口のない死人はよく喋る ◆PJfYA6p9PE
街にグレーの幕をかける雨の中、白い影が街を駆ける。
戸から戸へ、ドアからドアへ。
闇に滲むような街の灯に、不審なヒトガタが浮かんでは消える。
水の滴るコンクリートのビル郡。
その壁面に無数穿たれた入り口をちょこちょこと忙しなく。
戸から戸へ、ドアからドアへ。
闇に滲むような街の灯に、不審なヒトガタが浮かんでは消える。
水の滴るコンクリートのビル郡。
その壁面に無数穿たれた入り口をちょこちょこと忙しなく。
「ええい……ここも違うではないか!」
パタリロは探していた。
自らが殺めた男、グリーンの痕跡を求めて。
リリスとQBの密会。謎の死体探し。
その真相を明らかにするため。足りないピースを少しでも埋めるため。
自らが殺めた男、グリーンの痕跡を求めて。
リリスとQBの密会。謎の死体探し。
その真相を明らかにするため。足りないピースを少しでも埋めるため。
だが、藁をもすがる探索行は今のところさしたる成果をあげていない。
A6エリアからC8エリアに亘って広がる南東の街。
タワーのふもとにこびり付くように存在する建物の数はあまりにも多い。
その中から、場所を特定する何らの手がかりもなく、お目当ての一棟を探し当てるのはやはり困難。
加えて、未だ明けやらぬ夜闇と降りしきる雨が、事態をより厄介なものにしていた。
A6エリアからC8エリアに亘って広がる南東の街。
タワーのふもとにこびり付くように存在する建物の数はあまりにも多い。
その中から、場所を特定する何らの手がかりもなく、お目当ての一棟を探し当てるのはやはり困難。
加えて、未だ明けやらぬ夜闇と降りしきる雨が、事態をより厄介なものにしていた。
「いくらぼくの目がいいといったって、条件が悪すぎだ!
……何か、今日は昼間から延々、人探しばかりさせられてる気がするぞ。
こんなことなら、来る前におみくじを引いてくればよかった。
きっと
『待ち人:来ない。むしろ逃げていく。待ってない奴ばかり来る』
とか書いてあるに違いない」
……何か、今日は昼間から延々、人探しばかりさせられてる気がするぞ。
こんなことなら、来る前におみくじを引いてくればよかった。
きっと
『待ち人:来ない。むしろ逃げていく。待ってない奴ばかり来る』
とか書いてあるに違いない」
愚痴が漏れる。
千秋、『バンコラン』、弥彦、リリス、そして、グリーン。
現在まで探してきた人々は、リリスを除いて誰も見つかっていない。
何とも惨憺たる結果だ。
千秋、『バンコラン』、弥彦、リリス、そして、グリーン。
現在まで探してきた人々は、リリスを除いて誰も見つかっていない。
何とも惨憺たる結果だ。
「まあ、そんなことを言っていてもしょうがない。
一軒ずつコツコツやるか。
本当はボタン一つでイナゴの佃煮からキリストの死体まで
何でも探してきてくれる万能死体探しマシーンでも作ってさっさと終わらせたいが、
そんなもん作ったらこの話はボツになって作者は叩かれ、
ぼくの出番はまた持ち越しになるだろうからな。
やめておこう。」
一軒ずつコツコツやるか。
本当はボタン一つでイナゴの佃煮からキリストの死体まで
何でも探してきてくれる万能死体探しマシーンでも作ってさっさと終わらせたいが、
そんなもん作ったらこの話はボツになって作者は叩かれ、
ぼくの出番はまた持ち越しになるだろうからな。
やめておこう。」
ブツブツ言っているうちに、今いる区画にある建物の検分が終わった。
最後に調べた雑居ビルのエントランスにも、血の飛沫や引きずった痕らしきものは見当たらない。
ふと、上を見上げると、ビルの正面に掲げられた看板が目に入った。
最後に調べた雑居ビルのエントランスにも、血の飛沫や引きずった痕らしきものは見当たらない。
ふと、上を見上げると、ビルの正面に掲げられた看板が目に入った。
(街のド真ん中にあるくせに「海山商事」はないんじゃないか?
海がなくて山ばっかりの県が「山なし県」を名乗るくらい納得がいかんぞ)
海がなくて山ばっかりの県が「山なし県」を名乗るくらい納得がいかんぞ)
そのトボけたネーミングすら、今のパタリロには腹立たしい。
気分を切り替えるため、ぴょーんと飛び上がって、看板を一蹴り。
まっすぐに掛かっていた板がわずかに斜めにずれたのを見届けると、
そのまま次の区画に向けて走り出した。
気分を切り替えるため、ぴょーんと飛び上がって、看板を一蹴り。
まっすぐに掛かっていた板がわずかに斜めにずれたのを見届けると、
そのまま次の区画に向けて走り出した。
黒々としたアスファルト上の水溜りが、激走を受けて高く撥ね上がる。
スピードを落とさず次の角を曲がり、すかさず建物の調査に入ろうとする。
そのとき。
スピードを落とさず次の角を曲がり、すかさず建物の調査に入ろうとする。
そのとき。
「ぎゃっ!?」
突然、衝撃が走った。
頭部を何かに激しく打ちつけ、吹っ飛ぶ。
小さな身体をゴロンと後ろに一回転させ、たまらず両手で額を押さえる。
と、ほぼ同時に正面からもやはり水の音とうなり声。
どうやら、角を曲がったところで誰かと衝突したらしい。
頭部を何かに激しく打ちつけ、吹っ飛ぶ。
小さな身体をゴロンと後ろに一回転させ、たまらず両手で額を押さえる。
と、ほぼ同時に正面からもやはり水の音とうなり声。
どうやら、角を曲がったところで誰かと衝突したらしい。
「いてててててて……
ちくしょう!誰だ!こんなところで!?
きちんと前見て走らんか馬鹿者!!」
ちくしょう!誰だ!こんなところで!?
きちんと前見て走らんか馬鹿者!!」
自分のことは棚に上げ、怒鳴る。
不注意な狼藉者の顔を一目見ようと顔を上げると、
薄暗闇の向こうに、蹲った剣術道着が見えた。
不注意な狼藉者の顔を一目見ようと顔を上げると、
薄暗闇の向こうに、蹲った剣術道着が見えた。
「……弥彦か?」
おそるおそる、といった感じで声をかける。
「……パタリロ……か?……生きて……」
少し驚くような調子で帰ってきた声は、小さかったが確かに弥彦のものだった。
パタリロの顔に無意識の笑みが浮かぶ。
もう、とっくに別の場所に移動したと思っていた弥彦と再会できたことは、
彼にとって思いもしない僥倖だった。
パタリロの顔に無意識の笑みが浮かぶ。
もう、とっくに別の場所に移動したと思っていた弥彦と再会できたことは、
彼にとって思いもしない僥倖だった。
「あったりまえだ!ぼくを誰だと思ってる?
