頭はまだぐぁんぐぁんいってるがな。

壁にもたれかかって頭痛を癒そうとするも、いやはや、これは常軌を逸している。

痛いを通り越して、気持ち悪くなっていた俺。

「本当に大丈夫なのか?俺は」

「大丈夫。心配ない。それに、なにかあったら私が何とかする」

ありがたいね、それは。俺は医者要らずになりそうだな。

「それはそうと、あいつは何処いった?」

みるひ(仮)が何処にも居ない。

「何やらわめき散らしながら何処かへ行った」

おいおい、それはマジか。

「いつものハルヒより始末に終えんな。で、どうするんだ?」

「動けるなら、みるひ(仮)さんを追いましょう。長門さん、何処に行ったか判ります?」

「待って。・・・音楽室付近。少々急いだ方がいいかもしれない」

急いだ方がいいとはどういうことだ?

「ある種の閉鎖空間を自身から半径1m以内に発生させながら・・・いや、『閉鎖空間を纏っている』って言った方がいいかな。とにかく、なにかをまとわりつけながら音楽室のあたりをうろうろしている。しかし、閉鎖空間を・・・?」

「長門さん、早く行きましょう。考えるのは後回しです」

と、一先ず頭より体を動かして、みるひ(仮)のもとに直行することにしたようだ。

「早く、キョン」

「判った」

って、そこで笑い死にかけてる喜緑さんはどうするんだ。

・・・いや。微動だにしてない。死んでるのか?

「大丈夫。それより今は」

大丈夫なようにも見えないが、俺は初めて見た長門の口を一文字に結んだ真剣な表情に動かされるように、音楽室前に直行するのであった・・・。






「ひいぃぃぃいいん!!なんなんですかぁ私はぁぁぁ、、これはぁ。キョンん~!死刑、いや公開処刑ですぅ!」

俺が聞きたいね。何なんだあんたは。そもそも何で俺が公開処刑されなきゃならない。

「どうしましょうね?」

長門、麻酔銃でも持ってないか?

「・・・これなら」

長門はおもむろにスカートをたくし上げ・・・パンツは白か・・・ああなんでもない、なにやら太ももに取り付けられたレッグホルスターと思しきケースから何かを取り出した。

・・・拳銃だ。

「・・・PPK

見りゃ判る。それ以前にお前はなんでこんなものを持ってるんだ。

「・・・趣味」

「銃刀法違反だぞ」

「・・・私は宇宙人。国内の法律は適用されない」

いや宇宙人だろうが地底人だろうが、国内に入ったら国内法の影響下に置かれるはずなんだが。

「・・・私は動く治外法権」

・・・外交官の車か何かか、お前は。

「そういう風に考えてもらって差し支えない。それより・・・」

わかったよ、もう。でもそんなもんであいつを撃ったんじゃあいつがどうなるかわからん。

殺したくは無いぜ。

「・・・麻酔銃。おまけに全弾飛ぶぎりぎりくらいの弱装。10mも離れていれば威力0になるくらいの」

それでも頭に当たったらヤバいぜ。

「・・・大丈夫、自信がある」

・・・そうだったな。お前は万能宇宙人だっけ。

「キョンん~~!!!あっ!いたあああ!銃殺ですうううぅぅ!!!」

やれやれ、あまり猶予は無いようだ。まあ、何故かこっちに近寄ってはこなかったが。

「長門、急所を外せよ」

「判っている」

長門は銃をあげ、狙いを定めてパン!と撃つ。

と同時に、なにやら呟いた。

ホーミング弾にでもしたのだろうか・・・ってあれ?

撃ち出された弾がみるひ(仮)の手前で空中に静止していた。

「・・・あ、もしかしたら閉鎖空間は透過できないのかも」

遅い、遅い、遅すぎる。

「・・・ごめん」

かちゃん、とむなしい音を響かせて弾が落ちた。

はあ、どうすりゃいいんだ。

ともかく俺たちがなんとかせにゃならん。今から全員で飛び掛って縛って部室に担いで戻るか?

