第四章
/*/
告知:戦闘イベント予告(公式)
共和国と帝国の航海は、終盤に差し掛かっていた。じき、新世界へのゴールは見えてくるだろう。
すべてはクリア(消去)されるためにあり、また、すべてはクリア(突破)されるためにあった。
おっかなびっくり漕ぎ出した、冒険の始まりも今は昔。宇宙の暗唱空域を抜け、歴戦(ヴェテラン)の水兵となったプレイヤー達の前に、最後に立ちはだかるものは……
※注意:Sランクエンドに到達する事で、このゲームに使用されてきた一切のデータは破棄されます。
/*/
六月。
梅雨入りの季節と同時にある日何気なく公示されたこの文章の、
末尾にある言葉に、プレイヤーの一団に、衝撃が走った。
いずれ消されるものならどうしてこれまで山のように積み上げさせてきたのか、
無駄な努力をさせる『彼』に憤るものもいれば、後に残らない労苦を支払うのが嫌になり、手を停める技族達も出始めた。
ゲームとは、プレイヤーの存在も含め、そのすべての存在がクリアされなければならないのだという、もっともらしい理屈をつけた解釈がやがて過剰な反応をいさめるように現れ始め、アイトシなどはその言説にすら別段関わろうとする素振りも見せず、ただ、いつものように思いつくまま小説を書いて、人の作品に感想を寄せ、溜まっていく給料とその未来の使い道に期待する話ばかりをヒメオギにした。
だが石野は、表面上はそれらの流れに乗りながらも、内心に受けた衝撃をそのままにする事が出来ず、疑問をずっと抱き続ける事になる。
どうせすべてが消されてしまうのに、
自分達は、何のためにここにいる?
/*/
「どうして記録を公に残されないのですか?」
『彼』が、いつものように世間話をするために、ロビーチャットに現れた時、私は意を決して話し掛けた。
和やかに雑談を交わそうとしている中でこんな事を聞くのは失礼にあたるのではないかと緊張したが、
意外にも、周りを押しのけるように急いだ私の言葉に対して『彼』は、丁寧な答えを返してくれた。
「これはまだ、色々な意味で早すぎるゲームだからね」
プレイヤーの集団戦の経験が不足している事、
また、ゲームのシステム自体が熟しておらず、このままでは来るべき『先』に対応出来ない事、
そういった諸々の事を含めて、これはテストゲームなんだよと優しく諭される。
いつかまた、すべての条件が揃った時に、すべてが新しい形で始まるだろう、とも。
「それならば」
それならば、と、石野はデータ消去の件を聞いて以来、ずっと胸に抱いていた疑問を、
ゲームの枠を超え、タイピングする指を震わせながら、ヒメオギに、あえて語らせた。
「どうして私達は、ここに集められたのですか?」
「――――」
いつか、わかる時が来る。
『彼』は、
問うた者の心地よい未熟さを眩しそうに目を細めて見守り微笑みながら、
しかしどこかすべてを見通したような雰囲気でそう言って、
この話題をそれきりしまいにした。
次いで交わされるいつもの愉快なやりとりを、
私はまだ、晴れぬ疑問を抱いたまま、モニター越しに眺めていた……
/*/
最終更新:2008年01月29日 00:29