天下のパタリロ・ド・マリネール8世だぞ。
ぼくのように有能な美少年がそう簡単に死ぬわけないだろう。
ぼくくらい連載が長くなると、最早、作者がくたばったとしても
死なせてもらえない可能性すらあるからな。それはそれでちょっと恐ろしい気もするが。
……いや、まあ、とにかく会えてよかった。
昼間に会ってから随分、時間が経ってたからな。
ぼくはてっきり……」
天下のパタリロ・ド・マリネール8世だぞ。
ぼくのように有能な美少年がそう簡単に死ぬわけないだろう。
ぼくくらい連載が長くなると、最早、作者がくたばったとしても
死なせてもらえない可能性すらあるからな。それはそれでちょっと恐ろしい気もするが。
……いや、まあ、とにかく会えてよかった。
昼間に会ってから随分、時間が経ってたからな。
ぼくはてっきり……」
湧き上がる嬉しさに任せて、いつもの調子で口を回すが、
弥彦はまるでマネキン人形のように微動だにしない。
話を聞いているのかいないのか、その目は虚ろに宙を見つめたままだ。
昼間に会った時の快活さは見る影もない。
何か様子がおかしい。
弥彦はまるでマネキン人形のように微動だにしない。
話を聞いているのかいないのか、その目は虚ろに宙を見つめたままだ。
昼間に会った時の快活さは見る影もない。
何か様子がおかしい。
「おい、弥彦、聞いてるのか?」
訝しげに眉を細め、弥彦に顔を近づけたパタリロは次の瞬間、息を呑んだ。
街灯に白く照らされた弥彦の身体には、
この暗闇の中でもそうと分かるほど、多くの傷が刻まれている。
紫色の打撲痕、赤白く爛れた火傷、何かに抉られたような首筋。
傷が、過ごしてきた時間の苛烈さを雄弁に語っていた。
街灯に白く照らされた弥彦の身体には、
この暗闇の中でもそうと分かるほど、多くの傷が刻まれている。
紫色の打撲痕、赤白く爛れた火傷、何かに抉られたような首筋。
傷が、過ごしてきた時間の苛烈さを雄弁に語っていた。
会話が途切れたその場所を、静かに響く雨の音だけが支配していた。
◆
「……おい、いいかげん何とか言ったらどうだ」
せんべいの欠片を口から飛ばしながらパタリロが叫ぶ。
突然の出会いの後、二人は滝のような雨を避けるため、
手近な建物――どうやら、どこか大きな施設の守衛室らしい――に入っていた。
目に見えて疲労している弥彦を慮り、また、自身が空腹だったこともあって、
休憩スペースらしい畳に落ち着くと、パタリロは手持ちの食料を床に広げた。
食べることで僅かでも力を取り戻し、弥彦がまともに話せるようになる効果も期待しての行動だった。
しかし。
突然の出会いの後、二人は滝のような雨を避けるため、
手近な建物――どうやら、どこか大きな施設の守衛室らしい――に入っていた。
目に見えて疲労している弥彦を慮り、また、自身が空腹だったこともあって、
休憩スペースらしい畳に落ち着くと、パタリロは手持ちの食料を床に広げた。
食べることで僅かでも力を取り戻し、弥彦がまともに話せるようになる効果も期待しての行動だった。
しかし。
「………………」
弥彦は出会いざまの一言以降、ろくに口をきいていなかった。
耳は聞こえているらしく、言うことには従ってついてくるものの、
「ああ」とか「うう」とか呻く以外はがくりとうなだれたまま。
その様子は、いくら肉体的に消耗しているとはいえ、いささか異常だった。
ぼそぼそとパンを齧る彼は、口の中を切っているのか、
ときおり顔を歪めるものの、すぐにまた沈んだ無表情へと戻ってしまう。
耳は聞こえているらしく、言うことには従ってついてくるものの、
「ああ」とか「うう」とか呻く以外はがくりとうなだれたまま。
その様子は、いくら肉体的に消耗しているとはいえ、いささか異常だった。
ぼそぼそとパンを齧る彼は、口の中を切っているのか、
ときおり顔を歪めるものの、すぐにまた沈んだ無表情へと戻ってしまう。
「なあ、兄ちゃん、いいかげん口を割っちまいな。
正直に言えば、お上にだって情けはあるんだぜ?」
「………………」
「郷里のおっかさんだって、泣いてるぞ、ん?」
「………………」
「……カツ丼とか食べる?」
「………………」
正直に言えば、お上にだって情けはあるんだぜ?」
「………………」
「郷里のおっかさんだって、泣いてるぞ、ん?」
「………………」
「……カツ丼とか食べる?」
「………………」
刑事の格好にコスプレしてのギャグにも、沈黙が返ってくるだけ。
ちなみに、この手のギャグは全く反応がないと、やっている方がとてもアホに見える。
ちなみに、この手のギャグは全く反応がないと、やっている方がとてもアホに見える。
「うるさいぞ!誰がアホだ!」
お前だよ、お前。
「なんだとーー!? ……っと、地の文と喧嘩している場合じゃなかった。
……まあいい。話す気力もないというんじゃあ仕方がない。
今はこれでも飲んで元気を出せ」
……まあいい。話す気力もないというんじゃあ仕方がない。
今はこれでも飲んで元気を出せ」
そう言うと、懐からペットボトルを取り出し、中身を湯飲み茶碗に注ぐ。
湯気の立つ液体が八分ほどのところまで溜まったところで、そのまま差し出した。
湯気の立つ液体が八分ほどのところまで溜まったところで、そのまま差し出した。
「………………」
少し間があった後、弥彦は未だ焦点の定まらない目でゆるゆると湯飲みに手を伸ばした。
パンばかりで喉が渇いていたのか、縁に口をつけると一気にあおる。
すると、予想以上に甘い味が口の中に広がり――――
パンばかりで喉が渇いていたのか、縁に口をつけると一気にあおる。
すると、予想以上に甘い味が口の中に広がり――――
「……変わった匂いがする…………何だこれ?」
「ぼくの小便だ」
喉に落ちる前に一気に吐き出した。
「うわっ! 吐き出す奴があるか!? 汚いな」
「それはこっちの台詞だ!?」
「何のことだ?」
「小便を飲ませておいて何のことだはないだろ!?」
「失敬な。人がせっかく元気づけようと思って新鮮なのを淹れてやったのに」
「んなもんで元気になるかよ!!」
「飲尿健康法を知らんのか。体にいいんだぞ」
「なワケないだろ!!」
「それはこっちの台詞だ!?」
「何のことだ?」
「小便を飲ませておいて何のことだはないだろ!?」
「失敬な。人がせっかく元気づけようと思って新鮮なのを淹れてやったのに」
「んなもんで元気になるかよ!!」
「飲尿健康法を知らんのか。体にいいんだぞ」
「なワケないだろ!!」
「だが……お前は元気になったように見えるが?」
「え……あ」
「え……あ」
思わず口をポカンと開ける弥彦。