「閉鎖空間が彼女を取り巻いてるんです。近づけません」

確かに。銃弾すら透過できなかったんだ。俺たちに透過できるとは思えない・・・が、やってみたら案外できちゃった、ってこともあるかもしれん。

「無駄です。なんなら、近づいてみることをお勧めします」

そうかい、じゃあ遠慮なく・・・思い切り走って近づいてみたところ、特に何も無い。その代わり

「ひいー!キョン~!!!公開処刑ですぅ!!覚悟してくださあぁい!!」

と、みるひ(仮)は俺の後ろに一瞬にして回りこみ、再び俺を羽交い絞めにし、思い切り持ち上げ・・・




はぁ、なんで俺は二度も記憶を飛ばさにゃならんのだ。

「大丈夫ですか?」

「大丈夫なわけがあるか」

「申し訳ありません。あなただけあの閉鎖空間内に入れるようです」

本当に申し訳なさそうにぽりぽりと頬を掻く古泉。

「ひとまず起きてください」

ああ、そうする。たんこぶ出来てそうなくらい痛いがな。

「大丈夫。貴方へのダメージは限りなく0に近い。意図的にみるひ(仮)が力を抜いたものと思われる」

「・・・まあ、いい。それよりみるひ(仮)はどうなったんだ?」

さっきまで暴れていたはずなのに、やけに静かだ。

どこかに行きやがったのか?

「みるひ(仮)の周囲の時間を凍結した。あそこに居る」

と長門は指差したさきに、みるひ(仮)が・・・?

「おい、居ないぞ。と言うよりあれは何だ」

みるひ(仮)が居ると指差されたところには、黒く四角い塊があった。

なんだこれ?

「時間を凍結してある。光は内部に進むことが出来ない。だから真っ暗」

ほうほう。俺はなんだかスプラッタ映画の撮影現場を見たような気分になったがまあいい。

で、どうするんだ?

「一旦部室に戻りましょう?」

「賛成。ここだと無用な問題に巻き込まれる可能性がある」

たしかに。

「でも、アレって持っていけるような物なのか?」

俺は宇宙の法則とやらを全く知らないのでわからないが、時間を凍結した空間が持ち運べるようには思えなかった。

「大丈夫。持っていく」

「おいおい、持ち運べるのか?あれ」

長門は悪戯っぽく笑い

「大丈夫。出来ないことは無い。しばらく目を閉じていて。二人とも」

おいおい、朝比奈さんばりの時間移動でもするんじゃないだろうな。

俺は目を瞑る。

「行く。二人とも絶対に目を開けないで。はい、12,3

パァン!!と長門が勢いよく手を叩く。

うん?とは思うが、別に何も変わった気はしなかった。

なんだ手品でもやるつもりか?


「もういい。目を開いて」

「・・・ちょっとしたスペクタクルですね。これは・・・」

・・・あれっ?

音楽室前に居たはずなのに、なんで部室の中に居るんだ。

それもみるひ(仮・黒くない)ごと。

「長門、何をした」

「単なる空間移動。別に目を開いていても移動は出来たんだけど」

「じゃあなんで目を閉じさせた?」

「・・・宇宙人的事情」

長門、お前は冗談まで言うようになったのか。

「前から言ってるけど」

聞いてない、聞いてないぞ。

「僕も初めてです」

「・・・そう。いい。それより・・・」

なんだか気疲れを内包しているような顔で、一緒に転送したなぜか気絶してるみるひ(仮)を指差した。

「今度は貴方が仕事をする番」

「・・・仕事、ってどんな?」

「あなたが鍵。あなたが思うようにすれば良いと思う。それをすることで、みるひ(仮)はひとまず正常になる」

おいおい。そんな事言われたらこの場でレ・・・ゲフンゲフン、この場であんなことやこんなことをしちまうかもしれないぞ?

「あなたは以前、覚醒しかけた涼宮ハルヒを元に戻すために何をした?」

「何を・・・って、もしかして、キ・・・」

「・・・あなたがこれだ!と思う方法を試せばいい。私からはこれ以上何も言えない」

「同感です。これは貴方にしか出来ないものです。さ、早く」




判ったよ。やればいいんだろ、やれば。



改めてみるひ(仮)を見た。

いやぁ、やっぱり可愛い。

あのふたりの超絶美少女をミックスさせたんだ。可愛いに決まっている。

俺としてはハルヒか朝比奈さん、やるんならそれぞれ別々にしたかっただけに、ちょいと複雑ではあるが。

だが、体と心は不可分と昔の誰かさんは言っていたがそれは嘘のようで、俺の複雑な心中をよそに、俺のマイ・サンは超絶美少女みるひ(仮)の前でいきり立ちはじめていた。

古泉、俺の後ろで怪しい動きをするのは止めてくれ。気が散る。



ああ。でも背徳感がある。

俺は―――ああ、どうすりゃいいんだ!?




「早く・・・することをお勧めする。早く」

はい?

「なるべく早く。早く。・・・おねがい」

後ろから長門の声。心なしか震えてるようだった。

わ、わかったよ・・・

というわけで・・・

「いただきます」

「ふんもっふ!」

黙れ古泉。

気絶しているみるひ(仮)を抱きかかえるようにして

俺は生まれてから二度目(推定)のキスをした。




役得だなぁ。俺。




「長門、終わったぞ」

「・・・判った」

後ろを顧みると、気持ち1センチほど猫背になってる長門。ついでに顔色もすぐれないようだが、どうかしたか?っておい、唇の端から血が出てるんですが。

「・・・なんでもない。・・・みるひ(仮)構成情報の改変を知覚。・・・エラー是正終了。・・・まもなく起きる」

「おいおい、また俺が襲われたりしないだろうな」

「・・・さっきのキスは、彼女の中のエラーを是正するために必要だった『鍵』。・・・先ほどの彼女は、暗号鍵が適用されていない暗号文と同じようなものだった。・・・先ほどまで彼女の構成情報の一部は意味消失状態となっていたが現在は是正されている。・・・心配ない」

「長門、大丈夫か?」

「・・・気にしないで」


「ふああぁぁ・・・よく寝た・・・。キョン、おはようございます」

おっと、起きなすった。

「な、なんですかこの銃は。ていうかみなさん、どうかしたんですか?」

「いえ、何でもありませんよ。部室にきたら気持ちよさそうに寝ていらしたのでつい、みんなで見ていたわけです」

と古泉。

「そうですか。・・・しかし、よく寝ましたぁ・・・あれ?有希、元気ありませんね。どうかしました?っていうか口から血が出てます!!」

「いや・・・その・・・なんでもない」

プイ、と長門はそっぽを向く。その仕草がなんとも長門らしくなくて、また不思議に可愛い。

「なんでもないことありません。古泉君、救護箱を持ってきて。ささ、椅子に座って。・・・もしかしてまたキョンがなにかやらかしたのですか?キョン、あなた・・・」

「いやいや、俺は何も・・・」

してない、とは言い切れないな。何をした記憶も無いけどさ。

ただ歯切れの悪い回答をみるひ(仮)に返してしまったのが災いしたようで

「最低です!女の子を殴るなんて!公開処刑です!」

キッとみるひ(仮)は俺をにらみつける。

だから殴ってませんって!