「さあ、それだけ突っ込む元気があればもう十分だろう。
そろそろ、何があったか話してもらうぞ」
そろそろ、何があったか話してもらうぞ」
パタリロはしてやったりとばかりにニヤニヤしている。
「……負けたよ……お前には」
弥彦はかすかに笑い、観念したかのように目を閉じると、大きな溜め息を一つついた。
本当に飲尿健康法の効果があったかは定かではないが、
再び開かれた目には、僅かばかりの光が戻っている。
その、吹けば飛びそうな光を消さまいとするかのごとく虚空の一点を睨みつける。
しばらく躊躇うような間があった後、
弥彦は搾り出すように、泣き出すように言った。
本当に飲尿健康法の効果があったかは定かではないが、
再び開かれた目には、僅かばかりの光が戻っている。
その、吹けば飛びそうな光を消さまいとするかのごとく虚空の一点を睨みつける。
しばらく躊躇うような間があった後、
弥彦は搾り出すように、泣き出すように言った。
「俺……また、人を殺しちまった……」
◆
パタリロと出会う前、弥彦は彷徨っていた。
全身を包む鈍い痛みと倦怠感、降る水の冷たさに意識を飛ばしそうになりながらも、
自分でも正体の分からない衝動に突き動かされ、這うように歩いていた。
どこかを目指していたわけではなかった。
ただ、身体を動かしていないと、頭の中で渦巻く闇に呑み込まれてしまいそうだった。
全身を包む鈍い痛みと倦怠感、降る水の冷たさに意識を飛ばしそうになりながらも、
自分でも正体の分からない衝動に突き動かされ、這うように歩いていた。
どこかを目指していたわけではなかった。
ただ、身体を動かしていないと、頭の中で渦巻く闇に呑み込まれてしまいそうだった。
「俺は……一体、何をしてたんだろうな……」
誰も死なせたくない。
その一心だけで走り回ってきた。
たとえ相手が殺し合いをよしとする人間や、殺し合いそのものを仕組んだ張本人だったとしても。
自分の剣は殺す剣ではなく活かす剣。
戦場でもその理は不変、いや、戦場にいるからこそ変わってはいけない。
そう信じていた。
だが。
その一心だけで走り回ってきた。
たとえ相手が殺し合いをよしとする人間や、殺し合いそのものを仕組んだ張本人だったとしても。
自分の剣は殺す剣ではなく活かす剣。
戦場でもその理は不変、いや、戦場にいるからこそ変わってはいけない。
そう信じていた。
だが。
『……………………ギギッ』
蟲の再誕。
柔らかな腹を裂き、赤い臓腑を撒き散らし、耳に障る羽音をさせて――――
それは防げたはずの未来。
殺していれば。
躊躇わず、殺意を籠めて、あの刃渡りを放っていれば。
キルアがあのような死に方をする未来は、多分、永遠に来なかった。
柔らかな腹を裂き、赤い臓腑を撒き散らし、耳に障る羽音をさせて――――
それは防げたはずの未来。
殺していれば。
躊躇わず、殺意を籠めて、あの刃渡りを放っていれば。
キルアがあのような死に方をする未来は、多分、永遠に来なかった。
しかし、未来は果たして現実となった。
殺したくないと願ったから。
誰も殺さず、皆を救えると驕ったから。
剣心ほどの力もないくせに、奇跡を起こせると根拠もなく信じたから。
殺したくないと願ったから。
誰も殺さず、皆を救えると驕ったから。
剣心ほどの力もないくせに、奇跡を起こせると根拠もなく信じたから。
弥彦の不殺は理想などではなかった。
それは幼稚で夢見がちな、どこにでもあるただのエゴだった。
それは幼稚で夢見がちな、どこにでもあるただのエゴだった。
キルアの命を壊して、初めて気づいた。
理想だと思っていたものは、できそこないの陶器のように、
いとも簡単に砕けて散った。
一つ一つの欠片には、あの惨劇の映像が幻燈の照らし出す影のように現われた。
何度も。
何度も、何度も。
きっとそれは罰だった。
悪事を働いた子供が寒い夜、リンチにされて柱に縛り付けられるような、そんな罰。
猟奇的な上映会が終わるたび、黄色い胃液を吐いてはえづいた。
理想だと思っていたものは、できそこないの陶器のように、
いとも簡単に砕けて散った。
一つ一つの欠片には、あの惨劇の映像が幻燈の照らし出す影のように現われた。
何度も。
何度も、何度も。
きっとそれは罰だった。
悪事を働いた子供が寒い夜、リンチにされて柱に縛り付けられるような、そんな罰。
猟奇的な上映会が終わるたび、黄色い胃液を吐いてはえづいた。
『弥彦、オレを殺──』
キルアの断末魔。
確かに殺せと言っていた。
あの瞬間、間髪を入れず、刃を振るっていたとしたら、
キルアの命は救えなくとも、QBだけは殺すことができた。
彼は自らの命と引き換えに、勇敢にも悪魔の使徒を討とうとしたのだ。
確かに殺せと言っていた。
あの瞬間、間髪を入れず、刃を振るっていたとしたら、
キルアの命は救えなくとも、QBだけは殺すことができた。
彼は自らの命と引き換えに、勇敢にも悪魔の使徒を討とうとしたのだ。
だが、それは成されなかった。
何故か。
弥彦が拒んだからだ。
偽善面した醜いエゴに、最後の最後まで縋りついたからだ。
短い間とはいえ友だった者の、命を賭けた最後の願いよりも、
これまで取り繕ってきたちんけな体裁の方が余程大切だったのだ。
何故か。
弥彦が拒んだからだ。
偽善面した醜いエゴに、最後の最後まで縋りついたからだ。
短い間とはいえ友だった者の、命を賭けた最後の願いよりも、
これまで取り繕ってきたちんけな体裁の方が余程大切だったのだ。
「……何が不殺だ!……何が活心流だ!」
逆刃刀。
弥彦の理想を象徴するその刀を、彼は激情に任せて何度も捨てようとした。
しかし、できなかった。
手を離して地面に叩きつけようとするたび、赤髪が、頬の十字傷が、
小柄な、しかし大きな背中がちらついた。
それが幻影だと分かっていても、届かないと気づいていても、
できなかったのだ。
弥彦の理想を象徴するその刀を、彼は激情に任せて何度も捨てようとした。
しかし、できなかった。
手を離して地面に叩きつけようとするたび、赤髪が、頬の十字傷が、
小柄な、しかし大きな背中がちらついた。
それが幻影だと分かっていても、届かないと気づいていても、
できなかったのだ。
気がつけば、行き場所を見失ってしまっていた。
不殺で皆を守る道、殺してでも誰かを生かす道。
どちらの道にも踏み出せない。
行くも戻るも叶わない。
不殺で皆を守る道、殺してでも誰かを生かす道。
どちらの道にも踏み出せない。
行くも戻るも叶わない。
だから、弥彦は彷徨っていた。
歩む道は定まらず、体の赴くままに流されていた。