「違う。これは私自身で唇を噛んだ所為」

「大丈夫、キョンなら私が成敗するから、ね?」

「本当に彼は何もしていない。本当に」

「じゃあなんで噛んだりなんかしたの?」

「それは・・・」

「俺の所為だ」

おいおい、口からでまかせにもほどがあるぞ、俺。

「その、なんだ・・・俺があげたハッピーターンを長門が食ってるとき、俺が間違って足かけちまって、けつまづいてこけてその拍子に唇を噛んじまったんだ」

兎に角適当にまくし立てる。長門すまんなんだかよくわからんが、とりあえず同調しておいてくれ。

「本当ですか?有希」

「・・・本当」

「それにしては有希、なんだか不機嫌そうだけれど。それに、足をかけたのはキョンなんでしょう?」

「・・・気のせい。こけたのは私の不注意」

気のせいじゃあるまい。俺にだってわかるぞ。

「ちょっといいですか?」

古泉が真顔で囁きかけてきた

「あなた、長門さんが何故不機嫌なのか、わからないんですか?」

「ああ、わからん」

そういうと古泉は失笑を漏らしやがった。何だこの野郎。

「・・・いまの長門さんは、朝比奈さんと涼宮さんの情報を取り込んで再構築された『新・長門さん』です。お二人の心の中が顕著に反映されていてもおかしくはありません」

「だからなんだって言うんだ」

「・・・この鈍感野郎」

は?

「これ以上は自分で確認してください。僕からはもう何もいえません」

はあ、と古泉は溜息した。

「おい・・・」

「キョン、古泉君!なにコソコソ話してるの!」

おっと、みるひ(仮)がお怒りだ。

「キョン、最低です。有希を怪我させておきながら古泉君とコソコソ話ですか。何考えているんですか、貴方は」

ああ、もうややこしくなって来やがった・・・。

「キョン、有希には謝りましたか?」

「いや・・・まだだ」

というより俺は長門に何もしていない。

「・・・私は貴方に失望しました。最低です、人として最低です」

「・・・違う。彼は私に何もしていない」

「有希、いかに突発的な事故であれ、起こしたのは他ならない彼。謝る義務は発生します」

「・・・その、本当に・・・悪いのは私」

「じゃあなんであんなに不機嫌そうな顔をしていたの?」

「・・・気のせい」

「気のせいじゃありません!」

ビクッ、と長門が揺れた。

ついでに俺もな。

「・・・黙っているのは良くないこと。ほら、打明けて御覧なさい」

「・・・」




俺は長門の顔にこれまでに無い異変を感知した。

なにやら液体が顔から滴り落ち始めたのだ。



・・・おい。

泣くなよ長門。

それって宇宙人にだけついてる、眼球洗浄用の洗剤か何かだよな?

・・・でも普通に考えて、目の洗浄だけで頬を上気させたり、鼻水たらしかけたり、嗚咽まで漏らす必要はあるまい。

流石の古泉もびっくりを通り越してこれは夢か何かじゃないのかと思っているのだろう、必死に頬を抓ったりしている。

「ひぐっ・・・ごめん・・・ごめんなさいっ・・・」

「有希、何も泣くことは無いのよ。キョンが悪いんですから」

「キョンは悪くないっ、、悪いのは私・・・っく」

まったくもう泣き虫なんだから、とみるひ(仮)は優しく長門を抱きしめた。

まるで泣きじゃくる妹を慰む俺の母親のように。

みるひ(仮)からは聖母のようなオーラが出ていた。いや、これは俺の錯覚じゃないだろう。

本当に聖母に見えちまう。なんだこれは。

俺の父性本能・・・いや違うな、男としての何か、が大きく揺さぶられている。確実に。そういう気がする、ではなく、今確実に「揺さぶられている」のだ。

俺は小声で

「古泉、これはどういうことだ」

と囁いたが、古泉も

「僕にわかるわけがありません・・・これは一体・・・」

とただみるひ(仮)を茫然自失の体で見つめるのみであった。

「キョン」

「はははいっ!!?」

素っ頓狂な生返事を返すしか出来なかった俺。

「有希に謝りなさい」

えっ?