柔らかく、足に絡みつく泥の道はやがて途切れ、固く冷たいアスファルトに変わる。
濃紺の闇のところどころに、明治の世では考えられない強烈な光源。
そして、その向こうに山と聳える丈高なビルの影たち。
半ば眠ったような意識で、初めの街へ戻ってきたことを理解した。
歩む道は定まらず、体の赴くままに流されていた。
柔らかく、足に絡みつく泥の道はやがて途切れ、固く冷たいアスファルトに変わる。
濃紺の闇のところどころに、明治の世では考えられない強烈な光源。
そして、その向こうに山と聳える丈高なビルの影たち。
半ば眠ったような意識で、初めの街へ戻ってきたことを理解した。
そんな時、突然の衝撃が襲い、吹き飛ばされた。
軋む身体を起こすと、
どこかで見たような顔がそこにいた。
軋む身体を起こすと、
どこかで見たような顔がそこにいた。
◆
「……なぁあ、パタリロぉ……
俺ぁ……いったい、どうしたらいいんだ?
もう、分かんねぇ……分かんねぇんだよぉ……」
俺ぁ……いったい、どうしたらいいんだ?
もう、分かんねぇ……分かんねぇんだよぉ……」
その呟きを最後に、弥彦は口を噤んでしまった。
両の拳は床に付いたまま固く握られ、微かに震っている。
両の拳は床に付いたまま固く握られ、微かに震っている。
壁の向こうで、烈しい雨脚がコンクリートを叩いている。
壁のこちらでは、畳にいくつか、温い雫が跡をつけていた。
壁のこちらでは、畳にいくつか、温い雫が跡をつけていた。
静寂を破るように、パキリ、と乾いた音がした。
話に区切りがついたと思ったのか、それまで黙って聞いていたパタリロが
最後の一枚の醤油せんべいに手を伸ばし、齧りついた。
話に区切りがついたと思ったのか、それまで黙って聞いていたパタリロが
最後の一枚の醤油せんべいに手を伸ばし、齧りついた。
ボリ、ボリ、ボリ、ボリ……
低く堅い咀嚼音が六畳間を満たし、徐々に消えていく。
完全に聞こえなくなった頃、突如としてパタリロが立ち上がった。
低く堅い咀嚼音が六畳間を満たし、徐々に消えていく。
完全に聞こえなくなった頃、突如としてパタリロが立ち上がった。
「話はわかった」
小さい声が聞こえたかと思うやいなや、
それよりはるかに大きい、高い音が鳴り、弥彦の目から火花が散った。
一瞬、目の前が真っ赤になる。
それよりはるかに大きい、高い音が鳴り、弥彦の目から火花が散った。
一瞬、目の前が真っ赤になる。
腰の入った強烈な平手が、右の頬を打っていた。
畳み掛けるように怒号が続く。
畳み掛けるように怒号が続く。
「この大ボケ野郎!!
馬鹿も休み休み言え!!
お前には、キルアの気持ちが全く分かっていなーい!!」
馬鹿も休み休み言え!!
お前には、キルアの気持ちが全く分かっていなーい!!」
反応がついていかず弥彦は目をぱちくりさせる。
「……キルアの……気持ち?」
「そのとーり!
キルアはQBを殺したかったのでも、お前に殺して欲しかったのでもない。
むしろその逆だ。QBをも助け、お前に不殺の信念を貫いて欲しかったのだ!」
「何だって?」
「そのとーり!
キルアはQBを殺したかったのでも、お前に殺して欲しかったのでもない。
むしろその逆だ。QBをも助け、お前に不殺の信念を貫いて欲しかったのだ!」
「何だって?」
突然の宣告に戸惑い隠せない。
パタリロが言っているようなことがあるはずがない。
現にキルアは自分ごとQBを殺せと言い残しているではないか。
パタリロが言っているようなことがあるはずがない。
現にキルアは自分ごとQBを殺せと言い残しているではないか。
「どういう、ことだ」
「キルアの死の前の行動と、最後に残した遺言をもう一度、よく思い出してみろ。
お前の話によると、
協力して刃止め&刃渡り→生きてたQB、弥彦を狙う→キルアが弥彦をかばう→キルアを喰ってQB復活
事態はこのように推移している。
間違いはないな?」
「あ、ああ……」
「もし、キルアが何にも優先してQBを殺そうと思っていたとしたら、これはおかしい。
QBがお前を狙ってる間に不意を討てば、死にかけの相手だ。
いくら化け物だろうが、かなり高い確率で仕留められたに違いない」
「あのとき、キルアは手負いだったんだ。
もう力が残ってなかったんじゃないのか?」
「お前をかばうために、すかさず飛び込んでくることはできたのに、か?」
「あ」
「キルアの死の前の行動と、最後に残した遺言をもう一度、よく思い出してみろ。
お前の話によると、
協力して刃止め&刃渡り→生きてたQB、弥彦を狙う→キルアが弥彦をかばう→キルアを喰ってQB復活
事態はこのように推移している。
間違いはないな?」
「あ、ああ……」
「もし、キルアが何にも優先してQBを殺そうと思っていたとしたら、これはおかしい。
QBがお前を狙ってる間に不意を討てば、死にかけの相手だ。
いくら化け物だろうが、かなり高い確率で仕留められたに違いない」
「あのとき、キルアは手負いだったんだ。
もう力が残ってなかったんじゃないのか?」
「お前をかばうために、すかさず飛び込んでくることはできたのに、か?」
「あ」
思わず声を上げる。
確かに、彼の目からは、キルアがわりと離れたところから、かなり素早く割り込んだように見えた。
あれだけの動きがまだ可能だったなら、自分をおとりにQBを殺すことはさほど難しくない――――
そう弥彦が思っても無理はない。
確かに、彼の目からは、キルアがわりと離れたところから、かなり素早く割り込んだように見えた。
あれだけの動きがまだ可能だったなら、自分をおとりにQBを殺すことはさほど難しくない――――
そう弥彦が思っても無理はない。
「ってことは……」
「そうだ。
キルアはあのとき、殺せたにもかかわらず、敢えてQBを殺さず、
お前を助けることの方を優先したのだ!」
「……キルア……何で」
「そうだ。
キルアはあのとき、殺せたにもかかわらず、敢えてQBを殺さず、
お前を助けることの方を優先したのだ!」
「……キルア……何で」
そこまでして守ってくれたことに関して、
胸の内は、嬉しさが三分、申し訳なさが七分だ。
だが、それはそれとして、疑問も残る。
敵は容赦なく殺すと明言し、その邪魔をする弥彦さえも、
一度は殺そうとしたキルアが、何故、絶好の機会を捨ててまで彼をかばったのか。
胸の内は、嬉しさが三分、申し訳なさが七分だ。
だが、それはそれとして、疑問も残る。
敵は容赦なく殺すと明言し、その邪魔をする弥彦さえも、
一度は殺そうとしたキルアが、何故、絶好の機会を捨ててまで彼をかばったのか。
「何で、だと?