「謝りなさい」

謝っておくべきだ。

俺の何かが自身にそう語りかける。

従わなきゃ殺される、とかそういうものじゃない。

拘束力は全然無い。

だが、謝らなければならない。心の底から。強くそう感じた。

そうだな。謝ろう。

そう決心して俺は長門のそばに寄る。

「すまん。その・・・本当に申し訳ない。すまない。ホントなんて謝ったらいいのかわかんないんだけど・・・その」

長門はあふれ出る涙を袖で拭い

「貴方は・・・っ悪くないっ・・・ごめんなさいっ・・・」

「いや、俺があいつに変なこと言った所為だ。ごめんな」

俺は長門の耳元で囁いた。

「大丈夫・・・っ。ふぇっ・・・」

「長門っ・・・!」

長門が俺に抱きつこうとしたのか、単に勢い余っただけなのかはわからんが、浅めに座っていた椅子から滑り落ちそうになった。

なんとか俺は長門を抱き支える。

「大丈夫か?」

「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ、ひうっ、あっ・・・ふぇっ」

通常時の俺なら、自分が今現在かつて無いほどの幸福の只中にいるってことを認識しているだろう。

なんせ、長門が大泣きしながら俺に抱きついてるんだからな。

だが、俺の脳内には全くやましい感情は浮かばない。ただ自分を抱きしめる長門を慰め、謝り、俺からも強く抱き締め返す。

これだけで頭は一杯だった。


どれくらい時間が経過したんだろう。ずっと長門をこのまま抱き締めていたい衝動に駆られた俺だったが、偶然時計が視線に入ったので見てみた。驚くことに、時計は既に午後6時前を指し、長門が俺と抱き合いはじめてから20分以上が経過していることを示していた。

「有希、キョンを許してあげた?」

コクッ、と微かに俺の胸中で頷いた長門。

「そう。じゃあ、万事解決ですね」

ニッコリと笑ったみるひ(仮)は

「キョン、これからは気をつけてくださいね」

といって俺の腕の中にいる涙にぬれた長門の頬をひとなでした。そして

「私は用事があるので先に失礼させていただきます。キョン、有希のこと、よろしく頼みましたよ」

と言い残し、軽いステップを踏みつつ退室していった。



俺と長門、そして古泉が残された。

さて、どうしたことやら。

・・・あれっ?

思考回路が普通・・・に戻ってるな?

「そ・・・そのようです。あの・・・僕も・・・申し訳ありません。これは一体・・・」

先ほどまで心ここにあらず、と言う感じだった古泉だったが、まるで何かの魔法でも解けたかのように動き始め、ついでに考え込み始めた。

俺もまた然り。たしかに先ほどまで、みるひ(仮)に怒られたり長門を抱き締めたりしていたんだが、まるで現実感が感じられなかった。夢でも見てるんじゃないのか、ってほど奇妙な感覚だったが、第一長門はまだ俺の腕の中だし・・・?

あ・・・

キュピーン

と何か良く判らない光の槍が俺の頭を貫いた気がした。

「な・・・長門?」

俺の頭は核融合爆発を起こさんばかりの温度まで加熱していた。

あろうことか、この俺が、あの長門を、この腕で抱き締めているのだ。

「・・・なに」

長門、耳頬問わず全身真っ赤になってるぞ。

多分俺もだが。

「・・・」

「・・・」

「おやおや、僕は蚊帳の外のようですね。まぁ仕方ありません」

うるせえ。

「あ・・・あのな、長門」

「・・・いい。・・・あなたが・・・いいのなら、もう少し・・・このままで・・・」

「判った・・・」






俺、死んでもいいかもしれんな。それぐらい今幸せだ。





まぁ、確かにこのままお持ち帰りして未来永劫抱き締めていたい気もしたが、俺の任務はまだ残っている。

あの二人を切り離さなきゃな。

およそ10分ほど長門を抱き締め続けた俺は

「長門、ありがとな」

そう言って長門を抱き締めていた手を解いた。同時に、長門も手を解く。

なんだかスッキリしたぜ。

「ひとまず、この懸案を何とかしようぜ」

「わかった」

すくっと俺は立ち上がる・・・が、長門は立とうとしなかった。どうした?

腰でも抜けたか?





「・・・その・・・貴方が抱き締めているあいだに・・・その・・・7,8回達してしまった」



何だって?



「・・・何故かわからないが、何故か感じてしまって・・・その、・・・イッてしま・・・った」





な、な、なんだってー!!