そんなことは決まっている」
そんなことは決まっている」
パタリロは何か重大な発表でもするかのように、
決然と言い放った。
決然と言い放った。
「病院に行く前の決闘でお前が放った正義の一撃が、キルアの殺人に凝り固まった心を浄化したんだよ!!」
「な、なんだってーー!?」
「な、なんだってーー!?」
ガガーン。
弥彦に衝撃が走った。
弥彦に衝撃が走った。
「病院で目覚めた時、キルアは感動の涙にむせび泣きながら、こう思ったに違いない。
命を奪おうとした自分を助け、あまつさえ介抱までしてくれるとは、明神弥彦は何て素晴らしい男なんだ。
聖者だ。天使だ。マザーテレサだ。
こんなとてつもない大人物に比べて、今までの自分は何と小さかったことか。
もう、人殺しなんてバカな真似はやめて、これからは敬愛する弥彦先生のように、皆を守る道を行こう。
今までの罪を海よりも深く反省し、不殺の道にこれからの生涯を捧げよう、と」
命を奪おうとした自分を助け、あまつさえ介抱までしてくれるとは、明神弥彦は何て素晴らしい男なんだ。
聖者だ。天使だ。マザーテレサだ。
こんなとてつもない大人物に比べて、今までの自分は何と小さかったことか。
もう、人殺しなんてバカな真似はやめて、これからは敬愛する弥彦先生のように、皆を守る道を行こう。
今までの罪を海よりも深く反省し、不殺の道にこれからの生涯を捧げよう、と」
パタリロは胸の前で拳を握り込み、唾を飛ばし飛ばし、まくしたてる。
大きな身振り、感極まった声のトーンに弥彦はすっかり圧倒されている。
大きな身振り、感極まった声のトーンに弥彦はすっかり圧倒されている。
「……だが、キルアは知ってのとおりグラスハートのシャイボーイだ。
だから、大好きな弥彦先生の前では素直になれない。
本当は『弥彦先生、尊敬しています。大好きなんです。抱いてください!!!』と思っていても、
口では『あ、あんたが言うなら人殺しをやめてやってもいいわよ。
べ、別に今までの私が悪かったとか、そんな風に思ってるわけじゃないんだから!
勘違いしないでよね!』
としか言うことができないのだ!
嗚呼、いと哀しきはツンデレボーイの避けえぬサガよ。
弥彦、よく胸に手を当てて考えてみろ。思い当たるところがあるであろうッ!」
だから、大好きな弥彦先生の前では素直になれない。
本当は『弥彦先生、尊敬しています。大好きなんです。抱いてください!!!』と思っていても、
口では『あ、あんたが言うなら人殺しをやめてやってもいいわよ。
べ、別に今までの私が悪かったとか、そんな風に思ってるわけじゃないんだから!
勘違いしないでよね!』
としか言うことができないのだ!
嗚呼、いと哀しきはツンデレボーイの避けえぬサガよ。
弥彦、よく胸に手を当てて考えてみろ。思い当たるところがあるであろうッ!」
問われたその瞬間、雷光のように、弥彦の頭にある一言が閃いた。
彼をかばったとき、キルアが発したあの言葉――――
彼をかばったとき、キルアが発したあの言葉――――
『おまえみたいな馬鹿が一人くらい生きていても良いって……そう思っただけだ』
『おまえみたいな馬鹿が一人くらい生きていても良いって』
『おまえみたいな馬鹿が』
……………………
…………
……
「確かに!!」
「ほおら見たことか!
ちなみに、その言葉を本音に翻訳すれば、
『逃げて、弥彦先生。先生の信念のために死ねるんだったら、私、本望よ……ぐふっ』となる」
「じゃ、じゃあ、あの最後の言葉も……」
「そうだ。
お前はてっきり『弥彦、オレを殺せ』と言っていると勘違いしていたようだが、とんでもない。
正しくは『弥彦、オレを殺すな』だ!
キルアは、もしかしたら仇討ちのために自分ごとQBを殺してしまうかもしれないお前を慮り、
『自分のことは気にしなくていい、自分のような汚れた殺人者のために、不殺の志を曲げるな』
と言い残して死んだのだ。
……どうだ弥彦。不殺のために命を捧げた一人の勇者を前にして、
お前はまだグチグチと世迷言を口にする気かっ!!?」
「ほおら見たことか!
ちなみに、その言葉を本音に翻訳すれば、
『逃げて、弥彦先生。先生の信念のために死ねるんだったら、私、本望よ……ぐふっ』となる」
「じゃ、じゃあ、あの最後の言葉も……」
「そうだ。
お前はてっきり『弥彦、オレを殺せ』と言っていると勘違いしていたようだが、とんでもない。
正しくは『弥彦、オレを殺すな』だ!
キルアは、もしかしたら仇討ちのために自分ごとQBを殺してしまうかもしれないお前を慮り、
『自分のことは気にしなくていい、自分のような汚れた殺人者のために、不殺の志を曲げるな』
と言い残して死んだのだ。
……どうだ弥彦。不殺のために命を捧げた一人の勇者を前にして、
お前はまだグチグチと世迷言を口にする気かっ!!?」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
弥彦が吼えた。
両の眼から濁流のごとく涙を流しながら、声をかぎりに叫んでいた。
両の眼から濁流のごとく涙を流しながら、声をかぎりに叫んでいた。
キルアの考えはあの対決を通じて変わっていたのだ。
伝えたいと願った思いは、逆刃刀を通じて、確かに届いていたのだ。
自分の行動は無駄ではなかった。
そう悟った弥彦の胸に、無上の喜びと真実に気づけなかった己に対する恥かしさが
噴火した溶岩のように湧き上がっていた。
伝えたいと願った思いは、逆刃刀を通じて、確かに届いていたのだ。
自分の行動は無駄ではなかった。
そう悟った弥彦の胸に、無上の喜びと真実に気づけなかった己に対する恥かしさが
噴火した溶岩のように湧き上がっていた。
「すまねぇ。すまねぇ、キルア。
俺はお前の気持ちを全く分かってなかった。
ただ、自分のことしか目に入らず、勝手に一人で落ち込んじまってた。
……未熟が過ぎて、涙が出らあ。
俺はお前の気持ちを全く分かってなかった。
ただ、自分のことしか目に入らず、勝手に一人で落ち込んじまってた。
……未熟が過ぎて、涙が出らあ。
だけど、俺はもう迷わねえ!
どんな困難が立ちふさがろうと、不殺を貫いてみせる!
確かに俺はまだまだ未熟だ。
この先も、守りきれず死んじまう人が出るかもしれない。
でも、だからって、もう、剣を捨てようなんて馬鹿な真似は二度としない!
一人を助けられなかったなら、次の一人は絶対助ける!
それがこの、明神弥彦の活人剣だ!
どんな困難が立ちふさがろうと、不殺を貫いてみせる!
確かに俺はまだまだ未熟だ。
この先も、守りきれず死んじまう人が出るかもしれない。
でも、だからって、もう、剣を捨てようなんて馬鹿な真似は二度としない!
一人を助けられなかったなら、次の一人は絶対助ける!
それがこの、明神弥彦の活人剣だ!
……だから、見ていてくれよな、キルア……」
いい顔になったな、とパタリロは内心思った。
それは、弥彦がこの島に来てから初めて見せる、一点も曇りなき晴れやかな笑顔だった。
彼を纏っていた陰鬱な空気は最早、影も形もない。
弥彦の心の中の青空では、きっとキルアが満足そうな笑顔を湛えて微笑んでいるに違いなかった。
それは、弥彦がこの島に来てから初めて見せる、一点も曇りなき晴れやかな笑顔だった。
彼を纏っていた陰鬱な空気は最早、影も形もない。
弥彦の心の中の青空では、きっとキルアが満足そうな笑顔を湛えて微笑んでいるに違いなかった。
「よく言った!
それでこそ、キルアも報われるというものだ。
……ところで」
それでこそ、キルアも報われるというものだ。
……ところで」
だが、パタリロはこれで話を終わらせるつもりはない。
彼の真の目的は、もう少し先のところにあるのだから。
彼の真の目的は、もう少し先のところにあるのだから。
「その不殺の剣で、ぼくに協力してみる気はないか?
うまく行けば、誰一人死なず、終わりにできるかもしれんぞ」
うまく行けば、誰一人死なず、終わりにできるかもしれんぞ」
潰れアンマンがニヤリと歪んだ。
◆
「やれやれ、うまくいったな」
ほっとした、というような風に、パタリロは息を吐いた。
パンツ一丁で畳にどっかと腰を下ろし、弥彦の荷物に入っていたパンを貪っている。
傍らにはせんべい布団が敷いてあり、中では弥彦が眠っていた。
顔色は二人が再会したときよりも、随分、良くなっている。
核金を二つも使っているせいか、それとも、精神が安定したせいか。
だが、おかしなことに、何故かこちらも全裸である。
パンツ一丁で畳にどっかと腰を下ろし、弥彦の荷物に入っていたパンを貪っている。
傍らにはせんべい布団が敷いてあり、中では弥彦が眠っていた。
顔色は二人が再会したときよりも、随分、良くなっている。
核金を二つも使っているせいか、それとも、精神が安定したせいか。
だが、おかしなことに、何故かこちらも全裸である。
このようなシチュエーションがあるとなると、読者の方の中には、
カットされた時間に、パタリロ原作ではおなじみの、あぁんだめぇんな行為が
二人の間で行われたと考える方があるかもしれない。
そう、実は全くその通りなのである。
あの後、余勢を買ったパタリロは初心な弥彦を巧みに誘惑し、
ついには道着もふんどしも剥ぎ取って、めくるめく快楽の世界へ――――
カットされた時間に、パタリロ原作ではおなじみの、あぁんだめぇんな行為が
二人の間で行われたと考える方があるかもしれない。
そう、実は全くその通りなのである。
あの後、余勢を買ったパタリロは初心な弥彦を巧みに誘惑し、
ついには道着もふんどしも剥ぎ取って、めくるめく快楽の世界へ――――
「行くか!!