「完全に腰が抜けている。・・・救助を求む」

朱を通り越してクリムゾンの一歩手前まで赤くなっている長門は伏せ目がちに呟いた。

抱き締めるだけで・・・その、ああなっちまうんだ。実際にナニしたら・・・

俺のマイ・サン、鎮まれっ、鎮まれっ!

「僕が鎮めて差し上げましょうかっ!ふんもっふっ」

黙れ。

「これは私も完全なる想定外だった。手を貸して、キョン」

なんだか微妙に日本語おかしくないか?と思いつつも手を貸し、長門を引っ張り上げようとするも、失敗した。

「ごめん、腰を持って支えてくれるとありがたい。内股でも立つのに苦心する」

相当だな。俺そんなテクニシャンじゃないと思ってたんだけどね。

「その・・・悪かった、長門」

「いい。私も・・・その・・・なんで達したのかはわからないけど、兎に角・・・・・・気持ちよかったので・・・いい」

「そ、そうか」

何とか赤色長門を抱えてパイプ椅子に座らす。

・・・その、椅子に座らせる過程でちょっと足を触った際、かなり湿り気というか水気そのものを感じたということは、まあ伏せておこう。

 

 

「さて。そろそろ議論を再開しましょうか」

「そうだな」

「・・・わかった」

まだ赤い。

「・・・その、大丈夫か?」

「もう大丈夫。続けて」

わかりました、と古泉は言い

「まずです。ひとまず確認しておきたいことがあります」

何だ?

「みるひ(仮)さんが居る間・・・いえ、みるひ(仮)さんがあなたがたを叱責し、長門さんが泣いていた間、みなさんは外部からの干渉を感じましたか?」

「いや。感じなかったな。長門はどうた?」

「・・・外部からの干渉は皆無。しかしながら、逆に内側から何かが、まるで膨張するように私の思考野を覆い、征していった」

「私も長門さんと同様の現象に襲われました。まぁ、長門さんほど的確に自分の状態を知覚できたわけではないんですが・・・」

「どういうことだ?」

「貴方も感じていたはずです。みるひ(仮)さんから立ち上る、不思議なオーラを」

あの聖母じみた何か、を思わせた感覚のことか?

「そうです。端的に言うとです。彼女は所謂『大母』そのものです。そして我々は、自分が持ちえていた母の『元型』とダブらせて、彼女を見てしまった。

母というものは有史以来・・・いえ、我々生命体に性別という概念が生まれた時点で、システムにおいて最上位の存在となっています。

『母は強し』って言葉が昔からあるくらいですしね。だから、無意識的に逆らえるものとは我々は思っていない。むしろ付き従い、還るべき存在だと考えていた」

「なんか凄い無理やり感を感じる推理だが・・・まあ、仮にそうだとすると、その所為で俺たちは良く判らない感情に征されて良く判らない行動をとったわけか」

「そうです。ですね?長門さん」

「おおむねそうだと思う。ただ、私には理解しかねるところが多々ある。そもそも私に母は居ない」

「居るじゃねーか。情報統合思念体とかいう奴が」

ふるふる、と長門は首を横に振り

「生物学的な母ではない」

「だが、母は母だ。お前を生み出したんだろう?じゃあ母だ」

「・・・貴方がそういうのなら、そうなのかもしれない」

やけに物分りの良い長門である。



「余談ですが、このみるひ(仮)さんの母性、恐らく涼宮さんと朝比奈さんが持っていた本来の母性、そのままなんです」

「どういうことだ?」

「僕はただ神人を倒すだけの戦闘員、長門さんは観測を行うだけの観測要員、貴方にいたってはただの人間です。しかしながら、あのお二人は違う。涼宮さんは団長としてこのSOS団を護ろうとしていて、朝比奈さんは規定事項を達成するためにSOS団を護ろうとしている。その母性は非常に強かった。そのふたつの母性が単純に足されたんです。すさまじいものになることはある意味目に見えていることです」