バンコランじゃあるまいし。
弥彦は疲れて寝てるだけだし、服は洗濯機にかけてるだけだ、このオタンコナスめ。
全く、そんなこと言ってると、弥彦のファンから怒られるぞ」
バンコランじゃあるまいし。
弥彦は疲れて寝てるだけだし、服は洗濯機にかけてるだけだ、このオタンコナスめ。
全く、そんなこと言ってると、弥彦のファンから怒られるぞ」
こりゃ失礼。
「ま、ぼくもキルアからは、怒られるかもしれんがな」
賢明な読者諸氏はもうすっかりお気づきのこととは思うが、
パタリロが語った『キルアの本当の気持ち』とやらは、
彼が弥彦の話を元にして創りあげた全くの妄想である。
弥彦の気持ちがうまく立ち直れるように、
彼に都合のいいストーリーを、納得できるよう肉付けして話したに過ぎない。
パタリロが語った『キルアの本当の気持ち』とやらは、
彼が弥彦の話を元にして創りあげた全くの妄想である。
弥彦の気持ちがうまく立ち直れるように、
彼に都合のいいストーリーを、納得できるよう肉付けして話したに過ぎない。
いや、妄想というのは少し過ぎた表現かもしれない。
キルアの本当の気持ちは、結局、本人にしか分からない。
ということは、彼が死んでしまった今、もう誰も分かる者はいないということだ。
だったら、自分の説を正解にして何が悪い。
過去などというのは、生きている者のためにあるものだ。
生きている者にとって都合のいいように解釈すればそれでいい。
特にこんな非常時には。
パタリロはそう考えていた。
キルアの本当の気持ちは、結局、本人にしか分からない。
ということは、彼が死んでしまった今、もう誰も分かる者はいないということだ。
だったら、自分の説を正解にして何が悪い。
過去などというのは、生きている者のためにあるものだ。
生きている者にとって都合のいいように解釈すればそれでいい。
特にこんな非常時には。
パタリロはそう考えていた。
「まあ、ぼくを襲ってくれた礼だと思って諦めろ。
文句があるなら、生き返って言うんだな。
ちなみに、三途の川の渡し賃は恵んでやるつもりはないぞ。
来るならバタフライでも犬掻きでも練習しとけ」
文句があるなら、生き返って言うんだな。
ちなみに、三途の川の渡し賃は恵んでやるつもりはないぞ。
来るならバタフライでも犬掻きでも練習しとけ」
パタリロの心の中のキルアは『このケチ野郎』とでも言いたそうなジト目で睨みを効かせている。
そう簡単に割り切ってくれるキャラじゃないことは、実のところちゃんと分かっているようだ。
そう簡単に割り切ってくれるキャラじゃないことは、実のところちゃんと分かっているようだ。
いつのまにか、外で聞こえていた音がしなくなっている。
どうやら、雨が上がったらしい。
どうやら、雨が上がったらしい。
「もう少し休んだら、荷物をまとめておくか。
弥彦が起きたら、できるだけ早く出発したいからな」
弥彦が起きたら、できるだけ早く出発したいからな」
グリーンの死体探し、首輪の解析、仲間集めと、やるべきことは多い。
いや、正確には、パタリロの誘いを弥彦が快諾したため、格段にできることが増えたと言うべきか。
いや、正確には、パタリロの誘いを弥彦が快諾したため、格段にできることが増えたと言うべきか。
あの後、パタリロが弥彦に示したプランは、次のようなものだった。
パタリロにはタイム・ワープという時間を自由に移動する能力がある。
それを使って殺し合いが始まる前の過去に戻り、ジェダを倒せば、
既に死んでいる人間も含め、全員を救うことができる可能性がある。
だが、ジェダのかけた能力制限を解かなければ、タイム・ワープは使えない。
また、当然、ジェダもタイム・ワープのことは分かっているだろうから、
制限の他にも、何かしらの対策を採っているだろう。その情報も欲しい。
能力制限の解除や情報収集のためには、ここに呼ばれている様々な人間の知恵を集積させる必要がある。
それには仲間を作らなければならないが、パタリロは開会式でのおイタが過ぎて、全員に警戒されている。
それを使って殺し合いが始まる前の過去に戻り、ジェダを倒せば、
既に死んでいる人間も含め、全員を救うことができる可能性がある。
だが、ジェダのかけた能力制限を解かなければ、タイム・ワープは使えない。
また、当然、ジェダもタイム・ワープのことは分かっているだろうから、
制限の他にも、何かしらの対策を採っているだろう。その情報も欲しい。
能力制限の解除や情報収集のためには、ここに呼ばれている様々な人間の知恵を集積させる必要がある。
それには仲間を作らなければならないが、パタリロは開会式でのおイタが過ぎて、全員に警戒されている。
そこで、弥彦の出番だ。
パタリロを警戒し、場合によっては襲い掛かってくる参加者を、第三者である彼を介して説得する。
言ってわからぬ奴相手には、剣で叩きのめして話を聞いてもらう。
そのためには、彼のまっすぐな性格と不殺の戦闘術は実に都合がいいのだ。
パタリロを警戒し、場合によっては襲い掛かってくる参加者を、第三者である彼を介して説得する。
言ってわからぬ奴相手には、剣で叩きのめして話を聞いてもらう。
そのためには、彼のまっすぐな性格と不殺の戦闘術は実に都合がいいのだ。
このような提案に対し、弥彦はほとんど二つ返事でOKを出した。
確かに、タイム・ワープの話は明治時代に生きる彼にとって、到底、信じがたいものではある。
だが、全ての人間を救うことができるというアイデアは、その信頼性を差し引いても、あまりに魅力的だった。
それに、かつて大を生かして小も生かしたいと言った少年は、今また、それを現実のものにせんと動いている。
腑抜けていた彼に檄を飛ばし、自分を必要だと言ってくれている。
だから、その信義に応えたい。
弥彦は何より、そう思った。
確かに、タイム・ワープの話は明治時代に生きる彼にとって、到底、信じがたいものではある。
だが、全ての人間を救うことができるというアイデアは、その信頼性を差し引いても、あまりに魅力的だった。
それに、かつて大を生かして小も生かしたいと言った少年は、今また、それを現実のものにせんと動いている。
腑抜けていた彼に檄を飛ばし、自分を必要だと言ってくれている。
だから、その信義に応えたい。
弥彦は何より、そう思った。
「しかし、事態が好転してきたのはいいが、支給品が貧乏くさい物ばかりなのは何とかならんのか。
弥彦が寝てる間に奴の荷物も見せてもらったが、ろくなものがない。
かろうじて金になりそうなのは短剣と刀くらいか。
でも、骨董はぼくの趣味じゃないしな。
だいたいジェダの奴、人に殺る気を出させようと思うんなら、金目のものを入れとくのは常識だろうが。
まったく気の利かん奴だ。
島にある施設も、学校とかシェルターとかシケたモンばかり。
どうせなら、銀行とかジュエリーとか金閣寺とか用意しとかんかい!
これはますます、魔界の救世主様の財産をメシアげる必要があるな。
弥彦が寝てる間に奴の荷物も見せてもらったが、ろくなものがない。
かろうじて金になりそうなのは短剣と刀くらいか。
でも、骨董はぼくの趣味じゃないしな。
だいたいジェダの奴、人に殺る気を出させようと思うんなら、金目のものを入れとくのは常識だろうが。
まったく気の利かん奴だ。
島にある施設も、学校とかシェルターとかシケたモンばかり。
どうせなら、銀行とかジュエリーとか金閣寺とか用意しとかんかい!
これはますます、魔界の救世主様の財産をメシアげる必要があるな。
……まあ、弥彦が起きたら、手始めにここの敷地内を調べてみるか。
こんな守衛室まで作るくらいだ。札束の一つや二つあるかもしれん」
こんな守衛室まで作るくらいだ。札束の一つや二つあるかもしれん」
部屋の窓から、まだ暗い外の方に目を向ける。
広大な敷地に、黒く大きい、建造物の影が横たわっている。
パタリロ達はまだ知らぬことだが、この巨大な施設は元の世界にあったとき、地図上でこう表記されていた。
「内務省特務機関超能力支援研究局 BAse of Backing Esp. Laboratory」、通称「B.A.B.E.L」と。
広大な敷地に、黒く大きい、建造物の影が横たわっている。
パタリロ達はまだ知らぬことだが、この巨大な施設は元の世界にあったとき、地図上でこう表記されていた。
「内務省特務機関超能力支援研究局 BAse of Backing Esp. Laboratory」、通称「B.A.B.E.L」と。
【A-7/南部の研究所(B.A.B.E.L本部)敷地内、守衛室/2日目/早朝】
【パタリロ=ド=マリネール8世@パタリロ!】
[状態]:頭にたんこぶ、パンツ一丁
[装備]:S&W M29(残弾4/6発)@BLACK LAGOON
[道具]:支給品一式(食料なし)、44マグナム予備弾17発(ローダー付き)
がらくたがいくつか、ミニ八卦炉@東方Project、クロウカード『翔』@カードキャプターさくら、
エーテライト×2@MELTY BLOOD、はやての左腕、首輪(しんのすけ)
[思考]:弥彦が起きたら、この施設を調べてみるかな
第一行動方針:グリーンの死体を捜索する。
第二行動方針:首輪を調べたい。道具や設備も確保したい。
第三行動方針:弥彦と共に仲間を集める。接触は慎重に。
第四行動方針:対主催として有用な情報を得て、自分を信用してもらう材料とする。
第五行動方針:千秋と再会して、よつばと藤木の死について聞きたい。
第六行動方針:暇ができたらはやての腕を埋葬してやる。
基本行動方針:好戦的な相手には応戦する。自分を騙そうとする相手には容赦しない。
最終行動方針:ジェダを倒してお宝ガッポリ。その後に時間移動で事件を根本から解決する。
[備考]:自分が受けている能力制限の範囲について大体理解しています。
エヴァが少なくとも今の自分にとっては危険人物であると判断しました。名前は知りません。
自分が誰からも警戒されている存在だと、改めて把握しました。
リリスとQ-Beeが内心ではジェダを裏切りわざと会話を聞かせたのだと考えています。
[状態]:頭にたんこぶ、パンツ一丁
[装備]:S&W M29(残弾4/6発)@BLACK LAGOON
[道具]:支給品一式(食料なし)、44マグナム予備弾17発(ローダー付き)
がらくたがいくつか、ミニ八卦炉@東方Project、クロウカード『翔』@カードキャプターさくら、
エーテライト×2@MELTY BLOOD、はやての左腕、首輪(しんのすけ)
[思考]:弥彦が起きたら、この施設を調べてみるかな
第一行動方針:グリーンの死体を捜索する。
第二行動方針:首輪を調べたい。道具や設備も確保したい。
第三行動方針:弥彦と共に仲間を集める。接触は慎重に。
第四行動方針:対主催として有用な情報を得て、自分を信用してもらう材料とする。
第五行動方針:千秋と再会して、よつばと藤木の死について聞きたい。
第六行動方針:暇ができたらはやての腕を埋葬してやる。
基本行動方針:好戦的な相手には応戦する。自分を騙そうとする相手には容赦しない。
最終行動方針:ジェダを倒してお宝ガッポリ。その後に時間移動で事件を根本から解決する。
[備考]:自分が受けている能力制限の範囲について大体理解しています。
エヴァが少なくとも今の自分にとっては危険人物であると判断しました。名前は知りません。
自分が誰からも警戒されている存在だと、改めて把握しました。
リリスとQ-Beeが内心ではジェダを裏切りわざと会話を聞かせたのだと考えています。
【明神弥彦@るろうに剣心】
[状態]:疲労(大)、全身に打撲と青痣と擦り傷と火傷(全て一通り応急手当済み)
全裸、睡眠中、核鉄×2で自己治癒力増進中
[装備]:逆刃刀・真打@るろうに剣心、サラマンデルの短剣@ベルセルク
ヘルメスドライブ@武装錬金(破損中・核鉄状態、使用登録者アリサ)
核鉄(バルキリースカート)@武装錬金
[道具]:基本支給品一式×4(食料二人分なし)、首輪(美浜ちよ)、コンチュー丹×3粒@ドラえもん
水中バギー@ドラえもん、ブーメラン@ゼルダの伝説、テーブルクロス、包丁×2、
食用油、天体望遠鏡@ネギま!、フライパン、調理用白衣、無数の純銀製のナイフ
[思考]:ZZZ......
第一行動方針:パタリロと共に仲間を集める。
第二行動方針:出来れば南西市街地に点在する死体(しんのすけ・ちよ・よつば・藤木)を埋めてやりたい。
基本行動方針:不殺を貫き、一人でも多くの人を救う。
最終行動方針:可能なら、パタリロの時間移動で事件を根本から解決し、全ての参加者を救いたい。
[備考]:バルキリースカートは、アームが一部破損した状態です(現在自己修復中)。
深夜12時の臨時放送を、完全に聞き逃しました。
[状態]:疲労(大)、全身に打撲と青痣と擦り傷と火傷(全て一通り応急手当済み)
全裸、睡眠中、核鉄×2で自己治癒力増進中
[装備]:逆刃刀・真打@るろうに剣心、サラマンデルの短剣@ベルセルク
ヘルメスドライブ@武装錬金(破損中・核鉄状態、使用登録者アリサ)
核鉄(バルキリースカート)@武装錬金
[道具]:基本支給品一式×4(食料二人分なし)、首輪(美浜ちよ)、コンチュー丹×3粒@ドラえもん
水中バギー@ドラえもん、ブーメラン@ゼルダの伝説、テーブルクロス、包丁×2、
食用油、天体望遠鏡@ネギま!、フライパン、調理用白衣、無数の純銀製のナイフ
[思考]:ZZZ......
第一行動方針:パタリロと共に仲間を集める。
第二行動方針:出来れば南西市街地に点在する死体(しんのすけ・ちよ・よつば・藤木)を埋めてやりたい。
基本行動方針:不殺を貫き、一人でも多くの人を救う。
最終行動方針:可能なら、パタリロの時間移動で事件を根本から解決し、全ての参加者を救いたい。
[備考]:バルキリースカートは、アームが一部破損した状態です(現在自己修復中)。
深夜12時の臨時放送を、完全に聞き逃しました。
※パタリロの服は守衛室に干してあります。
※弥彦の道着(右腕部分が半焼け、左側袖も少し焼けてる)とふんどしは
守衛室備え付けの洗濯機で洗濯中です。
※弥彦の道着(右腕部分が半焼け、左側袖も少し焼けてる)とふんどしは
守衛室備え付けの洗濯機で洗濯中です。
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