「ある意味その母性によって支配されたものは、薬物によるマインドコントロールの比ではない強力な統制下に置かれるものと思われる」

「ですが、単に母性が人2倍あるというだけで我々があそこまで異様な行動をとるはずはありません。恐らく、涼宮さんの能力が介在しているものと思われます」

「・・・私もそういう結論に達した」

俺も似たような結論に達した。というか、達せざるを得ないと思うんだけどな。

「・・・だから、早急にでも分離せねばならない」

そうだな長門。

だが、もう俺は精神的になんだか疲れた。古泉だってそうだろう。お前にいたっては精神的にも肉体的にも、ぼろぼろの筈だ。

「うん。確かに前述のように早急に分離しなきゃならないけど、私は今日はもう休むことを提案する」

おい、会話の頭と後で言ってることが間逆だぞ。

「長門さんがそういうからには休んでも大丈夫なんでしょうけれど・・・もしかして、あの人からの手紙に?」

長門はポケットから一枚の手紙を取り出し

「貴方が二回目のジャーマンスープレックス・・・いや、ジャーマンスープレックスホールドか。それで悶絶している間、朝比奈みくるの異時間同位体と会った」

おいおい、そういう事はもっと早く言え。

「ごめん。時間的余裕が無かった」

「で、なんて書いてあったんだ?」

長門はすっ、と俺の前に手紙を押し出した。

読めってことか。

何々・・・あの朝比奈さんの字だな。

ええと・・・

『今日の残りの時間と休日になってる明日土曜日は、家でゆっくり休んでいてください。もちろん、外出するのも一向に構いません。ただ、土曜日の夕方ぐらいに、どこかから電話がかかってきますので、あとはその指示に従ってください』

文はそこで終わっていた。・・・まあ、朝比奈さん(大)が休めといってるんだから、休めばいいんだろう。

「それじゃ、帰りますか」

ふぅ、と部室に深い深い溜息が響き渡った。

三人分のな。





「それではおさきに」

スマイルエスパーホモはそう言ってそそくさと出て行きやがった。せいぜい英気をやしなっておいてくれ。

部屋の隅で転がってスリープモードに突入していた喜緑さんもむくっと起き上がり、

「さて、私も帰るとします」

と言って、特に何も告げず出て行った。そもそもあんたは何しにここに着たんだっけ。

長門を笑いにか?

・・・まあいい。

「さてと。俺たちも帰るとするか」

「わかった」

そうそう、そういえば俺の荷物、教室に置いたままだっけな。

「とりに行く必要は無い」

いや、取りに行かないと色々問題が出てくるんですけど長門さん。

「ここにある」

そんなバカな。

ってほんとにありやがる。

「私が持ってきた」

「わざわざ教室まで空間飛び越えて行ってとって来てくれたのか?」

「違う。量子テレポーテーション」

それは空間飛び越えるのとどう違うんだ?

「・・・禁則事項です。といいたいところだけれど、貴方に説明しても判る気がしないから言わない」

おいおい。なんか俺がバカだ、って言ってるみたいじゃないか。

まあバカだけどさ。

なんか人に言われると癪だな。

「いや、なんというか。そもそもこの理論を何の予備知識もなしに簡単に理解できるなら、人類はもっと高次へ進化を遂げているはず。まあ焦らないで。そのうちできる」

別に貴方がバカというわけじゃない、と焦り気味で付け加えた。

「そのうち・・・ね」

「それより・・・」

どうした長門。

「私のうちに・・・来ない?その・・・あの、暇であれば・・・」

挙動不審な長門というものも珍しいな。

「いいのか?」

「いい。というより、むしろ・・・来て欲しい」

何故俺を誘ったのかは良く判らんが、行った方がいいのなら行こうかな。

「本当?」

「ああ、どうせ暇だし」

感情が欠落しかけていた前の長門ならともかく、この長門の前で行かないなんていったら
捨てられた子猫のような目をして俺が後ろめたい気持ちになるのは目に見えてるような気もしたからな。
行かせていただきます。
「じ、じゃあ、その・・・一緒に帰ろう」
長門は少々頬に朱をさしながらも、目を爛々と輝かせて言い放ったのであった。


萌えるなぁ、もう。

 

 

 

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